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JMM [Japan Mail Media] この世界的な経済の停滞に立ち向かい、なんとかサバイバルするために
http://www.asyura2.com/09/hasan61/msg/105.html
投稿者 愚民党 日時 2009 年 1 月 12 日 20:38:42: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2009年1月12日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.514 Monday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼

 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』

  ◆編集長から

  【Q:945】

   ◇回答(寄稿順)
    □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
    □水牛健太郎 :評論家、会社員
    □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
    □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
    □三ツ谷誠  :三菱UFJ証券 投資銀行本部エグゼグティブディレクター
    □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
    □津田栄   :経済評論家
    □北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
□土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部准教授
    □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

        ■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:945への回答ありがとうございました。定額給付金の問題で国会が紛糾して
いるようです。しかし、定額給付金の是非だけを論議しても、経済効果があるかどう
かはっきりしたことは誰にもわからないので、なかなか結論は出ないだろうと、わた
しはいつも異和感を持ちます。定額給付金の実施に必要なのは2兆円ということです
が、同規模のお金の使い道として、他の選択肢を示さなければ判断がしにくいのでは
ないでしょうか。

 たとえば、喫緊の課題であるといわれる医療の再生にはどのくらいのお金が必要な
のでしょうか。ある試算によると、全国の病院経営の安定化に1.5兆円、非専門職
に1兆円、研修医養成プログラムに1兆円、存亡の危機にある診療科に1兆円、つま
り4.5兆円あれば、当座の日本の病院医療の崩壊が防げるのだそうです。

 また派遣切りにあった人々や生活保護の人々計200万人に100万円ずつを援助
することもできます。派遣切りにあった人も100万円あれば住所が確保できるで
しょう。そういった「選択肢」をいくつも示した上での論議をしなければ、国民一律
に1万弱という政策のコスト&ベネフィットがわかりにくいのではないかと思われま
す。
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■次回の質問【Q:946】

 いわゆる派遣切りが相次ぎ、不況の訪れとともに日本共産党への関心が高まり、党
員も増えているようです。日本共産党の政策、基本的な方針をどう評価すればいいの
でしょうか。

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                                  村上龍
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■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く 
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 ■Q:945

 09年はいろいろな意味で困難な年になりそうです。個人として、この世界的な経
済の停滞に立ち向かい、なんとかサバイバルするために、一般的にどういったことが
必要なのか、聞かせていただければと思います。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 確かに、最近の景気下落の速さ、下落の幅は半端ではありませんでした。自分で事
業をしている友人の一人は、「これだけ短期間に、これほど落ち込むとは夢にも思わ
なかった」と指摘していました。ただし、今回の経済活動の落ち込みは、わが国だけ
ではなく、世界的な現象です。そうした状況を、個人の力で何とかすることは無理で
すから、厳しい状況を生き残るためには、主に自分の身を守るセルフ・ディフェンス
が必要になると思います。

 そこで思い出すのは、今から約11年前のことです。1997年11月、いくつか
の大手金融機関の破綻が発生しました。三洋証券、山一證券、そして北海道拓殖銀行
の経営が行き詰り、破綻に追い込まれたのです。北海道拓殖銀行は、当時、都市銀行
と呼ばれる大手銀行の一つでした。その大手銀行が潰れたのです。それまで、都市銀
行の一つが破綻するなどということは、あまり考えられていなかったと思います。

 90年代初頭の資産バブルの崩壊をきっかけにして、同行には多額の不良債権が発
生しました。最初のうちは、何とかその重みに耐えられたのですが、97年11月、
ついにその重さに耐えられなくなって破綻したのです。多くの従業員は職場がなくな
り、再就職先を探さなければならぬ羽目になりました。

 大学時代の友人が、その銀行に勤めていました。彼が就職するときには、破綻など
ということは夢にも考えていなかったことでしょう。銀行が破綻した後、彼はかなり
苦労したと言っていました。再就職先が直ぐに見つからなかったり、破綻の処理に関
する手続き業務を手伝っていたためのようです。あるとき彼は、「自分の人生を、銀
行にかけ過ぎたかなぁ」と言っていたことを記憶しています。

 彼は、まじめで一生懸命、仕事をするタイプの人です。彼は、わき目も振らず銀行
の仕事をしていたため、銀行の仕事はとてもよく知っていました。しかし、「銀行の
外のことについては、浦島太郎になっていた」といいます。自分で何が出来るかを考
えたとき、銀行以外の仕事については、何か具体的なことが出来るようにはなってい
なかったのでしょう。

 金融関係の仕事をしていたというと、世間一般では、決算書を組むことが出来ると
期待されがちです。ところが、実際には、銀行の中では、自分で元帳をつけて決算書
を組むことが出来る人は殆どいないと思います。そうした点が、再就職先を見つける
ときにハンディキャップになったのかもしれません。

 もう一つ重要なことがあります。それは、勤め先企業が破綻したことによって、給
与というフローを失うと同時に、貯蓄というストックも失ってしまう可能性です。従
業員の中には、持ち株会などの仕組みを使って、自分の資産を勤め先企業の株式に投
資していた人は多かったのではないでしょうか。企業が破綻すると、保有していた株
式は無価値=紙切れになってしまいます。つまり、貯蓄だと思って積み立てていた、
持ち株会の持分がゼロになってしまうのです。

 厳しい言い方かもしれませんが、それらは、リスクを勤め先企業に集中し過ぎた結
果とも考えられます。勤めている企業で一生懸命、仕事をするのは当然のことですが、
当該企業の外の世界を知らないというのは大きなリスクだと思います。また、働いて
いる企業の株式に投資を行うということは、その企業にリスクを集中させることにな
ります。もし、当該企業が破綻するようなことがあると、多くのものを失うことにな
るはずです。

 それを防ぐためには、普段からリスクの分散を頭に入れておく必要があります。あ
る友人は、「勤務先の人と組織の外の人に同時に誘われたら、迷わず、外の人を優先
する」と言っていました。彼は、組織の外の人脈を重要視したのでしょう。それに
よって、自分の目を組織の外に向けることを忘れないようにしたのだと思います。そ
れも、身近なリスク分散の方法です。おそらく、彼は、企業の持ち株会には入ってい
ないのではないでしょうか。彼の行動様式から考えると、きっとそうだと思います。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 水牛健太郎 :評論家、会社員

 どのような人にとってもまず必要なことは、自分の経済的な状態を明確に知ること
だと思います。資産、収入、そして支出。これらを計算して、「現状のままで暮らし
ていけるかどうか」を知ることです。

 こうした計算は、かなり複雑なものですので、何度か繰り返してみるといいでしょ
う。一回やってみるだけでは、ローンや重要な臨時支出を見落としていることがあり
ます。間を置いて何回かノートに書き、慎重に確かめるとよいでしょう。これだけで
も、自分の置かれた経済的条件や自分のお金の使い方について、さまざまな発見があ
るはずです。

 現状がだいたい明らかになったら、様々な思考実験をします。人によって、考えう
るシナリオは多岐にわたることでしょう。家庭がある場合は、配偶者の収入や子供の
進路によっても変わってきます。収入が増える場合やこのままの収入が続く場合は問
題ありませんが、収入が激減した場合、さらには突如収入が途絶えた場合のことも考
えてみます。仮にいま解雇された場合、何ヶ月暮らしていけるのか。

 思考実験で済めばいいのですが、解雇の可能性をかなり現実的に考えなければなら
ない場合もあるでしょう。その場合は、退職金はいくら出るのか、雇用保険はいつか
らいくら出るのかなども重要な要素になります。このようにして資産と収入を計った
上で、現在の生活が維持できなければ、支出を減らしていく道を考えることになりま
す。言うまでもありませんが、計算は辛めにし、思わぬ事態にも対応できる余裕を持
たせることが大切です。

 こうして現状を把握した上で、今後の可能性を探っていきます。限られた条件の中
で、必要な所得を得て生活していくことはもちろんですが、可能ならば、自分の目指
す理想の生活、職業、所得水準などに一歩でも近づいていく方法を考えることになり
ます。

 人間関係を大切にすることは重要だと思います。最も基本となるのは親族関係で
しょう。それから子供・学生時代の友人、職業生活における知人、職業外の友人・知
人というふうに輪が広がっていきます。一般に、自分に余裕があり長期的な展望を考
えられるときほど、外側の輪の友人・知人との関係が生きてくると言えます。ぎりぎ
りの状態で頼れるのはほとんど、親族だけです。破産しそうな時に助けてくれる友人
がいたら素晴らしいことですが、期待はできません。

 解雇された派遣労働者を対象にした「派遣村」に、若い人が目立つのが話題になっ
ています。彼らの事情は人それぞれですが、若い失業者が検討すべき一つの選択肢と
して、親元・郷里に戻ることがあると思います。

 一般的に言って、両親や祖父母ほど無条件に受け入れてくれる存在は他にありませ
ん。もちろん、家庭ごとに状況は異なり、親がいない若者や、児童虐待など問題を抱
えた家庭から飛び出さざるを得なかった方もいます。しかし、子どもと音信不通に
なっているが、都会の路頭で凍えるぐらいなら、帰ってきてほしいと思っている親も
多いのではないでしょうか。切羽詰った状態では、冷静に考えるべきことも考えられ
ません。人にだまされたり、再び不安定な職に就いたりするなど、貧乏籤を引いてし
まう可能性も少なくありません。幸いにして頼れる親がいるならば、まず住む場所と
食べ物を確保した上で、先のことを考えるのはいいことだと思います。

 地方には、求人雑誌に載るような条件の整った仕事はなかなかありません。しかし
一方で、親族や学校友達などの地縁血縁をたどれば、何とか最低限の生活が立つ可能
性は、都会より地方の方が高いと思います。それを足がかりに再出発をはかり、やが
ては都会に再び出て行ってもよいでしょう。

 別に田舎暮らしは人情があっていいというようなことが言いたいのではありません。
サバイバルということを真剣に考えるのなら、自分が持っている地縁血縁も含め、あ
らゆる可能性を資産として考えるべきだと言いたいのです。それは、都会出身の人で
も同じことです。

 大企業が求めるような理想的なキャリアを歩んで何らかの分野の「プロ」になれる
人は少数派です。もちろん、そういう道を歩むことができている人はそれを追及して
いけばいいと思いますが、ほとんどの人は社会の設定したキャリアのコースにぴたり
とはまることはなく、理想と現実の間で悩んでいるはずです。自分自身にとって自分
は唯一の存在なのに、企業の物差しを当てられ、人と比べられ、年齢が高すぎるだの、
若すぎるだの、ここが足りない、ここが余計だなどと言われ、切り捨てられたり、不
本意な扱いを受けたり。

 製造業の派遣労働者などはその典型的なケースだと言えるでしょう。人間の多様な
能力のうち限られた部分を、極めて特化した形で用いますが、用がなくなれば切り捨
てられるだけだということは、今回改めてはっきりしました。一時しのぎならともか
く、自分の人生をかけられる仕事ではありません。

 自分のありたい姿と社会に与えられた条件のギャップ。私自身も常日頃頭を悩まし
ていることで、なかなかいい知恵もありません。ただ、企業や社会に期待するのでは
なく、自分が主導権を握って自らのキャリアを築いていくべきだ、とは言えるでしょ
う。企業・社会が示す物差しをとりあえずは受け入れ、乗っかりながら、それを足が
かりに自分の能力を磨き、希望を実現すべく、粘り強く働きかけていく。

 企業は、労働者に対し、年齢や性別、学歴、経歴などに基づく固定観念を持ってい
ますが、一方で働く側にも、企業に対し様々な思い込みがあります。仕事の内実を知
らずに志望したり、逆に敬遠したり。企業の知名度や職種の響きのよさなど、本質的
でない部分にも囚われがちです。それは、自ら鋳型にはまり込むことになります。他
人からはエリートと言われるような人の中にも、そうした種々の思い込みの結果、窮
屈な職業人生を送る羽目になっている人が少なくないように思います。

 経済危機の中のサバイバルでは、こうした思い込みを捨てることも大きなポイント
になると思います。必要に迫られ、普段なら考えないような仕事に応募せざるを得な
いこともあるでしょう。自分が求める経済的条件や職業生活のうち、何が本質的で何
がそうでないのか。現実と理想のギャップはどこにあり、どのようにして埋めていけ
るのか。突き詰めて考える必要が出てきます。クリアな認識に基づく合理的な行動こ
そがカギになります。

                         評論家、会社員:水牛健太郎

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 個人も企業も、経済が悪くなってから、じたばたしても、どうしようもないと思い
ます。資本主義経済は循環するものですから、普段から、嵐の日のための準備が必要
だと思います。以前は、地方経済が厳しくても、東京経済は大丈夫、日本経済は不況
でも、アジア経済は好調という時代もありましたが、現在は世界同時不況ですので、
逃げ場がありません。宇宙に逃げ場がなければ、じっと耐えて、次の景気回復の時期
に備えるしかないと思います。冬は、春に備えた種蒔きの時期にするしかないと思い
ます。

 今回の景気悪化は通常の景気悪化ではなく、100年に1回の景気後退ですので、
備えのなかった低所得層や中小企業に対しては、国がセーフティネットを提供する必
要があります。大企業でも赤字が続けば、倒産してしまいますので、企業にセーフ
ティネットの役目を多く求めるのは、難しいと思います。企業にとって総賃金が変わ
らず、雇用者数が維持されるワークシェアリングは良い考えだと思います。東京のキ
ー・テレビ局は平均年収が1500万円程度と高いですので、政策批判をする前に、
率先して失業者を雇い入れて、ワークシェアリングすべきでないでしょうか。

 問題はいつから景気が良くなり、いつまで我慢すればよいかということですが、残
念ながら、2009年中は景気回復が見込み難いと思います。日本経済にリード役と
なる内需項目はありませんので、引き続き外需頼みということになります。鍵となる
米国経済は、コンセンサスでは2009年後半からプラス成長になると予想されてい
ますが、メリルリンチの米国エコノミストは、2009年いっぱいマイナス成長が続
き、2010年もL字型の緩やかな回復であり、経済が正常化するのは2011年と
予想しています。一方、中国経済は元々底堅いと考えていますが、中国政府は他国よ
り財政的な余裕があります。中国が8%成長維持のために、さらに景気刺激策を打ち
出す可能性がありますので、それに期待したいところです。

 今回の経済危機で、規制が強化される、デレバレッジの時代になる、労働者と企業
の関係が変わるなどの構造変化があるでしょうが、経済のグローバルの流れや、日本
の人口減少と低成長という大きな流れは変わらないでしょう。貿易保護主義の動きが
一部に出ていますが、日本の労働者は引き続き新興国の労働者と競争しなければなら
ないでしょう。企業もない袖は振れませんので、労働生産性を上げるしか、賃金を上
げる術はないと思います。日本政府もようやく重い腰を上げて、英語教育でスピーキ
ング重視になってきていますが、冬の時代に、労働者は自分のスキルを磨き上げる必
要があるでしょう。

 資産面では、2009年がチャンスの年になると思います。既に2008年に今年
の景気悪化を織り込んで株式は大きく下落したからです。個人投資家の昨年10月の
日本株買い越し額は1兆円と、過去最高になりました。トヨタやソニーなど日本を代
表する製造業の株式のPBRが、1倍割れとなりました。東証1部の平均配当利回り
は2.7%もあり、J-REITに至っては平均利回りが8%程度に達しています。ただ、
株式市場はすぐに大きく反発する状況ではありませんので、所得面同様に、資産面で
も100年に1回の株価暴落をじっくり仕込みの時期にすべきでしょう。こうした時
期に、日本の資本主義の父といわれる渋沢栄一氏の玄孫(孫の孫)の渋沢健氏が経営
するコモンズ投信が、30年投資を謳うコモンズ30ファンドを立ち上げられたのは
興味深いことです。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 不況に対応するため、個別に出来る経済行動は、コストカットに尽きます。このこ
とは、企業にとっても、個人にとっても当てはまります。経済の不確実性が増し、確
実であったはずの収入や給料が入ってこないか、大きく減少する可能性を考慮しなく
てはならなくなります。対応行動は、当面の確実なコストを削減することになります。

 ます、不要不急の経費を見直さなければなりません。様々なレベルの対策が考えら
れますが、自分で出来そうなことを思いつくままに列挙してみます。

 光熱費で言えば、家の電球を白熱球から蛍光灯に。風呂の回数を減らしシャワーで
代用する。暖房温度を下げ、冷房は使わない。・・・・これは省エネと同じことにな
ります。

 食費で言えば、外食はやめ、昼食は弁当持参か抜く、夜は家で家族と食べる。間食
はしないで禁酒禁煙。・・・・これは、かなり健康になれそうです。

 スーパーでの食料品の買い物は、日本産は高いので出来る限り輸入品。スーパーで
はナショナルブランド品ではなく、すこしでも安いプライベートブランドに。・・・
・これは、食にこだわりを持つ人にはつらいかも。

 衣料費ではブランド品は買わずに、おしゃれはディスカウント店で。・・・・これ
も、こだわりのあるひとにはつらい。特に女性。

 コスト削減効果が大きそうなのは、マイカーをやめたりサイズを小さくすることで
しょう。普段の足は公共交通機関と自転車、徒歩が中心になりますが、首都圏ならこ
れで十分暮らせそうです。・・・・環境や社会インフラにたいする負荷はずいぶんと
小さくなることでしょう。

 耐久消費財の買い替えを先にのばす。この際、たとえばテレビを捨てるのはどうで
しょう・・・・テレビを見る時間が減れば、他に有意義な時間の使い方が出来るかも
しれません。家庭にとっては、文化大革命となります。

 子供の教育費では、学校は私立ではなく公立に。塾はやめる。・・・・教育は将来
への投資でもあり、個々人の学力の問題もあるので、一番悩むところです。

 長期負債を負うような住宅購入も控えるか、買うなら自己資金の割合を多くせざる
を得ないでしょう。経済的には、一生貸家住まいも合理的です。・・・・これは、前
回のバブルとその後の不況からの貴重な教訓です。

 つまるところ、消費のカットによって生活費を削減するのですが、今の社会では消
費行動が自らのアイデンティティの一部となっているので、上記を実行するのはかな
り苦痛をともなうかもしれません。

 個人的な感想を述べれば、上記を実行したとしても、子供時代をすごした昭和30
年代、40年代の消費レベルよりははるかに高く、貧しくなったとしてもせいぜい昭
和50年代の消費レベルにもどると思えば、何のことは無という気もします。ただ、
消費レベルが向上した後の世代に習慣を形成した人たち、特に家計の消費の主体であ
る、女性・主婦層にはつらいかもしれません。

 一方で悪いことばかりではなく、人々の多くが消費レベルを切り下げれば、京都議
定書の温暖化ガス削減目標など軽くクリアーできそうです。

 消費行動のコントロールは、必要に迫られれば個人で勝手にできることですが、労
働面では企業都合のコストカットに付き合わされることになりますから、企業との関
係をどう折り合いをつけるかが問題になります。

 雇用調整の対象となり失職するのはその典型ですが、失職に至らない場合でも人員
が減らされる、辞めた人員に補充が来ない、残業しているのに賃金が支払われないと
いう状況は現実のもので、どこかで止めない限り際限のないサービス残業の泥沼に陥
る危険性があります。

 これら会社との関係に対しては、各自で対抗手段を見つけて準備しておくべきで
しょう。労働者を保護する法律に対する知識は、会社と事を構える際の必須の武器で
す。また、困った時に相談する労働組合、労働基準監督局や、助力を期待できるNP
O団体の電話番号ぐらいは控えておかなければなりません。

 経済的な水準の切り下げで、人々の意気は上がらないでしょうが、昭和の30年代
から50年代、もっと貧しかった時代に、我々は今より不幸であったわけではないよ
うに、多少貧乏でも絶望しないで生きていく道はあるように思います。

 経済の範疇を超えますが、そのひとつは、心の持ち方、つまり内面の充実通じて、
もうひとつは外面、社会や共同体など公的な領域への、主体的な参加を通じて達成さ
れるように思います。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 三ツ谷誠  :三菱UFJ証券 投資銀行本部エグゼグティブディレクター

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

 ありきたりの回答になるかも知れませんが、古人の知恵に学ぶということはとても
大切なことであって、サバイバルということを考える上では「愚者は経験に学び、賢
者は歴史に学ぶ」という言葉が非常に示唆的な言葉ではないかと感じています。

 勿論、今回の危機は新しい構造に基づくものであって、その意味では学ぶべき歴史
それ自体存在しないのではないか、という反論も有効だと思うのですが、そんな事を
言えば、一回性の歴史は常に先例を持たないのであり、過去の歴史の中に何か帰納的
に教訓とすべきことを見つけられるかどうかも、まさに愚者と賢者を分かつものなの
かも知れません。

 また、世界というものは確実に変わるもので、中世の人々の世界観と近代人の世界
観には隔絶があるでしょうが、人間の感情の基礎になるものは、たぶんそんなには変
わらないのであって(だから古典は古典なのであって)、その意味でも歴史に学ぶ意
味は深いように感じます。

 会社生活という意味では、ああこんな局面では徳川慶喜は生き恥を耐え謹慎を貫い
たよな、とか、関が原後、薩摩に篭った島津は、窮地を脱するとすぐに琉球に向かっ
たよな、とか、自分の置かれた政治的な位置を考え、自分と近い境遇の先人が何をし
たかに思いを至らせる訳ですが、社会全体という意味で言えば、いまであれば、19
30年代の歴史を振り返ってみる、とか、極端に言えば末世として捉えられた源平合
戦期の和歌や随筆などを振り返ってみる、などが有効な気がします。

 その例を、司馬遼太郎のレベルで(それもたいしたものですが)挙げていくのか、
講談社学術文庫(笑)のレベルで挙げていくのか、そこは教養の問題で、その蓄積が
深い人間の方が、身の処し方も巧みな気はします。

 ただそれは覚悟の問題でもあり、戸川万吉はこんな時どうしただろう、流全次郎
だったら、どうするだろう、ルフィだったらどうだろう、という感じでも、腹が据わ
れば十分で、教養はあっても、うじうじしているだけでは何もなりません。

 また、結局、歴史を学びその過程で本を読むことで、『蟹工船』の世界をそのまま
受け入れ、いまはストレートな意味では存在しない丸の内の資本家を糾弾するという
ようなありきたりの二分法(ブルジョアとプロレタリアート)で世界を把握した気に
なって、誤った敵を撃つ(そのため何も変わらない)という現象もなくなるような気
がします。

 その意味では、歴史だけではなく、経済学史の本でも、学説でも、産業の歴史のよ
うな本でも、極端に言えば、日経や朝日を徹底的に読むということでも十分ではない
でしょうか。

 要するにサバイブするためには、書を読み先人の知恵、他人の知恵を学ぶ必要があ
る、ということだと思います。逆に一番危険なのは自分で考えることなく、煽動者の
煽動に流されてしまうことだと思います。

        三菱UFJ証券 投資銀行本部エグゼグティブディレクター:三ツ谷誠

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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 確かに2009年は不景気が予想されます。しかし、だからといって、全員が不景
気を意識して特別な行動に及ぶことは不要であり、時には愚かでもあるしょう。不況
の1年とはいっても1年は1年であり、多くの人にとって人生の1%以上のウェイト
を持つ貴重な時間です。美味しいものを飲み食いすることもいいし、遊べるときには
大いに遊んで楽しく過ごすことも大切でしょう(もちろん仕事も勉強も大切です)。
たとえば公務員及びその家族は、雇用の心配もないし、収入が減る心配もなく、物価
は下がっているので、現状で生活条件は改善しているはずです。

 不況になると、不況でないときの行動が反省できることもあります。たとえば、昨
年、同族経営の某大手自動車メーカーが忘年会を自粛して地元の町が閑散とした年末
を迎えたことが話題になりましたが、売り上げが落ち込んだくらいで止めてしまう忘
年会なら毎年やる必要がなかったのでしょう。また、この会社をはじめとして資金的
には十分な余裕を持っている会社がテレビ等への広告宣伝費を削減する動きを見せて
いますが、そもそも売り上げ(正確には利益)増のために広告を行っているなら、売
り上げが落ち込んでいる現在、広告費を削減するのは非合理的です。もともと彼らの
広告には費用に対する効果が乏しかったということではないでしょうか。

 さて、人によって状況は様々ですが、現在、生活の防衛を意識しなければならない
人は多数いるでしょう。こうした人が意識しておくといいことを何項目か挙げてみま
す。

(1)職の確保。自分の努力だけで満足のいく結果が得られるとは限りませんが、雇
用を失わないように留意すべきでしょうし、同時に、解雇された場合や会社が傾いた
場合にはどうするかを、考えておくべきです。また、転職の際は、次の雇用を確実に
してから退職手続きに入ることが大切です。

(2)収入源の複数化。中長期的には、収入源そのもの、あるいはその可能性を複数
持つようにするといいでしょう。

(3)リストラに対する対応。運悪く人員整理の対象になった場合には、自己都合退
職に同意したとみなされないようにすることが重要です。会社都合による解雇と自己
都合による退職では、退職金(会社の規定により異なります)も失業保険も、金額に
してざっと二倍違います。また、法的には正社員の解雇には厳しい条件があり、解雇
自体が不当であると争う余地が十分あることが多いでしょう。会社側(上司や人事
部)は後のトラブルを避け、費用を安く抑えるためにも、あの手この手で自己都合退
社への同意を求めてきますが、これに簡単に応えてはいけません。

(4)資産の確認。自分の金融資産と実物資産(主に家と車でしょう)の価値と、現
在の状況を正確に把握しておきましょう。欧米ほどではありませんが、日本の銀行の
財務状態も傷んできたので、一人で一行あたり1千万円まで、という預金保険の保護
範囲を意識しておくことが重要です。また、投資信託などで分配金だけに気を取られ
て元本のリスクを意識していないケースもあるので、自分の資産の状況を把握してお
きましょう。リスクを取りたくない金融資産の置き場所としては、信用リスクとそこ
そこの利回りの観点から、10年満期型の個人向け国債かMRF(「マネー・リザー
ブ・ファンド」。こちらは毎日出し入れできます)をお勧めします。

(5)投資のチャンス。資産価格が下がる不況は投資のチャンスです。対象は、株式
であったり、不動産であったり、あるいは事業そのものかも知れませんが、財産的に
余裕のある人や企業は投資のチャンスについて感度を高めておくべきでしょう。投資
のベストなタイミングが「今」なのか、もう少し先なのかは分かりませんが、投資の
点では、今年が大きなチャンスのタイミングである公算が大きいと私は思っています。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 ( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 今回の金融・経済危機は、かつてないスピードで世界的に共振しながら影響し合っ
て拡散していますので、簡単に収束するとは言えず、今年、来年と厳しい状況が続く
と思われます。そして、株価が上がったり、景気指標が予想ほど悪くなかったりと、
少し状況が良くなったかのようなニュースが流れますが、それを打ち消すかのような
動きも見られ、先行きが見通せないため、何が起きるのかという不安は消えないとい
うのが現状ではないでしょうか。

 そこで、個人として、こうした世界的な経済停滞の中にあってどうサバイバルして
いくか(生き残っていくか)ですが、まず気持ちの持ち方です。第一に、こうした状
況は永久に続くなんて考えないことです。長期にわたって堅調であったアメリカ経済
も、いつまでも続くかのような見通しが信じられていたのに、あっという間にこうい
う状況になりましたし、昨年夏まで堅調であった日本の経済も、あっさり不況に陥っ
てしまいました。逆に、悪いことも永久に続かないことを歴史が証明しています。要
は、状況を悲観的に見すぎないことです。

 次に、そうはいっても、この危機はまだまだ序の口かもしれませんから、気を緩め
ず、現実を直視し、自分の意見を持って行動することです。よく、少しいい兆しが出
てくると、もう危機は終わりに近付いているという意見が出てきたり、マスメディア
が楽観論を振りまくことがありますが、そうした意見に流されることなく、自分の目
で確かめ、考え、自分なりの結論を引き出して、自分の責任で決断し、行動すること
です。もちろん、そうした意見が正しいこともあります。そのためにも、慌てること
なく今一度立ち止まってみることです。そして、それができるように情報収集と知識
向上のために少しは投資することが必要です。それは自分への投資にもなります。

 また、将来の不測の事態を考えて、今持っている資産はいくらなのか、もし住宅購
入などで抱えているとしたら負債はいくらなのかを、確認しておくことです。なぜな
ら、万が一職を失い、一定期間収入が途絶えて、その間貯金などで生活していかなけ
ればならないこともあり得ますから、資産を、特に現金や換金性の高い金融資産につ
いては、できるだけ減らさないように、節約生活を心がけることが必要です。そし
て、負債では、金利の高い負債などその内容によっては、可能ならば返済を早めてお
くことがいいかもしれません。

 そして、現在の収入は、将来も約束されているとはいえません。もしさらに一段と
経済が悪化することになれば、会社は派遣社員など非正規労働者だけでなく正社員ま
で雇用削減を行うことがありえます。当然、正社員を解雇するのは、会社が生き残る
ための最後の手段となりますが、そうした場面に遭遇した時は、一つには、会社と戦
う術を持つことでしょう。会社はあらゆる手段を使って退職を強要してくることもあ
り、また最近の労働組合は会社寄りであまり味方になりません。したがって、自分の
身を守るために、それに対抗する雇用関連知識は、ネットからでも手に入りますか
ら、少なくとも身に付けておくといいかもしれません。

 ただ、結局、もし人員整理に直面した時は、会社に復帰できる可能性はほとんどな
いでしょうから、できるだけ会社都合退職(自己都合の場合と異なり、失業保険で大
きなメリットがあります)や高額の退職金など有利な条件を引き出すことに専念する
ことです。以前ならば、会社は、できるだけ従業員を大事にしようとして解雇はしな
い努力をしましたが、最近の経営者(特に大企業)は従業員をそれほど大切な存在だ
と思っていないような発言をしますので、もしかしたら会社から簡単に切られる最悪
の事態を想定しておくことが必要かもしれません。ただ、だからと言って最初から会
社の仕事をなおざりにしては、会社に解雇の口実を与えることになりますから、仕事
はしっかりこなしていくべきでしょう。

 もし失職することがあれば、次の職を探さなければなりませんが、経済危機の状況
のなかでは、簡単に見つからないと思われます。そのためには、自分を磨くこと、た
とえばスキルや技術の向上を図るためや資格を取るための勉強したり、投資をしたり
するなど努力を怠らないことです。また、よく会社の仲間内だけで飲みに行くことが
会社員には多いのですが、それでは職を失った時には何も残りませんから、将来何か
就職につながったり、貴重な就職情報を手に入れたりするために、異業種や同業他社
などの友人や知人を多く作ることです。もちろん、逆に助けてほしいと言ってくるか
もしれませんが、そうしたことに誠実に対応すれば、必ず自分にもいい結果で帰って
くるはずです。その意味で助け合う関係をできるだけ作っておくといいのではないで
しょうか。

 当然、収入を得る手段の多様化をはかることをあらかじめしておくと、当面生活に
苦しむということはないでしょうが、多くの会社は兼職禁止でしょうから、そう簡単
にいかないはずです。考えられるとしたら、株式や為替などの取引による収益でしょ
うが、こんなに乱高下する市場では、そんな甘い期待は持たないほうがいいでしょ
う。むしろ、仕事が手につかなくなるかもしれず、あまり薦めません。ただ、ここ
2、3年の間に市場は大底を打って、投資するチャンスはありえますので、それまで
余裕資金をできるだけ増やす努力をするのが先決でしょう。

 最後に、どうしても職が見つからず、また生活していく資金が少ないとなれば、こ
の際生きることを優先すべきであり、そのために都市部から離れることも選択肢に入
れておくべきと思います。つまり、地方出身者なら、自分の故郷に戻ったり、そうで
なければ、知り合いがいる地方に行って農業でもして、その日の食べるものを自分で
作ることです。地方は財政的に厳しいでしょうが、自分の故郷の地方自治体の首長が
来てほしいと言っているくらいですから、人が増えることを喜ぶでしょう。むしろ若
い人ほど歓迎してくれるはずです。

 とにかく現実から逃げることなく、前向きに生きていくことです。それがいずれピ
ンチがチャンスに代わることになります。そして、こうした危機の時ほど、自分を見
直し、改革し、そして新たな発見をする者が、大きく発展していくと思います。それ
は、個人ばかりではなく、企業も、そして国も同じことが言えるのではないでしょう
か。

                             経済評論家:津田栄
                                      
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 ■ 北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト

「生き残る」ためには、他の様々な価値よりも、生き残ることを最も優先することで
はないかと思います。終戦直後、正規に配給される食糧だけで乗り切ろうとした裁判
官が餓死したという話がありました。彼は、文字通り「生き残る」ことよりも、ルー
ルを遵守することに価値を置いていたともいえるでしょう。

 先日、「老学生の日記」(坂本武信、産経新聞の本)という本を読みました。大手
生命保険を定年前に退職し、今は年金をもらいながら、東京外大の学生としてポーラ
ンド語を学んでいる方の手記です。彼は、定年前に心筋梗塞に突然襲われました。幸
い死の淵から生還し、あと数年、会社にとどまることも可能でしたが、すっぱりやめ
ました。その時の心境を彼はこう書いています。会社における出世を松竹梅にわける
と、自分はせいぜい竹程度の出世しかしなかった。だから、未練もなく会社を辞める
ことができた。仮に自分が松の出世をしていたなら、辞めなかっただろう。そうする
と、人生は変わっていたかもしれない。自分にとって出世しなかったことは結果的に
良かったのだと。

 これはほんの一つの事例にしか過ぎませんが、我々は何らかの選択するときに、様
々な価値を比較考量するように思います。世間体や倫理観なども重要でしょう。ある
就職関連の本に、東大生は、その時々の最も人気のある業種に行きたがるという指摘
がありました。彼らは松の人生を歩んできたと思っているので、今さら竹を選択でき
ないのでしょう。おそらく、こうしたことは、松から竹という大雑把な括りだけでは
なく、梅Aから梅Bになれないとか、さらに細分化されているのではないかと思いま
す。本当の本当に「生き残り」が重要なら、「なりふりかまわず」になることだと思
います。

 ただ、前回の景気後退時(2001年から2002年頃)に比べて、その意味では
今の方が、「生き残り」やすいようにも思います。この年末年始、日比谷公園に設置
された派遣村がメディアで大きく報道されました。同じ日比谷公園を舞台に描かれた
小説「パーク・ライフ」で吉田修一が芥川賞を受賞したのは、2002年9月でし
た。当時の失業者数は約350万人、昨年11月時点の約250万人よりも100万
人以上多かった。むろん、失業者数は今回も今後数か月で、数十万人単位で増加する
ことは予想されますが、それにしても日比谷公園の描き方はずいぶん違っています。

 小説は、昼休みに日比谷公園に休息に来る若いサラリーマンの何気ない日常を描い
ております。そこに不況の匂いはありません。今は、恐慌っぽく報道されます。変
わったのは社会ではなく、社会を伝える編集方針のように思います。前回の景気後退
時は、「頑張った人が報われる社会」にするのだと言われておりました。今は、「報
われなかった人のために頑張る」ことに価値が置かれているように思います。もっと
も、これは昨年秋の金融危機で突然変わったことではなく、この十数年単位の変化で
しょう。

 A・Mシュレシンジャーの「アメリカ史のサイクル」(パーソナルメディア)によ
ると、米国の政治思想、経済思想は約30年周期で民主主義的価値観と自由主義的価
値観の間を循環変動していると言います。ちょうど、カーター・レーガンの頃から自
由主義的価値観が民主主義的価値観を駆逐し始めました。社会の安定よりも個人利益
の最大化に価値が置かれました。これがピークを迎えたのはニュート・ギングリッジ
が下院議長になった1990年代半ばでしょう。ルーズベルト以降の社会主義化した
アメリカがようやく終わったと言われました。ピークを迎えると、あとは衰退するし
かない。1999年にシアトルで開催されたWTOへの反対運動や、2001年の9
・11テロも、自由主義的価値観への挑戦と位置づけられる筈です。そして金融危機
で止めを刺された。オバマ政権の誕生は、民主主義的価値観の時代の始まりを象徴し
ているのでしょう。おそらく十数年後、アメリカが国民皆保険を実現したところで、
この思想も次のピークを迎えるのでしょう。

 昨年、ポーランド生まれの社会学者、ジグムント・バウマンの著作が、私が知る限
り4冊も翻訳されました。ちょうど、1年前の1月10日に「コミュニティ」(筑摩
書房)という本が出版されております。彼は、面白いことを書いている。「言葉」と
いうものには、「語感」を伴うものがある。「コミュニティ」という言葉は、「良い
ものだ」という感じがする。そこは、温かく、居心地がよいという感じがする。「コ
ミュニティ」は、「私たちがそこに住みたいと心から願い、また取り戻すことを望む
ような世界を表している」と。

 ただ、1925年生まれのバウマンは、こう付け加えるのもわすれない。「どのよ
うな選択をするにせよ、得るものもあれば、失うものもある。コミュニティを失うこ
とは安心を失うことを意味する。コミュニティを得ることは、即座に自由を失うこと
を意味する。安心と自由は、ともに等しく貴重かつ熱望される価値である。それら
は、よかれ悪しかれバランスを保っているが、両者の間で調和が十分に保たれて、軋
轢の生じないことはめったにない」。

 我々の社会は、今、自由より安心を選ぼうとしているように思います。おそらく、
この社会のまなざしはやさしく、松竹梅へのこだわりも相対的に少なく、「生き残
り」やすい時代なのだと思います。ただ、「しがらみ」は増えるだろう。

                 JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一

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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部准教授

 現下の難局を生き残るには、「和」が大事だと考えます。これは、平時でもそうで
すが、厳しい状況になればなるほどより重要になってくると考えます。往々にして、
会社や組織の衰退は、内部の利害対立が抜き差しならなくなることから起こります。
会社や組織の外部から、内部の対立要因の元がもたらされることもあります。だから
といって、内部で利害対立を助長することになれば、結果的に自らの立場を失うこと
になりかねません。

 振り返れば、1990年代以降の日本経済の低迷も、経済的要因は(すでに議論さ
れているように)いくつか重要なものはあるのですが、会社や組織内部の対立、債務
者と債権者の対立、生産者と消費者の対立、高齢世代と若年世代の対立、都市部住民
と農村部住民の対立、経済社会的規制をめぐる既得権益の享受者と新規参入者の対立
を、うまく調整できなかったことも重要な低迷要因になっていたと考えます。市場原
理がうまく機能する経済であれば、こうした経済的利害対立は、市場原理(特に、価
格調整メカニズム)を通じて解消されるのですが、市場の失敗や機能不全(時として
それは政治的な理由で市場の機能不全が起こる)が起こると、市場原理を通さずに利
害対立を解消するしかありません。

 しかし、特にバブル崩壊と必ずしも関連があるかはわかりませんが、1993年以
降、我が国の政治は自民党一党優位体制でなくなりました。さらにさかのぼれば、1
989年の参議院選挙で初めて「衆参ねじれ」状態となり、以後ねじれ状態の深浅は
変われども、政治的に利害対立を解消するには相当な政治力を要する状況になりまし
た。2007年の参議院選挙後には再び「衆参ねじれ」状態が深刻化しました。我が
国の政治経済構造を見れば、協調の失敗(cordination failure)が生じているといえ
ます。

 経済・社会的にある利害対立を、市場原理でうまく解消できないとすれば、政治に
よって解消するしかないのですが、これも機能不全に陥っているということになれ
ば、マクロ経済、日本社会全体で大々的に協調して利害対立を解消することは、しば
らく困難なのかもしれません。

 そうなれば、せめて自らが関わる会社や組織、さらにはコミュニティーだけでも、
利害対立を円滑に解消する努力をして、自らの立場を維持するべく取り組むことから
始めるしかないと思います。これを既存の表現で言えば、「和」を重んじるともいえ
るでしょう。ここで主張したい「和」とは、単に利害対立があっても我慢して妥協し
て、不満が残っても対立を顕在化させないというよりも、不要な対立を避けつつ互い
の満足度を高める可能性を追求するということです。もちろん、「馴れ合い」や「談
合」を奨励して閉鎖的に(利害対立の元となると恐れる)新規参入者を排除して、表
面的に「和」を保つようなことを薦めるわけではありません。「和」を重んじ不必要
な対立を避けるけれども、閉鎖的にならず、自らに向上する努力(生産性を向上させ
るとか、知識や技能の水準を高めるとか、効率化・合理化するといった努力)を相手
を貶める敵対的行為をせずに取り組むということが、こうした難局下で生き残るため
に求められていると考えます。

 最近の構造改革に対する批判の中で、「競争」が人々の心の荒廃を生んだとの指摘
があります。もしそうであれば、それは経済学が主張している趣旨と違うと私は考え
ています。「競争」の意図は、「切磋琢磨」に近い意味で、相手を貶めてまでして自
らがよくなればそれでよいというわけではありません。その根拠は、パレート最適と
いう概念にも体現されています。ただ、日本語の「競争」という言葉の中に込められ
た意味と、従来日本で重視されてきた「和」との間のギャップを考えれば、利害対立
の円滑な解消を目指すべく「和」の精神にあるよさを引き出すことが必要です。しか
し、時として「和」を重んじるという態度の中に、「馴れ合い」や「談合」を是と
し、社会や会社や組織に質的向上を怠ることを是認してしまう悪い癖があることに
は、十分に警戒しつつ、そうした状態に堕さないように注意深く努力しなければなり
ません。その意味では、「和」の精神とともに「切磋琢磨」も合わせて求められると
いえるでしょう。

                    慶應義塾大学経済学部准教授:土居丈朗
                  <http://www.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/>

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 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

「サバイバル」といえるほど究極の苦境や困難に立ち向かう術は、そうあるものでは
ありません。ただし、例えば企業に身をおく立場であれば、こうした経済環境の下で
の自らの立場と、処し方について再確認しておくことは重要でしょう。

 企業で働く社員の給与については、一口に人件費と言っても、企業会計上はそれぞ
れの仕事の内容に応じて分けて計上されています。例えば製造業であれば、製造ライ
ンの人員の給与は、製造原価に含まれます。この項目に含まれる人件費の管理につい
ては、経営上は「変動費化」することが課題となるため、多くのメーカーなどでは派
遣や契約などの形態を導入し生産需要に応じて柔軟な雇用調整することを追求してき
ました。

 一方、本社の管理部門や営業部門の人員のコストは販売費および一般管理費として
計上され、固定費として認識されます。従って、コスト削減の観点からは常に人員数
の抑制が図られることが建前となります。実際には、営業部門、特に外資系の金融機
関などでは、報酬体系そのものが既に変動費化されていますが、それでも今回のよう
な局面では大幅な人員削減が行われています。当面の環境を考えれば、収益につなが
る商品の販売や案件の獲得が全く達成できない状況も見込めるのであれば、止むを得
ない対応といえます。

 しかし、どのような厳しい経済環境の下であれ、企業で働く立場としての身の処し
方については、普段と大きく変わるものではないと思います。

 例えば、意識すべきこととしては、チームメンバーやスタッフの全員が、前向きに
企業の収益につながるビジネスの獲得に努める意識を持つこと、積極的に貢献できる
機会を求めること、その成果を認識させること、などです。要は、自分の所属する部
門やチームなどが活性化された状態を維持できるように、全員がそうした意識を持つ
ことです。

 反対にやってはいけないことは、「働いている振りをする」ことです。これは、も
ちろん会社で働く上で、最も他人に迷惑な行為ですが、特に現在のようなセンシティ
ブな環境では周囲のモラルやモチベーションを著しく下げるので要注意です。そうし
た働き方(振舞い方)をする傾向を持つ人は、こうした時期には特にその傾向が強ま
りがちです。周囲としては、できるだけ成果に結びつく方向に努力を振り向けさせる
などの働きかけも重要でしょう。同時に、人員削減の嵐が吹き荒れる状況では、個人
の実績にこだわったり、立場の確保に執着して立ち回ったりしても、あまり意味がな
いという意識も共有しておくべきです。

 たしかに、昨年末にかけての金融業界での人員削減では、部門を問わず一律の割合
での人員カットを行った金融機関も少なくありませんでした。特に、市場での株価水
準が生命線であった金融機関にとって、株式市場での信認を維持する上では、決算の
発表と同時に迅速な対応を示すことが必要であったため、まずはスピード重視での対
応を行ったと言えます。しかし、今後のいずれかの時点で、さらに踏み込んだコスト
削減が必要になるかもしれませんし、その場合は、組織体制の見直しを前提により選
別的で集中的な人員削減や部門の整理が行なわれるでしょう。そこで個人の身を守る
のに有効であるのは、個人としての処世術ではなく、むしろ部門やチームでの実績・
パフォーマンスとなります。

 当然、大幅な人員削減が行なわれれば、残った人員でビジネスを継続し、さらに拡
大の機会を追っていくことにはより大きなエネルギーが必要となります。それだけ
に、部門やチームとして活性化された状態を維持することは重要です。企業の苦境に
際して、社員の求心力やチームメンバーのモチベーションを維持するのは、それぞれ
経営や各マネジャーの責任ですが、人員削減に踏み込んだ時点で、しかも追加的な人
員削減の実施を迫られる状況では、それを期待するのは難しいでしょう。

 一般的に、人員削減などの施策は職場の信頼関係を失わせ、相互の不信感を増幅す
る結果になることが少なくありません。それでも、企業に身をおいて働く以上重要な
ことは、まず自分の周囲の同僚たちと、共に困難に立ち向かう意識を共有しようと努
めることではないかと思います。少なくとも、オフィスにいる時間はそう努めるべき
で、その上で自分の副業や資産運用に取り組むのはよいでしょう。今回の設問の主旨
である「個人として現在の苦境をサバイバルするための方策」と言う意味では十分な
回答にはならないと思いますが、まず心がけておくべきことではないかと思います。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

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 ●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●
          ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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JMM [Japan Mail Media]                 No.514 Monday Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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