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鳩山民主が直面する雇用、農業、外交問題 (大前研一)
http://www.asyura2.com/09/senkyo70/msg/893.html
投稿者 Orion星人 日時 2009 年 9 月 09 日 13:57:32: ccPhv3kJVUPSc
 

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090908/179697/?P=1

2009年9月8日

 このたびの衆議院選挙で政権を取った民主党には、解決すべき課題が山積している。「政権交代」と言ってもゴールにたどり着いたわけではなく、ようやくスタートラインに立ったところだ。今回は、民主党がすぐに直面する雇用、農業、外交の三つの重要課題について考えてみよう。
過去最悪の失業率は、民主党へのとんでもない「置き土産」
 まず大きな課題として、高い失業率がある。総務省が8月28日に発表した今年(2009年)7月の完全失業率は5.7%と前月に比べ0.3ポイント悪化し、過去最悪を更新した。以下のグラフを見ていただきたい。失業率は2003年4月をピークに低下する傾向にあったが、2007年を境に一転して上昇し、特に今年に入ってからは急激に高い伸びを見せている。

 この5.7%という失業率を過去に超えていたのは、戦後の混乱期だけだ。それ以降は2003年4月の5.5%が最高だった。一方、有効求人倍率もこの7月に過去最低を記録した。厚生労働省の発表によると、7月は0.42倍と前月に比べ0.01ポイント低下し、3カ月連続で過去最低を更新した。
 「過去最悪の失業率、過去最低の有効求人倍率」と聞いても驚く人は意外と少ないのではないかと思う。世の中の状況を見ていれば、ある程度予想がつくからだ。ただ注目すべきは、前述したように、今年になってから失業率が急激に上昇した点だ。かつてこれほど激しく悪化したことはほとんどなかった。
 自民党は選挙活動の際に胸を張って、「経済のパイを大きくできるのは自民党だけだ」と言って民主党を批判した。だが、失業率が上昇した時期に政権を担っていたのは、紛れもなく自民党自身だ。自民党に経済のパイを大きくする能力があるか否かは、もはや言うまでもないことである。まったくもって自民党はとんでもない「置き土産」を民主党に残したものである。

【「本当」の失業率は14%に達しているという試算も】

 過去最悪の失業率という状況であっても、日本企業の心理から言えば「まだ人員は余っている」というところだろう。従って、失業率は今後さらに悪化する可能性がある、とわたしは見ている。
 皆さんもご存知のように、失業率とは「働く意欲があって仕事を探しているのに仕事がない人」を失業者として計算している。だから、職がなくても求職活動をしていない人、就職を諦めてしまった人は、失業率の計算の分母には含まれない。
 では、そうした失業者まで含めた「本当」の失業率はどれくらいになるのか。ある試算によると、実に14%に達するそうである。驚くべき数字である。25歳以下に限れば、これまた紛れもなく二桁、という統計数値が出てくる。
 それにもかかわらず、その実態が表に出てこないのは、日本が米国に比べて「ソフトな社会」であるためだ。失業しても「実家に戻って親のすねをかじる」「他の家族の稼ぎでやりくりする」というように、日本では家族の助け合いで対処することが多い。だから、これまでは大きな社会問題に発展することが少なかったが、これだけ高い失業率になると、もはや家族の助け合いで対処できる限界に達していると見ていいだろう。
 高い失業率は、社会的コストの増加につながる。民主党に課せられた重い問題であるわけだが、さてその民主党はいかなる対応をするのか。雇用確保をお得意のばらまきでやられると、税金をいくら投入しても足りないことになる。日本にとって高失業率時代という未体験ゾーンに突入していくわけで、この解決策を見つけるのは容易ではあるまい。かなり深刻な問題である。
 産業界は硬直した日本の労働慣行を嫌って次々に事業を海外に移している。人件費が高いうえに自民党政権下で派遣やパートの従業員に関する法律が強化され、需要変動などに柔軟に対処しにくくなったことが原因であるが、新政権ではこれをさらに強化し、パートの最低時間給を1000円にしよう、というマニフェストも出されている。雇用を取るのか、労働条件を取るのか、という究極の選択を新政権は早速問われることになろう。


【国民の胃袋から発想する新しい農業政策を打ち出せ】

 以前の当連載でも取り上げたが、日米の自由貿易協定(FTA)を巡って、民主党の小沢代表代行(幹事長に就任予定)はFTA締結に断固反対した農協を「相手にする必要はない」と批判し、それに対して全国農業協同組合中央会(JA全中)が選挙戦の真っ只中、8月26日に抗議声明を出している。
 ところが、民主党圧勝という選挙結果を見ると、小沢代表代行への批判は結果的には何の影響もなかったようだ。JAグループがあれだけ反対を表明しても民主党の勢いを止めることはできなかったわけである。農家は、「FTAを実現しても、農家には所得補償する」と表明していた民主党を支持、または許容したのだろう。選挙期間中のJAグループの脅しに屈しなかった小沢代表代行が勝ったのである。農家票を気にしていつの間にか日本の農業をダメにした自民党と異なる戦略が民主党に果たしてあるのか、がいよいよ試されることになる。
 わたしは、小沢代表代行の「相手にする必要はない」という言葉の重みに注目したい。おそらく彼は、集票マシーンとしての全中・農協の基本骨格を解体に追い込むことも視野に入れているのではないかと思われる。自民党が攻勢に転ずる橋頭堡の一つを破壊しておこうという発想である。しかしそれだけでは、生活者の視点で考える、という民主党の戦略には馴染まない。
 民主党が打ち出すべき新しい農業政策の中核は国民の胃袋から発想するものであるべきだ。そのためには二つの視点が大切になる。一つは農業を真面目にやっている、いわゆる専業農家をトコトン支援することである。兼業農家の利権・特典は彼らが死ぬまで、すなわち一代限りとすることである。その場合に限って、民主党の公約にある最低所得補償のような政策も許容されるだろう。もう一つの視点は、世界の最適地で日本が農地を確保し直接農場経営をやることによって、廉価で安全な食糧の確保を達成することである。食糧は輸入するのではなく、日本の農場をグローバル展開する、という発想である。
 これまで自民党の農業支援には矛盾があった。政府が優遇していたのは、まじめに農業をやっている人たちではなかった。農業に真剣に取り組んでいる専業農家が冷遇され、逆に優遇されていたのは票田としては圧倒的に大きな兼業農家であって、本末転倒した現象が起こっていたのである。


【JAや農水省を含めた利権構造を壊し、新しいビジョンを示せ】

 兼業農家の農業による収入は2割程度で、残りはサラリーマンや自営業など別の仕事で稼いでいる。農家というよりは農家もどきと言ったほうが正しい。自民党は農家もどきの人たちに優しい政治をして、相続税や固定資産税などで優遇してきた。自動車や旅行などの費用も青色申告者と同じように経費として落とせるようにしてきている。したがって、農業としては成り立たなくなっても、廃業する必要がなかったので票田としては1000万票に近いものがここに残ってしまった。農業基盤事業整備などの公共工事をやって農地を拡げる一方で、減反政策を進めるという「税金の無駄遣い」が自民党政治の基本であった。一方の専業農家は、減反政策の煽りをまともに受けるなど大変な苦労をして、それでも収入は減少してきている。農林水産省と農協およびその上部団体は日本の農業を有名無実なものにし、結局、農業生産性は改善しない、食糧自給率は落ちる、などの信じられない無責任な政策をひたすら追い求めてきたのである。
 政府が「農業を守る」というのなら、援助をすべきなのは専業農家か、それとも農家もどきか。改めて問うこともあるまい。優遇を受けているだけの利権屋を小沢代表代行が潰すなら、その背景を理解した国民・生活者は民主党政権の方向を支持するだろう。食糧安保論者などがネガティブキャンペーンを展開しても動じる必要はない。すべての統計データを用いて、日本の農業が世界でも稀なカネをかける一方で劇的な衰退をしてきている姿を国民に示すだけで十分である。
 高齢化した農家のほとんどは後継者がいないし、そのように魅力のない産業をジャブジャブの資金援助で守ってきた膿を一気に出してしまうべきだと考える。JA全中や全国農業協同組合連合会(JA全農)、そして巨大な資金を貯め込んでいるが(サブプライムショックで巨大な損失を出した)経営は素人以下の農林中金、といった組織を含めて農業の全体像を作り替えなければ、日本の農業は正常化しない。いっそのこと橋本行革を無傷で生き残った農水省も解体して、「国民胃袋省」あるいは「食糧調達省」、など生活者の視点からの役所に作り直してもらいたい、とわたしは考えている。
 今回の一連の流れにおいて、小沢代表代行が決して謝罪せずに「相手にする必要はない」と突っぱねたのは画期的な出来事であった、とわたしが評価するのはこうした背景があるからだ。もし彼(および民主党)の意図がJAグループを解体するところまで視野に入れていたとすれば、日本の農業の景色は確実に変わる。また、農業団体が集票力を背景に巨大な利権を維持してきたことも、過去のものとなるだろう。そうなれば、自民党がその業界につけ込んでサービス合戦をする意味も永久に葬り去られることになる。
 民主党が農家の生活保障をするのはいいことだが、もっと大切なことは国民生活者の立場で、最も安全で良質な食糧を日本人自らが世界の最適地で栽培し、調達してくることである。日本の農業者が世界のアグリビジネスの経営者になる、という発想が求められている。小沢代表代行の言うアメリカから自由に買い付けてくる、というだけのFTAでは不十分である。新政権にはそうした新しいビジョンを持ち込んでもらいたいものだ。


【米国との距離とアジア共通通貨の問題はしばらく控えたほうがよい】

 外交問題に目を向けてみよう。
 残念ながら民主党の外交戦略は脆弱なようだ。まもなく日本の首相になる鳩山代表は、選挙前に米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)に掲載された論文(もともと月刊誌『VOICE』に載った論文の一部分)が話題になっている。その論文で「米国中心の世界体制がいろいろな問題を起こした」と指摘し、「米国の従属からの脱却」「アジアの共通通貨をつくる」などの提言を書いて、脱亜入欧ならぬ「脱米入亜」の姿勢を示した。
 鳩山氏の主張そのものはよい。それは、わたしが拙著『最強国家ニッポンの設計図』(小学館)で主張した「日本は米国との距離を置け」とも符号する。問題は、その主張が十分な配慮と吟味をすることもなくニューヨーク・タイムズに掲載されてしまったことだ。わたしは『最強国家ニッポンの設計図』の中で、「米国との距離を置く考えを米国に直接伝えてはいけない」と注意を添えている。要するに、米国への従属から脱却するのであれば、“倦怠期の夫婦のように”そっとベッドを分けていけばいいのだ。わざわざ三行半を突きつけて、相手と無理矢理別れるのは危険極まりない、とその中で指摘している。
 過去に米国依存からの脱却を図ろうとして見抜かれた人は、全員バッシングに遭っている。田中角栄元首相しかり、米国から例のロッキード事件を挙げられ失脚。宮沢元首相もしかり、宮沢プランでアジア通貨のコンセプトを出したが、米国から猛反対され、握りつぶされた。ことほど左様に日本の絶対服従を大前提にしてきた米国は、別れ話には特別に敏感で、実はイザとなれば手段を選ばない怖い国なのである。
 その怖さを、これから首相になる鳩山氏が知らないと日本はもろとも災難に巻き込まれる。とくに鳩山氏の祖父である鳩山一郎元首相は1956年にアメリカの強い反対を押し切って日ソ国交回復のための友好条約に署名している。この亡霊が出てくるようだと、ことはかなり複雑になる。アメリカの知日派と言われている人たちは、同時にロビイスト的な役割を果たすこともあるし、今回のような場合には米政権に相当な入れ知恵をする可能性もあるからだ。
 わたしは鳩山氏に「前任者の麻生首相を見習え」と言いたい。麻生首相も外務大臣のときに「自由と繁栄の弧」という論文を出して、トルコやカザフスタンのあたりから日本に至るまでの拡大大東亜共栄圏のような提言をしている。これはアメリカも中国もいたく刺激し、かなり危険な思想と思われていた。しかし、首相になったら、そういうことは一言も口に出さなかった。それが危険だと何らかのキッカケでわかったからだろう。
 鳩山氏も首相指名を受けたら、アジア共通通貨やアメリカとの距離の問題に関しては“自説”を展開するのはしばらく控えた方がいい。彼には日本の外交について従来の位置を大きく変えることができるほどの外交経験がない。経験と場数を積み重ねながら次第に見えてくる日本の立場をじっくり勝ち取っていけばよい。
 残念ながら、今回の鳩山代表の論文は米国でかなり話題になってしまった。ほとんどが否定的、かつ感情的なトーンである。これは民主党にとって、いや日本にとってもかなりシリアスな足枷(かせ)になるかもしれない。
 

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