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「オバマの軍事外交姿勢」『from 911/USAレポート』第404回(冷泉彰彦)
http://www.asyura2.com/09/bd56/msg/135.html
投稿者 愛国改善党 日時 2009 年 4 月 11 日 17:07:02: gpdmClaQFBffI
 

 ■ 『from 911/USAレポート』第404回
    「オバマの軍事外交姿勢」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』第404回
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「オバマの軍事外交姿勢」

 北朝鮮の「衛星打ち上げ・長距離ミサイル」兼用ロケットの打ち上げ実験とい
う事
件は、アメリカのオバマ政権をめぐる政治事情から見ると、どんな政治的な流れ
の中
で受け止められているのでしょうか? アメリカのオバマ政権にとっての意味合
いで
すが、この打ち上げという事件は「迷惑」以外のなにものでもありません。です
が、
明らかに「迷惑」なのに、アメリカは平静であるように見えます。そこには、何
があ
るのでしょうか?

「迷惑」というのは、政治的圧力をかけておきながら、堂々とそれを無視して「
打ち
上げ」が行われ、メンツを潰されただけではありません。打ち上げの強行という
のは
オバマ大統領が選挙期間中に公約として掲げてきた三つの軍事外交方針に対して
「堂
々と足を引っ張る」行為に他ならないからです。それは(1)世界的な核軍縮、
(2)
ブッシュ時代の敵国との緊張緩和、(3)大規模な軍事費の削減の三つです。

 例えばこの中の(1)と(2)については、今はオバマ政権の国務長官に就任
して
いるヒラリー・クリントンとの熾烈な大統領候補指名争いの中での重要なエピソ
ード
になっています。まず、核軍縮についてですが、ヒラリーが大きくリードしてい
た2
007年8月の時点で、オバマは「アフガニスタンや対ビンラディンの戦いでア
メリ
カが核兵器を使用するということは考えられない」と発言、これに対してヒラリ
ーは
「合衆国大統領になろうとする者は、核の使用・不使用ということについて軽々
しく
発言すべきではない」と猛攻撃を加えています。ですが、この後もオバマは「最
終ゴ
ールは全世界として、そしてアメリカとしての核廃絶」という主張を変えてはい
ませ
ん。

 また「直接対話」という部分もヒラリーとの、そして本選挙におけるジョン・
マケ
イン陣営との選挙戦において大きな争点になりました。基本的にはイランと北朝
鮮を
想定しての舌戦でしたが、オバマは「ブッシュ政権の直接交渉せずという方針が
危機
を深めた」として、自分が大統領になったら「思い切ったトップ交渉で事態を打
開す
る」と再三繰り返しており、これに対してはヒラリーやマケインは「大統領自ら
が敵
の宣伝に利用されるようなことがあってはならない」として非難を浴びせていま
す。

 最後の軍事費削減は、選挙を通じての論戦や公約という形では目立ってはいま
せん
でしたが、就任前後からの金融危機対策、特に財政赤字を覚悟しての財政出動に
際し
て「自分の一期目が終わるまでに赤字は半減させる」という発言が何度も行われ
、そ
の赤字削減策の一部として軍事費カットという問題が具体化しています。その際
には、
(4)冷戦型の軍備には予算を投入しない、という方針も明らかになっています
が、
こうした発言の全体として「軍事軽視」であるとか「反戦大統領」というイメー
ジを
与えてしまうと、共和党支持者などから猛反発が起きる可能性があります。

 そこでオバマ大統領としては米国にとっての脅威は「アルカイダ」であり、そ
の拠
点となっているアフガニスタン情勢を好転させるために兵力の増派と、軍事費の
追加
をするということをハッキリ打ち出しています。どうして「アフガン(とパキス

ン)」なのかというと、911の記憶の新しいアメリカの世論にはこれがアピー
ルす
るからであり、同時にブッシュの始めたイラク戦争には自分は積極的ではない、
むし
ろブッシュはアフガンを軽視してイラクにのめり込んでいったのが間違い、とい
う主
張が選挙戦術として有効だった、そんな政治的判断があると思われます。

 ちなみに、思い切った「核軍縮」宣言を行った2007年の8月には、これと
前後
して「アルカイダを叩くためならパキスタン領内への米軍侵攻も辞さず」と発言
して、
これもまたヒラリーから「パキスタン政府の主権を無視した危険な発言」として
非難
されましたが、今から考えるとこの両者はセットになっていたのです。つまり、
アフ
ガン=パキスタンに関しては強硬論者であることを貫いて大統領(候補)として
の求
心力は維持し、同時にその他の地域では思い切った緊張緩和を通じて軍事費をカ
ット、
最終的には核廃絶も視野に入れるというスタンスです。

 このようなバランス感覚、つまり一見すると理想主義的な平和志向に見えなが
ら、
そのウラには現実的な政治感覚があるということ、軍事外交に関してもかなりの
レベ
ルで政策にブレがないことがオバマの身上だと言えます。例えば、北朝鮮のミサ
イル
兼用ロケットの発射で太平洋が揺れた直後に、オバマ大統領はNATO軍の基地
のあ
るアメリカの同盟国トルコを訪問していました。一説によればこの地では、シリ
アと
関係のある人物による暗殺計画が発覚するといった物騒な話もあったのですが、
無事
に「米国とトルコの友好関係」をアピール、G20に続いての一連の外遊を締め

くったかに見えました。

 ちなみに、このトルコ訪問というのは、なかなか戦略的に練られた行動です。
まず、
トルコというイスラム教国との堅い同盟をアピールすることで、自分こそアメリ
カが
「文明の衝突」を止める役なのだという誇示ができます。トルコは昔からアメリ
カの
同盟国であり、ブッシュ政権時代も決して関係は悪くなかったのですが、オバマ
とい
う「イスラム教徒を父に持ち、そのことへの攻撃を乗り越えた」存在が、改めて
トル
コとの友好を正面に押し出すと、世界的なアメリカのイメージアップにつながる
から
不思議です。

 ただ、この「友好関係」ですが決してきれい事だけではありません。これは、
暗黙
の内に「クルド人」に対する強いプレッシャーになるのです。クルドの人々は、
現在
のトルコ、イラク、イランを中心とした山岳部に住む民族で、彼等が本当に独立
をし
ようとするとトルコは自国領が削り取られれてしまいます。仮にクルド人がイラ
ク北
部、キルクークの石油収入を得て独立し、その経済力をもってトルコ領内の自民
族居
住地の「切り取り」を行うというシナリオはトルコにとっては恐怖以外の何物で
もあ
りません。クルド労働党という対トルコ強硬派は、このために厳しい弾圧を加え
られ
ているのですが、今回の「文明間同盟」アメリカ=トルコ蜜月の演出は、こうし
たク
ルド人に対する締め付けという効果、そしてクルド人が更に一層穏健化すること
での
イラク北部情勢の安定化を狙っていると言えるでしょう。

 オバマ大統領の外遊はトルコでは終わりませんでした。トルコ訪問の直後、大
統領
への就任後初めてイラクの駐留米軍を「電撃訪問」しています。表面的には、C
NN
などにより「まるで芸能人が来たように大騒ぎをした米兵の様子」が映像として
世界
にバラまかれる中で、「そもそもイラク戦争に反対だった」にも関わらずオバマ
大統
領は前線兵士に強烈に支持されており、オバマ政権のゲイツ国防長官による撤退
計画
もスムーズに行きそうだという印象を与えています。それだけでも政治的な効果
が抜
群なのですが、トルコ訪問とこのイラク電撃訪問を重ねて考えれば、更にクルド
人の
過激な行動は許さない、イラク軍による自力でも治安回復をせよ、というメッセ
ージ
もそこには透けて見えます。

 さて、今回のトルコ訪問では、オバマ=ヒラリー外交は「アルメニアとトルコ
の和
解」を取り持つという大胆な策にも出ています。アルメニアはクルド人と同じよ
うに、
オスマントルコの瓦解のプロセスにあって独立を志向する中、トルコによる大量
虐殺
の被害にあったという主張を持っている国です。そのアルメニアとトルコとの和
解が
現実のものになれば、更に一層強い形でクルド人の反抗を抑え込む形になります
し、
仮にアルメニアとアゼルバイジャン、グルジア(ジョージア)のカフカス三国が
親米
色でまとまれば、ロシアにもイランにも大きな圧力を加えることができるわけで
、相
当な深謀遠慮がある策と言えます。

 もっと言えば、今回のトルコ、イラク訪問、アルメニアとトルコの和解演出と
いう
行動は、この地域において、イランとシリアに対する強烈なメッセージになって
いる
とも言えます。それぞれに、水面下の外交では対米和解の方向も見え隠れする両
国で
すが、こうしたトルコ=イラクのラインをアメリカが強烈に押さえることは、こ
のシ
リアとイランに「勝手をさせない」ための政治的圧力に他なりません。噂の域を
出ま
せんが、仮に今回のミサイル兼ロケットの打ち上げ実験に、この両国の代表とい

「見込み客」が招待されていたのだとしたら、これに対するオバマ流の返答だと
いう
こともできるでしょう。

 ちなみにイランに関して言えば、アフマデネジャド大統領が核開発プロジェク
トの
推進を止めない中、オバマ政権とは水面下の交渉が続いています。今回のトルコ
、イ
ラク訪問はこの虚々実々の駆け引きにおける、アメリカ側の攻勢という意味合い
もあ
ると思います。いずれにしても、今回のトルコ、イラク訪問というのは、X(エ
ック
ス)から始まって答の見えない変数がたくさんある「中東という多元連立方程式
」に
おいて、とりあえず一つの変数に答を出したものと言えるでしょう。勿論、まだ
まだ
解かねばならない変数はたくさん残っているのですが、とりあえず一歩前進とい
うと
ころでしょう。

 さて、こうしたオバマの「理念と現実主義のバランス感覚、戦略的な施策のパ
ッチ
ワーク、なりふり構わぬコスト削減へ」といった外交姿勢は、今回の「発射事件
」へ
の対応でも明らかです。第一報を受けたオバマは一見すると強硬な姿勢を見せ、
日英
との協調で国連安保理の非難決議を推進しようとしているように見えました。で
すが、
6日には一転して「次世代MD開発予算の削減、最新鋭超音速戦闘機F22の導
入中
止」を発表しています。

 またCNNの戦争報道のベテラン、クリスチャン・アマンポーラ記者によれば
アメ
リカは北朝鮮に対して新たな制裁には動かないだろうと述べていますし、基本的
に外
交交渉のテーブルに戻ることが肝要という報道が目につきます。強硬なコメント
と言
えば、「アラスカの噛ませ犬」ことサラ・ペイリン知事ぐらいですが、彼女も「
脅威
への備え」というよりも、「景気刺激策の一貫としてアラスカのMD関連施設の
環境
整備費を」という「要はカネ」といった種類の発言に終始しています。

 では、どうしてアメリカは一見すると緊張感の見えない姿勢を取っているので
しょ
うか。それは、オバマ大統領が「反戦平和」志向の若者の票を固めて当選したと
か、
大統領自身が平和主義だからという理念的なものではありません。そこには何と
言っ
ても、ゲイツ国防長官以下、ペンタゴンによる軍事費の削減への強い執念があり
ます。
それは、単に財政危機だからというだけではなく、ラムズフェルド路線というべ
き、
衛星情報とピンポイント攻撃など、ハイテク兵力に重きを置きすぎて、結果的に
現場
の戦闘員を危険にさらす戦略戦術への批判があるのです。

 そこでは、ハイテクで戦闘局面を制しても、制圧後の地域における生身の人間
を統
治することへの思いが至らない中で、戦勝後に統治能力を持てずに泥沼に引き込
まれ
たイラクの事例はここでも「負の記憶」になっているのです。MDへの否定的な
姿勢
も、現場に踏み込んで交渉したり統治したりするのではなく、大きく引いたとこ
ろか
ら「遠隔操作」のハイテクで相手を圧倒するという戦略姿勢そのものをゲイツ路
線は
否定しつつあるからだと思います。

 非常に単純化すると、オバマの軍事外交姿勢というのは(1)一国主義的にひ
きこ
もりながらハイテク兵器で「遠隔操作」的に相手を圧倒する路線は取らない、と
いう
姿勢が基本としてあり、その具体化として(2)基本は国際協調、対話路線とい
う行
動パターンになってくる、それが(3)強烈なコスト削減指向と重なって、緊張
緩和
という原則を曲げない姿勢ということになってきています。

 ですから、今回の北朝鮮の発射事件に関しても、衛星としては失敗、従って兵
器販
売のためのアピールにも失敗しており直接の脅威も、脅威の拡散する脅威として
も深
刻には受け止めないという「冷静な」対応になるのですが、問題はこの先です。
北朝
鮮問題という「永遠に先送りはできない」問題に対して、オバマ大統領はどんな
手を
打ってくるのでしょうか?

 イラクとイラン、シリアに対して今回のトルコ・イラク訪問で複雑なメッセー
ジを
発信したように、オバマ大統領の外交政策は現実に根ざした精緻なものです。そ
の精
緻な現実主義に照らして考えると、オバマ政権は北朝鮮の早期の政権崩壊は望ん
でい
ないと見るべきでしょう。何故ならば、北朝鮮の崩壊とはイコール、東アジアの
新秩
序を意味するからです。仮に北朝鮮が崩壊して、その面倒を中国が見る中で中国
軍と
駐韓アメリカ軍が対峙する、あるいは統一後の韓国と日本との間がギクシャクす
ると
いったことになるぐらいであれば、アメリカは北朝鮮の現政権を温存し、崩壊を
先送
りにするということは十分にあると思います。

 まして、北を「解放」することで、中国に「自由と民主」のメッセージを送る
とい
うような危ない橋は渡らないのではと思います。オバマの外交はかつてアメリカ
の民
主党が世界各地で行ったような一方的な「人権外交」とは違います。勿論、事態
は流
動的です。北朝鮮で大きな暴動が起きたり、国家規模での自然災害(飢饉をふく
む)
が起きた時は、流れが加速することはあり得ます。ですが、そのようなことでも
ない
限りは、時期を見ながらトルコとイラク、シリアとイランのように、慎重に手順
を踏
むと見るべきでしょう。方程式が複雑になればなるほど、頭脳と粘りを使って「
もつ
れた糸を解きほぐす」、それがバラク・オバマという才能の持ち味なのだと思い
ます。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビ
ア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わ
った
か』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』
など
がある。最新刊『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492532536/jmm05-22 )
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