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http://www.nikkei-science.com/topics/bn0909_1.html#1
| トフティ(Enver Tohti)は1973年の夏に空から土ぼこりが降ってきたことを覚えている。当時,トフティは中国の最西端,新疆ウイグル自治区に住む小学生だった。「風はなく嵐でもないのに,3日間,空から土が降ってきた。空には太陽も月もなく,静かすぎるほど静かだった」と振り返る。何が起こったのかと生徒が先生にたずねると,先生は土星(中国語でも土の星と書く)で嵐が起きたのだと説明した。トフティは先生を信じた。それが自治区内で行われた核実験で生じた死の灰(放射性の塵)だったと気づいたのは,数年後になってからだ。 30年たって医師となったトフティは,なおも増え続ける死傷者(中国政府は断固としてこれを認めていない)を調べる試みを立ち上げつつある。新疆ウイグル自治区のロプノール実験場で1964年から1996年までに少なくとも40回の核実験が行われ,その放射能によって数十万人が死亡した可能性がある。 同自治区には約2000万人が住んでおり,これらの住人を調べれば放射能の長期的影響についてほかでは得られない知見が得られるとトフティは考えている。世代を超えて受け継がれる遺伝的影響の有無など,これまであまり調べられてこなかったこともわかるだろう。トフティはこうした影響を評価するため,物理学者の高田純(たかだ・じゅん,札幌医科大学教授)とともに札幌医科大学で「ロプノール計画」を立ち上げつつある。 「悲しいことではあるが,新しいことを学び,かつ他でも起きていると思われることを再現する好機でもある」と,チェルノブイリ研究イニシアチブ(CRI)の共同ディレクターでパリのフランス国立科学研究センターを拠点とするメラー(Anders Moller)はいう。
高田の計算によると,新疆に降り注いだ放射線量のピーク値は,1986年のチェルノブイリ原子炉炉心溶融事故の後に原子炉建屋の屋根で測定された値を超えていたという。新疆の地元住民が受けた被害のほとんどは1960年代と70年代に行われた核実験が原因で,放射性物質と周囲の砂漠の砂が混ざり合って降り注いだ。広島型原爆の200倍にあたる3メガトン規模の核実験もいくつかあったという。高田はこれらの発見を『中国の核実験』(医療科学社,2008年。英訳は2009年)にまとめて出版した。
トフティと高田のロプノール計画は,他の大規模被曝事例の解析では未解明のままになっている多くの謎を解決できるかもしれない。例えばメラーらのチェルノブイリ事故影響調査によると,以前の調査が野生生物の回復を報告していたのとは裏腹に,同地域の動物の個体数が依然として減っており,突然変異が増加している。 |
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