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【国債問題への定量的アプローチ】その5:「構造改革」的税制変更は税収増大をもたらすか? 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 04 日 23:47:14:

小泉政権は、向こう10年ほどで財政のプライマリーバランス均衡(利払い費と償還費を除く歳出が借金以外の歳入でまかなわれる状態)を実現するといい、政府税調は、財政再建に向け、消費税引き上げ・所得税制変更(課税最低限引き下げや各種控除軽減)で税収の拡大を計ろうとしている。

財政の継続性そのものに疑念が深まっているのだから財政再建の道筋を早期に付けなければ当然だが、政府税調が考えている税制変更が税収の増大をもたらすものかどうかは冷静に検討しなければならない。

100%課税論理を持ち出すまでもなく、「税率アップ=税収アップ」ではないことは自明である。
国民の痛みという問題はおくとしても、「税率アップが税収を減少させる」という現実を考慮しない税制変更論議は危険極まりないものである。

消費税は、物品やサービスを購入してくれなければ課税されないものであり、所得税は、所得がなければ(低ければ)課税されないものである。法人税は、所得(利益)がなければ課税されないものである。

基本3税には相互に密接な関連がある。

まず、家計部門で見れば、所得税を多く徴収されれば可処分所得が減少するため、支払う消費税が減少する。そして、可処分所得が変わらないまま支払う消費税が多くなれば、物品やサービスに向けられる金額が減少することになる。可処分所得が少なく貯蓄や投資に回す余裕がない家計は、増税分に対する消費額減少の割合が非常に高いものになる。(年収700万円以下の家計が63.3%、500万円以下が54,4%、300万円以下が31.7%)

企業部門で見れば、可処分所得総額が一定という条件で消費税税率がアップすれば、供給する物品やサービスの購入額(売上)が減少したり、売上減少を防ぐために値引きすることで利益が減少するため、法人税の支払額が減少する。そして、経営状況の悪化は企業部門の購入活動を抑制するので、消費税の支払いが減少する。さらには、売上不振が人員削減や人件費削減にむすびつき、所得税の徴収額が減少する事態まで広がる可能性がある。

法人税と所得税の関係で言えば、法人が納入法人税額を抑制したいと考えて人件費をアップしても、所得税の税収が増えるので問題ない。逆に、法人税であれば赤字を5年間繰り延べたりもできるので、人件費を増やしてもらうほうが税収面から見たときは有利である。


GDPや付加価値分配が一定だという条件でこの関係をまとめると、

● 所得税アップ→消費税税収ダウン・・・→法人税に影響

● 消費税税率アップ→法人税税収ダウン・・・→所得税に影響

( 法人税アップ・・・→企業の海外逃避による減収の可能性 )


このような因果関係は、将来を予測するという手法に頼らなくても、これまでの歴史的現実で確認することができる。

下記の表は(その1)でも添付したものだが、消費税3%&高額所得者減税が実施された89年と消費税5%が実施された98年に注目して見て欲しい。


     新規国債  歳出   税収  名目GDP 税収/GDP
================================================================
83年度 13.5 50.6 32.4 285.5 11.3
84年度 12.8 51.5 34.9 304.8 11.5
85年度 12.3 53.0 38.2 325.8 11.7
86年度 11.3 53.6 41.9 340.9 12.3
87年度  9.4 57.7 46.8 355.8 13.1
88年度  7.2 61.5 50.8 381.6 13.3
89年度  6.6 65.9 54.9 409.6 13.4 *
90年度  7.3 69.3 60.1 441.9 13.6
91年度  6.7 70.5 59.8 469.2 12.7
92年度  9.5 70.5 54.4 481.6 11.3
93年度 16.2 75.1 54.1 486.5 11.1
94年度 16.5 73.6 51.0 491.8 10.4
95年度 21.2 75.9 51.9 497.7 10.4
96年度 21.7 78.8 52.1 510.8 10.2
97年度 18.5 78.5 53.9 521.8 10.3
98年度 34.0 84.4 49.4 515.8  9.6 *
99年度 37.5 89.0 47.2 512.5  9.2
00年度 33.0 89.3 50.7 513.0  9.9
01年度 30.0 86.4 49.8 
02年度 30.0 81.2 46.8 496.2  9.4

※ 02年度のGDPは政府見通しで、税収は予算を下回る可能性が高い


89年の税制変更は税収面で貢献しているように見えるが、「バブル形成末期」であることから、不動産関連諸税や金融取引諸税の状況を勘案して考える必要がある。
と穏当に言いいたいところだが、「株式バブル崩壊」は、株価指数ベースでは89年11月に始まり、日経平均ベースでは90年1月に始まっているのだから、「株式バブル崩壊」に税制変更が与えた影響をきちんと再検討する必要があると考えている。
日本の株式取引は法人主体で行われているのだから、法人の余剰資金が縮小すれば株価の上昇エネルギーは減退することになる。(「株式バブル崩壊」は、仕掛けられたものだと考えているが、その仕掛けが巧く働くためにはそれなりの条件が必要である)

「デフレ不況」色が色濃くなった98年に実施された税制変更は、先ほど説明した因果関係があたかも働いたかのような結果を示している。(消費税以外にも社会保険料の引き上げがあり、それらを少しは打ち消すための“特別減税”が実施された)

消費税率を引き上げたにも関わらず、税収の絶対額と税収のGDP比がともに下がっているのである。 GDPも、実質でマイナス1.1%、名目でマイナス1.2%を記録している。
そして、98年以降、本格的な「デフレ不況」が続いている。

97年に財政再建・税収増大という名目で「消費税率引き上げ」や「社会保険料引き上げ」を決定した政治家(橋本政権及び賛成した国会議員)は責任をとらねばならないし、そのような政策を立案した大蔵省の官僚も職を辞すべき“失政”である。

(痛みを与えたことではなく、掲げた目的を実現できなかったどころか、逆に、目的に反する結果をもたらしたからである)

そのような非難に対して、「景気の循環的な変動のせいだ」とか「予測できないことだ」といった類の言い訳をするのであれば、日本は救いが期待できない国家だとあきらめるしかない。

98年は、94年以降とほぼ変わらない経済条件にあったと考えていいだろう。
循環的な面で言えば、97年の金融危機である意味の灰汁抜きがなされた後である。

89年の消費税導入で「バブル崩壊」を引き起こし、98年の消費税引き上げで「デフレスパイラル」に引き込んだとも言えるのである。(「バブル崩壊」は遠からず起きるものではあったが...)


歴史的な反省もきちんと行わずに、再び、「低中所得者増税」や「消費税引き上げ」を志向している政府は、“自国破壊者”であり、その結果として、国債問題=ハイパーインフレの現出も避けることができないだろう。


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