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JMM [Japan Mail Media] アメリカ経済のリセッション入りで各階層が受ける影響
http://www.asyura2.com/08/hasan55/msg/164.html
投稿者 愚民党 日時 2008 年 2 月 12 日 14:18:32: ogcGl0q1DMbpk
 

                          2008年2月11日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.466 Monday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼

 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』

  ◆編集長から

   【Q:849】
    ◇回答(寄稿順)
      □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
      □水牛健太郎 :評論家、会社員
      □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
      □土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部准教授
      □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
      □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
      □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
      □津田栄   :経済評論家

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        ■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:849への回答ありがとうございました。「カンブリア宮殿」のゲストの経済
人の中には、こういう人が総理大臣になったら、もっとマシな国になるのではないか
と思わせる人がいます。海外経験が豊富で、自社の改革や再生を見事に果たして収益
を上げ、コミュニケーション能力と体力と決断力があって、ポジティブな思考をする
人です。そういう人に限って、政治家とか興味ありますかとわたしが質問すると、
まったくありませんという素っ気ない答が返ってきます。

 現在、政治家および政治への国民の信頼の低下は危機的ではないかと思います。年
金にしても、医療や介護にしても、デモとか何らかの示威行為が起こっても不思議で
はない状況だと思うのですが、国民は怒りを行動で示そうとはしません。大人しいと
いうより、あきらめのほうが強いような気がします。ただし、以前は政治への信頼が
あったかというと、それも疑問です。政府と国民はお互いに甘え合うというか、依存
し合っていただけで、信頼の基礎となる「契約」の概念はなかったのではないかと思
います。

 そこで、カンブリア宮殿のゲストの経済人と話しながら、この人が総理になったら
どうだろうと想像したりするわけですが、よくよく考えてみたら、企業は不採算部門
や従業員をカットできますが、国家はそんなことは不可能です。まったく非効率で生
産性の低い地方の住民を、昔のようにブラジルや満州に移住させたりできるわけがな
いと当たり前のことに気づきました。

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■次回の質問【Q:850】

 企業経営と国家の運営ですが、どういう共通点があり、どこが違うのでしょうか。

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                                  村上龍

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■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く 
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 ■Q:849

 サブプライム問題に端を発し、アメリカ経済がリセッションに入ったと言われてい
るようです。アメリカ経済がもし本当に失速し縮小に向かっていると仮定すると、日
本国民のそれぞれの層(富裕層、中間層、困窮層)にどういった影響を与えるので
しょうか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 最近発表された経済指標を見ると、米国経済の減速が一段と鮮明化しているようで
す。今後、米国の景気が本格的な調整局面を迎える場合、わが国の人々にも、相応の
影響が及ぶことが考えられます。それぞれの人々に及ぶ影響を、画一的に論じること
は必ずしも適切ではないと思いますが、ここでは、経済的な影響をフローとストック
の二つに大まかに分け、単純化することによって整理します。

 先ず、経済的価値のフロー=収入に係わる影響です。最近のわが国の経済状況を見
ると、輸出関連の大手製造業部門は堅調な収益状況を続けており、それらの分野では
給与水準もそれなりに上昇しているようです。そうした状況を支えた要因の一つは、
今まで堅調な動向を続けてきた米国経済であることは確かでしょう。その米国経済の
減速が鮮明化するとなると、わが国の製造業部門にも、少なからずマイナスの影響が
出ることは避けられないはずです。輸出主導の大手製造業部門の企業業績が落ちるよ
うだと、当該部門の給与水準は上がり難くなると思います。

 一方、堅調に推移してきた輸出にそれほど関連が少ない分野では、元々、景気回復
の恩恵を受ける度合いが少ない状況が続いていました。そのため、わが国経済全体が
落ち込むマイナスの影響も、相対的に小さいことになると思います。

 ということは、輸出主導の景気回復が後退すると、フローの所得で見た場合、上の
階層の人たちにより大きなマイナスの影響が及ぶ可能性が高く、下の層に及ぶ影響の
マグニチュードは相対的に小さくなることが予想されるため、全体としてフロー面で
の格差が縮小する方向に進む可能性が高いと思います。

 それは給与所得者だけではなく、企業経営者の所得にも同様の効果が及ぶと考えら
れます。輸出関連企業の収益状況が落ちると、当然、企業業績に応じて得られる経営
者の所得の伸びにもマイナスの影響が出ると予想されるからです。

 次に経済的価値のストック面です。米国経済が本格的な調整局面を迎える場合には、
株式などの金融資産の価格が下落する可能性が高まります。米国の株式市場が軟調な
展開になると、そうした動きは世界の主要市場に伝播する可能性は高まります。その
ため米国経済の後退は、世界的な株価下落につながることが想定されます。それは、
昨年夏、米国のサブプライム問題の顕在化後における株式市場の展開を見ても明らか
でしょう。

 一般的に富裕層の方が多くの経済的価値を保蔵していると考えられます。株価が下
落すると、保有している株式の含み益は減少、あるいは含み損が発生することになり
ます。そうした状況下では、よほど上手くオペレーションをしていない限り、保有額
の大きい経済主体ほど、経済的な価値を失うことになるはずです。富裕層ほど、経済
的なマイナスの影響を受けることになることでしょう。

 一方、株式などの金融資産の保有額の少ない層では、金融資産の価格変動の影響を
受けにくいと考えられます。元々、金融資産保有の絶対額が小さいわけですから、そ
こから発生する経済価値の減少分は少ないことになります。結果的に、米国経済の減
速によって、金融資産の価格が下落傾向を示すと、お金持ちの資産は目減りする一方、
元々、資産保有の少ない層への影響は軽微であるため、経済的価値で計った格差が減
少することが考えられます。

 こうした傾向は、一般的な消費行動にも見ることが出来ます。株価の推移と高額商
品の売れ行きには、相対的に強い相関があるといわれています。株式が堅調に推移し
ている間は、宝飾品などの高額商品の売れ行きがよい一方、株式市場が変調を来たす
と、それらの商品の売行きは下落することが多いといわれています。その背景には、
株価の下落による“負の資産効果”によって、富裕層の購買意欲を減殺することがあ
るようです。これも、経済価値のストックの変動による、経済的格差に対する影響と
考えられるでしょう。

  信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 水牛健太郎 :評論家、会社員

 まず原則的なことを言うと、ある国の経済の縮小から他の国の経済が利益を得るこ
とはありません。経済は相互利益のシステムであり、国際貿易は、お互いに利益があ
るからこそ成立しています。国と国との間の交易関係は、必ず両国にプラスをもたら
します。これは、国際経済学の最も基本的な考え方です。アメリカの経済が縮小する
ことは、この相互利益の機会が縮小することを意味するわけで、日本経済全体として
は必ずマイナスになると言っていいと思います。

 事実、アメリカは巨大な消費市場であり、また投資市場でもあります。そこから日
本経済は大きな利益を得ています。それが縮小するわけですから、マイナスの影響は
避けられません。ご質問にあるように富裕層、中間層、困窮層と分けて考える場合に
は、真壁先生がお書きになっているように、そのマイナスの大きさは富裕な層ほど大
きくなるでしょう。困窮層に関して言えば、短期的にはプラスになることもあるかも
しれません。

 困窮層は資産がないので、アメリカの投資市場の不調の影響を、短期的には受けな
いと考えられます。一方でアメリカのリセッションは、物価についてはデフレ要因に
なります。最大の消費市場であるアメリカの消費規模が小さくなるため、様々な物資
の需要が小さくなり、国際価格の押し下げ要因になります。またドルに対して円高に
なり、アメリカからの輸入品である食料品などの価格が円換算で下がるでしょう。現
在、物価は上がり気味であり、アメリカのリセッションによるデフレ圧力がそれを上
回るかどうかはわかりませんが、少なくとも物価上昇を和らげる効果はあると思いま
す。こうした物価、特に食料品価格の安定からは、すべての層が利益を受けますが、
生活に余裕のない困窮層は、利益をより大きく感じると思います。

 しかし、こうしたプラスもあくまで短期的なものであり、また富裕層と比べた場合
に、相対的に利益を得る可能性があるというに留まると思います。アメリカ経済の縮
小により、日本経済全体がマイナスの影響にさらされるので、結局は困窮層も失業な
ど何らかの形で損失を被る可能性が高いと思います。

 アメリカは言うまでもなく覇権国であり、アメリカ経済は世界最大の経済として、
世界を引っ張ってきました。しかし、現在の経済状況、特にドルの低落ぶりを見ると、
アメリカ経済の長期的な衰退の可能性を真剣に考えるべき時期に来ていると思います。
もちろん、今回のリセッションの原因であるサブプライム問題はやがて解決され、遅
かれ早かれ再び好景気に向かうでしょう。しかし、景気循環を繰り返しながら、少し
ずつアメリカ経済が活力を失い、ドルが下がっていく可能性はあると思います。次期
大統領の政策など、政治的な要因によって左右される面も大きいですし、また、必ず
そうなるというものでもないのですが、数十年から百年の単位で考えるならば、かな
り現実的なシナリオの一つだと思います。

 アメリカ経済が衰退した時に、日本経済はどのようにして独自の活力を維持してい
くのか。今回のリセッションは、アメリカ経済の長期的な衰退の可能性に思いをはせ、
アメリカへの輸出やアメリカへの投資、またアメリカからの投資にあまりにも多くを
頼っている現在の日本経済の問題を考えるいい機会と思います。

    評論家、会社員:水牛健太郎

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 メリルリンチのニューヨーク本社のエコノミストは、米国経済に対して以前から慎
重な予想をしており、今年初めから米国経済がリセッション入りしたと考えています。
実質GDP成長率は第1四半期から第3四半期までマイナス成長が続き、2008年
の実質GDP成長率は0.7%にとどまり、2009年の成長率も1.0%と回復力
が弱いと予想しています。FF金利は現在の3%から今年末に1%まで引き下げられ
ると予想しています。

 米国経済がリセッション入りすれば、ほとんどの日本国民は困るでしょう。恩恵を
受けるのは、一部の輸入業者や国債保有者程度でしょう。米国経済が失速すれば、円
高ドル安になる可能性が高く、米国製品の輸入コストが安くなりますが、米国経済の
失速や円高で、日本経済も失速すれば、日本で物が売れなくなりますので、輸入業者
も安泰でいられません。景気減速や円高で、日本の10年国債利回りは昨夏の2%弱
から、今年1月には1.3%まで低下しました(即ち、国債価格は上昇)。国債運用
に依存している機関投資家や個人は、国債値上がりの恩恵を受けたでしょうが、利回
り低下は将来の利息収入の減少につながります。

 日本国民への影響は、どんな階層(富裕層、中間層、低所得層)に属しているかと
いうよりも、どんな産業で働いているか、どんな資産をもっているかに依存するで
しょう。米国市場依存度が高い輸出産業であれば、トヨタの従業員から、ネジなどを
輸出している町工場の労働者まで、米国経済失速から打撃を受けます。逆に、米国製
品を輸入している会社は、医療機器を輸入する大企業から、雑貨・日用品を輸入する
個人事業主まで恩恵を受けるでしょう。米国経済の失速で在庫処分が起こり、安く製
品を販売してもらえるかもしれません。産業に対する影響では、輸出企業に大企業が
多く、内需企業に中小企業が多いことを鑑みると、輸出産業に多い高所得者の方が低
所得層より、米国経済失速の悪影響が大きいでしょう。

 保有資産への影響でも、富裕層の方が外国株などに分散したポートフォリオをもっ
ている一方、低所得層は貯蓄すら保有していない家計が最近増えていますので、富裕
層ほど米国経済失速の悪影響が大きいでしょう。富裕層でも空売り比率がヘッジファ
ンドなどに投資していれば、世界的な株価急落から利益を得られたでしょうが、多く
の投資家のポートフォリオはロングバイアスがかかっていますので、悪影響の方が大
きかったと推測されます。

 今回の場合、米国の不動産価格の下落から、世界的にREIT(不動産投資信託)
が急落して、地価下落は日本にも波及してきていますので、不動産やREIT保有比
率が高い富裕層は打撃を受けたでしょう。逆に、商業用不動産が下落したら買いたい
と考えていたプライベートエクイティや不動産ファンド、住宅が下落したら自宅を購
入しようと思っていた個人には、今回の不況による不動産価格の下落は良い買い場に
みえるかもしれません。

 株式にせよ、不動産にせよ、外国人投資家の売買比率が高まり、世界の資産価格の
連動性が高まっていますので、リスク資産をもっている人々は、急落から逃げる手段
をみつけるのが難しくなっています。そんな中で、急騰したのが金です。インド、中
国、中東などで金保有が増えている一方、日本の個人は、金価格上昇で金を利食った
人も少なくなかったようです。商品や中国に強気である一方、米国経済やドルを見
切って、シンガポールへ移住した有名投資家のジムロジャーズ氏のように振舞えた人
が、今のところの投資の勝者といえるでしょう。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部准教授

 サブプライム問題に端を発して、債券価格を除く株価などの資産価格の下落が世界
的に起っているようですが、これらがどこまでファンダメンタルズを反映したものか
は、現時点では必ずしも自明ではないように思われます。とはいえ、日本国民への影
響は、こうした資産価格の下落がどれだけファンダメンタルズを反映したものか次第
で、変わってくると考えます。

 もし日本で目下起っている株価などの資産価格の下落がファンダメンタルズを反映
したものならば、日本経済の先行きは全般的に悪いものといえ、それぞれの層で程度
の差はあれ所得や資産の減少にやがて直面することになるでしょう。株価の下落が日
本企業のファンダメンタルズを反映していれば、明らかに日本企業に勤める労働者の
給与が増えることは期待できず、正社員に代表される中間層のみならず、フリーター
に代表される困窮層にもその悪影響が直撃するでしょう。さらに、資産価格の下落に
より、富裕層は資産価値の減少に直面します。いずれにせよ、この場合、サブプライ
ム問題は単に引き金にすぎず、そもそも日本企業に地力がなかったわけですから、日
本企業が生み出す労働所得や資本所得は増えず、その悪影響がいずれの層にも襲うこ
とになると考えられます。

 他方、日本で目下起っている株価などの資産価格の下落がファンダメンタルズを反
映したものではないならば、影響の波及は変わってきます。この場合、日本企業には
実は地力があるというわけですから、目下の株価等の下落は一時的なものにすぎない
でしょう。とはいえ、日本企業がサブプライム問題に端を発して急回復して世界を席
巻するほどの勢いがあるわけでもないので、日本国民のそれぞれの層が急によくなる
というわけではないでしょう。

 ただ、これまで好調だった欧米経済、欧米企業に比べて、相対的にパフォーマンス
が悪かった(収益率が低かった)日本企業が多かったという状態は、様相が変わるで
しょう。この場合、サブプライム問題に端を発して、欧米企業のパフォーマンスが悪
化することで、日本企業のパフォーマンスは相対的に悪く見えなくなる、といえます。
別の言い方をすれば、多少収益率が低い日本企業でも、世界的に見ればまだましな企
業に見えるようになる、ということはありえます。

 もしその効果が強くなれば、ファンダメンタルズを反映したものではない日本の株
価下落がその割安感を強め、ジャパンパッシングの度合いは和らぎ、日本企業への投
資が増えるかもしれません。そうなったとき、これまで低金利政策によって温存され
てきた、多少収益率が低い日本企業でも、低迷脱却の好機が訪れるかもしれません。
もちろん、生産性向上や外資等を積極導入して経営健全化の努力なしに好機を活かせ
るはずはありませんし、ゾンビ企業が何の新陳代謝もしなければ今般の出来事は単な
る延命に堕するだけです。新興国のみならず、欧米企業までも好調だったときには見
向きもされませんでしたが、サブプライム問題を機に欧米企業の低迷で相対的に悪く
なくないと見えるようになる日本企業にとって、投資先として少しでも魅力ある企業
として万難を排して再起を期すならば、収益改善の「最後のチャンス」かもしれませ
ん。これが相当数の企業で実現できれば、富裕層、中間層のみならず、困窮層にも所
得増加の好影響が及ぶ可能性があると思われます(とはいえ、さほど容易なことでは
ないでしょうが)。

 いずれにせよ、サブプライム問題の影響が我が国の実体経済に本格的に及ぶ前に、
我が国における生産性向上や世代交代などの経営改善といった努力を早急に行えば、
サブプライム問題に一喜一憂しなくてすむといえるでしょう。

                    慶應義塾大学経済学部准教授:土居丈朗
                  <http://www.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/>

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 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 昨年から今年にかけて、世界経済で注目を集めたテーマが米国経済と世界経済の
「デカップリング」と「リカップリング」でした。「昨年のテーマ」であったデカッ
プリング論については、世界経済における米国経済の影響度が一定の範囲で低下して
きたことは事実といえるでしょう。背景としては指摘されるように、ユーロの対ドル
での通貨上昇によるユーロ圏の名目値での経済規模拡大と、実質的な購買力平価ベー
スでの新成長国経済の拡大によるものであり、特に後者の新成長国経済の購買力平価
ベースでの経済規模はほぼ世界経済のおよそ半分を占めるに至っています。従って、
世界経済が「従来の米国一極集中型から、欧州、新成長国など多数の牽引役が存在感
を強める多極化の時代に向かっている」との認識は長期的な観点からはおそらく間違
いの無いところでしょう。

 一方で、世界経済における米国経済のシェア低下にもかかわらず、米国経済の動向
が世界経済に与える影響度は必ずしも低下していない、という主張がリカップリング
論です。その論拠は、「米国経済が世界経済に占める大きさが依然として無視しえな
い」という要因だけではありません。むしろ、米国経済が約9千億ドルに達する巨額
の経常収支赤字を通じて超過需要を世界経済にほぼ一手に提供してきたという事実に
よるものであり、結果的に米国の過剰消費体質が世界経済を牽引してきたとの認識に
基づきます。

 従いまして、設問での「米国経済における景気後退の影響」とは、かなりの部分ま
で、日本の国内経済の景気後退による国民各層への影響、と読み替えることができま
す。景気の変動などによって、例えば、勤労者の中では相対的に弱い立場に立つ非正
規雇用者の場合は、賞与などの業績連動の報酬制度がないことから景気の変動による
収入の変動は少ない一方で、雇用需要の後退による人員整理などによって一部に大き
なシワ寄せが及ぶことになります。

 中間層は定義にもよりますが、一般的な正規雇用者の層については、人員整理など
雇用に影響が出るにはまだ時間差がありそうです。その前に、給与・賞与などを通じ
た影響を幅広く負担することになりますが、その程度もそれほど過激なものではない
でしょう。

 むしろ、比較的所得に恵まれた勤労者層、典型的には外資系金融機関の社員などは、
報酬も雇用も大きく影響(他人事ではありませんが、ボーナスの大幅カットや解雇な
ど)を受けるでしょうが、これはある意味では覚悟の上でしょうから仕方ありません。

 また、米国経済が巨額の経常収支赤字を計上しているということは、同時に、海外
から赤字に見合った巨額の資本を受け入れていることを意味しています。従って、も
う一つの影響の経路として、米国経済の景気後退が米国株式市場の低迷や信用市場の
悪化に加えて通貨下落などを通じて海外投資家に損失を与えることも意味します。さ
らには、海外市場への影響の波及も不可避でしょう。

 この場合の各層への影響としては、金融資産の保有比率が高い層、すなわち住居以
外の実物資産を保有しない中間層が最も影響を受ける可能性があります。投資に当
たっては、それぞれの保有する資産の額や将来の生活支出の必要額についての見通し
などから、リスクの許容度を把握することが重要であることは言うまでもありません。
一方で、国内・海外の株式・債券などの金融資産への投資は貴重なリスク分散の機会
であり、長期的な視点から冷静に対応していただきたいと思います。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 今年、米国がリセッションに入るかどうか、またそれがどこまで続くかについては
諸説あるようです。ただ、リセッションに入り成長が止まったとなると、これまで米
国が世界経済を牽引してきただけに、影響はかなり大きくなると思われます。

 中国やロシアといったBRICs諸国の成長が、減った分の成長をある程度おぎな
うことを期待されています。しかし、米国が世界経済に占める割合はまだ大きく、経
済規模としては日本と中国を足して2倍したぐらいですから、いくらBRICsが頑
張るといっても生半可ものでは足りないはずです。グローバル化が進み新興国もアメ
リカ向けの輸出に依存している部分があるので、これらの国の内需がどれだけ盛り上
がるかどうかが世界景気の鍵となりそうです。

 日本の輸出企業に即して言い直せば、米国向けの売上の伸びが期待できなくなり、
その分のBRICsや欧州への輸出でどこまで売上が支えられるかどうかが、200
8年度の増収増益の分かれ目です。

 米国はリセッションの危機に瀕して急速に利下げを行ったことから、円高に向かっ
ています。輸出企業は、現地での需要減少に加えてドル安分売上が減少するというダ
ブルパンチに見舞われるということになります。

 アメリカからの外需が他の地域からのものか国内需要で置き換わらない限り、日本
の景気後退も大いにありえる話です。

 金融市場では、米株価は米国のリセッション入りを読んで大きく調整し、その余波
を受けて日本の株価はそれ以上に下がっています。不動産価格も調整をしているよう
です。

 富裕層を資産を多く保有している層ととらえると、この層は資産価格の値下がりの
影響を受けるでしょう。ただ、もともと持っている円資産の購買力は円高により大き
くなりますので、海外での消費生活はしやすくなるかも知れません。貧困層はもとも
と資産を保有していないので、この面での影響は少ないと考えられます。

 富裕層を、新興のIT長者だとか外資系の金融機関に勤める高給取というふうにと
らえるのなら、証券市場や不動産バブルが弾けたことによる、最も直接的な影響をう
けるのは、この層であるということになります。サブプライムの損失でボーナスの原
資が大きく減ったはずです。

 中間層を都市に住み、輸出型の製造業に勤めるサラリーマンといったようにイメー
ジすると、彼らは勤める会社の業績の悪化の可能性におびえることになりそうです。
これまでの業績が回復する局面では、労働にたいする成果の配分は後回しにされまし
たが、業績悪化が予想されるなか、賃金上昇は難しい情勢です。

 困窮層のイメージは、資産の蓄えがなく派遣契約といった限界的な雇用形態で働い
ている勤労者といったところでしょうか。資産価格の崩壊の影響からはまぬがれます
が、もともと何かあったときのリスクのバッファーがないという脆弱な状況のなかで、
リセッションになったときの企業の生産調整で真っ先に首になることになります。生
活の糧をすぐ失うと言う意味で、かなり悲惨な立場です。

 困窮層として財産のない高齢者を想定すると、年金収入のない場合、リセッション
で限界的な雇用さえも維持できなくなれば状況はさらに悲惨ですが、確定した年金収
入があれば、その分の価値は上がりますから、リセッションでは社会の中での相対的
な購買力は上昇することでしょう。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 いわゆる「サブプライム問題」は、金融機関の損失懸念を中心とする第一段階から、
アメリカの不動産価格下落が景気に及ぼす悪影響を見極める第二段階に移行しつつあ
るように見えます。アメリカの景気悪化がどの程度のものになるかは、現在、経済・
市場の関係者の関心の中心と言っていいテーマの一つですが、たとえばアメリカが本
格的なリセッション(景気後退)に入るようなケースの影響について考えてみましょ
う。

 富裕・中間・困窮の各層をどのように分類するかは難しい問題ですが、働かなくて
も資産からの収益で中間層並み以上の生活が出来る層を富裕層、生活のために働かな
ければならないが子供を大学に通わせることが心配なくできる程度以上の生活をして
いる層を中間層、家族が生きていくだけで精一杯の生活をしている層を困窮層、と考
えておきましょう。

 アメリカで景気後退は、(1)資産価格、(2)給与・賞与などの所得、(3)雇
用、(4)物価、(5)為替レート、の主に5つの経路から、個人の生活に影響を与
えるでしょう。

 株価は既に下落していますし、不動産価格も昨年5月に東証REIT指数がピーク
を打ってからざっと4割程度下落していることからも分かるように都心のオフィス、
マンションなどこれまでの価格上昇のプライス・リーダーだった物件の価格が下落に
転じてきました。アメリカがリセッションに入ると、株価と不動産価格はさらに下落
することになるでしょう。株価から推測すると(注;益利回り+成長率=金利+リス
クプレミアムという関係を使って幾つか仮定を置いて推測しています)、現在、市場
は政府見通しの名目2.1%成長(実質は2.0%)ではなく、1%割れの成長率を
織り込んでいる感じですが、マイナス成長を想定したところまで下がっているように
は見えません。アメリカが本格的な景気後退に陥ると、株価は現状からさらに下落す
ると考えるのが妥当でしょう。

 持っている資産によって様々でしょうが富裕層の所有する資産の価値下落はかなり
大きなものになるはずです。影響の「深刻さ」を加味しない「大きさ」のレベルで
は、全ての影響を総合すると富裕層に対する影響が一番大きいかも知れません。

 給与・賞与などの勤労収入でどのくらいの影響があるかは、稼ぎの形態や勤め人の
場合は勤め先制度によって、かなり違いがありそうです。特に中間層では、外資系の
金融マンのようなボーナス収入の変動が大きいグループと、安定した給与体系を持つ
組織に勤務する人とでは、受ける影響がかなり違うでしょう。

 ちなみに、転職事情などで見る限り、外資系の金融マンはいわゆるセルサイド(証
券会社)は昨年の秋くらいから軒並み人材採用の凍結が行われていて、雇用事情の悪
化が始まっていて、投資信託の売れ行きの鈍化などからこれが昨年末くらいにはバイ
サイド(運用業務に関わる会社)にも波及して来ましたし、新規採用の停止ばかりで
なく、積極的なリストラ(要は解雇)が始まりつつあるようで、もともとの生活コス
トの高い金融マンがリストラされて、大いに困っている(家賃支払いが苦しい、引っ
越しが必要、子供の私立学校の学費が重荷である、今年は住民税が払えるか心配だ、
さらに不動産や金融商品への借り入れを伴う投資で損をしている、等々)といった事
例を聞くようになってきました。

 雇用という点では、もともと企業が非正規雇用の労働者を使う大きな理由は不要に
なったときの整理のしやすさなので、景気後退が本格化すると、生活困窮者層で職を
失って困窮の度を深める人の数が増えそうです。有効求人倍率は昨年11月からまた
1倍を下回るようになりましたが、アメリカがリセッションになると、日本の失業率
も上昇に転じることになるでしょう。昨年までバブル期並みの絶好調だった新卒学生
の就職事情も様変わりするかも知れません。

 生活に及ぶ影響の「深刻さ」という点では、現在既に生活が困窮している層の経済
的条件悪化が間違いなく最も深刻でしょうし、同じ層の中の個人間の深刻さの大小差
は、主として個人が持っている雇用の安定性の大小によるでしょう。

 物価や為替レートによっても生活は影響されます。アメリカが本格的なリセッショ
ンに入ると、物価は再び下落してデフレに、為替レートは円高に、という変化が想定
されます。これらは、雇用が不安定だったり、輸出依存度の高い企業の関係者(従業
員、経営者、株主)だったりする人々にとって不利に働きますが、安定した雇用と収
入を持っている人にとっては、購買力の増加をもたらすので、却って好都合だという
違いがあります。

 このように考えると、実は、公務員がサブプライム問題の悪化に対して徹底的に強
い事が分かります。雇用と給料は制度的に安泰なので、不動産価格の下落は却って家
の取得を容易にするくらいのものですし、物価の下落や円高も購買力の増価を意味し
ますし、何よりも、今まで好調だった民間企業の関係者の所得と資産価値が下がるの
で彼らとの相対比較が一段と改善します。サブプライム問題の深刻化を喜ぶところま
で人が悪くないとしても、これに対して最も危機感を持たないグループは公務員だろ
うということが見えてきます。なるほど、政府に危機感が乏しい訳です。

 では、彼らがどの層に属するのかですが、現状では「中間層」の中から上、この調
子で二代続けば子や孫の代には「富裕層」入りも夢ではないのではないか、というの
が目下の形勢ではないでしょうか。私は、自分の子供に公務員にはなって欲しくない
と思っていますが、子供の生活の安定を思うなら、考え方を変えるべきなのかも知れ
ません。
 
              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 <http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 アメリカ経済は、最近発表される経済指標から判断すると、今回のサブプライム問
題の影響により、景気後退(リセッション)に入る可能性が高くなっています。すで
に入っているかもしれませんが、今後発表されるGDPが二期連続のマイナスになる
かどうかで確認することになります。

 さて、アメリカ経済がもし本当に失速し、縮小に向かっているとするならば、日本
がバブル崩壊後のデフレ状況のなか小泉改革のもとで輸出主導型経済構造を強めてき
ただけに、その悪影響は大きいといえます。特に、アメリカで住宅投資の急減速から、
資金循環、生産活動の低下、雇用の悪化を通じて経済の1割強を占める民間設備投資、
そして7割を占める個人消費が伸び悩むと、日本の輸出は相当厳しいものとなります
(最近の日本の輸出企業の業績発表をみると、売上や利益が予想に達しなかったり、
マイナスになったりしているのは、アメリカ経済の減速を反映しているようです。加
えて、円高の進行もあります)。その結果、日本国民の各層は大なり小なりの影響を
受けることになります。

 もちろん、今の日本の輸出先は、アメリカ中心ではありません。むしろアジアの
ウェイトが全体の半分ほど、中国だけでも15%強を占めています。アメリカ経済が
駄目でも中国などの新興国の経済があるというデカップリング論も一理あるように見
えます。しかし、中国を含めたアジアにしても、依然個人消費などの内需の足腰は弱
く、アメリカへの輸出中心に経済成長していますから、アメリカ経済が失速すること
になれば、そうした国々の経済も貿易低迷を通じて悪化する恐れが高いといえます。
その他の急激な経済成長をしてきている新興国の経済も同様です。

 つまり、アメリカ経済の失速が現実となれば、世界貿易の伸び悩み、低迷から、こ
れまで高成長してきた中国やアジアその他の新興国の経済、また世界経済の堅調な成
長のもとで急発展してきた資源国の経済も低成長を余儀なくされるものと思います。
あるいはアメリカ依存があまり大きくなかったヨーロッパの経済も、世界の貿易およ
び経済の減速による影響を受けるとともにサブプライムローンを組み込んだ金融商品
による金融機関の損失で資金の流れが変調することになって、これまでの堅調さを失
い、伸び悩むことになるといえましょう。

 アメリカ経済の失速による世界経済の減速が進めば、日本の輸出企業の成長シナリ
オが崩れることになって、日本の経済成長がストップし、景気後退に向かうことにな
ります。そして、日本の輸出企業の業績が悪化すれば、企業(主に輸出企業)の成長
拡大により中小・零細企業や個人にもその恩恵が広がっていくという日本の成長路線
(そもそも企業から個人への成長の分配自体がうまくいっていません)が破たんする
ことになります。

 その結果、これまで耐えてきた中小・零細企業や個人は、いざなぎ景気を超えたと
いわれる今回の長期景気拡大の恩恵を受けることなく、再び景気後退による所得減で
一段と苦しい状況に追い込まれることになります。特に、そのなかでもその日の生活
がやっとの個人は、低所得者層であり、困窮層といえましょう。こうした困窮層は、
収入が伸び悩んで経営の苦しい中小・零細企業の経営者や雇用者、そして多くの契約
・派遣社員などの非正規雇用者、あるいはフリーターなどが考えられます。

 彼らは、今後企業の業績悪化が現実となれば、大企業からの発注がなくなったり、
消費が伸び悩んで収入が減少したり、あるいは雇用の打ち切りにあったり、雇用機会
そのものがなくなったりして、さらに厳しい環境に陥ることになります。しかも最近
は、65歳以上の高齢者でも、年金だけでは生活できない人が増えているといわれま
す。こうした困窮層は、貯蓄が全くないか、あっても少額なのに、農産物やエネルギ
ーなどの価格上昇による食料品や電気・ガスなどの値上げで生活費負担増が加わりま
すから、一段と困窮の度合いを深めることになります。それは、増加傾向にある生活
保護世帯が一段と増えることになるのかもしれません。

 また、中間層は、どちらかというと、輸出などで好調な企業や内需でもある程度業
績を維持している企業に勤めるサラリーマンやOLなどの正社員ということになりま
しょう(彼らをどう規定するか難しいところですが、フロー所得が年収300万円〜
2000万円ぐらいで、貯蓄が平均の1000万円強、多くても数千万円でしょう
か)。アメリカ経済の失速による世界経済の減速で輸出が伸び悩めば、輸出企業の業
績悪化が予想され、そうした企業の正社員は今年期待していた2%ぐらいの賃上げが
消え、今後のボーナスが減額されることもありえます。そして、内需関連企業の収益
も消費の減少で一段と悪化するのが大半でしょうから、そうした企業の正社員も給与
やボーナスはカットされることになるかもしれません。

 そうして中間層も、所得の減少に見舞われ、加えて物価の上昇で生活費が増加する
ために貯蓄を取り崩すこともあったりして、以前より厳しい状況に直面すると思われ
ます。ましてやリストラされると、大幅な所得減になったり、職を失ったりして、い
つ困窮層に落ちるか、不安が付きまとうことも起こりえます。

 一方、フロー所得で年収が2000万円以上を富裕層(昨年の9月の国税庁調査で
約22万人ほど)というのか難しいところですが、彼らも中間層と同じく、景気減速
による企業業績の悪化で、年収が減り、不利益を蒙ることになります。特に、大企業
や輸出関連企業などの経営陣などは、これまでの業績好調時に多額の所得を得てきま
したが、もし減益や赤字転落となれば、株主の声もあって、大幅な所得減を受けなけ
ればならず、ましてクビになることもありえます(とはいっても、その時は多額の退
職金を受け取ることもあり、一概に悪くなるといえるか難しいところです)。

 そして、金融資産1億円以上の本当の富裕層は、こうした景気の変化で大きな影響
を受けるかもしれません。特に保有資産が株式の場合、最近の株価の下落で、大きな
痛手を受けているはずです。しかも、国内株式が中心であれば、サブプライム問題の
震源地であるアメリカに比べても株式の下落が大きいことから、富裕層から脱落する
人さえ出ているかもしれません。もちろん、富裕層は、分散投資をしている可能性が
あり、一概に言えません。とはいっても、海外投資しても円高などで資産は目減りし
ており、また債券投資や貯蓄でも金利が低水準であるため、今後一段と金融・株式市
場が低迷し、金融収入の目減りが見込まれれば、消費を抑制して、これまでの贅沢を
やめなければならないかもしれません。

(ただ、メリルリンチ証券のレポートでは、日本の多くの富裕層は、相続や所得が中
心で、積極的に投資することで増えた金融資産ではなく、また高年齢の富裕層比率が
高いことから、いずれ相続において税金で資産を取られることになり、富裕層は減っ
ていくのでしょう)

 結局、アメリカ経済の失速、縮小で世界経済が減速することになれば、日本の経済
成長も終わりを告げ、企業収益の悪化を通じて、企業に勤める正社員や非正規社員の
所得の減少に反映し、あるいは株価の下落などにより、各層の収入減につながってい
くかもしれません。しかも、世界経済の減速は、これまで円を借り、アメリカドルを
通じて日本より高い成長を見込んでアメリカをはじめヨーロッパ、新興国や資源国に
投資してきた資金が逆流することが起きて円高が演出されることになり、より企業収
益の悪化につながるかもしれません。その時は一層厳しい状況が待っているかもしれ
ません。とはいっても、経済格差は一向に緩和されるわけではなく、全体的に下方に
シフトし、さらに困窮層が拡大して一段と経済格差(貧富といってもいいかもしれま
せん)が広がる世界になるのではないでしょうか。

 最後に、これまで、私は最悪の状況について述べましたが、これから必ずこうなる
というわけではありません。ただ、日本は、道路特定財源問題や経済産業省高官の外
資・株式投資批判に見られるように内向きで、また構造改革を後退させて非効率な構
造を復活させています。またサブプライム問題をアメリカの内政問題と片付けて、こ
のまま政策の失敗が続けば、フィードバックしながら玉突きのようにスパイラル的に
悪い方向に向かっていく可能性がありえます。そのことにより、むしろ、欧米に比べ
て、景気後退は深刻になるかもしれません。それが、欧米や新興国の株式以上に、日
本株式の下落となって警告しているのではないでしょうか。

                             経済評論家:津田栄
                           
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
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