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〔イラクから〕 あの女性ジャーナリストの死(机の上の空 大沼安史の個人新聞)
http://www.asyura2.com/07/war91/msg/579.html
投稿者 gataro 日時 2007 年 4 月 25 日 21:23:26: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://onuma.cocolog-nifty.com/blog1/2007/04/post_8dec.html から転載。

2007-04-24
〔イラクから〕 あの女性ジャーナリストの死

 バグダッド発の米紙特電が、米政府が運営する「ラジオ自由ヨーロッパ」で働いていたイラク人女性ジャーナリスト、ハマエル・ムーセンさん(54歳)の死を伝えた。

 夫のサディクさんから取材して、彼女の生と死を報じた。

 ハマエルさんはサダム・フセインの時代、テレビのニュースキャスターをしていた、バグダッドの有名人。

 夫婦はともにシーア派ながら、バグダッド西部のスンニ過激派支配地域に暮らしていた。
 夫のサディクさんは家を引き払って、ここを出ていこうと言ったが、ハマエルさんは聞かなかった。彼女が何者かに拉致された4月3日朝も、「臆病者、まだ寝てるの? どこかデートに連れ出してよ」と言って、職場に向かった。

 家で彼女の電話を待ったが、かかって来なかった。代わりに、彼女の兄弟から電話があった。「アルカイダを名乗る男から、電話があった」と。
 その「アルカイダ」の男は言った。「ハマエルは頂いた。彼女がどこで働いていたか、言ってみな」

 そう聞かされ、彼女は殺されたと、サディクさんは直感した。

 警察に通報すると、その日のうちに道端のゴミ捨て場で、死体で見つかった。遺体の回収は翌日に持ち越された。収容作業の安全を確保するためだった。

 頭を撃ち抜かれていた。左目だけが開いていた。
 翌日、夫はモスクでの葬儀と埋葬のため、妻の遺体を洗った。

 頑固な女性だった。出会いは91年の湾岸戦争時。空襲下、エンコしていた彼女の車を直してあげた。その後、花屋で偶然、再会。結婚して2女をもうけた。母親が殺されたとき、娘2人はシリアの親類にいた。危険を避け、疎開していた。

 勇敢な女性だった。家に爆弾が仕掛けられても、仕事に出かけた。銃撃戦に巻き込まれても、車の陰に隠れて現場に踏みとどまり、テレコで録音した。

 夫が「あやうく自動車爆弾を免れた」と言うと、「すぐ家に戻って来て」。心配してくれているのだな、と思って帰宅したら、彼女の取材が待っていた。 
 
 そんな妻の生と死の物語を、夫は米紙連合(マックラッキー新聞連合)のバグダッド特派員に、市内のホテルで語った。

 夫は「妻はこういう物語を書きたかったと思う」と言った。「そして、いま彼女の物語は物語られた」と。

 記事の結びはこうだった。
 「そこで彼は口を噤んだ。もはや言葉は何も残されていなかった……」

 米軍のイラク侵攻以来、犠牲になったジャナーリストは、イラク人を中心に、少なくとも「158」人。ハマエルさんは、そんな「統計」のひとりだ。


http://www.realcities.com/mld/krwashington/17116804.htm

〔新刊案内〕パトリック・コバーン著、大沼安史訳 『イラク占領−戦争と抵抗』(緑風出版)

 米軍が要塞化して「政府」とともに立て篭もる「グリーゾーン」(安全地帯)の外、バグダッド市内の現場に踏みとどまり、命がけで取材・報道を続ける英紙インデイペンデント特派員のイラク・ルポ。「占領」の真実とは何か?……
 四六判、372頁。定価2800円+税。

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