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イラク戦争の皮肉な結果と教訓(寺島実郎)
http://www.asyura2.com/09/wara9/msg/171.html
投稿者 ダイナモ 日時 2009 年 5 月 29 日 19:23:55: mY9T/8MdR98ug
 

http://www.nissoken.jp/rijicyou/hatugen/kiji20090601.html

 二〇〇八年一月三日、イラクのマリキ首相は、隣国イランのテヘランを訪れた。首相になってから四回目の訪問であった。イラク戦争後のイラクが、米国の保護領に近い存在であること、さらにはイランがイスラム原理主義の強硬派の大統領の政権下で米国との緊張関係にあることを考えたならば、訪問そのものが奇異な印象を与えるが、この事実こそがブッシュ政権が血道をあげたイラク戦争の結末を象徴するものである。
 マリキ政権の性格を理解している人ならば、マリキ首相のイラン訪問に違和感を覚えないであろう。マリキ自身は特にイランとの関係が強い人物ではないが、それでも米国はイランの影響の濃いシーア派の人物をイラク首相にせざるをえなかったということであり、今回マリキ首相は、昨年一一月に曲折を経てイラクの国会が承認した「イラク駐留米軍の地位協定」の内容をイラン側に説明した。「二〇一一年末までにイラク駐留米軍はイラクから完全撤退する」「イラクの米軍基地を近隣国への攻撃には使用させない」などを内容とするもので、間もなく米軍がイラクから撤退したならば、我々はペルシャ湾の北側に「イランの影響力が限りなく高まった巨大なシーア派イスラムのゾーン」を目撃することになるであろう。

アメリカの深い闇

 ブッシュ政権の八年間は呪われたように「テロと戦争の八年間」となってしまった。政権発足七ヶ月後の二〇〇一年九月一一日、NY、ワシントンという米国の基幹部を襲う同時テロが起こり、衝撃のあまりブッシュ大統領は「これは犯罪ではなく戦争だ」と叫び、戦争というカードを切ってアフガニスタン、イラクへと軍を進めた。にもかかわらず、イラク戦争正当化の論点であった「大量破壊兵器」はみつからず、「九・一一とイラクの関係」も検証されず、「イラク戦争は間違った情報に基づく戦争だった」と大統領自身が認めざるをえなかった。せめて、サダム・フセインの専制体制を崩壊させて「イラクの民主化」を実現したことは意味があったと胸を張りたいのだが、選挙をすれば人口比でシーア派のイラクに向かうことは避けられず、結果として皮肉にも、一九七九年のホメイニ革命での親米パーレビ政権崩壊以来、米国にとって呪われた存在ともいうべきイランの影響力を高めて、ペルシャ湾岸から後退する結末を迎えたのである。
 二〇〇三年四月九日のバグダッド陥落から六年が経過した。〇三年六月号の本連載において、私は次のように書いた。「軍事的には米国の圧倒的な『勝利』に終わったイラク戦争であるが、政治的には米国の『敗北』となる可能性がある。一九七九年のソ連のアフガニスタン侵攻を思い出す。軍事的には瞬く間に制圧し、親ソ政権を樹立したが、『正当性』のない軍事支配がいかなる結末をもたらすのかを思い知らされることとなった。内戦とゲリラに悩まされた挙句、アフガンから撤退したのは一九八九年であり、それがソ連崩壊への導線になった。今回の場合も、統制が常態化した国に、『民主化』を持ち込もうとするほど、事態は液状化し、凝固材として留まれば、アラブ諸国のみならず世界から『米国の野心』を糾弾されるという際限なき消耗に陥る可能性が高いのである。」
 私の予見は不幸にもその通りになった。二〇〇九年三月末時点でのイラクでの米軍兵士の死者は四二五八人となり、アフガニスタンでの死者六六六人と合わせて四九二四人となった。つまり、九・一一からの期間に、五〇〇〇人に迫る若者を米国はアフガンとイラクで死なせたのである。正規軍との戦いでは強みを発揮する米軍も、見えない敵とも言うべきテロリストなどを相手とする「非対称戦争」では弱点を露呈し、惨めな消耗を続けている。結局、「イラクからの撤退」を掲げるオバマという新しい指導者を登場させ、事態の転換を図らざるをえなくなった。死者の数だけではなく、九・一一後の戦費負担も一兆ドルを超え、財政に重くのしかかり始めている。ノーベル賞受賞の経済学者スティグリッツは、「この戦争を収束させるまでに米国は三兆ドルのコスト負担を余儀なくされるであろう」という見方をしている。二〇〇九年度の米国の財政赤字は一・八兆ドル、二〇一〇年度も一・二兆ドル以上の赤字が予想されている。金融安定化や景気対策での財政出動の要素も大きいが、軍事費の重圧も否定できない。二〇〇〇年度に二九四五億ドルだった米国の軍事費は、二〇一〇年度予算では七二八〇億ドルと二・五倍に拡大し、冷戦後の「平和の配当」として軍事予算を削減していた流れを断ち切り、米国の産業構造を再び「産軍複合体」へと回帰させてしまった。アメリカの闇は深く、疲弊感は重い。

「オバマのベトナム」としてのアフガニスタン

 イラク戦争が始まり、世界経済の実質成長率が、二〇〇三年の二・五%から二〇〇四年の三・八%、二〇〇五年の三・四%、二〇〇六年の三・八%と、「人類の歴史始まって以来の高成長の同時化」という拡大基調を加速させていた頃、多くのエコノミストは「悪魔のシナリオかもしれないが、戦争は景気を浮揚させる最も有効な公共投資だ」という議論に引き寄せられていた。事実、「産軍複合体の復権」とでもいう事態を迎え、ペンタゴンシティーに行きかう軍事産業関係者の羽振りの良さが目立っていた。しかし、イラクでの消耗が重なるにつれて、米国は「力の論理」では問題は解決しないことを思い知らされ始めた。そして、産業の実力以上の過剰な軍事力の保有を可能にさせたメカニズムとでもいうべき「ニューヨーク金融市場への資金流入」、すなわち経常収支の赤字を上回る資本収支の黒字という構図を実現していた米国金融資本主義の限界がサブプライム問題によって露呈し、過剰なマネーゲームの虚構性が明らかになるにつれ、世界秩序における米国の求心力、指導力は急速に低下していった。指導者が持つべき最小限度の理念的正当性の喪失である。おそらく今世紀に入って米国が失った最大のものは「理念性」であった。
 オバマの登場によって米国はこの「理念性」を取り戻すことができるであろうか。四月のG20金融サミットと欧州歴訪、北中南米三四ヵ国の首脳が参加した米州首脳会議を通じ、オバマ大統領は、「対話と協調」という姿勢を明らかにし、米国の一極支配ではなく、多極化し無極化しつつある世界への理解を示した。しかし、オバマ政権の道のりは険しい。「イラク撤退」を明示しながらも、軍の最高指揮官として「弱腰」との指弾を回避するためか、オバマはアフガニスタンへの増派と「テロとの戦い」の継続を表明している。しかしアフガニスタンが「オバマのベトナム」となる可能性も否定できない。
 今世紀に入りユーラシアの地政学が変化している。九・一一後、アフガニスタン攻撃を想定して確保した中央アジアの二つの米軍基地は、ウズベキスタンに続きキルギスタンからも撤退要求を受け今秋までには閉鎖となる。背後には中国とロシア、中央アジア諸国の連携機構である「上海協力機構」が、米軍基地の存続を拒否し始めたという事情がある。米国が擁立したともいえるカルザイ政権もロシアへの接近を試み、再びロシアがアフガニスタン問題での主導的立場を求めつつある。また、アフガニスタンの安定にはパキスタンの安定が不可欠であるが、親米のムシャラフ政権を失い、潜在的には根強い反米感情を抱くイスラム国家パキスタンへの影響力を高めることは容易ではない。「何故アフガニスタンは混迷を続けるのか」という認識がなければ、泥沼地獄に引き込まれていくであろう。「テロリスト」が民衆の支持に埋め込まれている限り、大国の介入は決して成功しない。
 イラク・アフガニスタン問題の解決に踏み込むならば、それは「アメリカというメカニズム」の構造転換を迫るものだと気付く。換言すれば、「戦争をしなくとも飯が食える国」になれるのかということである。独立戦争を経て一九世紀のアメリカは「海外紛争には巻き込まれたくない」という所謂モンロー主義にこだわり、三回しか対外戦争をせず戦死者は約四〇〇〇人であった。二〇世紀のアメリカは第一次大戦への参戦以来血まみれの世紀を送り、「戦闘・爆撃した国」は一九、米軍兵士の死者も計四三万人に達した。そして二一世紀初頭の八年で十九世紀の百年を上回る屍を積み上げたのである。米国はこれらの死者を「自由の戦士」と呼ぶ。しかし私には「戦争なしには生きられなくなった国」の犠牲者に思われる。
 

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