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Re: イスラエルがイランを核攻撃する?田中宇の国際ニュース解説2007年1月9日
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投稿者 スットン教 日時 2009 年 1 月 02 日 16:08:11: CmuKS.2SNuq/E
 

(回答先: イスラエル与党の支持上昇 空爆「軍事的成功」と評価(共同通信) 選挙対策のためにパレスチナ人を虐殺 投稿者 近藤勇 日時 2009 年 1 月 02 日 11:58:09)

 1月7日、イギリスの新聞サンデータイムスは「イスラエルが、戦術核兵器(核バンカーバスター)を使ってイランのウラン濃縮工場を破壊する計画を秘密裏に進めている」と報じた。(関連記事)

 核バンカーバスターは、地下深くに作られた敵の施設を、核兵器の大きな破壊力を使って壊す爆弾である。昨年末の国連安保理決議で操業停止を求められたイランのウラン濃縮工場は、イラン中部のナタンズにあり、地下施設になっている。今回の記事によると、イスラエルは、広島型原爆の15分の1の破壊力を持つ小型核爆弾を使ったバンカーバスターで、ナタンズのほか、イスファハン郊外のウラン転換工場、プルトニウムを作れるアラクの重水炉などを攻撃する計画を進めている。

 攻撃はイスラエル空軍の爆撃機で行われる予定で、すでに2つの飛行隊が、イスラエルからイランの核施設を攻撃してイスラエルに帰還するという想定で、ジブラルタルのイギリス軍基地までの飛行訓練を実施したという。

 今回の記事は、情報源がイスラエル軍であると書かれている。「核攻撃の情報が漏洩された理由は、おそらく(1)イランを脅して核開発を止めさせるため、(2)アメリカを丸め込む(イスラエルだけでなくアメリカもイランを攻撃するよう仕向ける)ため、(3)世界にあらかじめ攻撃の予告をして非難を抑制するためだろう」とも書かれている。

 だが、記事を書いたのはワシントンとニューヨークの駐在記者であり、ワシントンの米政府筋が本当の情報源ではないかという疑いを、私は抱いている。以前の記事に書いたように、イスラエルはアメリカにイランを攻撃させたがっているが、逆にアメリカでは、チェイニー副大統領ら米政府内のタカ派・ネオコン筋が、イスラエルにイランを攻撃させたがっている。イスラエルと米政府は、仲間のように見えて、実は互いに相手にイラン攻撃をさせようと、マスコミや政界を巻き込んで化かし合いをやっている。

(記事のもう一つの発信地であるニューヨークは、有力なユダヤ系アメリカ人が集まっている街であり、彼らがイスラエルから得た情報を、政治的意図に基づいてリークした可能性もある。ニューヨークのユダヤ人社会は、今のイスラエルの好戦的な戦略を嫌っている)(関連記事)

 今回の記事に対しイスラエル政府は、そんな計画はないと否定したと報じられている。しかし、その「否定」の中身をよく読むと、実は否定になっていない。イスラエルのオルメルト首相の広報官は「サンデータイムスの記事に対しては、何も反応しない」とノーコメントであり、否定も肯定もしていない。対イラン戦略の担当者であるリーバーマン戦略脅威担当大臣(Avigdor Lieberman)もノーコメントだった。報道を否定したのは、外交重視のイスラエル外務省だけだった。(関連記事)

 また、昨年11月の中間選挙で米議会の多数派になった民主党は、中東の戦争拡大につながるイランに対する軍事攻撃には反対かと思いきや、そうではないことも分かってきた。新たに議会下院の多数派のリーダー(院内総務)になった民主党のホイヤー議員(Steny Hoyer)は1月7日に「イランの核開発問題の解決に他の手段がないなら、軍事攻撃を実施することには反対しない」と表明した。(関連記事)

 昨年末の国連決議をイランが無視した段階で「他の手段」はすでになくなったといえるので、民主党は事実上、イスラエルもしくは米軍によるイラン攻撃に反対しないということだと読み取れる。米政界で、イランへの軍事攻撃にはっきりと反対している勢力は、ごく少数の反戦系議員だけである。イスラエルがイランを攻撃したら、おそらくアメリカではほとんど反対もなしに、アメリカとイスラエルの連合軍がイランと戦争する状態になる。

▼ネオコンを立て直すためイスラエルにイラン攻撃させる

 今回の記事が出てきた前段には、イラン攻撃をめぐる、イスラエルとアメリカの昨年以来の駆け引きがある。

 アハマディネジャド政権のイランは、レバノンのヒズボラと、パレスチナのハマスという、イスラエルの南北にいる強硬派の武装勢力をテコ入れし、ゲリラ戦の泥沼を作ってイスラエルを潰そうとしている。これに対し、イスラエルのオルメルト政権は、アメリカにイランを攻撃させて潰し、自国を守ろうとしている。昨年11月の米中間選挙の数日後に訪米したオルメルトは、ブッシュ大統領やチェイニー副大統領に「米軍がイランを攻撃してほしい」と頼んだ。だがブッシュは「イラクで手一杯だから、イランを攻撃することはできない」と答えた。(関連記事)

 困っているオルメルトに、チェイニーが入れ知恵した。「イスラエルが先にイランを攻撃したら、イラクやペルシャ湾岸にいる米軍は、イランと戦争せざるを得なくなるよ」。ブッシュ政権の共和党は、昨年11月の中間選挙で破れ、党内で「イラク戦争を失敗させたチェイニーやラムズフェルド、ネオコンの好戦的な戦略がいけないんだ」という意見が強まった。ラムズフェルドは辞任し、チェイニーとネオコンの影響力は下がった。

 だから、イスラエルの要請に応えてアメリカがイランを攻撃することはできない。しかし、イスラエルが勝手にイランとの戦争を始めて、アメリカも参戦せざるを得なくなれば、イスラエルは米軍を使ってイラン潰しができるし、米政界では再び好戦的な気運が強まり、チェイニーやネオコンも復権できる。一石二鳥である。(関連記事)

 この後12月には、新任の米国防長官になるロバート・ゲイツが、米議会の公聴会で、イスラエルが核兵器を持っていることを暴露してしまった。だが、この直後にオルメルトは、イスラエルの核保有を否定するどころか、逆に、12月11日のドイツ訪問時のインタビューで、イスラエルの核保有を認めるような発言を行っている。(関連記事)

 イスラエルはこれまで、核兵器を持っていることを認めず、曖昧にしてきた。曖昧戦略のおかげでイスラエルは、国際的な核開発阻止のメカニズムであるNPT(核拡散防止条約)に入らずにすむ一方で、世界には「イスラエルは核を持っているから怖い」と思わせることができた。オルメルトが自国の核保有を示唆してしまったことは自殺的行為であり、イスラエル政界では糾弾の声が挙がった。(関連記事)

 12月のオルメルトの核保有の示唆は、それだけを見ると奇妙だが、もし11月のオルメルト訪米の段階で、チェイニーとオルメルトとの間で「イスラエルが先にイランを攻撃する。必要なら核兵器も使う」という戦略で話がついていたのなら、米側がイスラエルの核保有を示唆した後、オルメルトも追認的に核保有を示唆するのは、納得できる流れである。「イスラエルがイランを核攻撃する」という今回の記事は、12月のイスラエルの核保有示唆からの流れの、次の段階として存在していることになる。

(オルメルトが初めてイランを武力攻撃するかもしれないと発言したのは、11月の訪米時だった)(関連記事)

▼オルメルトはレバノン戦争でもだまされた

 オルメルトとブッシュ・チェイニーは、昨年7月にイスラエル軍がレバノンの親イランの武装勢力ヒズボラに戦争を仕掛けたときにも、その前の昨年5月にオルメルトが訪米した際に、ブッシュの側からオルメルトに「イランとの戦いの前哨戦として、早くヒズボラを攻撃して潰してほしい」と要請があり、イスラエルはこの要請に基づいて開戦している。イスラエル軍はヒズボラを攻撃できる口実ができるのを待ち、昨年7月中旬、ヒズボラがイスラエル兵を捕虜にしたことに対する報復としてレバノンに侵攻した。(関連記事)

 アメリカがイスラエルに要請して行わせた昨年のレバノン戦争が、イランとの戦いの第1段階(前哨戦)であるなら、今後行われるかもしれないイスラエルのイランへの攻撃は、第2段階(決戦)ということになる。

 とはいえ、イスラエルはこの決戦に勝ちそうもない。そもそも昨年のレバノン戦争も、イスラエルにとって失敗だった。ヒズボラは戦争の後ますます政治力をつけ、今やレバノンの親米シニオラ政権を倒そうとしている。今後イスラエルがイランを攻撃したら、イランの核施設は破壊されて核開発は阻止されるかもしれないが、イランは報復として、ヒズボラやハマスを使ってイスラエルを全面攻撃し、イスラエルはゲリラ戦の泥沼に陥って国を滅ぼすのではないかと予測される。前哨戦に負けたイスラエルは、そのままの態勢で決戦に臨もうとしており、より大きく負けそうである。

 私は、以前の記事に書いたように、チェイニー副大統領はオルメルトをだまして戦争に引き込み、イスラエルを潰そうとしているのではないかと疑っている。ここで湧いてくる疑問は、イスラエル側には軍事や国際政治の専門家がたくさんいるのに、なぜ何回もチェイニーに騙され、祖国を失うかもしれない失敗に陥ろうとしているのか、ということである。

▼アメリカのみが頼りのイスラエル

 イスラエルの中枢には、オルメルトの戦略に反対し、イランとの戦争は避け、イランとレバノンの間に位置するシリアと秘密裏に交渉して反イスラエルから親イスラエルに転換させ、レバノンとパレスチナも親米派へのテコ入れによって安定させ、イランの脅威を減少させるべきだと主張している勢力が何人もいる。

 国防大臣のペレツは、シリアとの和解を主張してオルメルトと衝突したし、外務大臣のリブニも外交での解決を希求し、オルメルトは不人気なので自分が首相になった方が良いと言い始めている。先日の調査では、与党カディマの内部でオルメルトを支持している人はわずか9%なのに対し、49%がリブニを支持している。ヒズボラとの戦争に失敗して以来、オルメルトの人気は下がったままであり、いつ政権交代が起きても不思議ではない。(関連記事)

 しかし、オルメルトにはアメリカという強い味方がいる。今やイスラエルにとって、アメリカは唯一絶対の後ろ盾である。昨年のレバノン戦争以来、イスラエルは世界の嫌われ者であるが、その中でブッシュ政権のアメリカだけがイスラエルの味方をしている。アメリカに見放されたらイスラエルは、軍事・外交・経済という国家を成り立たせるすべての分野で窮地に陥る。

 そして、アメリカの最高権力者であるブッシュ大統領と、その黒幕であるチェイニー副大統領は、オルメルトを強く支持し続けている。その一方でブッシュ政権は、イスラエルがシリアやハマスと和解交渉をすることに強く反対している。オルメルトは、シリアやハマスと和解せず、イランを攻撃すると言っている限り、アメリカに支持されるが、方針を変えてシリアやハマスと和解したらアメリカから見放されてしまう。

 この恐怖感があるため、オルメルトは自滅するかもしれないと懸念しつつチェイニーの言うことを聞かねばならないし、イスラエル政府内の他の高官たちも「アメリカが悪い」とは決して言えず、代わりにオルメルトを批判するぐらいしかできない。

▼互いに無視しつつ暗闘する和平派と好戦派

 イスラエルが陥っているもう一つのまずい状態は、イスラエルの中枢が一枚岩であるように見えて、実は和平推進派と好戦派が互いに相手を無視して動き、互いに潰し合いの暗闘を続けていることである。和平派と好戦派が議論をして国論を一つにまとめれば、自滅的な戦争は避けられるだろうが、そのような方向には進みそうもない。

 イスラエルは1990年代にオスロ合意で和平が画策されたころから、表向きは「一枚岩神話」を保持しながら、実は分裂していた。95年に暗殺された首相のイツハク・ラビンは「イスラエルは、まるで和平交渉などやっていないかのようにテロ(パレスチナ人)との戦いを展開する一方で、まるで戦いなどやっていないかのように和平交渉を展開している。戦いと和平という2つの路線の意志決定は、別々に行われている」と述べている。(関連記事)

(ユダヤ人の中には、イスラエルの建国に賛成する「シオニスト」の人々と、反対する人々が、シオニズム運動の初期段階からいたが、彼らの間の戦いも、表向きは「ユダヤ人は一枚岩である」という神話を保ったままの暗闘として行われてきた。この手の暗闘は、誰が敵で誰が味方か分かりにくく、偽善と詭弁に満ちたものになる)(関連記事)

 イラク侵攻以来、イスラム世界の人々は極度の反米・反イスラエルになっている。一方で唯一絶対の後ろ盾であるアメリカは、イスラエルに「ヒズボラを攻撃せよ」「次はイランを核攻撃しなさい」と好戦的なことばかり言ってくる。そんな中で、和平派と好戦派がバラバラに戦略を進めると、好戦派の方が勝つに決まっている。このままではイスラエルは自滅すると分かっていても、和平派が優勢にはならない。

▼チェイニーは戦争を急いでいる?

 とはいうものの、オルメルトがチェイニーに引きずられてイラン侵攻をしてしまうことを防ぐ方法はまだある。オルメルトは人気が落ちており、政権がいつ崩壊してもおかしくない。オルメルト政権はカディマと労働党などの連立政権であり、労働党の政権離脱などが起これば、解散総選挙である。総選挙をやるとオルメルトよりさらに好戦派のリクードのネタニヤフが首相になる可能性もあるが、少なくとも解散総選挙でゴタゴタしている間は、イスラエルはイラン攻撃をできない。

 カディマの党首がオルメルトからリブニに代わり、労働党の党首が軍事に疎い労組出身のペレツから、軍事に強い元軍人のバラク(1月7日に党首戦への出馬表明をした)にでもなれば、イスラエルがチェイニーにだまされることを回避できるかもしれない。(関連記事)

 つまり、オルメルト政権が倒れたら、イスラエルとイランをぶつけるチェイニーの画策は成就しにくくなる。アメリカでは2008年11月に大統領選挙があり、選挙の年は戦争をやりにくいと言われている(2003年のイラク侵攻の前にそう言われていた)ので、チェイニーとしては2007年中にイランとの戦争を起こしたいだろう。

 これらのことからチェイニーは戦争を急いでおり、イスラエルをけしかける意味で、サンデータイムスに核攻撃計画の記事をリークしたのではないかと推測される。私は前々回の記事で「イランとの戦争が始まるとしたら今年3−6月の可能性が高いのではないか」と書いたが、もしかするとそれより早く戦争が始まるかもしれない。開戦したら、イスラエルは自滅に近づく。

 逆に、イランを攻撃する前にオルメルト政権が崩壊し、イスラエルが解散総選挙になれば、イランとの戦争は回避される可能性が強まる。また、もしオルメルトが賢明な人であるなら、チェイニーからの圧力を受けて今にもイランを空爆しそうなふりをしながら、何とか時間稼ぎをして自滅的な戦争を回避しようと努力するだろう。私を含む中東ウォッチャーたちは何度も「もうすぐイランと戦争になる」と書くが、結局戦争になりそうでならないかもしれない。

 とはいうものの、ヒズボラとハマスという、イスラエルの北と南にいるイラン系の武装勢力の力は強まる一方だ。すでに、パレスチナではハマスとファタハの内戦が始まっているという見方もある(関連記事)。イランとの戦争が何とか回避されても、いずれイスラエルはゲリラ戦の泥沼に陥り、長期的には国が滅びてしまう可能性は高い。

 イスラエルとイランの戦争が起きた場合、アフガニスタンからソマリアまでの西アジア全域が戦争になる。石油価格は急騰し、中東の石油への依存度が異様に高まっているアメリカのインフレが再燃し、世界経済にも多大な悪影響を及ぼす(関連記事)。軍事的、外交的、経済的なアメリカの覇権失墜が早まり、日米同盟の崩壊も近づく。イランとの戦争の話は、このように重要なテーマなので、今後も頻繁にこのテーマについて書くかもしれないが、飽きずにお読みいただければと思う。

http://tanakanews.com/070109israel.htm  

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