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JMM [Japan Mail Media]   「球春のゆがみ」  冷泉彰彦 
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投稿者 愚民党 日時 2008 年 3 月 30 日 15:01:36: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2008年3月29日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.472 Saturday Edition
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                       http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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  ■ 『from 911/USAレポート』第349回
    「球春のゆがみ」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』第349回
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「球春のゆがみ」

 カブス=メッツ戦、ヤンキース=デビルレイズ(当時)戦と過去二回のメジャーリ
ーグ公式戦の日本開催を経験しているにも関わらず、今回のアスレチックス=レッド
ソックスの東京ドーム開幕戦はずいぶん盛り上がったようです。アメリカでもESP
Nが連日東海岸時間の午前六時から全国中継をしており、しかも大手のスポンサーが
三社ぐらいついていましたから、注目を呼ぶビッグ・イベントであったことは間違い
ありません。

 何よりも昨年のワールドシリーズ覇者であり、アメリカでは例外的な「全国区人
気」を獲得しつつあるレッドソックスが参加し、しかも松坂、岡島の日本人二投手が
入っているのですから、これが話題にならないわけがありません。セリグ・コミッ
ショナーも訪日して開幕戦を観戦していますし、とにかく大きな扱いでした。翌日の
NYタイムスでは「憎いはず」のレッドソックスが一面トップになっており、岡島選
手がファンの求めでサインに応じている写真が大きく出ていたぐらいです。

 試合の結果も、初戦は松坂が先発し、3回まではピリッとしませんでしたが、4回
5回には調子を出してとりあえず試合を作った格好、その後は逆転が数度のなかなか
好試合となり、最後は岡島、パペルボンの「勝利の方程式」も見ることができてボス
トンが先勝しています。これに対して、第二戦はアスレチックスが勝って一勝一敗の
タイという結果となり、シリーズとしても良い結果でまとまったと思います。

 ちなみに、初戦の松坂ですが、今年から「ツーシーム」という握りを変えてストレ
ートを投げるようにしているらしいのですが、運良くその握りのボールで先頭打者を
一球で打ち取ったあと、二番バッターの初球にはそのボールが甘く入ってホームラン
を打たれています。そこまではまだ試運転モードで、そこから本気になれば良かった
のでしょうが、そのホームランに心を乱されたのか、その後は威圧感を見せる余裕を
失って、一回二回で60球を要してしまいました。このあたりに、課題を残したよう
に思います。

 それは松坂がメンタルな面に弱さを抱えているということではなく、もっと相手を
知って相手とのコミュニケーションを通じて人間的な交流を深め、その上で良い意味
での「敵を知り、勝負を楽しむ」ところから出てくる安定感や威圧感を見せる、そう
した「楽に勝つ方法」を身につけるべきだということでしょう。松坂選手は、岡島選
手のように「俺は仕事できているのだから英語には関心はない」と言い切るような
「変人」ではないのですから、そうした正攻法が必要だと言うことです。

 さて、そんなわけでアメリカでも盛り上がったメジャーの東京ドーム開幕ですが、
私には手放しでは喜べないものがあったのも事実です。それは、一つにはここ数年、
アメリカと日本の、具体的にはMLBとNPBの間に見られる「非対称性」と言いま
すか、ある種の「ゆがみ」があるような状況が心配なことであり、もう一つは、たま
たま今回セリグ・コミッショナー訪日に合わせて日本で発表された2009年春の第
二回WBCの問題です。日本は何が何でも優勝トロフィーを守らねばならないのです
が、そのための危機感が足りないのでは、という思いです。そんな中、日米野球が抱
える「ゆがみ」ということと、WBCへの闘争心不足という問題がどうしても重なっ
てくるのです。

 今回のESPNの中継に際しては、目新しい企画として「メジャーの開幕戦を日本
で行うことの賛否」を様々な形で議論していました。ではどんな「反対」意見がある
のかというと、代表的なものは、「ファンが待望しているレッドソックスの本拠地開
幕戦が4月8日まで待たされるのはおかしい」とか「アスレチックスは今回の東京シ
リーズを主催したので、本拠地ゲームが二試合も減ってファンがかわいそうだ」と
か、中継時間が早すぎるので早起きして見るのが大変」というような他愛ないもので
した。(実際は、4月上旬のボストンは野球をするには寒すぎるので、本拠地開幕が
繰り下がるのは悪いことでもないのです)

 これに対して「賛成」の意見は「日本という野球大国をメジャーの市場とするのは
MLB発展に寄与するから」というもので、TVのスポーツニュースでの「論戦」で
も、このことには異論はないようです。そんなわけで、アメリカ側から見れば、正に
セリグ・コミッショナーが言うように「MLBは今ビジネスの絶頂期」にあり、今回
の日本での開幕シリーズはその黄金時代ならではの華やかな興行という受け止め方で
あり、その域を出るものではないと思います。

 今回のボストンの日本ツアーに際しては、ちょっとした騒動がありました。フライ
ト直前になって、選手や監督には支払われる「出張手当」が、コーチやスタッフには
払われないのは不当だとして、ヴァルテック主将率いる選手全員の総意として「払わ
れないのなら遠征をボイコット」するという申し入れがされたのです。球団は早速妥
協して「手当」が払われることになりました。いかにもアメリカらしい「高額所得者
の選手達が薄給のスタッフという仲間にも連体意識を示した」というドラマではあり
ます。ですが、たかが一週間の出張に対する出張日当が「2万ドル=200万円」と
いうのは法外です。

 そうなのです。「ゆがみ」というのは、正にカネを巡る問題に他なりません。今回
の「東京ドーム開幕戦」の主役といって良い松坂投手の「100ミリオン」というカ
ネの飛び交った移籍劇が示すように、まずポスティングの問題があります。アメリカ
でも交渉権、つまり「話すだけの権利」として50ミリオンを要したというのは法外
だという議論があるように、誰が見ても「ゆがんだ」制度であると思います。では、
どうすれば良いのでしょうか?

 一つにはFA権の取得ができる期間をもっと短くするという考え方です。ですが、
そうなればどんどん選手の「流出」が起こり、日本のプロ野球は衰退してしまうで
しょう。何らかの「補償」が必要です。現在のポスティングというのは、例えば20
06年秋にこの欄で松坂選手のケースに関してお話したように、この場合は西武球団
に起きる「戦力低下」を補う意味で金銭的な補償がされたということになります。で
すが、そのカネがここまで高騰し、制度自体が疑問視されるようになれば別の手段を
考えなくてはなりません。

 となると、すぐに思い浮かぶのが「トレード」です。MLBとNPBの間で、金銭
だけでなく人的補償を伴うトレードを可能にするという案です。今のところ、こうし
たトレードに関しては、日米間ではできない取り決めになっているのですが、アメリ
カ側ではこの事実は、あまり良く知られてはいません。例えば、この春のキャンプイ
ン直後に、フィラデルフィア・フィリーズで、何とも大がかりな「ニセ・トレード騒
動」がありました。

 カイル・ケンドリックという23歳の若手ピッチャーが、突然監督室に呼ばれて
「日本のヨミウリへのトレード」を通告されたのです。交換要員としては「コバヤシ
・イワムラ」という選手が来るという話で、しかもケンドリックが念のために自分の
エージェント(代理人)に電話をするとトレードは本当だと言うのです。突然の話に
ショックを隠せないケンドリックに対してチームメイトたちは(大スターのライアン
・ハワード選手をはじめ全員が)「大変だなあ。食べ物は大丈夫か?」などとケンド
リックを激励に来る、更にCN8局というフィリーズの独占中継権を持っているTV
局をはじめ、フィラデルフィアの三大ネットワーク各局なども押し寄せて大騒ぎにな
りました。

 ですが、これは全部仕組まれた壮大な「ウソ」だったのです。ロッカールームにT
Vクルーが押しかけて、ケンドリック選手を取り囲んだところで、同僚の選手たちか
ら「全部ウーソ」という白状があり、全員大爆笑の中ひたすら安堵するケンドリック
投手の姿は、その週の「ユーチューブ」で大変なヒットになりました。ちなみに、こ
の球団に加入したばかりの田口壮選手も「トレード通告書」に「小林岩村」という怪
しい日本語の名前(?)を記入させられるなど、一役買わされたそうです。マニエル
監督は渾身の名演技をしていたのですが、後にインタビューでは「飛行機に乗せると
ころまでやりたかったのに惜しいことをしたな。俺は航空券ぐらいポケットマネーで
出しても良かったんだぜ」と語る始末です。

 この「壮大な冗談」というのは、このチームの団結が非常に高いレベルにあり、生
真面目なケンドリックに対する監督以下の「深い愛情」から出た行為ではあります。
日本でいう「いじる」というような濁ったセンチメントはそこにはなく、騙す方も騙
される方も一生懸命で後腐れはありません。ですが、このエピソードが成り立った最
大の要素は、マニエル監督の演技でも、同僚たちの根回し力でもありません。それは
「日米間にトレードというシステムがある」ということを、実際は不可能であるにも
関わらず、選手からメディアに至るまで全く不自然に思わなかったという事実です。
このエピソードだけでなく、昨年秋には同じように「日本へのトレード通告がされて
も荷物は大丈夫」という国際宅配便のCFが有名になりましたが、これも同じです。

 ではどうして日米間でのトレードができないでしょうか? まず大きな問題は、M
LBとNPBの間にある「支払能力の格差」です。例えば、MLBの側では日本の一
流選手を10ミリオン以上の年俸で引っこ抜くことができますが、NPBではいくら
メジャーの一流選手が取れるということでも、簡単にはカネは出せないのです。例え
ば、松坂、黒田クラスの投手を交換トレードで送り出すとして、同じようなレベルと
なると、メジャーで先発ローテーションの二番手から三番手、年間15から17勝と
いうクラスとなると、平均年俸は10ミリオン(10億円)前後になってしまいま
す。しかも、良い選手なら複数年を要求してくるでしょう。

 こうなると日本の球団では「おいそれと」手は出せなくなります。俗に言う「日本
野球との相性」などを含めて移籍が成功するか分からない中、そんなリスクは取れな
いということになります。それ以前の問題として、経営の安定性が全く違うという事
実があります。非常に強い営業力を誇るMLB各球団のチケットセールス、そしてM
LB事務局が一手に所轄して収益を分配してくる放映権料、更にはグッズ収入なども
含めて、MLBというビジネスは成功の図式が確立していると言って良いでしょう。

 例えば、来年2009年にはニューヨークの人気二球団、ヤンキースとメッツのそ
れぞれが新球場に移転します。その新球場でのチケットセールスがすでにスタートし
ているのですが、例えばヤンキースの場合は、個室スイートの場合は一人一名一試合
700ドル(7万円)で、一室5人で年間81試合とすると一年分の価格が28万ド
ル強(2800万円)という「お値段」になってしまいます。しかも、こうした個室
スイートの場合は最低でも6年間のコミットメントを要求する、つまり億単位の投資
ということになるのです。ヤンキースは個室以外にも、内野のバックネット裏の席は
「スイート」という名前にして、一番グラウンドに近い部分は一試合500ドル(5
万円)、そこから順に350ドル、100ドルという価格設定にして、しかも「年間
81試合の契約、複数年」でしか売らないというのです。

 メッツの場合も似たようなもので、一試合4500ドルという個室もあるというの
で話題になっています。勿論、こうした価格設定には、買う側にも「不純な動機」、
つまり接待用とか投資目的などがあって、こうした契約が売れることそれ自体は「野
球人気」とは微妙にずれているとも言えます。ですが、多くのファンが一試合100
ドル、年間8100ドル(81万円)の複数年契約に興味を示しているというのは、
それだけ彼等の人生に占める「ヤンキース」というものの大きさを示しているのだと
思います。

 こうした札ビラを切るような派手なビジネス形態を、日本野球が全てマネする必要
はないと思います。ですが、MLBが少なくとも「民間の興行ビジネス」として立派
に成立しているのに対して、日本のプロ野球が「親会社の宣伝費、節税対策」など
「赤字前提」の経営になっている、つまり純粋な意味で民間の活力ある経営になって
いないということは、問題だと言えるでしょう。ポスティングという「制度のゆが
み」、そして実力的には肩を並べているのにMLBに一方的に人材流出を許している
という現状を改めるには、こうした日本側の経営に抜本的にメスを入れることが必要
だと思います。

 具体的には球団数を増やして、各リーグ内に複数の地区を設けてそこでプレーオフ
を行うようにする、つまりプレーオフが「レギュラーシーズンの敗者復活戦」になら
ないようにすること、地上波にこだわらず衛星やワンセグ、ネット配信などを通じて
メディアの再編を図り放映権収入を安定させることなどに始まって、各チームの戦力
均衡を図る、フランチャイズの分散を図る、外国人選手をあらゆる面で「助っ人」扱
いしないというような問題があると思います。どの問題も一筋縄では行かない課題で
すが、同時にこれ以上先送りができない問題でもあると思います。

 そうした改革を通じて、日米間のトレードが普通に行われる、つまりMLBと交流
することが日本野球のレベルを下げるのではなく、逆に向上させてゆくようにしなく
てはなりません。そのためには、MLBの一流選手が、そして日本人でもMLBで成
功体験を持っている人材が、NPBを盛り上げて行く仕掛けが必要だと思います。

 そのような形で、「ゆがみ」を無くしてゆき、日本野球が質的量的向上を目指すに
当たって、2009年の第二回WBCでチャンピオンの座を防衛することは非常に重
要だと思うのです。ここで必ず勝ってゆくことが大切で、その重要性は北京五輪以上
だと言えるでしょう。まず2009年のWBCに勝って「野球大国」の地位を固め
る、その勢いの中で日本プロ野球の改革を進めて行くべきです。野球は勝負事なので
すから、大きな変革というのは、勝ちに乗って前向きに行うべきだからです。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『メジャーリーグの愛され方』。訳書に『チャター』がある。
最新刊『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書)
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061498444/jmm05-22>
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【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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