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第3回中央銀行共催リサーチ・コンファレンス*における山口副総裁講演(2002年 3月11日・日本銀行) 投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2002 年 3 月 11 日 19:48:17:

(回答先: 山口日銀副総裁「伝統的な最後の貸し手めぐる議論に再考も」−講演録(東京 3月11日ブルームバーグ) 投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2002 年 3 月 11 日 14:23:02)

システミック・リスク・コンファレンス発足後の6年間

第3回システミック・リスク・コンファレンスに出席することができて大変うれしい。本テーマは、1995年の第1回会合以来、ますますその重要性を増しつつあり、国際的なコミュニティで大変な注目を持って受け止められている。これは、多くの国際的なフォーラムにおいて、グローバル・マーケットでシステミック・リスクを引き起こしかねない潜在的な金融の脆弱性を見つけだそうと近年努力していることからも自明である。実際、「システミック・リスク」という言葉を耳にすると、私自身の国であまりに現実的な含意を持つために、残念ながら少し落ちつかない気持ちになる。私は、本コンファレンスを共催しているCGFSの議長として、皆様とシステミック・リスクについて新たな発見を共有できることを期待している。
本コンファレンスの目的は、システミック・リスクの発生・伝播メカニズムに対する洞察を深めることにある。第1回コンファレンスからの6年間、金融の世界は大きな変遷を遂げてきた。その結果、コンファレンスの焦点も年とともに変化してきた。危険を承知で敢えて単純化して言えば、95年の第1回会合では、当時先進金融機関で定着しつつあったVaRを用いたリスク計量化の手段とその評価が中心的な研究課題であった。しかし実際には、97年に発生したアジア危機は、標準的なVaRの想定を超えるイベントによって引き起こされた。当然のことながら、98年の第2回会合での議論は、アジア危機に強い影響を受けた。そして、マーケット・マイクロストラクチャーが、ストレス発生時のマーケット・ダイナミクスの解明に役立つ概念として認識されはじめた。そして、本日の第3回会合においては、こうした分析がさらに深められ、ストレスの発生・伝播メカニズムを強く意識した研究が数多くみられるようになった。


システミック・リスクに関するトライアングル・ビュー

本コンファレンスの歴史を振り返ると分かるように、システミック・リスクは実際の危機において複数の側面を有しているため、それらの関わり合いをより深く検討する必要がある。伝統的に、すなわち狭義に捉えた場合、システミック・リスクは銀行の問題に限定されていた。銀行で発生したストレスは銀行システムに波及してシステミック・リスクとなり、それが実体経済に負の影響を与える。この銀行を中心としたリスク伝播は現在もなお確かに存在している。実際、現存するセーフティ・ネットの多くは、銀行システム内の連鎖反応を防ぐことを企図している。しかしながら、今や金融市場の存在が、ストレスを実体経済との間で伝播させるうえで重要な役割を果たしていることを忘れてはならない。
金融市場とそのダイナミクスの重要性は、日本、アジア、ロシアそしてLTCM危機の経験からも浮き彫りにされる。ロシア、LTCM危機がそれ以前の危機と異なるのは、金融市場が銀行危機を伴うことなく、機能停止してしまった(seized up)点にある。資産価格の急速な悪化は金融システムの混乱を引き起こす。例えば、97年から98年にかけて生じた日本における一連の大手金融機関の破綻は、デフォルトではなく、市場における金融機関の信認の急速な低下が引き金になった。ある銀行の信用状況を市場が疑問視するようになった結果、その銀行の株価や格付けが下落した。すると、市場へのアクセスが制約され、資金調達が困難となった。銀行は急場を凌ごうとして懸命に資産の投げ売り(fire sale)を行ったが、これが却ってバランスシートの劣化を招き、株価は一層下落した。こうした自己実現的なスパイラルにより、いくつかの金融機関が立ち行かなくなった。同時に、資産価格の悪化により、企業部門の資金調達は一層困難化した。よく知られているクレジット・クランチのプロセスである。
クレジット・クランチは、通常、銀行システムの機能不全に起因する。これは、このような現象の一面に対する正しい観察である。ただし、より深い観点からみると、そのプロセスはもっと複雑なものであることがわかる。貸し手は借入れ需要がないと不平を言う一方、借り手は銀行の信用基準が厳しいと非難するといった状況を我々は目の当たりにしてきた。また、企業のバランスシート、資産価格、銀行の資本ポジションを経由して、実体経済から金融システムに向かうフィードバック・メカニズムが重要であることも疑うまでもない。
私は、未解決の日本経済の問題からは無論のこと、特定の過去の危機のエピソードから断定的な教訓を引き出そうとしているわけではない。ここ数年の経験から言えることは、システミック・リスクは複合的に生じるということである。システミック・リスクは、市場リスク・流動性リスク・信用リスクが複雑に作用しながら顕現化していくものであり、リスク・カテゴリー毎に分断されたアプローチでは、ごく一部の側面しか捉えることができない。求められているものは、「システミック・リスクのトライアングル・ビュー」、つまり銀行システム、金融市場そして実体経済間の相互関係をカバーする包括的な分析である。システミック・リスクの本質を理解するためには、ロス分布の「ファット・テイル」に関する分析を精緻化するのと少なくとも同等以上に、マーケット・マイクロストラクチャーをより深く理解する必要があると考えるのは、こうした認識が背景にあるからである。マーケット・マイクロストラクチャーに焦点を当てることは、様々なリスク・ファクター間の相互関係を解明することに役立つ可能性がある。ストレス下において、異なる予算制約や情報制約に直面している各市場参加者にとっての合理的な行動とはどのようなものか、また、そうした市場参加者の行動がどのようにして資産価格に影響を及ぼし得るのか、といったメカニズムは特に重要な分析対象である。

戦略的な相互作用(Strategic Interaction)

日本のケースを含め近年生じた一連の金融危機は、伝統的な経済学が教えるような、個々の市場参加者が独立して、自らの価値基準に基づいて行動した結果の単なる集積という説明を無効にしているようにみえる。こうした限界に挑戦するため、市場参加者間の「戦略的な相互作用」の観点から、金融危機を解釈しようという研究が増えてきている。その背景としては、以下のことが指摘できる。
戦略的な相互作用とは、各市場参加者が他の市場参加者の反応を推測することによって、自分自身にとっての最適戦略を模索するプロセスと定義できる。今回会合に提出された幾つかの論文でも、この点が取り上げられている。群集行動(herding behaviour)は、その一例である。市場で多数を占める小規模の投資家は、少数ではあるが大規模な投資家の行動に追随する傾向がある。一旦ストレスが生じると、こうした行動形態は、市場のセンチメントを一方向に向かわせることを通じ、市場内もしくは市場間でストレスを加速し、伝播させる可能性がある。政策当局の観点からみると、現象としての群集行動に対処することは困難である。しかし、もし我々がこうした現象を、市場参加者間の戦略的な相互作用の結果として理解する場合、群集行動を引き起こすリスクを軽減するための鍵を見つけられるかもしれない。
こうした研究例を私なりに解釈すると、金融危機が顕現化するかどうかは、市場におけるストレスがシステム全体にとっての脅威として市場参加者に認識されたときに、彼らのうちどの程度の数の市場参加者が「危機の顕現化」を信じるかという点に強く依存しているということだと思う。言い換えると、危機とは必ずしも突発的出来事ではなく、市場参加者の期待形成の帰結なのである。彼らの期待は、危機の兆候に対する他の市場参加者の反応に関する推測に基づいて形成される。また、そうした危機の予兆に対する市場参加者の反応の集積が、フィードバック効果として、危機の大きさや伝播範囲に決定的に影響を与える。フィードバック効果は、危機を加速させる効果も有している。こうした説明は、システミック・リスクの発生メカニズムや政策対応のあり方を考えるうえで、極めて有益な視点を提供しているように思われる。
戦略的な相互作用の考え方は、金融市場のストレス耐性を高めるための道筋を示唆している。考えられるアプローチのひとつは、将来の危機に関する見通しをよくする(enhance the visibility)ことである。ここで、ストレスにつながる一連のイベントから成るシナリオがあると仮定しよう。もし、市場参加者がこのようなシナリオが将来市場に対して重大な影響を及ぼすと考える場合、彼らはそのシナリオの下で顕在化するであろう損失を回避するために、予め何らかの行動を起こすだろう。市場参加者が危機回避に向けた行動を、時間をかけてかつ個別に行う場合、現実にイベントが発生したときの衝撃は軽微にとどまり、ストレスは顕現化しないと考えられる。言い換えると、ストレス・シナリオは、一度それが広くストレスとして認識されると、もはやストレス・シナリオではなくなってしまうのである。実際、我々は金融市場において、このような種類のエピソードを観察してきている。例えば、会計ルールの変更が提案されると、市場関係者の間でその影響を懸念する声が強まることがある。しかし、実際にルール変更が実施されたとき、懸念されたほどの影響が出ることは稀である。こうした経験に基づくと、私はストレスに関する見通しをよくするというアプローチは魅力的であると思う。CGFSが試験的に行っている「マクロ・ストレス・センサス(macro stress-census)」は、市場参加者と中央銀行の間でストレス・シナリオを共有するための選択肢のひとつであろう。それは万能薬にはなりえないかもしれないが、今回会合での議論により、その有用性が裏付けられることを期待している。

中央銀行にとってのチャレンジ

スピーチを締めくくる前に、システミック・リスクに関して中央銀行が直面している課題を整理しておきたい。第1回会合からの6年間に、私たちは実際の金融危機への対処や本コンファレンスのような知的な交流を通じ、システミック・リスクについて多くのことを学んできた。しかしその一方で、次々に新しい疑問も生じ、多くの課題が未解決のまま残っている。この点は、金融危機に対する中央銀行の政策対応という面でも同様である。
危機への対応という面では、一般的には危機を未然に防止するという意味での予防的(preemptive)な観点とともに、危機が顕現化に向かうステージに入ってしまった場合にどのように対応すべきかという点(after-the-fact measures)が重要であると認識されている。しかし、金融市場のグローバル化の進展に加え、金融統合の結果巨大な金融機関や複雑な構造を持つ金融コングロマリットが次々と誕生していることもあって、システミック・リスクがひとたび顕現化した場合のコストは膨大なものとなる可能性がある。そのため、銀行経営の健全性確保とともに市場規律を強化することは本質的なことであり、国際的なコミュニティは、共に真剣な取組を続けている。
しかしながら、どんなに私たちが事前的な備えを十分にしたつもりでも、私たちの予見能力を上回るスピードで金融仲介業が進化を続ける中にあっては、残念ながら危機を未然に封じ込める努力が常に成功するとは限らない。そうした可能性が残されている以上、中央銀行はガードを緩めることはできない。危機管理を考えるうえでは、金融環境の変化は、従来当然と考えられていたことの再考を促しているように思える。
例えば、モラル・ハザードを抑制することは一般論としては当然である。しかし、顕現化しつつあるシステミック・リスクに対応するには、その影響が破壊的であるが故に、人工的にモラル・ハザードを作り出すことによって、鎮静化を図らなければならないという矛盾する側面があることを見過ごすべきではないだろう。現実の政策対応において、当局はシステミック・リスクの抑止とモラル・ハザードの極小化というトレード・オフの中で厳しい選択を迫られる。中央銀行の「最後の貸し手」機能も、その一例である。伝統的な考え方によれば、最後の貸し手機能は、銀行のみを対象としている。しかし、既に述べたように、金融市場自体がシステミック・リスクの発信源となり得、しかもその金融市場には銀行だけでなく、多くのノンバンクや金融コングロマリットが参加しているという現実は、伝統的な最後の貸し手に関する議論を再考する必要があることを示唆している。さらに、この点に関連して、最後の貸し手のような政策を発動する際には、従来は「建設的曖昧さ(constructive ambiguity)」が基本理念とされてきた。しかし、90年代後半の日本において、現実に危機が顕現化しつつあった段階で、私たちは憶測の余地を極力排し、かつ政策の透明性とアカウンタビリティを確保することも必要であると認識した。建設的な曖昧さの実践的な意義という問題は、曖昧さを残す事なく探求を続けるべき課題であると思う。

結語

以上述べてきたように、中央銀行にとって残された課題は多い。本スピーチを締めくくるに当たって、中央銀行はその責務を果たすため、それらの課題の達成に向け引続き取り組んでいかなければならないことを再度強調しておきたい。中央銀行の責務は、次の事実に起因している。第1に、中央銀行は、システミック・リスクを生み出す銀行システム・金融市場・マクロ経済というトライアングルすべてに関わり合いを持つユニークな経済主体である。第2に、中央銀行は、危機時において機動的な流動性供給の役割を担うことができる主体として、おそらくほとんどすべてのシステミックな危機と対峙せざるをえないと考えられている。幸い中央銀行には、マーケット・ダイナミクスに関するリサーチの蓄積がある。しかし、その蓄積に対し、自己満足に陥ってはならない。残された課題に答えるためには、また、既存の概念を見直すためには、実際に金融市場に関する生きた知識を有する市場参加者の皆さんや、基礎的な研究を積み重ねている学界の皆さんとの継続的な対話が求められる。この点において、この一連のコンファレンスが、中央銀行が刺激を受ける(inspire)貴重な場であり続けることを切に願っている。
ご清聴感謝する。
以  上

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