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書評「我部政明著『戦後日米関係と安全保障』」/『歴史評論』700号( 薔薇、または陽だまりの猫 )
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投稿者 クマのプーさん 日時 2008 年 7 月 19 日 20:26:09: twUjz/PjYItws
 

http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/a7018ff322676b0cf4bf5e9f808b069b

2008-07-18 23:44:11

書評「我部政明著『戦後日米関係と安全保障』」/『歴史評論』700号 [新刊・新譜情報]



我部政明著『戦後日米関係と安全保障』
                             島川 雅史 


 はじめに

 本書は、我部氏が一九九六年から二〇〇五年までの間に執筆した、一三編の論考
をまとめた論文集である。初出の媒体は、『論座』など一般に販売されている雑誌
もあるが、国際政治学会の『国際政治』や琉球大学の『政策科学・国際関係論集』
などの学会誌・大学紀要類や、『軍縮問題資料』『週刊金曜日』など地域の図書館
では既刊号の参照も容易でないものが多く、書籍として刊行されたことの便宜は大
きい。また各論文には、刊行時までに公表された資料を挿入したり注記を加えるな
ど、アップ・デートもはかられている。

 一三の論考は、「。安保改定までの政治過程」「「沖縄返還前後の政治過程」「
」変質する日米関係」の三部にまとめられている。つまり、再独立と同時に制定さ
れた旧安保条約に始まり、安保条約改定・沖縄返還という画期を経て、日米安保「
再定義」からイラク侵攻・日米軍事力の一体化志向へと至る、戦後史の全期間が扱
われている。読者は、戦後日米関係の機軸であった安全保障という名の軍事同盟関
係をめぐって、戦後日本史の全体像を再考する機会を与えられることになる。日米
関係は通常の二国間関係ではなく、日本の内政・外交の基礎であった。そして、そ
の政治的機軸は軍事同盟関係にあった。しかし政府は、国民に対して軍事戦略や予
想される戦争の実態を説明しようとはせず、国会では「神学論争」と揶揄される、
リアリティのない論議が続けられてきた。

 いま、日米の軍事的一体化と自衛隊の海外派兵という、憲法九条の解釈=既成事
実改憲のいわば最終段階を迎えている時に、来し方をたずね行く末を考えることは
重要である。その際、歴代日本政府の説明のような空疎な机上論理ではなく、事実
を基礎とし地に足の着いた議論でなければ意味がないが、歴代政権の国会答弁や中
曽根防衛庁長官以来の『防衛白書』を参照しても、日米軍事同盟の理解にはほとん
ど役に立たない。例えば、東側陣営との世界大戦を予想しつつ米国の意向の下で軍
拡を進めた日本政府の公式な態度は、日本には仮想敵はないというものであった。

 日米安保体制については、日本政府よりも相方の米国政府の公開資料や秘密解禁
資料の関係部分を参照したほうが理解が早いというのが実態であった。我部氏は、
以前から米国軍部や政府の関係資料を渉猟して、そのリアリティに迫ってきた研究
者である。


 1 安保改定までの政治過程

 第一部の四つの章においては、冷戦の開始にともなう沖縄や他の島嶼の占領継続
の位置づけと、一九六〇年の安保条約改定の過程が検証されている。大戦中から、
米軍部は戦後の軍事情勢を予想し、海外基地の展開について検討していた。統合参
謀本部文書によれば、米軍が沖縄本島に上陸したその日に、米艦隊総司令官は戦後
構想で沖縄を「米国防衛のための基地」として確保するよう提案している。統合参
謀本部は、ソ連との対立を想定して、沖縄・小笠原などの排他的支配を構想してい
た。東西対立が激化すると、日本列島は共産圏封じ込め政策の最前線となり、沖縄
は戦略的「主要基地」として占領が継続されることになる。

 安保改定では、日本での反基地・反安保運動の高まりを背景として、米国政府も、
基地を安定的に維持し自民党政権を持続させるためには植民地的条項の改定が妥当
という判断に至る。その際焦点となったのは、「基地の自由使用」と「核兵器の持
ち込み」であった。米国は核戦略に重点を移す「ニュールック戦略」を開始してお
り、日本からも陸軍戦闘部隊は撤収を始めていたが、極東軍総司令官によれば、在
日米軍の三万余の兵站部隊は、日本・沖縄・韓国駐屯米軍と自衛隊・韓国軍を支援
するのに不可欠な部隊であった。基地の維持と有事増強を含めて日米韓一体の態勢
がとられていたわけであるが、岸信介は戦略態勢の変化を読み、すでに五五年の訪
米時に、経済再建・保守反共勢力の結集・防衛力強化によって米軍の撤退と憲法改
正が促進される、と日本の方向を示している。岸は、日本が太平洋地域戦略の要石
であることを理解していた。基地自由使用については軍部の強い懸念があったが、
自民党政権を維持することがその担保となった。我部氏は第四論文で、岸首相と駐
日大使との累次にわたる秘密会談記録や国務省文書を用いて、日米両政府間に突っ
込んだ議論のあったこと、その関心と論点について整理している。

 核兵器については、六〇年の時点で「通過(イントロダクション)」を承認する
秘密協定が存在したことには傍証がある(1)が、当時は施政権外にあった沖縄に配備
されていた核兵器を緊急時に持ち込むことも可能であった。国務省文書によれば、
軍部は、嘉手納基地に本土基地へ核兵器を輸送するための一一機の輸送機を即時待
機させていた。そしてさらに「ハイ・ギア作戦」という、核兵器積載輸送機をロー
テーションで本土基地に駐機させ常備と同じ効果を得る計画を立てていたが、事故
や発覚した場合の政治的影響を懸念した国務省が反対して、「ハイ・ギア」は中止
させている。軍部は戦時持ち込み態勢をとりつつ、平時にも「通過」という名の配
備を拡大しようとしていたわけである。


 2 沖縄返還前後の政治過程

 第二部の三本の論考は、沖縄返還前後の事情と「五・一五メモ」や、「思いやり
予算」の原型になった沖縄米軍駐留経費負担の問題に焦点をあてている。沖縄返還
においては、「基地の自由使用」と「核兵器の持ち込み」は六〇年時点に増して大
きな問題となった。

 アメリカはベトナム戦争の渦中にあり、一九六九年のニクソン政権の国家安全保
障会議(NSC)文書NSDM-13は、基地の使用が「とくに朝鮮、台湾、ベトナムとの関連
において最大限自由であること」を対日政策の要件としている。極東は平時であっ
ても、ベトナムで戦闘中の米軍にとっては戦時であった。この戦時の基地自由使用=
在日基地からの出撃は、朝鮮戦時の場合はより緊要なものとなる。その戦争遂行や
訓練等のために確保した権利を文章化したものが、日本国民には秘密にされた「五・
一五メモ」である。我部氏は、メモという語感からはほど遠い、海域や空域を含め
て米軍が確保した使用権のリストであるこの膨大な覚書の要点を検討し、県道が米
軍への提供施設となっていることを当の県当局が知らなかったことなど、植民地的
と言うべき「自由使用」の問題点を整理している。

 第一論文の最後でも半頁ほど触れられているが、この五・一五覚書にも含まれて
いる重要な問題点として、朝鮮戦時の場合の「朝鮮国連軍」の基地自由使用という
問題がある。在日米軍地位協定にくらべて目立たない、朝鮮戦争直後に締結された
「国連軍地位協定」は現在も有効とされているが、そこでは日本が国連軍の「いか
なる行動」についても「あらゆる援助」を行なう義務があることを確認している。
つまり、米軍が国連軍の帽子を冠る時には日米安保体制さえも無視できるという、
完全自由行動の抜け穴が空いていたのであった。(2)

 第二論文では、後の「思いやり予算」の原型になった日本政府の財政負担と「密
約」疑惑について検討されている。沖縄からの核兵器の撤去は、当時ミサイルなど
他の運搬手段や輸送手段の発達によって近接陸上備蓄の必要は薄まっており、NSDM-13
が示すように、米政府にとっては「通過」権や緊急時持ち込みが確保されていれば、
基地自由使用権の拡大・日本政府の財政負担増大・自衛隊の増強など「他の分野」
で「満足いく交渉結果」を得るための取引材料という意味が強かった。

 日本政府は返還関連経費として多額を支出して米国は「満足」するが、説明でき
ない対米支出もあり、財政密約をめぐって外務省からの「秘密漏洩」のいわゆる西
山事件が発生する。日本政府は地位協定を「リベラル」に解釈して基地改善・維持
経費を支出し、一九七九年度からは日本人従業員の労務費や施設新設費などの支出
を始めて「思いやり予算」が開始されることになる。我部氏は、この経過を秘密覚
書や軍関係文書などを用いて跡づけている。


 3 変質する日米関係

 第三部の六つの論考では、沖縄返還後からイラク戦争に至る時期の日米同盟関係
が考察されている。第一論文では、ソ連・中国を仮想敵として六〇年代から駐日公
使・在日米軍参謀長・外務省アメリカ局長・防衛庁防衛局長をメンバーとして秘密
裏に検討された日米統合作戦計画が、一九七八年の「日米防衛協力のためのガイド
ライン」に結実したことを跡づけている。日本は防勢作戦、アメリカは攻勢作戦を
分担する、両者が一体となった統合作戦計画であったが、日本政府はその半面のみ
を強調し国民に対しては「専守防衛」政策であると説明した。

 我部氏は、この時期の公文書資料は多くないと記しながら、在日米軍や太平洋方
面軍の秘密解禁資料などを用いて、アメリカの戦略や日米合同演習の積み重ねによ
る軍事的一体化の推進を描いている。そして、米海軍や海兵隊との共同訓練は、日
本防衛というよりは日本域外での作戦を想定するもので、米軍補完としての自衛隊
の役割を高めたとする。

 またこの場合、装備・武装や編制から、どのような相手との戦闘を想定している
かを読み取ることも可能であろう。米国が海空戦力の増強を要求したのは、ソ連海
空軍の襲来を想定したからである。例えば、海上自衛隊が対潜作戦部隊に特化して
多数の対潜艦艇や対潜攻撃機を配備し、米軍をしのぐほどの機雷戦能力を有するな
ど海軍としてはバランスを欠いた構成を持つことになったのも、中曽根首相が米国
に公約したように、「三海峡封鎖」によってソ連海軍主力の原子力潜水艦隊が太平
洋に進出するのを阻止するためであった。そして、横須賀・佐世保を母港とする米
第七艦隊や岩国・沖縄の海兵隊と統合運用されると、各種戦闘に対応できるバラン
スのとれた海軍の編制となるわけであった。

 第二論文では、九〇年代前半の国防権限法の推移をたどることによって、議会の
東アジア戦略への関与を整理している。議会は国防費の圧縮を求めながらも、兵器
購入の政府提案を増額して可決したり、州兵の削減率を縮小したりと、軍事の論理
よりも国内の選挙区事情など政治経済的要因に動かされることが多かった。一方で
議会は同盟国への「バーデン・シェアリング」の要求を強め、それが「日米安保再
定義」へのひとつの契機となったとされる。その政治経済的事情とは、日本による
軍用機など高価な米国製兵器の購入と直結する問題でもあった。この面でも、日本
の米軍補完役割は大きいと言えよう。

第三論文から第六論文までは近年に週刊誌等の一般誌に寄稿されたもので、エッ
セイ形式の時事的な文章であるが、またそれ故に日米安保の問題点を明示したもの
になっている。いくつかの見出しにあるように、インド洋への「自衛隊派遣は集団
的自衛権の行使」そのものであり、小泉政権の「既成事実化に道開く対米協力『七
項目』」は、空自派遣をめぐって名古屋高裁判決が指摘したように、それまでの政
府の憲法解釈すら逸脱する「自衛隊派遣の危険性」を露わにするものであった。ま
た、世界で高まった市民の反戦の声は米国の軍事行動を阻止できなかったが、「ネッ
トを通して形成される国際世論」は、国際政治的にも、かつてなかった可能性を今
後に示すものであった。


 情報公開の必要--主権者は誰か

 本書の「あとがき」は、普通の書籍の後記とは趣を異にして、アイゼンハワー政
権の秘密文書をめぐる「補論」となっている。国務長官が作成した文書で、朝鮮国
連軍や核兵器の通過などに関する秘密合意の要約や説明が載っているものであるが、
一度秘密解禁されながら、秘密合意部分は翌月に再度封印されたものである(最初
の解禁時に複写した米国の研究機関が資料集として有料公開している)。我部氏は
著書・論文ではもとより、『世界・別冊ハンドブック』をはじめ大部な『アメリカ
合衆国対日政策文書集成』(柏書房)などで基本資料の提供・紹介に努めてきた研
究者である。現在の危機的な世界状況の中で、日米安保をめぐる議論が深化するた
めにも、今後ともその活躍が期待される。

 そもそも、情報公開は民主主義の根幹である。外交や軍事に秘密はつきものであ
ると擁護する研究者もあるが、交渉過程のことであるならいざしらず、また一九世
紀的な君主国家同士の取引であるのならしらず、少なくとも主権在民と民主主義を
標榜する現代の国家において、軍事・外交の根幹に関わる問題で、政府が密約を結
びそれに反する説明を公表するというこのは許されることではない。


注記

(1) 我部氏は後の第三部第一論文で、一九六〇年の密約の証拠として七二年のレアー
 ド国防長官が国務長官に宛てた書簡を分析している。また第三部第三論文や「あ
 とがき」では、交換公文に関する秘密覚書で、核兵器の「通過」や部隊の「移動」
 については事前協議の対象外という密約のあったことが述べられている。筆者も
 レアード書簡や他の資料について検討したことがあるが、密約文書そのものは隠
 されているにしても、数々の「傍証」によって概要は証明されたと言い得る。島
 川『[増補]アメリカの戦争と日米安保体制--在日米軍と日本の役割』社会評論社
 (二〇〇三)四九〜五九頁参照。

(2) 「朝鮮国連軍」の問題は第三部第三論文や「あとがき」でも触れられているが、
 我部氏は別稿「朝鮮半島有事と日米安保」剣持一巳編『安保「再定義」と沖縄』
 緑風出版(一九九七)[我部『世界のなかの沖縄、沖縄のなかの日本』世織書房
 (二〇〇三)に再録]において、「一九六〇年の韓国に関する会議録」という「
 有事密約」をめぐってより詳しい考察を行なっている。筆者も「国連軍地位協定」
 について検討したことがあるが、国民がそれと意識していない場面で大きな抜け
 穴が作られていたことは問題である。島川前掲書 二八、三一〜三六頁参照。

           (吉川弘文館、二〇〇七年八月刊、本体価格八〇〇〇円)

島川雅史 mshmkw@tama.or.jp


 

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