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新帝国主義というアメリカの野望:FOREIGN AFFAIRS JAPAN 投稿者 小耳 日時 2002 年 10 月 15 日 17:14:37:

CFRの広報誌日本版 「FOREIGN AFFAIRS JAPAN」
http://www.foreignaffairsj.co.jp/


新帝国主義というアメリカの野望
America's Imperial Ambition
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G・ジョン・アイケンベリー/ ジョージタウン大学教授
http://www.foreignaffairsj.co.jp/intro/0210Ikenberry.htm
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論文の要旨
保有する圧倒的なパワーと、テロという脅威の到来が、帝国主義の誘惑を大きくしている。だが、正統性もなく、戦後国際秩序の規範や制度を無視して、アメリカがパワーを思うままに行使すれば、いずれ敵意に満ちた国際環境が出現し、アメリカの国益を確保するのも難しくなる。

アメリカの新帝国主義的大戦略はリーダーシップの実践というよりも、むしろたんなる軍事パワーの行使にすぎない。勢力均衡を重視するリアリズム、そしてリベラルな多国間主義を再評価し、成熟した大国として、他国の立場を大きく脅かさないように配慮しつつ、秩序の安定と国益を模索する戦略へと立ち返るべきだ。

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新たな現実とアメリカ帝国主義の誘惑

 対テロ戦争の背後で、アメリカの大戦略と単極構造世界の再編に関する壮大な新概念が形成されつつある。新概念の支持者たちは、必要なら、アメリカは(脅威に対して)「先制、あるいは予防攻撃」を実行すべきだと考えている。(アメリカに賛同する)「自発的な同盟勢力」とも連帯すべきだが、基本的にワシントンは、国際コミュニティーのルールや規範にとらわれることなく(単独で)行動すべきだ、というのが彼らの考えだ。新概念の極端な系譜が新アメリカ帝国論だ。このビジョンでは、アメリカは「世界的な基準を設定し、脅威が何であるか、武力行使を行うべきかどうかを判断し、正義が何であるかを定義するグローバルな役割を担っている」と不遜にも想定されている。アメリカの主権はより絶対的なものとみなされ、一方で、ワシントンが設定する国内的・対外的行動上の基準に逆らう諸国の主権はますます制約されていく。「新たに出現したテロという終末論的な脅威、そして、アメリカが手にしているかつてない世界的優位が、こうした帝国的ビジョンを必然としている」。少なくとも新帝国論を主張する人々は、このように考えている。冷戦の終結は奇妙にも秩序の大再編を伴わなかったが、こうした過激な戦略概念や衝動が、今後、秩序の大変革を引き起こしていくのかもしれない。
 アフガニスタンでのテロリストとの戦い、イラク侵攻をめぐる議論を前に、この地政学的課題がいかに大きな意味合いを伴うかが見えにくくなっている。たしかに、いまも青写真は描かれていないし、ヤルタ会談流の首脳会談も開かれていない。だがワシントンは、一九四〇年代以降、アメリカがパートナー諸国とともに築き上げてきた政治秩序を大きく変えるような行動を現にとりつつある。壊滅的なテロリズムとアメリカによる単極構造秩序という二つの新しい現実が、国際秩序をとりまとめる原則の再考を促している。アメリカと主要な大国は、テロリストの脅威、大量破壊兵器(WMD)、武力行使、そしてグローバルな行動規範について新たなコンセンサスをとりまとめる必要がある。だがそのためには、ワシントンは新概念をより適切な形で行動に適用していく必要がある。そのためにも、ブッシュ政権は、彼らが過去へ追いやろうとしている「旧秩序」の美徳が何であった かを理解しておくべきだろう。アメリカは、国際的なコミュニティー(の支援)と(同盟諸国との)政治的パートナーシップを切実に必要としている。だが、ワシントンの新帝国主義的大戦略は、逆に、この絆を引き裂こうとしている。こうしたアメリカ政府のやり方は危険に満ちているし、失敗に終わる可能性が高い。新帝国主義路線は、政治的に持続不可能なだけでなく、外交的な実害を伴うからだ。歴史の教えるところに従えば、現在のワシントンのやり方を続ければ、各国の敵意と抵抗を呼び込み、アメリカは、敵対的で分裂した世界に直面することになる。

リアリストとリベラルの大戦略

 四〇年代以降のアメリカの外交政策は、近代の国際政治秩序の形成を促してきた二つの大戦略を基盤としてきた。一つは、封じ込め政策、抑止、地球規模の勢力均衡(バランス・オブ・パワー)を軸とするリアリスト思考だ。四五年以降、危険な拡張主義的傾向を持つソビエトに直面したアメリカは、スターリンと赤軍に対抗しようと、イギリス帝国の衰退とヨーロッパ秩序の崩壊によって生じた力の真空を埋めていく。この戦略の基盤とされたのが、ソビエトの「勢力圏」拡大阻止を目的とする封じ込め政策だった。冷戦期の秩序は、米ソという二超大国間のバランスを管理することで保たれていた。核抑止のうえに秩序の安定が成立していた。核兵器と相互確証破壊のドクトリンによって、史上初めて、大国間の戦争行為が不合理な行為と考えられるようになった。しかし、封じ込めとグローバル規模の勢力均衡策も、九一年のソビエトの崩壊によって終わりを告げる。核抑止は、その後も欧米と中国、ロシアとの関係の安定化要因として作用しているが、もはや秩序を形成するもっとも重要な要因ではない。
 (冷戦が終結すると)アメリカを中心とする機構・制度及びパートナーシップが封じ込め 政策に取って代わっていった。なかでも重要視されたのが、北大西洋条約機構(NATO)、日米同盟などの、冷戦後も生き残ったアメリカ主導型の安全保障パートナーシップだった。これらが、ワシントンのコミットメントと保障策によって秩序安定のための防波堤の役目を果たしてきた。アメリカは、ヨーロッパと東アジアに前方展開軍を維持し、これによって同盟関係のパートナー諸国は安全を確保するとともに、世界一の軍事パワーとの関係を保ってきた。しかし、冷戦期の勢力均衡は、(安全保障領域だけでなく)政治秩序という、実利的な軍事的同盟構造を超えた価値も兼ね備えていた。事実、封じ込めという大戦略は、同盟諸国との見解の相違を埋めるためのメカニズム、つまり、同盟諸国との見解の相違を埋めるための協議と合意に関する穏やかな枠組みによって支えられていた。諸大国は互いに対等であると認識し、死活的利益にかかわるような対立に直面しない限りは、立場を譲ってまとまりをみせた。同盟諸国の国内政治は、純粋に「国内的」なものにとどまった。戦争が起きる可能性もなくはなかったが、大国は互いに競争を繰り広げつつも、各国政治家の冷静な政治手腕と勢力均衡への配慮が、安定と平和の見込みを高めていた。
 ジョージ・W・ブッシュも、こうしたテーマの一部を掲げて大統領選挙に臨み、事実、自らの外交アプローチを「新リアリズム」と呼んだ。クリントン政権の国家建設への関与、国際的「社会奉仕外交」、混乱した武力介入路線とは一線を画し、大国間関係の強化とアメリカの軍事力再建をめざすことが彼の真意だった。ロシアを欧米の安全保障秩序に組み込もうと模索したブッシュの試みは、そうしたリアリストの大戦略の好例だし、強硬姿勢を思わせるそれまでの対中レトリックを最終的に緩和させたことも、リアリスト路線の発露であろう。(ワシントンがリアリスト路線に徹し)ヨーロッパ、アジアの主要国がルールに基づく行動をとれば、大国間秩序は必然的に安定する(逆に言えば、ヨーロッパが対米関係で軋轢を生じさせている理由は、一つには、ヨーロッパが「大国」という言葉では括りきれない存在となり、大国間政治のルールを遠ざけているためだろう)。
 もう一つの大戦略、つまり、戦後世界経済の再建を目的に第二次世界大戦中に考案された路線はリベラルな大戦略だった。「市場経済・民主主義諸国間の制度化された政治関係を中心に秩序を構築し、これを開放的な経済システムで支える」というのがその青写真だった。この大戦略を支えていたのは、アメリカのビジネスマンやエコノミストたちの思想だけではなかった。そこには地政学的な目的もあった。リアリストの大戦略が、ソビエトのパワーに対抗することを目的にしていたのに対して、リベラルな大戦略の目的は、三〇年代の状況が再現されるのを回避すること、つまり、地域経済ブロックが形成され、貿易紛争や戦略的ライバル関係によって秩序が不安定化するのを避けることにあった。開放的な経済、民主主義、そして制度化された多国間関係は一つのパッケージとみなされていた。「ルールを基盤とする国際秩序、とりわけ、アメリカとなじみのよいルールを定着させるためにワシントンが政治的影響力を行使できるような秩序を構築すれば、アメリカの利益を守り、パワーを維持し、影響力を行使するのに最適の環境が生まれる」。この戦略の根底には、このような読みがあった。リベラルな大戦略は、ブレトンウッズ体制、関税貿易一般協定(現WTO=世界貿易機関)、経済協力開発機構(OECD)などの一連の経済重視型の制度をつうじて、模索されていく。これらの制度は、さながら複雑な層を持つレイヤーケーキのように、それぞれに連動して、民主的な先進世界を一つにとりまとめる統合作用を果たした。冷戦が終結した後の九〇年代のアメリカも、このリベラルな大戦略を踏襲した。
 ジョージ・H・W・ブッシュ政権、クリントン政権はともに、外敵の存在や、赤裸々な戦力均衡論に依存しない新世界秩序の構築を試みた。レーガン政権の後を担ったブッシュ政権は、大西洋関係の重要性を唱え、アジア・太平洋地域のより深い統合をめざした。リベラルな大戦略は、こうしたブッシュのアジェンダにも前向きのビジョンを提供した。共通の価値、伝統、相互利益、安定維持への相互認識が導く同盟関係とパートナーシップというビジョンがこうしたアジェンダを支えた。クリントン政権も、ポスト冷戦秩序を、民主主義と市場経済システムの拡大として定義しようと試みた。そこでは、民主主義がグローバルあるいは地域的なコミュニティーの共有基盤を提供し、貿易と資本の流れが、政治改革と統合を促す潮流をつくり出す、と考えられていた。現在のブッシュ政権は、こうしたクリントン流のリベラルな大戦略を振り回すことには消極的だが、実際には、同様の戦略概念を幾度となく引き合いに出している。例えば、中国のWTO加盟をブッシュ政権が支持したのは、「市場経済と欧米の経済秩序へ中国を取り込めば、政治改革に向けた圧力と、敵対的な外交政策をとりにくい国内環境を誕生させる」というリベラルな発想からだった。二〇〇一年、カタールのドーハで開かれた多角的貿易交渉(新ラウンド)をブッシュ政権が支持したのも、自由貿易の政治・経済上の恩恵を認識していたからだ。九月十一日以降、アメリカの通商代表ロバート・ゼーリックは、「貿易、経済成長、統合、政治的安定は切っても切れぬ関係にある」とし、対テロ戦争と貿易を結びつけてみせた。国務省のリチャード・ハース政策企画局長も、「アメリカ外交の主要な目的は、他の諸国や国際機関を、よりアメリカの利益と価値になじみのよい世界へと統合していくことにある」と最近の演説で語っており、これもまたリベラルな大戦略と共鳴する部分が多い。逆に言えば、鉄鋼や農業部門でのアメリカの保護貿易的措置の導入が世界中で批判されているのは、ブッシュ政権が戦後のリベラルな戦略からの後退をみせつつあるのではないかと、各国が心配しているからだ。

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