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エネルギー覇権を強めるロシア [田中宇の国際ニュース解説]
http://www.asyura2.com/07/war92/msg/369.html
投稿者 white 日時 2007 年 5 月 22 日 23:44:48: QYBiAyr6jr5Ac
 

□エネルギー覇権を強めるロシア [田中宇の国際ニュース解説]

田中宇の国際ニュース解説 2007年5月22日 http://tanakanews.com/

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★エネルギー覇権を強めるロシア
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 5月12日、中央アジアのトルクメニスタンのカスピ海岸の町に、ロシア、
トルクメニスタン、カザフスタンの大統領が集まり、トルクメニスタンの天然
ガスを、カザフスタン経由でロシアに送るパイプラインの敷設・修繕事業につ
いての覚書に調印した。トルクメニスタンでは、カスピ海の沿岸と湖底にある
ガス田の新たな開発計画が展開中で、この開発をトルクメニスタンとロシアと
の合弁で行い、産出するガスをカザフ・ロシア経由でヨーロッパに輸出するの
が新パイプラインの目的だ。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/05/12/AR2007051200238_pf.html

 今回のガス協定は、国際政治の一つの転換点になる可能性がある。トルクメ
ニスタンの天然ガスは、埋蔵量としては世界第12位でしかないが、地理的な
要因から、ロシアと欧米との争奪戦になっていた。欧米企業はアメリカ政府の
支援を受け、欧米主導でトルクメニスタンのガス田を開発したい意向だった。
カスピ海対岸のアゼルバイジャンからトルコを経由するロシア迂回のパイプラ
インで欧州に運び出す構想で、すでに今年、アゼルバイジャンからトルコまで
のBTCパイプラインが完成している。
http://www.turkishweekly.net/comments.php?id=2547

 しかし、20年の長期契約である今回のロシア側の協定によって、欧米側が
トルクメニスタンのガス田の利権を得られる可能性は大幅に減り、ガス争奪戦
はロシアが優勢になった。ロシアはすでに、年間600億立方メートル前後を
産出するトルクメニスタンの天然ガスのうち、年間500億立方メートルを買
う契約をしている。残りの多くは南隣のイランに輸出されることになっており、
欧米の取り分はほとんどない。
http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_world_business/view/276204/1/.html

 アメリカはほかに、トルクメニスタン・アフガニスタン・パキスタンと続く
パイプラインを新設する構想も持っており、このパイプライン建設が、米軍の
2001年以来のアフガン占領の隠された理由ではないかと見る人も多い(ア
フガニスタンのカルザイ大統領はかつて、パイプライン事業会社ユノカルの顧
問だった)。ロシア側の今回の協定によって、アメリカのアフガン縦断ガスパ
イプライン構想の現実味も低下した。
http://www.atimes.com/atimes/South_Asia/IE18Df01.html

▼欧米とのパイプライン戦争に勝つロシア

 天然ガスは石油よりも燃焼時の二酸化炭素排出が少なく、いわゆる「地球温
暖化」の防止に役立つとされ、温暖化防止策に熱心な欧州諸国は天然ガスの利
用を重視している。だが欧州はロシアからの輸出に頼らざるを得ず、欧州が消
費する天然ガスの4割はロシアから来ている。ロシアの影響力拡大を止めたい
欧米側は、ここ数年、トルクメニスタンのガスを、ロシアを迂回して欧州に運
ぶBTCや、BTCにつなぐトルコからオーストリアまでのパイプラインであ
るナブッコ・パイプラインなどの建設計画を進めていた。

 また、NATOの一員として親米国だったトルコは、黒海から地中海への出
口であるボスポラス海峡で、ロシアのタンカーの通行を、座礁による環境破壊
の危険を理由に、夜間航行禁止や、一度に航行できるタンカー数を規制し、ロ
シアからの石油輸出を制限した。
http://tanakanews.com/e0302oil.htm

 これに対しロシア側は、ナブッコ・パイプラインの通過国で事業参加国の一
つであるハンガリーに対し、ナブッコから手を引いてロシア経由で欧州にガス
を運ぶ事業に参加するよう、好条件を出して離脱させたり、ボスポラス海峡を
迂回するブルガリアからギリシャまでのパイプライン計画を推進し、今年3月、
ロシア、ブルガリア、ギリシャの3カ国で建設計画に調印したりしている。
http://www.wsws.org/articles/2007/mar2007/pipe-m29.shtml

 欧米が構想するロシア迂回のガスパイプラインを使えば、トルクメニスタン
だけでなく、世界第2位のガス埋蔵量を持つイランからのガス輸入も可能だ。
トルクメニスタンからの輸入が難しくなったのを見て、ナブッコ計画の参加国
であるオーストリアの大手石油ガス会社OMVは4月末、イランの巨大な南パ
ース・ガス田(South Pars)をイラン側と共同開発する覚書を結んだ。イラン
と戦争しそうだったアメリカが、イラク占領の苦境を解決するため、イランと
の話し合いをしそうな状況へと情勢が緩和したすきを突いての調印だった。
http://www.bbj.hu/main/news_25764_austria+courts+iran+angers+us..html

▼英米のみ敵視し、中国やインドと協調するロシア

 以前の記事「プーチンの光と影」 http://tanakanews.com/g0116russia.htm
に書いたように、ロシアのプーチン大統領は就任当初から、石油と天然ガスの
利権を使って、冷戦後に弱体化したロシアを再び強い大国にする戦略を進めて
きた。その戦略は、最近になって結実しつつある。ロシアは世界に対する影響
力を飛躍的に拡大している。

 石油ガスを使ったプーチンの覇権戦略は、ロシア一国だけで行われているわ
けではない。アメリカ(米英)の単独覇権体制を好まない国々、米英に敵視・
包囲されている国々と、ロシアとを連携させ、「非米同盟」を強化することで、
ロシアの大国化を実現している。その好例が、今回のトルクメニスタンとの天
然ガス契約など、中央アジア諸国との関係に見て取れる。

 中央アジア諸国は伝統的にロシアの裏庭だったが、今のロシアは、中央アジ
アを自国の支配下のみに置こうとしているわけではない。中央アジアに対して
は、ロシアのほか、アメリカ(米英)、中国、インド、パキスタン、イラン、
トルコなどが影響力を拡大しようとしているが、このうちロシアは米英の影響
力のみに対抗しており、その他の諸国とは協調する姿勢を採っている。

 中国は、ウズベキスタンからパイプラインを引いて天然ガスを買う計画を進
めており、他の中央アジア諸国からも石油ガスを買っている。この中国の動き
は「ロシアの利権と衝突している」と解説されているが、衝突説はおそらく間
違いである。ロシアと中国、中央アジア諸国は、数年前から「上海協力機構」
を作り、経済開発や安全保障で協調している。中露は、中央アジアに対する欧
米勢力の勢力拡大を防ぐという点で、利害が一致している。米英勢力に漁夫の
利を与えることになるので、中露が中央アジアでエネルギーの奪い合いをする
ことは考えにくい。
http://www.eurasianet.org/departments/insight/articles/eav051107_.shtml

▼イスラム諸国を味方につけて地政学的逆襲

 プーチンのエネルギー戦略は、ロシアの大国化を目指すだけでなく、エネル
ギー源を支配することで世界を支配してきた米英の体制を破壊することを目論
んでいる。プーチンは、米英中心の「海洋勢力」が、ロシアや中国という「大
陸勢力」を包囲・弱体化するという、イギリスが考案した地政学の攻略の構図
を意識し、長らく包囲・弱体化させられてきた大陸勢力が結束し、エネルギー
を武器にして、米英を弱体化させるという、地政学的な逆襲の戦略を採っている。

 ロシアは、欧州への天然ガス供給における占有率を上げ、欧州諸国が反ロシ
ア的な態度をとれないようにさせて、欧州と米英との距離を広げたいと考えて
いる。これに対して米英は、欧州を反ロシア・親米英の立場のままにさせてお
くため、トルクメニスタンのガスをトルコ経由で欧州に運び、エネルギーを使
ったロシアの対欧州戦略に風穴を開けようとした。トルクメニスタンとロシア
との協約は、この風穴を埋めてしまう意味がある。
http://www.atimes.com/atimes/Central_Asia/IE17Ag01.html

 プーチンが巧妙なのは、テロ戦争やイラク占領の失敗によって米英がアラブ
諸国などイスラム世界から嫌われていることをしり目に、ロシア国内のイスラ
ム教徒に対する待遇を改善し、ロシア軍がイスラム教徒を弾圧してきたチェチ
ェン紛争でも融和策をとって、イスラム世界から「ロシアはアメリカよりまし
だ」と思われていることだ。プーチンはたびたび中東を歴訪し、パレスチナ問
題に対してもアラブ寄りの立場をとり、サウジアラビアなどアラブ産油国との
関係を強化している。
http://www.economist.com/world/europe/displaystory.cfm?story_id=8961754
http://www.rense.com/general76/putin.htm

 その上でプーチンは、アラブ諸国や中国、ベネズエラなどの非米的な国々を
連合して、エネルギーに関する新たな国際カルテル(談合組織)を作り、石油
と天然ガスの世界的な利権を米英から剥奪し、非米諸国カルテルの利権にしよ
うとしている。
http://www.atimes.com/atimes/Central_Asia/ID26Ag01.html

▼公開市場は米英支配の道具

 エネルギーの国際カルテルとしては、すでに石油に関するOPECがある。
OPECは、産油国が談合して生産調整を行って需給バランスを動かし、米英
の石油市場での国際石油価格を変動させて、産油国の政治力を行使する組織だ。
これに対し、プーチンが構想した新カルテルは、公開された国際市場を使わず、
石油や天然ガスの産出国と消費国との2国間の長期契約について、あらかじめ
契約内容のガイドラインや価格帯を、産出国と消費国の両方が参加する非欧米
諸国のカルテルで議論して決めようとしている。

 このような仕掛けを作る理由の一つは、天然ガスについて毎日相場を発表し
ている国際市場がまだ存在しないから、ということだが、理由はそれだけでは
ない。現存する石油の国際市場として有力なのはロンドンとニューヨークだが、
これらの相場は米英の投機筋によって動かされる部分が大きく、OPECが相
場を動かそうとしても、米英政府の意を受けた投機筋は、それを相殺する動き
を起こせる。国際市場を作り、相場を動かす技能は、米英が世界最高なので、
今後天然ガスについて国際市場ができたら、それは事実上、米英の支配下に置
かれることになる。米英以外の勢力が対抗的に国際市場を作っても潰される。

 だからプーチンは、むしろ天然ガスの取引の現状を生かすかたちで、国際市
場を作らず、2国間の長期の相対契約の集合体を非公式に国際管理する天然ガ
スのカルテルを作り始めている。新カルテルは、米英によるエネルギー支配体
制を壊すという目的との関係から、カルテルを作ったという発表をせず、こっ
そりと形成され、目立たないように動いている。ロシアと米英は、エネルギー
覇権をめぐる暗闘に入っている。

 新カルテルの存在が欧米マスコミで騒がれ出したのは、カルテルの加盟国で
あるイランの最高指導者ハメネイ師が、アメリカに攻撃されそうになった今年
1月、アメリカに対抗できる天然ガスのカルテルを作る、と宣言したからだっ
た。この表明に対し、真の首謀者であるロシアのプーチンは「面白いアイデア
だが、ガスにカルテルは必要ない」とうそぶき、火消しをした。
http://en.rian.ru/world/20070129/59852509.html
http://energy.seekingalpha.com/article/25902

▼中国インドを引き込んで新カルテル強化

 天然ガス産出が多い国は、ロシアのほか、イラン、カタール、サウジアラビ
ア、アラブ首長国連邦、アルジェリア、ナイジェリア、インドネシア、ベネズ
エラなど、イスラム諸国を中心に米英から敵視されがちな国が多く、非米同盟
として結束しやすい。ロシア、中央アジア、中近東の国々を合わせると、世界
のガス埋蔵量の7割以上を占める。欧米側では、アメリカ、イギリス、ノルウ
ェー、オランダ、オーストラリアなどがガス産出国だが、埋蔵量は多くない。
http://www.eia.doe.gov/emeu/international/reserves.html

 新カルテルの構想は、2001年から存在している天然ガス産出国の会合で
ある「ガス輸出国フォーラム」(GECF)などの場を借りて、非公式に協議
されている。今年4月にカタールで開かれたGECFでは、カルテルが誘導す
べき価格帯についての検討を開始することを決めた。中南米ではすでに、ベネ
ズエラやボリビアを中心に、産出国と消費国が参加して域内のガスカルテルが
作られている。この中南米カルテルと、ロシアが中央アジア諸国と結束しつつ
ある地域カルテルをつなげ、そこにイランやカタール、アルジェリアなどが加
わって、新カルテルの中核が作られている。

 新カルテルは、すでにヨーロッパ市場をロシアとアルジェリアで分割する談
合を行ったとも指摘されている。ロシア勢は、アルジェリア勢が強いスペイン
市場には参入しない代わりに、アルジェリア勢は、ロシア勢が強いドイツ市場
には参入しないといった談合である。
http://www.heritage.org/Research/EnergyandEnvironment/wm1423.cfm

 新カルテルがOPECと異なる点は、OPECが産油国のみの談合体だった
のに対し、新カルテルの談合には中国やインドといった非欧米の消費国が参加
している点である。OPECに対しては、大口の消費国が結束して対抗し、
OPEC以外の産油国からの石油輸入を増やしたりすることでカルテル潰しが
できた。だが新カルテルでは、欧米諸国が結束してカルテルを潰そうとしても、
カルテルの側は中国やインドにガスを売ればいいだけなので困らない。
http://www.atimes.com/atimes/Central_Asia/ID27Ag01.html

 この点でも、新カルテルは欧米中心の世界体制を壊そうとする政治的な画策
である。イランは世界第2位のガス埋蔵国であり、アメリカがイランを空爆し
ないことが確定したら、その直後から、イラン・パキスタン・インド間と、イ
ラン・トルコ・欧州間のガスパイプラインの構想が前進し、新カルテルのメカ
ニズムを使ったイランのガス売り込みが開始されるだろう。欧州は、ガスをロ
シアとイランのどちらから買うにしても、カルテルと敵対できなくなる。米英
は、欧州への天然ガス供給の問題を、経済問題ではなく軍事・安保問題として
扱い、NATOの会議で議論している。
http://www.atimes.com/atimes/Global_Economy/ID11Dj01.html

▼原子力にも手を伸ばす

 ロシアにとってこのカルテル構想は「ロシア革命」「国際共産主義運動」以
来の、国際政治分野での発明物であるともいえる。新カルテルの構想は、天然
ガスで成功したら石油でも行われ、新カルテルはOPECと並行した国際メカ
ニズムになるかもしれない。

 このカルテルの動きは、以前の記事「反米諸国に移る石油利権」
http://tanakanews.com/070320oil.htm で紹介した、新セブン・シスターズの
話とつながっている。新シスターズの国々はすべて、プーチンが首謀する新カ
ルテルの主要なメンバーである。あの記事を書いた今年3月の時点では、私は
まだ、石油ガスの利権が欧米から非米諸国に移りつつある状況を認識していな
かったが、その後2カ月たって、新カルテルとしての非米同盟が急速に立ち上
がっているのが感じられるようになった。あの記事で紹介した「世界の石油ガ
ス利権のうち米英勢が握り続けるのは1割以下」というFT紙の指摘は、すで
に十分あり得る話である。

 ロシアのエネルギー戦略としてもう一つ目立つのは、原子力発電の分野であ
る。冷戦時代の核開発を継承するロシアは、原子力発電の核燃料を作るウラン
濃縮の技術と施設を多く持っている。これを生かしてロシアは、世界中の発展
途上国から核燃料を製造する工程を請け負い、途上国が比較的簡単に原子力発
電を実現できるようにする事業の開始を決め、先日、核施設やウラン鉱山を持
つカザフスタンと共同で「国際ウラン濃縮センター」を設立した。
http://en.rian.ru/analysis/20070518/65708455.html

 ほぼ同時期にロシアは、欧米から経済制裁を受けている東南アジアのミャン
マーに対し、原子力発電所を作るための研究施設を作ることで契約を結んだ。
すでにミャンマーでは、ロシアと中国の企業が、油田とガス田の開発や、パイ
プライン建設の契約を結んでいる。ミャンマーは、欧米に敵視されている国に
おいて、非米同盟諸国が欧米を無視してエネルギー事業を展開する最初の実例
になっている。
http://news.yahoo.com/s/afp/20070515/wl_asia_afp/russiamyanmartrade_070515172258

▼新カルテルを軽視するマスコミ

 欧米のマスコミで解説を展開している専門家の多くは、プーチンの新カルテ
ル構想を「非現実的」とみなし「新カルテルなど作られていない」と結論づけ
ている。米英覇権が弱体化していることから考えて、米英マスコミはもっとプ
ーチンの新カルテル構想を危険視すべきだが、現実は逆で、意図的に軽視され
ている観がある。今後、新カルテルが着々と世界の石油ガス利権を欧米側から
剥奪していっても、欧米や日本のマスコミでは軽視され続け、気がついたとき
には不可逆的に非米同盟諸国が強くなっているかもしれない。
http://www.atimes.com/atimes/Central_Asia/ID27Ag01.html

 アメリカ政界では昨年夏、国際問題に強い共和党上院議員のリチャード・ル
ガーが「ロシア、イラン、ベネズエラなどが、エネルギーを使って世界的な影
響力を拡大し、アメリカに敵対する新手の戦争を起こしている。これに対抗す
るため、アメリカは中国やインドとのエネルギー同盟体を作るべきだ」と提唱
したが、米政府から無視された。ルガーは、プーチンのエネルギー新カルテル
が、中国やインドという非欧米の消費大国を巻き込んで立ち上がりつつある状
況を把握し、対抗的にアメリカは中国とインドを取り込む必要があると提唱し
たが、その提案はまったく実現しなかった。こうした経緯から考えると、プー
チンの新カルテルは現実に進んでおり、軽視するのは間違いだと感じられる。
http://www.atimes.com/atimes/Central_Asia/HI23Ag02.html

 ルガーは以前から「アメリカは北朝鮮と直接交渉すべきだ(中国に任せるな)」
とも言っていた。アメリカの覇権を維持するには、ルガーの言ったとおりにす
べきだったが、ブッシュ政権はまったく聞き入れなかった。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/10/22/AR2006102200245.html

▼ドイツとフランスはロシア容認

 もう一つ興味深いのは、天然ガスを使ったロシアの覇権拡大に対し、ドイツ
やフランスの政府が大して危機感を持っていないことである。ヨーロッパの中
でもイギリスや東欧諸国は、ロシアの覇権拡大を恐れており、特にポーランド
は、アメリカが事実上のロシア包囲網として構想するミサイル防衛計画の地対
空ミサイル基地を誘致するなど、アメリカに頼ることでロシアと戦う姿勢を見
せている。

 だが、ドイツは逆に、ポーランドを迂回してロシアの天然ガスをドイツに運
ぶバルト海の海底パイプライン建設計画をロシアと合弁で推進するなど、むし
ろロシアが欧州で影響力を拡大することに協力している。昨年、ドイツの首相
が、プーチンと仲が良かったシュレーダーから、旧東独出身の反ロシア的な傾
向があるメルケルに代わったが、バルト海底パイプライン計画は続行され、独
露関係は、米露や英露の関係より、はるかに友好的な状態が続いている。
http://www.atimes.com/atimes/Central_Asia/IC24Ag01.html

 フランスも、ドイツの姿勢に同調し、シラク前大統領は、ポーランドなど東
欧諸国の反ロシア的な姿勢を批判して「東欧は重要事項に口をはさむな」とま
で発言した。最近、大統領がシラクからサルコジに代わり、フランスは親米的
な方針に転換するとも予測されていたが、サルコジは就任したその日にドイツ
を訪問するなど独仏関係を非常に重視しているので、ドイツと協調する親露的
な路線をやめるとは考えにくい。
http://news.ft.com/cms/s/30391e54-049c-11dc-80ed-000b5df10621.html

 独仏、特にドイツが親ロシア的な姿勢をとるのは、ドイツがロシアと敵対し
てしまうと、米英が誘発した米ソ冷戦によって欧州が分断・弱体化させられて
いた時代に逆戻りしかねないからだろう。冷戦より前の第二次大戦でも、ヒッ
トラーがイギリスの計略に引っかかって1939年にポーランドに侵攻し、ロ
シアと敵対してしまったために惨敗している。ドイツにとって真に警戒すべき
は、東欧に覇権を拡大したいロシアの野望ではなく、欧州大陸を永続的に分断
・弱体化させておきたいイギリスの策略である。

 アメリカの中枢には、米英同盟を重視して冷戦的な反ロシア戦略を続けたい
米英中心主義の勢力のほかに、1989年の冷戦終結と東西ドイツの統合を推
進し、ドイツや欧州大陸諸国を強化したレーガン、パパブッシュ政権のような
多極主義的な勢力がおり、イギリスとは事情が異なる。今のブッシュ政権も、
イギリスのブレア首相の諸提案を最後まで聞かず、覇権の自滅的縮小を引き起
こしたことから、多極主義勢力の政権だと思われる。

▼米英同盟の希薄化とロシアの台頭

 アメリカは、ポーランドとチェコに長距離ミサイルを迎撃する地対空ミサイ
ルの基地を置く計画を進めたが、これはむしろロシアを怒らせ、より反米的な
エネルギーの新カルテル作りを進めることにしかつながっていない。
http://www.iht.com/articles/ap/2007/05/12/america/NA-ANL-US-Russia.php

 最近では、チェコとポーランドはアメリカに「ミサイル防衛の施設を置かせ
てあげる見返りに、日米安保条約のような、有事にアメリカがチェコやポーラ
ンドを守ってくれる条約を結んでほしい」と要求し始めた。これはアメリカが
同意できない要求である。しかも米議会は5月初め、軍事費増を嫌って、東欧
への迎撃ミサイル配備に必要な予算を否決してしまった。アメリカの計画は頓
挫しかねない状況だ。
http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,2069128,00.html
http://www.ft.com/cms/s/decb9652-f904-11db-a940-000b5df10621,dwp_uuid=5aedc804-2f7b-11da-8b51-00000e2511c8.html

 イギリスでは6月末に首相がブレアからブラウンに交代し、その後のイギリ
スはこれまでのように何が何でもアメリカに追随する姿勢はとらなくなると予
測される。イラクからのイギリス軍が早期に撤退する構想も報じられている。
米当局者は英軍の早期撤退説を否定しているが、今後もし米英同盟が希薄化し
た場合、米英とロシアとの対立は、さらにロシアに優勢になり、60年続いた
米英中心の世界体制は、終わりに近づくことになる。
http://news.scotsman.com/index.cfm?id=782222007
http://www.reuters.com/article/newsOne/idUSL2159603520070521


★この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/070522russia.htm


★関連記事

カスピ海石油をめぐる覇権争い
http://tanakanews.com/e0302oil.htm

ロシアの石油利権をめぐる戦い
http://tanakanews.com/e0316russia.htm

How disputes are exposing the limits of German `Ostpolitik'
http://news.ft.com/cms/s/65f313b6-0310-11dc-a023-000b5df10621.html

Vladimir Putin Separates Europe from America
http://www.kommersant.com/p765735/r_527/Putin_Rice_Steinmeier/

Time to back off: Russian-European relations
http://www.iht.com/articles/2007/05/15/opinion/edkaraganov.php

Moscow and EU Battle for Control in Escalating Energy War
http://www.buzzle.com/articles/138190.html

Merkel's Russian alliance in ruins
http://www.guardian.co.uk/russia/article/0,,2082675,00.html

Ivanov sets out his tough vision for Russia's future
http://news.ft.com/cms/s/d61a7d42-edd9-11db-8584-000b5df10621.html

Russian Orthodox Churches Reunite After 80-Year Split
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601085&sid=aJBXlBqZ31QQ&refer=europe


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