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『from 911/USAレポート』第425回「『アジア共同体実現の前提条件』とは?」---JMM
http://www.asyura2.com/09/hasan64/msg/442.html
投稿者 ミスター第二分類 日時 2009 年 9 月 06 日 23:28:58: syFUAx3Wc1pTw
 

 ■ 『from 911/USAレポート』第425回「『アジア共同体実現の前提条件』とは?」---JMM

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』第425回
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「『アジア共同体実現の前提条件』とは?」

 民主党や鳩山代表に関するアメリカの反応はまだほとんど出ていません。例えば「ニューヨークタイムス」に転載された鳩山代表のエッセー英語訳について「反米的だという懸念」が出ているというような報道が日本ではされているようです。

実際にこの「ニューヨークタイムス」でも、あるいは「ワシントンポスト(電子版で見ましたが)」なのでは、確かに「懸念」の記事は出ています。ですが、どれも「自民党親米派」というチャネルを失うのが怖い「親日派」が不安感を背景に「日本の民意は改革に背を向けている」などと愚痴を書いているだけで、今日ただいまの日本の政治状況を踏まえての精緻な記事にはなってはいません。

 それよりも何よりも、日本の政変に関してのアメリカでの報道は本当に少ないのです。総選挙直前から投票日にかけての、先週末はテッド・ケネディ上院議員の死去というニュースが全米を席巻していましたし、今週に入ってからはロサンゼルス近郊の大規模な山火事や、少女を誘拐し11年にわたって監禁したという事件の報道ばかりです。
例えば、日本の選挙結果が出た直後の31日の月曜日に、NBCのメジャーな朝のニュース番組『トゥディ』では、山火事と誘拐事件で最初の30分がつぶれ、その後は故マイケル・ジャクソンの父親のインタビューが続く中、日本の選挙結果は「その他のニュース」を含めて全く紹介されませんでした。

 そんなわけですから、日米関係に関しての議論はアメリカの世論としては全く白紙の状態です。一つだけ指摘しておきたいのは、オバマ大統領がルース大使を選んだという人選の意味です。
アメリカでは卒業生の大学に対する愛校心であるとかお互いのつながりというのは、非常に強いのです。鳩山代表がスタンフォードのPhDであることを前提に、同窓生を大使に持ってゆくというのは実に当たり前のストラテジーと考えるべきでしょう。

オバマ政権が総選挙の前に鳩山政権の成立を予測していたこと、そしてその鳩山政権にポジティブな期待を寄せているというメッセージを送ろうとしていたのは明白、この人事はそう受け止めるべきだと思います。そういえば麻生現首相もスタンフォードに在籍したことがありますが、学位は取得していないので「同窓生意識」はないでしょう。やはり鳩山氏を意識していたのだと考えるべきです。


 そのルース大使は早速鳩山氏に会ったそうで、その場は和やかだったようです。日米に関する民主党の公約には、普天間移設の見直しであるとか、地位協定の改定(?)交渉など手間のかかる話が入っているので、日米の実務家の間では「面倒」という声が出るのは仕方がありません。
落としどころがどこになるにしても、こうした問題は改めて手間暇をかける、結論がどうなろうと少なくとも日本の世論には旧政権より丁寧な説明をするということだと思います。
マニフェストに書いたことの重みを簡単にひっくり返すことはできません。その手間暇につきあえないのであれば、アメリカの外交というのは「相手には手間のかからない開発独裁が便利」ということになってしまいます。


 それはともかく、鳩山代表の政見の中で興味深いのが「アジア共同体構想」です。
こちらに関しても「すぐに動き出したら大変だ」とか「アメリカ軽視」という声がワシントンでは聞かれるようですが、これも誤解ではないでしょうか? というのは「共同体構想」というのは、それこそ膨大な「手間暇」がかかる話であり、恐らくは鳩山氏自身はその手間暇のことを分かって、遠い将来の「あるべき姿」として話題にしているだけだと思うのです。

 地域共同体として先輩にあたるEUは今回の金融・通貨危機に大きく揺さぶられつつも、何とか機能しています。 それは、マーストヒリト条約によって一応の完成を見た共同体の設計において、周到に練られた三つの前提がビルトインされているからです。
それは(1)加入国は民主主義国でなくてはならないこと、(2)加入にあたっては労働者の権利から死刑廃止に至る人権のレベルを地域の「最高水準」に合わせなくてはならないこと、(3)加入国はあらゆる国境紛争に恒久的な解決をした上で加入すること、という三点です。
勿論、他にもいろいろなハードルがありますが、この三つが大事だと思います。どうしてこの三点が要求されるかというと、民主主義の手続きを経ていない加入は不安定だからであり、また人権のレベルが合っていないと地域内での亡命者を保護するか引き渡すかで国家主権の衝突が起きる、そして国境紛争があると共同体の分裂に発展するからです。

 例えば英国はサッチャー改革によって労働者の権利を制限しましたが、マーストヒリト条約加盟に際しては大陸側の基準に合わせて解雇条件を厳しくするなど制度の一部を旧に復しています。
また、ドイツは東西の統一、EU加盟と同時にポーランド回廊の放棄を中心とした国境線の確定を断行しています。
その際にはコール首相(当時)は国内の保守派を徹底的に抑え込むことに成功したのです。
とにかく、EUの加入条件というのは、EUが「理想の実現」のためにあるというよりも、実務的な見地から共同体を維持するためのテクニカルな条件なのです。
分裂の火種を徹底的に抑え込む、そうでなくては共同体は機能しないからです。

 もうお分かりだと思いますが、アジア共同体が実現するためには中国、ベトナム、北朝鮮、ミャンマーの民主化・自由化は必須です。
これに加えて、日本と中国をはじめとした各国の死刑制度廃止、この地域の労働者の権利、女性や身障者の人権の「最高レベルでの統一」が必要であり、領土問題に関して言えば、台湾、尖閣諸島、南沙諸島、中国領内の朝鮮人自治区、ウイグル、チベット、竹島などの問題がすべて解決していなくてはテクニカルに不可能なのです。

 これは将来構想としても、たいへんにラジカルな発想です。またアメリカの協力なくしては一歩も進まないと思います。
EUにしても、背景にはソ連と東欧圏の崩壊という「ヨーロッパでの冷戦の終結」があり、アメリカは外交努力によってこれを支えました。
同じように「アジア共同体」というのは、「アジアでの冷戦の終結と、自由と民主主義の勝利」が大前提であり、最初の理念的な段階から、アメリカの協力が必要になるのです。

 共同体構想と並んで「共通通貨」というアイディアも刺激的だと受け止められていますが、これも妙な話です。
仮に日本円と人民元が統合するということになれば、(1)日本円と人民元の為替レートが固定される、(2)統合通貨は完全に変動相場に移行する、ということになります。
(1)は日中の問題としてお互いにプラス要因マイナス要因が交錯することになりますが国際経済から見ればローカルな話です。
一方(2)の方は、なんだかんだ言って人民元が管理フロートなどではなく国際市場に晒されていくことになるわけで、そう簡単な話ではありません。
まして、基軸通貨としては、発行量や利便性・信頼性でドルに対抗するなど夢のまた夢です。

 冷静に考えてみれば、共通通貨構想と共同体構想はリンクしています。それは共同体が一体化する中で、通貨を共通化するのが便利になるとか現実的になるというだけではありません。
アジア共同体の地域内に安定した民主主義があり、社会の変化につながる様々な課題がオープンに議論され、オープンに決定してゆく社会であるならば、国際市場の中で市場と戦ってゆけるでしょう。ですが、一部の独裁者や特権階級に権力が集中し、それが民意を抑えつけている体制は、瞬時に動揺しやすいのです。
独裁者の死によって瞬間的に社会の方向性が見えなくなることもあるでしょう。

 そうした不安定な体制を持つ国を抱えながら、共通通貨を国際市場に晒すというのは大変なリスクですし、国際社会としても許されることではないと思います。ですから、共通通貨を実現するには域内の民主化は必須なのです。
「国のかたち」の安定性という問題に加えて、情報流通が自由ではない地域を含む共通通貨というのは、市場のシステムとは相容れないのです。

 では、「共同体構想」が実現するためには、日本の一部の保守層が言うように「中国で暴動が起こり、体制が崩壊する」のを期待するのが正しいのでしょうか? 
やがてゴルバチョフのような人物が中国に現れて「自治区全てを独立させて人民共和国を解体」するような「民主化革命」が起きれば良いのでしょうか? そうとも言えないのです。というのは、アジア共同体を成立させるには、EUと同様の域内の和解や政治的成熟が必須ですが、一つ大きな違いがあるのです。
それは崩壊前のソ連と、現在の中国では国際社会における経済的なプレゼンスが全く違うという点です。

 ですから、ソ連のように「軍事外交的にはソフトランディングだったが、社会経済はハードランディング」というような「崩壊」は許されません。
まして、日本は地理的、社会的に極めて中国社会とは密接ですから、ハードランディングは絶対に困るのです。
日本としても、あるいは国際社会としても、中国の政治がやがて成熟して民主化・自由化に向かうとして、その変化は「軍事外交としても、社会経済としてもソフトランディング」でなくてはならないのです。

 そんなわけで、共同体構想にしても共通通貨にしても、たいへんに手間のかかる話ですし、当然のことながら良い意味でアメリカの影響力なくしては不可能だと思います。
何よりも「今すぐの話」にはなり得ないのです。それを「アメリカに対抗するのではと警戒する」というのは誤解なのですが、恐らく鳩山代表は怒って訂正を申し入れたりしないでしょう。

「アジア共同体・共通通貨」とか「アメリカよりアジアに軸足」という言い方をすることで、中国が気分を良くしてくれればそれはそれで当面は良いのであって、長期の戦略と、短期の印象論を重層的に使い分ける・・・そんな深謀遠慮と腹芸の世界と解釈しておくのが適切なのでしょう。

いずれにしても、静かに新しい時代が開かれてゆくことを期待したいと思います。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わったか』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』などがある。最新刊『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492532536/jmm05-22 )

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