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ドル体制が続く本当の理由 ヘゲモニー支えるニューヨーク集中振替構造 ---(JB PRESS)
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投稿者 ミスター第二分類 日時 2009 年 9 月 08 日 12:26:17: syFUAx3Wc1pTw
 

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/790

【論文】ドル体制が続く本当の理由 ヘゲモニー支えるニューヨーク集中振替構造 ---(JB PRESS)

2009年03月31日(Tue) 谷口 智彦

筆者注:以下掲げる論考は2008年11月中旬に執筆、ある機会に報告したもの。
本来引用資料のいちいちまで精査しアップデートされているものは数字を改めるなり、事実関係についても新たな事情があるなら補うなりしなくてはならないが、ここは掲載に拙速を尊ぶことにして執筆時点でフリーズさせるのをご海容いただきたい。

1.要約

 すべての取引には資金決済が伴う。決済にはスケールメリット(economy of scale)と集中メリット(economy of concentration)がある。通貨別に、当該通貨母国のマネーセンターに集中する。時差のリスクや信用リスクなど決済につきまとうリスクが膨らみ流動性危機が起きる場合に備え、中央銀行が管理人となってシステムを保全する。

 地上のあらゆるドル取引は、現金を用いるものを除けばすべてニューヨークに集中し、例えばCITIBANKと JP Morgan Chase 間の口座振替によって決済される。この際、ニューヨーク連銀(NY Fed)が管理人となり、流動性の枯渇を防ぐ。

 大規模な決済需要を効率よく裁くため、決済ビジネスとはおのずから一大装置産業となる。しかし一定数の人間は、大規模プラントの管理と同様、必ずここに張り付いていなければならない。ニューヨークのマネーセンターバンクは眠らない。24時間、決済ビジネスを続けている。この利便性は、ドルの決済通貨性=基軸通貨性を支える、語られることの少ない基礎的インフラである。

 神経を張り詰めていなくてはならないにせよ、それは類型化された単純作業であるから、携わるのは相応する人材であって、少なくともここにMBAは要らない。するとドル基軸通貨体制を支える人材が見えてくる。この体制は詰まるところニューヨーク集中振替体制の謂いであり、その保全は米銀の中でも脚光を浴びることのない中・低学歴行員の交代勤務によって行われているのであってみれば、彼らこそは同体制のインフラを支える人材である。

 決済ビジネスとは手数料ビジネスである。米銀に、そのフィーが集中する。ドルという基軸通貨をもつ米国は、決済ビジネスにおける一大独占を手中にし、結果として米銀に優位な競争条件をもたらしてきたのがこれまでの姿だった。

 ところで世界に手形交換所が1カ所しかなかったら、出入りする業者に目を光らせることは容易だろう。近年の米国はニューヨーク振替市場が独占体であることをテコとし、マネーロンダリング防止と反テロという経済外的目的のため、これを供し続けた。

 この政策は、世界の公共財を善良に管理する目的と、米国国益の戦略的追求との均衡のうえに成り立つ。前者の目的、例えば麻薬取引監視の必要に世界は同意できても、後者にいつも賛同するとは限らない。

 911以後、上で言う2者のうち、後者が重きをもつに至った。北朝鮮をBDAで締め上げたこと、イランを兵糧攻めにしたことは、その顕著な実例であったが、このことを嫌う向きは当然ながらニューヨークを敬遠し始める。

 欧州が各国通貨によって分断され取引コストの高い場であった時代ならいざ知らず、今日ユーロは振替ビジネスを肩代わりする能力を充実させつつある。歴史はここで皮肉な反復を示し、かつて米国の上限金利規制(regulation q)を嫌った資金がロンドンをオフショア市場としてユーロダラーという鬼っ子を生んだと同様、米国のマネロン、反テロ規制を嫌う決済需要はユーロ振替を選好し始めた。欧州中央銀行(ECB)はこれを意識し、インフラの整備=決済サービスの充実に努める。

 それでもユーロ振替がいまだにシェアを顕著に伸ばしていない理由は、ECBにおけるガバナンスの輻輳(ふくそう)と、それによる機動性の低さに集約される。一朝一夕これを改善するあたわず、ユーロ振替がクリティカル・マスを獲得する日は近い将来に予見されていない。

 したがって、ドルの決済通貨性=基軸通貨性は当面なくならないと見てよいが、安泰であるとは全く言えない。ユーロには、課題が見えている以上、解決策も見えているからだ。

 そして言うまでもなく、以上の過程は地政学、安全保障上の意味合いを必ずもつに至る。


2. 決済の実際

 図1の例は本邦石油企業がイランの石油公社から石油を買い入れようとする場合(後述の通りこのドル取引は現在行われていない。最近はすべて円建て)を示す。

 本邦石油会社は取引銀行(仮に邦銀X行とする)に、イラン石油公社が口座をもつイランの国営マルカジ銀行(中央銀行)への送金を依頼する。通貨は、ドル建て。

 このときX行から Bank Markazi に動くのは、支払いの指図を書いた電子的帳票のみ。そこには支払人と受取人に関する情報ならびに支払いの明細が詳しく書かれている。

 カネは、まだ動かない。ここでニューヨークの銀行、シティとJPモルガン・チェースが関係してくる(あくまで喩え)。これらを巻き込みカネは次の動きをとる。

 (1)シティバンクの中にある、X行の「非居住者ドル預金口座」から当該額が減り、(2)隣接する(物理的には。これも喩え)JPの中にある、イラン・マルカジ銀行の非居住者ドル預金に、当該額が上乗せされる。(3)これの裏側取引として、東京のX行内にある本邦石油会社の預金口座が相当額減り、テヘランのマルカジ内にあるイラン石油公社の預金口座が、相当額増える。

 ただしカネは太平洋を越えたり、欧州大陸を横断したりはしない。もともとすべてのカネは電子化された情報であるから、行きかうのは情報のみ。それに応じて、東京とテヘランの預金口座が減ったり増えたりする。

 なぜ、ドル取引の決済はこのようにニューヨークを舞台としてしか生じないのか。理由は2つ。第1に、主要通貨取引別に帳簿を一括管理しておきたい銀行の事務手続き上の要請。その結果、ドル取引はニューヨーク、ユーロならフランクフルト、円は東京でだけ、決済される。

 第2の事情は、ドルを発行できる主体はニューヨーク(連銀)に、円、ユーロはそれぞれ東京とフランクフルトの中央銀行にしかないことからくる。すなわち資金のアベイラビリティーに問題が生じ、ために決済が滞ると恐れられるような場合、迅速な流動性の供給ができるのは、当該通貨の発行主体であるところの中央銀行のみである。

 流動性こそは決済の泉であるから、その泉に水を枯らさぬよう努める中央銀行がいるところへ、決済ビジネスは集中する。ここは、古典的手形交換を思えばよい。手形の買い入れや売却という操作をすることで銀行間取引に流動性を保ち、決済の円滑を図るのが中央銀行古来の業務だった。

 決済は電子書式のやり取りで実施される。しかしこれは時として読み取れないなどエラーを生じ、人間が手で補正、入力しなければならない場合が皆無とはいえない。

 これを文字通りrepairと呼ぶ。repair業務のためだけに、交代勤務制を敷いて24時間人間を貼り付けているのがCITIBANKであり、JPである。再言すると、事務管理の集中メリット、流動性の出し手の存在に加え、米国マネーセンターバンクが業として手数料稼ぎのため行う24時間対応決済サービスが全体として一体のインフラをなし、ドルを決済通貨=基軸通貨としてきた。

 このことは、シティやJP、ワコビアなど大手銀行を簡単に潰せない理由を説明するものだ。そこからの延長で言うと、決済システムの安全を保つ透明かつ実効的な金融行政をもっていることも、ドルの地位を保つうえで欠くべからざる基礎条件だと言えるわけである。

3. 決済市場という公共財の、経済外的目的への奉仕

 図1においてカネが流れる米銀2行間に、長らく詳しい情報は往来しなかった。すなわち最終受取人が制裁対象のイラン石油公社であるのか、原初的支払人が麻薬マフィアであるのかどうかといったことにお構いなく、カネは色のつかないただのカネとして、ニューヨーク・マネーセンターバンクの非居住者ドル預金口座の相互引き落としによって移動していた。

 2007年4月以来、米国政府年来の要求を入れ、カネに色をつける、すなわち支払人と受取人に関する詳細な情報を転記した電子的帳票をやり取りすることが民間銀行団(日本では三菱UFJフィナンシャル・グループが会員)の合意(市中協議書)によって決まり、実施に移されている。

 ここでつく色とは、米国財務省 Office of Foreign Assets Control (OFAC)が指定する情報である。OFACとは1812年、英国資産を没収するためつくられたもの。極めて「由緒正しい」機関である。ちなみに、俗に言う「テロ支援国家リスト」と、この情報とはまったく何の関係もない。先般北朝鮮を除外したくだんのリストは国務省がつくって管理しているもので、これは銀行取引の帳票情報に一切反映されない。

 いまOFACのウェブサイトを見ると、そこに全文411ページにのぼる危険人物ブラックリストが掲げられている。Specially Designated Nationals and Blocked Persons のリスト、略してSDNリストと称されるもので、実際の取引では、ブラックリストに新たな情報が搭載されるたび、銀行側でソフトウエアが更新され、怪しい人物、主体が取引局面に現れるやいなや、注意を喚起するように自動化されている。

 図1で言う、すべての情報のやり取りは、ドルが絡む限り、同じ危険情報を用いたスクリーニングにかけられるから、日本において例えば平野という姓の個人が絡む取引には必ず「フラッグが立つ(注意喚起される)」。なぜならHIRANOという綴りには、IRANが含まれているからだ。

 危険人物リストにあるJapanの項目は14件、すべてキューバ制裁関連の、キューバ人、関連企業である。また例えば AUM SHINRIKYO 関連では5団体の名前が載っている。ブラックリストの対象になるのは「反テロ」「不拡散」「麻薬」「キューバ」「その他」。Pyongyangで検索すると44件がひっかかる。ただし運用に際しては、フラッグが立つ取引をすべて禁じるわけではない。北朝鮮の場合、大目に見られているという。

 このようなコンプライアンス(法令遵守)の要請は、事務煩雑化を招くから当然の帰結として自動化の需要を生む。そこで、ほぼすべての金融機関によって採用され、スクリーニングに遺漏なきを期さしめるソフトウエアの標準製品が生まれ、これを米系企業が独占することになる。運用方法を助言するアドバイザーには、財務省OFAC上がりの人物が天下る、ということにもなる。これなどは基軸通貨をもつことの余禄といえる。

 ディファクトスタンダードとなったソフトウエアを独占している企業はウェブサイトでいわく、Sword FircoSoft is a leading provider of watch list filtering and financial messages repair solutions for international financial institutions. FircoSoft has developed strong partnerships to reach customers around the world and satisfy their individual requirements. ここが売るソフトは、その名もOFAC-Agentという(フィルコソフト社)。

 これだけのシステム、インフラをもって、在マカオ、Banco Delta Asia の取引を止めた。結果として北朝鮮はドル決済ネットワークから排除され、締め上げられたのは記憶に新しい。


4. OFACを嫌う取引、ユーロへ→決済通貨=基軸通貨への道?

 イランなどはかくしてニューヨークから弾かれるので、ドル決済が全くできなくなってしまった。かつてドルは石油を買うことのできる唯一の通貨(筆者は「石油本位制」と呼んだことあり)であって、ワシントンはその地位を脅かすものを極度に警戒したものだ。皮肉なことに、米国はOFACが正面の敵と睨むイランをドル圏から追放した帰結として、石油大国イランに非ドル決済の習慣を許容し、いわば蟻の一穴をもたらしてしまったかもしれない。

 日本とイラン間の石油取引に関わる決済は、本ペーパーが多くを依拠した某邦銀関係者の説明によれば、1年前まではもっぱらユーロ、この1年間は日本円によってのみ行われているという。

 もしもドル決済を逃れ、ユーロに代替機能を求める需要が高まっているのだとすると、何にその兆候を読み取ることができるだろうか。上述の説明から察せられるとおり、それは非居住者ユーロ預金の規模である。これが増えているとしたら、ユーロを決済通貨とする決済需要が増加していることを推察することができる。

5. ドル対ユーロ
 以上、本稿は決済通貨としてのドルの地位に焦点を絞り、考察してきた。ここで再び約言しておくと、決済サービスには集中のメリット、規模の経済が働くので、一種の大装置産業となり、そのような産業の常として高い参入障壁をもつものだ。

 長年使われてきたドルは決済サービスにおいて最も充実をみている。この地位は、一朝一夕において変わるものではない。ここらが、評論家が「基軸通貨には強い慣性の法則が働く」と言うとき、意味しているものである。

 しかし、今回決済通貨としてのドルに関心を絞ったのは、基軸通貨とは何かにつき厳密な定義を踏まえた議論がなされることが、日本においていかにも少ないからである。

 戦後の米国は、ドイツや日本に対し、軍事的庇護と経済的従属を取引する関係を取り結んだ。ニクソン・ショックに先立つ期間、ドイツは米国から執拗なマルク切り上げの圧力を受け、いやなら米軍を引き上げるという恫喝さえ忍んだ事実がある。

 このあたり、「軍事力において比類ない国こそが、基軸通貨をもつ」のだとする人口に膾炙(かいしゃ)した見解を裏打ちするかのようだ。

 しかし、この点は、東西冷戦が過去のものとなり、体制においてまったく性格を異にする中国や、かつての敵国ロシアが同じ資格でひとつの国際マーケットに登場して以来、すなわち軍事的睨みが日本やドイツのようにはきかない主体が有力になって以来、議論として有効性を大きく減じている。もともと軍事的アセットを貼り付けていない、貼り付けてほしいと思わない国に対して、軍事的庇護は取引材料にならないからである。

 すなわちドルとは今や、九分九厘経済的現象なのかもしれず、そうとするならば、経済的現実の違いによってその地位が左右されるのを当然視しなくてはならないのかもしれない。

 このように考えた場合、最も憂慮すべきは次のグラフが示すような足元の現実である。すなわち公的資金が銀行セクターに向け大量投与されつつある現在、米国の中央銀行は猛烈な勢いで資産・負債残高を膨らませつつあるし、またそうせざるを得ない。

 図3に見るとおり、米国中央銀行(ニューヨーク連銀)はここへ来て一気に2倍に資産を膨らませた。一定トレンドをなかなか越えようとしなかった連銀資産は、突如として直角に近い増勢を示し、短期間に2倍以上膨張したのである。

 2倍に膨らんだ資産の裏には、同じだけ膨張した債務がある。中央銀行における債務とは、つまるところ通貨(預金通貨と紙幣)である。すなわち上図から読み取るべきは、米国においてドル発行残高が急速に増えつつある事実にほかならない。

 日銀の場合、「失われた10年」の間にやはりバランスシートを顕著に膨らませた。

 図4に見るとおり、日銀はバブル崩壊後の火消しに従事するあいだ、資産・負債を3倍以上に膨張させた。Fedも、恐らく同じことを(あるいは一層大規模に)せざるを得まい。
 ドルの発行残高を、3倍以上にせざるを得ないと言っても同じことである。これは、理論的には1ドル30円という事態もあり得ることを予感させる。

 中長期的に価値の下落が予測されるとき、ユーロには、(1)決済サービス提供通貨として実力をつけつつあるうえ、(2)通貨がもつもう1つの機能、価値保蔵手段としてもドルに対する比較優位が感じられるようになり、ドルにとってかわる必要条件がより多く整うと言うことができる。

 ただし、十分条件とは言えない。理由はいつにかかって、ユーロにおける意思決定構造の錯雑である。

 ユーロはいまだ外延的拡大の途上にあり、自国通貨をユーロとペッグさせている国を掲げた表1は、一見いかにもユーロの影響力、支配力の強さを示しているようではあるが、実はぶら下がり予備軍として、ユーロの意思決定を一層混迷させる勢力と見ることもできる。

 通貨はヨーロッパ人が考えるほど、ポストモダンの、すなわち国境を意識しないような体制になじむものではない。

 単独国家主権下の管理が可能なドル体制は、(1)責任所在の明確性、(2)意思決定過程のストレートさ、(3)ならびにその迅速性によって、いまだに一日の長がある。

 これと決済サービスにおける「慣性の法則」が強く働くことによって、ドル体制は一部論者が予期ないし期待するほど早く崩れるとは思われない。
 

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