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報道されないコメのJAS法改定ショック 萬晩報 投稿者 小耳 日時 2002 年 10 月 31 日 09:06:45:

2002年10月29日(火)萬晩報通信員 五十嵐正康

 私は福島県会津坂下町で田圃を4ヘクタールほど作っている農家です。昨年か
ら有機JASの認定を受けて今年は3ヘクタールほどを有機無農薬で作付けして
います。そんな私の目から見たコメの表示に関する問題提起をさせてもらいたい。

 昨年改正されたJAS法の表示規定で、あまり公にされていないが、農家にと
ってはかなり大きな問題となる文言が盛り込まれた。実は改正後、食糧事務所の
検査を受けなければ「生産年」と「銘柄」を表示できなくなったのである。つま
り農家がコシヒカリを栽培して自分で袋詰めして「14年産コシヒカリ」として
販売する場合、食糧事務所の検査がないと、事実上の「偽装」と同じ罪に問われ
るということである。

 消費者側から見ればこれは当たり前に思われるかもしれないが、農家側から見
ればコメをJA経済連に集めるための「嫌がらせ」とも思える法律である。表面
的には検査により一定の品質保証があると受け止められるかもしれないが、逆に
考えれば検査を受ければ2等米だろうが3等米だろうが生産年と品種を表示でき
るということである。しかも精米に対する検査等級の表示義務は唱われていない。
また検査の等級が食味を反映しているわけでもなく、さらに精米の品質と一致し
ているわけでもない。

 ●第一のハードルは検定済み30キロ入りコメ袋

 実際に今年我が家のコメの検査を受けようと地元の食糧事務所に赴いてわかっ
たことは、農家が自分のコメを検査してもらうのが、事実上不可能に近いという
事実である。まず検査を受けるには「国の検定を受けた30キロ入り米袋」に入
れなくてはいけない。この袋は農業資材を売っているホームセンターなどでは入
手が困難である。一方で、JA農協は昨年から農協に出荷しない農家へ米袋の斡
旋はしてくれなくなっており、出荷農家へも農協出荷予定分の数量しか袋を斡旋
してくない。

 農協以外の民間のコメの集荷業者の協会で作っている検定を受けた袋も食糧事
務所には、印刷の表示の問題で協会員以外の検査では受付しないようにというお
ふれが出ているそうである。我が家のすぐ近くに米袋を作っている大手企業の工
場があり以前はそこで100枚単位だと袋を売ってくれたのだが、地元の農協の
圧力もあり、今は個人には一枚も販売してはくれません。自分で袋を作るという
手も残っているのですが、判代が30万円、そのほかに袋とそれの印刷代がかか
ります。しかもロットは数千枚から......。

 ●第二のハードルは検査場所

 さらに検査場所の問題がある。検査するにはコメを検査をしてくれるところま
で運ばなければならない。農協の倉庫は農協出荷以外の農家には場所を貸してく
れるべくもありません。検査をうけるには数十俵ずつトラックに積んで、食糧事
務所の駐車場まで運んでトラックに積んだまま検査を受け、また家まで運んでト
ラックから降ろし倉庫に積み直すという作業を繰り返さなければなりません。食
糧事務所から近い農家は往復1時間もあれば食糧事務所まで行って帰ってこれる
でしょうが、片道1時間もかかる農家は大変です。ここにコメの積み卸しの時間
が加算されます。今のところ農家まで赴いて検査をするという体制は取られてい
ない。田圃を2ヘクタールも作っていたら大変。作業は一日では終わらない。

 では農家はどうやって検査を受ければよいのだろうか。

 まず検定を受けた袋を何とか入手し検査請求の書類を食糧事務所に提出し、検
査官が事務所にいる日時の指定をうけ、その日のうちにコメを運んで検査を受け
なければならない。この時期、検査官は各農協や集荷業者の倉庫で検査に大忙し
で、しかも土日祝日以外の9時から5時と公務員の就労時間内に完了しなければ
ならない。

 規模の小さい農家は全量を農協出荷するのが最良の方法だろう。そうすれば販
売のリスクもなくなり、表示の罪に問われることもない。ただ農協の買い上げ価
格は安く、経営的にやっていけなくなるというリスクを伴う。減反政策に反対し
て農協に出荷できない農家は銘柄も産年も表示しないで「ただのコメ」として販
売するしかない。コシヒカリと表示すればJAS法の表示義務違反の罪に問われ
かねないからだ。兼業をしながら自分でコメを販売している農家は結構いるのだ。

 さらにこんなこだわり農家もいる。消費者であるお客様に美味しいコメを届け
ようと、コメをモミのままで貯蔵している農家だ。確かにモミで貯蔵して精米直
前に籾すりたコメは味がよい。こういう農家はモミのままでは検査を受けられな
いので、籾すりをしてコメを玄米にするたびに食糧事務所に持ち込まなければな
らない。しかも4月から8月までは検査の受付をしないから、その期間は「ただ
のコメ」と表示して売るしかない。

 ●胸を張って売れない悲しさ

 このJAS法改正は、確かに不正表示の防止や、産地の保護、消費者への啓蒙
という意味では今の日本に必要な法律の一つであるというのは間違いない。ただ
しコメの銘柄表示に関してはこんなふざけた法律はないというのが私たち農家の
見解だ。自分で自分のコメを正当な表示をして販売できないというのは悪法以外
の何者でもない。これだけ、地産地省や都市と農村の交流が叫ばれているなか、
自分で作ったものを直接消費者に胸を張って販売できないというのは大問題であ
ると言わざるをえない。

 消費者側にとってもいいことずくめではない。たとえば、美味しい会津のコシ
ヒカリがほしいと農家に頼んで送ってもらった米袋には「ただのコメ」としか書
いていない。問い合わせてみると中身は確かにコシヒカリであるという農家の返
事。コメが美味しければそれで良いということであればそれはそれでいいが、確
実にコシヒカリであるという証拠はどこにもない。農家は美味しいコシヒカリと
同時に美味しいひとめぼれも作って販売しているかもしれないし、何かの間違い
で袋を取り違えるということもあり得るからだ。極端な例だが、そんな間違いは
起こらなくても疑り深い消費者は「銘柄の表示がない」ということだけでその農
家からのコメの購入をやめてしまうかもしれない。

 りんごだって今時「ただのりんご」としてスーパーで買ってくる人はいないだ
ろう。りんごを買うときにはフジが好きだとか、昔懐かしい紅玉がいいだとか、
消費者のこだわりがそこに反映されるものだ。りんごには検査を受けないから銘
柄を表示できないという法律はないはず。なぜコメだけにそんな法律が作られた
のだろうか。この法律が厳格に摘要されると、自分でコメを販売しようという農
家の意欲がそがれるのは間違いない。農家はコメを小口で消費者に販売するより
も、安くてもまとめて農協や民間の集荷業者に出荷した方が安心ということにな
る。

 農協に出荷するには「とも保証」と呼ばれる制度(減反達成互助制度のような
もの)に加入して、減反を100%達成していることが必要。達成していないと
集荷の価格は一俵あたり数千円ずつ安く買いたたかれ、民間の集荷業者も行政か
らの要請で農協と同じ対応を取らされているようだ。

 やる気のある農家はこれに反発して独自の販売ルートを開拓し、自分の将来を
切り開く努力をしている。大規模営農者は独自に検査を受けて販売ルートを維持
できるだろうが、小規模の農家にとっては事情が違ってくる。まず法律の適用が
厳格になると、今まで自主流通米として集荷してくれていた民間の集荷業者が未
検査米の集荷には消極的になることが考えられる。今のところそのような状況ま
でにはなっていないようだが、そうなると売り先をなくした農家は先ほどのよう
に全量JA経済連に出荷するしか販売方法がなくなってしまう。さらに農協出荷
ではちょっとした問題がおきる。農協は「だれだれさんのこだわりのコメ」など
と区別して売ってくれる仕組みがないので、こだわりをもって、減農薬や天日干
し、籾貯蔵という方法で付加価値を付けて販売しようとしている農家の努力が報
いられなくなる。

 ●一致するJAと農水省の思惑

 そのあたりの話を聞くと、この表示法改正はコメを全量、自分の所に集めたい
経済連(農協)と、減反を100%達成させたい農水省の思惑が一致した結果で
きた法律のように思えて、農家としては非常におもしろくない話となる。検査と
いっても見た目だけを検査するだけで、使用した農薬の種類、量、時期を確認す
るわけでもなく、コメの銘柄の生物学的な確認をしているわけでもないという矛
盾が見えてくる。

 いったいこの法律は誰のための法律なのだろうか。JAS法自体は今の日本に
取って、必要な法律であると思うし、ヨーロッパ的な原産地の考え方を日本人に
広めるという意味ですばらしいものなのだが、コメの銘柄表示の部分だけは一部
の人々の利益を誘導うるためだけに付加されたと思われて、疑問に思わずにいら
れない。

 ちなみに我が家はといえば、JASの有機の認証を受けていてそのコメを民間
に出荷するためにわざわざ山形の知人を伝に検定袋を入手して、これから20俵
(1.2トン)ずつ食糧事務所前まで運び検査を受ける予定だ。ただ同じことを
兼業の農家がやるのはかなり難しいと思う。会津では兼業といっても2ヘクター
ルくらい作っている農家はたくさんいて、結構知り合いを通じて独自に販売して
いる人も多い。そんな人たちにこのJAS法が厳密に適用されれば皆表示義務違
反となり、食品偽装と同じ罪に問われるのです。

 個人的には、コメの生産現場においても、販売のための流通においても多様性
を保つことこそが消費者と農家の未来を開く鍵であると思い。一元的に経済連や
大手の米卸のコメしか買えないと言われたら、日本人のコメに対するこだわりは
今以上に希薄になってしまうのではないだろうか。農家が自分の作った作物の販
売の自由と消費者との直接の関わりを保つためにも、このJAS法のコメ表示の
規定の改定を望まずにはいられません。

 五十嵐さんにメールは mailto:fwge0440@nifty.com

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