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JMM [Japan Mail Media]  金融市場への政府規制をどう考えるか
http://www.asyura2.com/08/hasan58/msg/950.html
投稿者 愚民党 日時 2008 年 10 月 14 日 12:54:45: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2008年10月13日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.501 Monday Edition
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▼INDEX▼

 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』

  ◆編集長から

  【Q:932】

   ◇回答(寄稿順)
    □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
    □中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
    □水牛健太郎 :評論家、会社員
    □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
    □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
    □三ツ谷誠  :三菱UFJ証券 投資銀行本部エグゼグティブディレクター
    □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
    □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部准教授
    □津田栄   :経済評論家
 
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 あの日本一の大投資家、竹田和平さんが、衝撃的なことを言っています。
「これから先四年、日本は冬の時代を迎えるかも知れないと思います」

 竹田さんは、四季報で確認できるだけでも上場企業 107社の大株主欄に名を連ねる
日本一の大投資家です。貧しい菓子職人の息子として生まれ、一代で大投資家の座に
駆け登った竹田さんが言うのですから、これは、ただごとではありません。

「今が分岐点だと思うんです」と竹田さん。では、この先の日本を、竹田さんはどう
見ているのか。どのようにすれば日本を救えるのでしょうか。
 政府には金融の崩壊を防ぐ力はないと竹田さんは言います。銀行にも不可能です。
なぜなら政府の金も銀行の金も、元をただせば、すべて国民の金なのですから。
 銀行も政府も、ただ国民からお金を預かっているだけの存在に過ぎないからです。

 では、私たち国民は、どのように生きれば幸せになれるのでしょうか。

 文春文庫の最新刊、『花のタネは真夏に播くな』が発売になりました。
      http://griot-mag.jp/c/abxvajjy4L84iyab
 これから大投資家を目指す人にも、大富豪になってからの生き方に悩んでいる人も
竹田さんの生き方と哲学の神髄は、きっと目からウロコだと思いますよ。
 竹田さんは言います。「これから、日本は劇的に変わりますよ」
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        ■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:932への回答ありがとうございました。先週は、金融危機がさらに深まり、
「恐慌」という言葉が使われるようになりました。本当に恐慌状態に陥るのか、それ
とも先進各国の協調的かつ理性的な対応が解決への糸口を見出すのか、現時点ではよ
くわかりません。ある国のGDPよりも、その国のある銀行の資産額のほうが大きい
というようなニュースを見ると、異和感とともに、不穏なものを感じます。日本のメ
ディアは、「この金融不安はわたしたちの暮らしにどのような影響を与えるのでしょ
うか」というような言い回しをよく使います。

 そういった表現には、歴史的に金融恐慌と経済破綻が戦争を誘発してきたというよ
うなニュアンスが皆無で、危機意識が感じられません。ただ、そうは言っても、現在
のような恐慌寸前の状況では、大変なことが起こるんだぞという脅しに陥ることな
く、現状を正確に平易に伝え、今後起こりうる事態のいくつかのパターンを伝えるの
は非常にむずかしいと思われます。いずれにしろ、人類は歴史から多くを学んでいる
はずだということを、これほど強く信じたいと感じるのは、はじめてかも知れませ
ん。将来的に起こるであろう真の危機を何とか回避するために、わたしたちは無知と
貧困からの脱却を果たしたのだと信じたい、そういう気持ちが日に日に強くなってい
ます。

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■次回の質問【Q:933】

 世界的な金融不安、信用収縮が続いています。今後、この金融の連鎖的な危機を、
実体経済は受け止めることができるのでしょうか。それとも金融恐慌に発展して実体
経済までが損傷・破壊されてしまうのでしょうか。

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                                  村上龍
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■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く 
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 ■Q:932

 バブル崩壊後に日本ではさまざまな市場の規制緩和が謳われました。現在アメリカ
では、金融市場に対する政府規制の必要性が、おもに民主党から指摘されているよう
です。今後、金融市場への政府規制を、基本的にどのように考えればいいのでしょう
か。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 金融市場における規制については、強化と緩和の繰り返しの歴史だったように思い
ます。金融市場の拡大、発展に伴い、市場の中では様々な活動が生まれました。新し
い活動が生み出された直後の段階では、そうした金融活動に関する一般の人々の関心
度合いが低いこともあり、殆ど規制なく、言ってみれば野放しの状態で活動を行うこ
とが多かったと考えられます。

 ところが、そうした金融活動に関する弊害が顕在化すると、次第に、政策当局が規
制の網をかけて、金融活動に一定の制限を加えることが多くなります。国際金融市場
で活動する銀行に、自己資本比率の規制をかけることによって、銀行が連鎖的に破綻
することを防ごうという動きは、そうした規制強化の一例だと思います。また、今回
の金融市場の混乱に際して、金融機関などの行動に一定の枠組みを当てはめる動き
も、そうした例の一つと考えられます。

 ただ、金融市場の規制に限らず、それ以外の政策当局の規制についても、強化と緩
和の動きを繰り返しているように思います。何故、そうしたサイクルが出来るかとい
えば、おそらく二つの理由があると思います。一つは、民間企業は、常に新しいビジ
ネスやそれに伴う手法を考案して来ました。ある意味では、そうしたイノベーション
は、企業が新しい収益源を見つけるためのダイナミズムの源泉とも考えられます。

 ビジネスのライフサイクルを考えると、新しいビジネス分野やビジネス手法が生成
され、次第にその新しいビジネスの収益性が高まると、新規参入者が当該分野に参入
することが予想されます。そうした参加者が増えると、当該分野は徐々にサチュレー
ション=飽和状態に向かうはずですから、長期間、創業者利得を維持することは難し
くなります。必然的に収益率も低下するはずです。

 そうすると、企業は新しい収益源を求めて、新ビジネスを指向することになるはず
です。新しいビジネスが生成された初期段階では、多くの場合、政策当局は規制の網
をかけることはせず、ビジネスの展開を注意深く見守ることになるのが一般的です。
ところが、そうしたビジネスや手法から、何らかの弊害が発生する場合には、政策当
局のスタンスは一変します。弊害の発生を防ぐ、あるいは弊害が発生する可能性を事
前に摘み取る行動を取ることになります。具体的には、規制を強化することになりま
す。

 一方、新しいビジネスの拡大に伴い、弊害の発生を防ぐための注意責任が重過ぎた
り、強化された規制があまりに企業の自由を奪ってしまうようなケースでは、規制の
内容を見直したり、規制の主旨を現実に近付ける行動が必要になります。それが顕在
化する状況が、規制緩和の動きということができると思います。特に、海外諸国との
規制の違いによって、わが国企業が競争上不利になるようなケースでは、規制を課す
当局も、比較的容易に規制緩和の動きに賛同することが多いと思います。

 今後も、規制に関するサイクルは、大きく変わることはないと思います。規制を課
す政策当局が分からないような、新しいビジネスやその手法はこれからも、絶えるこ
となく生成され、当該分野に収益チャンスがあると見れば、多くの新規参入者が入り
込むことでしょう。今回、欧米の金融機関が、レバレッジをかけて多額の証券化商品
に投資を行い、結果的に、それによって多額の損失を発生させ、金融市場を混乱させ
たようなことは、これからも起きると思います。

 最近、バブルという経済現象は、特別なことではないということが良く分かった気
がします。人間の心の中に、「多くの利益を上げたい」という欲望がある以上、バブ
ルは、規模の大小はあるものの、いつも、どこかに存在するものだと思います。そう
した人間の欲望は、時として、常識では考えられないような領域まで暴走することが
あります。それを、事後的に抑えるための規制ができ、それが行き過ぎたり、現実に
合わなくなると、規制の見直しや緩和が必要になるのでしょう。おそらく、そうした
循環はこれからも続くはずです。

  信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト

 規制緩和の目的は経済の活性化や市場の拡大です。経済が沈滞化している時に、経
済や市場を刺激するために規制緩和が叫ばれます。一方、エンロンのような会計ス
キャンダル、バブルを生み出す投機マネー、今回の米金融危機などが勃発すると、規
制強化の大合唱となります。規制は緩和と強化の繰り返しですが、基本的にはこれま
で世の中は規制緩和のトレンドになっていると思います。

 さて、規制についての考え方ですが、金融システム、市場を守るために絶対的に、
或いは根源的と言いますか、残すべき規制はあると思いますが、それ以外は原則的に
規制は緩和、ないし撤廃すべきであるというのが私の意見です。もちろん、規制を緩
和すれば、必ずこの機に乗じて過剰反応する、投機に走る人たちが出てきます。

 これら投機的な動きを防止する対策を事前に打ち立てておくのは容易ではありませ
ん。できる限り事前に対策を練り、しかし、それでも規制が緩和された後に不備が見
つかれば、速やかに修正を施すということで地道に対処するしか策はないと思いま
す。要は政府が怠慢にならないことです。

 今回の米金融危機を規制という視点で眺めますと、99年のグラス・スティーガル
法の改正が分岐点になったかと思われます。グラス・スティーガル法は33年銀行法
の16、20、21、32条を総称したもので、銀行業と証券業の兼業を禁止する内
容からなっています。

 銀行が証券業務を兼業すれば、仮に子会社の証券会社が巨額の損失を出した場合、
決済機能を有する銀行本体に波及して、金融システミック・リスクに進展する可能性
があります。また、子会社の証券会社を支援するために親会社の銀行が証券会社が引
き受けた証券の販売促進のために投資家に信用供与するなど不正の温床になりかねま
せん。

 しかし、レーガン政権以降の規制緩和の流れと銀行の収益性追求の動きから、つい
に99年金融制度改革法が成立して、銀行が持株会社形態、あるいは子会社を通して
証券業を営むことが可能となりました。大手米銀が簿外の投資会社であるSIVを組
成して、利益追求にひた走ったのも、この延長線上にあるかと想像します。

 きちんと金融監督当局が監督するので、銀行と証券の垣根を低くしても構わないと
の最終判断でグラス・スティーガル法の改正に動いたわけですが、今回の金融危機を
目の当たりにすると、これは決済機能に支障をきたす怖れある規制緩和であったと言
えます。根源的に超えてはならない一線だったのではないでしょうか。

 ただ、今回の金融危機を契機に規制緩和が全て悪であるかのような過剰反応に走る
のもどうかと思います。2004年の米証券取引委員会(SEC)が投資銀行規制を
緩和したおかげで、投資銀行がバランスシートを膨らませて、サブプライムローン問
題を手がつけられないくらい大きくしてしまったという批判もありますが、原資産が
サブプライムローンという怪しげなものでなく、もっと真面目なものなら、ここまで
はひどくならなかったでしょう。すべてを規制緩和のせいにするのには賛成できませ
ん。

 そもそも米金融危機は過剰流動性、証券化・金融工学の発展、金融機関のモラル低
下、そして規制緩和が複合的に絡み合って生じたものです。水源である肝心かなめの
マネーが膨張しなければ、ここまでモラル低下を誘導しなかったでしょうし、サブプ
ライムローン、合成債務担保証券(CDO)のような怪しげな金融複合商品のマー
ケットもそんなに拡大しなかったでしょう。

 市場参加者はあらゆる機会を見つけ、知恵を絞って利益拡大に動く獰猛な生き物で
すから、中央銀行がマネーを過剰に供与すれば、市場が破壊するまで暴走するリスク
はあります。日本のバブル、今回の米金融危機も同根です。現職中はマエストロと激
賞されたグリーンスパン元FRB議長の評価が退任後わずか2年で反転しつつあるの
は、致し方ないことかと思われます。

               伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也

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 ■ 水牛健太郎 :評論家、会社員

 今回の米金融市場のバブル崩壊を見ると、いくら最新の知識や技術で理論武装しよ
うと、常識的に見ておかしいことは続かないものだという思いを強くします。

 日本の1980年代後半の地価上昇では、日本列島の地価の合計額が広大なアメリ
カのそれの何倍に相当するというような話があって、今から見れば明らかにおかし
かったのですが、当時は、日本はいまに国際金融のセンターになって、とてつもない
オフィス需要が出るので、理論的にはこの地価でいいのだとか、色々な説明がありま
した。規制だらけで技術的にも遅れた当時の日本の金融が、どうして国際的な中心を
占めるなどと考えることができたのか、大体そこからしておかしいわけですが、みん
な催眠術にかかったようでした。

 歴史上有名な17世紀オランダのチューリップバブルも、球根一つが馬車や邸宅と
同じ値段だったと聞くと実に馬鹿馬鹿しく感じますが、バブルの渦中の人たちにとっ
てはちゃんと説明が付いた値段だったのでしょう。近年のアメリカの金融市場でも、
どんなに手が込んだ仕組みがあるにせよ、基本的にはお金を右から左に流しているに
過ぎない銀行や証券会社のトップが年に何百億円という報酬を受け取っていたのは異
常なことに違いありません。

 結局のところ、何らかの理由で過剰な流動性がある(お金が余っている)時、その
お金を何かに投資する理屈さえ付けば、たちどころにバブルが発生するというだけの
ことでしょう。いったんバブルが発生すれば、後はバブルと理屈が同時平行で膨張し
ていきます。

 だからもしバブルの渦中にあって健全な常識による規制が働くような仕組みを作れ
たら、バブルの発生と崩壊による経済の過剰な変動を防ぐことができ、金融界にとっ
てもかえってプラスになるかもしれません。しかし、実際にはそういう仕組みを作る
ことはできないと思います。

 経済は、言うまでもなくお金に体現された「価値」を増殖させるという人々の動機
をエンジンとして動いています。そして、そのように価値が増殖するということ自
体、人間の介在しない本来の自然の姿から考えれば、異常な部分を含んでいます。一
番自然と密着した産業と思われている農業にしても、自然そのままの状態から人間が
得られるものとは比較にならないほど大きな収穫を得るために、さまざまな技術を駆
使しています。水田一つとっても、本来の自然とはかけ離れた、極めて人工的なもの
です。

 そうした、元来異常な部分を含む経済活動の中で、どこまでが「正常」で、どこか
らが「異常な状態」なのか判断するのは極めて難しいと思います。「異常な状態」で
あっても、長く続いていくうちに完全に「正常」になってしまうこともよくありま
す。黄金色の稲穂が一面に揺れる秋の田園を見て異常な風景だと思う人はいないわけ
で、経済には新しい現実を作っていく働きがあります。新しい現実になる「異常」
と、結局異常のまま終わる「異常」と。その境目は、おそらく事後的にしか明らかに
ならないでしょう。

 そもそも市場が崩壊すること自体、「これは異常だ」という心理が一般的になった
ことを示しています。そうした判断を下す仕組みとしては、市場が最も多くの情報を
集め、効率的に判断を示すことができるものです。行政による規制が情報量や効率性
において市場を上回ることはできません。「常識」というものをシステム化すること
はできない、と言えます。あるいは、市場こそがまさに「常識」をシステム化したも
のであり、いかに不完全であってもそれ以上の仕組みは作れない、という言い方でも
いいかもしれません。

 ですので、市場に対して行政の規制が行われる場合も、バブルの発生や崩壊を防ぐ
目的ではなく、あくまでも社会的な価値を守るというのが唯一のよりどころだと思い
ます。市場自身が社会的な価値にのっとったものになっているかどうか、また社会的
な価値を侵食するようなことが行われていないか、ということです。

 例えば、市場の参加者の間に公平性が保たれているかどうか。インサイダー規制な
どがこれにあたります。また、脱税や詐欺、マネーロンダリングなど犯罪に当たる行
為が行われていないかどうか。これらは経済的な視点とは別の価値観による規制であ
り、それだけに市場がどのような状態であっても、普遍的に守られるべきルールだと
いえるでしょう。

 一方で、市場の公平性を守ることは、結果として情報の非対称性などを解消し、効
率性を高めます。また経験則からは、規制の対象になるような問題行為は市場の爛熟
期に多発するということが言えます。問題行為は市場の過熱を利用し、隠れ蓑にして
いることが多いためです。ですので、市場参加者にルールをきちんと守らせて健全性
を保つことは、結果として経済の過熱を防ぎ、市場を安定させることにつながるので
す。

                         評論家、会社員:水牛健太郎

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 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 金融業における取引の本質は、アービトラージ(裁定取引)にあるといえます。ア
ービトラージとは、狭義の意味では、「同種の性格を持つ資産の間で、割安な資産を
購入すると同時に、割高な資産の売却を行い、無リスクないし限定されたリスクで差
益を得る取引」を指します。広い意味では、「短期で調達した資金を、長期の貸付金
として運用する。」、「金融機関の持つ高い信用力で調達した資金を、信用力の低い
借り手への融資として運用する。」あるいは「小口の住宅ローン債権を購入し、証券
化商品として組成し販売する。」など、幅広い金融取引を含めて考えることが可能で
す。

 このような金融機関にとっての収益機会を担保しているのが、金融機関と顧客の間
での「情報の非対称性」の存在と、金融機関によるリスク管理です。従って、金融市
場への政府規制も、これらに焦点を当てて行われることになります。まず、前者につ
いては、金融機関が「情報の非対称性」を悪用して顧客に不利な取引を強いることが
ないように、金融当局は市場に規制を導入し、各金融機関の営業行為を監督します。
また、後者については、金融機関による取引の全てが必ずしも無リスクでの収益機会
を提供するものではない以上、各金融機関がそれらのリスクを分散して適切に管理し
た上で、損失に対して十分な資本によるバッファーを用意しているか、検査が行われ
ることになります。

 ここで重要な点として、こうした規制や制度などの存在も、金融機関にとっての重
要なアービトラージの対象であることが指摘されます。例えば、金融機関は、デリバ
ティブ取引などを含めた多様な取引形態のなかから、最も規制が少なく、かつ必要な
資本コストを最小化できる取引手法を選択します。また、現在の多くの金融機関が金
融コングロマリットの形態の傘下に銀行、ノンバンク、証券、保険など多様な業態を
持ち、さらにSPV(資産流動化のための特別目的子会社などの「器」を指しま
す。)などを利用するなかで、それぞれの金融取引について最小の資本コストで執行
可能な参入形態を選択することなどが行われています。

 通常、決済業務を担うなど最も安定した信用力が必要とされる銀行本体は、それゆ
え手厚い資本準備が求められるなど、リスクの高い資産や取引を維持するためには最
も資本コストが高い形態となります。従って、「規制の裁定」には、銀行本体からリ
スクの高い資産や取引を隔離する効果もあります。一方で、例えばSPVなどを利用
して銀行本体から隔離されたはずのリスクが、実際には、本体からSPVへの保証契
約などを通じてリスクが実態として一体となっている場合などもあります。総合的に
見て、資本コストの最小化を通じてレバレッジの上昇につながる誘因が勝っているの
が実状でしょう。

 金融機関の監督行政の観点からは、こうした「規制の裁定」の存在はいわゆるダブ
ル・ギアリングによって金融機関の健全性を損なうリスクを孕んでいるため、これを
回避する観点から、金融コングロマリット一体での監督・検査が行われるようになっ
ています。しかしながら、金融コングロマリット内部での取引は複雑で把握が容易で
ないとともに、新たな規制の導入が、より複雑な取引構造の導入につながるジレンマ
もあります。

 そこで、規制の強化よりも、むしろ実態の把握と開示を重視すべきとの考えもあり
ますが、現状は金融機関の経営実態開示を積極化する時期ではない、との意見も根強
いでしょう。金融機関が利用する「情報の非対称性」には、顧客側の財務状況につい
ては内部情報を含めた詳細な開示を取引の前提にする一方で、自身については公式の
開示資料の範囲で最小限に留める、といった情報格差の存在があります。こうした情
報の非対称性の存在については、金融当局なども是認する傾向にあるようです。

 現在の金融システムの危機を前にして、金融機関の経営実態開示を含めた政府規制
の強化については、その時機を失したとの反省と同時に、現在がその時機ではない、
とのジレンマがあります。ただし、公的資金による資本注入が、その契機となる可能
性は高いと思われます。

              外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 株式市場では信じられないような下落が起きています。20年の運用経験をお持ち
のベテランファンドマネージャーも、このような相場を経験したことがないとおっ
しゃっています。私も87年のブラックマンデー、97年のアジア危機、2001年
のITバブル崩壊などを証券市場で見てきましたが、現在のような相場を見たことが
ありません。日経平均は10日までの5営業日に20%強も下落しました。丸善本店
では、大恐慌関連の本コーナーが入り口の近くに設けられて、不安を煽るような本が
飛ぶように売れているようです。

 今回の金融危機を乗り切ろうとして、政府が行った最大の規制強化は空売り規制で
す。米国SEC(証券取引委員会)は9月19日に799の金融株を対象とする空売
り規制を発表し、21日には金融子会社をもつメーカーなど31銘柄も空売り規制リ
ストに加えました。英国の規制当局であるFSAも9月18日に32の金融株を対象
に、1月16日まで空売りを禁止する措置を発表しました。空売り規制は日本を除く
主要国に広がりました。日本が1998年と2002年に空売り規制を強化した時
に、欧米投資家から市場原理を無視した政府介入と批判されましたが、現在欧米に空
売り規制が広がっているのは皮肉です。しかし、日本の事例同様、今回の欧米の空売
り規制も株安を止める効果はありませんでした。

 現在の相場は売りが売りを呼ぶ展開で、2003年の日本の年金による代行返上売
りを彷彿させます。日本の株式市場の取引の6−7割は外国人投資家ですから、外国
人投資家から大量に売られたらひとたまりもありません。外国人投資家は9月に日本
株を5700億円売り越したのに続き、10月1週も3730億円売り越しました。
特に懸念されているのが、ヘッジファンドの資金償還や破綻懸念に伴う売り圧力で
す。空売りできるため、下げ相場にも強いと思われていたヘッジファンドのパフォー
マンスが大きく悪化しており、スポンサーからの資金引き上げに直面しているといわ
れています。欧米当局はヘッジファンドへの監督規制を強化しようとしていますが、
ヘッジファンドは解約という流動性問題に直面しているため、監督強化は株式市場の
助けになりません。

 今回、米国の投資銀行が破綻または大手商業銀行の傘下に入ることになりました。
晴天の日の投資銀行はレバレッジを巨額に膨らませました。投資銀行が商業銀行にな
ると、BIS規制が厳しくなりますが、トレーディング部門での自己資本規制を厳し
くする規制強化策が議論されています。

 8日に欧米中銀が協調利下げを行いましたが、日米株は急落し、米ドルの3カ月L
IBOLは逆に上昇しました。海外で求められる政策として、(1)グローバルな協
調利下げ、(2)米国が金融機関に早急に公的資金を注入、また財政刺激策を発表、
(3)グローバルな時価会計停止などが考えられてきました。今回(1)が満たされ
ましたが、効果はほとんどありませんでした。日銀がかつて行ったように、欧米中銀
がゼロ金利政策を採ることや、株式を買い取るような政策が必要なのかもしれませ
ん。金融機関同士が疑心暗鬼になって、資金を出さなくなっているため、金融機関の
さらなる資本増強や会計制度面での安心感も必要なのかもしれません。

 何らかの規制強化、即ち財政費用がかからない法制度の改正で、市場が安定化する
にこしたことはありませんが、市場は政府に大規模財政支出を要求するような抜本的
な対策を求めているようです。大恐慌再来を回避するために、世界の政府は規制強化
でない、財政・金融政策の総出動が求められるでしょう。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 三ツ谷誠  :三菱UFJ証券 投資銀行本部エグゼグティブディレクター

「市場を市場として機能させられなかったという意味での失敗」

 今回の危機は或る種の「市場の失敗」として、総括されるのだろうと思いますが、
たぶんアメリカと日本とではその失敗の意味するものが異なるだろうと予想します。
つまり、日本では文字通りの市場の失敗という理解になるでしょうが、アメリカにお
けるそれは、市場の不完全さによる市場の失敗、価格機構に委ねられない巨大な陥穽
を作り出してしまったその意味での失敗という理解が出て、それに対する反省が出て
くる筈です。

 ですから、たぶんアメリカにおける規制強化の議論については、1929年の大恐
慌後、1933年に証券法が、翌1934年に証券取引法が制定され、今では当たり
前のことに思われている監査制度が義務付けられたように、寧ろ市場を市場として機
能させなかった原因を取り除くタイプの議論が出てくるでしょう。

 規制強化というと、政府が金融を縛り、その監視のもとに置くという理解に陥りが
ちだと思いますし、今後出されるであろう民主党の主張にはそのような意味合いが色
濃く滲み出るだろうことは、その主義思想から明白だと思いますが、共和党保守が、
市場機構を重視するがゆえにbail out法に反対した、という選挙民の感情の議論だけ
ではない反対の理由を新聞報道で知った際、それは確かにそうだ、と納得した自分が
いました。(私は選挙対策的な人気取りであれば、それは或る種のモンロー主義だと
考えていたのですが、共和党保守の場合、確かに自由に対する脅威という受け止め方
がある訳です。)

 市場がその機能を十分に発揮しているという前提に立てば、変な形で政府が介在
し、本当は淘汰されるべき企業や経営陣を生きながらえさせることは、間違っている
という考え方はやはりあるだろうと思います。勿論、そのために耐え忍ぶ時期を人々
は持たねばなりませんし、その傷が深ければ、飢えて死のうとしている人々を前にし
てもなお自由は素晴らしい、市場は正しいと君は言えるのか、というようなケインズ
(だったと思いますが)の言葉にこそ妥当性はあるでしょう。

 しかし、その言葉は、神に対してすら人間の理性の優越を信じ、理性による経済の
統治を(共産主義ほど全てを人間が管理する思想には抗していたとは言え)なお信じ
ていたケインズであればこそ吐けた台詞なのではないか、と思います。政府が全能の
神のように、全ての経済的災害を防ぎえる主体であるなどと考えるのは愚かでしょ
う。政府のほうがもっと失敗するじゃないか、と言う話です。

 その意味では、たぶんアメリカの議論も、金融機関に対する一時避難的な公的資金
の介在という処置を行ったとしても、基本的にはあくまで市場機構・価格機構を発達
した金融技術とそれが生んだ新しい金融商品群に対して、働かせるのか、という一点
で、何がしかの開示を促し、価格を機能させる方向での規制を考えてくるのではない
か、と思います。

 実際、勘違いしてはいけないのは、今回の金融危機は、市場の失敗というよりは、
発行市場のみ存在し流通市場が存在しない世界で、価格機構が機能しないまま大量の
マネーを流通させてしまったことの失敗という側面が強いものであって、そこを勘違
いすることは危ういと感じます。

 しかしながら経験的にも、儲かるというのは、市場ではない場所で、情報が非対称
の度合いを激しく持つ状況があり、そこに付け込んで価格を操れるプレイヤーがいた
場合に発生しやすいと感じており(筆者もワラントのキャッチボールで実現した濡れ
手に泡のような世界を証券会社の営業の最前線で垣間見たことがありますが)、それ
は多数の参加者を得て、多数の異なる立場・価値観、叡智に晒されて決定される価格
に基づく資源配分の世界とはまるで異なる世界です。

 逆に異常な儲けが発生し始めた際、すぐに何が行われているのか、を検証し、統制
的に価格を決めるのではなく、流通市場かそれに類する機能を持つ仕組みを構築し、
太陽の光に影で蠢くものを晒すこと、それが必要になってくると感じます。

 ところで、この金融危機の深さには憂慮しています。ケインズから何かを汲み取る
とすれば、彼が勇気を持ち、人間の理性を信じ、危機に向かおうとしたその気魄かも
知れません。私自身は、人間の理性の限界を前提に、市場的なものに全てを委ねるこ
とを基本とすべきと寧ろ考える一人ですが、ロマン主義的に言えば、状況に拠って
は、人間は神とも闘わなければならないし、同胞の多くがこの激流に呑み込まれる可
能性を前にすれば、自分だけ丘の上で或いはノアの箱舟の上で、状況を眺めようとす
るよりは、自分のできる範囲でやれるだけのことをやるべきだろうと感じます。

 勿論、1929年と現在とではあらゆる条件は異なり、あくまで株価は影であっ
て、影が実態を本当に振り回せるのかどうか、冷静に考えれば、良い実験だとも思い
ますが、経済が人間の想像力によって未来から切り取られた現実であるとすれば、や
はり今回は大きな危機としか形容できないと思います。

      三菱UFJ証券 投資銀行本部エグゼグティブディレクター:三ツ谷誠

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 バブルは資本主義にはつき物といえます。今回のサブプライムのような本格的な破
裂ではなくても、経済のいくつかの局面では、(ミニ)バブルといわれるような状況
が出現しては消えていきます。日本経済全体の不動産・株の大バブルが90年を境に
はじけた後でも、不況からの回復期にIT関連企業やバイオ関連企業のIPOバブル
が出現し、ホリエモン等のバブル紳士の活躍は、まだ記憶に新しいものがあります。
デフレの底からの回復は、都心の不動産価格からはじまりましたが、今となってはバ
ブルのように思えますが、それでデフレの底から引き上げてもらったかの感がありま
す。

 今回のそもそもの発端となったと思われる、米国住宅市場のバブルも、グリーンス
パンをはじめとする金融当局者には、バブルの危険性の認識がなかったわけではない
ことが知られていますが、資本主義経済にはよく見られるミニバブルを経済ドライバ
ーのひとつとして上手く利用してやろうという意識が先にたったのだと思います。結
果的には、住宅を担保としたローンへの資金供給をとめることはありませんでした。

 住宅市場の事態は異常と指摘するエコノミストも多くいましたが、あらゆる情報を
熟知するグリーンスパンのような大権威が監視しているのだから、たぶん大丈夫なの
だろうと考えられていました。事態が許容範囲なら、市場経済への介入はなるべく控
えておこうという、ある意味で健全な常識が働いた結果かもしれません。

 今回のような大きなバブルがはじけ、FRB、SEC、財務省など政策当局は、社
会全体にこれだけリスクが広がっていたことに気がつかなかったことがあきらかにな
りました。当局の大失態ですので、巨額の公的資金が導入された後は、政策当局の裁
量的な規制に関しては、バブルの発生の可能性に関してはより注意深い対応となって
いくでしょう。

 しかし、当面は目の前の火の粉を振り払うのが急務で、場合によってはゼロ金利ま
での金融緩和、中央銀行による資金供給、時価会計規制の緩和など、あらゆる手段が
検討されていくものと思われます。不謹慎な言い方ですが、政策当局者はバブルをも
う一つ作りだしたいぐらいの気持ちなのではないでしょうか。

 投資銀行のリスク管理の問題に関しては、欠陥があったのは明らかなので、今後徹
底した規制強化・社内管理強化が進むのが当然だとおもいます。

 金融工学のテクニカル面では、数理モデルの前提が当てはまらない状況がたやすく
招来されることの認識とそれに基づいたリスク管理(ポジション構築)が再確認され
なければならないでしょう。

 今回の諸悪の根源であるかのように思われている金融商品のCDSなども、モデル
の前提も限界も理解している開発者たちは、こんな使われ方をして、この様な事態を
引き起こすことなどとは夢にも思わなかったにも違いありません。

 投資銀行の社員たちは、限界を知ってか知らずしてか、これらをつかってレバレッ
ジをかけ、投資家に売り込むことで莫大なボーナスを稼ぐことに血道をあげました。
投資銀行のインセンティブの体系が、リスクを管理すべきマネージメントも含めて同
じ方向を向いていたので、会社をあげてリスクの増大のドライブがかかってしまった
ことになりました。

 純粋な投資銀行は資金調達に行き詰まり、単独では立ち行かなくなりましたが、業
務としての投資銀行は生き残ると思いますので、インセンティブ体系には十分なメス
が入れられるべきだと思います。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 ここまでのところ、今回の金融危機では、金融システムの根幹に関わる大手銀行は
潰せないという判断が働いているようです。たとえば、AIGを政府が救済したのは
同社が保有するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を通じて銀行システム
に大きなダメージを与える可能性があったからでしょう。

 一方、銀行も私企業であることを考えると、本来は、どんなに大手の銀行であって
も、経営に失敗すれば通常の企業のように整理・清算されることがあるべきであっ
て、そうでない事例が重なると、銀行の経営者及び最終的には預金者にモラルハザー
ドを誘発することになるでしょう。

 一つの考え方は、金融業を公的な管理下に置くことでしょうが、これは金融業に於
けるイノベーションを阻害する要因になるでしょうし、金融の硬直性ないしは放漫経
営を通じて資源配分の歪みをもたらしそうです。金融業が私企業であり続けることを
前提に制度設計を考える方がいいでしょう。

 この場合、金融取引の単純化・透明化と、リスクの大きな業務、具体的には投資銀
行的な業務の大半を、銀行システムの中核から分離することの二つが必要だと思いま
す。

 たとえば、現在のデリバティブ取引では、多様な商品・契約に関して、金融機関が
当事者同士で取引することが可能ですが(いわゆる「OTCデリバティブ」)、こう
した取引は、金融機関自身におけるリスク把握を難しくすると同時に、株主や預金者
など金融機関に利害を持つ人が金融機関の真の経営状態やリスクを知る上で障害に
なっています。

 特に、銀行が利用する取引においては、取引内容をシンプルで本質的なものに規格
化して、クリアリングの仕組みを銀行の外部に作って、取引の信頼性を増すと共に、
一銀行の破綻が、他の銀行に波及しにくくなるような仕組みを作ることが有用ではな
いでしょうか。

 一方、今般の金融混乱を受けて、投資銀行が商業銀行に買収されたり、投資銀行自
身が銀行持株会社に衣替えするなど、投資銀行業務が大規模な銀行の中に取り込まれ
る動きが見られました(今や、全く銀行系ではない大手証券会社は日本の野村證券く
らいでしょう。同社の今後は金融関係者の注目を浴びているようです)。

 しかし、投資銀行部門が、商業銀行の信用力と預金という資金源を使って大きなリ
スクを取るようになる可能性を残すことは大変危険であるように思えます。投資銀行
業務の特徴は(1)レバレッジを効かせた投資と(2)投資リターンに基づく成功報
酬ですが、これは業務に関わる個人にとって、大きなリスクを取ることが得になるよ
うなインセンティブを持った仕組みであり、リスク拡大へのモチベーションがビルト
・インされています。

 また、投資銀行業務は、新しいパターンの商品・サービスを提供することによりラ
イバルに対する競争力を持つわけですから、この活動のリスクを常に正確に把握し管
理することは現実的ではありません。また、現在の米欧では、金融機関の経営者自身
も強い成功報酬制度の下にあり、大きなリスクを取ることが個人の利益になるような
構造にあります。

 リスクを取り、積極的に金融技術のイノベーションとその利用を目指す、投資銀行
業務は、商業銀行と一体であることが適当ではありません。現在進んでいる投資銀行
のユニバーサル・バンク化は、将来に向けて大きな危険を持ち越すことになるでしょ
う。

 投資銀行業務のうち、たとえば、シンプルな商品(たとえば外国為替)を除くトレ
ーディングや投資は独立したファンドとしてスピン・アウトすることが可能でしょう
し、M&Aの仲介のようなものも独立した会社にすることが可能でしょう。これらの
業務が、金融システムの根幹を担う銀行の内部にあって、銀行の信用と資金を内部の
資源として利用出来る形のままでは、過剰なリスクテイクが行われる可能性が絶えず
残ることになります。

 悪い例として、具体的な企業名を挙げることはいささか申し訳ないのですが、たと
えば、スイスの大手銀行UBSは、サブプライム問題で既に兆円単位の損失を計上し
ましたが、ユニバーサル・バンクが投資銀行を取り込んだ場合の弊害の典型的なサン
プルを示しています。

 一般に、完全な情報と自発性的意思に基づく取引は取引当事者双方の状態を改善し
ます。「規制」は、自発的取引を阻害することがありますが、一方、適切に設計され
た規制は、情報コストを節約したり、契約のコストを節約したりといった形で、経済
活動を改善することがあり、決して、全ての規制がいけないわけではありません。預
金、決済、為替、コマーシャル・ローンといったインフラとしての中核を担う金融機
関は、投資銀行的なリスクや複雑性と分離する方がいいのではないでしょうか。「い
ざとなったら潰せないけれども、何でも出来る巨大ユニバーサル・バンク」といった
制御の難しいものは、解体しておくべきではないでしょうか。過去20年くらいの内
外の金融業界(及び金融行政)の流れには逆行しますが、そう思います。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 ( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )

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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部准教授

 金融市場への政府規制の経済学的な1つの見方は、規制が金融市場におけるリスク
とリターンの配分を決める、ということです。つまり、金融市場で取引されているも
の(金融商品)に伴うリスクを誰が負ったり、誰と共有したりするか、そしてそのリ
ターンを誰が取るか、ということを、(商品設計や契約だけでなく)政府の規制が規
定する、ということです。規制は、良し悪しを不問に付せば、市場取引のルールの一
環を成します。

 完全情報で、市場が完備(取引したい全てのものが自由に取引できる場がある)
で、需要側も供給側も価格支配力がなく、私的所有権が確立している、といった条件
を満たす市場での均衡は、厚生経済学の基本定理より、パレート最適になることが示
されています。しかし、現実の市場はそれらの条件を満たしていません。それらの条
件を満たしていないことに伴う経済的損失が、市場取引を規制することによる経済的
損失よりも大きければ、規制を設けることが経済的に望ましいことがありえます。

 銀行に対する自己資本比率規制は、情報の非対称性などがあるために、不良債権の
ように経営を悪化させる内部情報を公表しないまま決済資金不足に陥るのを避けるた
めに設けられたものです。この規制により、銀行は返済能力が低い借り手に闇雲に貸
せなくなるので、その分経済全体では収益機会が失われる経済的損失がありますが、
この規制がないと銀行が過小資本に陥る可能性が高くなり、破綻する銀行が出てくる
(そして、その後連鎖的な経営破綻も起こりうる)という経済的損失があるので、そ
の経済的損失の多寡を推測すれば規制を設けた方が経済的に望ましいので、世界的に
自己資本比率規制が設けられているのです。こうして、市場の失敗が是正されるので
す。

 自己資本比率規制は、1980〜1990年代にかけての規制緩和の潮流の中で
も、逆に規制が強化された典型例です。経済学者は、能天気に何でも「規制緩和」を
唱えているわけではなく、市場の失敗を是正するのに役立つ規制は強化することも合
わせて主張しています(そう聞こえないとすれば、それは曲学阿世の論者がいるから
かマスコミが偏って報道しているかでしょう)。

 ただ、アメリカの経済学界及びそれとつながりがある政界との間での関係で言え
ば、保守とリベラルの2つに大別される、と言ってよいと考えます。レーガン政権以
降の共和党は、自由主義的発想が色濃いシカゴ学派やその主張に近い経済学者の見解
と一致することが多く、基本的には市場には規制に伴う悪影響(経済的損失)がまだ
まだ多いから規制はどしどし緩和すべきとの主張を唱え、そうした政策が実行される
傾向があります。他方、民主党は、マイノリティーの支持者が多いこともあり、所得
格差是正や自由な市場取引に伴う弊害の是正を強く唱える経済学者が論理面からのサ
ポートをしています。民主党が、今般、金融市場に対する規制の必要性を支持したの
も、これまでの立場と一貫性があります。

 どの党を支持するか旗幟を鮮明にする学者がアメリカでは多いですが、日本では少
数です(自民党政権のブレーンと目されている人でも、根っからの自民党支持者かど
うかは別)。その理由には、日本の政党(さらにはその背後にいる有権者)がアメリ
カの2大政党ほどに論理的に政治経済思想を整理できていないことがあると考えます。

 さて、規制が金融市場におけるリスクとリターンの配分を決める、という点です
が、規制が全くなければ、金融市場におけるリスクとリターンは取引当事者の完全な
自己責任になります。しかし、市場が完全でなければ、これを完全な自己責任とする
には理不尽・不合理だとして、規制によって、不公正な行為や不健全な経営を行った
者にリスクを負わせたり、健全な取引を行う者により多くリターンが渡るような仕組
みが設けられることがあります。ただ、過度に規制をかけると、既得権益が保護され
る場合が多いので、新規参入者を阻み、資源配分や所得分配に歪みを与えます。

 今般の金融危機における規制強化は、市場の失敗を是正するのに役立つものに限定
することが重要です。まかり間違うと、既得権益を過度に保護し、不健全な金融機関
や企業の退出を阻んだり遅らせたりして、経済全体の生産性を引き下げる結果になり
かねません。我が国の金融危機や不良債権処理の時にも経済学者が提起したように、
金融危機による悪影響を限定するとともに、不健全だったり収益性が低かったりする
金融機関や企業の退出を促すことも積極的に行うことで、早期に危機を克服できると
考えます。

                    慶應義塾大学経済学部准教授:土居丈朗
                  <http://www.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/>

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■ 津田栄   :経済評論家

 結論から言いますと、サブプライム(ローン)問題が拡大し、金融機関の経営不安
が現実化する中で、不安定さを増している金融市場に、今後、政府規制が行われます
と、資本の流れが一段と低下し、金融市場の新たな落ち着きどころが見つかり、混乱
が収まるまで、経済が低迷し、困難な状態が当面続くことになると思います。

 もちろん、今回のサブプライム問題がここまで大きくなった背景には、利益追求の
あまり、ブレーキがかからず、モラルハザードを生んで金融新商品のもとでリスクを
膨らましてきたことがありますから、規制が必要だという意見は理解できます。

 しかし、規制が資金の流れを止めるまで厳しくまた急激であれば、信用創造から信
用収縮に向かうことになりますから、この問題を検証して、証券化、審査や財務など
ルールを明確化にする以外は、規制を極力控えるべきだと思います。

 さて、規制の強化と緩和は、経済の過熱(あるいはバブル)と低迷の裏返しといえ
ましょう。そこには、信用創造から膨張へ、そして信用収縮と資本の動きがありま
す。それは、私の友人の大学教授が言っていましたが、「資本は大胆であるが、また
臆病でもある」という性格があるからです。

 これまでの経済を振り返ると、経済が低迷しているときには、資本は臆病であるが
ために、利益が期待できない限り、出てきません。それを変えるには、規制の緩和で
あり、そこに利益の期待が生まれ、いろいろな技術や商品が開発され、資本が動き出
して、信用創造が復活し、経済が活性化してきたといえます。

 しかし、資本は、一旦動き出して利益を追求すると、大胆になり、規制の一段の緩
和、撤廃を求め、資本の流れは強く大きくなっていったといえます。その結果、経済
は、成長から、理由なき熱狂となって、加熱していきました。

 そして、その利益追求の欲望が広がって、どこまでも追いかけようとするあまり、
金融市場で適正価格を超えて異常価格で取引されて、バブルが発生し、そしてその極
みがモラルハザードを生み、情報の非対称性を悪用して、違法行為や詐欺的行為が行
われるまでになります。

 そこで、それを止めるために、政府が規制に乗り出すのですが、すでに利益期待が
小さくなりバブルの限界も見えて、資本の行き場がなくなっている中ですから、これ
までの動きとは全く逆の動きとなって、臆病になった資本は損失発生を懸念して市場
から急速に逃げ出し、疑心暗鬼から資本の流れが細り、信用収縮を引き起こし、経済
は失速し、悪化・低迷してきたといえましょう。

 今回も、こうした流れになっています。株式市場における空売り規制が良い例とい
えましょう。規制して株式市場が落ち着くどころか、先行き不安から現物株を売却し
て資本は市場から逃げ出し、市場の大暴落を引き起こしています。そして、今後、信
用収縮から実体経済は悪化することが予想されます。

 このように、規制は、資本の流れを変え、経済を左右させます。しかも、日本も経
験したように、バブルの弊害が認識されて規制をかけるまでのタイムラグがあるがた
めに、市場への影響が大きく、また経済への打撃も予想以上になります。

 しかも、今回は、いくつかの点で日本の場合と違いがあります。一つは、市場経済
のグローバル化です。アメリカは、85年のプラザ合意以降製造業から金融サービス
業に戦略的転換を図って、世界的に規制の緩和・撤廃を求め、市場経済のグローバル
化を進めてきたといえましょう。そうした中で、今回のサブプライムに関連した証券
化商品が世界的に広がって資本の動きがグローバル化してしまっていることが、日本
という一国の土地バブル崩壊とは違い、問題を複雑にしています。

 もう一つは、90年代からの世界的な低インフレ(日本ではデフレ)のなかで、金
利が低水準に推移して資金が市場に大量に出回る一方、日銀をはじめ世界的に市場へ
大量の資金が供給されたため、過剰流動性が世界的になって、金融市場を中心にバブ
ルがグローバル化していたことが問題を大きくしています。

 また、これまでにないのは、スピードです。情報がこれまで以上の速さで世界を駆
け巡り、市場の動きを支配していくことです。それは、IT技術の進展と市場経済の
グローバル化が影響しており、一旦起きた信用不安の市場への伝播は想像以上に速く
また膨張していきます。その結果、一日にして市場価格が急落していくことが起きて
います。

 こうしたなかで、今後金融市場に規制をかければ、信用収縮はその国だけの問題で
はなくなり、世界的な規模で、しかも瞬時に市場の連鎖を引き起こすことになりま
す。それが今の各国の株式市場の暴落となり、国際商品市況の大幅な下落につなが
り、為替市場に急激な変動をもたらしているといえます。もはや、ここで規制を強化
していけば、臆病な資本は、市場が落ち着くところまで逃げ回るだけになりましょ
う。そしてその結果、世界経済は失速し、悪化することが予想されます。

 一方、日本の場合、実体経済の悪化から、金融危機へと向かっていきましたが、今
回は、金融危機から、信用収縮を起こして、今後このままいくと実体経済への悪化と
つながっていきます。そして、バブル崩壊後の日本の場合、世界経済の堅調な推移の
なかで、日本のみが実体経済が悪かったため、不良債権処理を終えた輸出関連企業を
中心に実体経済の回復を牽引しましたが、今回は、世界的に回復する経済的な環境も
牽引車も見つからず、世界景気が減速から悪化の道をたどろうとしています。

 そうした点を踏まえて、今後こうしたシナリオを防ぐには、世界的な規模で起きつ
つある信用収縮を食い止め、金融危機を抑え込み、実体経済の悪化を最小限にするこ
とです。それには、G7などの先進国だけで解決できるものではなく、世界的規模で
協調をとって臆病な資本を落ち着かせることが必要でしょう。それには規制をかける
のではなく、資本注入を世界的に行う覚悟をしながら、市場の透明性を高めて、ルー
ルの明確化と共通化を図って情報をできるだけ公開していくことです。

 もし、政府規制を進めれば、今後恐れるのは、市場のひずみをついて市場の混乱が
一段と起きることです。すなわち、アメリカの大量の資金調達が予想される中で、規
制がかけにくい為替市場や債券市場において、経済の悪化の中の急激な円高、金利急
騰などが発生することや、市場にひずみを抱えたり、弱みを持ったりする国の市場
が、97年のアジア危機のように一方的な資金の流失を招いて、国家破たんに追い込
まれることも起こりえるのではないかと危惧しています。

 それを避けるためにも、規制緩和で資本の暴走を許したがために、金融危機を招い
た一方、格差を生み、国民に負担を負わせて信用を失ってしまった政府は、再び強い
リーダーシップと世界的な協調で信用を回復させ、できるだけ規制をかけないで資本
の健全な流れを取り戻し、維持できるようにすることではないでしょうか。

                             経済評論家:津田栄
                    
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 ●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●
          ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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