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イラクに加え対テロでも負け戦の米国。次の焦点はパキスタン・ワジリスタン(週刊朝日2007年3月16日号)
http://www.asyura2.com/07/war89/msg/550.html
投稿者 近藤勇 日時 2007 年 3 月 08 日 00:02:47: 4YWyPg6pohsqI
 

船橋洋一の世界ブリーフィング
No.827 [ 週刊朝日2007年3月16日号 ]
http://opendoors.asahi.com/syukan/briefing/827.shtml

イラクに加え対テロでも負け戦の米国。
次の焦点はパキスタン・ワジリスタン

「世界でもっとも危険な地域の一つ」と言われるのが、アフガニスタン東南部と国境を接したパキスタンのワジリスタン地域である。タリバーンと同族のパシュトゥン人が住む。通常、「部族地域」と呼ばれている。

 ここは「パキスタンの中でもっとも貧しい地域」でもある。産業といえば、アフガニスタンとパキスタンの間の麻薬と武器の密輸貿易ぐらいしかない。

 カルザイ政権下のアフガニスタンは依然、麻薬経済に依存しており、2006年のアヘンの生産量は6100トン、全世界の92%を占める。麻薬密輸の多くはここを通じてパキスタンに流れ込む。

 麻薬だけではない。イスラム過激派やイスラム・テロリストもやってくる。

 5年前、アフガニスタンの首都、カブールから追い出し、殱滅したはずのタリバーンの兵士や、いまなおオサマ・ビンラディンを戴(いただ)くアルカイダもこの地域にかくまわれている。

 パキスタンのムシャラフ政権は2004年以後、この地域一帯で、タリバーンとアルカイダの残党の掃討作戦を進めてきたが、結局のところ失敗した。

 その間、パキスタン政府軍の掃討作戦で、多くの住民が命を失い、家を壊された。何千という住民が移住させられた。彼らの中央政府に対する恨みつらみは深く、それがタリバーンとアルカイダへの共感を生む土壌となっている。

 このため、2006年9月にはムシャラフ政権と北ワジリスタンの部族との間で協定が結ばれた。イスラム宗教政党などの親タリバーン勢力が裏で仲介した。

 これによって、拘束されていたタリバーン兵士の釈放、取り上げた武器の返却、治安検問所の撤去、外国のテロ勢力の滞在許可(ただし、武装行動をしないという条件をつける)などが決まった。

 親タリバーン勢力は民兵を新規に募集し、訓練し、武装させることが自由にできるようになった。

 タリバーンの兵士が道路のパトロール部隊の役割を果たしている。ムシャラフ政権は住民の銃の携帯を禁じているが、誰も言うことを聞かない。彼らが事実上、治安と司法を司っている形だ。いわば、ワジリスタンのタリバーン化が進んでいる(注)。

 タリバーンもアルカイダも、この根拠地からアフガニスタンに遊撃する。

 このほど、アフガニスタンを突然訪れたディック・チェイニー米副大統領は猛吹雪のためバグラム空軍基地に1泊することになったが、チェイニー滞在に合わせて基地前でアルカイダの仕業と見られる自爆テロが起こった。23人が犠牲となった。アルカイダはどこで情報を取ったのか……。

 マイク・マコネル国家情報長官は、2月27日、上院軍事委員会での証言で、ワジリスタンを「史上、どの権力にも一度も支配されなかった地域」であると形容し、ここを中心にアルカイダたちが、テロリストネットワークを再構築していることに「深い懸念」を表明した。

 マコネル長官はその際、「アフガニスタン政府は、麻薬栽培と密輸の蔓延と対決しなければならず、NATO(北大西洋条約機構)と米国は、タリバーンの復活を食い止めなければならない……今年はアフガニスタンにとって決定的に重要な年になる」と述べた。

 一方、マコネル長官は、パキスタンについても次のような厳しい認識を示した。

「パキスタンはテロとの戦いの最前線にあるが、それは同時に、イスラム過激派の源であり、テロリスト指導者たちの故郷でもある。パキスタンはまた、A・Q・カーンのネットワークが破壊されるまでは、核拡散の温床でもあった。民主主義は軍が1999年に政権を奪取して以来、十分に回復していない」

「今年の暮れには総選挙が予定されているが、ムシャラフが大統領であり陸軍参謀長であり続けていることに批判が集まっている。しかし、彼に代わる政治指導者はいない。非宗教政党の野党はバラバラで、イスラム政党は内部対立を繰り返している」

 ジャック・リード上院議員(民主党、ロードアイランド州)が、「米本土に対するテロ行為が起こるとすれば、イラクのアルカイダかパキスタンのアルカイダか、どちらからの可能性が強いか」と質(ただ)したのに対して、マコネル長官は「その場合は、おそらくパキスタンからだろう」と答えた。

 このままでは、パキスタンは21世紀国際政治のブラックボックスになるかもしれない。

 パキスタンの人口は21世紀半ばには3億人に達し、インド(15億人)、中国(14億人)、米国(4億人)に次いで第4位にのし上がる。インドネシアと並ぶ世界屈指のイスラム大国であるが、政情は不安定、イスラム過激派がひしめき、しかも、核保有国である。

 ムシャラフは、9・11テロ後、いち早く米国と対テロ戦争で共闘戦線を組み、1998年の核実験後の米国の禁輸を解かせただけでなく、対テロ戦争支援の経済援助をせしめた。日本もそれにつき合わされた。

 しかし、ムシャラフ政権は、一方で米国とともにイスラムテロリストと戦いながら、もう一方では国内のイスラム過激派と妥協するという“ダブル・ゲーム”をしてきた。ワジリスタン問題は、そのいかがわしさを映し出しているにすぎない。

 もともと、パキスタンとアフガニスタンの関係は険しい。独立したパキスタンが国連に加盟した際、アフガニスタンはそれに反対票を投じた。対立の根は、ワジリスタンなどの国境紛争である。

 ムシャラフとカルザイの時代になっても、それは変わらない。

 ムシャラフは、パキスタンのテロは“アフガニスタン発”と批判する。カルザイはアフガニスタンのテロは“パキスタン発”と非難する(カルザイは「(ムシャラフのやり方は)誰かを咬(か)ませるため、蛇を飼っているようなもんだ」と毒づいている)。

 ブッシュ大統領は、ワジリスタン問題をもはやムシャラフ政権に任せておけないとばかり、経済開発と治安回復のために、この地域を「再建機会地域」にする方針を発表した。「現地住民のつくった製品の対米輸出には関税をかけない」ことも検討するという。

 このほど日本と豪州を訪問したディック・チェイニー副大統領は、両国首脳に対してこの構想への支持を要請して回った。

 ワジリスタン問題は、ブッシュ政権の対テロ戦争の惨状を物語っている。

 米国は、イラクに続いて、アフガニスタンを失いつつある。その果てに、パキスタンをも失うのだろうか。ワジリスタン問題の行方がその予兆になるかもしれない。


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注 ワジリスタンの現況については、紛争予防の国際NGO、国際危機グループ(International Crisis Group)の最近の報告書(「パキスタン部族地帯:過激派を甘やかす」=2006年12月11日)が詳しい。

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