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「世界バラマキ競争」に未来はあるか(神谷 秀樹)
http://www.asyura2.com/09/hasan61/msg/207.html
投稿者 ダイナモ 日時 2009 年 1 月 19 日 21:44:57: mY9T/8MdR98ug
 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081224/181192/

 世界各国揃って大不況を迎える中、ドイツを除くほとんどの政府が大型景気刺激策を打ち出している。米国のバラク・オバマ次期政権も同様で、米国政府の財政赤字は2009年、1兆ドルを超え、場合によっては2兆ドルに迫ると予想されている。これだけの赤字を支えるには、それだけ国債を発行しなければならなく、2009年の米国国債発行入札は365日中200日行われる予定だが、果たしてすべての入札が成立するのかどうか早くも不安視されている。

 それもそのはず、ドルが強く、日米間に大きな金利差があれば、ドル債を買う日本の投資家も多いだろう。しかし、金利が両国ともになきに等しく、しかも特別ドルが強くなる理由がなければ、世界第2のドル債保有国が今後もドル債投資を続けてくれるかどうか分からない。産油国も急速にお金がなくなり、中国も米国投資には大損し懲りている。もし販売不振となれば、連銀がお札を刷って購入することになるが、それはハイパー・インフレへの道となる。

「資金使途など回答せず」の公的資本注入

 この不安をさらにかき立てるのがお金の使途だ。ハンク・ポールソン財務長官は議会に対して、7000億ドルの金融安定化資金を要求した際に、その主たる使途は住宅金融債権を金融機関から買い取り、債務者が家に居られるよう努力することにあると言って議員を納得させた。

 しかし、ポールソン長官はその舌の根も乾かぬうちに、「気が変わった」そうで、まずは大銀行の自己資本充実のためと優先株を買い始めた。これにより貸し渋りを防止するというのが、同長官の説明だった。

 資本注入の効果は果たしてあったのか。2008年12月、AP通信は10億ドル以上の資本注入を受けた21行に、資本注入額、資金使途などについてアンケート調査を行ったところ、いずれの銀行も満足な回答をしなかったという。こうした銀行の態度やポールソン長官の対応に、納税者や議会は怒りをあらわにしている。一方、FDIC(米預金保険公社)が買い取り、リスケしたサブプライム・ローンも、リスケ後3カ月で55%が再度焦げ付くという結果が出ており、成果はなかなか上がらない。

FRBも“不良債権飛ばし”、その中身は不透明

 政治から独立し、透明性を保つことで金融政策の信任を得るべきはずのFRB(米連邦準備理事会)も、その対応に不透明なところが多い。

 FRBは2008年3月に老舗の投資銀行、ベアー・スターンズが破綻した際に、不良資産の公的な“飛ばし先”として「メイデン・レーン(参考記事 - http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20080715/165395/?P=2)」と呼ばれる特別目的会社を設立した。こうした会社は、これまでに少なくとも3つ設立され、ベアー以外にAIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)などの不良資産を飛ばしている。

 この飛ばした資産の中身や価格は明らかにされていないのだ。2008年12月29日付けビジネス・ウイーク誌は、この問題を追及したが結局究明しきれず「バーナンキの裏口救済」という標題の記事にした。

景気刺激の財政出動で、ウオーターパーク建設求める

 オバマ新政権が景気を立て直すため打ち出す大型の財政出動も、先行きが思いやられる。オバマ次期大統領はその資金使途として、インフラの修復や拡充に力を入れたいとしている。では、どのようなインフラ投資に使われるのか。

 財政出動に向け、全米の地方自治体は必要な投資を記した要望書を提出した。その中には、驚愕するような内容が書かれていた。例えば、水族館や動物園の修理、中には新たなウオーターパークの建設など不要不急の物がたくさん含まれていたのだ。

 米国の3大テレビネットワークのリポーターが、要望書を出した首長の代表に、要望書の中身について問い質すと、彼は「これで多くの雇用が創出される」と回答した。ここまでは模範解答だが、その後、「(自分が代表して出した)要望書の中身は、忙しくて読んでいない」と告白した。

 米国でも、日本でも、そして中国や英国などでも、今回の金融危機そして経済危機に直面して、大型の予算が組まれ始めた。確かに、現在のような情勢では、個人が借金して消費することもなく、需要の減少で設備過剰になった企業は、設備投資を控える。

迅速というより拙速

 経済はカネの循環で成長する。個人も企業も金を使わないなら、政府が彼らに代わって支出する政策を講じるのは、経済学的に当を得たものだ。しかし、国家が大借金し、出費、時には浪費を重ねて景気の回復を図る行為は、本当に無謬の政策なのだろうか。

 私は「何のためにそのお金を使うのか。そしてそのお金が何を生むのかを聞かなければ、その判断はできない」としか答えられない。カネをつけるにしても、新しい価値の創造につながるものに向け、将来、負債だけが残るものだけには絶対に使ってほしくない。

 この不況時に技術開発と設備投資は重要である。この先の勝負は今決まる。企業間も国家間の競争も同じで、これからの国力の競争は「今何に投資するのか」で決まるのである。言い換えるならば、今こそ「知恵比べ」の時である。

 しかし、政府、政治家、経済界、エコノミストが今、論じているのは「政府はお金を使え」という「量の問題」ばかりで、意味のある使途や目的、期待する成果という質への言及が少ないようだ。今は非常時で議論よりも、ともかく迅速な行動が必要だ、という意見もあるかもしれない。しかし、先に述べたように米国でこれまで講じられてきた金融マクロ政策を振り返ると、迅速というよりは拙速なものに見えるのは筆者だけだろうか。

借金と浪費の果て、からの脱却

 もう一歩引いて考えてみよう。現在、政府をはじめ、我々一人ひとりが目指すべきこととは、一体何なのだろうか。

 借金と浪費の果ての「強欲資本主義」が崩壊した今、我々が目指すべきは「節度ある経済」の回復のはずだ。すべての誤りは人間の生活、文化といったものを忘れ、「単に数字を無限に追いかけたこと」にあり、その経済が自爆したのである。

 ならば、そこに学び、自分たちが目指す経済とはどのようなものなのか、自分たちの頭で考え、自分たちの心が求めているものを感じ取ることが重要なのではないだろうか。「経済刺激策の国際競争」にのめり込んでいくのが世界経済の根本問題を解決するとは到底思えない。それは、むしろ過去の過ちの繰り返しである。

 羽目を外した出費を控えているのはドイツだけのようであるが、同国は国民の貯蓄率が落ちてきていない国でもある。健全な経済感覚が失われてはいないのであろう。学ぶものがあるように思われる。


神谷 秀樹(みたに・ひでき)
ロバーツ・ミタニLLC創業者兼マネージング・ディレクター
1953年東京都生まれ。小学校時代をタイで過ごし、75年早稲田大学政経学部経済学科卒業後、住友銀行入行。ブラジル・ミナス・ジェライス連邦大学留学を経て、84年ゴールドマン・サックス証券に移籍。92年に日本人では初めて米国で投資銀行の「ミタニ&カンパニー・インク」を設立、95年に「ロバーツ・ミタニLLC」に社名変更。米国在住。著書に『ニューヨーク流 たった5人の「大きな会社」』『さらば、強欲資本主義』(いずれも亜紀書房)、『強欲資本主義 ウォール街の自爆』(文春新書)がある。これまでに大阪府海外アドバイザー、フランス国立ポンゼショセ大学国際経営大学院客員教授などを兼務。

 

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