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今こそBIS規制、格付け、時価会計を排し、ドル体制からの脱却を図る最後のチャンスだ〜日本の金融政策はアメリカの国益のためにこんなに歪められてきた〜神奈川大学教授・吉川元忠(SAPIO6/12号) 投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2002 年 5 月 22 日 16:48:45:

今こそBIS規制、格付け、時価会計を排し、ドル体制からの脱却を図る最後のチャンスだ〜日本の金融政策はアメリカの国益のためにこんなに歪められてきた〜神奈川大学教授・吉川元忠(SAPIO6/12号)

【PROFILE】1934年山口県生まれ。東京大学法学部卒。日本興業銀行産業調査部副部長、コロンビア大学客員研究員を経て現職。著書に「マネー敗戦」「情報エコノミー」(文春新書)、「マネー戦略」(PHP研究所)など。

スタンダード&プアーズ(S&P)など大手格付け機関による日本国債の格付けが相次いで下がっている。財務省が反論してはいるが、現在のランクは先進7か国では最低だ。なぜ世界一の債権国が経済危様に陥っているのか。著書『マネー敗戦』(文春新書)で、日本の経済衰退はアメリカに作られたという視点で、日米金融構造の根本的問題をえぐり出した神奈川大学の吉川元忠教授に、日本のマネー敗戦はいつまで綾くのか聞いた。

バブル崩壊後、日本経済は未曾有の低迷を続け、未だにその出口すら見えない状況が続いている。マイナス成長が続き、株価は低迷、財政赤字から国家債務は2002年3月末で693兆円に達している。一方、米国経済は90年代から上昇局面に入り、財政収支も、昨年の9月11日に起きたテロ前に黒字に転換している。
だが考えてみれば、日本は世界最大の対外債権国である。かたや米国は世界最大の対外債務国であり、債務の中心は対日本だ。つまりカネを貸している日本が経済危機に瀕し、借金をしている米国が好況を謳歌しているわけで、これは非常に奇異な姿と言わざるを得ない。
その原因は、端的に言えば、日本が米国との日米マネー戦争に敗北したことにある。しかも《マネー敗戦》は、私に言わせれば、「状況」ではなく「構造」である。状況は多少変わったにせよ、日本からの金がアメリカに流れる構造は変わらない。これでは日本は助からない。
近代になって以降、工業化による豊富な経常収支黒字を対外投資に振り向け、世界の資本移動の中心軸になった国は3つある。19世紀半ばから1930年代の英国、1940年代から70年代の米国、そして80年代以降の日本である。
だが、かつてのポンドやドルと異なって、日本の円は基軸通貨にはなれなかった。現在も事実上の基軸通貨はドルのままである。しかも基軸通貨でありながら、ドルは米国一国の経済政策と連動し、その意向を反映した価値の変動をほしいままにしている。世界最大の債権国でありながら、ジャパン・マネーはドルの支配体制下に完全に組み込まれてきた。経済行為において、「貿易・モノの動き」と「マネー・資本の動き」はコインの裏表のごとく一体である。日本はモノづくりでは勝ったが、同時に進行していた後者の戦いに敗れたのである。

米国の財政赤字を埋め続けたジャパン・マネー

80年代前半、米国は貿易赤字に加え、財政赤字が急激に拡大。その赤字を埋めるために中・長期の国債発行を急増させたが、その米国債を争って購入したのは生命保険会社など日本の機関投資家だった。財政赤字は83年度にはGNPの6%に相当する2000億ドルを超え、その水準は86年まで続く。これを米国債購入を中心とするジャパン・マネーが一挙に埋めていたのである。
日本は貿易黒字が生み出した余剰を米国に注ぎ、米国はそのカネで好況を維持して日本の製品を買う。これがさらに日本の貿易黒字を膨らませた。いわば日本は自分のカネで自分の製品を買い、それを貿易黒字と呼んでいたようなものなのだ。
日本の米国債購入総額は76年の1億9700方ドルから86年4月には1380億ドルに達し、その大半は債権投資、とくに米国債に向けられていた。対ソ冷戦の勝利を第一に考えていたレーガン政権にとって、軍事費の増強による支出拡大を埋めてくれるジャパン・マネーは何よりの支えだった。「ロン・ヤス」関係と呼ばれ、中曾根康弘首相(当時)の「不沈空母」発言が飛び出したのも、ちょうどこの時期である。日米は共同して「強いアメリカ」「強いドル」を演出していたのだ。
だがこうして積み上げてきた日本のドル資産は、85年9月のプラザ合意を機に価値を激減させられる。87年2月のルーブル合意までの間に、ドルは1ドル=240円から150円にまで下落。日本のドル資産はわずか1年半の間に、4割も価値を失ってしまった計算だ。
そしてその後も続いた差損の膨張は、長期にわたるデフレ圧力となり、後々日本経済を苦しめることなにる。
この重大な結果を招いた原因は、日本からの巨額の対米投資が、ドル建てで行なわれたことにある。米国は為替市場をドル安に誘導することによって、ストック面では日本の保有するドル資産の価値を削ぎ、モノ経済の面では、輸出産業の競争力を増大させることができたのだ。
その後も、日本の機関投資家による米国債の取得は大規模に続いた。その原因は不可解な日本の低金利政策にあった。
プラザ合意後、「国際政策協調」の名のもとに、米・日・独の3国が同時に金利を引き下げた。実際にはまったく米国側の事情によるものだったが、日本はこの「国際的要求」に忠実に従い続けた。米国の利下げを映すように公定歩合が相次いで引き下げられ、87年には2・5%の超低金利となった。米国への資金流入が細らないようにするために、日米間の長期金利に、3%程度の差を維持しておく必要があったからだ。
しかも80年代後半には、米国の長期国債の入札が近づくたびに、日本の銀行や証券会社・生保など機関投資家のもとには、旧大蔵省の担当者から「米国債への応募や購入の意向に関するヒアリング」の電話が頻繁であったという。旧大蔵省の無言の圧力は、護送船団方式の中での孤立を恐れる機関投資家をドル債投資という非合理な行動に走らせた。当時、米国の金融市場では「MOF(旧大蔵省)はブッシュ候補の選挙事務所のようだ」と揶揄されていたほどだ。

●「米国のための超低金利」が日本のバブルを生んだ

この超低金利政策の代償は極めて大きかった。2・5%の超低金利は89年5月まで2年3か月も放置され、円高に対抗するための日銀のドル買い円売り介入も相まって、過剰な通貨供給が発生。それが株価・地価の急騰を生み出し、空前のバブル経済を発生させたのである。
金融法人が87年からの3年間に株式などであげた評価益は205兆円、当時のドル換算で1兆5000億ドルにも達した。
このバブル益を米国債に向かわせ、その間に米国は双子の赤字を削減させて経済を軟着陸させる・・・これが米国のシナリオだったと言えよう。
ポートフォリオ投資としての合理的な範囲を超えたドル債投資は、対米資金供給を是とする日本の「国策」に、民間資金が協力した姿といえる。そしてプラザ合意後も、米国債投資に向けて民間の資金を動員したことは、今から振り返れば、非常に重要な意思決定であった。
米国の経常収支赤字が続くかぎり、日本がこれを埋め続けなければドルの暴落を引き起こす危険性がある。ドルが暴落すれば、ドルに姿を変えたジャパン・マネーはさらに大幅に減価する。
日本にとって、ドル債を買い続けることが唯一の方策となり、経済面での国益追求という発想の芽が、完全に摘まれてしまったのである。
もしこの時期に円建て債券への変更を求めたり、マルクやフランも買うといった国際的な分散投資に転換していれば、その後の日本経済の状況は大きく変わったに違いないが、そうした転換への努力はほとんど試みられた形跡がない。
そしてソ連崩壊による冷戦構造の終焉とともに、米国側のジャパン・マネーに対する見方は一変する。自身にとってもメリットの大きかった日本のバブル経済を、しだいに「脅威」として認識するようになったのだ。
90年に入って本格化した日米構造協議(SII)において、まず俎上に上がったのは日本の株式市場だった。米国は閉鎖的な取引慣行や持ち合い株を問題にし、銀行による株式保有制限の強化などを要求。高株価を支えている需給条件の基本を瓦解させることで、株価下落へと誘導した。また、土地税制などの歪みを指摘して日本国民の「地価バッシング」をあおり、地価の下落を促した。
同時に政府部門の赤字増大によって経常黒字を縮小させるためとして、10年問に430兆円もの公共投資を対米公約させた。この公約の結果、日本財政の赤字膨張、債務累積に連なっていく。
89年春に日銀は超低金利政策を修正し、株価は89年未、土地も90年をピークに下落に転じる。だが、日銀の6%までの公定歩合引き上げ、旧大蔵省の金融機関に対する総量規制や地価税は、あまりにも極端なバブル潰しであり、巨大な不良債権を発生させた。
さらに93年1月に誕生したクリントン政権の円高攻勢により、円は95年4月には一時1ドル80円を割り込む。
対米資産の大幅な減価に加え、円高による生産コストの格差が日本のモノづくり部門を直撃。日本の輸出競争力は弱まり、製造業は生産コストを下げるため製造部門の海外流出を余儀なくされ、産業の空洞化が進んだ。
しかも政府が実施した景気対策は公共投資拡大に偏っていたため、円高による打撃が最も少ない公共工事関連の利益集団のパワーを強め、効果がないばかりか日本の産業構造を《退行》させる結果を招いた。
一方米国は、為替市場を味方につけてドル暴落の危機をすり抜け、長期の景気拡大を続けることになる。90年末から公定歩合の引き下げを開始。低金利による債券や株の高騰、資産効果による消費の底上げ、また企業の低コスト資金調達による設備投資の刺激などでモノづくり部門を支援した。同時にドル安は輸出を促進し、米国の製造部門は復権した。こうして「日米の再逆転」が起こったのである。

●日本の財務省は格付け機関を告訴せよ

これまでの経緯を見れば、日本のマネー戦略の欠如が未曾有の経済危機を招いたことは明白だ。では、日本は今後どのような経済戦略をとるべきなのか。
まず当面の具体策をいえば、BIS規制、格付け、時価会計など、日本のマネーパワーを押さえ込むための仕組みに、適正に対処していくことである。
BIS規制は国際業務を行なう銀行に対して自己資本比率8%以上を求める規制だが、これは明らかに邦銀の抑止を狙ったものである。そもそもリスク防止のためと称して設けられた8%という基準には何の根拠もない。たんに米国の銀行がクリアしやすく、邦銀に難しい数字が8%だったにすぎないのだ。
この基準をクリアするために邦銀の貸し渋りが起こり、デフレ→不良債権の増大→邦銀の格付け低下→貸し渋りという悪循環を招いている。これを解消するためには、いささか暴論かもしれないが邦銀が国際業務から一時的に撤退することさえ考えられる。例えば、国際協力銀行に第二勘定を設けて邦銀の海外債権を一時的にここに避難させる。BIS親制の「魔の手」を逃れるための窮余の策である。
さらに現在交渉中のBISの新規制では、銀行は手持ちの国債が格下げになると自己資本を減らして計算しなければならない。だが、米国の格付け機関による日本国債の格下げ自体が疑問である。なぜ対外債権国である日本の国債が対外純債務国の米国債よりはるかに格付けが低いのか。そもそも日本国債は日本人が購入しているのだから、格下げの意味はほとんどない。
日本の財務省は、米国の格付け機関に損害賠償請求の訴訟を起こすべきである。
また時価会計の導入も、現在のようなデフレ下で行なうには無理がある。これも、今はできないとはっきり言うべきだ。
日本がマネー敗戦の処理に追われ、金融危機対策もままならない状況が続いている間に、世界経済の環境は著しい変化を遂げている。第一に欧州統合通貨ユーロが定着し、流通圏が拡大しつつある。第二は中国の経済大国化で、世界の工場として、また長期的には巨大な成長市場としての進展が予想される。
そして第三は米国の後退である。好況が続いてきたとはいえ、経常赤字が拡大し、対外債務は増え、景気の先行きも不透明だ。過剰とも思える消費がいつまで続くかもわからない。
日本がマネー戦略としてなすべきことは、こうした変化を直視し、ドル一辺倒の発想を転換することだ。ドルの影響を相対的にしていくことが必要で、そのためには地域競合、通貨競合をも展望したアジア地域における金融協力を進めていくべきだと私は考える。
日本の経済収支の今後の動きを予測すれば、対米の経常黒字は減少しながらも残るだろうが、中国をはじめとするアジア向けは赤字が増加し、全体としてはいずれ赤字化していく形になるだろう。
ただでさえGDPの1・3倍を超える長期債務残高のある日本である。日本が双子の赤字国となれば、国債は売られ、発行利率が上昇して国の財政負担はさらに増大する。また過剰な円売り、日本売りにより、1400兆円の個人金融資産が日本から洗出していくだろう。
今のうちにドル体制から脱却しておかなければ、日本のマネー敗戦の構造はいつまでも温存され、経済再生は永遠にありえなくなる。日本に残された時間はあとわずかしかないのだ。

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