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為替の魔術 U−ブレトンウッズ体制の黄昏の中で (寺島実郎)
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投稿者 ダイナモ 日時 2009 年 1 月 05 日 20:32:57: mY9T/8MdR98ug
 

為替の魔術 U−ブレトンウッズ体制の黄昏の中で (寺島実郎)

 二〇〇四年三月の本連載において「為替の魔術」と題し、戦後の一ドル三六〇円時代からの為替変動に伴う悲喜劇に触れ、自国通貨の価値が高まること、つまり、円高の効用について議論してきた。さて、それから四年半、二〇〇八年に入っての極端な為替相場の乱高下という事態に直面し、改めて「為替の魔術」を再考しておきたい。
 外国の通貨との交換レートは、明治維新を迎えた日本にとっても悩ましい課題であった。明治四年(一八七一年)に「円」という通貨呼称を採用したわけだが、当時東洋で広く通用していたメキシコ銀貨を「洋円」と呼んでいたことからだという説が有力である。銀とのリンクを想定して導入された「円」であったが、米国に金融通貨制度の調査に赴いた大蔵少輔伊藤博文の進言で「一円の金平価を一ドル(一円の金量一・五グラム)」と決めたのである。しかし、日本が公式に金本位制に踏み切ることができたのは明治三〇年(一八九七年)で、日清戦争に勝って得た三八八万ポンド(三・六億円)の清国からの賠償金を基に金本位制を導入したのである。この時点で、円相場は一ドル=二円の固定相場とされた。その後、第一次大戦による金本位制停止、さらに昭和五年の金融恐慌期における「金解禁」、そしてわずか二年での金輸出再停止などと紆余曲折を経ながら、昭和十年代の戦争経済に向かうわけだが、戦争直前の実勢円レートは一ドル=約四円の水準であった。
 敗戦後、昭和二十四年(一九四九年)にドッジ・ラインで一ドル=三六〇円と決められた。つまり敗戦とは、日本の通貨の交換価値が九〇分の一に下落させられたことだという見方もできる。敗戦後の世界の金融秩序の基盤が所謂、「ブレトンウッズ体制」であり、日本も戦後六〇年以上この枠組みの中で生きてきた。七一年の米国の「金とドルの兌換停止」(ニクソンショック)を経て、円切り上げ、変動相場制移行という新しい局面を向かえ、今日に至るわけだが、二〇〇八年秋、現在我々が直面している状況は、第二次大戦後の世界金融秩序の重大な転換点といわざるをえない。

ブレトンウッズ体制の黄昏

  第二次大戦後の世界における金融秩序が「ブレトンウッズ体制」と呼ばれてきた理由は、一九四四年七月、米国のニューハンプシャー州のブレトンウッズで、四四カ国が参加して大戦後の世界金融システムのあり方を決定付ける連合国通貨金融会議が開催されたことに由来する。この時、IMF(国際通貨基金)と世界銀行(国際復興開発銀行)の創設が決定されたのである。この決定こそが世界の経済的覇権がイギリスからアメリカに移ったことを象徴するものであった。
  当時、世界の金保有の三分の二以上が米国に集中するという事態を背景に、ドルを基軸通貨とし、米国の首都ワシントンに設置するIMFと世界銀行を中心に世界の金融秩序を維持するというものであった。「ワシントン・コンセンサス」という表現があるが、正に米国の利害を投影した政策論によって世界の経済・金融が規定されるという時代が続いてきたのである。〇八年一一月一五日にワシントンで開催されたG20金融サミットは、サブプライム金融危機を受けて、世界の金融秩序が構造転換期を迎えていることを明示するものであった。欧州、とくにフランスのサルコジ大統領や英国のブラウン首相は「ブレトンウッズU」と表現するが、主たるテーマは「@行き過ぎた金融資本主義の増殖(マネーゲームの肥大化)を制御するための金融監督・規制強化、A新興国の国際金融機関への参画拡大」であり、背後に米国の求心力の低下があることは間違いない。際立った意思決定もなく今回のG20は終わったかにみえるが、米国一極支配の象徴でもあったIMF・世銀体制が構造転換の臨界点に近づき、より多くの国々や多国籍企業やNGOなど多国籍活動主体が参画する国際金融秩序が模索され始めているといえる。
 日本は「十兆円の外貨準備を提供してもドル基準を維持し、IMF体制を支える」という硬直した政策しか構想できない現実を示した。戦後という時代を米国とのみ並走してきた固定概念が、新たな世界潮流を前向きに生かす視界を閉ざしているとしかいえまい。気がつけば、円レートは一ドル=九〇円台となっている。三六〇円時代に比べ、交換価値を四倍に高めたということで、もしデノミでもやれば、明治四年の一ドル=一円時代に原点回帰したことになる。為替は生き物であり、柔軟な時代認識を問いかけてくる。

韓国ウォンの急落を目撃して

 一一月上旬、米国でオバマが新大統領に選ばれた時、私は韓国ソウルにいた。そこでは、世界金融不安の中で、極端なまでの通貨ウォン安に苦しむ韓国の姿があった。一〇月末のウォンの円に対するレートは二〇〇七年平均比四七・五%も下落した。つまり、今年に入って、五割近く日本円に対して価値を失ったわけで、驚くべき事態である。
 韓国ウォンは、今世紀に入っての七年間(二〇〇〇年平均比二〇〇七年平均)で日本円に対して三二・九%、価値を高めていた。それが、〇七年二六〇万人もの韓国人が日本を訪れるようになっていた背景であった。ところが、特に〇八年の七月以降、話が反転してウォンが急落、今度は日本人観光客が「買い物ツアー」に韓国に押し寄せる事態となっている。
 何故これほどにウォンが下落しているのであろうか。確かに、二〇〇七年のGDPに対する韓国の貿易比率は七六%と高く、日本の二八%に比べても、世界不況の影響を受けやすいことも分る。また、韓国産業を支える企業力が薄く、国際競争力を持ったブランド企業といえば、現代(ヒュンダイ)、LG、三星(サムスン)の三社ぐらいで、その売上高は韓国のGDPの三五%を占め、三社の業績が国民経済全体を左右する構造になっていることも環境変化への耐力に欠ける要因といえる。それにしても、極端な振れであり、一九九七年のアジア金融危機に際して、「IMF管理国家」のような状況に陥ったことへのトラウマとでもいうべき自信喪失としかいいようがない。
 ドルに対するウォンは、今世紀に入っての七年間で二一・六%、価値を高めていたが、今年に入って一〇月末までに二七・三%下落しており、対円ではより極端に下落したことになる。為替レートの変更をもたらす一般的要因として「国際収支の動き」「海外との金利差など金融状況」「インフレ率の差」などが指摘されるが、歴史的に為替の動きを辿ると、やはりその国の基盤産業力、国際経済への影響力、政治・外交・軍事力など「総体としての国の力」が反映されているのである。
 改めて、日本円が置かれている状況を冷静に考えたならば、産業の技術力に象徴される基盤産業力の蓄積、例えば自動車、エレクトロニクス、光学機器などの有力ブランド企業による技術集積、さらには鉄鋼、化学工業などでの省エネルギー・環境技術の蓄積、最近ではアニメ、音楽などソフト産業分野での先端性などによって日本産業の優位性が再評価されていることに気付く。一時「金融立国」などという議論が日本でももてはやされたが、やはり日本経済への評価の中核は地道に蓄積されてきた「生真面目なモノづくり」を通じた産業力以外の何ものでもない。「日本は輸出志向の国だから円安のほうが有利だ」という短期的利害に立った判断ではなく、一ドル三六〇円時代から六〇年かけて自国通貨の交換価値を四倍に高めてきたプロセスを振り返り、緩やかにではあれ円高に向けて産業の実力を高めていく方向が健全であり、大切である。その意味で、現下の円高は例えば「円建の国際金融市場」を構築することさえ構想できる好機ともいえる。
 世界的金融不安の中で、日本の株式市場(日経平均)は一九八九年末の三万八九一五円から今年のボトム値で八割下落した。危機の震源地であるはずの米国はピーク時比で四割下落したにすぎない。背景には、一二年以上も政策金利が一%を割るという超低金利政策が続き、「日本に金を置いていても利息を生まない」という状況に苛立った資金が米国の金融市場に向かったという要因も重く存在している。その資金が、米国の経常収支の赤字と財政赤字(所謂、「双子の赤字」)を埋め、産業の実力以上の過剰消費と過剰軍事力を支えてきたという皮肉な構造になってきたのだ。金融に対する日本の体系的戦略意思が今日ほど問われている時はない。

 雑誌「世界」 脳力のレッスン81

 

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