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マイケル・ムーア『SiCKO』の僕なりの見方 社会保障問題とは結局のところ財源調達問題に尽きる (権丈善一)
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投稿者 どっちだ 日時 2008 年 4 月 12 日 05:01:55: Neh0eMBXBwlZk
 

(回答先: 若い人が政府の利用価値を実感するということとは 映画SiCKOの中で僕が一番多く人に話をしてきたシーン (権丈善一) 投稿者 どっちだ 日時 2008 年 4 月 12 日 03:45:21)

--権丈のホームページ 勿凝学問 から転載--------------------------
http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/seminar/
http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/korunakare104.pdf

勿凝学問104

マイケル・ムーア『SiCKO』の僕なりの見方
社会保障問題とは結局のところ財源調達問題に尽きる

2007年9月4日
慶應義塾大学 商学部
教授 権丈善一


「勿凝学問103 マイケル・ムーア『SiCKO』のすゝめ」で、僕が参考資料Uとして、マイケル・ムーアの記者会見@カンヌ国際映画祭を付した理由を説明しておいた方がよさそうなので、一筆啓上。


まずは、記者会見@カンヌ国際映画祭(2007年5月19日)」を再掲。


「記者会見@カンヌ国際映画祭 2007年5月19日」映画パンフレットより

Q:あなたが(医療保険のあり方を)肯定的に描いたカナダでは、医療の国家管理が崩壊しつつあり、現在大問題になっているんです。

マイケル・ムーア:カナダの問題は、ここ20年以上続く予算不足だ。でも、カナダの国民皆保険制度には何の問題もない。君やすべてのカナダ人に聞きたいが、君自身はカナダの保険証とアメリカの保険証を交換したいと思うかい?

Q:いいえ。

マイケル・ムーア:そう、それが正しい答えだ。(一同笑)僕はアメリカ人の目でカナダ人を見ているが、カナダ人だったらやはり君と同じように文句を言っていたと思うね。でも僕はアメリカ人だから、アメリカの制度の問題とカナダの正しい制度が見える。君たちやフランス人、イギリス人、西方の国々は、なぜ僕らより長生きするのか? なぜティラノに生まれた赤ちゃんは、デトロイトに生まれた赤ちゃんより1歳前に死亡する確率が低いのか? 君たちの国は何か正しいことをやっているからだ。言っておくけど、(劇中の)オンタリオ州ロンドン(カナダ)のあの病院で待っていた人たちは、僕に嘘をついたわけじゃない。十分な治療を受けられたし、支払の心配もなかった。残念ながら、現在のカナダは保守党政権だから、十分な予算を得ることは当面難しいと思う。でも、元のゴールに立ち戻ったときには、いい制度だと言えると思うね。


 あの映画、たしかに、マイケル・ムーア監督が訪れたカナダ、イギリス、フランスがかかえる深刻な医療問題については触れてはいない。しかし、それはそれで良いと、僕は思っている。なぜならば、カナダ、イギリス、フランスの医療問題は、今ある制度に公費を投入すればおおよそ解決する問題であるという意味で、これら3カ国がかかえる医療問題
は財源調達問題である。いわば、医療制度のあり方を規定するベクトルの方向性は正しいが、いかんせんスカラーが不足していることから生じている医療問題を、これら3カ国はかかえているのである。それに対して、アメリカは、医療制度のあり方を規定するベクトルの方向性が、はじめから間違っている。アメリカがかかえる問題は、今の制度に公費を投入したからといって大きく解決されるような問題ではないのである。このあたりを、マイケル・ムーア監督はよく分かっていることを、先に紹介した「記者会見@カンヌ国際映画祭 2007年5月19日」で語っていたから、勿凝学問103の参考資料にしたのである。


 これまで何度も言ってきたように、公的医療保障制度は3つの再分配を行っている。

強制的な公的医療保険制度の3つの再分配

•(疾病リスクが等しい者の間での)保険的再分配
•(高所得者から低所得者への)垂直的再分配
•(健康な一般国民から病弱者への異なる)リスク集団間再分配

権丈(2006)『医療年金問題の考え方――再分配政策の政治経済学V』pp.30-32.


 医療の「平等消費」を行うためには、所得の垂直的再分配とリスク集団間再分配を行わなければならない。そして、これら二つの再分配は、市場諸力に任せる方法で行うことはできない――所得の垂直的再分配とリスク集団間再分配を行うことにより医療の平等消費を達成するためには、強制力を持つ政府が登場するしか方法はないのである。ここに「政府の利用価値」が生まれる(「勿凝学問50 政府の利用価値」参照)。

 けれども、政府を利用して「平等消費」を実現すれば、満足いく制度ができるという訳ではないことは、言うまでもない。『SiCKO』に出てくるカナダ、イギリス、フランスの医療には国民は多くの不満をかかえている――「平等消費」を実現できるための制度枠組みを準備した次に出てくる問題は、「平等消費」がなされる消費水準と関わる問題である、医療サービスの質と医療従事者の労働条件の問題である。

 ここで日本について考えてみる。次の図1にみるように、日本の医療はアメリカと比べて平等消費されているように見える。

図 1 所得と医療費サービス支出の日米比較
鈴木玲子(2004)「医療分野の規制緩和――混合診療解禁による市場拡大効果」
八代尚宏/日本経済研究センター編『新市場創造への総合戦略(規制改革で経済活性化を)』

 しかしながら、これまで繰り返し言ってきたように、小さすぎる政府しかもたない日本の医療費の水準は低すぎる。それゆえに、今日の医療崩壊が進行しているのである。この医療崩壊を食い止めるために医療費を増やす方法は、実は、二つある――図2にみるように、国際標準でみて低い日本の医療費を、平等消費型医療制度、すなわち皆保険制度を堅持しながら医療費を引き上げる方法と、階層消費型医療制度、すなわち混合診療を解禁しながら医療費を引き上げる方法である。

図 2 平等消費型医療制度と階層消費型医療制度の選択
平等消費型医療制度
階層消費型医療制度
1人当たり医療費
日本の水準
国際標準
私費
公費
1人当たり所得
権丈(2006)『医療年金問題の考え方――再分配政策の政治経済学V』p.103.


 さて、日本では医療崩壊が進行している。だからと言って、図2の右側にある、階層消費型医療制度を選択すべきか? この方向にはアメリカ型医療制度があるのだが、たしかに、この方向に進めば、医療費は増える。ために、医療従事者たちがかかえる今日的課題の多くは緩和されるのかもしれない。しかしながら、僕のように、医療は平等消費が望ましいと思っている者にとっては、日本の選択肢として、階層消費型医療制度、アメリカ型医療制度という選択肢はあり得ない。

 『SiCKO』をみて、アメリカの医療もひどいけど、日本の医療も崩壊寸前、したがって、フェアにとらえれば、どっちもどっちなどとは、僕は考えない。日本は、今までのところ正しい道を選択してきたのであり、問題は財源調達なのである。この意味で、医療の平等消費を志向している、カナダ、イギリス、フランスも同じ問題をかかえている。しかしながら、日本、カナダ、イギリス、フランスの医療制度は、アメリカの医療制度よりもはるかにましな制度と、僕は評価している。

 「勿凝学問103 マイケル・ムーア『SiCKO』のすゝめ」に、参考資料として、マイケル・ムーア監督の記者会見@カンヌ国際映画祭を付したのは、アメリカの医療問題を細かく描写する一方で、カナダ、イギリス、フランスの医療問題を描いていなかった『SiCKO』をみて、映画パンフレットのデーブ・スペクター氏のように「東スポ的な手法を使う監督ですね。新聞の三面記事的な問題を拡大して脚色をする。・・・本来入れるべき事実やデータを意図的に落として作品を作っている」的なコメントをしそうな人たちに、いや、あれはあれでいいと思うよということを言いたかったからであった(笑)。カナダ、イギリス、フランスの医療問題はアメリカの医療問題とは、ベクトルの方向そのものが異なり、前者の方向で生じる問題よりも後者の方向で生じる問題の方がはるかに深刻であり、解決の道筋を立てるのも難しそうなのであるから。

 もっとも、たとえば日本で今のような「世界一の医療費抑制政策」(二木立先生)という兵糧攻めをつづけていけば、お金が病院に入ってくるのならば手段を選ばずと、階層消費型医療制度を嗜好する医療従事者が登場してくるのも理解できるし、今日の医療従事者の政治的判断に葛藤のあることも理解できる――兵糧攻め、恐るべしである。そして、長きにわたる兵糧攻めの下でも、なお敵に降ることなく皆保険を守る道を主張しつづけている日本の医療従事者たちに敬服もしている。


 なお、より高い視点からみれば、予算の壁、すなわち財源調達問題ゆえに、アメリカは現在の医療制度を選択してきたという次の評論にも頷けるものはある。


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Jacob S. Hacker(2007), “Healing Our Sicko Health Care System,” The New England Journal of Medicine, 357: 733-735.
邦訳、青木秀太くん、小林迪子さん@慶應商学研究科修士2年
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母親は、ある晩に高熱を出し、嘔吐、下痢をした彼女の18ヶ月の娘、Mychelleについて語っている。運ばれた最も近い緊急治療室においてMychelleは医師の正確な診察を受けた。それによると、彼女が致命的な細菌感染を起こしているかもしれないということだった。しかしその医師は、彼女に抗生物質を与える代わりに彼女の保険会社に電話をした。そして保険会社の担当者は、その病院ではMychelleの保険はカバーされておらず、もう一つの施設に搬送されなければならないことを医師に告げた。その医師はMychelleが処置を必要としているとことを繰り返し伝えるが、まず第一に彼女は転送されなければならないと言い返される。結局、その病院に到着したほぼ3時間後、発作に苦しめられながら、Mychelleは承認された施設に搬送された。そしてその15分後に彼女は息を引き取った。

・・・

 Mychelle Keysは、1993年に死んだ。そしてそれは、ビル・クリントン大統領が議会で、「我々の医療保険制度は壊滅的であり、今こそそれを正す時である」と宣言したのと同じ年であった。ムーアは映画の舞台をクリントン医療改革へと移す。しかし、彼はなぜクリントン大統領とファースト・レディー、ヒラリー・クリントン(現在の民主党の大統領候補一番手)があのように惨めに失敗したのかについて、納得がいく説明をしていない。ムーアにとって、その答えは単純である。すなわちそれは、医療産業のロビイストと右翼の仕業である。しかし1993年にワシントンに襲いかかったロビイストは、クリントン計画の失敗の根本的な原因ではなかった。そして保守的な評論家たちは、より大きな影響力があったが、彼らも、ロビイストと同じように、彼らの背後からくる強力な流れの中で泳いでいたにすぎない。その流れとは、医療保障を実現するというクレイジー・キルト(いくつもの派手なキルト地を組み合わせた装飾過多ともみえる作品)にいだく人々の相反する感情、分裂する利害、そして予算の壁である。
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最後に、以前書いたことのある一言をぼそっとつぶやいて――

社会保障問題とは結局のところ財源調達問題に尽きる。
権丈(2004)『年金改革と積極的社会保障政策
――再分配政策の政治経済学U』p.4.


参考資料T イギリス医療の政策転換
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勿凝学問35 政策論は価値判断と実行可能性という制約条件下で織りなされるアートか
――日本医療の選択肢――
2005年7月3日脱稿
権丈(2006)『医療年金問題の考え方――再分配政策の政治経済学V』pp.425-8.
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ここで注目したいことは、GDPに占める医療費の割合、およびPPP換算の1人当たり医療費の水準で日本と似たり寄ったりのイギリスが、2001年の総選挙の際に、ブレア率いる労働党が、5年間で医療費を1.5倍に引き上げることを公約し、いまその実行過程の終盤にあるということである。1997年に政権をとった労働党は、まずは数年間、イギリス医療の効率化をはかることにより医療の質向上をはかる姿勢をみせた。しかし努力のかいもなく医療の質を引き上げることはできなかった。そこで2001年総選挙の際には、今後5年間で医療費を1.5倍に引き上げることをマニフェストに組み込み、国民の支持を得てブレアは再選した。

18年間の保守党政権から労働党が地滑り的勝利を得た1997年当時、わたくしは、イギリスに留学していた。そこで、医療経済に関心のある研究者たちが、どのように制度改革を行えば(ようするに、どのようにインセンティブ誘導を行えば)医療の質が高まるかということばかりをディスカッションする場にいたことがある。その時、「なぜ、医療費の水準を固定するという政治的な足枷が科せられた条件下で、クイズを解くような議論しなければならないのか、わたくしには分からない。政治目標も、われわれ研究者で決めていいだろう。いま、イギリスで最も求められている政策は、医療費を上げることのはず」と言って、近くにいた参加者から喜ばれた。そういうわたくしからみれば、2001年のイギリス医療保障政策の大転換は、荒廃していた英国医療を救うのに残された唯一の道を選択しただけであって、当たり前といえば当たり前の選択のように思える。

なお、英国The Economist、2005年4月23日号(p.14)には、「英国医療費の予算は、過去8年間で倍増した。GDPに占める医療費の割合は8.4%に到達しており、この割合は、2007-2008年までには、大陸ヨーロッパ平均値である9.2%にまで引き上げられる予定である」とある。2005年の今日では、日本はイギリスよりも医療費が低い水準にあることは確かである。はたして、この状況下で日本の医療費の抑制を行えば、どのようなことが起こるのであろうか。予測はさほど難しい話ではない。話題を、その点に移してみよう。
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