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【世界経済のゆくえ】副読本:“村落共同体”阿修羅村の顛末 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 22 日 21:05:39:

(回答先: 【世界経済のゆくえ】「近代経済システム」における利潤と経済成長の源泉 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 22 日 19:20:42)

阿修羅村は、田畑を耕す農民を中心に、紡織・織物までを含む衣服製造屋、家庭用品から農機具・織物機などまで造る鋳掛け屋がいる。
それぞれの経済主体が余剰(自分が必要な量を超える)を生産しており、他の経済主体と自分が生産した物を交換することで、自分が生産していない物を手に入れるという経済生活をしている。そして、面倒な余剰生産物交換を引き受ける商人もいた。

お利口な商人が、今で言う地域通貨を思いついた。
河原の石を拾ってきて偽造されないよう独特のデザインを施し、1円・10円・50円・100円の通貨を用意した。1人が一日平均で必要な生活費を100円とした。100円は、日々の食糧+(年平均の被服費+家庭用品+農機具などの生産財)/365に相当するものである。

商人は、農家を回って、この石貨幣を持ってくれば店で売っている商品は何でも買えるから、米と野菜をこれで売って欲しいと頼んだ。商人は信頼を受けていたので、「よござんす」と快く受け入れられ、米と野菜を仕入れることができた。他の経済主体も、同じようにこの条件を受け入れた。

すぐに農家以外の経済主体たちが石貨幣を持って店にやってきて、米や野菜を買っていった。2、3日すると、農家もぽつぽつと石貨幣を持ってきて、それぞれ欲しいものを買っていった。商人は、集まった石貨幣を持って、在庫が少なくなった物を仕入れにいった。

商人は、99円で仕入れた物を100円で売ることで余剰になった石貨幣で、自分の店から自分に必要な商品を買うことにした。

商人がつくり出したこのシステムは、これまでだらだらと生活していた人々(共同体成員)の考えを少しずつ変えていった。石貨幣があれば、いつでも好きな物が手に入ると考え、自分の商品を少しでも多く生産しようとしだした。

商人がなかなか仕入れに来てくれないので、せっかく造った物が棚晒しになる経済主体もいれば、仕入れに来てくれたのに販売できる余剰物がないという経済主体も出てきた。

生産したものが売れなくて生活に困った鋳掛け屋は、商人に頼み込んで、ツケで必要な物を売ってもらった。(商人は、何人かが深鍋ではなく平たい鍋(フライパン)が欲しいと言っていたと話し、それを造ってみたらどうだいと言い、ツケの利子はいらないよと念を押した。商人にしてみれば、鋳掛け屋が食糧を買いに来てくれなければ腐ってしまうので、それで問題はなかった)
フライパンという新しい商品はけっこうな人気で、鋳掛け屋は、ツケの分もすぐに支払い、その後も様々な商品を開発しようとした。

ある時期、天候不順で野菜のできが悪くなった。これまで、99円で10単位だった野菜を99円で8単位仕入れ、それを100円で売ることにした。文句が出るかなと思っていたが、みんな事情を知っているので、「10単位が120円になるよりもいい。一日の生活費は決まっているから、それで買える分が少なくなって、その範囲で我慢するほうがいい」と言ってくれた。商人は、野菜ができ過ぎたときは100円で12単位にするなどの調整を行ったので、みんなも仕組みが理解できた。

商人は、共同体成員のみんなに、とにかくすべての生産物をいったん自分に売って、支払う石貨幣で自分が生産した物も買ったらどうだいと提案した。
農家も米の保管は面倒だということでその案に賛成し、この共同体は貨幣経済社会に変貌した。

この改革により、石貨幣の発行量は飛躍的に増え、1万円だったものが、10万円になった。しかし、共同体成員の生活内容がことさら変わったわけではない。

あるとき、商人は、石貨幣の発行量を12万円にした。そう思ったきっかけは、鋳掛け屋が、これまでと同じ商品をきちんと同じ量だけ生産しながら、新しい商品も追加で生産するようになったからである。それを売れると見込んだ商人は、これまでと同じ単位当たり価格で新商品を仕入れるために、石通貨の発行量を増やしたのである。

鋳掛け屋は、1ヶ月間に販売した金額を計算して喜んだ。これまでよりも2万円も増えたからである。そして、これまでは半年に1着と決めていた仕事着を3ヶ月に1着にしたり、かみさんにも新しい着物を買ってやったりした。鋳掛け屋は、「工夫だよな。これまで10個しか造れなかったのに、あの工法を編み出したおかげで15個も造れるようになったんだから」と納得した。

商人は、鋳掛け屋から仕入れた商品が思うように売れないことに気づいた。計算すると、鋳掛け屋から仕入れた商品は、これまでとまったく同じ量しか売れていなかった。
また、着物が欲しいという農家がやって来たが、在庫がなくて売ってやれなかった。フライパンはどうだいと言ったが、「そんなもんはいらん」と断られた。
鋳掛け屋も、3ヶ月後にまた新しい仕事着が欲しいとやってきたが、作業着は鋳掛け屋だけが必要な物だったので、織物屋は作業着を半年に1着しかつくっていないので売れなかった。

鋳掛け屋は精を出して商品を造り続けたが、商人は仕入れになかなかやってこない。それで、商人のところに出向くと、「昔と同じ量しか売れないから、前に仕入れた物がなくなるまで仕入れられん」と言われた。
鋳掛け屋は、「そりやぁーないでしょ。前に買ってもらった分のお金が少しは残ってるけど、着物や作業着を余分に買っちまったんであと数日で食っていけなくなっちまう」とくってかかった。
商人は、「どうしようもなくなったら、前と同じようにツケで必要な物を売るから。ところで、どういう仕掛けであんなに物がいっぱい造れるようになったんだい」とたずねた。造る手順を変えたという事情を聞いた商人はしばらく考え、「それじゃあ、1個の値段をさげなきゃあ無理だな。こんな物があれば便利なんだがと言う人はいるんだから、売れないわけじゃない」と説明した。しかし、一度高く売れた快感を知っている鋳掛け屋は納得しないまま帰っていった。

商人は、いろいろ考えた結果、“商いをやっているから原因はわかっている。鋳掛け屋以外の商品の価格も5割アップにすることにしよう”という結論に達し、石貨幣の発行量を増やした。

食糧も衣服もみんな仕入価格と販売価格が5割アップになった。
鋳掛け屋のところにも出向いて、商品を前回と同じ価格で仕入れてやった。

鋳掛け屋は他の商品が高くなったことが気に入らなかったが、他の人は、生産した物が高く売れるようになり、家庭用品もいろいろ買えるようになったので喜んだ。

商人は、“これはなかなか面白い仕掛けだ。これで、この村を豊かにしよう”と考え、衣服屋に、工夫で生産量を増やせば同じ単位価格で仕入れると持ちかけた。
織物屋も、何とか工夫して生産できる量を増やそうとし、製造工程を改良した。衣服の生産量も、10単位から14単位に増えた。商人は、それをこれまでと同じ単価で仕入れ、しばらくしてから、他の商品も4割アップの価格にした。

食糧生産はさすがに思うように増えなかったが、それなりに“仕掛け”が効を奏した。
農機具にプレミアムを付けると、鋳掛け屋が頑張って画期的な道具を造った。

このような商人の策動とみんなの頑張りにより、この村落共同体は、まわりの村落共同体がうらやむような豊かな生活をするようになった。

商人は、にんまり笑って、“利潤という考え方があるようだが、誰も石通貨を後生大事に抱え込んでいるやつはいないから、利潤とやらは誰も手に入れなかったんだろうな。他にもGDPとやらの考え方があるようだが、それによるとインフレ分は調整するってことだから、石通貨単位での値は増えているが、この村落共同体のGDPは貨幣経済に移行してから何も変わっていないことになる”と思った。

しかし、商人はふとしたことから、“利潤とやらを手に入れたいし、GDPも上げてみたい”と考えた。
どうにも捌けない余剰物資が出始め、困っていたところだった。
“よその村に、余剰物を売るというのはどうだろう。他ではつくられていないものもあるし、効率よくつくっているものもあるんだから、商売にはなるだろう”と考えた。

歩いて半日あたりにある梵天村に出向き、ある衣服屋に行くと、自分の村ではつくられていない高級品をつくっていた。衣服屋に「それをこの石通貨で売ってくれないかい。ご存じのようにうちの村ではいろいろな物がつくられている。この石通貨で、いつでも買えるから問題はないだろ」と話した。衣服屋は、「これはうちの村で他の物と交換するためにつくっている。相手も決まっているからだめだ」と答えた。

商人は、物々交換の村で商売するのは難しいと考え、その村の代表者に、石通貨を使うことを提案した。代表者は初め疑心暗鬼だったが、商人の村で成功していることを噂で聞いていたので了承した。
商人は、その村にも店舗を構え、自分の村で使っている石通貨とはデザインを変えた石通貨を発行し、貨幣経済の体裁を整えていった。

高級品を造っている衣服屋も生産効率を上げるのに成功したので、高級衣服を仕入れた。そして、石通貨を手に入れた衣服屋に、阿修羅村の鋳掛け屋がつくった余剰品を販売した。

梵天村の衣服屋は、自分のところの鋳掛け屋がつくったものより安いのでびっくりした。その噂は瞬く間に村中に広がり、安い家庭用品を売ってくれるようにと数人がやってきた。
阿修羅村の鋳掛け屋は、農家の息子でぶらぶらしている人も雇って、家庭用品を増産した。少し修業すると誰がつくっても同じ効率で同じ品質のものが造れる仕掛けができていたので、2倍の量が生産できるようになった。

商人は、家庭用品の価格がびっくりするほど違うのなら、自分の村と同じ価格にする必要はないと考えた。その価格差を、鋳掛け屋と折半することにした。梵天村の分だけでも仕入価格が高ったことに鋳掛け屋は喜んだ。
梵天村で仕入れた高級衣服は、鋳掛け屋に売れた。


新しく貨幣経済になった梵天村で、ある騒動が持ち上がった。
梵天村の鋳掛け屋が、よそから物が安く入ってくるので、物を造っても売れなくなって困っているという。梵天村では代表者を中心に話し合いを行ったが、鋳掛け屋以外のほとんどは、安い家庭用品が買えるほうを選択した。
鋳掛け屋一家は、村の片隅で小さな畑を耕し、なんとか自給自足で生活するようになった。

しばらくすると、梵天村の農家からも文句が出始めた。商人が、自分の村の余剰農産物を販売し始めたために、売れる量が減ったからである。農家は売れ残ったものを自家消費した。

またまたしばらくすると、梵天村の衣服屋が怒鳴り込んできた。「これを見てみろ。おれんちが造っていたやつと同じような高級衣服じゃないか。それに、普及品もどうも売れなくなったと思っていたら、あんたが自分の村から持ってきて売ってるそうじゃないか。どうしてくれるんだ、だましたな!」と叫んだ。

阿修羅村の衣服屋は、工夫を重ねて高級品を効率よくつくれるようになり、その副産物で普及品も効率よくつくれるようになっていた。ひとも雇い入れたいと思うくらいに生産物は順調に売れていた。

阿修羅村では、みんなが祭りを楽しんでいる。身につけるものも様々で華やかになり、土間にある家庭用品もバラエティーに富んでいる。祭の祝宴も豪華なものだ。
農家の三男坊のなかには、それまでみんなで建てたり補修していた家屋を石貨幣で請け負ったり、めし処を開業するものも現れた。そういう連中が独立していったので、家庭用品も多く売れるようになった。
阿修羅村では、同じ貨幣量で買える物が増え、1ヶ月平均の貨幣受け取り額を増やす人も増えたので、売れる量はさらに増えた。お金を床下に保管する人まで出てきた。

商人は、阿修羅村の石貨幣発行量が増え、梵天村の石貨幣が発行量ほど使われていないことに気づいた。梵天村で売るものを仕入れるときにも、阿修羅村の石貨幣を増発して使っていた。
梵天村で使う石貨幣が減ったのは、つくっても売れない経済主体が店をたたんだりしたために、仕入れる量が減っていたからである。


数年が過ぎ去った。

阿修羅村は、相変わらず祭りを催しているが、人々の顔には精気が見られない。
祭りを楽しんでいるくらいだから、生活に困っているわけではない。
鋳掛け屋がつぶやいた。「昔は、1年ごとに何とか農家に頼み込んでひとを増やしてやっと対応できるくらいで売上が伸びたのに、今ではほとんど伸びがないどころか、ときには売上が落ちたりする。あのわくわくするような時代が懐かしい。まあ、借金していないだけましか」
他の人たちも同じような気持ちを抱いていた。


梵天村では、農家も含めてみんながつつましやかな生活をしていた。
衣服屋は、ある農家に、「阿修羅村が人手不足で助かった。阿修羅村の衣服屋が人をどんどん増やしていたら、わしは首くくりだった。阿修羅村から少し安い食糧品が入ってくるから、前よりも少しだけつつましやかな食事をとれば生きていける」と話している。それを聞いた農家は、「うちなんか、余った食糧をみんなで食ったおかげで女房がぶくぶくに太っちまって動けなくなった。今では、耕す畑を減らしたがな」と応えた。
村の代表者は、寄り合いでみんなに、「ずっと遠くの村では、鉄砲を持った商人が襲ってきて、村の畑の半分を茶畑に変えたそうだ。茶畑で働いている人もいるそうだが、商人が持ち込む食糧も高くて、みんながやっと生きているという感じだという。できたお茶葉は、阿修羅村にも売っているそうだ」と話した。


阿修羅村に溢れている石貨幣を見た商人は、“そろそろ、新しい手だてを構じないと、石貨幣で物を売ってくれなくなるかもしれないな。買う物がないんじゃなあ。う〜ん、株式市場という面白い仕組みもあるそうだか、阿修羅村では無理だな。そうだ、富くじでもやるか。富くじ熱で、しばらくは石貨幣が通用し続けるだろうって”と考えた。
そして、「遠くの国では、金を貨幣として使っているところもあるようだが、金だろうが、石だろうが、紙だろうが、本質的には同じなんだがなあ」とつぶやいた。


阿修羅村と梵天村、そして、利口な商人は、どういう解決策を見出すのか、それとも、このまま進んでいくのか...。

みなさんも、この二つの村がどうなるのか、それが困った事態だと思われるのなら、そうならない手だてがあるのかを考えて欲しい。

梵天村の一つの解決策は、米国が続けてきたように、阿修羅村から借金をし、そのお金で阿修羅村の品々を買うことである。そして、それは阿修羅村につかの間の精気を甦らせることもである。


お暇な方は、別の物語や続編をレスとしてお願いします。


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