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石井紘基代議士が追った闇 事件2日前、本誌記者に語っていた… 投稿者 『週刊朝日』2002.11.8号 日時 2002 年 10 月 29 日 21:50:04:

『週刊朝日』2002.11.8号
石井紘基代議士が追った闇
事件2日前、本誌記者に語っていた…

本誌記者が石井紘基代議士(61)と最後に会ったのは10月23日のことだった。議員会館ですれ違ったとき、
「いい話があるんだ。書いてよ。これは間違いなくでかくなる話だから…」と耳打ちしてくれた。
「その話、でかいけどまたヤバイ話じゃないですか」と冗談で返すと、
「まあな。俺、ヤバイことばっかやってるからな」と笑って答えた。
実はその数週間前にも、こんなことがあった。別の記者が民主党議員の秘書から、
「石井先生のところに政界を震撼させるすごいネタが入ったみたいだ。当たってみると面白いかも…」と聞かされたのだ。記者が石井氏に当たったところ、
「まあまあ、そう焦りなさんな。いま証拠固めの最中だから。いずれ時期を見て国会で質問する。そのときは連絡するよ。これが表沙汰になったら、与党の連中がひっくり返るような大ネタだよ」と言って、たばこをぷーっとふかした。
今回の凶行はまさに、石井氏が何か大きな疑惑を国会で追及する準備を始める矢先の出来事だったのだ。

* * *

石井氏は中央大学法学部出身で、在学中は学生運動の闘士だった。その後、モスクワ大学に留学し、法哲学の博士号を取得。そこで知り合ったナターシャさんと結婚した。
帰国後は、東海大学の講師をしながら社会党の職員となり、江田三郎元書記長に師事した。77年に江田氏が急死し、息子の五月氏が後継者として出馬を決意してからは秘書として支え、社民連の事務局長に就任した。
細川ブームに沸く93年の総選挙で日本新党に鞍替えし、初当選した。愛妻家としても知られる石井氏は、
「女房はNHKの国際局で働きながら、早稲田大学でロシア語を教えて家計を支えてくれた。それで選挙ができた。僕が代議士に慣れたのは、女房のおかげなんですよ」
と公言していたという。
その後、自由連合代表、新党さきがけ政調副会長などを経て、民主党に入った。00年6月には3選を果たす。
党内でも重きをなした石井氏だが、いちばん本領を発揮したのは国会質問だ。
同僚の原口一博、上田清司両代議士らと「国会Gメン」を結成してその室長となり、不正追及の急先鋒になる。
原口代議士が言う。
「石井さんは本当に正義感の強い人で、追っているネタはほかの議員がやりたがらない危ないものばかり。亡くなる数日前に不良債権がらみの疑惑を、これから一緒に追及しようと話していたのに…」
これまで石井氏が熱を込めて追及してきた問題は、オウム真理教、統一協会、防衛庁汚職、ムネオ疑惑と外務省のODA利権、産廃問題など多岐にわたる。
この1年間だけでも、石井氏の国会質問で明らかになった事件は数多い。
ムネオ疑惑では、北方領土のディーゼル発電施設を受注した三井物産から受注当時、自民党の政治資金団体に多額の献金が行われていたことを調べ上げた。今年2月に国会質問し、4ヶ月後には三井物産の社員が逮捕された。
日本道路公団関連の財団法人が、出資した企業の株式の半分以上をファミリー企業に売却していた問題や、外務省の事務次官経験者が1億円近い退職金を受け取っていたことが判明したのも、きっかけは石井氏の国会質問だった。同僚議員が言う。
「石井さんの疑惑追及の特徴は国政調査権を駆使した徹底的な調査に基づく質問です。役所の担当者が根を上げるほど問いつめて、資料を出させる。防衛庁幹部は『食いついたら離れない、すっぽんみたいな人』と言っていたし、外務省幹部は『石井先生に呼ばれたら、いつ帰れるかわからないから、説明役を省内で押しつけ合っていた』とこぼしていました」
石井氏刺殺のニュースが永田町に流れると、同僚議員たちの脳裏にはさまざまな“疑惑”が浮かんだという。民主党関係者はこう話す。
「真っ先に頭に浮かんだのが、ある保守系大物代議士の産廃がらみの利権です。石井さんが調査を始めたと聞いていたので、『ついに、やられたか』って直感しました」
石井事務所の関係者も、こう打ち明ける。
「実は、自民党関係の政治資金に不審な点があり、それを徹底的に洗っていたところなんですよ。すでに何かをつかんでいたようでした」
石井氏と親しくしていた紀藤正樹弁護士も、悔しそうにこう話した。
「石井さんは一般市民の目でずっと政治を続けてきた希有な政治家。彼は国会で質問することが国会議員の使命だと考えていた。彼に追及されて困る人は世の中にたくさんいる。利権に巣くっている人たちにとってみれば、彼がいなくなったことは大きなメリットです。彼の死で日本の構造改革が遅れてしまうかもしれません」
石井氏の突然の死は、こうした政界の“闇”を封印してしまう可能性もある。
「しっかり追及して、いい記事書いてよ」が、石井氏の記者への最後の言葉になった。

本誌取材班

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