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【国債問題への定量的アプローチ】その8:ハイパーインフレによる政府債務の実質切り捨て=デフォルトへの道 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 07 日 23:21:41:

最後のまとめとしたい。流れとしては、<その7>にそのまま続くものである。


日本国債の“破綻”と考える国債実質価値の大幅な低下がどういうかたちで起きるかを考えていきたい。

国債のみならず政府長期債務の債権者にとって、その実質価値の大幅な低下というのは二つの要因から生じる。


1)長期金利の大幅な上昇による保有国債の価格下落

 これは、公定歩合の超低利継続と日銀の超金融緩和政策で防ぐことができると考えている。
 また、国債の表面(名目)金利を現在のような低水準に抑え込み続けたいと考えている財務省官僚の力によっても防止されると予測している。

 嫌みな言い方をすれば、「デフレ不況」が続く限り、「不良債権処理」が終わったとしても銀行は貸し出しに慎重な姿勢を続けるので、国債ファイナンスと民間債務ファイナンスが競合して長期金利が上昇することはないのである。
 (財務省官僚が意図してそうしているかは不明だが)

 このようなことから、長期金利の大幅な上昇による国債の破綻はないと予測している。

2)ハイパーインフレ

 ハイパーインフレは、年率10%を超えるような急激な物価上昇という経済事象だと考えているが、デフレ下の超低金利状況から5%のインフレ率に転じてそれが続くことも、ハイパーインフレと言っていいだろう。

 ハイパーインフレになれば、否応なく金利も上昇する。インフレ率以下で貸し出しをすれば、銀行は実質的にマイナス利子でお金を貸すことになり、損をしないまでも利益を大きく減らすことになるからである。この意味で、ハイパーインフレという想定は、1)の内容を含んでいるというか、1)の事情にさらに輪を掛けたものであり、保有国債の価格が下がるだけではなく、償還(返済)されたお金の実質価値も大きく下がる。

100万円を5年物国債に投資し、その直後から5年間5%のインフレが続けば、5年間で利息(1.5%)を含む全受取額は107.5万円なのに対し、その実質購買力価値は22%低下しているので、83.9万円を受け取ったことと同じになる。
(インフレ率が10%であれば、38%低下し、66.7万円を受け取ったのと同じ)
結局のところ、22%の債務切り捨て(=デフォルト)が行われたことと同じである。
(10年国債であれば、5%のインフレで38%、10%のインフレで61%もの債務切り捨てとなる)

 「デフレ不況」が続いている日本経済で、急激な物価上昇が起きるというのは奇妙に思えるかも知れない。
 日本経済がデフレに陥っているのは、雑ぱくに言えば、生活に必要なものに向けられる総需要と総供給の関係で、総需要が少ないか、総供給が多いかという経済状況になっているからである。
 インフレになるのは、その逆で、総需要が多いか総供給が少ないという経済状況になることを意味する。ハイパーインフレは、その度合いが大きいものである。

 正確に言えば、供給力に裏打ちされていない貨幣の増大を通じて需要力が増大することで、(ハイパー)インフレは起きる。

 これは、中南米諸国や市場経済移行期のロシアを考えてもらえばいいだろう。
 要は、商品の生産・販売に従事していない人の生活を何とかするために、政府が紙幣を増発して“仮初め”(供給力の裏付けがない)の需要をつくることで生まれる経済事象である。
 中南米やロシアがハイパーインフレに陥った要因としては、経常収支が赤字であったり、恒常的に外貨準備が不足していることや自国通貨がハードカレンシーではないという条件も付け加えなければならないと考えている。
 供給力が不足しているのなら輸入を増やして対応すれば、一時的にはハイパーインフレにはならないからである。取り上げた諸国がそれができない条件にあったことも重要であり、日本を考察する場合のポイントにもなる。


■ 日本がハイパーインフレに陥る条件

現在デフレに陥っていると言うことは、日本経済は、供給力に見合う需要力がなく「裏付けのない紙幣増発」も抑えられていることを意味する。

(日本は輸出大国であり、供給力が不足しているということはないのだから、供給力を増大させる政策である「規制緩和」は、「デフレ不況」には何ら有効な対策ではない。かと言って、「不良債権処理」で国内の供給力を減らして調整しようとすれば、それに従事している人たちの失業を生み出すことで需要も減らし、それが新たな不良債権を生み出すというイタチゴッコになるので、「デフレ不況」は解消できない)


 ハイパーインフレになる条件である「供給力に裏打ちされていない貨幣の増大を通じて需要力が増大する」事態に今後の日本がなるのかどうかを考えてみたい。


[供給力の減少要因]

● 「デフレ不況」のなかで事業部門切り捨てや首切りが行われている

● より安い生産コストを求めて中国など海外に製造拠点を移している

● 「不良債権処理」のために破綻や事業縮小に陥る企業が増えている

● 黒字企業に対する法人税減税のために、赤字企業に外形課税を行うことで破綻や撤退が生まれる


[需要力の減少要因]

● 「供給力の減少要因」そのものが、失業者の増大を通じた需要減少をもたらす

● 政府税調などが考えている「低中所得者所得税増税」や「消費税引き上げ」が需要減少をもたらす

● 先行きに不安を感じている人が多いので、余裕がある人たちの可処分所得が消費よりも貯蓄に向けられやすい

● 不況であると同時に銀行が貸し出しに慎重なので、事業拡張や設備投資が行われにくく、通常であれば必要な設備の更新さえ行えない企業がある

● 減少とは言えないが、人口増加が鈍化しているので自然的需要増はそれほど期待できない


現在の日本経済は、供給力・需要力がともに減少していっている過程にあると考えることができる。
その過程が続いても、供給力>需要力である限り、デフレが続くことになる。

では、供給力<需要力になるというのはどういう事態なのだろうか。

それは、貿易収支が赤字になったときである。


貿易収支が黒字であれば潜在的な意味で供給力過剰、貿易収支が赤字であれば競争論理的な意味で供給力不足という識別がふさわしいと考えている。

「潜在的な供給力過剰」とは、その国民経済の競争条件が変わると供給力過剰が現出する可能性があるということであり、「競争論理的な供給力不足」とは、その国民経済は総体的な競争力で劣っているために国内需要に見合う生産ができていないということである。

貿易収支が赤字であるということは、その国民経済が、自前で自分たちが必要とするものを生産できていないことを意味する。

これは、供給主体である企業が日本国籍かどうかは直接の問題ではない。外国籍の企業も含めて日本で生産されているかどうかが重要な問題になる。
(デパートが日本製の洋服を売ろうが中国製の洋服を売ろうが、マージン率と人件費は変わらないと考えられるので、流通販売についてはそれほど考慮する必要はない。メーカーの輸入販売も同じである)

個別企業は、生き残りと利益拡大を至上の課題とするので、「デフレ不況」のなかでますます製造拠点の海外移転や外国製安価製品の輸入を拡大させることになる。
(個別企業の利益と国民経済の利益の対立である)

このまま進めば、2005年頃に、日本は貿易赤字に転換すると予測する。(「世界同時不況」が明確になれば、その時期はより早まる)
このことは、その間に、失業の増加などで需要も減少することを意味する。


残る問題は、「輸入による供給力確保」と「供給力の裏付けがない紙幣増発」である。


[輸入による供給力確保]

日本のハイパーインフレを抑止する最大の力は、自国通貨である日本円がハードカレンシーであり、世界最大の外貨準備高を誇っていることだと考えている。

仮に「供給力の裏付けがない紙幣増発」が続いても、輸入によって供給力不足をしばらくはカバーすることができるからである。

しかし、それは、貿易収支の赤字をさらに増加させることになる。貿易収支の赤字が増大すれば、経常収支の赤字も射程に入るので、投資家の先読みのなかで、円のレートが下がること(円安)になる。
製品の輸入割合が増大していればいるほど、円レートの低下が物価上昇要因となる。

しばらくは、外貨の保有状況によって輸入が制限されるといった事態は起きないと予測する。(4100億ドルの外貨準備高は51兆円に相当するので、5兆円の経常赤字が続いても10年は問題ない。但し、世界経済でドル基軸通貨体制が継続していることや米国債に不測の事態が起きないことが条件)

しかし、経常収支の赤字が恒常化すれば、円レートは大きく下がり、物価の大きな上昇圧力となる。そして、外貨準備高も減っていくことになる。


[供給力の裏付けがない紙幣増発]

米国は、厖大な経常収支赤字を抱えながらも、ハイパーインフレを起こさずにやってきた。
それが可能だったわけは、「供給力の裏付けがない紙幣増発」を行わなかったからである。
きちんと供給力の裏付けがあるドルを日本をはじめとする諸外国から還流させて、消費や投資に励んできたことで、米国経済はハイパーインフレに陥るどころか、「世紀の繁栄」を謳歌してきたのである。

しかし、日本に、米国と同じような経済状況に移行する力はない。

今後、失業者がさらに増加し、高齢化も進んでいけば、自活できない国民の生活を維持するための社会保障費も増大することになる。
そして、「デフレ不況」が続く限り、経済成長をなんとか低下させないというためだけでも、財政支出が行われることになる。
さらに、これまでに発行した国債を償還するために必要な財政支出も増大する。

このような状況になれば、かたちの上では直接ではないが、実質的には直接と言える日銀の国債引き受けがさらに増大することになる。(昨年からはそういう状況にあると考えている)

政治状況的にも、国民が痛みに大きな声を上げるようになれば、「供給力の裏付けがない紙幣増発」がより膨らむことになる。(この可能性は大きいと考えている)


■ まとめ

「貿易収支の赤字化」と「供給力の裏付けがない紙幣増発」については、もっときちんとした定量的なアプローチが必要だと考えている。

それをお断りした上で、日本経済がハイパーインフレに至る道筋は、


1)「デフレ不況」の継続のなかで、“供給力減少”と“需要力減少”のそれぞれの要因がそのまま進行する。

2)「低中所得者増税(負担増)」が需要力減少に拍車を掛け、税収の減少にもつながる。

  (「所得税の低中所得者増税」と「消費税10%」がともに実施されれば、名目GDPが減少すると同時に対GDPの税収も6%台まで低下しかねないと考えている。そのとき、450兆円の名目GDPであれば、税収は、6.9%として31兆円になる。国債費で17兆円が必要であれば、真水の財政支出は、今年よりも16兆円も少ない44兆円にしかならない)

3)2005年頃に日本の貿易収支が赤字に転換する


4)「デフレ不況」と社会保障関連支出の切り捨てが続くことで、痛みに耐えかねた国民から大きな声を上がり始め、政治家がそれに反応する

  (反応した政治家が採る政策は、赤字国債のさらなる増発による財政支出の増大である)


「GDP減少+対GDP税収減少+供給力不足(貿易赤字)」という条件に、「裏付けのない紙幣増発」が付け加わることでハイパーインフレに転じ、いったん生じたハイパーインフレは、さらなる「裏付けのない紙幣増発」を招き、ハイパーインフレを加速するだろう。

そのときに日本国内で供給力を拡大しようとしても、製造拠点は既に少なくなってしまっている。


今年から来年いっぱいまでが、政策転換のぎりぎりの猶予期間だと考えている。

好意的に考えれば資産デフレを防ぐための政策とも言える目先の「資産家優遇政策」や「高額得者優遇政策」は、中期的には、“資産家没落”であり、“高額所得者減少”への道なのである。


最後に、財務省の優秀な官僚たちは、豊富なデータが身近にあるのだから、ここで書いてきたものよりも、とりわけ「国債の危機」については、より詳しいシミュレーションを行っているはずである。
彼らが、その内容をきちんと公表すれば、もっと真剣な論議が活発に行われることになるだろう。(責任もちゃんと追求するから、それを出して欲しいものだ)

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だらだらと長い書き込みにおつきあいいただきありがとうございます。
単発でアップしたためにまとまりのないものになっていますので、「論議雑談」ボードに一括したものを後ほどアップします。

参考書き込みもそれに添付しますので、そちらを参照していていただければ幸いです。

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