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「貸し渋り倒産」の嵐/富坂 聰(ジャーナリスト) 【Yahoo!みんなの政治】
http://www.asyura2.com/08/china01/msg/376.html
投稿者 きすぐれ真一 日時 2009 年 2 月 15 日 00:45:37: HyQF24IvCTDS6
 

http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090213-02-1401.html
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「貸し渋り倒産」の嵐/富坂 聰(ジャーナリスト)
2009年2月13日 VOICE


“2月危機”に欠けている視点

 世界金融危機の影響が中国経済に及ぶか否か。この議論に対する答えは1つしかない。
 
 経済成長の約半分を貿易に頼ってきた中国が、その影響を避けられるはずはないからだ。
 
 つまり日本で盛んにいわれる“2月危機”(旧正月で里帰りした出稼ぎ労働者が都市に戻ってくる2月に仕事がなくなっていることで、社会不安に陥るというもの)も中国経済にとって、1つの大きな山場であることは疑いない。
 
 だが、この“2月危機”に欠けている視点もある。それは中国共産党がこれに対してずいぶん前から危機感を抱き、備えていること、そして中国がいまだ社会主義社会に備わった“大きな政府”の特性を最大限発揮できるという点だ。
 
 広東省で某メーカーに工場用地を貸し出していた実業家が嘆く。
 
「もしこの春節(旧正月)中に中国から夜逃げ同然に撤退する外資や倒産する国内の企業があった場合には、その会社に関連する企業や団体、許可をした行政機関、はたまた設備や土地を貸し出していた者までが、そのリスクを受け持たなければならなくなりそうなのです。たとえ1カ月分でもよいから『労働者に支払うべき報酬を準備しろ』との要求が当局からありました。国は、どんな無理な理屈であっても、出せるところから出させようという意図でしょう。その裏には何が何でも騒ぎにだけはさせないぞという党の強い意志を感じます」
 
 2月危機に備える中国の“本気”を示す動きはこれにとどまらない。
 
 国務院の関係者が語る。
 
「2月危機もそうですが、それ以前に党は国有企業がリストラすることを全面的に禁止する内部通達を、昨秋の時点で出しています。もともと20人以上のリストラをする場合には事前に当該自治体への報告義務があり、それがある一定以上のリストラの歯止めになっていたのですが、もうそんな次元ではないということなのでしょう。いまは1人のリストラも許さないという姿勢で臨んでいるのですから」
 
 とはいうものの、その強烈なコントロールが発揮できるのは国有セクターに対してのみ。いまでは中国経済の主役となった非国有に対しては、そんな無理をいうわけにはいかない。さらに、国有セクターにしても余剰労働力をいつまでも抱え込んでいられるほど余裕があるわけではない。
 
 だからこそ「無理をしている当局と抜け穴を模索する企業とのいたちごっこが繰り広げられることになる」と語るのは経済官庁の職員である。
 
 「リストラの禁じられた国有企業側では、昨年秋から年末にかけて強制的に労働者に休暇を取らせる“停工”というやり方が流行りました。経営側の苦肉の策なのでしょうが、これに対して政府は、『もし“停工”にするならば、その期間は最低賃金を保障するように』という指導をあらためて示しました。企業の抜け穴を塞ぐ速さは驚くほどです。やはり、リストラにより失業者が街にあふれて社会不安を引き起こすことだけは何としても防ぎたいのでしょう」
 
 党・政府のこうした機敏な対応は、ある意味、現在の中国経済が抱える問題の大きさの裏返しでもある。
 
 輸出産業の落ち込み、インフレ退治の失敗と銀行の貸し渋りによる倒産企業の急増、株式市場の低迷と不動産バブルの崩壊……。
 
 中国経済が文字どおり難問山積であることはいうまでもない。だがその反面、国家財政は異常なほど潤沢であるのも中国の大きな特徴である。
 
 事実、中国は当初2008年の国家の歳入額を約70兆円だと見積もっていたのだが、実際にはこの予測を大きく上回り、100兆円規模にも達してしまったのである。つまり、30兆円も余計に集まってしまった計算だ。
 
 歳入不足から赤字国債の発行を余儀なくされる日本からすれば、何ともうらやましい収支といえるだろう。
 
 この中国の現実を人間に例えていうならば、重い病気を患ってはいるものの、その一方では設備の整った病院で腕の良い医者に診てもらえるだけの財力はしっかり備えているといった状況だ。
 
 そして中国自身もいまや「病気と本気で戦う時期」だとはっきり認識し、次々にその処方箋を示すと同時に実践しているのだ。


もはや企業の資金繰りは限界

 中国が危機を素早く認識し、対応策を矢継ぎ早に打ち出すことのできている背景には、共産党や政府にとって中国の経済の危機が、けっして世界金融危機をきっかけに襲いかかってきたものではないという事情がある。
 
 もちろん日本でいわれる“2月危機”など中国にとっては当然想定済みであり、また小規模なレベルにおいてはすでに経験済みの問題でもある。
 
 かくいう私自身も、ちょうど1年前(『週刊文春』3月20日号)に、広東省や山東省などから外資(主に玩具や傘などをつくる労働集約型の企業)が一斉に夜逃げを始め、党がその対応に追われたことを報じている。
 
 日本では誤解されているようだが、中国経済の難局は世界金融危機によって始まったのではないのだ。
 
 その証拠に、中国の温家宝総理は昨年春の全人代(全国人民代表大会=日本の国会に相当)の閉幕後の記者会見で、「今年は中国経済にとって最も困難な1年」だと自らはっきりと語っているのだ。
 
 これは、世界金融危機の5カ月も前のことである。
 
 外需の落ち込みという点でも同じだ。
 
 中国国家統計局が発表した工業利潤率(一定規模の工業企業の利潤の増加率)は、08年1月から11月までの対前年比でわずか4.9%にとどまった。
 
 4.9%でもプラスであればよさそうなものだが、昨年同期比が36.7%であることを考えれば落ち込みは顕著だ。中国の企業の収益力の落ち込みと同時に中国経済の成長が鈍化していることの象徴と考えられるのだ。ある政府関係者は、「中国の輸出企業は統計上、昨年秋までに6万社が倒産したといわれているが、本当は12万社に達している」とも話したのである。
 そもそも、中国経済に黄色信号が灯りはじめたのはいつごろからなのだろうか。
 筆者の考えでは、それは07年の春ごろのことだ。
 それはちょうど世界的にも高いことで知られた中国の貯蓄率が下がりはじめたころで、中国の消費者物価が金利を上回りはじめた時点とも重なる。一方には空前の株の投資ブームがあり、上海の指数は上がりつづけていた。
 社会のセーフティーネットが完備されていない中国では、それまで将来不安に備えて人々が貯金に熱心であったため個人消費が伸び悩み、銀行のなかで眠る預貯金が「総理の悩み」とまでいわれていた。
 だが、その貯蓄が崩れてとうとう株などに向けられたのは、奇跡の成長と呼ばれた中国の経済成長の特徴であった「成長しても物価が上がらない」という神話の崩壊のためだ。しかもそのときの物価上昇は豚肉を中心に油などの食品や生活必需品を中心としたものであっただけに、一般の人々への影響がダイレクトに表れたのだった。
 そして物価の上昇は、銀行中でガチガチに凍っていた預金を溶かし、それが一気に株に回ったのである。
 だが、その株も上海指数で6000ポイントに達したのをピークに07年の秋に急落傾向に転じて、北京オリンピックの前には3分の1の2000ポイントを切るまでに下落してしまうのだ。しかも投資ブームを支えているのは老後のための資金を振り向けた中高年が主で、それだけ将来へのダメージが深いと考えられているのだ。
 これほど人々の生活に影響を与えたのだから、社会不安を何よりも恐れている共産党および中央政府がこの物価上昇を放っておくことはない。
 必然、07年中国にとって最大の経済政策は、インフレ退治となっていたのである。
 実際、中国は07年の1年間に計26回という利上げを行ない、加えてさらに6回の総量規制を行ない徹底して物価の抑制に努めたのだった。しかし物価は08年に入っても上がりつづけ、物価上昇率は同年春にはついに8%の後半に突入。その後やっと下降に転じ08年の10月に4%まで下げた。およそ1年半かけてやっと物価上昇の入り口まで戻したというわけだ。
 だが、当局が躍起になってインフレ退治に血道を上げている一方で、もう1つの問題が中国国内で持ち上がった。
 前出の経済官庁の職員が語る。
「中央が物価の上昇の抑制に動いたのに連動して、全国的に貸し渋り現象が起きたのです。そもそも中国の大手銀行は、はなから中小・零細企業などは相手にしたがらなかったのですが、その現象に拍車が掛かってしまったのです。また銀行融資に絡む汚職事件の多さから、当局による監視が厳しくなったこともこの傾向に追い打ちをかけました。
 最近では、融資の実行に際しては会議の内容がすべて録画され、もし大きな損失を出したり事件が起きたときにはその責任を細かく追及されるようになってきているので、銀行にしてみればかえって貸し渋るよい口実を与えてしまったのです。まあ当たり前のことですが、銀行マンの給料は中国でも飛び抜けてよいのですから、無理をしてリスクを取ろうなんて人間はいませんからね」
 この全土で起きた深刻な貸し渋りは企業を困窮させるだけでなく、実際に多くの企業が資金繰りの行き詰まりによって、倒産に追い込まれてしまったのだった。
 興味深いのは、北京オリンピックの開幕直前の08年6月から7月にかけて、中央指導者の主だった面々がそろって慌ただしく地方視察に出掛けていることだ。
 山東省へと向かった温家宝総理を筆頭に、張徳江副総理は広東省へ、李克強副総理は浙江省へ、王岐山副総理は山東省へ、そしてポスト胡錦濤の筆頭とされる習近平国家副主席は上海へ向かった。目的は、各地で資金繰りの行き詰まりで倒産した中小企業の実情を把握するためだった。
「中国にとって100年の宿願だったオリンピック開催を目前にして、その準備に邁進すべきこの時期にスケジュールの詰まった幹部たちがそろって地方に出掛けること自体がそもそも異常」(同前)という。そしてこの地方視察が終わったあと、北京には中国経済を実務面で支える各部門の責任者が招集され、中央指導者を中心に、緊急会議がもたれたのだった。
 この「経済形勢分析会議」の特徴は、従来なら参加が認められなかった一部の企業家や地方官僚までもが呼ばれて、報告を行なう機会が与えられたことだ。
 そしてこの会議が導き出した結論は、「中国経済はいま、きわめて深刻な状態にある」というものだった。
 
事実、このころの中国では07年から行なってきたマクロコントロールにより、資金繰りに行き詰まって倒産する企業が相次いでいた。
 この時点で自ら行なってきた経済政策を慌てて大転換せざるをえなくなったのである。


中国経済は体調不良の営業マン

 これが、世界金融危機が本格化する以前の中国の状況だった。つまり、中国経済は前述したように世界金融危機が起こる前からそうとうに深刻な状況に陥っていたといって間違いないのだ。
 
 中国はそれまで「二防」(インフレの防止と経済過熱の防止)を掲げてきたが、このことにより急遽「一保一防」(経済成長の速度を維持したままインフレだけを抑制する政策)に切り替えざるをえなかったのである。
 
 同時に、大手銀行による中小・零細企業に対する貸し渋りを防ぐために、「これまで非合法とされてきた地下銀行を合法化し、企業への融資を認めるといった動きまで地方を中心に見られるようになってきている」(前出・国務院関係者)というのだ。
 インフレと貸し渋りのように一方を立てれば一方が沈むという関係は、中国経済に多く見られる問題だ。
 
 経済刺激策として莫大な投資をすれば、それが大きな汚職事件を引き起こす温床になりかねない。そうなれば、景気は回復しても人々の不満は別の意味で膨らむのである。
 
 同じように環境問題への対処についても矛盾は避けられない。工場周辺の住民の生活や農業を守るために環境基準を厳しく適用すれば倒産企業が増え、失業という別の問題を引き起こすといった具合だ。
 
 こうした中国経済の現実を、日本では極端な悲観論か希望的楽観論でしか説明されない。
 
 だが、中国の未来を二極論から語ることには何の意味もない。いまの中国には、中国の未来を悲観的に描くことも楽観的に描くこともできる材料に溢れているからだ。
 
 では、どう考えたらよいのだろうか。
 
 私はよく中国経済を人に例えて話す。成績の良い営業マンだが、しょっちゅう「肩が痛い」「目がかすむ」など体の不調を訴えるサラリーマンがそれだ。営業マンが定期健診を受けたところ多くの数値があまりに悪く、「これではいつ倒れてもおかしくない」と医者から警告されたといったところだ。だが、数値が悪いといってもすぐに倒れる人間は少ない。なかには何だかんだとサラリーマン人生を全うしてしまう者も少なくない。病気が人間の体をどの程度蝕むのかは当人でさえ定かでないが、それは国家も同じことだ。
 
 ただ、現状で1つだけはっきりしている問題は、サラリーマンにとって予想外の環境変化が降りかかっていることだ。それこそが世界金融危機の影響による外需の弱まりに直面した中国の姿である。外需頼りの経済を無理やり内需主導型へと切り替えざるをえなくなったのだ。
 
 もっとも中国自身、外需に頼った成長に賞味期限があることは十分すぎるほど分かっていたことだ。だからこそ中国は、世界の工場であるうちに外国に通用する独自のブランドを育成することが悲願でもあった。
 
 しかし中国が当初思い描いていたテイクオフのタイミングは、世界金融危機のために大幅に前倒しされてしまった。それは、いってみれば急遽短い滑走路で飛び立たなくてはならなくなった飛行機のようなものだ。
 
 浮力が足りない機体を持ち上げるのはエンジンの出力しかない。これをフル回転させるために中国が出した策こそ、経済刺激策の4兆元という巨額の投資なのだ。
 
 中国の命運は、すべてこの巨大なエンジンが回りはじめるか否かに懸かっているといっても過言ではない。その成否の行き着く先は、飛行機が飛び立つ過程を見れば明らかだろう。

※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

 

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