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投稿者 ヤマボウシ 日時 2009 年 3 月 31 日 03:02:13: WlgZY.vL1Urv.
 

法と常識の狭間で考えよう by ビートニクス

2009.03.30

連発される死刑判決と揺れ動いている死刑基準について考える

 一昨年の2007年に全国の裁判所で言い渡された死刑判決は46件という多数でピークを迎えたが、昨年の2008年に言い渡された死刑判決は27件で、一昨年より19件少なく、死刑判決の増加傾向が止まったと考えられていた。

 ところが、今年に入って、全国の裁判所で言い渡される死刑判決がハイペースで続いている。2009年3月の第3週には3日続けて死刑判決が言い渡された(香川県坂出市の3人殺害事件、兵庫県姫路市の2人殺害事件、愛知県名古屋市の1人を殺害した「闇サイト」事件)

 その後も、架空請求詐欺グループ内の仲間割れから4人を監禁・暴行死させた事件について、第1審の東京地裁の無期懲役判決を破棄して東京高裁(長岡哲次裁判長)が死刑判決を言い渡したり(2009年3月19日)、埼玉・本庄の夫婦殺害事件について第1審のさいたま地裁の無期懲役判決を破棄して東京高裁(若原正樹裁判長)が死刑判決を言い渡す(2009年3月25日)など、死刑判決が続いている。

 特に、衝撃的であったのは、前述した名古屋市の「闇サイト」事件についての名古屋地裁の判決であった。名古屋地裁(近藤宏子裁判長)は、「被害者の哀願に耳を貸さず殺害した犯行は無慈悲で悲惨で、戦慄を禁じ得ない」などと述べて、3人の被告人のうち、2人の被告人に対して死刑を言い渡し、残り1人の被告人については、犯行直後に自首しているという理由で、死刑を減刑して無期懲役にした。

 この事件は、被害者遺族がhttp://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/">インターネットを使って極刑陳情書への署名を集め、30万人以上が署名し、被害者遺族が死刑を求める激しい心情を法廷で述べ、被害者参加制度は適用されなかったが、その効果において多大の影響を裁判所に与えたと考えられ、それが被害者が1人でも2人の被告人に対する死刑判決に傾いた大きな要因であろうと考えられる。

 他方、秋田県藤里町の連続児童殺害事件について、2009年3月25日、仙台高裁秋田支部(竹花俊徳裁判長)は、検察、弁護双方の控訴を棄却して、第一審の秋田地裁の無期懲役判決を支持した。事実認定については大筋において検察官の主張を認めたが、いわゆる死刑基準を最高裁が示した永山基準に従って、死刑を適用しなかった。

 このように、被害者が1人であっても死刑判決を選択する判決が出させるとともに、他方では、被害者が2人以上でも、永山基準を尊重して死刑を選択せず、無期懲役にとどめる判決も出ているのである。

 1968年10月から11月にかけて、永山則夫氏による連続射殺事件が発生し、当時、永山氏が少年であったことから死刑か無期懲役かが激しく争われた。この事件の最高裁判決(1983年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁)は、「死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大あつて、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許されるものといわなければならない。」と述べ、これが後に、死刑か否かを判断する永山基準と呼ばれ、長らくの間、下級裁判所はこの基準に則って判断し、どちらかというと死刑判決に対しては抑制的であった。

 ところが、厳罰化の傾向の中で、被害者が1人でも死刑判決が言い渡されるようになった(奈良の女児殺害事件、長崎市長射殺事件、愛知女性拉致殺害事件など)

 

名古屋の「闇サイト」事件についての死刑判決は、この傾向の中にあるとともに、共犯者3人中2人に対して死刑判決を言い渡したという点で特異性がある。ちなみに、日弁連によると、最高裁で被害者1人の事件で死刑が確定したのは過去に25件あり、同一事件で2人の被告人の死刑が確定したのは1件しかないという。

 今年に入って死刑判決が続出しているのは、2009年5月21日から始まる裁判員裁判のことを強く意識していると考えられる。

 

裁判員裁判は、最初から、死刑や無期懲役が法定刑にある事件を対象として開始され、裁判員は事実認定だけでなく量刑についても、裁判官と対等な立場で評議を行うことになっている。

 そのため、裁判員裁判の実施を前に懸念されているのは、死刑か無期かという職業裁判官においてすら困難な判断を、法律の素人であり、かつ、初めて刑事裁判にかかわる市民に判断させようとしていることである。

 これまで、裁判所において当然のように利用されてきた永山基準は、様々な要因を総合的に考慮して判断することになっていることから、市民である裁判員には分かりづらいし、これを適用して判断することは極めて困難であると指摘されてきた。

 そのため、どのような場合に死刑判決を言い渡し、どのような場合に無期懲役を言い渡すべきかの基準が強く求められている。

 最高裁(第三小法廷)は、いわゆる光市母子殺害事件における第一次上告審判決(2006年6月20日)において、「被告人の罪責は誠に重大であって、特に酌量すべき事情がない限り、死刑の選択をするほかないものといわざるを得ない。」と述べて、永山基準とは明らかに異なる立場から、特に斟酌すべき有利な事情がない限り死刑判決を言い渡すべき姿勢を明らかにしたと言える。
 その結果、その後の全国の裁判所における被害者1人の事案における死刑判決を言い渡す傾向にさらに拍車をかけたと考えられるが、最高裁は、裁判員制度の下でも、この基準を使い、特別な事情がない限り死刑判決にすべきことを暗に示していると考えられる。

 また、名古屋地裁による「闇サイト」事件判決が、自首の有無で死刑か無期かを分けたのも、一つの基準を示そうとしたものと考えられる。

 しかし、そのような傾向は、これまで全国の下級裁判所において妥当し運用されてきた永山基準を完全に捨て去り、厳罰化の傾向の中で、裁判員に対して、死刑判決を出すという過酷な要求を突きつけることを意味する。

 そのような重い負担を、裁判員になる国民に負わせるのは酷であり、裁判員はその重圧によって肉体的・精神的に苦痛を受けることを容認することになってしまうが、そのような犠牲は決して生んではならない。

 これは、まさに裁判員制度の本質にかかわる問題である。裁判員制度の施行の直前に当たり、死刑制度を存続した中で裁判員に死刑か無期かを判断させる制度を導入したことの是非について、もう一度、私たちは真剣に考える必要がある。

 

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