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JMM [Japan Mail Media]  後期高齢者医療制度は高齢化社会の医療制度として合理的か?
http://www.asyura2.com/08/iryo02/msg/185.html
投稿者 愚民党 日時 2008 年 5 月 13 日 20:55:53: ogcGl0q1DMbpk
 

                            2008年5月12日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.479 Monday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼

 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』

  ◆編集長から

   【Q:910】
    ◇回答(寄稿順)
      □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
      □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
      □土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部准教授
      □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
      □津田栄   :経済評論家

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        ■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:910への回答ありがとうございました。中国の胡錦涛国家主席が来日して、
パンダの貸与料が1年間で1億円というのが話題になっていました。つがいのパンダ
を借りるのに年間1億円という金額が高いのか安いのか判断がつかないのと、折から
の冷凍餃子事件やチベット問題などで中国への批判が強まる中、貸与料が話題になっ
たのだと思います。

 上野動物園にはじめてパンダが来たときは、歓迎ムード一色でした。当時は何時間
も待って、人の波に押されるようにして、人々はパンダを見ていました。わたしは動
物好きですが、並んで待つのが苦手なので、結局上野動物園でパンダを見ることはあ
りませんでした。はじめて実物のパンダを見たのは上海の動物園でした。とても可愛
くてじっと長い間眺めていた記憶があります。

 JMM海外版では、ケニアのマサイマラ国立公園の獣医である滝田明日香さんのレ
ポートを配信していますが、アフリカの野生動物に関して、先進国は「著作権料」を
過去にさかのぼって支払うべきではないだろうかとよく考えます。わたしは小さいこ
ろから動物の絵本が好きで、アフリカの珍しい動物の絵や写真を飽きずに繰り返し見
ていました。サイやカバやキリンなど、見れば見るほど不思議な形をしていて、想像
力を刺激されたのだと思います。

 アフリカだけではなくアジアやオーストラリアにも珍しい野生動物がいますが、写
真を撮るのも絵を描くのもまったく著作権料は発生しません。たとえばハリウッドの
有名映画俳優には肖像権があり、勝手にその写真を使用することはできません。ハリ
ウッドの映画スターとアフリカの野生動物、どちらが子どもたちに夢と好奇心を与え
ているか、考えるのもムダではない気がします。パンダの年間1億円の貸与料ですが、
おそらく野生のパンダの保護のために使われるはずで、再生できるかどうか怪しい銀
行への400億の追加出資などと比べると、問題にするような額ではないと思われま
す。

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■次回の質問【Q:911】

 経済合理性の観点から、日本は、今後中国とどのような関係を築いていくべきなの
でしょうか。

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                                  村上龍

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■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く 
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 ■Q:910

 4月から「長寿医療制度(後期高齢者医療制度)」が始まり、いろいろな混乱が起
こっているようです。後期高齢者医療制度ですが、高齢化社会の医療制度として、合
理的なものだと言えるのでしょうか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 今年4月から、後期高齢者医療制度が始まりました。新しい制度についての事前の
説明が不足していたこともあり、様々な問題や混乱が発生しているようです。新制度
に対する国民の不満はかなり高まっており、新制度施行早々、政府は内容の一部見直
しなどを余儀なくされているようです。新しい保険証が手元の届かないなどの短期的
な混乱は別にして、国の基本的な姿勢や考え方には、かなり大きな問題があると思い
ます。

 後期高齢者医療制度とは、基本的に、75歳以上の後期高齢者に対する医療保険を、
他の年齢層から分離して、後期高齢者専用の医療保険制度を新たに設けるものです。
従来、75歳以上の人たちも、他の年齢層の人たちと同じ国民健康保険や被用者保険
の中で医療給付を受けていましたが、今回の改正によって、新制度の対象者は当該制
度からの給付を受けることになります。その分、75歳以上の人々には新たな負担が
増えるケースが多いはずです。

 新制度の導入の意図は、少子高齢化が世界最高のスピードで進行するわが国で、7
5歳以上(65歳以上の一定の障害を持つ人も含める)の人たちの医療保険制度を、
既存の保険制度の枠からはずして、新しく設定した医療保険制度に移行することで、
国や地方公共団体の負担増加を押さえようとするものと考えられます。今後、少子高
齢化が加速するため、75歳以上の人に負担の実感を持ってもらうことで、医療費の
増加を抑えることを考えたのでしょう。

 今まで、被用者保険の制度の中で被扶養者であった人たちは、今まで払っていな
かった保険料を負担することになります。75歳以上で月額1万5千円以上の年金受
給者は、年金から保険料が天引きになります。年金から天引きされることに、違和感
を持つ人は少なくないでしょう。また、年金受給のない人等は、自分で保険料を支払
いにいかなければなりません。これらの負担はかなり大きく無視できません。

 後期高齢者医療保険制度の財源については、国や地方公共団体の負担が50%、国
民保険・被用者保険の支援金が40%、高齢者の保険負担が10%になると設計され
ています。今後、高齢者自身が10%分の保険金負担をすることになりますから、本
制度維持のための負担が増える場合には、保険料が上昇することは避けられないで
しょう。それも、本保険制度の加入者に不安を与える要因になることでしょう。こう
してみると、保険の加入者サイドから見ると、負担増加や制度自体の持続性に不安を
持つ人は多いと思います。

 今回の制度改正に関して最も気になる点は、政府の保険制度に対するフィロソフィ
ー=基本的な考え方です。わが国の少子高齢化が加速するので、費用負担の増加を抑
制するスタンスは理解できるのですが、それを主に高齢者自身の負担増加で賄うスタ
ンスには疑問を持ちます。もちろん、高齢者と言っても高額所得を得ている人はいま
す。あるいは、その程度の負担増加には問題のない人もいるでしょう。しかし、一般
の年金生活者にとって、制度改正に伴う増加は小さくないはずです。しかも、保険運
営の費用負担の設定を見ると、今後、負担額は徐々に増加することは避けられないで
しょう。

 高齢者、特に負担が大きすぎるという人たちに対しては、社会全体でその負担を分
担すべきという考え方が必要だと思います。そうした考え方に基づいて国民負担が増
加しても、多くの人々は理解すると思います。それよりも、長期のビジョンのない、
場当たり的な制度改革では、将来の不安を増幅させるだけだと思います。こういう問
題に対してこそ、政治がリーダーシップを発揮して、医療保険の将来像を国民に提示
するべきです(この国では、それが出来ないことは十分に理解しているつもりです
が)。

 もう一つ、わが国の少子高齢化の問題は、かなり前から深刻な問題と指摘されてき
ました。今回の保険医療制度についても、それが大きな要因の一つになっていると思
います。ところが、国は、今まで殆ど有効な対策を打ってきませんでした。もちろん、
少子高齢化は一筋縄では解決できる問題ではないでしょう。しかし、何か有効な対応
策を考えることは必要です。

 友人の一人は、「少子高齢化問題を解決する一つの方策は、子供を育てることを一
家庭の仕事にせず、社会全体がコストと認識する意識改革が必須」と指摘していまし
た。そうかもしれません。そうすれば、そうした意識改革が出来るのでしょう。現在
の政治に期待できないのですから、他の道を考えなければならないのでしょう。難し
いことです。

  信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 長寿医療制度の要点を一言で言うなら「保険として筋が悪い」ということでしょう。

 長寿医療制度は、当初の「後期高齢者医療制度」という死ぬ直前の人のための制度
だと言わんばかりのネーミングの拙さ、保険証が円滑に交付されなかったというよう
な事務の拙さ、負担が軽くなるというケースの説明に多くの齟齬があったこと、それ
に、年金給付からいきなり天引きするという有無を言わせぬ強引さなど、制度導入手
続きの印象の悪さで、大いに不評でした。これらは、行政側(主に厚生労働省)のコ
ミュニケーション能力の乏しさ、事務能力のお粗末さによるもでしょう。もちろん、
これらも重要な問題です。

 しかし、それ以前に、75歳という年齢で区切って保険料徴収の条件を変えよう
(重くするにしても、軽くするにしても)という発想自体が、保険としての本質にな
じまないものだったのではないでしょうか。

 一定の年齢以上まで生きるか、生きないかということは、多くの場合、本人の自発
的な選択ではなく、概ね「運」の問題でしょう。この加入者が選択するわけではない
ものに対して、「運」の結果が出てから負担を変えるというのは、保険者(保険を提
供する側の主体)の側からする一種の「逆選択」行為です。特に、現在既にこの制度
の対象になっている人や、対象年齢がごく近くに迫ってきた人々にとっては、自分の
長寿に後からペナルティを加えられたようなアンフェア感があったのではないでしょ
うか(自分の負担が軽くなっても、これをアンフェアと思う人はいるでしょう)。

 また、付随的に、今回の制度の狙いとして、主に高齢者たちに高齢者の医療費が高
いこと、伸びつつあることを、認識して、健康管理を改善するなり、無駄な受診を控
えるなりして欲しいという狙いがあったようにも見受けられます。しかし、保険料は
75歳以上という「集団」から徴収されるので、個々の高齢者「個人」にとっては、
それ故に自分が受診を控えるというようなインセンティブは働きにくいだろうと思え
ます。

 結局、医療・健康保険は、老若の別を問わず(若年者は別として)、たとえば経済
力に応じた負担を一定の計算方式で、という具合に、年齢による差別のない一貫した
ルールで運営すべきものなのではないでしょうか。

 高齢者の医療費抑制のための狭義の経済的インセンティブは、個々の医療サービス
の実質的な価格設定によるしかありません。但し、この場合、公的保険のカバー範囲
を小さくする圧力を掛けすぎると、公的な健康保険の実質的崩壊につながり、民間保
険会社(具体的イメージは映画「シッコ」に出てきた保険会社)のためのマーケット
を無理矢理作る結果になりそうなことが、今から心配です。

 医療費には、経済の生産性を高める「投資」的側面があります。もともと高齢者が
増える以上医療費が嵩むのは本来仕方がありません。政府財政の帳尻合わせを理由に、
数値目標を置いて医療費を削り込むのは不適切な方向性だと思われます。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 <http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>
                           
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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部准教授

「長寿医療制度(後期高齢者医療制度)」は、目下批判の嵐にさらされていますが、
それ以前の老人保健制度に比べれば、財政面で画期的で望ましいところが多くある仕
組みです。確かに、後期高齢者医療制度でも、まだまだ不備な点はありますが、老人
保健制度に戻すのに比べてまだより合理性のある仕組みだと考えます。

 ちなみに、「後期高齢者」という言い方も、目下批判にさらされており、運転免許
証でもこの言葉を改める方向にあるということですが、これは言葉として受けがよく
ないなら変えてもいいでしょう(「老人」という言葉よりもましだと思うのですが)。
しかし、言葉を変えたからといって、我が国における75歳以上の高齢者の方々の生
活や社会保障の面での性質が変わるものではない点は、きちんと留意しておく必要が
あります。つまり、言葉を変えても、75歳以上の高齢者にまつわる諸問題は何ら解
決しないのです。明らかに、我々は長寿化という幸せの見返りに、75歳以上の生活
での費用をどのように賄うかを真剣に考えてこなかったツケが今のしかかっており、
キリギリスのように能天気に対応してはいられないのです。

 さらに、医師側の強い反発として、後期高齢者医療制度移行に合わせて行われた、
「かかりつけ医」の導入があります。これが、移行前からの後期高齢者医療制度への
批判として底流にあります。ただ、「かかりつけ医」制度についての議論は、医療提
供体制全体を見ながらさらに(再)検討を深める必要がありますが、以下で述べる高
齢者に求める負担の議論とは敢えて切り離して検討できるものと考えます。

 後期高齢者医療制度では、高所得・多資産の高齢者に対しさらに然るべき負担を求
めることで、勤労世代の負担を軽くすることができる(かもしれない)ところが利点
の1つとして、もっと強調されるべきところです(「かもしれない」というのは、今
後の高齢者医療費の動向に左右される点が含まれている点に留意したためです)。確
かに、目下、保険料が年金給付から天引きされることだけがクローズアップされてい
ますが、保険料は、後期高齢者医療制度になる前から、既に各々が加入していて保険
料を払っていたわけで、それを棚上げにして、後期高齢者医療制度の保険料だけに目
くじらを立てるのはフェアではありません。

 しかも、その保険料が増えたかもしれないという話ですが、実際のところは、増え
た人と減った人がいるのは事実でしょう。高齢者医療制度が始まる前まで、高齢者の
方でも、被用者なら被用者保険に、退職者や無職者なら国民健康保険(国保)に入っ
ていました。そして、入っていた健康保険によっては、より低い保険料を払っていた
人がいたわけで、その人にとっては、4月からは保険料は高くなることになります。
しかし、そうした方々は、なぜその保険料が安かったかをきちんと探求せずに不満だ
け抱いているようです。要するに、後期高齢者医療制度の導入により保険料負担が増
えた人は、それまでその人が入っていた保険で若い人たちがより多くはいっていたた
めに少ない保険料で済んでいたことが一因としてあるのです。若い人たちが保険料や
税金を負担してくれたお蔭で、高齢者が負担する保険料が低く抑えられているという
事実は、決して忘れてはならないことなのです。おまけに、高齢者間で、所得や資産
の多寡で保険料に差をつけることをこれまで大々的に行われていなかったので、高所
得・多資産の高齢者に対する負担は、過度に低いまま放置してきたのです。

 後期高齢者医療制度は、出来るだけ後期高齢者の方々にも負担をお願いすることが
できる(つまり、勤労世代の負担を相対的に抑制する)仕組みとして、画期的なので
す。我が国の高齢者の医療費は、1人当たりにして、若い世代のそれの5倍もかかっ
ています。欧州諸国でもこれは2〜3倍なので、相対的に見て高齢者に対して多くの
医療費を投じている状態です。これは終末期医療にかかっている部分が多いとはいえ、
この構造を鑑みれば、高齢者の医療費を抑制するのも無理があるので、然るべき負担
を高齢者の方々にもお願いせざるを得ないと考えます。今のところの報道を見ると、
低所得の高齢者の負担増だけがクローズアップされていますが、むしろ、高所得・多
資産の高齢者にさらなる負担を求めて、勤労世代の負担が相対的に軽くなる(かもし
れない)点の方をもっとクローズアップすべきです。

 医療保険は、積立方式の財政運営をとっていません。毎年その年の給付をその年の
保険料や公費の負担によって賄われているものです。したがって、医療において「世
代間の助け合い」といっても、それは高齢者の医療費の財源として若い人が払った保
険料の中からいくらか貢ぐという形でしかなく、それも若い人が将来高齢者になった
ときにその時の若い人に貢いでもらえる保証がないまま今貢がなければならないわけ
です。これが、年金とは違うところです。人はいずれ老いるのだから、積立方式でな
くとも、各世代が順番に若年者が高齢者の医療費の面倒を見る仕組みでよいではない
かという見解もありますが、予期せぬ長寿化、団塊世代、少子化と、顕著に人口構成
が変化している我が国においては、それは保険財政を持続可能にしない不適切な見解
です。

 次に、後期高齢者医療制度が、独立した保険制度として設けられた点が、老人保健
制度よりも改善した点です。従来、75歳以上の高齢者の方には老人保健制度で医療
にまつわる給付と負担について調整してきました。老人保健制度は、市町村が運営し
ていましたが、それ自体は「保険」ではありません。老人保健制度は、高齢者が入っ
ている保険の保険者と、高齢者が受診した医療機関に支払う給付とをつなぐ役割を果
たすものでした。高齢者は、若い世代の人もともに加入している保険にそれぞれ入っ
ていたわけです。老人保健を運営する主体としては、保険料を直接課すことはなかっ
たのです。

 ところが、保険者によって、(医療費が多くかかる)高齢者の割合が異なるために、
老若問わず被保険者が払う保険料にかなりの差が出てきて、中には財政が苦しくなる
保険者も出てきました。そこで、後期高齢者だけを過去の職業を問わず皆同じ保険の
仕組みで、独立して運営することで問題を解決しようと考えたのが、後期高齢者医療
制度創設の1つの動機となっています。

 その際、老人保健制度の根拠となっていた老人保健法は、医療事業については高齢
者の医療の確保に関する法律へ、それ以外の保健事業は健康増進法に引き継がれまし
た。現在、後期高齢者医療制度の根拠法となっている高齢者の医療の確保に関する法
律は、今年3月末まで老人保健法と呼ばれていたものでした。

 目下野党側が後期高齢者医療制度を「廃止」する法案の提出を目指していますが、
「廃止」するという言い方は、いかにも政治的なレトリックに走り過ぎていてよくあ
りません。後期高齢者医療制度を「廃止」すると言うことは、その根拠法となってい
る高齢者の医療の確保に関する法律を廃止することなのでしょうか? もしそうなら、
その法律はこの3月まで老人保健法であったので、「廃止」すれば老人保健制度に戻
すことすらできません。後期高齢者制度を止めて、老人保健制度に戻すというなら、
「廃止」ではなく「復元」と言うべきものです。

 ただ、「長寿医療制度(後期高齢者医療制度)」も、不備な点はまだまだあります。
まず、保険といいながら、実際に後期高齢者の方からの保険料で賄えているのは全体
の1割だけです。残りは税金(公費:全体の5割)と勤労世代の保険料を財源とした
「拠出金」(全体の4割)です。保険といいながら、結局は世代間の所得再分配を公
然と行っているわけです。もちろん、高齢者の医療費の財源を同世代の高齢者だけで
負担できないとなれば、若い世代の人たちにも何らかの形で負担を求めるしかありま
せん。

 それならば、「保険」というリスクに見合った保険料を設定する仕組みでなく、所
得再分配を行うための税金を投入することが考えられます。年金制度もさることなが
ら、後期高齢者医療制度でも、その給付財源に、なぜ保険料で取るのか、なぜ税金を
投入するのか、が未整理で、今後きちんと論理整合的に財源負担を考えてゆかなけれ
ばならないでしょう。さらに、医療保険(国民健康保険、政府管掌健康保険、健康保
険組合)の一元化、積立方式の導入など、ラディカルな改革案も門前払いせずに真剣
に議論すべきだと考えます。

                    慶應義塾大学経済学部准教授:土居丈朗
                  <http://www.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/>

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 今後確実に増え続ける高齢者の医療費に対して、経済原則に基づく牽制を加えて、
あえて「高齢者医療費の抑制」を図ろうというのがそもそもの法律の趣旨ですから、
その限りにおいて、合理的な制度だと思われます。

 国も地方自治体もそれぞれに保険料の一定割合を負担するとともに、高齢者自身も
年金天引きの形で明確に保険料を負担します。この制度により、75歳以上の高齢者
の医療費は、だれがどれだけ負担しているのかが明確にわかる形で地方ごとに独立会
計として管理されることになります。

 何かを経済合理的に管理しようとすれば、その部分をとりだして独立会計にして参
加者の得失を明確にするというのは、そもそもの基本で避けて通れないところです。

 例えば、ある都道府県で制度の赤字が大きいということになれば、さらに税金を投
入すべきだとか、診療報酬を引きあげ、高齢者自身の負担を増やすことにより需要を
抑制すべきだといった対策が合理的に決定できることになります。小泉政権下で推進
された、新自由主義や地方分権の流れに沿う、経済的には理解しやすく、特に企業経
営者などにはなじみのあるやり方なのではないでしょうか。

 新制度の導入で、高齢者に新たな保険料支払いが発生し負担感が増えた例として、
これまで子供の扶養家族あつかいで保険料を負担して来なかったケースを考えて見ま
しょう。これは、老いてからは子供の扶養家族となり子供の助けを受けながら余生を
送るという、古くから社会倫理ともっとも良くなじむ制度だったと言えます。

 これまで子供の扶養家族となっていた高齢者の医療費の負担は、子供の会社の健康
保険組合かあるいは地域の国民健康保険の赤字が増えるという形で負担されていたこ
とになります。今回の措置で高齢者の保険は新制度に移り、高齢者自身からも年金天
引きで新たな保険料の支払いが求められることになったわけです。子供の保険制度の
負担は、これによってとりあえず軽くなります。

 高齢者が自身で国民健康保険に加入していた場合の保険料は、自治体ごとの助成措
置がなくなり、また年金からの天引きとなり負担感は大きくなりますが、これまで扶
養家族であった場合ほど急激なショックではないようです。

 経済合理性を前面にだし、高齢者医療を独立会計にして、国、自治体、高齢者、納
税者などの主体の間の負担を明確にして、経済原則を働かせて今後の負担割合を決め
ていくことが趣旨で、加えて徴収の仕方を公的年金からの天引きにして、未納などの
問題を起こさないようにあらかじめ手を打ってあることになり、よく考えられた制度
だと思います。

 制度の導入にあたって、厚生労働省のいつもながらの不手際もありましたが、周知
徹底されていないだとか、年金から天引きするのは酷であるとか、制度の本旨から外
れた手続きや細部で感情的な反発を引き起こしてしまいました。

 高齢者医療費を抑制するために、主体間の負担を明確にして高齢者にも負担しても
らおうというのが法律の趣旨ですから、高齢者からの感情的な反発で与党が票を失う
のは、ガソリン税の上昇に消費者が反発するのと同じく自然なことですが、現役世代
を含めた国民全体の意思が今回の後期高齢者医療制度の趣旨である「高齢者医療費の
抑制」の方針にどういう態度をとるのかを知りたいところです。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 長寿医療制度という言葉は、マスメディアでもほとんど流れず、後期高齢者医療制
度が今でも一般的に使われています。国民(特に高齢者)の多くが強い不安と不満を
抱き、もはや名前を変更してイメージを変えようとしても受け付けないくらい、この
制度に対する悪いイメージが定着してしまって、いかに国民に不人気な制度なのかを
象徴しています。そのためか、今になってこの制度の導入に賛成した与党の国会議員
から、こんなに酷い制度とは、よく理解していなかったなどの言い訳をし、制度見直
しを口にする与党有力議員さえ出てきています。

 もちろん、その理由は、この制度の導入に際して、以前にも問題にしましたが、十
分な説明もなされず強行したことで、保険証が届かなかったり、安心させようとして
保険料が安くなると宣伝しながら実際は多くのケースで保険料が大幅に上昇して大き
な矛盾を招いたりして、窓口の行政サイドの事務能力のなさ、現状把握力の欠落を露
呈し、また、いまだ年金問題も解決せず、無駄な支出をしておきながら、年金給付か
ら天引きする一方、支払わないと保険証を強制的に取り上げるなど、高齢者の神経を
逆なでする厚生労働省の都合優先の行政対応もあって不評を買っているからといえま
す。

 この制度は、75歳以上(一定の障害のある人は65歳以上で任意加入ですが、医
療費助成制度の廃止などで実質的には強制加入に近い)を後期高齢者として独立して
設けられた医療保険制度で、対象者の保険料負担割合を現時点で医療給付費の10%
としています。この制度を導入する背景には、少子高齢化の進展とともに現役世代の
支払う保険料が伸び悩む一方、引退した高齢者の増加で医療費が膨らんでいるために、
国民健康保険(国保)や健康保険組合(健保)の財政が悪化しており、この傾向は今
後ますます強くなると予想されることがあります。

 こうした傾向の先には、最悪、財政悪化から国保や健保が破たんすることが起きえ
るかもしれません。それを避け、「世代間で公平に費用を負担する」ために導入され
たのがこの制度であるといえます。要は、今後増え続ける高齢者の医療費の一部を自
分たちで負担してくださいということですが、それを通じて膨張する医療費を抑制し、
現役世代の負担を少しでも軽減しようというのが、この制度の意図だといえます。

 また、これまでの国保では市町村が運営主体となって保険料を決定していたために
大きな保険料格差が生じていましたが、この制度は、都道府県ごとに全市町村が加入
する広域連合が運営して保険料を決定するために保険料格差が縮小するという利点が
あります。そうした点で、一見合理的な制度といえます。しかし、個人的には、直近
の問題を解消しようとする小手先の場当たり的な制度変更であり、長期的総合的に見
れば、不合理な制度と考えています。

 というのは、根本的に少子高齢化の進展のなかで国民健康保険制度そのものが抱え
ている、膨張する医療費問題を、この制度で高齢者に押しつけてしまっても解決でき
ないことです。今後、この制度のもとで高齢者が払う保険料は、高齢者の増加ととも
に上昇することが予想され、そのスピードは現役世代の約2倍と厚生労働省は試算し
ています。そして、一方で受け取る年金は抑制され、むしろ減少する可能性さえあり
ますから、高齢者は生活が圧迫されて受診を抑制し、実質的に死期を早めるかもしれ
ません。

 また、この制度がなぜ75歳で区切って後期高齢者としたのか根拠さえよく分かり
ません。厚生労働省は、75歳以上から医療費が上昇カーブを描くという何らかの資
料があって年齢を区切ったのであれば、それを示すべきですが、それもない有様です
から、この制度の根拠自体合理的とは言えません。しかも、それでも高齢者への支援
金として出される国保・健保が増えて現役世代の保険料負担は増加しますから、この
制度を維持するためにいずれ75歳の区切りが70歳、65歳、60歳へと年齢を下
げてくるかもしれません。そうなれば、日本は長生きできない国、長生きを許さない
冷たい国となりましょう(それが現代版うば捨て山政策と見えるのでしょう)。

 厚生労働省が、少子高齢化の進展で膨らむ医療費を抑制して国民健康保険制度を維
持するために、高齢者が医療を実質的に受けられないようにしようというのは、本末
転倒といえます。むしろ国民あっての国民健康保険制度であるはずです(それは、国
民なき国はありえないのに、先の太平洋戦争で国のために国民に苦難を求めた昔の日
本とさして変わりません)。しかし、厚生労働省が制度維持のために高齢者に受診し
ないようになることを期待しているとしたら、高齢者に実質的に死を求め、長生きを
させない国家的な犯罪であるといえましょう。

 もっと大きな問題は、これから子供を持つことを現役世代が避ける可能性があるこ
とです。子供を育てて一人前にするには大きな費用がかかります。しかし、今後長生
きして人生を楽しみたいと思うなら、将来大きな負担となる保険料のために、子供を
持たず、せっせと貯金をして、老後を迎えたいと思う人が出るかもしれません。まし
てや、子供を育てた後で、その子供たちから多大な医療費がかかるから面倒みないと
言われるのでは、子供を持って育てる意味はないと思うかもしれません。それは家族
が壊れ、少子化を一層加速しかねません。そして、社会的不安を一層増幅させ、長期
的総合的に多大なコストを払い、究極的には国が消えることも起こりえます。

 結局、医療費とか国民健康保険制度とか、局所的な問題を目先的に制度を変更して
解決しようとしても、制度そのものが社会実態に合わないのであれば、問題先送りに
しかならないといえます。後期高齢者医療制度は、財政という視点で一見合理的に見
えますが、命や健康という生きる視点から国民を不安にさせることになって長期的に
は不合理な制度といえます。むしろ、今後少子化と高齢化を一緒に考え、国民全体で
負担して国民の健康、医療を支えることで社会的な安定を確立し、医療重視よりも健
康維持管理や病気予防に重点を置いて、高齢者がいつまでも現役のように働き、子供
や孫とともに生きていくことの喜びを感じさせる制度設計に変えるべきでしょう。

 そうした日本の明るい将来ヴィジョンを描くためにも、国民健康保険制度にだけ焦
点を当てて考えるのではなく、今や機能不全を起こしている税制(たとえば、道路特
定財源で無駄な道路を作るよりも、一般財源化で国民の福祉健康などに回したり、消
費税を抜本的に改革するなど)を含めた制度全般を改革することが必要です。しかも、
国民を顧みず、制度や構造の維持しかできない行政も戦前の国家に似てきており、そ
のあり方も根本的に改革する必要がありましょう。

 最後に、戦後の繁栄を築いたのは今の高齢者であって、そのなかで衣食住に困らな
い生活しているのは、自分も含めた現役世代です。しかも、私たち現役世代は、90
年代以降機能不全を起こしている構造全般の抜本的改革も十分できず、新たな発展の
道も描けないまま、少子化を進めて高齢者の蓄えた資産で生きています。そして、今
資産が少なくなったから高齢者に去ってくれというのでは、あまりにも冷たく寂しい
国になったといえます。そうした明るい老後が期待できない国に果たして住みたいで
しょうか? 最近友人が日本を出たいというのがよく分かります。ただ、私だけでも
最後まで高齢者を見守りたいと考えます。

                             経済評論家:津田栄

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