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軍港・呉を震撼させた労働作家・宮地嘉六の関連報道に寄せて
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投稿者 とこしえ 日時 2009 年 5 月 28 日 22:41:47: CkkAw/nLbPHJc
 

 ◎ ジャーナリストは軍事都市の歴史から何を掘り起こすべきか ◎

    軍港・呉を震撼させた労働作家・宮地嘉六の関連報道に寄せて

                              堀 伸夫

 大和ミュージアム、てつのくじら館といった軍事資料館が海の玄関口・中央桟橋の
周辺に立ち並ぶ広島県呉市。3月14日には、アフリカ・ソマリア沖の海賊対策を名
目として、呉市の基地から海上自衛隊の護衛艦2隻が出航し、現地に向かった。

 呉市を中心とした戦艦大和ブーム、「海軍さんのカレー」「海軍の肉じゃが」など
仕組まれた「海軍の街」ブームのなかで、ここ数年、被爆県・ヒロシマから発信する
世界平和のビジョンがかすんだのではないかと危惧する人もいる。

 こんななか、私は、海軍の街・呉を揺るがした明治45年(1912年)の呉海軍
工廠の大ストライキに参加した労働作家・宮地嘉六が呉市を描いた作品を中心に集め
た短編集を刊行することを企画した。

 宮地嘉六は、1900年から1913年の初めまで、数回の上京・東京生活を挟ん
で、つごう10年間、呉海軍工廠などの呉市内の事業所で働き、呉市や周辺の町(現
在、合併によりすべて呉市となっている)に住んでいる。佐賀市生まれでありながら、
まさに「ご当地作家」といってもよいだろう。

 宮地嘉六の新刊の出版元は、私が経営し、呉市に本社をおくメディア関連会社とし
た。2008年4月10日が宮地嘉六の没後50年の記念日なので、それに間に合わ
せたいと考えていたが、インターネット関連の下請けの仕事が忙しく本格的に取りか
かったのが11月。

 ようやく本ができあがったのは、今年の4月だった。完成した本のタイトルは、
「宮地嘉六と街を歩く 小説・随想集〈広島・関西編1〉」。「音戸町」(2005
年呉市と合併)を舞台にした恋愛小説「音戸の瀬戸」やストライキを描いた「騒擾後」
など呉市や大阪・安治川界隈を描いた5編を収録した。

 ところが、宮地嘉六といってもほとんどの人が知らないというのが現状である。呉
市を描いた作品が多数あり、そのうち「煤煙の臭ひ」や「ある職工の手記」は代表作
として知られ、呉市役所がまとめた「呉市史」にも数ページにわたって紹介されてい
るにもかかわらず、ほとんどの市民が宮地嘉六を知らないという状態なのである。一
部の文学全集に収録され、25年前に「宮地嘉六著作集」全六巻が出たものの、文庫
本として出版されることもなく、古書や図書館の蔵書以外ではその作品を手にするこ
とは難しい。

 本を主要な地元メディアに送り、反応を待ったのだが、ほとんどの記者が宮地嘉六
といってもピンと来ないという。ところが、ある大手新聞の支局長が反応してくれて、
取材を受けた翌日には、朝刊地方版のトップ記事になった。発売日前日、4月21日
のことである。

 記事の見出しには、「旧海軍工廠 大争議で収監」と穏やかならぬ文字が並んでい
た。戦艦大和のふるさと、旧海軍のまちを観光の目玉にしている呉市の街を震撼させ
る記事だった。朝刊が配達された日には、事務所の電話が朝から昼過ぎまで断続的に
鳴り続けた。予期しない注文の電話である。その後も数日、注文が相次ぎ、一軒の書
店に5件もの問い合わせがあるなど反響の大きさが感じられた。

 注文者の多くが地元とその周辺の住民で、ご高齢らしい人が多かった。「旧海軍工
廠」「海軍の街」「音戸の瀬戸」といった言葉を懐かしく感じ、購入を決めた人も多
かったかもしれないが、「大争議で収監」という見出しも同時に目に入ったはずであ
る。記事は、ストライキの要因について、史実を掘り起こし、1万2千人ともいわれ
る大規模ストライキの大きさを示唆したうえに、昨今の「蟹工船」ブームなどにも触
れていた。

 宮地嘉六は、作家であると同時に雑誌・新聞の編集者・記者として勤務したジャー
ナリストでもあった。早くから社会主義の洗礼を受けて、後に非合法政党の創設に参
加する堺利彦らの日本社会主義同盟にも参加した。戦争が激化し、軍部が政治を掌握
する頃、宮地は、法律雑誌の記者となると、作家の宮本百合子がいる傍聴席で非転向
の左翼活動家・宮本顕治の陳述に耳を傾けた。

 戦後、宮地は『職工物語』で呉市が「隆盛の一途を邁進する近代工業都市のような
姿を呈しながら、実は軍国主義的、侵略的国防線上を前進する消耗都市でもあった」
と書いている。続けて宮地は書く。「更にまた五十年後の今日、日本が敗戦の憂目を
迎えるための悲劇への前進でもあったのだ。こうした軍国主義的工業都市の存在のた
めに国民はぼう大な軍事費の負担に耐えなければならぬということやのその他いろい
ろなことは当時の私には分らなかった。」

 記者・ジャーナリストは様々な取材対象をもつ。呉市のような軍事的都市で報道活
動を行えば、海上自衛隊の活動の様子や行政当局が推進する「海軍さんの街」の観光
事業も、軍事資料館の来館者が何百万人を突破したといった記事も書くだろう。しか
し、その中で時流に抗するジャーナリストの知恵が求められる。海軍の街をアピール
することが大勢を占め、街の空気を支配しているのであれば、それを逆手にとって、
別の新しい歴史を掘り起こすといった努力が必要とされるだろう。今回の宮地嘉六に
関する新聞記事は、相手の力を巧みに利用した投げ技といってもよい見事なものだっ
た。軍事都市の歴史から何を発掘し、今日の読者に伝えるのか。ジャーナリストには
掘り下げる努力が求められている。(編集者)


※「宮地嘉六と街を歩く 小説・随想集〈広島・関西編1〉」は、B6・128ペー
ジ、税込1575円。Amazon
http://www.amazon.co.jp/dp/4904328019/asyuracom-22
で購入できる他、6月には東京・大阪など大都市の有名
書店でも購入できます。全国の書店から「地方・小出版流通センター扱い」と指定す
れば、お取り寄せ可能。出版元は休山舎。また、読者と研究者のネットワークである
宮地嘉六ネットワークが始動しており、メーリングリストが運営されています。

休山舎 http://kyuzansha.com/
宮地嘉六ネットワーク http://e-karoku.net/  

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