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お薦めアニメ: 神霊狩/GHOST HOUND  (感想、書いた!3話までネットで無料で見れる)
http://www.asyura2.com/08/bun1/msg/210.html
投稿者 児童小説 日時 2008 年 8 月 27 日 06:21:35: nh40l4DMIETCQ
 

公式サイト(3話まで無料で見れる)
http://anime.goo.ne.jp/special/ghosthound/

監督 中村隆太郎
脚本 小中千昭
制作 Production I.G

※作品紹介

うつし世はゆめ よるの夢こそまこと

この世界<現世>(うつしよ)には、電脳が発達するより遙か昔から、違う世界が重なっている。

日本の原風景の面影を残す、地方の小さな町に住む3人の中学生、古森太郎、大神 信、中嶋匡幸。彼らは、それぞれ、消し去ることのできない過去を持っていた。

だから、なのか、また違う理由があるのか、3人は<現世>とは異なる世界、<幽世>(かくりよ)へ魂(たま)抜けすることで、行き来することが出来るようになる。少年たちは、<幽世>を冒険するうちに、そこがどこにつながっているのかを知る――。

※感想

00年代最強のアニメ作品である。

監督を務める中村隆太郎氏はコアなアニメファンの中では「serial experiments lain」(以下、lain)で知られるカリスマ的存在。電子的な記号を取り混ぜた映像や実験的な演出が特徴的な作風とされる。海外にもファンは多い。手掛けた作品はいずれも一定のクオリティを維持しながらも固有の個性さを持っている。初期作の「賢治のトランク双子の星」では原作のイメージを再構成したオリジナリティの高い作品に仕上げ、「キノの旅」では原作の寓話志向の移植に成功。「REC」も原作ファンからの評価は高い。「サクラ大戦TV」では原作の明るいイメージを脱色して、暗い大正時代の雰囲気を醸し出した。「COLORFUL」でもは他のアニメでは見られない特殊な演出とエロギャグ路線を見せつけた。

脚本は小中千昭氏が務める。小中氏といえばテレビゲーム「ありす in Cyberland」で当時まだ流行っていなかったインターネットをテーマに持ち込み、その世界観を「 lain」で更に昇華させたことで知られる。また、「怪〜ayakashi〜」「モノノ怪」といった怪奇モノでも一部脚本を担当するなど民俗学への造詣も窺える。

本作の原案は「攻殻機動隊」で知られる士郎正宗氏が提出したが、完成形は小中氏の色彩に染まったという。結果的にはサイバーパンクの要素は除かれながらも、バイオ技術や脳科学、民俗学や古神道をミックスした斬新な試みが見られることを指して“スピリチュアル・アニメ”と呼称されている。現代的なモチーフを積極的に取り入れてバージョンアップしているものの「ありす」「lain」にも通底する「ネットワーク・シリーズ」としての側面を映像化したという見方もできそうだ。中村・小中の両氏によるタッグとしては「lain」「キノの旅 病気の国 -For You-」に続く三作目となる。

さて。

本作は革新的な物語構造で描かれる。基本はミステリー作品のため、とある事件を巡る謎解きから進行していくが、全話に渡って抽象的な内容な上、伏線の収拾には説明的展開は割かない。かといってツインピークス的に解釈を放棄するワケでもない所にオリジナリティを発見できる。

代わりに用意される各々のキャラクター達の物語が際立つ。共通の動機付けは与えられず、偶然の必然といった予定調和のドラマは否定される。アメリカ的な感情ベースの人間ドラマでもなく、ヨーロッパ的な論理ベースの構造ドラマでもない。独自の行動岐路。そこには「lain」を遙かに凌駕する人的ネットワーク、即ち、“確率共鳴”の可能性を見出せる。これがテーマらしい。

舞台は九州にある昔ながらの面影を残す田舎。3人の中学生が「偶然」巡り会う。主人公の古森太郎は11年前に起きた誘拐事件の被害者。太郎は生き延びたが姉の瑞香は亡くなっている。事件の影響からPTSDと睡眠障害を抱える。知り合うことになる大神信は宗教団体の教祖の孫。親は誘拐事件の直後に自殺している。中嶋匡幸はバイオ研究所の指導者の息子、いじめによる飛び降り自殺を目撃したことから高所恐怖症となる。このように3人は過去の体験からトラウマを持ち合わせており時々フラッシュバックにも陥る。

3人は誘拐事件に関連する病院を探索する。太郎は事件の記憶を思い出して、死んだはずの姉の姿を見る。恐怖感から3人は病院の外に逃げるのだが、“ 魂(たま)抜け”という幽体離脱にも似た現象を体験する。医師の診断では科学的に証明されたO.B.E.(体外離脱体験)に過ぎないと言われるが、その後も不思議な現象を体験してしまう。

ヒロインとなる駒玖珠都は神社の神主の娘、親は離婚している。玖珠都は“魂抜け”はできないがシャーマニズムの体質があって逆に“一言主”なる者に “憑依”されてしまう。“一言主”は日本書記にも記述された伝説上の存在である。大神は憑依させた犯人を憎んで殺人を冗談で示唆するが、その“一言”を聞いた玖珠都の影響からか犯人は死亡してしまう。

不思議な現象に直面した少年少女たちは、超常現象なのか脳内現象なのか、悩むことになる。その間、脳科学・物理論・古神道・民俗学によって説明がされていく。明晰夢、恐怖症曝露、変成意識、ソジーの錯覚、神経回路メカニズム、恒常性の同調効果、内在秩序、出口王仁三郎、ネガティブ・エントロピー……  

物語は中盤以降になると意外な方向に傾く。「環境」の要素が登場するのだ。環境といっても自然を守ることの是非ではなくバイオ研究の過程を古神道を組み入れた視点から描写する。研究所では人工多能性幹細胞・iPS細胞を更に発展させて、胚すら必要のない非生物の有機体を開発していた。有機体はバイオイドと呼ばれ、あらかじめプログラムされた行動とる。だが事情により研究は停止。バイオイドは除去される。中嶋は“魂抜け”時にバイオイドのゴーストのような物を目撃してしまい、やはりバイオイドは生物なのかと推察する。

一方、自我を失った玖珠都は無自覚のうちに宗教団体の教祖に就任。「龍神が降りてくる」と予言する。

超常的な現象とバイオ研究所との関連、玖珠都の「龍神」。これらの異様な事態に直面したキャラクター達は一堂に集合して物語を一旦総括する。偶然に起きた科学的現象に過ぎないのか、偶然には必然となる非科学的な理由があるのか。それとも――? 少年少女たちはマクロ的な視点から行動していく。

最終的には玖珠都が紹介した「龍神」としての生物のゴーストが降臨してしまい、バイオイドのゴーストと啀み合う。ただ、すぐに互いに融解し合うのだった。

タイトルにある“神霊狩”は一見すると間違いに思える。“狩”に相当するシーンはゼロに等しいからだ。最後まで見通すことで意味が解釈可能となる。少年3人のトラウマを“魂抜け”して原因=“神霊”を突き止めて回復をする。これが真相だろう。では“神霊”とは何だろうか。分かりやすいのは太郎のケースだ。誘拐事件を起こした犯人のゴーストである。大神や中嶋もそれぞれの原因を解決していく。最後に残った玖珠都の場合はトラウマではないが、前世からの運命や因縁といったものを否定して自分自身の存在が“理解”されることで自意識を取り戻した。

“魂抜け”した先の世界である幽界(かくりよ)とは何だろうか。作中でも紹介されたペンフィールドが固執した心は脳の中にはないというデカルト的二元論を踏まえると、人間が持つ数少ないコンセンサスとしてのメメント・モリ(ラテン語で「自分がいつか死ぬことを忘れるな」の意)に繋がるだろう。ユングが言うように超常現象はないが超常体験はあるというワケだ。ただし、注意深く見ればわかるが幽界にこそ主体があって運命や因縁があるという描き方はされてない。幽界を経由しつつも、あくまでも現実と交錯しているだけだ。

玖珠都の「龍神」が象徴的だ。バイオイドはあらかじめ行動がプログラムされた「カルマの原理」を体現した不幸な存在である。他の生物とは始めから優劣(差別)があるから普通の生物のゴーストとは対立してしまう。融解し合うのは、そうであっても仲良くしろという意味合いだろう。あくまでも「死後」であるため存在を“理解”されつつもバイオイド開発は肯定されていない。

微妙なところだが、同時に現実と幽界は対立概念ではないとも言える。あらかじめ用意されたプログラムは存在しない代わりに第二十一話の題名からとれば「確率共鳴」の存在を示唆している。微弱な信号が増大するう確率共鳴は神経回路に認められるが、元々は氷河期周期を説明するため提案された概念。「現在は電子回路に…」で作中では紹介は終わる。「…」で終わっていることに留意しつつも、情報化した現代社会における必然という側面をサービスで描いていると思われる。

重要なのは少年3人がバイオイドのゴーストを救済すると同時に、玖珠都を運命から救済することから明らかなように、必然としての確率共鳴を汲みつつも、現実の行為には最初から決まっている運命は存在しないということだ。そこが日本で流行りのスピリチュアルブームとは決定的に違う。スピリチュアル的手法を逆手にとりながらゲーテの不完全性定理を映像化したのだ。これこそが本作のリアルな物語構造である。見事すぎる!

社会性と娯楽性を完全に両立した究極の作品。萌え要素すらある。「lain」で顕著だったネタとしてのオカルト要素がないのも好感が持てる。強いて言えば少年3人のトラウマ克服後に親との関係が修復するのは安易すぎる印象があり減点対象ではある。

余談だが、ボクの経験している離人症にも関係する話だし、他人事とは思えなかった。

点数:70点
http://bell.so.land.to/?q=node/38  

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