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変貌する「幸福の科学」の今昔 (塚田穂高)
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投稿者 ダイナモ 日時 2009 年 8 月 27 日 22:25:43: mY9T/8MdR98ug
 

政治進出までの二三年間とその国家観

塚田穂高 つかだ・ほたか 一九八〇年生まれ。東京大学大学院博士課程(宗教学)、宗教情報リサーチセンター研究員。専攻は宗教社会学、近現代日本の新宗教運動。論文に、[教団類型論再考](共著)[『二世信者』の信仰形成の過程と教団外他者」「高木宏夫の新興宗教研究・再考」など。

はじめに

 二〇〇九年五月一〇目、東京・‐比谷公会堂。幸福の科学・大川除法総裁による若者向けの講演会「勇気百倍法」の第二部は、恒例の会場からの質疑応答ではなかった。前々日にプログラムの変更がなされ、壇上にはスーツ姿の男性幹部が六人。「次の衆院選に全選挙区で候袖者を立てたい」「第一党を狙う」「目木が世界のリーダーになるべき」……。宗教政党「幸福実現党」の結党宣言であった。すでに教団内部では四月三〇日、「幸福実現党宣言」と題した説法がされていたが、それでも会場の約二千人と、約二八〇〇力所の衛生中継先の信徒会員らは驚きをもって受けとめたようだった。
 五月二五日には、メディア向けの記者会見。消費税全廃・北朝鮮ミサイルへの防衛・三億人国家などの政策提示。多くの注目を集め、「突然の政界進出」「早くから政界進出を志向していた」と様々な報道がなされた。
 なぜ、今、幸福の科学が、政治に進出するのか。この問いに直接的かつ明確に答え難いのは、九〇年代前半に同教団が大きく注目された後、メディアやアカデミズムを含む日本社会が、同教団に対して継続的な注視をしてこなかったことに一因があると思われる。
 筆者は、宗教社会学の立場からここ数年、同教団の動向を追ってきた。本稿では、いささか遠回りにはなるが、まず幸福の科学とはいかなる宗教団体であるかを概観し、続いて立教から現在に至るまでの展開過程の大枠を提示したい。その際に、同教団の国家観・政治観(文化的・政治的なナショナリズム)やユートピア観に特に注意を払い、その宗教的世界観との関連をみていく。こうした作業を経て、今回の政治進出に至る背景の展望を読者に提供したいと思う。  

幸福の科学の概要

 宰福の科学は、東京大学法学部卒で大手商社トーメンの社員だった大川隆法(生名・中川隆、一九五六---、総裁)が、父親の善川三朗(中川忠義、一九二一 --- 二〇〇三、名誉顧問)らとともに、八六年一〇月に東京・杉並区西荻南にて設立した。大川総裁は、八一年より高級諸霊からのメッセージを受けとるようになったとされ、八五年に初の著作『日蓮聖人の霊言』(善川名義)を刊行。八七年、幸福の科学出版を設立。九〇年代初頭まで毎年二、三〇冊のペースで書籍を刊行する。数え方にもよるが、大川総裁の一般刊行書籍は、これまでに二〇〇点を超える(内部向けなども含めると、五〇〇点を超えたとされる)。「出版・読書宗教」とも言うべき、大川総裁が説法・法話を行い、それが書籍化され、会員が購入・献本活動をし、読んで学び、またその書籍をもとに説法・講義が行われるというサイクルが、宗教活動の重要な核を構成している。
 世界観・救済観の特性としては、多層的霊界観、霊界と現世との照応関係、転生輪廻思想などが挙げられる。多層的霊界のほぼ最高次元である九次元霊界の中心的存在が、釈迦・ヘルメスの本体意識「エルーカンターレ」であり、現代に大川総裁として下生したとされる。転生は、魂の修行・進化の過程とされる。高級諸霊の転生により、現代世界と日本こそが選ばれた時間と場所だとする歴史観を持つ。「現代の四正道」である「愛・知・反省・発展」の徳目に集約される、性善説的でニューエイジ思想に親和的なセルフヘルプとポジティブーシンキングといった心の統御法を強調している。これは、新自由主義に親和的でもあり、経営・自由競争市場的発想と連結され、自助努力による成功・繁栄・発展が目指される。以上のような宗教的価値に基いた現世でのユートピア建設が目指されている。
 次に、組織的側面。根本経典は『仏説・正心法語』であり、この累計発行部数の約一一〇〇万が公称会員数となっているようだ。本部機能は東京の五反田に、宗教的中心地たる総本山は宇都宮・日光・那須にある。全国各地には、一四の正心館を始めとする二八の大型施設(礼拝・研修用)がある。自前の地方支部施設として、一八三の支部精舎がある。他にも、支部・拠点・布教所があり、こうした国内拠点は一万ヵ所にのぼる。支部精舎・支部は、全都道府県にあり、首都圏と兵庫・大阪、福岡・沖縄などに多い。海外では、米・ブラジル・台湾・韓国・豪・英・ウガンダなどに教団拠点がある。
 前述の書籍刊行も含め、メディア利用に著しい積極性を見せている。大手全国紙や電車の中吊りなどへの広告も頻繁である。「布教誌」として、八七年創刊の『幸福の科学』や『ヤングーブッダ』など四種の月刊小冊子がある。オピニオン・情報誌としては、九五年創刊の月刊『ザーリバティ』と『アー・ユー・ハッピー?・』(女性向け)がある。ラジオーインターネットの利用も顕著だが、特筆すべきは映画製作である。九四年の「ノストラダムス戦慄の啓示」に始まり、「太陽の法」・「黄金の法」・「永遠の法」など、三年毎に五本を東映系で製作・劇場公開している。◯九年一〇月には、「仏陀再誕」を封切予定であり、大川総裁の長男で大学二年の大川宏洋が初めて企画・脚本を担当している。
 宗教社会学における新宗教研究において、幸福の科学は、阿含宗・真光・GLA総合本部、オウム真理教・ワールドメイト・法の華三法行などとともに「新新宗教」とグルーピンクされることが多い。その定義と適用範囲には議論もあるが、七〇年代以降に急速に伸張し(社会的注目を集め)、霊術・霊界などの神秘的側面を特に強調する新宗教、だと言えよう。先行する新宗教のなかでは、生長の家とGLAからの影響を看取できる。前者からは、万教帰一思想・人類光明化思想・「神の子」的人間観などを、後者からは霊界観・転生観・霊言思想などを継承し展開させたと言えよう。以上が、宰福の科学の概要である。

幸福の科学の軌跡

@草創期(一九八五ー九○)

 立教間もない萌芽的組織の段階にあった幸福の科学の中心的活動は、出版と講演であった。この時期の出版物のなかで注目すべきなのが、様々な「高級霊」からの雪言・霊示・霊訓集である。今風に言えば、「スピリチュアルーメッセージ」となろうか。目蓮に始まり、キリスト、天照大神、坂本龍馬、孔子、生長の家の谷口雅春(四点)、内村鑑三、ノストラダムスなど、軽く五〇点を超える。特に、GLAの高橋信次霊の言とするものは、二〇点近くあり(角川文庫にも所収)、大きな位置を占めていた。
 初期の大川総裁(主宰)は、未だ何者であるかを意味づけられておらず、むしろこうしたメッセージを取り次ぐチャネラー/霊媒的な役割を有していた。宗教者・歴史的偉人らの「霊言」という形でこれほどまでに広範にメッセージを発信したこと、それが初期・幸福の科学の他に類を見ない特徴である。その内容は多岐にわたるが、大まかにいって、霊的世界の実在とその仕組みを説くもの、自助努力による現世での成功・繁栄・発展を謳い、そのノウハウを説くもの、現代日本の繁栄を称揚し、日本人の使命感を鼓舞するもの、が目立つ。
 さて、幸福の科学の根本的な世界観は、八七年に刊行され、数度の改訂を経て今日「基本三部作」とされる『太陽の法』(世界観・教理体系)・『黄金の法』(歴史観)・『永遠の法』(霊界・空間論)に集約されている。基本的な内容は前節の通りだが、ここでは、そこに見られる国家観(現代日本に対する意識)を焦点化してみよう。

 「世界が闇に沈んだときに、日本が、太陽となって輝くのです。この時代、この日本の国に生まれているみなさんは、そういう意味において、選ばれた方がたなのです。・・・光の天使が、たくさん日本に生まれているのです」(『太陽の法』傍点筆者、以下同)。
 「西暦二◯二〇年頃から二〇三七年頃にかけて、日木は現代のイェルサレムとなり、世界のメッカとなるはずです。この時期が、日本の黄金時代となるでしょう。日本は神理発祥の地として、世界の賞賛を一手にします…」(『黄金の法』)。

 日本がこれから広がる神理(真理)の発祥地として選ばれた地であるという意識・選民意識が、読み取れる。「光の天使」が転生し、現代の日本にたくさん生まれてきているではないか、というのが根拠である。宗教的世界観に裏打ちされた国家観であり、これを幸福の科学の国家観の「原型」と把捉できる。前述の霊言集にも、こうした国家観は散見される。

 「今回の正法神理の伝道ということに関しては、この日本の地が、第一番の柱として選ばれました。・:国際政治、経済でも、日本はまさしく世界のよきリーダーとなります。…他方、宗教の方も、日本を核とした新たな明晰かつ合理的な教えが…広がってゆきます」(『神霊界入門』、八七年)。

 ここでは、科学や政治、経済における発展性・優位性も併せて説かれている。眼前に発展・繁栄している「今の日本」が、教えの宣布とその使命感の裏打ちとなっているのだ。これは、肯定的な「日本人論」や、「ネオーナショナリズム」(先進国の経済的優位性や国際貢献意識を軸とするナショナルな認識)に近いものであり、それに宗教的説明が連結されている。なお、この段階では、具体的な国家・政策のヴィジョンはほとんど説かれていない。ポスト高度成長期において、未だバブル経済が登り坂にあり国際社会での地位も高まっていった時代状況を背景に、こうした宗教運動が発生し、その世界観が醸成されていったこと。そうして発信されたメッセージが、霊的世界を探求する/自助努力による成功を求める/日本の繁栄の称揚を受容する人びとを引き寄せたこと、を確認しておこう。
 こうして幸福の科学は、書籍刊行数に比例するように、その教勢と知名度を伸張させていった。なお、当時は刊行書籍を一〇冊以上読み「論文」を寄せないと会員にはなれず、また教学試験として「全国統一神理学検定試験」(現・全国仏法真理学検定試験)を実施するなど、「予備校型宗教」などとも評された。八九年末、総合本部を都心の紀尾井町ビルに移転(賃借)。九〇年には、「伝道」活動を本格化させていった。

A社会的注目期(一九九一−九五)

 「時代はいま、幸福の科学」−−−。九一年は、確かにそうだったのかもしれない。三月、宗教法人格を取得。東大五月祭では安田講堂前にて講演。全国紙への全面広告や、『女性セブン』での連載。「サンデープロジェクト」出演や、「朝まで生テレビ」でのオウム真理教との対決……。七月一五日には、大川総裁の初の「御生誕祭」が東京ドームに五万人を集めて催され、「エルーカンターレ宣言」がなされた。これは、単なるイベントとしてではなく、「教祖」が何者であるか明確に意味づけられた点、そしてそうした「偉大なる存在」が「今の日本」に存在していることが明らかにされた点で重要である。
 この時期の国家観―Iナショナリズムを見る上で、九一年刊の『アラーの大警告』・『ノストラダムス戦慄の啓示』の二書は、外すことができない。前者は、湾岸危機を背景とした、高橋信次=エルーランティ‐アラーの霊言とされる。

 「経済力が世界を変えていくだろうし、その上に上位概念としての、こうした宗教というものができたときに、国際宗教となって、世界の人々を救っていく・・・」。
 「日本の経済力を、国力をバックとして、新たな思想を世界に輸出しなければならない。」

 このように、目本の経済的優位性を最大限に強調している。国際情勢(アメリカの「弱体化」、中東情勢、朝鮮半島、中国など)への敏感な反応が見られ、日本における政治的・経済的・軍事的・宗教的リーダーシップの確立を強く訴えている。一方、後者はノストラダムスの霊言である。

 「リヴァイアサン(日本)の国民だちよ、あなたがたには大きな栄光が来るであろう。しかし、…海の怪獣は嫌われている。力が強すぎるがために、エゴイスティックであるがゆえに、また、他の者の利益を考えないがために。…あなたがたが許され、世界にかろうじて受け入れられる唯一の保証は、…今、育っている救世の光を、これを世界に伝えること・・・。」

 このように、日本の繁栄が「予言」されるとともに教えの宣布という使命が鼓舞される。同時に、日本の「軍国主義化」・米ソの失墜・朝鮮半島と中国の「植民地化」・世紀末の終末的状況などが「予言」されている。もちろん、これを教団の運動方針や政治的志向とそのまま同一視するのには留保が必要だ。だが、冷戦体制の崩壊・湾岸危機・昭和の終焉・バブル経済絶頂期という時代状況、そこにおける目本の先進国意識や国際貢献(進出)機運を濃密に反映したナショナリズムの先鋭化であることを指摘できる。
 さらに、この二冊には、そしてこれ以降の幸福の科学の運動には、新たな方向性を看取できる。それは、国内状況に対する強い問題意識である。教団が伸張し社会的注目を浴びるのに比例し、様々な社会的軋蝶が惹起し、国内諸問題への視点が醸成されてきたのだ。
 その一つは、マスコミ批判である。九一年九月には、批判的記事に対し、作家の景山民夫や女優の小川知子が会員の先頭に立ち大規模抗議行動を行った「講談社フライデー事件」が起こる。これを契機に、マスコミを「第四権力」とし、その在り方を問い直す運動を継続的に展開した。
 もう一つは、「邪教」批判である。すでに九一年に議論を交わしたオウム真理教に対しては、九五年二月の目黒公証人役場事務長拉致事件の目撃者が教団職員だったこともあり、その危険性を訴える活動を展開した。また、国内最大の教団である創価学会に対しても、九五年に『創価学会亡国論』など五冊余りの批判書籍を刊行している(他に宗教学批判も行った)。
 こうした具体的な国内・社会「問題」が可視化され、必ずしも宗教が尊重されない風潮を眼前にし、教団はおそらく日本の繁栄・現状をとても手放しには認められなくなったのだろう。同時に、バブル経済の崩壊により、前提としていた日本の経済的優位性に全面的には立脚できなくなったことも重要だ。「太陽」「聖なる地」であるはずの繁栄した日本は、「理想国家」に鋳直されるべき多くの課題を抱えた対象となっていった。メッセージも、当初の日本人一般に向けたような「日本が何をすべきか」から、「幸福の科学が、日本を(世界を)どうしていくべきか」という方向に重点がシフトしていったのだ(『理想国家日本の条件』・『幸福の科学興国論』、九四年ほか)。
 なお、九四年には、初期の霊言類は「霊界の証明」のためであり、「方便」であったと整理・封印され、仏教的語彙と世界観に基いた経典などの改編が行われた。
 こうした展開・転回のなかで、自民党の三塚博(故人)に対する支援活動が出てくる。「オウム事件を解決に導いた」と彼を高く評価した教団は、九五年七月、東京ドームで、

 「私は、幸福の科学正会員であり、かつて釈迦族の一員でもあった、三塚博氏を、次の総理大臣に推薦いたします。…世紀末、救国のために、幸福の科学政権を打ち樹てましょう」(『新生日本の指針』、九五年)

 と、大々的な支援を公言するに至る。背景にあるのは、オウム事件の余波に加えて、日米自動車交渉・北朝鮮問題といった「外患到来の危険」とされる。なお、三塚の過去世は、「霊査」によると加藤清正と釈尊の叔父アムリットダナーとされ、霊的側面からその能力が裏打ちされている(『ザーリバティ』九五年八月号)。同年八月には、『三塚博総理大臣待望論』出版記念フェスティバルが日比谷公園で開かれ、一〇万人超が集まったとされる。幸福の科学は、このまま政治路線を突っ走るかに見えた。

B基盤整備期(一九九六−ニOO八)

 しかし、こうした動きは長くは続かなかった。九六年以降もたびたび三塚の「活躍」を『ザーリバティ』誌が取り上げ応援しているが、目立った動きはない。ちなみに同時期には、亀井静香も過去世は魏の張遼と前田玄以だとされ、高評価だった。加藤紘一も過去世が新井白石とされ、激励調であった。だが結局のところ、三塚は総理大臣にはなれず、九八年には派閥を森喜朗に譲る。こうした流れに、教団は相当失望したようである。

 「”三塚切り”をして延命を図る橋本政権にあいそをつかして、幸福の科学は自民党支持から自由投票に切り換えた。これが今夏(九八年)の参院選で自民党が数百万票を失ってまさかの大敗北を喫した本当の理由である」(『ザーリバティ』九九年一月号)

と、はっきり述べている。この間、政界再編も進み、新進党は九七年末に解党、九八年には公明党が再結党。九九年には、自民・自由・公明の連立政権となる。幸福の科学の政治路線は、頓挫してしまったといえよう。
 時期を同じくして、教団には様々な変化が見られる。まず、メッセージの発信に関して、書籍刊行数が著しく減る。九四・九五年は二一点・三二点だったのが、九六−○五年の一〇年で年平均五・六点となっている。また、その内容にも変化が見られる。九九年の『繁栄の法』以降、ほぼ年一冊のペースで「法シリーズ」(『○○の法』)が刊行されるようになる。
 これらは、概ね同年・前年の大川総裁の「法話」四、五本を収録したものであり、同時期の傾向を反映している。日本の使命や具体的な国内問題の解決を説いたものは(九・一一やイラク戦争時などを除き)ほとんどみられなくなり、不況の乗り切り方、心の統御法や成功理論などの比較的日常・個人レベルを焦点化した「自分が変われば、世界が変わる」的内容が目立つようになる『救済の個別実践圭義)。これは、『幸福の科学』と『ザーリバティ』巻頭に毎月掲載される説法においても同様である。
 一方で、積極的な社会的提言を牽引し、社会的な問題に対する特集を組んでおり、丁寧に見ていけば、「憲法第九条大川隆法改正案」(九七年七月号)、「政教分離の改正こそ、日本再生の切り札である」(九七年八月号)といった記事や、北朝鮮問題など、今回の幸福実現党提示の政策に繋がるものも見つかる。臓器移植反対や自殺防止キャンペーンなどへの取り組みも見られるが、それでも総じて二○○○年前後の誌面から政治進出の布石を見出すのは難しい。
 ただし、一つ注意を払うべきは、九〇年代後半から二〇〇〇年代にかけての、「強気の日本経済論」の台頭である。「ブツディストーアナリスト」佐々木英信、聖学院大学の経済学の教授・鈴木真実哉らによる記事で、後にそれぞれ『史上最大の経済大国 日本は買いだ』(○六年』・『格差社会で日本は勝つ』(○七年)としてまとめられている。タイトルの通り、新自山主義経済・自助努力の結果の格差・日本経済の繁栄肯定論である。これは布石として重要である。
 また、宗教教育の重要性や、教師や公立校の問題を訴えてきたなかで、○六年に大川総裁の子息が小学校で「いじめ」を受けた問題もあり、○七年には教育問題関係の特集が組まれ、「いじめ処罰法」原案が提示されるなどした(○七年三月号)。この動きは、宗教的理想に基いた教育を旨とした「幸福の科学学園中学・高校」を、一〇年四月に那須に開設するという形で具現化されようとしている(一三年には千葉・長生村に大学開設が目標)。
 他方で、特筆すべきは、施設整備である。正心館などの大型施設や支部精舎など、現在の専用施設の大部分がこの十数年で設立されている。特に、○二年以降は支部精舎の設立が本格化し、現在の一八三力所中の九五%以上がこの間に完成している。○七年は四二、〇八年には五五力所が設立されており、毎月必ず数力所で支部精舎が新設されているような状況だ。潤沢な財政状況を看取できよう。
 大川総裁曰く、「静かにしていた九五年からの一〇年間は、全てが上手く進んだ発展期」(『文巷春秋』○九年八月号)。こうして、社会から見えにくい十数年は経っていった。

政治進出の背景とその論理

 しかし、今回の政治進出---政治的ナショナリズムの台頭は、突然のことであり、予想できなかった。たとえば、○八年七月に編纂された教団史『法輪、転ずべし。』(内部資料)を見ても、政治進出の気配は微塵も感じられない。九〇年代中盤の社会諸問題への関わりについても、過去の歴史として扱われている(三塚氏支援については全く言及されず)。
 実質的な動きは、ほぼ○九年に入ってからと言ってよいだろう。では、今回の政治進出を下支えしている要因とは何か。幸福の科学側の認識に寄り添いつつ、まとめてみよう。
 まず、時代背景。従来にも見られたように、「内憂外患」・「国難」への敏感な反応である。一つ目は、中国問題である。『ザーリバティ◯八年二月号からシリーズ「中国『一三億人』の未来」が組まれ、中国の将来的な影響力や脅威を重くみている。二つ目は、アメリカである。ブッシュ政権時は東アジア情勢を鑑みて、イラク戦争も支持していたが、オバマ大統領の登場にともない、「オバマ守護霊インタビュー」を載せ(後述)、対米(対中)危機意識を煽っている。そして、それとも関連した北朝鮮問題。
 ○九年四月のミサイル問題でさらに昂じ、「日本は独自の国家戦略を」と題した特集が組まれた。北朝鮮と中国が組んでおり、もはやアメリカは日本を護ってくれない、という認識だ。こうした対外危機意識の昂揚と、そうした情勢への麻生政権の(無)対応が、政治進出を強く後押ししている。加えて、前述の「日本経済は、再び黄金期・繁栄を迎えている」という認識。「こんなに繁栄していて、世界のリーダーとなるべきなのに、情けない」というロジックは、九〇年代初頭と通じるものがある。
 次に、組織的背景。見逃せないのは、近年の選挙支援の「成功」だ。○七年の第二一回参院選の東京都選挙区で、自民党の丸川珠代が六九万一三六七票で当選。支援依頼に対し、安倍政権を評価した教団が受諾したとされる。また、○九年三月の千葉県知事選に無所属として出た森田健作は、一〇一万五九七八票で当選。教団は、森田を支援する姿勢を示し、『ザーリバティ』○八年九月号にインタビューを大きく掲載した。また、集会動員や教団での講演など、投票に結びつく支援を行ったとされる。得票のいかほどがこの支援によるかは不明だが、この選挙支援の「成功」、潤沢な財政と施設拡充、教育問題に端を発した学園創設の現実化といった「手ごたえ」は、大きな促進要因だといえよう。
 最後に宗教的背景。今回の政治進出は、教えの重要な柱である「仏国土・地上ユートピアの建設」(宗教的理想・価値観に基く社会・国家)を、自らの手により具体的政策をともなって具現化しよう、というものだ(『幸福実現党宣言』、○九年)。ところで筆者はすでに幸福の科学の国家観について、文化的独自性・伝統性には依拠せず、主に経済的優位性という時代的・変動的なものと、高級緒霊の転生という論理に依拠していると拙稿で述べている(「新新宗教における文化的ナショナリズムの諸相」『宗教と社会』一五号、○九年)。
 これに関連して重要な論点となっているのが、天皇(制)の問題である。大川総裁が発表した「新・日本国憲法 試案」の第一四条には「天皇制その他の文化的伝統は尊重する。……」(『新・日本国憲法試案』、○九年)とあり、保守・右派陣営の間で物議を醸しているのだ。これまでの教団資料を網羅的に見てきたが、天皇(制)・皇室に関する言及は、『ザーリバティ』○○年三月号の「昭和天皇霊界からの伝言」などを除き、ほぼ見当たらなかった。昭和天皇は高天原・天国に還っていること、先の敗戦は日本神道系の神々にも責任があること、日本神道の神々は九次元霊界の孔子の流れに包摂されること、などが断片的に説かれてきた(ただし、七月末に『明治天皇・昭和天皇の貫言』が刊行。前述の憲法草案と戦争責任を認め、「右翼」を牽制する両天皇の「霊言」が伝えられている)。こうした天皇(制)への眼差しに象徴されるように、幸福の科学的な転生思想は、「万世一系」的な伝統・系譜観念(国柄・国民性など)とは相性が良くない。目本の優位性・使命感を説く言説が一見保守・右派的に見えても、その拠って立つロジックは霊的世界観と経済的優位性に裏打ちされたものであり、たとえば神社界やかつての生長の家などの教団とも著しく異なっていることを指摘しておきたい。
 さらにもう一つ見逃せないのが、「霊言の復活」である。前述の通り、九四年に「方便の時代は終わった」として初期の霊言集は「封印」された。もっとも、その後も折に触れて、善川三朗・景山民夫・前述の昭和天皇・松下幸之助・仏教学者の中村元らの霊言や、箱島信一朝日新闘社長の守護霊インタビューなどが発表されていた。だが、今回の政治進出においては、霊言や守護霊インタビューが、諸政策や意思決定の裏打ちとなっている点に注意が必要だ。たとえば、○八年二月の説法では、坂本龍馬霊との対話が憂国の状況を裏付けている。オバマ守護霊インタビューに依拠して、アメリカが「日本を捨て中国を選ぶ」ので自主防衛に備えよとしている(『オバマ守護霊インタビュー』、○九年)。金正日の守護霊との対話により、「韓国併合」「日本侵略」が本心で、北朝鮮はミサイルを皇居に撃つつもりだとする(『政治に勇気を』『金正日守護霊の霊言、○九年』。他にも、イエス、モーセ、諸葛亮孔明など、支援霊・天上界が全員一致で応援している、とされる。
 この動向はまだまだ続くだろう。これは、まるでかつての「方便の時代」の再来であるかのようだ。この点について、大川総裁は「信じる信じないは、人それぞれでしょう」とあっさりしている(前掲『文聾春秋』)。いずれにせよ、きわめて先鋭的な世界/国内情勢分析、経営的国家観と、霊的世界の視角が同居しているのが、注目すべき特徴なのである。

そしてへ選挙ヘ --- 今後のゆくえ

 七月一二日、東京都議選 --- 。幸福実現党は、区部を中心に一〇人が出馬(男女半々、平均年齢四一・九歳。三〇代前半が五人)。結果は、全員落選。全選挙区で最下位だった。総得票数は一万三四〇一票。平均一三四〇票×全四一ブロック(島部除く)=五万四九四〇票、が現時点の都下での集票力という計算になる。同党の選挙への潜在的影響力を考えてみても、足立と杉並のみ、もし同党への票が全て自民党落選候補に入っていれば当選させていたものの、他では結果を左右することもなかった、というのが冷静な分析であろう。
 次期衆院選に向けては、小選挙区に三〇〇人、一一比例区に四五人が立候補予定である。少し名簿(七月二五日付、第四九版)を分析してみよう。候補者の平均年齢は、四五・八五歳(最年少は二六歳)。男性二六七名(七七・四%)、女性七八名(二二・六%)である。学歴(非公表一名を除く)は、厳密な分類ではないが、旧帝大級国立大が四三名(一二・五%)、地方国立大級が五六名(一六・二%)、早慶上智等の上位私大が七〇名(二〇・三%)、他私大が九一名(二六・四%)、短大・専門学校等が五三名(一五・四%)、高卒が三一名(九%)である。二五七名(七四・五%)は教団職にあるか、あるいは経験者であり、その多くは各地元の支部長や教団施設の職員である。
 当初は、選挙戦の一つの目玉として、自民党の小池百合子が出馬する東京一〇区に、大川総裁の妻・大川きょう子党首をぶつけるとされていたが、東京比例区に変更となるなど動きが慌しい。そして、七月二二日になって、「幸福の科学が本気で勝負に出るという決意表明」として、大川総裁白身が東京比例区一位で立候補することが表明された。すでに走り始めた、幸福の科学ー幸福実現党。どのような結果が出るのか ---。
 最後に。かつてオウム真理教は、「真理党」を結成し、九〇年二月の第三九回衆院選に麻原彰晃ら二五人が出馬、惨敗した。麻原は、国家による陰謀だと主張、以後教団は急速に内閉化・武装化を進めたとされる。だが、日本社会は、教団のこうした変化を当時充分に把捉することができなかった。
 幸福の科学の今回の政治進出。社会は、創価学会−公明党と、オウム真理教ー真理党を参照軸に見ている。二三年を経た幸福の科学は、今、真価が問われるだろう。全国で十数万〜数十万の得票は予想できようが、同時に厳しい結果も推察される。眼前の結果に、「国師」・大川総裁はどのような説明をするのだろうか。 一方、我々は幸福の科学ー幸福実現党が現代日本社会に突き付けたラディカルな批判に対し「自省」しつつも、選挙結果とその後を「注視」し続けていくこと。その必要性を訴えて、稿を閉じたいと思う。

(文中敬称略。データは七月二八日時点。資料閲位の便宜を頂いた教団には謝意を表したい。)


雑誌「世界」 九月号より

 

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