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投稿者 ダイナモ 日時 2008 年 2 月 15 日 22:14:51: mY9T/8MdR98ug
 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20080212/147052/

(いつからアルコール中毒話に? 前回から読む)

―― 会社員でなくなった後にゴルフを始めた小田嶋さんは、ゴルフに熱中した後、アル中になりました。中毒の対象がいつの間にかすり変わってしまったのですが、きっかけはあったのでしょうか。

小田嶋 いや、飲んでいるうちに、どんどんひどくなってしまった、ということですね。そうするとゴルフに限らず、あらゆることが全部だめになっちゃう。酒は10代からずっと飲んでいたわけなんだけど

 自分でやばいな、と思う時はあったの?

小田嶋 幻聴が出たんだよね。ただ、初めは幻聴だと思わなかったの。何か隣の部屋で殺人の相談をしている、と。これは通報した方がいいかなと思って、部屋の壁にコップを付けて、耳を近づけたんだけど、肝心なところが聞こえないわけ。

「あんた、大酒呑みだね」

―― その姿だけで、すでにかなりまずいですよね。

小田嶋 ですよね。で、「参ったな」とひとり言を言って、テレビをつけたら、女優さんが「それは違うわよ」とか言っていて、その声が真後ろからもう1回聞こえる。俺は、えっと思って、それで今度は部屋の外の電車の音が、ガタンゴトン、ガタンゴトンではなくて、何だ何だ何だ、と聞こえる。「なんだ、なんだ、なんだ」と、完全に人間の言葉で言いながら走っているんですよ。

―― 平仮名が「なんだ、なんだ」と。

小田嶋 これ、明らかに幻聴だなと思って。

 でも自覚できたんだ。

小田嶋 そう。ただ、アル中の幻聴だと思わなくて、俺は頭が狂ったんだなと。

 むしろ。

小田嶋 それで友達に電話して、彼の助言に従って、赤羽の心療内科というところに出かけたんだよ。

 受診のきっかけは幻聴だったの?

小田嶋 そう、幻聴。それは5日ほど酒を抜いたゆえの禁断症状だったわけなんだけど、その時はそう思っていなくて。そのころ、時々ひどく飲み過ぎて、翌日に迎え酒どころか、水さえも飲めなくなっちゃう日があったの。だからひとつ、酒を飲むのをやめようとちょっと反省して、抜いたんだよね。ところが、その5日間はまるで寝られないわけよ。でも頑張って酒を飲まないでいたら、幻聴が聞こえてきたという。

 それは真面目にやばいよ。

小田嶋 それと、ティッシュの箱があるじゃない。あの、箱からしゅっと出ている紙が、手に見えるのよ。

一同 はあ。

 でも、よく医者に行ってくれたよ。

小田嶋 精神科の医者って偉いな、と思ったのは、最初すごく優しいわけ。

 要するに不安な人が来るわけだから、初めは、どうしました? という感じでさ。そのうち、お酒を週に何回、どれぐらい飲みますか? という話を聞いたりしていくんだけど、その途中で、あなた、大酒飲みだね、と言った時の顔が厳しくなっちゃって。

―― その厳しさに、ちょっとしびれて。

小田嶋 はい。アル中患者は甘やかしたらいけないのね。医者は、不安神経症の人とか、うつ病の人とかに対しては…

 優しいよね。

小田嶋 優しい。すごく優しい。だから俺にも最初はすごく優しかった。でも、あなた、大酒飲みだね、と見破って。いや、酒は確かに好きですよ、と言ったら、いや、あなた、これは完全なアル中だよと、診断が下されたんだよね。

 今度は厳しくね。

小田嶋 全然、厳しいの。鬼みたいになって。あなたね、こんなことをやっていると、まだ今は30代だから困った酔っぱらいぐらいのところにいるんだろうけど、40代で酒乱、50代で人格崩壊、60代でアルコール性痴呆だよ、と、すかっと言われて、ありゃって。

「ちょっと困った酔っぱらい」くらいに思ってた

―― すごい人生設計ですね。

小田嶋 言われるまでは自分では、愛嬌のある酔っぱらい、ぐらいに思っていたわけなんだけどね。ま、ちょっと困った酔っぱらいかな、と。

 人に暴力を振るったりとか、そういう酔い方じゃなかったんだ。

小田嶋 そういう方じゃなかったけどね。でも何かいろいろ忘れたり、トラブルは散々あったから。

―― 結婚はもうされていたんですか。

小田嶋 していました。ちょっと嫁さんも困っていて、彼女は最終的なところはあんまり一緒に住んでなかったね。

―― それはそうでしょうね。

 子供もいたでしょう。

小田嶋 そう、子供もいた。子供を風呂に入れるんだと俺が言い張って、床に落っことしていた。

 とんでもない。

小田嶋 頭を打った子供が血だらけになった様子を見て、ワハハなんて笑っていたり。

―― しかし、よくぞ生還され、今、ここにいらっしゃるというか。小田嶋さんも岡さんもお酒、全然飲まないですし。

小田嶋 結局ただやめただけです。

―― しかし、どうやって。

小田嶋 医者の言うのには、アルコールをやめるということは酒をやめることじゃなくて、人生を再設計することだと。酒飲みって、友達も全部酒飲みだし、何かをやる時に全部酒絡みでやっているんですよ。旅行へ行く時だって、まず着いてから、どこで酒を飲もうかな、そうそう、温泉に入ったら、湯船に盆を浮かべて、日本酒をきゅっ、というのをやってみたいかな、とか、そういうことを考えているんですよ。

 いいね、楽しそうだね。

小田嶋 盆にとっくりと盃というのを一度やってみたいとかね。

 それは、つまみというか、肴というか、そういうものもこだわっていくわけ?

小田嶋 いや、こだわっていかなかったね。それこそがアル中者の特徴で、ハマった後は、ひたすらアルコールを摂取するという方に行くのよ。だから、酒の味だのコクだのキレだのというやつは大嫌いで、うるせえな、そんなの、結局アルコール度数だろうがよ、とはっきりしているんだよね。

 じゃあ、どんなグラスであろうといいわけ? 関係ないの、それも?

小田嶋 そう。グラスも関係ない。

 すごいね、それは。

小田嶋 とにかく一番度数の高い酒が好きなわけ。ビールなんかはいくら飲んだってお腹ばっかり膨れて酔わないじゃん、という感じで大嫌いなの。だからやっぱりスピリッツ系に行くのよ。それで結構たくさん飲むから、値段が高い酒とかいうのはそれだけで嫌なわけ。

酒は度数。でもせめて舶来物でよっぱらいたい

―― 高級なウイスキーとかは?

小田嶋 大嫌い。

 じゃあ、何を飲んでいたんだ。

小田嶋 ギルビーのジンです。

 それはアル中になっちゃうよ、お前。

小田嶋 でも、結局、最後の気取りとしてさ、樹氷とかは嫌なのよ。

―― ギルビーのブランドでないとイヤだ、と。

小田嶋 どうせならヨーロピアンなアル中になろうと。実は値段は激しく安いんだけれど、ギルビーのジンと言うと、ちょっとかっこいいだろうと。

 ジンは安いよね。

小田嶋 安い、安い。しかも1本の値段だけでなく、アルコール度数から換算したって、断然に安い。これは度数比でいける、と。

 度数比という計算式ができているんだ。

小田嶋 ギルビーのジンは35度と45度があるのかな。45度の方をだいたい買って。あの犬の顔が付いたやつを。

 それは何、午前中から飲んじゃうわけ。

小田嶋 そう。午前中からだね、やっぱり。

 すごいねえ。

小田嶋 いや、午前中から飲むというのは、起きると必ず二日酔いだから。二日酔いはすごい気分が悪いんだけど、酒をある量飲むと、すっと消えるということがある。それで軽く、そんなぐびぐびじゃなく、ちょっと飲むの。で、これは飲んだんじゃなくて二日酔いを解消するためにやっているんだよ、と。

 うん。

小田嶋 昼間はだいたい迎え酒が残っているぐらいで、ぼうっとして過ごすんだけど、夕方になると今度はすごい憂鬱がやってくるのね。要するに抑うつというのはアルコール依存の一番最初の症状で、次が不眠なの。だからナイトキャップがないと寝られない人たちというのは、初期症状の第1段階には来ている人たちなの。

 お前、妙に説得力があるな。

小田嶋 あとは酒が抜けた時。焦燥感とか悲哀とか、何か切ないなとか、悲しいなという感じがやってくる。それがつらくてやめようと思った時期もあるんだけど、あまりにも悲しいから、もう死んじゃってもいいんだし、とか思って。別に健康とかそういうことじゃないでしょう、と思ってまた飲んじゃう。だから、あれはやっぱり脳をだましているんだよ。

 だましているよ。

小田嶋 脳が飲むための環境づくりの思考回路にちゃんと向かってくれているわけ。それで飲んだらすかっとさわやかになるわけじゃないし、ああ、飲んでしまったな、という嫌な気分でもあるんだけど、ある安定感の中に入って行くんだよね。

 それ、ますますもってやばいよね。

小田嶋 飲んでない時期の抑うつと、飲んで泥酔しちゃった時のひどい状態と、その2つの極端な状態を行ったり来たりしているんだけども、その間にほろ酔い期間という、ちょっとだけ気分のいい期間があるんだよね。それがどんどんなくなっていくのがアル中という病気だ、と俺の主治医の先生が本で書いていて、実際そうなのよ。飲んでいて、何となくふっと落ち着いて、気分がよくて、機嫌がよくてという時期が、すごい少ない、アル中患者は。

 酒って、普通はそこが楽しくて飲むんだよね。

小田嶋 そうそう。そこを何とか引き伸ばそうとするようにみんな頑張っているでしょう。でも、何となく気分よく酔っているという時間がすごく少ないのがアル中という人たちの特徴的な酔い方で、ずっとしらふだと思っていたら、急に分からない人になる。

失礼をお詫びします

―― そのころは岡さんと交流はなかったんですか。

小田嶋 なかったかもしれないね。

 一時期、途絶えたんだけど、でもその前に、関係が冷えたことがあったんだよ。

小田嶋 そう。岡に失礼があった。というか、そのころは各方面とね、トラブルというか、いろいろ。

―― いろいろ・・・・・・。

小田嶋 いや、だって、アル中というのは失礼なやつになるから。仕事にしても、原稿の締め切りを延ばすとか、落とすとかいうことがあって。落とすというのは結構、言語道断なんだけど。先方が、どういうことなんですか、って言ってくると、どういうことって、その質問の仕方は何ですか、なんて返し方をしていて。待つ方があれだと言うけど、延ばす方がどれだけつらいか分かりますか、延ばす方の身にもなってください、みたいな、そういうことを言っていましたよ。

 すごいよ、それ。普通は言えないよ。

小田嶋 ぶん殴ろうか、という話だよね。でもそれは酔っているから言ってるわけで、後で、えっ、僕、そんなことを言いましたか、なんてまた普通に言っているわけですよ。

―― 正気に戻って自己嫌悪には陥らないんですか。

小田嶋 陥るんだけど、陥るとまたそれが飲む理由になるでしょう。

―― アル中になる気分と、青春の時の読書(『「セカンドライフ」と「藤沢周平」と『こころ』と』参照。『車輪の下』の話です)は、因果関係があるんですか。

小田嶋 いや、たぶんないと思いますよ。勤め人をやっていると、昼間は少なくとも飲まないでしょう。会社を辞めて、そういう縛りがないという状況が、そっちへ持っていったんだろうな、とは思いますけどね。気が付いたらいつの間にか、ずっと飲んでいるようになっちゃったんです。

―― 気が付いたら。

 怖いよね。しかし、よく生還したよね。

小田嶋 戻らない方が結構いるからね。

 戻る人の方が圧倒的に少ないんじゃないか。

小田嶋 俺の場合は、人間関係を簡単に断てたからじゃないですかね、酒関連の。酒飲みの友達は酒飲みしかいないんだけど、ここは割とすっぱり切れるところだったんだよね。これは岡なんかも若干近いところがあると思うんだけれども、岡も僕も、東京で育った人間なわけだ。というのは、本質は淋しがりで、対人関係がね、人のいないところに行くのが、もう即、寂しいわけ。ちょっと田舎に行って、温泉宿に着いたとしても、1泊ですぐ帰りたいくらい。

人恋しくて、ワガママなひとたち

 うん、すぐ帰りたい。だめだめ。

小田嶋 海外とか行っても、すっかりだめで。

 あ、すっかりだめ。いや、もう、帰ろうと。

小田嶋 それぐらい人のいるところが好きなくせに、人に構われるのが大嫌いなんですよ。

―― おいおいおいおい。

小田嶋 その辺は昔からよく人に指摘されたりするところなんだけど。田舎の人たちの方が1人にも強いし、人に囲まれてがしゃがしゃされるのにも強い。でも俺は、寂しいところに置かれるのにすごく弱いくせに、人に構われたり、あるいはプライバシーに侵入されたりすると、なぜ私が! なんて猛然と突っ張ってしまうようなところがあるんだよ。そういうところがやっぱり1人で飲むという形になっていったのかな、という気はしないでもない。しかも同時に、酒飲み友達とあっさり別れられたな、というところでもある。

 でも、この対談、アル中の人が読んだらきっと勇気が出ると思う。

―― 共感してもらえる?

 共感というか、いや、共感してどうするのよ。自分も治そうと思わなきゃ。

小田嶋 確かに。共感して、まだこんなものでいいかな、悪くないなって。

 まずいよね、それは。だけどアル中のやつには心強いというか、小田嶋は相当ひどいアル中だったわけだけど、ともかく立派な人になったよね。

小田嶋 でも、めったにいないよ、お酒をやめるって。

 しかも小田嶋は、たばこまでやめてるんだから。

生き方よりは、クセのほうが改めやすい

小田嶋 たばこは大したことないよ、酒と比べれば。やめてる人も結構いるし。

 まあね。たばこはやめてる人の方が多いよね。

小田嶋 たばこも酒もやめる時にきついのは同じなんだけど、酒がたばこと違うのは、酒って習慣の問題じゃなくて生き方の問題だから、さっき言ったように。

 なるほど。

小田嶋 習慣を改めるというよりも、人生を転向するということがとても難しいわけ。

 お医者さんに、あなたはインテリだからと言われたことも、更正のきっかけになったって、言っていたよね。

小田嶋 それは、1日をちゃんと理知的に運営できないとだめだ、ということなんだよね。ただやめるぞ、と我慢しているんじゃなくて、やめるために何をするか、ということを順序立てて考えられないとだめなんだ、とお医者さんは言っていたんですよ。

 俺もだから、ちょっとウソ臭くだけど、野球を観ていたのを人工的にサッカーに変えてとか、時代小説をすっかり読むのをやめてSFを読んでみるとか、レゲエを聴いていたのをジャズにしてみるとかしたわけ。でも、難しいよね、アル中を治すのは。

 たばことどっちが難しい?

小田嶋 たばこより大変だと思うよ。たばこって結局、慣れの問題だけだけど、酒って生き方の問題になっているからね。例えば本の読み方、音楽の聴き方、旅行のし方。要するに生き方の習慣に全部、酒って絡んでいるのよ。その点、たばこは癖みたいなものだから。まあ、頭をかく癖を直そうみたいな面倒臭さというか難しさが、たばこにはあるということなんだけど。でも、そこさえクリアできれば、たばこがなくなったことで結構、得るものは大きい。

 夜中にちょっと買いにいかざるを得ない、ということがなくなるものね。

小田嶋 ただ、たばこをやめる時に何がだめなのかというと、無気力になるのよ。禁煙期間中って、何にもやる気がしないわけ。だから例えば原稿が進まない。仕事をちゃんとしているやつとかノルマがあるやつとかは、やっぱりある圧力が掛かってくると、たばこを吸って気分を変えて何とか向かう、というのがスイッチになっているでしょう。そのスイッチがなくなると、あれ、俺、たばこなしでどうやって進めばいいの?? というような浮遊感があるのよ。

 ああ、そうか。そうだよね、俺と一緒だな。

悪夢

小田嶋 まあ、いいやと言って原稿を投げ出して寝ちゃうみたいなことになって。だから2週間、たばこをやめること以外何もできませんでしたという。

 1月たったらもう大丈夫なの?

小田嶋 半年はかかるのかな、たばこを吸う夢を見たりするから。

 嫌だな、それ。そんなの嫌だよ。

小田嶋 でも、酒はもっとひどいよ。

 もっとつらい?

小田嶋 酒はいまだに、わっ、飲んじゃった、というすごい夢を見るもん。

 やめてどのぐらいたつの? 10年ぐらい?

小田嶋 12年か。

 それで夢を見るの?

小田嶋 うん。

 やばいな。

―― お医者さんに行かれた期間はどれくらいあったんですか。

小田嶋 医者には半年だけ。要するにその時にトランキライザーと抗うつ剤を処方されて、8キロ太ったかな、半年で。

―― たばこをやめたのはその前後なんですか。

小田嶋 いや、たばこは最近。2002年、日韓ワールドカップの時ですか。

 なんかうらやましいね、たばこをやめて何年と聞くとね。

―― 小田嶋さんがまぶしいですか。

 輝かしい。コンプレックスを感じるよね。あーあ、どうしてこんな時代になっちゃったんだろなあと。

小田嶋 たばこ吸いにつらい時代だよね。でも、大丈夫だよ、大したことないよ、と思っている人は、だいたいやめられるみたいだよ。たばこをやめるのは大変だぞ、と思っていると、それが心理的な罠になってやめられなくなる。高をくくっているやつが成功するというのがこの業界の方式なんだよ――業界というか。

 俺は大したことないと思っているんだけどさ。ただ、やめようと思ったことがないだけで、そこがね。さりげなくやめるトライはしているけど、たぶん難しいよね。

小田嶋 俺、たばこをやめて、がっと太って、それで去年、減量して。もう面倒臭いことをやってるなと自分でも思うけど、減量もまた大変でさ。3カ月ぐらい本当に、もう無気力だったですね。

 簡単に無気力になっちゃうんだ。

小田嶋 そう。ものを食べないということのおかげで、何もやる気がしないわけよ。1日、俺、減量しかしていない。1日に5回くらい体重計に乗って、ああ、この2週間で1.1キロ減ったな、とか、女子高生のような生き方をして。

具体的に結構格好悪い

―― しかし、何度も驚きますが、よく生還されましたね。

小田嶋 アル中のデフレスパイラルは、結構厄介なことでしたよ。アル中の話ってすごく美化されがちだけど。

 堕落の喜びみたいな文脈があるでしょう。ある種、ヒロイックな。

小田嶋 そう、そこ。でも見逃されがちなのが、アル中って、要するに汚いんですよ。歯を磨かないとかね、そういう方向になって。

 具体的に汚い。

小田嶋 下の方がだらしなくなって。それで俺、押し入れにおしっこをしたこともある。

 酔っ払っていて?

小田嶋 そう。酔っ払っていた。トイレだと思って開けて、して、閉めて、また寝ていて、うわっ、何か変なにおいがするぞ、なんて、その翌朝に気が付くんだよ。

 でも、それ、俺は1滴も酒なんか飲んでないけど、気が付いたら台所にしていたということがあったよ。

小田嶋 本当か。それはもう本当にすごいやばい。

 飲んでないんだから。

小田嶋 もっとやばいよ。それは寝ぼけて?

 寝ぼけて。30歳くらいの時だけど。

小田嶋 ああ、本当? それはまずい。とてもまずい。

君がアル中のころ、僕は…

小田嶋 そのころ、俺と岡とは全然、会っていない時期で。

 そう。僕にしても友達と会うということがなくなっていた。だって、そもそも無理じゃないですか、月から金までは仕事をしているから。しかも電通のクリエイティブでしょう。夜の時間なんかないわけ。だから別に小田嶋に限らず、誰とも会っていないんだよね、30代の前半5年間というのは。

小田嶋 じゃあ、ものすごい働いていたわけ?

 ものすごい働いてた。

―― なるほど。そうするとやっぱり。

 そうそう。そうすると、もうおかしくなって。

小田嶋 俺がアル中だった時代に、岡はワーカホリックをやっていたんだよ。

 そして岡さんの人生の諸問題に続く。


岡 康道(おか・やすみち)
クリエイティブ・ディレクター、CMプランナー。
1956年生まれ。80年早稲田大学法学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとしてサントリー「BOSS」「南アルプスの天然水」、JR東日本「その先の日本へ。」など、時代を代表するキャンペーンを手がける。97年、JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。
99年に日本最小最強のクリエイティブ・エージェンシー「TUGBOAT」を川口清勝、多田琢、麻生哲朗とともに設立。主なクライアントに、キリンビール、富士通、大和証券、富士ゼロックス、JR九州、パイオニア、ライフ、中部電力、シチズン、大和ハウス、NTTDoCoMoなど。TCC最高賞、ADC賞、ACC賞、ニューヨークADC賞、クリオ賞など受賞多数。TCC会員、ニューヨークADC会員。現在、雑誌ポータルサイト「magabon」にて、エッセイ連載中

小田嶋 隆(おだじま・たかし)
1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。
 

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