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政府による新型インフルエンザ対策の見直しに関する提言
http://www.asyura2.com/09/buta02/msg/351.html
投稿者 どっちだ 日時 2009 年 9 月 27 日 11:38:52: Neh0eMBXBwlZk
 

(回答先: 日本における新型インフルエンザ患者の致死率は、約0.002% 投稿者 どっちだ 日時 2009 年 9 月 27 日 11:21:55)

http://medg.jp/mt/2009/09/-vol-263.html
医療ガバナンス学会 (2009年9月25日 18:04)

(転送歓迎記事に付き転載)
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政府による新型インフルエンザ対策の見直しに関する提言

新型インフルエンザから国民を守る会

共同代表:森兼啓太(東北大学大学院感染制御・検査診断学分野)、森澤雄司(自治医科大学感染制御部部)

ワーキングチーム:

海野信也(北里大学産科婦人科・教授)、大磯義一郎(弁護士・医師)、小原まみ子(亀田総合病院腎臓高血圧内科・部長)、嘉山孝正(山形大学・医学部長)、上 昌広(東京大学医科学研究所・特任准教授)、木戸寛孝(医療志民の会・事務局長)、久住英二(ナビタスクリニック立川・院長)、児玉有子(東京大学医科学研究所・看護師・保健師)、小林一彦(JR東京総合病院血液内科・医長)、境田正樹(弁護士)、佐藤淳子(医薬品医療機器総合機構)、高畑紀一(細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会・事務局長)、田口空一郎(構想日本)、谷岡芳人(大村市民病院・院長)、谷本哲也(医薬品医療機器総合機構)、土屋了介(国立がんセンター中央病院・院長)、長尾和宏(長尾クリニック・院長)、堀成美(聖路加看護大学)

2009年9月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
http://medg.jp

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 2009年春に発生した新型インフルエンザに対して、日本政府は様々な対策を行いました。それに対して、今回の政府の対応は現場の混乱を招いたのではないかという批判の声も上がっています。今回の経験から日本が学んだことを、秋冬に起こる可能性が高いとされる更なる感染拡大への対策に生かさなければなりません。そのためには、国の対策の主たる目的を新型インフルエンザの「まん延防止」としている「新型インフルエンザ対策行動計画」とそれに関連する感染症関連各種法規が大きな障害になります。対策の目的は、「ピーク時の感染者数を抑えること」と「感染者数のピークを遅らせること」であり、そのことが医療機関に集中する負担(患者数)を分散させ、医療の破綻を防いだり、ワクチン接種が開始可能となるまでの時間を稼いだりして、罹患・重症患者数を減らすことにつながります。

 以下に、社会的介入・医療・情報収集と公開の3つに分けて、新型インフルエンザ対策の考え方および提言を記します。その各項目を踏まえた、検疫法・感染症法・予防接種法など感染症関連各種法規の改正、および政府が策定した新型インフルエンザ対策行動計画の修正を政府に対し提言します。

【1】社会的介入について

<考え方>

 撲滅に成功した天然痘は、1)症状によって他の疾患と区別できる、2)潜伏期に感染性がない、3)ほぼ100%ワクチンが効く4)ヒトが唯一の宿主である、といった特徴を持っていましたが、インフルエンザ(致死率の高さに関わらず季節性も新型も含む)は、1)症状によって他の疾患と区別できない、2)潜伏期に感染性がある、3)季節性インフルエンザワクチンの効果は、型が合っていない場合10〜30%、型が合っていても40〜80%程度しかない(新型インフルエンザワクチンも同程度の効果と推測されている)[i]、4)様々な生物に共通する感染症である、といった特徴を持っているため、発生防止も感染拡大防止も不可能なのです。新型インフルエンザ対策において、「まん延防止」「感染拡大防止」「封じ込め」「国内侵入防止」のような誤解を招く用語の使用を避けるべきですし、「1例も漏らしてはならない」という発想で広範な社会的介入を行うことは、投入するコスト・マンパワーや発生する社会的・経済的ダメージに対してあまりにわずかな効果しか得られないと言えるでしょう。

 「ピーク時の感染者数を減らす」「感染者数ピークを遅らせる[ii]」という発想から、社会的・経済的ダメージとのバランスを考慮しつつ、社会的介入を検討する必要があります。「ピーク時の感染者数を減らす」「感染者数ピークを遅らせる」ことにより、1)医療機関に集中する負担(患者数)を分散させること、2)ワクチン接種が開始可能となるまでの時間を稼ぎ、罹患・重症患者数を減らすことの2つが可能になると考えられます。

<提言>

1.水際対策

 インフルエンザの疾病としての特徴を考えれば、潜伏期にすり抜けて入国した患者が相当数存在するはずです。厚労省が4月末から5月にかけて行った機内検疫・隔離・停留といった措置が、「国内侵入防止」に果たした効果は極めて小さく、むしろ身柄の拘束に近い人権侵害を行ったという弊害のほうが大きいと言わざるを得ません[iii],[iv]。国内で感染したことが明らかである症例の発症日は、最も早い人で5月5日ですので、この人を感染させた海外からの入国者(あるいはその人に感染させた別の人)は、4月28日に機内検疫を開始してわずか数日で(潜伏期の間に)入国していることは確実です。この経験を踏まえ、厚労省は、隔離・停留が、まん延の防止に効果を有する場合に限り、隔離・停留を行うことができることとし、検疫法の患者に対する隔離・停留に関する罰則を削除しなければなりません。

 一方、入国者は感染症その他の疾患にかかっているかどうかの検査や医療を求めることができ、検疫所長は、検疫所に設置された診療所において可能な範囲の検査や医療を提供しなければならないこととする必要があるでしょう。また、検疫所は、感染症その他の疾患に関する症状・予防・治療の方法や、渡航先における医療へのアクセス等の情報を提供しなければなりません。

2.「新型インフルエンザ等感染症」定義の見直し

 2009年9月20日現在、2009年新型インフルエンザA(H1N1)は感染症法[v]における「新型インフルエンザ等感染症」から外されていません。一旦当該感染症に指定してしまうと容易に除外することができないのがその主因と思われます。従って、「新型インフルエンザ等感染症」の定義や、その指定・指定解除の要件を見直すことを提言します。

厚生労働大臣が指定するものを「新型インフルエンザ等感染症」と定義し、その指定と指定の解除については、都道府県知事、公衆衛生に関し学識経験を有する者、医療に関し学識経験を有する者、法律に関し学識経験を有する者その他の学識経験を有する者及び医師その他の医療関係者は、厚生労働大臣に意見を述べることができることとします。厚生労働大臣は、この指定と指定の解除に当たっては、当該疾病のまん延による死亡率、当該疾病にかかった場合の致死率及び病状の程度その他の事情を総合的に勘案するとともに、上記のような意見並びに海外における当該疾病の状況及びこれに関する施策の動向を参酌しなければなりません。厚生労働大臣は、この指定の後、短い期間(1ヶ月程度)ごとに、新型インフルエンザ等感染症に対するこの法律の施行の状況について検討を加え、必要に応じて指定の解除その他必要な措置を講じなければなりません。

3.学校・保育所、事業所等の閉鎖、知事による就業制限の対象から除外

 知事からの相談などもあり、厚労省は、近畿地方のかなり広範囲にわたる学校・保育所等の閉鎖を指示したため、学校、保育所等の現場の判断が尊重されたとはいえない状況でしたが、疾患の重症度など、その時点における状況に応じて柔軟に対応する必要があります。厚労省は、多様な選択肢を国民に示すため、新型インフルエンザの重症度を3段階程度に分類して、学校・保育所、事業所等の閉鎖を推奨するか否かのガイドラインを示します。国や地方自治体は、その時々の状況に応じて柔軟に対応し、一方的な指示を下すのではなく、現場の混乱に配慮して学校、保育所、事業所等の判断を尊重しなければなりません。都道府県知事が行う就業制限に関する勧告・措置の対象から新型インフルエンザを除外します。

 参考までに、米国のガイドラインでは、致死率によって、学校・保育所、事業所等の閉鎖を推奨するか否かのレベルを3段階に設定しています[vi]。

4.ワクチン製造・接種

 インフルエンザワクチン(季節性も新型も含む)は、天然痘ワクチンのようにほぼ100%予防効果があるワクチンとは違って、十分な予防効果はありません。しかし、重症化を防ぐ可能性があると期待されています。

 季節性インフルエンザワクチンの発病阻止効果は、1998〜99年シーズンの厚生科学研究班の研究結果では、高齢者(65歳以上)で34〜55%程度とされており[vii]、それ以外の年齢層では不明です。死亡阻止効果は高齢者で82%程度とされており、それ以外の年齢層では不明です。海外文献では、型が合っていない場合10〜30%、型が合っていても40〜80%程度しかないという報告があり、新型インフルエンザワクチンも同程度の効果と推測されています[viii]。

 新型インフルエンザワクチンについては、世界中で初めて使用するのですから、その発症予防効果や重症化阻止効果に関する十分なエビデンスはありません。日本で使用される予定のワクチンとほぼ同様の製造法・組成のワクチンがオーストラリアで臨床治験によって接種された結果では、1回の接種で健常成人のほとんどが有効な血中抗体価を得ることができたとされています[ix]。しかし、この結果は本ワクチンの臨床的効果(新型インフルエンザにかかるか否か等)を示したものではありませんし、今回の新型インフルエンザワクチンの優先接種対象候補となっている妊婦や基礎疾患を有する人に対する効果を示したものでもありません。

 一方、あらゆるワクチンには副反応のリスクがあります。季節性インフルエンザワクチンの副反応のリスクは、65歳以上においてはそのもたらすメリットに比べて十分に小さいものであることが確立していますが、新型インフルエンザワクチンの安全性については、その効果と同様に利用可能なデータはありません。諸外国において、小規模な人数における短期間の副反応を検証するデータを集める治験が行われていますが、大規模な人数における数週間〜数か月以上にわたるデータを集めることは、秋冬のシーズン前にワクチン接種するには間に合いません。仮に、十分なエビデンスが存在したとしても、数千万人もの大規模な人数にワクチン接種すれば、0.001%程度の低い確率で起こる副反応でも、数百人程度の副反応が起こります。

 1976年2月に米国ニュージャージーで発生した豚インフルエンザA(H1N1)の集団ヒト感染に対して、米国政府は新型インフルエンザ拡大を懸念し、ワクチンを約4500万人に接種しました。しかし、12月になっても感染拡大はなく、ギラン・バレー症候群という神経系の副作用が発生したため、米国政府はワクチン接種を中止し、CDC長官が更迭されるに至りました[x]。このワクチンを接種した人の集団ではギラン・バレー症候群の発生率が100万人あたり4.9〜11.7人、ワクチン接種していない人の集団では0.97人というデータが発表されています[xi]。

 その後、米国では1988年に、National Vaccine Injury Compensation Program(VICP)[xii]が設立され、ワクチンによる健康被害を受けた人は、ワクチン接種者(医師・看護師等)やワクチン製造会社の責任の有無を問うことなしに、十分な補償を受けることができるようになりました(無過失補償制度)。従来、被害を受けた人は、訴訟を起こして賠償金を請求する以外に、健康被害補償を受ける道がなかったのですが、VICP設立によって、無過失補償を受けるか、あるいは無過失補償を拒否して訴訟を起こすか、選択できるようになりました。

 ワクチンによって重症化や死亡を防ぐことができると期待されるならば、それは個人にとってのメリットとともに、重症患者の増加による医療体制崩壊を防いだり、重症患者が医療を受けられずに死亡することを防いだりするなど、公衆衛生上のメリットがあるでしょう。一方で、大規模なワクチン接種をすれば、ごく一部の人々には副反応による健康被害が発生することは避けられません。社会全体として、大勢のメリットのために、一人ひとりが副反応を覚悟でワクチン接種を選択するのなら、副反応による健康被害についてメーカーや国、接種した医師などの責任を追及するのではなく、社会全体で受けとめるという考え方もあり得るでしょう(免責制度)。健康被害の無過失補償と、あるいはそれを拒否して訴訟を提起するという選択肢が必要と考えられます。

 現行法上、新型インフルエンザワクチンは予防接種法に位置づけられておらず、このままでは任意接種として行われることになります。しかし、国策として公衆衛生上のメリットの目的でワクチン接種を行うのですから、きちんと予防接種法に位置づけなければなりません。

また、新型インフルエンザワクチンの供給量は、2009年12月までに1,400〜1,700万人分とされています。前述のオーストラリアの研究結果などから、1回の接種でも十分な免疫が得られると判断されれば、この倍の人数に接種が可能になりますが、個人の重症化や死亡を防ぐために優先的に接種することが想定されている妊婦や基礎疾患のある人、小児などでのデータは得られていません。また、ワクチンの輸入が実施されたとしても、3,000〜4,000万人分程度の供給量にすぎません。国民全員に行き渡らせることが不可能である以上、厚労省は、新型インフルエンザワクチン接種の優先順位や、各自が接種するか否かの判断材料とするため、直ちに国民に十分な情報を提供しなければなりません。

 季節性インフルエンザワクチンについては、現状において、厚労省が効果があると認めて予防接種法に位置づけてある対象者は、65歳以上と60〜64歳の基礎疾患のある者だけであることを、厚労省はきちんと国民に知らせ、その対象者への接種を呼びかけるべきです。

 同様に、厚労省は、ワクチン接種の体制整備(保健所、学校等で接種する人員、物品、場所の準備等)についても、都道府県には説明したようですが、国民には周知されていません。課題の多い内容ですから、早急にオープンな議論を行わなければなりません。

 参考までに、WHOは医療従事者を新型インフルエンザワクチンの優先対象とすることを推奨[xiii]し、米国CDCは次の集団を優先対象とすることを推奨しています[xiv]。幼稚園児〜高校生とそのスタッフ、6ヶ月以上の保育園児とそのスタッフ、妊婦、6ヶ月〜4歳の子供、6ヶ月未満の子供の家族、ハイリスクな基礎疾患のある65歳未満の大人、医療従事者・救急医療関係者です。

【2】医療について

<考え方>

 新型インフルエンザで重症化した患者や、新型インフルエンザの発生に関わらず医療を必要とする患者が適切な医療を受けられるよう、医療機関へ集中する負担を分散し、医療機能を維持することが、【1】で述べた社会的介入によって目指す「ピーク時の感染者数を減らす」「感染者数のピークを遅らせる」ことの最終目標です。

 医療現場においては、一人ひとりの患者の重症度や状況に応じて多様な対応を迫られますから、法律や厚労省からの通知などによる全国一律の規定では対応できません。厚生労働大臣及び都道府県知事は、医療に関し、医師の意見を尊重しなければならず、医療の専門家である医師の判断に従います(通常の医療と同じ)。これは疾患そのものの病原性や重症度によって変わるわけではありませんから、致死率によって分類する必要はありません。

 厚労省は、医療現場において、患者が必要とする医療を提供できるよう、診療報酬・予算措置など、十分な環境整備を行わなければなりません。国の役割は、多様な患者への多様な医療提供を阻害する全国一律のルールを決めることではなく、医療現場が必要とする物資や費用を供給することです。

 現行の政府による新型インフルエンザ対策行動計画[xv]は、まん延期になった時点で大きく方針転換するものが色々あります。例えば、1)濃厚接触者全員へ予防投与していた抗ウイルス薬を、まん延期になったら予防投与を中止する、2)軽症であっても患者全員を強制入院させていた、感染症法に基づく措置入院を、まん延期になったら中止する、3)感染症医療機関等に限定していた診療・入院を、まん延期になったら全医療機関へ拡大する、といった計画です。ところが、厚労省の事務連絡1枚で、混乱の最中に、ある日突然、全国津々浦々すべての医療機関の体制や方針を大きく変更することは、実行上、不可能です。厚労省の計画は、国内発生早期、まん延期、回復期を通して一貫した方針でなければ、国策として維持しようとしているはずの医療機関に、厚労省が無駄な負担を強いることになりかねません。

<提言>

1.発熱外来

 発熱外来を設置し患者を限定するのか、すべての医療機関の外来で対応できる体制整備をするのか、現場の実情に合わせ、各地域の連携や各医療機関の判断で行います。いずれの場合も、厚労省は、医療機関が必要とする物的・人的・金銭的支援によって、環境整備をしなければなりません。

2.知事による入院措置の対象から除外

 医学的に入院する必要性のない患者を、感染症法によって強制的に措置入院させ、さらに患者は完全に軽快して全く症状もないにもかかわらず、厚労省が決めた基準を満たさなければ退院させなかったことは、身柄の拘束に近い人権侵害に等しいことです。国内発生早期もまん延期も一貫して、都道府県知事が行う入院勧告・入院措置の対象から新型インフルエンザを除外し、個々の患者は医学的な入院の必要性、つまり医師の判断に従って入院医療を受けることとします(通常の医療と同じ)。

3.抗ウイルス薬による治療及び予防内服

 国内発生早期もまん延期も一貫して、医師の判断に従います。医師は、厚労省が公表する臨床情報・公衆衛生情報(【3】参照)その他の情報を参照しつつ、患者一人ひとりの多様なニーズに柔軟に対応します。

4.医療従事者の補償

 医療従事者が医療において感染した場合の補償に関する整備を厚労省が行ない、新型インフルエンザ診療への協力要請の前に十分説明しなければなりません。

5.診療報酬

 厚労省は、個人防護具や患者隔離のための外来診察領域・入院病床など、感染症対策に対する最低限の院内感染対策を講じるために各医療機関で必要と考えられる資機材・人材等に対する診療報酬がほぼ皆無である現状を改め、感染症対策に対し、十分な診療報酬措置を講じなければなりません。

6.血液製剤

 新型インフルエンザの拡大によって、献血量が減少し、輸血を必要とする患者の命が脅かされています。厚労省は一方的に使用制限の通知を出すばかりでなく、不活化技術の導入によって、輸血感染症の予防、血小板製剤の供給量増大(保存期間延長)を実現しなければなりません。

【3】情報収集・情報公開について

<考え方>

 前述の【1】社会的介入に関する行政の判断と、【2】国民が適切な医療を受けられるよう医師の判断を支援するために、必要な情報を、厚労省は迅速に公表しなければなりません。一方、医療機関へ集中する負担を分散し、医療機能を維持することが、【1】で述べた社会的介入によって「感染者数ピークを遅らせる」ことの目的ですから、その医療機関に不必要な負担をかけることがあっては本末転倒となります。

 従って、厚労省が事務連絡等を大量に発出することは、医療機関や自治体の増大させるため、控える必要があります。【2】で述べたように、厚労省の計画は、国内発生早期、まん延期、回復期を通して一貫した方針でなければ、国策として維持しようとしているはずの医療機関に、厚労省が無駄な負担を強いることになりかねません。

<提言>

1.臨床情報の公開

 医療機能を維持し、国民が適切な医療を受けられるよう医師の判断を支援するために、厚労省は、現場の医師が判断するにあたって必要とする、新型インフルエンザ患者の臨床疫学情報(年齢、性別、基礎疾患、合併症、臨床経過、転帰等)を、個人情報の保護に留意しつつ、逐次かつ詳細に公開しなければなりません。

2.公衆衛生情報の公開

 厚労省は、現場の医師や自治体が判断するにあたって必要とする、耐性ウイルスの出現状況、抗ウイルス薬の備蓄量、感染拡大状況等の情報を、個人情報の保護に留意しつつ、逐次、公開しなければなりません。

3.国民への情報公開

 厚労省は、インフルエンザの特徴や抗ウイルス薬とワクチン、政府の対策などに関して、国民に対し、そのメリットとデメリットの両面も含めて正しく情報提供しなければなりません。

 例えば、タミフルは新型インフルエンザの治療において必須ではなく、添付文書[xvi]には「慢性心疾患患者及び慢性呼吸器疾患患者を対象とした第?相治療試験において、インフルエンザ罹病期間に対する有効性ではプラセボに対し有意な差はみられていない。しかし、本剤投与によりウイルス放出期間を有意に短縮し、その結果、発熱、筋肉痛/関節痛又は悪寒/発汗の回復期間が有意に短縮した。」と書かれていますし、予防投与の対象は「患者の同居家族又は共同生活者である下記の者を対象とする。(1)高齢者(65 歳以上)(2)慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者(3)代謝性疾患患者(糖尿病等)(4)腎機能障害患者」と書かれており、これ以外の人々へも厚労省が推奨している予防投与は適用外使用です。添付文書には「臨床試験における本剤に対する耐性ウイルスの出現率は成人及び青年では0.32%(4/1,245例)、1〜12歳の小児では4.1%(19/464例)であった」と書かれています。また、季節性インフルエンザに対するタミフルの使用と関連した異常行動が懸念されており、関連性に関する結論は出ていませんが、少なくとも10歳代へのタミフルの使用は差し控えることを厚労省として呼びかけています。国民一人ひとりがこのようなリスクとベネフィットを理解したうえで、タミフルを使用するか否か、判断する必要があります。

 また、ワクチンに関しては、季節性インフルエンザワクチンの発症予防効果および重症化阻止効果が100%ではなく、65歳以上においてのみ証明されているにすぎないこと[xvii]、新型インフルエンザワクチンは、世界中で初めて使うので、たとえ治験を行ったとしてもその効果や副反応に関する十分なエビデンスがあるとは言えないことなどを、国民一人ひとりが理解したうえで、ワクチンを接種するか否か、判断する必要があります。

 こういったマイナス面も、国民一人ひとりが理解できるよう、厚労省は十分に広報しなければなりません。

4.厚労省による情報収集に関する説明責任

 医療機関や地方自治体等の関係者に対して調査し情報収集を実施することの目的は、医療機関へ集中する負担を分散させ、医療機能を維持することですから、厚労省は、以下を行わなければなりません。

1)医療関係者に負担を課すことを正当化できるだけの、国民にとっての調査の必要性・緊急性について、国民に対して調査開始前に説明しなければなりません。

2)医療関係者に負担をかけずに、同様のデータを収集する代替方法がある場合は、その代替方法を行わなければなりません。

3)可能な限り一貫して同じ調査を続行すべきです。これはデータの質という点からも、医療機関や自治体への不必要な負担を避けるという点からも必要なことです。一貫して行う調査を、予め決めておくことが望ましいでしょう。

4)収集した素データを、個人情報の保護に留意しつつ、直ちに国民に公開し、現場の医師・患者等の判断や行政の判断に役立てなければなりません。

 感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)12条によって医師に届出義務を課すことは、上記4点において問題があります。2009年7月24日時点で厚労省が把握している患者数は約5,000名ですが、このうち感染症法第12条によって医師から届け出があったものは、約860例にすぎません[xviii]が、約5000例の患者の年齢性別や居住地などは他の方法によって厚労省により情報収集され、随時プレスリリースにて公表されています。すなわち、第12条による届出義務が有名無実化していることを証明しています。実行不可能な義務を課すことによって、すべての医師を違法状態に陥れ、いつでも刑事罰(罰金刑)や厚労省による行政処分とすることができる状態に置くことには、合理性があるとは言えません。従って、新型インフルエンザ等感染症を医師の届出義務(感染症法12条)の対象から除外すべきです。

(引用文献)

1

[i] Defense Intelligence Agency. Worldwide: 2009-H1N1 Virus Might Have Substantially Higher Health Impact Than Typical Seasonal Influenza. 10 June 2009. DI-1812-1555-09

[ii] Community Strategy for Pandemic Influenza Mitigation. the U.S. Department of Health & Human Services. February 2007. http://www.pandemicflu.gov/plan/community/commitigation.html#III

[iii] Border Screening for SARS. St. John RK, King A, Jong D, et al. Emerging Infectious Diseases www.cdc.gov/eid * Vol. 11, No. 1, January 2005.

[iv] Entry screening for severe acute respiratory syndrome (SARS) or influenza: policy evaluation. Pitman RJ, Cooper BS, Trotter CL, et al. BMJ 2005;331;1242-1243

[v] 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

[vi] Community Strategy for Pandemic Influenza Mitigation. the U.S. Department of Health & Human Services. February 2007. http://www.pandemicflu.gov/plan/community/commitigation.html#III

[vii] インフルエンザHAワクチン添付文書「ビケンHA」http://www.biken.or.jp/medical/product/images/iha/document.pdf

[viii]easonal Influenza. 10 June 2009. DI-1812-1555-09

[ix] Response after one dose of a monovalent influenza A (H1N1) 2009 vaccine - preliminary report. Greenberg ME, Lai MH, Hartel GF, et al. N Engl J Med 2009; 361. Epub ahead of print

[x] Reflections on the 1976 Swine Flu Vaccination Program. Sencer DJ. and Miller D. Emerging Infectious Diseases, January 2006.

[xi] “Prepandemic” Immunization for Novel Influenza Viruses, “Swine Flu” Vaccine, Guillain-Barre Syndrome, and the Detection of Rare Severe Adverse Events. Evans D, Cauchemez S, and Hayden FG. The Journal of Infectious Diseases 2009;200:321-8.

[xii] http://www.hrsa.gov/vaccinecompensation/

[xiii] http://www.who.int/csr/disease/swineflu/notes/h1n1_vaccine_20090713/en/index.html

[xiv] CDC Recommendations for State and Local Planning for a 2009 Novel H1N1 Influenza Vaccination Program. Center s for Disease Control and Prevention. http://www.cdc.gov/h1n1flu/vaccination/statelocal/planning.htm

[xv] 新型インフルエンザ対策行動計画 新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議 平成21年2月改訂 

[xvi] タミフル添付文書(中外製薬)http://www.chugai-pharm.co.jp/hc/di/scholar/item/drug_data/tam/pi/tam_pi.pdf

「第?相予防試験において、糖尿病が増悪したとの報告が1例ある。また、国外で実施されたカプセル剤による第?相予防試験では、糖代謝障害を有する被験者で糖尿病悪化又は高血糖が7例にみられた」

[xvii] Defense Intelligence Agency. Worldwide: 2009-H1N1 Virus Might Have Substantially Higher Health Impact Than Typical Seasonal Influenza. 10 June 2009. DI-1812-1555-09

[xviii]国立感染症研究所・感染症情報センター パンデミック(H1N1)2009 http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/case-j-2009/090724case.html

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今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いた
だけましたら幸いです。

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