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新しい帝国---「反グローバリズム」の貧国 投稿者 小耳 日時 2002 年 10 月 23 日 17:04:31:

池田信夫のドット・コミュニズム(Hot Wired Japan)
第23回 新しい帝国---「反グローバリズム」の貧国
http://www.hotwired.co.jp/bitliteracy/ikeda/021022/


帝国=「グローバルな支配者」という概念
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 米国のブッシュ大統領は、イラクに対する単独先制攻撃も辞さないとする国家安全保障戦略を発表し、議会も大統領に開戦の権限を与える決議を行った。これは米国の世界戦略が、冷戦時代とは異なる新しい段階に入ったことを意味する。単独行動主義は、従来の「西側同盟国」の盟主として世界平和を維持する戦略とは異なり、自国の安全を最優先する一種の孤立主義である。つまり米国は、世界のリーダーとしてではなく、世界のあらゆる国を支配できる唯一の「帝国」となることを決意したのである。

 さらに自国の領土への侵犯がなくても先制攻撃を行うことは、1928年の不戦条約の「自衛以外の目的で戦争を行ってはならない」という原則を踏み越え、トマス・アクイナス以来の「正戦論」に回帰するものである。ローマ帝国では、戦争が正しいかどうかを決めるのは、国際的ルールではなく皇帝だった。戦争は領土の防衛ではなく「ローマの平和」(Pax Romana)を守るために行われるので、帝国に従わない者はすべて攻撃の対象となった。

 こうした米国の姿勢を「帝国主義」と批判する向きもあるが、これは古典的な帝国主義ではない。レーニンが帝国主義と呼んだのは、独占資本と結びついた国家が資源と市場を求めて植民地を拡大し、列強によって世界が再分割されるという概念だが、現在の米国は領土を求めていない。いま起こっているのは帝国主義ではなく、近代の主権国家が<帝国>に統合される過程なのだ、とマイケル・ハートとアントニオ・ネグリの共著『帝国』(邦訳は近刊)は述べる。この本は9・11の前に出版され、その後の状況を驚くほど正確に予言したことで話題になった。

 ここで帝国というのは、現実の国家ではなく「グローバルな支配権」という概念である。近代国家の基礎となってきたのは「何者にも従属しない」という意味での主権だが、グローバルな経済システムや情報ネットワークの中では、各国の政府にそのような絶対性はない。ローマ帝国や清以前の中国でも、世界=帝国なので、領土の概念はなかった。主権や領土という概念は、1648年のウェストファリア条約で欧州が分割されたとき、その当時の政府の正統性を理由づけるために発明されたものである。かつて主権国家が崩壊して地方政府のような存在になる「新しい中世」が到来するといわれたが、いま時代はそれを超えて「新しい帝国」に回帰しようとしているのだろうか。

グローバリゼイションの意義
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 こうした流れに対する反発からか、日本では「反グローバリズム」が流行している。特に米国政府の対外政策を激しく批判する言語学者ノーム・チョムスキーの本がベスト・セラーになり、大江健三郎氏は彼を「米国の良心」などと称えている。しかしチョムスキーの政治的発言は、本国では無視されている。市場経済は悪で、社会主義政権は正義の味方だという思い込みによって、彼は一貫して自由貿易に反対し、カンボジアのポル・ポト政権の大虐殺を擁護してきたからである。

 また昨年ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツの新著は、『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』という邦題で訳されたが、これはほとんど偽書である。原題は"Globalization and Its Discontents"(グローバル化とその不満分子)で、スティグリッツが批判したのはグローバリズム(こんな言葉は原著に1度も出てこない)ではなく、各国の事情を無視して強引に資本自由化を進めたIMF(国際通貨基金)の政策である。

 スティグリッツは今年4月、経済産業研究所で講演し、日本が経済を開放してアジアの経済統合に積極的な役割を果たし、グローバリゼーションを進めるよう求めた。日本のGDP(国内総生産)に占める輸入の比率は8%、対内直接投資はわずか0.6%である。「グローバリズムの暴走」どころか、日本はOECD(経済協力開発機構)諸国の中でもっとも閉鎖的な国の一つである。

 先進国が途上国を搾取していると主張してWTO(世界貿易機関)の総会に投石するデモ隊は、敵を取り違えている。貿易が縮小したら、困るのは食糧輸出に依存している途上国であり、彼らを苦しめているのは自由貿易ではなく、欧米の先進国が農産物に輸出補助金を出す保護貿易なのだ。米国は向こう6年間で500億ドルも農業補助金を増やす一方、WTOで関税の一律引き下げなどによる「農業保護の削減」を提案して反発を買い、交渉は暗礁に乗り上げたままである。

 グローバリゼーションによって先進国と途上国の貧富の格差が広がっている、というのも嘘である。最近の実証研究によれば、所得が1日2ドル以下の極貧層は、1970年には世界の人口の44%を占めていたが、1998年には18%へと劇的に減った。その最大の原因は、中国が「世界の工場」として急成長し、豊かになったためだ。反グローバル派の主張とは逆に、貿易と資本の自由化は世界から貧困を追放しているのである。


新しい帝国の行方
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 近代国家の主権を支えてきたのは一定の境界を持つ領土であり、戦争は領土の争奪戦だった。それは農耕にとってもっとも重要な生産要素が土地であり、工業にとって重要なのが石炭や鉄などの天然資源だった時代に対応していたが、現代では工業製品の価値のうち原材料の産出国に帰属する部分はごくわずかである。石油でさえ価値の大部分は、産油国ではなく精製・販売する国際石油資本のものになり、コンピュータやソフトウェアでは天然資源の価値はほぼゼロである。

 商品の価値の大部分は、もはや新古典派経済学のいう「資源の稀少性」ではなく、知的な労働サービスの価値だから、富の源泉は領土の支配権ではなく、情報や人を支配する力である。したがってグローバリゼーションは、先進国が途上国を植民地化するという帝国主義的な形ではなく、物理的な領土と「垂直統合」されていた支配権が「脱領土化」して世界的規模で集約されるという重層的な形で起こる。

 多国籍企業は生産拠点を海外に移転してマーケティングや研究開発に特化するから、支配権は生産と分離し、仮想的な性格を強める。たとえばインターネットの標準化機関IETF(Internet Engineerng Task Force)の力は、今では各国政府の代表が集まるITU(国際電気通信連合)よりはるかに強いし、マイクロソフトはウィンドウズによって全世界のユーザーを直接コントロールできる。新しい仮想的な帝国を実質的に支配する皇帝がいるとすれば、ジョージ・W・ブッシュではなくビル・ゲイツかもしれない。

 ただ、こうした「コード」の力は国家と無関係ではない。マイクロソフトが独占的な地位を築くことができたのは、国際的に知的財産権保護の強化を進める米国の「プロ・パテント」政策のおかげだ。こうして事実上(デファクト)の世界支配を強める米国に対して、欧州や日本の依拠してきた ITUやISO(国際標準化機構)などの国際機関は地盤沈下してきたので、欧州は政府調達にオープンソースを導入してマイクロソフトの支配力を弱めようとし、日本政府も同様の措置を検討している。

 新しい帝国は、グローバルに一体化した「世界政府」のようなものではなく、むしろハート=ネグリもいうように、主権国家で抑圧されていた民族・宗教などの「多数性」が顕在化し、紛争が続発するだろう。しかも9・11の事件が示したように、こうした紛争において領土は意味を持たず、敵は世界中に遍在する。マイクロソフトが仮想的な帝国の中心だとすれば、自律分散型のインターネットやオープンソースは多数性の代表だろう。多数性を富の創造に向けたとき帝国は栄え、それを排撃しようとして失敗したとき、中心と周辺が逆転して帝国は没落する。この帝国は、どちらに向かうのだろうか。

【参考】
再掲:あらわれた世界新秩序〜「帝国」の思想をめぐる対談
マイケル・ハートとアントニオ・ネグリの共著『帝国』(邦訳は近刊)
http://www.asyura.com/2002/dispute3/msg/107.html


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