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【世界経済のゆくえ】日本経済が突きつけたマネタリズムへの“最後通牒” 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 19 日 18:13:21:


『【世界経済のゆくえ】世界経済にとって70年代はどういう時代だったのか』
http://www.asyura.com/2002/hasan10/msg/744.html

『【世界経済のゆくえ】経済支配層は70年代に何を考えたのか』
http://www.asyura.com/2002/hasan10/msg/761.html

『【世界経済のゆくえ】産業資本的利益成育から金融資本的利益収穫へ』
http://www.asyura.com/2002/hasan10/msg/784.html

『【世界経済のゆくえ】80年代以降の金融資本的収穫を支える価値観と経済政策』
http://www.asyura.com/2002/hasan10/msg/872.html


に続くものです。

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金融資本的収穫を支える価値観や政策が、日本にどのように導入され、どういう経済状況が生まれたかを見ていきたい。

「バブル崩壊」後、長期不況を経て「デフレ不況」に喘いでいる日本経済は、マネタリズムの適合性や有効性を考察するのに格好の歴史的現実を提供している。

小泉首相が掲げている「構造改革」に限らず、最大野党の民主党や自由党が掲げる経済政策も、「規制緩和」・「民営化」・「所得税軽減と間接税重視」に見られるように、マネタリズムをベースにしたものである。

「構造改革」を掲げる政治勢力がそれを金融資本的収穫を支える政策だと認識していると思っているわけではない。
外資の証券会社や銀行の日本での事業拡大を認めたり、外国保険会社にガン保険などの「第三分野」で先行的権益を与えたり、旧長銀(新生銀行)を破格の条件で売り渡したりといったことはあったが、一部の自覚的人物を除けば、「構造改革」が日本経済の成長に貢献するという“信仰”や信念に支えられたものだと考えている。


戦後日本は、輸入制限や高率関税で輸入を抑制し、資本取引や外資の直接投資を規制しながら国策として輸出促進をはかることで高度成長を達成した。
(1950年代に「貿易自由化」や「外資進出」が行われていたら、現存する大手日本企業の多くが生き残っていなかった可能性もある。GMやフォードが50年代に進出していれば、現在のトヨタはなかったかもしれないのである)
税制は、「直接税重視」・「贅沢品課税」・「金融所得重課税」という所得再分配機能を重視したものであった。
国内の競争条件も、「法的規制及び行政指導」と「護送船団方式」で大枠がつくられ、乏しい資金を貸し出しというかたちで供給する銀行は、日銀も含めて大蔵省の強力な管理下にあった。(資金不足のなかで日銀からどれだけ貸し出ししてもらえるかが、銀行経営の優劣を決した。GDPが急拡大し資金需要も旺盛で担保価値も上昇していったので、日銀から大量の貸し出しを受けることさえできれば“濡れ手に粟”が実現できるという条件に置かれていたのが銀行である。日銀の貸し出し量(通貨供給量)を制約したのは、一義的には経常収支の動向である)

労働力市場も、労働力不足のなか、労資協調路線を基礎に企業自体が中途で従業員が辞めないよう“規制”されていた。(中途採用の枠は小さく、中途採用者は“不忠者”として見られる傾向もあった)
外国為替取引も、80年中期まで実需原則が残されるなど厳重に規制されていた。
主食である米も、「農地改革」で拡大した自営農家の所得増大をはかりつつ企業人件費の増大圧力を抑えるため、配給的統制を続け、政府が逆ざやを税金で埋める米価政策を採った。(農家の所得増大は、農耕機械や農薬・肥料などの需要を拡大していった)

これらの政策がすべて好ましいものだと思っていないし、それらへの復古を主張する気もないが、それらの政策が高度成長期の基礎にあったことは現実である。

「規制緩和」を実施するとしたら高度成長期にこそ順次やるべきだったと考えているし、経常収支が経済政策を規定していた現実から、別に優秀な官僚機構の存在が高度成長をもたらしたわけでもない。

戦後日本は、米国の世界支配構造のなかに入ることで、唯一の国際通貨であるドルを調達することができ、それを原資として米国式の最新生産システムを持ち込んだり原材料を輸入し、それによって生産される製品の輸出も拡大することができた。
このような意味で、“対米従属”を決定した政策がすべてだったと言えるくらいである。
もちろん、それは、厖大な過剰生産力を抱える米国経済を支え、国際金融資本の利益に貢献するものであったし、それが望ましいものであったかどうかも論議されなければならないが...。


高度成長期が終わった72年に登場した田中内閣は、経済成長率の鈍化した伸びを「列島改造論」という一大ケインズ主義的政策で回復させようとした。
それにより72年と73年には8%を超える高い実質経済成長を達成したが、“第一次石油ショック”もあり、74年の狂乱物価(CPIが23.4%も上昇)とマイナス成長(−1.2%)で破綻した。
しかし、“第一次石油ショック”という要因があったことから、「列島改造論」そのものが誤りであったかどうかが見極めにくいため、今なお根強い支持もあるようだ。

“土地神話”が本格的に成立したのはこの時期で、公共事業による経済成長の本格的追求も97年まで続き、ケインズ主義延命・土建国家構造・「不動産バブル」・巨額政府債務という日本的特質につながっていった。

現在なお「世界の工場」である日本では、「近代産業による成長の限界」が明確に認識されたことはないと言えるだろう。(80年代は近代産業と金融の両輪で、90年代も金融的破綻を近代産業でなんとか補ってきたのだから、近代産業の限界をそうやすやすと受け入れるわけにはいかない)
政府債務の巨額積み上げという事情から、さすがに財政支出による景気回復という主張は影を潜めたが、ケインズ理論が論理的に否定されたわけでもない。
90年代の一時期に政権を失ったが、保守合同後一貫として政権を担った自民党は、議員権益や支持基盤(農民や建設業界)との関係で、根強い財政支出拡大衝動を抱えている政治勢力である。


日本で“新保守主義”が脚光を浴びるようになった契機は、「戦後の総決算」と「民間活力」を掲げた中曽根内閣が82年に登場したことである。
「民営化」と「規制緩和」は、中曽根内閣によってスケジュール化され推進されたが、「税制変更」や「大幅な規制緩和」は、支持基盤(商工自営者や農民)の根強い反対もあり、実現は87年に成立した竹下内閣以降に持ち越された。

中曽根内閣は、「小さな政府」を標榜しながらも、レーガン政権と同じように財政赤字を増大させていった。
「バブル崩壊」・「巨額政府債務」・「不法滞在外国人」の芽を育んだのは、この中曽根内閣である。


● 「不動産バブル」の形成

 「プラザ合意」後に超金融緩和と財政刺激策を採るととに、オフィス需要の拡大とオフィスの不足を煽ったり、リゾート法を施行して、「不動産バブル」を形成した。
 (国鉄民営化で売却リストに上がった国鉄跡地が注目を浴びた)


● 「株式バブル」の形成と崩壊

85年に外国証券会社の東京証券市場への参入を実現し、「株式バブル形成」政策を推し進めた。
外国証券会社は、89年から90年にかけて「株式バブル崩壊」を引き起こし、その後も株式市場をコントロールしながら厖大な金融資産を手に入れてきた。


● 財政赤字の深化

 83年度13.5兆円・84年度12.8兆円・85年度12.3兆円・86年度11.3兆円・87年度9.4兆円と当時のGDP規模(300兆円弱)に照らすと巨額の国債を発行し続けた。
 とりわけ、景気過熱期の87年5月に緊急経済対策としておよそ5兆円の財政出動を行ったことは犯罪的な政策である。“円高不況”を名目としたが、株式・不動産のバブル形成が行われていた時期だから、企業に余剰資金があったことは明白である。


● 中国人語学留学生の受け入れ

 現在よりもよりいっそう大きな所得格差(為替レート格差)があるなかで、中国からの語学留学生の受け入れを決めた。それが、お金稼ぎの手段として利用されることを予測できないようでは統治者とは言えない。この政策が、密入国者の増大を招く引き金になった。
(イラン人などの不法就労も、バブル期に不足気味だった3K従事者を補うという目的で“政策”的に見逃されていたと考えている)

※ 別に中国人留学生を排除せよと言っているのではない。“経済格差”が大きいなかで、日本語を学ぶという名目だけで入国できるようにすれば、そうなるということである。日本の大学で勉強したいという人を受け入れることを基本の政策にし、そのための前段階としての日本語修得への支援は、中国の主要都市に日本語教育機関をつくるための助成金を出せばいいことである。


● 対米軍事協調路線

中曽根首相の「不沈空母」発言が有名だが、有事法制(原案は中曽根内閣時代)の下地をつくった。

「バブル崩壊」はバブルが形成されれば必ずやってくるものであり、バブルを形成する政策を推進した中曽根内閣こそが、現在の経済的苦境をもたらした元凶だと言えるだろう。(中曽根・竹下政権時代をきちんと論理的に反省しなければ、現在の「デフレ不況」も解消できない)


マネタリズムとの関係で言えば、ここ数年の日本経済は、マネタリズムを窮地に追い込む現象を示している。

その一つは、マネタリズムの命とも言える金融政策の不適合である。

日銀は、「デフレスパイル」を防ぐために、超金融緩和政策を継続している。しかし、日本の物価は、上昇に転じるどころか下落を続けている
これを“流動性の罠”と言うそうだが、世界第2位の経済規模を誇る近代国家日本でこのような現象が起きていることは、マネタリズムに対する信頼性を揺るがすものである。

このような意味で、マネタリズムを信奉している先進諸国の中央銀行や経済学者は、日本を経済的苦境から救出するという意図ではなくとも、自らの理論的基盤が揺らいでいる現状を直視し、日本で起きている経済現象を血眼になって分析しなければならないはずである。

70年のスタグフレーションがケインズ理論の有効性に疑義を突きつけたように、現在の日本は、マネタリズムの有効性に大きな疑義を突きつけているのである。

日本の現実を他人事のように見過ごせば、日本と同じ経済苦境が口を開けて待ち受けている現実に気づかないままであろう。(意識的にそういう事態を待ち望んでいる人は別だが..)


マネタリズムの有効性を疑わせるもう一つの経済現象は、長期不況と深刻な「デフレ不況」である。
これは、「税制変更」・「民営化」・「規制緩和」を通じた自由な経済活動の促進が必ずしも経済成長をもたらすわけではないことを示唆するものである。

このような言説に対しては、「日本は直接税の割合がまだ大きい」とか、「日本は規制緩和がまだ不十分」とか、「郵政や福祉を見てもわかるように民営化も不十分」といった反論も予想できるが、80年代中期以降、「民営化」・「間接税比率の増加」・「規制緩和」が進められたことは間違いないのである。

そして、高度成長期の年率平均10%という経済成長は持ち出さないが、80年代後半にバブルが形成され、90年にはバブルが崩壊し、94年からは長期の本格的な不況が続き、98年からは深刻な「デフレ不況」に陥っているのである。

「税制変更」については国債問題絡みで書き込みしているので、「民営化」や「規制緩和」といった政策がほんとうに経済成長に貢献するのかどうかを考えてみたい。

※ 参考書き込み

『【国債問題への定量的アプローチ】その1:国債発行高と国債償還の推移』
http://www.asyura.com/sora/dispute1/msg/736.html

この下にレスとして、<その8>までと参照書き込みリストの書き込みがぶら下がっています。


◆ 「民営化」について

 日本で実施された民営化は、85年の電電公社(NTT)と専売公社(JT)、そして、87年の国鉄(JR各社)である。
(個別法による規制が行われているので、正確には「特殊会社化」といったほうがふさわしい)

 主要メディアでこれらの民営化を失敗だったと評価しているのはほとんどみかけない。
 国鉄の民営化により、JR各社は黒字化を遂げたり赤字を縮小した。NTTも、競争のなかで料金を下げたりサービスを改善して活発な通信事業を継続している。JTも、タバコ中心ながらも、総合食品企業として活動している。
 旧国鉄の20数兆円という債務切り離しはともかく、これらの改善は、民営化のおかげであるというのが多数派の考えであろう。

 しかし、日本という国民経済は、電電公社・専売公社・国鉄の民営化の動きのなかで「バブル形成」が始まり、「バブル崩壊」→「長期不況」→「デフレ不況」という歴史過程を経てきた。(NTT株式の放出が株式バブルを煽ったという視点で取り上げているのではなく、現実の歴史過程として記述している)

 「民営化」で個別公営企業の経営状況が良くなったとは言えるにしても、「民営化」が国民経済の成長に貢献したとは結論づけられないのである。

 「民営化」については、近代化100年の過程で厖大な国費を投じてきた公営企業を売却することが、国家にとって経済的に有利な選択なのかという問題もある。

 公営企業の売却で得られるお金と公営企業を保有し続けることで毎年得られる収益(国庫納付金)を比較しなければならない。牛を食べてしまうのか、搾乳や役務で使うために生かし続けるかの選択と同じである。
 保有し続けるとしても、有用な資産であれば、焦らなくてもどうしてもという時に売却できる。(国民生活に不可欠なものであれば、総合的な判断で赤字であっても事業を継続するという選択肢もある。英国の鉄道は、国有化→民営化を経て、再度、公有化という流れになっている)

 国鉄であれば、民営化と同じように首切りと路線切り捨てを行い、それで生み出すようになった利益を、配当金での流出ではなく、棚上げしてもらった20数兆円の返済に充当する道もある。電電公社であれば、通信需要の高まりや携帯電話事業で得られる厖大な利益を、配当金として流出させたり海外投資に走り2兆円超の評価損を出すのではなく、国庫に納入するかたちを続けていたほうが得ではなかったのかという問いである。

 所有形態が経営手法を決めるわけではなく、所有形態が規制緩和の進展を規定するわけでもない。(日本の大手企業のほとんどが雇われ経営者で、伝統的企業は、既得権益を守るため、自分が不利になる規制緩和を阻害しようとする)


◆ 「規制緩和」

 「規制緩和」は、「民営化」と軌を一にした政策として進められた。
 その代表が電話通信事業への新規参入と競争状況の出現である。
 労働力市場も、派遣業への規制が緩和され、職業安定所の民営化までささやかれている。大型商業施設の新設や営業規制も緩和され、酒類販売も大都市中心に規制が緩められた。
 98年には金融ビッグバンといわれる自由化が行われ、電力供給事業についても規制緩和が進められている。医療や福祉の分野でも規制が緩められている。

 しかし、通信事業が活発化し、大都会では大型スーパーが夜10時まで営業し、明け方でも酒類が買えるという状況になっていったにも関わらず、不況は継続し、現在では深刻な「デフレ不況」が進行しているのである。

 郵便貯金や簡易保険が預かっている資金も、“自主運用”に移行し、年金資金ともども、株式投資での運用枠が拡大された。
 それでも、株価は低迷を続け、郵貯や簡保で4兆円を超える評価損を出し、年金資金も6兆円を超える評価損を出している。

 今年からは、民間企業の年金制度して、米国の401Kに倣った確定拠出型年金が導入できるようになった。(「エンロン破綻」で、エンロン従業員の401K資産が紙屑同然になったにも関わらず)


◆ 「民営化」と「規制緩和」の冷静な見直し

 このような問題提起の仕方に対しては、“バブル後遺症”が障害になっているという反論や、「民営化」や「規制緩和」が行われたから、ここまでの「デフレ不況」で済んでいるという反論もあるだろう。

 しかし、「規制緩和」の多くが「バブル崩壊」後に実施され、「バブル崩壊」から8年も経過した98年以降、名目経済成長がマイナスを続けているのだから、「民営化」や「規制緩和」が、個別企業の利益はともかく、国民経済を本当に成長させる政策なのかどうかを予断なく考える必要はあるだろう。

4%成長を目指したのに2%成長しか実現できなかったというレベルではなく、「規制緩和」のなかで、さらに不況が悪化し、98年以降、名目GDPではマイナス成長が続いているのである。

 「民営化」と「規制緩和」が推進されたなかでそうなったのだから、現在の「デフレ不況」とは無関係とは言えないはずである。無関係だとか、そのおかげで不況がこのレベルでとどまっていると言い切る人は、“信仰者”であって、官僚・政治家・学者・評論家・メディアなどと名乗るに値しない。

 目論見とは違った歴史的現実が突きつけられているのだから、「民営化」と「規制緩和」が国民経済総体にどういう影響を与えたのか、「民営化」と「規制緩和」が、本当に「デフレ不況」を解消する力になるのかを踏みとどまって冷静に考えなければならないのである。

 とりわけ、「民営化」と「規制緩和」の促進を政策として掲げている政党やメディアは、その責任を負っている。

 「民営化」と「規制緩和」を経済成長の切り札として信仰し、その道に突っ込んでいったら、より酷い「デフレ不況」が待ち構えているかもしれないのである。

 「民営化」と「規制緩和」を柱とする「構造改革」にはどこかに落とし穴や罠があるのではないかと考えるのが、国民全体に責任を負う政府・国会議員・官僚・日銀の責務であろう。


◆ 個別の“真理”が総合の“真理”になるとは限らない

 国鉄も電電公社も大量の人員削減(国鉄は直接的な大量首切り、NTTは出向が中心)で経営を改善し、JRは、国鉄時代であれば考えられなかった異業種(レストランや本屋など)にまで進出し、NTTも、せっつかれてというかたちだが、他社に回線サービスを開放し料金を徐々に引き下げてきた。

 このような意味で、「民営化」と「規制緩和」が、経営の効率化と競争をもたらしたことは間違いない。それにより、利用者の負担が軽減され利便性も上昇したことも否定しない。

 そうであっても、「民営化」と「規制緩和」が、国民経済に不況をもたらし、ついには「デフレ不況」に引きずり込んだ可能性があるのなら、きちんと見直す必要があるはずだ。

 個別企業が利益を拡大する(損失を減少させる)ということは、売上高が一定であれば、労働生産性を上昇させた成果である。労働生産性の上昇は、同一単位を生産するために投じる生産諸手段や労働力の額を減らすことで実現される。(機械設備の改善・余剰人員の削減・稼働率の上昇・原材料価格の低下など)
 売上高が増大していれば、労働生産性が変わらないとしても利益は増大するが、労働生産性の上昇と一体になって拡大が進めば、利益はより増大することになる。

これを国民経済的見方に置き換えれば、総需要が拡大せず一定であれば、機械設備や原材料そして雇用に投じる金額を減少させることで、“特定”企業は利益を増大させることができるという論理になる。
総需要が拡大していれば、同一生産単位に投じられる金額は少なくなっても総額は増大する可能性があるので、幅広い企業が利益を増大できる可能性もある。

 「規制緩和」による派遣業務対象の拡大は、受け入れ企業が、雇用で生じる経費(給与+法定福利厚生費+研修コストなど)よりも、派遣のほうが負担が少ないと判断した結果である。そして、派遣会社は、企業が雇用でかかる経費よりも少ないか同じ金額を受け取ることで利益まで出している。
 これは、同じ仕事をより少ない“給与”でこなすようになったということであり、企業には経費削減や利益拡大をもたらしても、勤労者の可処分所得は減少する可能性が高い。
 このような動きが拡大すれば、個別企業の経費は減少しても、国民経済の総需要が減少する。それにより、経費を減少させることに成功した企業も、売上を減らし、利益を拡大できない可能性もある。
 “木を見て森を見ない”習性を持つ経営者は、そうなったらなったでよりいっそう派遣に頼るようになり、さらに国民経済の総需要を減らす“不幸”を増大させてしまうだろう。


「バブル形成」以前の80年代前半は、円安=ドル高傾向でありながら、80年2.8%、81年2.8%、82年3.1%、83年2.3%、84年3.8%と低成長が続いた。
これらの値は、人口増加や生産性上昇に負う“自然成長率”に近いものである。中曽根内閣は、GDPの3.5%に相当する10兆規模の国債発行で財政追加支出を行っていたので、その支えがなければ、0%成長になっていた可能性もある。

三公社の「民営化」は、そのような経済状況のなかで行われた。

86年以降は、中曽根内閣及び竹下内閣のバブル誘導政策と低金利&金融緩和策の融合により、85年4.4%、86年3.0%、87年6.5%、88年5.3%、89年5.3%と相対的に高い経済成長を続けた。
バブル形成期の経済成長率は、株式取引や不動産取引といった“金融資産の移転”に支えられたものと言えるので、その影響を取り除いた経済成長率は、80年代前半と変わらないか低下していると推測できる。(80年代後半の“不自然な”高成長が、90年代の地を這うような経済状況をもたらしたとも推定できる。需要を先取りしたのである)

このようなことから、80年代以降の日本経済は、“自然成長率”で推移せざるを得ない近代的成熟期にあると言えるだろう。

このような経済状況で個別企業が利益を拡大するためには、国鉄のように、大量の人員整理を行い不採算路線を切り捨てるような手法で生産性上昇を実現するか、NTTのように、データ通信や携帯電話という新規需要の拡大という“時代的な福音”がなければならない。

NTTには通信事業の飛躍的な拡大という好条件があり、国鉄にはそのような好条件はなかった。(NTTは好条件のおかげで国鉄のように大量首切りをしなくても出向で人員整理ができた)
しかし、NTTの好条件も冷静に考えれば、総需要(個人消費の場合は可処分所得で消費に向けられる金額の総和)がそれに見合うかたちで増大していないのであれば、他の商品の売上減少に依存したものとも言える。(わかりやすい例では、携帯電話の普及により音楽CDの売上が減少する)

北海道が陥っている経済的苦境も、国鉄の人員整理や路線切り捨てが集中した地域であったことと無関係ではない。JRに継続雇用された人も東京などに転勤しているので地域総需要が減少し、鉄道路線が切り捨てられた地域は経済活動が低迷することになる。


通信事業について他の需要を奪った可能性を書いたが、通信料金が少しずつ下がっているように、「規制緩和」による価格低下が、他の商品への需要余地を広げることもある。
通信需要が一定で料金が下がればその分支出が浮くので、他の商品やサービスに支出が向けられることになる。

「規制緩和」に限らず競争による価格低下は、国民経済全体の成長に貢献することもある。
輸出企業が、通信費の軽減でコストを減少させ、輸出競争力を高めて売上高を増やすことになれば、「規制緩和」が経済成長に貢献したと言える。
しかし、輸出額も伸びず国内総需要も増えなければ、「規制緩和」によってもたらされるものは、他への支出余地から生まれる消費のバラエティー化か、「規制緩和」商品の需要増大か、貯蓄の増大ということになり、経済成長に必ずしも貢献するとは言えない。

競争環境のなかでコストを下げることで、これまで販売できなかった国際市場に輸出でき、売上を伸ばしていくという高度成長期の日本のようなかたちであれば、国民経済の成長に寄与するが、そうでなければ、成長とはそれほど関係がないということになる。

米国の航空規制緩和で新規参入が相次ぎ、日本の通信事業規制緩和でも新規参入が相次いだように、「規制緩和」は新規参入企業を生み出す。
新規参入は、新たな設備投資や雇用を必要とするので経済成長に寄与することになる。

結論を先取りすると、“成熟期”の「規制緩和」がもたらす経済成長効果は、ほぼこれだけなのである。

米国の航空需要が伸び続けていれば、既存企業も新規企業も利益を得続けることができるが、飽和的状況であれば、シェアの奪い合いのために熾烈な価格競争が起こり、競争力に劣る企業は破綻することになる。うまくいっても、過剰の機材と人員を抱えながら、何とかシェアを分け合いながらしのいでいくことになる。しかし、過剰の機材や人員は、いずれ、売却されたり、解雇されることになる。
米国の航空規制緩和では、既存大手航空会社が新規航空会社を潰す目的で価格競争を仕掛けたことで、ほとんどの新規航空会社が破綻し、大手航空会社がさらに運航シェアを拡大し、運賃も高止まりで推移するという結果に終わった。
国際線や数多くの国内線を保有している航空会社と限定機材数で限定路線を運行する航空会社とでは競争条件が異なる。そして、利益追求という企業の論理から、競争が緩和されると、価格は高くなるものである。
「航空規制緩和」で潤ったのは、今ではネバダ砂漠に保管されている航空機を販売したボーイングやエアバス社であり(需要の先取りだけとも言える)、新規航空会社の株式取引などで利益を上げた金融資本ということになる。
(日本の航空業界も、エアドゥなどの苦境を見れば似たような状況にあると言える)

通信事業の「規制緩和」は、データ通信需要の高まりや携帯電話という新規需要が発生したことから、「航空規制緩和」とは違った推移を見せている。
「規制緩和」による競争の激化が、データ通信の需要をさらに拡大し、携帯電話の脅威的な普及をもたらしたことは間違いない。

問題は今後がどうなるかである。
データ通信は新サービスも始まったばかりだからしばらくは拡大が続くと思われるが、携帯電話は昨年から伸びが鈍化している。
携帯電話事業は、米国の航空事業と同じ道を辿る可能性もあると考えている。
勝ち残るのはNTTドコモだと推測できるが、需要が頭打ちになれば、シェア争奪に向けた熾烈な価格競争が起きるだろう。
その結果が、林立する中継基地の撤去や設備廃棄であったり、失業者の増加であったり、携帯通話料金のアップにつながったりする可能性もある。

「規制緩和」は、供給力の増加により競争を促進するが、総需要が増大しないのであれば、一時的な新規参入効果が得られるだけで、長期的な経済成長にはつながらないのである。

「デフレ不況」という供給過剰=需要不足の典型的な経済状況で「規制緩和」を行うことは、所得水準を保てる人や存続できる企業には価格低下メリットをもたらすとしても、デフレをさらに進めることで、所得水準を保てない人や存続できない企業をさらに増やし、「デフレ不況」をより悪化させる可能性が高いのである。


説明してきたように、総需要が増大しない限り、「民営化」や「規制緩和」を推進しても、経済成長が達成できるわけではない。
それどころか、労働力市場の「規制緩和」に代表されるように、それ自体が総需要を減少させてしまうものもある。

個別企業の正しい判断が、国民経済総体にとって好ましい結果をもたらすとも限らないし、当該個別企業に好ましい結果をもたらすとも限らないのである。

「構造改革」という金看板のもとで進められようとしている「民営化」や「規制緩和」は、危険な毒を含むものであり、「デフレ不況」をさらに悪化させかねないものである。

個別企業の経営者であればやむを得ないが、政治家や官僚は、“総合の誤謬”を常に念頭に置きながら政策の妥当性を考えなければならない。


ケインズ主義はおよそ40年で、マネタリズムはおよそ20年で、その理論的有効性を失った。
マネタリズムに最後通牒を突きつけたのが日本経済でありながら、その渦中にいる日本の政治家や官僚が、さらにマネタリズム的政策を拡大しようとしているのは何とも言えない皮肉である。


次回からは、これから先の世界経済や日本経済について考えていきたい。
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※ 前半部分が終わったので、これまでアップした内容を「論議・雑談」ボードにまとめてアップします。一部加筆したものになっています。

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