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「ノーベル平和賞はオバマにとって<ありがた迷惑>か?」      【冷泉彰彦】
http://www.asyura2.com/09/kokusai4/msg/522.html
投稿者 愚民党 日時 2009 年 10 月 10 日 23:26:07: ogcGl0q1DMbpk
 

(回答先: アジア歴訪で問われるオバマ米大統領の対話外交【産経】 投稿者 ワヤクチャ 日時 2009 年 10 月 08 日 21:58:56)

                             2009年10月10日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.552 Saturday Edition
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                       http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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  ■ 『from 911/USAレポート』第429回
    「ノーベル平和賞はオバマにとって<ありがた迷惑>か?」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)



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 ■ 『from 911/USAレポート』第429回
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「ノーベル平和賞はオバマにとって<ありがた迷惑>か?」

 時差の関係で、こちらの金曜日に起床してネットに接続すると、日本のニュースや
日本からのメールなどから「オバマ大統領がノーベル平和賞受賞」というニュースが
飛び込んできていました。私は一瞬何が起こったのか混乱したのですが、「まあ、そ
んなこともあるだろう」と自分を納得させたのでした。ですが、日本での報道の内容
を見ると、眠気は吹っ飛びました。私は本当に驚いたのです。日本の報道は「祝賀」
一色だったのです。

 2月のワシントンでの就任式の映像をからめたオバマの「チェンジ」というメッセ
ージへの「祝賀」、核廃絶の声明が評価されたと喜ぶ被爆者の方々の声、小浜市の熱
狂・・・私には一体何がどうなったのか頭がクラクラしました。というのは、私の第
一印象は「これはオバマにとってマズイことになったな」という以外の何物でもな
かったのです。オバマ大統領本人もそうだと思いますが、アメリカでは、2週続けて
北欧から「妙な判断」が飛んできたという印象です。オリンピック開催がダメで、オ
バマに平和賞、これが逆だったら良かったのに、そんな声がネットでずいぶん飛び
交っています。

 受賞の知らせは7時台のニュースから大きく報道されるようになったのですが、と
にかく「サプライズ」というムード一色でした。NBCにしても、CNNにしても
キャスターたちは全員「驚き」「困惑」という表情でした。その「困惑」というのは
何なのでしょうか? 例えば早々にRNC(共和党全国委員会)が声明を出して「ア
メリカの国民は、この大統領は一体なんの実績があるのか疑問に思っている。雇用に
しても財政にしても、レトリックだけで何のアクションもない」と、「おめでとう」
の一言も全くない散々なことを言っています。これが実感なのでしょうか?

 私はそれだけではないと思います。アメリカの草の根保守の中には「ノーベル平和
賞というのはヨーロッパの王室などがやっている偽善」であって、「アメリカの国益
とは一致しない」という感覚があるのです。例えば、今日現在、アフガニスタンの戦
況にどう対応してゆくかについては、オバマ政権にとって大変な問題になっています。
ここでの議論に影響を与える可能性があるのです。現在の焦点は増派の是非ですが、
政権内のバイデン副大統領は増派に慎重な構えです。

 副大統領の論法はこうです。「我々の真の脅威はアルカイダであり、タリバンでは
ない。タリバン対策に終わりのない資源投入をするよりも、全世界に広がったアルカ
イダのネットワークを叩く方がアメリカの安全になる」というのです。もっとも、後
半の「ネットワークを叩く」というのは一種の言葉の綾であり、要するに増派をしな
いで、タリバンを軟化させてアルカイダと手を切らせるというのです。

 これに対しては、昨年の大統領選を戦った相手であるマケイン上院議員(共和)が、
断固増派すべしという論陣を張っています。こちらは、イラクの際に使われた言い方
そのもの、つまり「アメリカが敗走して弱みを見せれば、必ずテロリストが本土を
襲ってくる」という論法に他なりません。実は、こうした「草の根の声」は健康保険
改革反対論と共鳴し合って、じわじわとオバマを追い詰めているのです。

 そこで「平和賞」ですが、このアフガン情勢に関して言えば「平和賞に乗じてどん
どん敵と妥協するのは敗北主義であり、アメリカを危険に陥れるもの」という反応に
なるのです。日本では「アフガンでの戦争を続けながら平和賞を受けるのは、オバマ
の足かせ」という報道があったようですが、アメリカの政局での緊張関係は違います。
そもそもオバマ政権としても今のところ「全面撤兵」はあり得ないのです。

 どうして「草の根保守」は健康保険改革に反対し、アフガン増派に賛成するのかと
いうと、その核にあるのは「国際派エリートへの反感」というアメリカの長い伝統が
あります。建国直後のナポレオン戦争に対して、生まれたばかりの国を育てるために、
その悪影響を排除しようとした故事、そして19世紀後半のモンロー主義、第一次大
戦後の国際連盟加盟の否決など、アメリカの保守には「孤立主義」の伝統があります。
その精神の核にあるのが「ヨーロッパの怪しい世界とは距離を置く」という感覚であ
り、それが「国際派エリートを信じない」という感性になっていったのでした。

 彼等は、例えば健保改革に関して、映画『シッコ』の中でマイケル・ムーア監督
(保守派の天敵です)が、再三にわたって英国やカナダの官営保険制度を持ち上げる
のを、本当に苦々しく思っているのですが、それもこの「国際派エリート嫌い」とい
う感覚に重なって来るのです。「怠惰な落伍者の医療費をどうして、苦しいながら生
活を支えるために頑張っている自分たちが負担しなくてはいけないのか?」という直
感が「それは誤った医療の社会主義をやっているヨーロッパの悪影響を受けたエリー
トの自己満足」という意識に重なるとき、「絶対反対」というスローガンになってゆ
くのです。

 アフガンも同じで「タリバンはアルカイダと一心同体じゃないか?」という前提で
「オバマは国を売って敵と取り引きしようというのか? そんな対話路線がカッコ良
いという国際世論は、そもそもアメリカの敵だ」という感覚になっていきます。そう
言えば、アメリカには外国からの叙勲や恩典の授賞を余り喜ばない伝統もあります。
いずれにしても、健保問題とアフガン問題が、結びつけられることで、「政治的に死
に体」だったはずの共和党がじわじわと蘇ってきているのです。

 実は民主党でも中道派に動揺が見られるのです。健保改革では共和党が反対で一致
しているにも関わらず、民主党の中間派は動揺しているのですが、これにアフガン増
派問題が重なってくると、政局運営はかなり難しくなってきます。そんな中、オバマ
大統領は8日の午前に記者会見を行いました。当初10時半に予定された会見は、結
局始まったのは11時過ぎでした。

 このスピーチは大変に異例なものでした。「私は驚き、そしてひたすら謙遜するし
かないのです」「私は多くの立派な候補者と比較すると、自分が受賞に値しないと
思っています」合衆国大統領が世界的な賞を受賞するにあたって、ここまで低姿勢と
いうのも珍しいと思います。ただ、スピーチの冒頭に「ダディがノーベル平和賞だっ
て」と娘が教えてくれたエピソードを入れているのと、「実績ではなく方向性への期
待感」だと思うと述べたところで、自分は賞を受けるということは表明しています。
それ以外は、とにかく低姿勢、まるで釈明会見のようなトーンでした。

 オバマの政治的ポジションはかなり苦しくなりました。健保改革にアフガン、これ
にもう一つ「何か」が加わると、共和党にはかなり団結が出てきて来年11月の中間
選挙へ向けて「戦いになる」ムードが生まれるからです。丁度、ワシントンDCでは
週末に、同性愛者と性同一性障害者の大規模なデモが計画されています。「オバマ政
権になっても、この間、私たちの人権は向上していない」というのがデモの理由のよ
うですが、オバマはこうした動きに対しては、距離を置かざるを得ないでしょう。同
性愛者のデモに「連帯」しようものなら、この種の運動を嫌う共和党側は更に勢いづ
いてしまうからです。

 さて、11月の12日、13日にはそのオバマ大統領にとって初めての訪日が組ま
れました。ここでは色々な懸案が話し合われると思いますが、オバマはブッシュでは
ないので「国際社会から非難されて困っているようですが、我々は同盟だから断固支
持しますし、人や油を出します」というアプローチでは喜ばないでしょう。「国内な
どで政治的に問題を抱えておられることは承知しています。ですから閣下の足を引っ
ぱることはしません」という「ホンネ」的アプローチも、誇り高い大統領には通用し
ないと思います。

 そうではなくて、「日本は何よりも閣下の国際協調路線や核廃絶宣言を支持します。
その流れの中で、過去の問題や現在の問題を実務的に解決して参りましょう」という
言い方が、この人には効くと思います。大統領の平和賞受賞を心から喜んだ日本のリ
アクションは、アメリカの国内政治に「毒された」私には一瞬驚きでしたが、実は
「正しい」のです。その「正しい喜び」をそのままオバマという人本人に示すことが
できれば、実務的な問題は実務的に進むでしょう。

 一方で、口では「オバマのチェンジ」が素晴らしいとか「国際的な対話」は良いと
か言っておきながら、北朝鮮や中国との緊張を緩和するのを渋ったり、核廃絶宣言を
評価しながらも、国内には自主核武装論がくすぶっているということでは、一気に不
信感を向けられると思います。そのあたりは世論や報道も含めて注意していく必要が
あると思います。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』など
がある。最新刊『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492532536/jmm05-22 )
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●編集部より 引用する場合は出典の明記をお願いします。
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【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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