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竹森俊平教授と神谷秀樹氏と「強欲」資本主義の終焉と金融の「質」についての議論【日経ビジネスオンライン】
http://www.asyura2.com/09/hasan63/msg/310.html
投稿者 Ddog 日時 2009 年 6 月 22 日 22:35:15: ZR5JcjFY1l.PQ
 


経済危機は9つの顔を持つ
竹森俊平の突破口を探りに行く
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20090514/194622/


究極のロビイスト“ゴールドマン”の罪
神谷秀樹氏と「強欲」資本主義の終焉と金融の「質」について議論する(上)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20090603/196590/?P=7

今回は激論である。予想通りにと言ってもいいかもしれない。実は対談の前に神谷秀樹さんからメモがきた。自分は現在米国や日本が取っているような巨大な景気刺激策は、財政破綻の危険を招くだけで意味のない愚行だと考えている。この点について竹森先生が同じ考えなら、大いに糾弾しようではないかと言うのである。
 しかるに、筆者は不況の際の景気刺激策を原則として容認する。その立場を一貫してきたつもりである。だからこの点については、前回と同じように討論になりますね、と神谷さんには伝えておいた。そう、神谷さんとの対談は今回が2度目である。前回は、今は休刊となった「諸君!」という雑誌でのM&A(合併・買収)の是非を巡っての対談だったが、その時も景気刺激策については討論になったのである。
金融業ほど仮借ない論理性に貫かれたビジネスはない
 逆に言うなら、景気刺激策以外の点では神谷さんとさほど意見が異ならない。それは前回も今回も同じである。というより、筆者はウォールストリートの中枢で活動されながら、自分の考えを貫かれてきた神谷さんの識見に毎回深い感銘を受けている。対談をしてこれほど勉強になることも稀である。書物や新聞を読んで、一生懸命、頭を働かせながら、ようやくおぼろげにアメリカの金融界の状況をつかめているという一介の経済学者にとって、ルービン(元米財務長官)やポールソン(前財務長官)のような金融界の大物と直接渡り合ってきた方のお話ほど貴重なものはない。
 一般の読者には、ウォールストリートで活躍しながら、アメリカの資本主義を賛美する代わりに、くそみそにこき下ろす神谷さんのような人物はひょっとしたら「変人」に見えるかもしれない。何かというと「アメリカではね…」と言って、日本のビジネスをバカにするタイプの方が、一般の受けが良いのかもしれない。
 だが、ビジネスの環境にも、証券マンのステレオタイプにも縛られないで独自の行動を貫ける人物だからこそ、ウォールストリートでの活躍が可能なのだ。神谷さんの本のタイトルには、「強欲資本主義」という「えげつない」言葉が毎回出てくるが、そのために下手をすれば、読者はどこか中身の薄っぺらい本を予想してしまうのではないかと危惧する。だが、「GREED(強欲)」という言葉は、ニューヨーク・タイムズのようなアメリカの高級ジャーナリズムでも頻繁に使われる言葉で少しも「えげつない」ものではない。それに神谷さんの本はいつも実に格調が高い。
 筆者は証券業と銀行業を分離するグラス・スティーガル法の実質上の廃止が、今回の金融危機の一因になったかどうかについて考え迷ってきたのだが、今回、神谷さんの説明を聞いてその迷いが解けた。まことに理路整然とした説明をされたのだ。
 その時に分かったことなのだが、神谷さんが今のウォールストリートを徹底して批判するのは、ご自身が金融業の本来のセンスを身につけておられるからなのだ。そもそも金融業ほど、仮借ない論理性に貫かれたビジネスは存在しない。かつてその論理性は、いかにしたら長期の視野に立った金融ビジネスを築けるか、いかにしたら過剰な利益追求によって経営破綻を招くことを避けることができるか、といった「賢者の知恵」について、つまりセーフガードの構築についてとくに透徹していたのである。
 その論理性を身につけた人物が今のウォールストリートを批判するのに何の不思議もない。それでは読者にも、冴えた論理の衝撃を堪能していただくことにしよう。
竹森 4月に開催されたG20(20カ国・地域)首脳会合(金融サミット)の結果を、神谷さんはどう受け取られましたか。
神谷 アメリカと欧州の考え方がはっきり出ましたね。まずアメリカは、景気刺激策をどんどんやれという姿勢です。それに対して、ドイツやフランスといった国は、なぜこのような金融危機が起きたのか、規制の在り方がおかしかったのではないか、まずはその問題を是正すべきだ、という態度でした。
 もう1つの相違点は、スティミュラス・パッケージ(景気刺激策)の金額についての考え方です。借りるのは返せる範囲に収めましょうというのが大陸ヨーロッパの人たちの考え方です。ヨーロッパでも住宅バブルは起こりましたが、ノンリコース(非そ及型)のローンで、借りるだけ借りてぜいたくをするというような形にはなりませんでした。
それに対して、アメリカと日本、そしてイギリスですが、とにかく「このお金、誰から借りるんですか?」という問いに答えのないほどのカネを借りても使えと言う。問題の原因を追究するのは大変なことだから、まず使えという態度です。この対立点はかなり色濃く出ていたのではないでしょうか。
しょせん「口だけ」だったヨーロッパの低金利批判
竹森 私の感想は少し違います。今回のG20は、皆、とにかく無事、無難に終えようとしていたのではないでしょうか。成果という点では、結局、元から決まっている数字を並べたものだけですから見るものがありません。サミットの焦点とされた「規制」についても、タックスヘイブン(租税回避地)をいじめるなんていう、今の危機の問題とは全然関係のない、意味のないことが決まった。規制をサミットの目的とするのであれば、本来、レバレッジの規制を取り上げるべきだったでしょう。
レバレッジ規制の必要性については、世界的なコンセンサスが形成されつつあるのです。アメリカでは元連邦準備理事会(FRB)議長のポール・ボルカーが大統領経済復興顧問会の委員会でそういう結論を出していますし、イギリスの金融庁の研究会も同じような結論に至っています。もっとも、「デレバレッジ」が全世界的に進行していている現状で、レバレッジ規制を進めれば信用収縮を加速するという認識があったのかもしれません。それでレバレッジの規制のところはあえて外した。それは賢明な考えと言えるでしょう。サミット自体がそれでピント外れになった感はありますが。
神谷 対立点はありましたが、世の中に対してはみんな仲良くしましたということばかりが先に出ました。特にアメリカの政権がその傾向が強いですが、クエスチョンマークが付きながらも2009年後半から経済状況は良くなるといった悪いニュースには目をつぶって、小さくても良いニュースを大きくして、成果は出つつあることをアピールする感じでした。
竹森 景気対策に莫大な支出をするアメリカの方針を、ドイツの副首相兼外相が痛烈に批判していたという話を、神谷さんは「文芸春秋」(2009年5月号)で取り上げられていました。ですが、私にはしょせん「口だけ」のことに思えます。昨年9月以来の政策の動きを見ると、ヨーロッパはアメリカの方針にどんどん近づいているのです。欧州中央銀行(ECB)だって、米連銀のような低金利政策は取れないと初めは口では言いながら、どんどん金利をカットしてきている。
 ドイツ政府だって、仕方なくスティミュラス・パッケージを追加している。ヨーロッパの政治家が「景気刺激策」を取らないなどと当初意気込んでいたのは、要するに考え方が甘かった。素人考えだったのです。だいたい、私はヨーロッパの政治家にとって、今回の経済危機はアメリカの責任だときれいに割り切れない構造的な事情があると思っています。
東欧住宅バブル発生は欧州中銀の単一金利のせい
 ユーロ圏のアイルランド、スペイン、ギリシャといった国は、不動産バブルが吹き荒れて、現在はバブル崩壊の後遺症で国ごと転覆しそうな状態になっています。さらに、ハンガリーやバルト海沿岸の諸国など、投資ブームが去った後の中東欧の経済危機も深刻なものです。
 実は、これらの国で起こっている危機の原因は、「ユーロ」という共通通貨の取り決めそのものにあるのです。このことを端的に指摘した研究を、最近、元財務次官のジョン・テイラー(現米スタンフォード大学教授)が発表しています。世界の中央銀行が参考にしている、「テイラー・ルール」という政策金利の設定方法を提唱した人です。彼はユーロ圏で、2001年以降に住宅投資が異常に盛り上がった国では、「テイラー・ルール」と照らし合わせて、過剰に金利が低かったことをこの研究で指摘しています。
 つまり、アイルランド、スペイン、ギリシャは「過剰に低い金利」を採用していたので、不動産バブルを呼んだ。それに対して、ドイツは「多少高めの金利」、フランスは「わずかばかり低めの金利」を採用していたので、ともにバブルを招来せずに済んだ。面白い結果だと思います。また、まことに皮肉な話です。なぜなら、「ユーロ圏」には欧州中銀が決める金利が1つしかないからです。
 アイルランドとドイツが別々の金利政策を取っていたのではありません。欧州中銀の決める金利は、ドイツやフランスにとってはちょうど良いが、アイルランド、スペイン、ギリシャにとっては低すぎたのです。もともと欧州中銀は、ドイツやフランスといった中核の国を考えて政策運営をしていて、アイルランドのような周辺国はどうでもよいのかもしれません。だからこれらの国々でバブルが発生したのです。さらに、ハンガリーやラトビアのような国は、将来のユーロ加入のために、ユーロと自国通貨の為替レートの安定を図っていた。そのために自国の金利をユーロ圏の金利に合わせるように調整していた。これでは中東欧に不動産バブルが広がるのは当然です。
神谷 ユーロ圏の一番の問題は、中央銀行が1つでありながら、財務省は各国ばらばらということです。すべてうまくいっている時はよかったけど、今回のような場合は、ユーロ圏にとっては最大の障害ですよね。
 ドイツは日本と似ている面があって、羽振りのいい大旦那であるアメリカが借金をして、どんどんカネを使ってくれたために輸出で儲けた。ところが、その羽振りのいい大旦那がカネを借りられなくなった途端に、実体経済で大きくへこんでしまいました。
竹森 ドイツのメルケル首相はあるインタビューで、ドイツが輸出に依存し過ぎているのがそもそも問題なのではないかと記者に問われた時に、むきになって反論しました。いや、そんなことはない、輸出が強いのはドイツ経済の強みで、変える必要はないと断言したのです。それ自体は正しい考え方だと思います。
 しかし、「アイルランドや東欧は、他人の助けを当てにせず、自分で這い上がれ」と、今のドイツ政府のように救援を拒んでいれば、ドイツの輸出も立ち直るきっかけがつかめないと思います。こういった国々はドイツの輸出にとっての大切な「お客様」だからです。
「日本の経済学者との間にギャップを感じた」
神谷 今回の金融危機でなくなってしまったお金は、世界全体で5兆ドル。また、借り過ぎて返さなければならないお金、減らさなければならないお金が約8兆ドルあります。
アメリカはこのお金を国が埋めると言っている。今年3兆8000億ドルの予算を組んで、そのうち半分の1兆8000億ドルが借金です。ティム・ガイトナー(財務長官)やラリー・サマーズ(国家経済会議=NEC=委員長)が予算をつくりましたが、誰が貸してくれるのかと思います。
 来年、再来年と、さらに1兆ドルずつぐらい必要になるとすると、この4年間で少なくとも4.8兆ドル。今後10年で10兆ドルと言われています。そのお金を彼らは借りられるという前提で言っていますが、僕らみたいな金融の人間から見ると、どこからこのお金は来るのと聞きたい。そんなお金は借りられません。全部、中央銀行が刷るしかないんです。バーナンキ(FRB議長)も手前はデフレが問題だからと、先のインフレを無視していますが、賢い投資家は将来のインフレの方を恐れて、石炭を買ったり森林を買ったりしています。
竹森 確かに公的な支出は突出していますが、現在の民間の消費、投資の落ち込みと併せて考えるべきです。マクロ経済学の教科書に従うと、今、民間の消費と投資が減った結果、貯蓄が余った金額の分だけを政府が国債を発行して吸収し、公共投資に回しても、金利が上昇する必要はないということになります。
神谷 そうですね。でも、僕は日本の経済学者の方々との間に、考え方のギャップを感じたことがあります。
 皆さんお金を使うというと、公共事業など、まともなところにお金が回っていくと思っています。そのお金できちんと事業が行われるということです。でも、つぶれる前の世界経済を見ると、規制されている金融機関が持っている資産が世界の6割。残り4割は無規制のヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドといった金融機関のポケットに入っていました。純粋にモノを作るのではなく、証券や不動産を安く買って高く売るということだけを商売にしているような投機家やギャンブラーの手にお金は行くものなのです。
竹森 景気対策については、神谷さんと意見が異なるようですが、金融システムのための公的支出の必要性についてはそれほど意見が変わらないのではないでしょうか。先ほど挙げられた5兆ドルという金融機関の損失、これはぽっかり開いた穴で、どうやってもそこに存在する。ただ、その穴をそのままにするのか、それとも政府が肩代わりして、取りあえず政府の債務にするのかという選択がある。
 私はもし、こんな大きな穴をぽっかり開いたままにしたら、金融取引の信用は消滅し、同時に民間が抱える負債の不透明性も高まって、金融取引自体がストップすると思います。ですから、どちらにしても存在する5兆ドルの穴を、政府が肩代わりする必要があると考えるのですが、この点について神谷さんのご意見はいかがですか。
神谷 もちろんです。ティム・ガイトナーの不良資産買取制度はいんちきで、こういう時こそ国家権力で全部始末するべきと思っています。
ガイトナーは議会に行きたくなかっただけ
竹森 私は政治家としてのバラク・オバマ(大統領)に大いに期待しているのですが、最近、オバマ政権が発足した頃に彼が持っていた「ポリティカル・キャピタル」、つまり不人気な政策の実行をも可能にするような政治的人気が、「ガイトナー・プラン」の実施で全部なくなってしまうのではないかと懸念しているのです。ガイトナー・プラン、具体的には「PPIP(プライベート・パブリック・インベストメント・プログラム)」と呼ばれる、公的資金を使った民間からの非流動的証券の買い取り計画です。どう転んでも、あとあと政治的に不人気なのが明らかなのです。つまりこれはこういう話です。
今、金融機関からの証券買収のための資金が100円あるとする。そのうち6円は民間(おそらく銀行)が出して、6円は政府が出す。残りの88円は連銀が貸し出して、しかもその貸し出しは、低利でノンリコース。さあ、この100円で入札をして、金融機関から証券を買ってくださいというわけです。
 これでは後で、国民から散々文句を言われるでしょう。銀行にとってあまりにおいしい話だからです。なぜなら、買った後で証券価格が上がったら、100円のうち、わずか6円を出した銀行が利益の半分を頂く。証券価格が下がって、損をする場合でも、損失は6円だけで、ノンリコースだからその証券を連銀に渡せばいい。おそらく、上がった時は、何で銀行にまた儲けさせたのだと政府は非難されるだろうし、下がった時には、なぜ、銀行の無謀な投資のツケを国民が払うことになるのかと非難される。
 政府は、金融機関からの証券買い取りの際の価格政策を批判されるのが嫌で、こんなややこしい仕組みを考え出したのではないでしょうか。証券の価格が高すぎれば、金融機関は助かるが、国民からは高すぎる価格で金融機関を儲けさせたと批判される。低すぎれば、どの金融機関も利用しない。だから他人(民間)の責任で「高すぎる」価格をつけるためにこのような仕組みを作った。
神谷 それは表向きの話だと思います。僕が聞いたのは、ラリー・サマーズにしても、ティム・ガイトナーにしても、今、議会に行きたくないのです。そんな時、ヘッジファンドのマネジャーが、サマーズに「おまえら、もう議会に行きたくないだろう、いい方法があるよ」と耳打ちした。それは、「連銀を使え」ということ。連銀は議会の予算に縛られないからです。そこで、民間とTARP(米金融安定化法に基づく不良資産救済プログラム)から6%出し、残りの88%を連銀から持ってくるということになった。全部連銀のバランスシートでやればいい、というわけです。
 そしてサマーズが「ティム、いい方法があるよ、俺、こういうのを聞いてきたんだ」とガイトナーに言った。サマーズが本来言うべきは4兆ドルなくなっている。金融機関を国有化してでも、この不良債権をきれいにすることが一番国民のためになる、ということです。でも、彼は肝っ玉が小さくてそう言えないから、結局、ヘッジファンドのマネジャーがささやいた安易な方法に飛びついたというのが事実でしょう。
 不良資産を売る方の銀行を徹底的にきれいにするならば、安い値段で売るべきです。一方で安い値段で売るということは、銀行の自己資本が毀損するということです。それは100%政府が穴埋めする。だから政府が損をすれば損をするほど、6%を出した人は儲かる。彼らを儲けさせるために、安く売るための損はFDIC(米連邦預金保険公社)の財布といった、国民の財布から取らないといけない。
 証券化やノンリコース、ハイレバレッジというものがこれだけの問題を起こしたというのに、根本のところに入らないで、同じシステムを使って問題を処理しているように見せかけている。その最たるものがガイトナー・プランです。
竹森 確かにここでは、政府自らがレバレッジの論理を活用していますね。
神谷 その通りです。アメリカのスティミュラス・パッケージはとんでもない方向に走っています。サマーズにしても、今まであった金融システムに戻すということしか頭にない。それは、アメリカの企業収益の4割を、たった5%か10%のバンクが稼いでいるという状態です。次のシステムに対する考えがないから、そこに戻すという方向性しか考えられない。
竹森 2010年の春にはもう立ち直っているという想定が間違いです。私は来年の春はまだ厳しいと思います。400兆円もの不良資産の問題が1年でなくなるわけがないと思います。
 アメリカの金融機関の債務というのは、GDP(国内総生産)の120%ぐらいです。その2割が損失になっていたとしても、300兆円以上でしょう。どう考えても、10兆円ほどの公的資金で片づく金額ではありません。政府が中途半端にしか公的資金を出さず、これで一件落着したといっても、やがて問題が表面化する。それでようやく、公的資金を積み増すといったことをやっていけば、1990年代の日本の再現になります。
増税におびえるアメリカ地方自治体
神谷 オバマは来年は良くなると一生懸命言っています。だから国民の皆さん、安心してお金を使ってくださいよと。お金がもう一度回るようにしてくださいと言っている。
 でも、今アメリカ国民は増税をものすごく恐れています。こんなに使っちゃったら、間違いなく大増税になると考えているのです。僕はアメリカに住んでいるからよく分かります。州政府や市といった地方自治体は自分でお金を刷れませんから、収入が減ればサービスをやめるか、増税するしか方法はありません。消費税を上げたり、バス代や公共料金を上げたりするということにつながります。教員を減らす、ごみの収集も減らす。即、こういったことになる。
地方政府はもう、火の車です。すでに増税が始まっています。今度のスティミュラス・パッケージで1.8兆ドルの借金をするとなると、増税をするしかないじゃないかと国民は考えます。安心してお金を使うどころか、余計消費を減らそうという方向に人の心理は動いています。
竹森 地方政府では、カリフォルニア州がひどいようですね。
「世界バッドバンク」をつくるしか方法はない
神谷 深刻なのは、1990年代の日本の金融危機と今回の危機の違いです。日本のバブルの場合は引っかかった資産は全部日本にありました。債権者も全国銀行、地方銀行、住専を含めて全部日本国内の金融機関でしたから、国内で収束しました。ところが、今回の場合、担保である住宅はアメリカにありますが、債権は証券化されて世界中にばらまかれた。債権者がどこにいるか分からないのです。
 こういった不良債権をいったいどうすればいいかと考えると、世界銀行をもじって「世界バッドバンク」をつくるしかありません。世界中の納税者のお金をプールして、腐っているものを全部1つの世界バッドバンクに持っていく。おそらく整理はできないから、満期まで抱え込むことになります。でも、それしか究極的には方法がないんです。
竹森 昔、元連銀議長のポール・ボルカーがこういうことを書いていたのを読んだことがあります。彼が若い時、大恐慌の教訓として大学で学んだのは、海外にカネを貸す時にボンドで貸すと、デフォルト(債務不履行)の問題が発生した場合に貸し手の間の利害の調整のつけようがなくなるから、海外に貸すなら銀行を通して貸せ。いくつかの銀行に貸出債権が集まっていれば、デフォルトの際の債権者会議のまとめようがあるから。そういうことだったというのです。
今回のサブプライム危機では、貸出債権はボンドに転換されて世界中に撒き散らされているわけですから、債権者の利害をまとめるのは、絶望的と言いたいくらい大変な話ですね。そういうところまで問題が発展しないように、今は取りあえず連銀の貸し出しでデフォルトの蔓延に歯止めをかけている状態なのでしょうが。
神谷 連銀の問題はものすごく大事な問題です。かつて金庫の中身は金や国債ばかりだったのに、腐った銀行の腐った証券をみんな買ってきていますから、アメリカの連銀の財務諸表はジャンクのごみためになっている。
竹森 連銀の債務は政府が保証せざるを得ないでしょう。
神谷 そこまでいく頃は、もう本当に経済はぼろぼろですよ。
ゴールドマン・サックスは正しく、ほかは失敗したのか?
竹森 今回の金融危機では、金融機関の中にも大きく損を出したところがありますが、ゴールドマン・サックスの損失はさほど大きくなく、しかも公的資金を受け入れた損失の手当てについても、増資をして、政府からの借り入れを全部返却すると公言しています。その違いはいったいどこから来ているのでしょうか。
 例えばコマーシャルバンクが投資銀行のビジネスを追いかけたことが失敗だったという指摘は非常によく分かります。自己資本のレバレッジ規制が投資銀行業務に対してはるかに緩いことを利用して、コマーシャルバンクはSIV(仕組み投資会社=ストラクチャード・インベストメント・ビークル)などを作ったけれども、これは結局、オフバランス化につながらならなかった。SIVとの間のクレジットラインの取り決めがあったり、その正式の取り決めがなくても、自分の顧客にSIVを紹介したりした手前上、SIVの救済になけなしの現金をはたかなければならなくなったということでしょう。
 結局、ゴールドマン・サックスという殿様商売をほかの金融機関が追いかける過程で、あせって失敗したのでしょうか、それとも、ゴールドマンの行動にはどこか正しいところがあったのでしょうか。
神谷 ゴールドマンの財務内容が本当にどれぐらいきれいかどうかは分かりません。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は、ゴールドマン、ソシエテ・ジェネラル、UBS、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)がみんなでマージャンをやっていたのと同じです。AIGがハコテンになった。そこで公的資金で1700億ドルを入れ、ハコテンのAIGは点棒をもらった。本当は点棒がなかったはずなんです。そこに納税者のお金を入れて、その点棒を払ってあげた。ポールソンがAIGにお金を入れて、そのお金がゴールドマンなどの投資銀行に流れて、うまいこと助かったという面はあります。
 また、ゴールドマンは日本にたくさんゴルフ場を持っていますが、これからどれくらい価値が落ちるのか、また、それがどれだけバランスシートに反映されているのかは分かりません。ゴールドマンだけがバランスシートがきれいで、ほかが全部ダメかというと、それは分からないのです。
ただ、これだけボラティリティーが高い中でうまくタイミングをとらえられる人と、とらえられない人とがいるでしょう。そういう意味でゴールドマンはうまくタイミングをとらえて増資したと言えます。
 トレーダーが「今日の得は僕のもの、明日の損は君のもの」と言うのを経営者が認めてしまったところから、ウォール街が崩れ始めました。会社がそういう人の使い方を認めたということです。ゴールドマンが少し良くて、ほかがもっと悪いとすれば、それはゴールドマンのネジの締め方がいくらかきつかったからでしょう。
 僕は中途採用でゴールドマンに入りましたが、ほとんどの人が生え抜きで、カルチャーを非常に大事にしていました。合併もしていません。会社を先代から引き継いで次の世代に渡していくという意識が、ほかの投資銀行より強かったと思います。
究極のロビイスト、ボブ・ルービン
竹森 商業銀行が投資銀行と同じように危ないことをやっていたという問題が今回、顕在化しました。こういう傾向はいつ頃からだったんでしょう。
神谷 それは昔からです。ヨーロッパのUBSやクレディ・スイスといった、ユニバーサルバンクがやっていることを自分たちもやりたいという気持ちはあったでしょう。日本の銀行もそうです。
 ボブ・ルービンの人生を見ていれば一番明確に分かると思います。彼はもともとゴールドマン・サックスの会長で、その後、財務長官になりました。彼がやった最大のことは、グラス・スティーガル法と州際銀行法を撤廃したことです。
 州際銀行法というのは、基本的には自分の州内で預金を取って、地場の人に貸しなさいという法律です。この法律があれば、「トゥ・ビッグ、トゥ・フェイル(大きすぎて潰せない)」のような巨大銀行なんてできるわけがありません。ところが、この時、銀行が全国銀行になれるようにしたのです。全国銀行になると何が起こるかというと、ブローカー経由でローンを買えるようになる。住宅ローンを買える会社ができたわけです。そうして、顔も見ていない人宛ての債権を買ってくるようになりました。
神谷 そうです。州際規制を取って、銀行が巨大化するようにしたことと、証券業務ができるようにしたことです。ボブ・ルービンは究極のロビイストです。ワシントンで自分の手で法律を変えてしまうわけですから。彼は、財務長官を辞めるとシティグループに行きます。
 シティのバランスシートに載っているのは2兆ドル、オフバランスはよく分かっていませんが、1.8兆ドルはあると言われています。4兆ドルの資産ですよ。これほど巨額の資産をどうやって管理するというのでしょうか。
 ボブ・ルービンはシティに大規模な証券化をアドバイスしました。結局彼は1億2000万ドルぐらいのボーナスを持っていきました。
竹森 今、ルービンについて「くそみそ」の評価をされましたが、昔からそんな悪いやつだと思っていたのですか?
神谷 僕がゴールドマンに勤めている時は、とてもお世話になりましたし、非常に見識の高い、立派な上司だったことは間違いありません。僕は個人的な義理からすると悪く言いたくないのですが、政府に行って法律を全部変え、その法律を最も生かせる場所であるシティに行き、シティの株価がピーク時に2700億ドルぐらいあったのを、70億ドルぐらいまで落とした。それだけ株主の価値は毀損し、今回これだけの公的資金をぶち込まないといけないようにしながら、自分は1億ドル以上ものボーナスを持っていったのです。「今日の稼ぎは僕のもの、明日の損は納税者のもの」という、典型的な生き方をしているので、この部分は僕はもっと批判されてしかるべきだと思います。
竹森 ルービンの自伝を読んで感じたことですが、彼なりの正義感というのはあるのですよね。ただ、それは規制緩和に対する一種の信仰というのか、金融取引が自由化することは絶対的に正しいという考え方であるようです。
 1997年のアジア危機の時に、すぐに現金を渡して危機を収束させる代わりに、アジアの国々はもっと構造改革をしなければダメだと言い続けて、構造改革を金融援助の条件にし、それで危機をこじらせてしまった。その点で、ルービンの責任は大きかったと思いますが、彼としては、本当に信念から出た行動だったのではないでしょうか。
神谷 もちろんそうです。
竹森 ルービンが州際規制と同時にグラス・スティーガル法を実質上廃止したことを今指摘されましたが、これについては、グラス・スティーガル法が形骸的には存続していたことが、むしろ危機の原因だったという意見も聞いたこともあります。つまり、グラス・スティーガル法で分けられているために、証券会社と銀行の要求される自己資本率が全く違う。規制当局も全然違う。むしろこういうまちまちの制度をつくったことが問題で、初めから両者の違いを設けずに、全部統一した方がよかったという考え方です。
バランスシート業になった投資銀行
神谷 グラス・スティーガル法というのは、もともと投資銀行の仕事を対象として考えられた法律です。証券を引き受けて売るといった、基本的には顧客サービスの投資銀行だったんですね。この場合は自己資本は小さくても済みました。そういう意味でプライベートのパートナーシップの顧客サービス業務としての証券業務です。私の会社はこのような形ですが、無借金だし、資本金なんてものすごく小さくて、利益率は高いです。
竹森 実際には今の投資銀行は自分のバランスシートで大々的に投資をしていますよね。
神谷 規制当局はSEC(米証券取引委員会)で、連銀の銀行規制の中に入っていませんでした。やっていることは商業銀行以上にポジションを取って張るということをしていたのにもかかわらずです。顧客サービス業のインベストメントバンクが、自己資本で切った張ったのビジネスをして、しかも1兆ドルのバランスシートを持つようになったというのに、監督ルールだけはまだ昔のまま残っていたということです。
竹森 おっしゃる通りですね。グラス・スティーガル法はもう時代遅れになることは分かっているのであれば、それと見合うように規制監督を強くしなければいけないのに、SECで事を済まそうと思ったのがいけないわけですね。
神谷 4兆ドル近い資産を持つ金融モンスターをつくって、そのモンスター自身が自分で自分を管理できない状況になってしまったのです。
歴代財務長官がゴールドマンから来る弊害
竹森 やはり財務長官が歴代、ゴールドマンから来るというのは奇異な印象を受けます。一時、財務長官としてジョン・コーザインの名前が挙がりましたが、結局、彼はなりませんでした。やっぱり金融危機で国民のウォールストリートに対する怒りが燃え上がっている時に、ゴールドマンから財務長官を採るのはまずいという考えがあったのでしょうか。
神谷 僕はオバマのすべての政策が大好きなんですが、経済政策だけは全く認められません。ガイトナーにしても、サマーズにしてもルービン門下生です。リボルビングドアでウォールストリートに入って、政府に来て、またウォールストリートに戻る。一度、甘いキャンディーをなめた人は絶対に変わらない。このミスキャストに大不況の原因がある。
 先ほど、ボルカーさんの名前が出ましたが、僕はボルカーが前に出てきて、金融秩序のことを語るべきだと思っています。一番純粋な方だと思います。でも彼は全然、表に出てきません。
竹森 ジョン・テイラーも、オバマがチェンジと言うのであれば、なぜボルカーにしなかったんだろうと言っていました。
神谷 ただ可能性はあると思います。オバマはティム(・ガイトナー)とラリー(・サマーズ)をものすごくプロテクトしていますが、しばらくやって、にっちもさっちもいかなくなったら、人材を入れ替えることには躊躇しないでしょう。

もう「大旦那」アメリカには頼らない
神谷秀樹氏と「強欲」資本主義の終焉と金融の「質」について議論する(下)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20090604/196740/?P=1

竹森 『強欲資本主義 ウォール街の自爆 』の中で、バンク・オブ・アメリカがメリルリンチを吸収した行動に触れられています。うまくいかないだろうと書かれたのは慧眼だと思います。その後どんどん問題が浮かび上がってきましたから。どうしてそう思われたのですか。
神谷 バンク・オブ・アメリカは、ネイションズ・バンクがバンク・オブ・アメリカを買収し、買った銀行名を使っているものです。ネイションズ・バンクはモンゴメリー証券という小さいブティック型の投資銀行を買い、さらにバンク・オブ・アメリカを買いました。
 でも、モンゴメリー証券の創業者始め、幹部はもう全部抜けてだれもいません。ケン・ルイス自身、いわば「コニャックの空瓶」を売って出ていったインベストメント・バンカーのことが大嫌いなわけです。モンゴメリー証券は、コニャックの中身が消えて、空瓶となったわけです。こうして投資銀行部門の拡大に1回失敗しているのに、メリルを買ってどうやって成功するのかと思うのです。
メリルのヘッドだった、元ゴールドマン・サックスのジョン・セインについても、最初は彼が次期頭取だと言っていたのに、結局、全然合わなくて、すぐにクビにしてしまった。
 銀行業というのは、もともとは農耕民族型のビジネスだと思います。毎日預金を一生懸命集める、毎日住宅ローンを出す、毎日会社の状況はどうなのか。それは、田んぼに出ていって、稲が育っているかどうかを見に行くようなものです。
 それに対して、インベストメント・バンキングというのは狩猟民族型のビジネスです。毎日、山に登ってシカかクマを撃ってくる。登っていったところが、弾が外れてしまった。翌日、今日こそ撃つと言って、お腹が空いたまま山を登る。毎日畑や田んぼに出て、麦や稲が育っているかを見るのと、山に登ってハンティングに行くようなフィーで生きていていくのとは、異なる人種なんです。
「商業銀行」と「投資銀行」は1つ屋根の下では暮らせない
竹森 ヨーロッパでもそうですか。
神谷 性格としては同じです。良い農民は良い猟師にはなれなくて、良い猟師が良い農民になれないように、商業銀行と投資銀行業務を1つ屋根の下で調和させてうまくやるというのは、これは基本的に無理なテーマなんです。
竹森 なるほど。では、野村ホールディングスがリーマン・ブラザーズのアジアや欧州部門などの社員を引き受けたことについては、どう評価されますか。
神谷 日本人の証券会社の幹部やコマーシャルバンカーの中には、ウォール街への憧れというのがとても強くあります。もうつぶれたモデルなのに、そのモデルに入れば金融権力をもっと強く持てるだろうし、収益力ももっと上がると思ったのでしょう。
 僕は大きくなることはいいことだというウォール街の仕事は、完璧に破綻したと思っています。世界最大のシティバンクがつぶれ、世界最大の保険会社がつぶれ、世界最大の住宅金融会社がつぶれました。リーマン・ブラザーズがつぶれたときに、大きいことはいいことだという考えは、まったく破綻したのです。
竹森 要するに、大き過ぎると管理が不可能になるということですね。
神谷 何兆ドルものバランスシートなど、誰も管理できません。それでも何兆ドルのバランスシートを作ることを目指すのは、間違ったモデル、失敗したビジネスモデルを後から追いかけていくということです。僕はこれには賛成できません。
 これからは、専門性の時代です。投資銀行は投資銀行に戻る時代、商業銀行は商業銀行に戻る時代です。いずれも顧客サービス業に戻る時代だと思います。
竹森 自分のポジションを持たないでね。
神谷 そうでないと、お客はついてきません。お客は専門性の高い専門金融機関に行くのです。ある1つの銀行と全部の取引をしますなどというのは、これからはあり得なくなっていきます。
 自主的に各部門を独立させ、それぞれに競争力を持ってやっていくべきです。そこで大事なのは、質を追求する文化です。質を追求して、質を追いかけていけば、最終的には競争力の強いビジネスができて、数字がついてくるという思想です。一般企業であっても、銀行であっても、あるいは国家であっても、これからはこの道を進むべきだと思います。ところが大半は、いまだに数字を追いかけています。儲けるためにはコストをカットしろという方向です。
「成功報酬」があるなら「不成功制裁」もあるべき
竹森 責任のある金融機関という金融の原点に戻るために、レバレッジ規制や報酬規制はどの程度有効なのでしょう。いま、経済学者や金融の専門家から出ているのは、この2つについての規制です。しかし、「数字」をコントロールするだけで十分なのでしょうか。それとも、これはカルチャーの問題で、人間の本能から出ていることなので規制だけでは十分な効果は期待できないのでしょうか。
神谷 昔僕らが習ったのは、「掛け目6割」ですよ。担保価値の6割しか貸さなかった。6割以上のものをノンリコースで貸すのならば、資本金を100%積みなさいというぐらいのことをすべきです。
 
 報酬規制の問題は、バンカーはみんなノーリスク、ハイリターンです。これはグリード(強欲)そのものですよね。ハイリスクを取っているんだから、ハイリターンはいいけれども。
竹森 私は、「成功報酬」はあってもいいと思います。そうでなければ、リスクをとる投資家はいなくなってしまいます。しかし「成功報酬」があるんだったら、「不成功制裁」もなければおかしい。そうでなければ過剰なリスクが取られてしまうからです。
神谷 そうです。ハイリスク、ハイリターンはフェアです。ノーリスク
、ハイリターンはおかしい。「今日の得は僕のもの、明日の損は人のもの」というのはおかしいです。これは強欲そのものです。でも、それが賢いと思われている。
竹森 報酬規制として、具体的には、報酬をすぐトレーダーに渡す代わりに、企業のファンドに組み込んだり、会社の株を渡して、しかもしばらくは現金化できない規制を設けたりなど、いろいろ試みられたことはあったようです。
神谷 サーベンス・オクスリー法による規制はありましたが、基本的にはボードがまったく機能していませんでした。本来は自主規制でやるべきです。
 ノーリスク、ハイリターンを得るバンカーがいて、そういったバンカーたちと契約してバランスシートを貸す金融機関があって、そこが昔は無限責任会社だったのに有限責任会社になっている。これが諸悪の根源です。そうならば、彼ら自身、自分がボーナスをもらえれば、その後会社がつぶれても関係ない。そんなカルチャーが許容されるシステムがあった。最後のしわ寄せが納税者にくるならば、やはり規制として徹底的にそのシステムを直すべきです。
 もう1つは、ヨーロッパの人が強く言っていることですが、規制を受けない陰の金融機関が世界の4割の資産を持っているという問題です。だいたいお金はそこにいってしまう。本来、公共事業に使いましょうといったお金も、本来いくべきところに流れていかないわけです。
 日本でもゼロ金利にして、日銀がたくさん金出せ、金出せと言った。そのお金はどこにいったかというと、実業に使われることはなく、安く買って高く売るというところにみな、流れてしまいました。
身の丈に合った消費はどこか
竹森 サブプライム危機までの国際的な資本の流れが異常だったことは確かだと思います。しかし、それはこういうことだったのです。
 私はサブプライム危機が発生するまで、世界経済が順調に成長したのは、「バブル」や「幻想」だけに基づいたことではなく、確固とした「実体」を伴っていたことだと思うのです。つまり、世界経済の成長の原動力は、中国、インド、ブラジル、ロシアといった新興国の成長です。10億もの国民をもった途上国が、急速に先進国に追いつこうとしていくなどということは、人類の歴史にこれまで起こったことがない。大変な成長のポテンシャルです。
 しかし、これまでの成長過程の問題は、新興国が成長する過程で、国内投資が国内貯蓄を超え、海外からの借り入れを必要とするほどに盛り上がる代わりに、むしろ国内貯蓄が国内投資を上回り、余った国内貯蓄がアメリカの金融市場に回り、それがアメリカの消費を盛り上げて、その結果、自国が生産した商品を吸収してくれるという構造ができていたこと、つまりアメリカの過剰消費がない限り、新興国の成長が続かないという構造ができていたことです。
 過剰消費を続けるリーダー国が世界経済の成長を支えるというのは、実は今回が初めてではありません。19世紀の終わりも同じような状況でした。この時期には、イギリス中心のスタンダードが国際金融で確立したと同時に、イギリスの製造業が没落しました。イギリスはボーア戦争の結果支配下におさめた南アフリカから上がってくる金を使って、過剰消費を続ける。自国の製造業を働かせなくても、過剰消費が可能なのです。その恩恵を受けて、急速に製造業を発展させ、大国にのし上がったのがアメリカです。今の中国と似たようなものです。
 私はもし今回このようにひどい金融危機が勃発しなかったら、「アメリカの過剰消費の恩恵で中国、インドが成長する」というのは、結構いい仕組みだったと思っています。新興国はアメリカのマーケットを考えて生産活動をする。だから最新式の技術度の高い製品が作れる。最初から中国が中国国内のマーケットを相手にしていたとしたら、高品質の製品はできなかったでしょう。
 「もはやアメリカの過剰消費は不可能になったから、中国、インドの成長はストップする」という人がいるけれど、まことにもったいない話ではないでしょうか。それぐらいなら、アメリカに過剰消費をしてもらって、それで中国、インドも高成長を続けたほうが良い。少なくとも、中国、インドはアメリカの過剰消費に文句を言わないだろうと思います。
 新興国の潜在力があって、一方でその需要が成熟国の市場にある。今は、このバランスが崩れています。そのバランスをうまく立て直すことができれば、世界経済はやはりある程度成長を持続していくのではないかという考えです。
神谷 僕もそう思います。日本も戦後の高度成長の間は内需が伸びた国です。この前ブラジルの友達と話したのですが、ブラジルで走っている車の50%は1リッターカーだそうです。一番大きくて2リッターカー。日本でも昔はダットサンといった国民車といわれるものをつくりました。だんだん所得が上がると、それに合わせて必要とされるものを作る。それは、戦後の日本がある程度伸びてくる過程と同じ構想が描けるでしょう。

ただ、ここ数年のことを言えば、羽振りのいいアメリカという大旦那が、借金して行ってきた消費に合せてきたわけです。それは縮小せざるを得ないでしょう。身の丈に合った消費はどこかということです。
 マーケティングの仕方も変わるでしょう。これまではいらないものを買わせてきた。あらゆる企業がいらないものを買わせ、売ったらなら1日も早く陳腐化させるということをやってきた。もうそういうビジネスモデルは通じません。
 それから、今回の危機で様々な部分で信用の輪が切れてしまいました。これは、戻すのにものすごく時間がかかるものです。雇用者と被雇用者の関係、金融機関と個人の関係、政府と個人の関係――。これは1年や2年で戻るものではありません。ものすごく努力をしなければ戻りません。安心できないと人はお金を使わないでしょう。
 ただ僕はネガティブには取っていません。ここでもう一度、先進国における産業の在り方や物の作り方を考え、素晴らしい社会をつくるチャンスを迎えていると思うぐらい、希望を持っています。
新興国は強制的なデカップリングを
竹森 結局、エンジンはアジアにあるんですから、エンジンを直接ギアに結び付けて動き出させればいいわけです。今回は、アジア経済はデカップリングできるといわれながら、実際は完全にカップリングされていたために、アメリカ経済と一緒に急速に落ち込んでいるわけですが、アメリカ経済の落ち込みに今後歯止めが掛からないようであれば、強制的なデカップリングというのか、アジアはアジアで成長の原動力を生かしてやっていく方法を考えれば良いのだと思います。
神谷 それはアジアだけでなく、ほかの新興国についても同じでしょうね。
竹森 今回の経済危機がどのような幕切れとなるのか。容易な解決策を「プランA」とすると、それはやはりアメリカ経済が早く治ってくれることです。そうすれば、これまでと同じ世界経済の成長のシナリオが描ける。これが一番手っ取り早いのです。しかし、これが駄目だとなると、代替的な解決策、すなわち「プランB」を想定しなければならない。「プランB」というのは、アジア経済の内需型の回復です。アジアの貯蓄がアジアで投資されるという成長モデルです。
神谷 「プランA」はないですよ。即「プランB」にいかないとだめです。
竹森 どちらにしても、プランBは用意すべきだと思います。私はそのプロセスでは、アジアの金融の成長が鍵だと思っているのです。アジアのマーケットです。欧米型のマーケットはいけなかったと言いますが、アジアにはアジアのマーケットがあってよい。ともかくマーケットを育てることです。
 例えば現在日本の貯蓄は韓国でも投資されていますが、その際、まずウォール街のファンドに丸投げされて、ウォール街から韓国に投資されています。1997年までは、日本の主要銀行は韓国に支店を持っていて、審査をして貸していた。今はリスクアペタイトがなくなって、銀行はみんな日本に戻ってきている。ウォール街に力がなくなるようであれば、日本の銀行が直接、韓国に貸し出しができるようになることが必要です。
「ブティック型」ビジネスモデルで「質」の追求を
神谷 アジアの成長が必要である一方、日本の産業も再生しなければなりません。量を追う経営は、むしろ新興国ができることです。企業収益をこれだけにしたい、売り上げをこうしたい、会社をどんどん大きくしたいというのは、マーケットがどんどん拡大し、GNPが伸びていく可能性がある中国やインドでは可能性があります。
 日本はそういった中国やインドの企業と同じようには競えません。そうすると、むしろヨーロッパの家業のブティックみたいなものの方を、日本のビジネスモデルとして目指すべきです。規模を追うよりも、自分たちの適正規模はどれくらいかを考える。適正規模を考えて生きるには、今度は質が求められる。質が良ければ高く売れ、競争力を持つ。結果、収益はついてくる。それに対して、数値だけを追うと、コストが高い、人件費を削れとなり、下請けを泣かせることにつながります。そうすると、質は落ちる。質が落ちると、ますます競争力がなくなる。
 質というものがトップにくるものの考え方で、競争力を増して、結果収益率が上がり、数字がついてくるということを、日本の企業は考えるときでしょう。先進国は、量を追う資本主義から、質を追う資本主義に変わっていったときに、僕は将来が開ける可能性があると思います。そのときに、我々にとっても本当に住みやすい社会が生まれてくる可能性があるのではないと思っています。
竹森 質を重視する経済への転換は、どのようにしたら実現できるのでしょうか。かつての通産省がビジョンを発表していた時代のように、政府が誘導するべきなのでしょうか。それとも、民間を通した何かほかの方法があるのでしょうか。
神谷 こういうことを講演で話すと、「私は何をしたらいいんですか」と聞かれます。社会環境を重視した社会は、もちろん政府や企業がやるべきことはありますが、一人ひとりから始められる運動ですよ、と言います。
 例えば、乳酸菌飲料のセールスの女性を考えると、ただ毎日、配達先に置いてくるだけの人がいる。一方で、昨日配達したのがそのまま置いてあった時に、その家のドアをノックして、おばあちゃん元気? と言える人もいる。
 あらゆる分野のセールスマンがそういった配慮ができ、すべての顧客と人間的関係を持つことができれば、その会社の無形の資産というのはものすごく上がるし、顧客のロイヤルティーもやはりものすごく上がるでしょう。
何もかも「けしからん」と燃やしてしまってはだめ
竹森 ばたっと企業がつぶれて突然解雇されてしまうような状況に人々が置かれると、なぜこんなことになってしまったのか、それはウォールストリートが悪かったからだ、ウォールストリートをうんと懲らしめろ、という議論が出てきます。そういう感情を、ドイツ語で「シャーデン・フロイデ」というのです。
こういう社会の動きを、『アニマルスピリット 』という本で著者のロバート・シラーとジョージ・アカロフが警告しています。不況というのは、たき火が燃え盛っているようなものだ。確かに、「悪徳商法」をした金融機関が次々倒れているのは、正義を代弁している感がある。しかし、焚き火(不況)を燃え盛るに任せておくと、燃えるべきもの(悪徳銀行)だけが燃えるのではなくて、燃えてはいけないものまで(一般企業やその雇用者)がどんどん燃えていく。だから、焚き火をコントロールしなければならない。燃えるべきものだけ燃やすように管理しないと、社会のファブリックそのものが壊れてしまうだろうというのです。
 実は、焚き火の喩えは、ケインズの『平和の経済的帰結』という本からの引用です。第一次大戦後にベルサイユ会議が開かれ、ドイツの賠償金をどうするかという議論がありました。それについてケインズは焚き火の喩えを用いたのです。ケインズはこう考えたのです。ドイツはけしからんということから、会議の議論を始めていけない。ドイツがけしからんというところから議論を始めれば、ドイツ経済を燃やせ、痛めつけろという結論に終わる。そうではなくて、どうやったら、戦後のヨーロッパが生きていけるのか、それを議論の始まりにせよ。ケインズはそういう思いを焚き火の喩えにこめているのだと思います。
神谷 たき火の消し方の方法として、腐った産業に防腐剤を入れるのは、僕は無駄だと思います。質を追求することによって、初めてGDPの成長を生み出す新産業が生まれてくると思っています。
竹森 それで思い出した話があります。1939年に、ルーズヴェルト(FDR)大統領は深刻に悩みました。景気刺激策が成功して、その頃は1929年の恐慌発生前の水準にGDPは戻りましたが、それはまったく景気刺激策の効果であって、財政均衡に向かうために景気刺激をやめると、すぐ景気が落ち込んだ。つまり、当時の景気は民間経済の自律的回復ではなかった。今後も、赤字財政をいつまでも続けなければならないのか。そのことを彼は悩んだのです。
 実際には、その後、第二次大戦が勃発して、財政支出は10倍にも膨張します。その結果、完全雇用も達成されます。その後、軍事費が減れば景気が悪化するかと思われたのですが、そうはならず、経済は自律的な回復を遂げた。これは「平和の配当」のたまものでした。それがあったから、やがて財政も均衡に向かいました。平和になれば軍事費もいらない。復興のための投資もあれば、貿易もできる。それで経済が自律的に回復したのです。
 今は、主要国の財政は、軒並み赤字が膨張しています。私はそれは仕方がないことだと思います。金融システムを再生し、景気刺激策を続けるために大変な予算が必要だからです。神谷さんの言うように、金融システムにだけ予算を向けていても、やはり財政赤字は巨大になる。しかし、いずれは財政は立て直さなければならないし、経済を自律的に成長させなければならない。1945年には「平和の配当」があって、世界経済の明るい見通しが開けた。今回はどうなのか。どうやったら、世界経済の明るい見通しが開けるか、この点は、今、全然議論されていません。
神谷 日本の経済対策のことを考えても、どんな社会をつくりたいかのビジョンが何もない中で、役所から全部出てきたものを足したら、全部で56兆円、真水が15兆円になった。こんなのあり得ないですよ。
竹森 あの内容は本当に情けないですね。お粗末です。私は、これだけ心理が悪化している状況では、公共事業以外は全然意味がないと思っています。選挙が9月までにあるから、実施されるのに1年も掛かる公共事業に政治家が興味を持てないということでしょう。
 本当のところ意味が認められるのは、羽田空港の拡張と新幹線網の拡張だけです。相続税減税なんていう「せこい」政策で、この危機が抑えられると思っているのでしょうか。
神谷 借金したらやはり増税です。そういう中で相続税を含めた累進課税の問題というのはまた出てくるでしょう。
 日本も何で民間にこれだけの貯蓄があって、国家は世界最大の借金を抱えているのかといえば、やっぱり税制がおかしいわけです。税制がゆがんでいなかったら、もっと均衡したものになる。でも、そこは誰も話したくないわけです。でも、もう話さざるを得ないでしょう。正直にやるべきときです。
 そういうことも含めて、新しい社会、新しい経済社会、こうありたいというビジョンについて、お金で計れるものと計れないものを含めて議論しなければなりません。
竹森 いまの日本の政治の悪いところは、選挙を延ばし延ばしにしているために、長期的なことが考えられなくなっていることだと思います。みな9月までのことしか考えていません。いわんや、もっと長期のことは、頭の片隅にすらない。だからともかく選挙は早くやるべきだと思います。選挙の中で、政党が長期のビジョンを戦わせるべきなのです。
神谷 その通りです、国家のデザインに関してね。
政府が企業を助ける必要はあるのか?
神谷 例えば、エルピーダメモリやGM(米ゼネラル・モーターズ)にお金を入れるのは、燃えているものにお金を使ってしまうということでしょう。
竹森 どういう原則で企業を助けるかが大事です。正統的な経済学の考えでは、たとえば失業の抑制のために、企業救済をするべきではない。失業はマクロ経済の問題だから、マクロ的な景気対策で対応するべきで、個別企業の救済というミクロ的な政策は用いるべきではないというものです。スティグリッツという著名な経済学者が、GMについてはチャプター11(米連邦破産法11条)を適用して、破綻させるべきだといっていた。この方法で、ボンドがエクイティーにスワップされるので、GMが生き延びる可能性が高くなるからです。その通りだと思います。
 GM救済の根拠として唯一正当化できると思うのは、GMがデフォルトすると、社債市場でカウンター・パーティー・リスクが大幅に高まる可能性があるということでしょう。日本についてもそれがあるというのなら、いくらか納得はできます。雇用を理由にしてパイオニアを救うというのは、やはりおかしい。しかし、パイオニアの倒産がきっかけで、株と社債の市場がすさまじいことになるようなら、取りあえず政府が支え、撤退させるにしても、労働者が退職金ぐらい持って辞められるようにする。そういう考え方はありえると思います。
神谷 カウンター・パーティー・リスクが顕在化することも含めて、それだからといってそういった会社を救うべきなのかどうか、私には疑問です。結局、その産業自体は救えません。最後は全部納税者にしわ寄せが来る。それならば、僕は銀行に持っていくなら銀行に持っていき、銀行をつぶして国有化し、国家権力でできるだけ早くきれいにする。そして、退場していただく銀行には全部退場していただく、それしかないと思います。
竹森 問題を事業会社と金融機関に分けて議論すると、私は金融機関は国有化して、その代わり債務は政府が保証するというようにする。その上で、営業できるようにするのがいいと思います。結局、スウェーデンの金融危機後の対処法が一番良かった。スウェーデンは1991年に問題が起こりましたが、1995年ぐらいまでに問題行を国有化し、1997年には政府が買った株を全部売って民営に戻した。そのときは、結局、政府は儲けたんです。PPIPではそれは難しいでしょうが。
神谷 確かに、国家権力で処理するしかないし、むしろ国家権力を超えて、世界バッドバンクをつくらないとだめなくらいでしょう。一国の政府単位では処理できない問題です。
竹森 アイスランドは3つの銀行を国有化して、国がひっくり返りましたよね。しかし、アメリカはGDPが1500兆円ですから、国民の合意があれば、かなりの額の損失でも財政で負担できると思います。
神谷 僕はそれに対して恐怖感はありません。アメリカの金融機関は、非常に柔軟性があります。今まで悪かった人は全員退場してくださいと言えば、新しい人が次に入ってくるんです。同じ名前が付いている会社だとしても、中身は総入れ替えできる。今度は強欲な人たちじゃなくて、まともな人がウォール街へ入ってきてほしいけれども――。
 アメリカは、今あるものをベンチから全部どけても、ベンチには新しい人がどっと入ってきて、次のものをつくる。今あるものをどけることに躊躇する理由はありません。
竹森 第一、国有化すると言っても、債務を保証するというだけで、経営はやらせるわけですから。
神谷 ただし、経営者は絶対に代えなきゃだめだと思います。今までの経営者があまりにも悪過ぎた。僕はそれがものすごく不満です。
 
2005年、金融危機を指摘する意見は「つぶされた」
竹森 『強欲資本主義 ウォール街の自爆 』は、今回読み直してみて、すごく啓発されることが多い。学者は理論的にはなんとなく理解ができるのですが、こういうように実話で話されると、さらにぴんとくる。
神谷 やはり経済というのは社会をよくするためのもので、社会にとっての価値観だとか何だとかというのを第一に考えるというのは、今の日本の経済学者の中にもまだ生きているのではないですか。
竹森 確かにあまり目先の話題は追いかけませんが、逆に言うと、今回のサブプライム危機のことでも、きわめて漠然とした認識しか一般の経済学者は持っていないのです。
 神谷さんが著書で書かれたようなことを、イメージとして持っている人は少ないと思います。何しろ、サブプライム危機が起こったときに、新しい商品について市場が間違えるのは当たり前で、今回の危機は驚くにあたらないといった文章を書いたマクロが専門の先生がいたくらいです。恐るべき問題の過小評価です。私はサブプライム危機を見たときに相当大変なことになると思いましたが、そう思った人は少ないようです。
神谷 大臣自身がね、蚊に刺されたか、ハチに刺されたくらいだと言いましたから。借金で物が買えなくなったら、輸出が4割落ちるということなど、まったく想像していなかったのでしょう。
竹森 『資本主義は嫌いですか 』という本に書きましたが、2005年のカンファレンスで、相当深刻な問題が起こると経済学者でも予想していた人がいたんです。ラジャンというIMFのチーフエコノミストをしていた人です。オーバーレバレッジが起こっていることや、シャドーバンキングの問題についても的確に指摘しました。
神谷 ぴったり当たったわけですね。
竹森 その報告にラリー・サマーズがコメントをしたんです。滅茶苦茶なコメントで、お前は科学の進歩に反対するのかとラジャンに食って掛かった。お前みたいなことを言うやつがいるから、世界中で金融規制の撤廃に反対する勢力が生き残るのだと。
神谷 ヘッジファンドに1週間1回行って、200万ドル給料をもらっていた人です。究極のロビイストですから。
竹森 サイモン・ジョンソンというIMFのチーフエコノミストをしていた人が、最近、いまのアメリカはまるでロシアのようだという論文を書いています。ロシアではコミュニストが政治を丸ごと乗っ取っている。それに対して、アメリカの場合はゴールドマンが乗っ取っているという話です。だから、何10兆円もの国民の税金がつぎ込まれた上に、ウォールストリートの住人には、さほど大きなお咎めが下されないようになっているというわけです。
神谷 本当にアメリカは、希望の面と難しい面があります。今、我々は、今までの資本主義の形、強欲に牽引される、物質主義の奴隷となっていたのが、ある意味では出エジプトなんです。物質主義という奴隷になったものから開放され、新しい社会をつくるチャンスです。そういう意味で、非常に大きな転換点にある。本当はモーゼくらいのリーダーが出てきてくれないと困ると思います。今の日本の政治は、あまりも次元が低くてどうにもならないですね…。
 僕は日本人の若い子たちに希望を持てと言います。歴史を振り返れば、混乱の中から次を拓く人が必ず出てきたでしょうと。これからの日本人から絶対に出てくるよと。それだけの文化的なバックグラウンドがあるんだから、自分たちはどういう社会をつくりたいのかを考えてみればきっとできるはずだと言うと、若い子たちはみんな聞いてくれます。
竹森 ただ、バブルが崩壊した後の景気低迷が10年続いたというのはまずかったですよ。そんなに長く低迷が続くと、新しいものが出てこないことに慣れてしまいます。その頃社会に出てきたような若者には、何だか分からないところで景気が悪くなったという印象しか残らない。その後ずっとだめで、大人はおろおろうろたえているし、良い就職先もない。そういう状態に慣れ切ってしまう。バブルより、ポストバブルが、その後の日本人の思考パターンを規定していると思います。バブルの時期は短かったけれども、バブルの後の時期は長かったですからね。それですっかり日本が活力のない国になったのです。
神谷 新しいものが生まれないことに慣れちゃったというのは、悲しいですね…。これからは、そういった若い人を発奮させるよう、慶応義塾の教育者でもある竹森先生に大いに期待したいです。

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このお二人は昨年金融危機資本主義の本質を突いた素晴らしい本をだされています。

そのお二人の対談は中身が濃い!先日のポールクルーグマンと与謝野馨の対談が幼稚園ママの中身の無い会話と同レベルに聞こえますね。  

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