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不良債権処理やスピード感に欠けるリストラなど多くの問題を抱える銀行の国有化リスクを市場は織り込み始めています。予測のつかない今後の銀行株に「敢えて」投資するとしたらそのポイントは？
日銀による銀行保有株買取計画発表後高騰した銀行株は、竹中金融担当大臣の登場により減資・国有化リスクを織込む形となり下降を始め、特にみずほ及びＵＦＪの株価は20万円を下回ったままの低調なパフォーマンスとなっている。銀行業界にあっては、資本の質の低下、一向に終結の兆しが見えない不良債権、システム障害、経営陣の責任感の欠如、まったくスピード感に欠けるリストラ、事業会社からの持ち合い解消売りなど、株価へのネガティブ要因は事欠かない。このような、魅力のない業界であるが故に、過去数年株価もみごとな右肩下がりとなってきた。竹中大臣の登場により乱高下している今、「敢えて」、この魅力のない業界を考察してみたい。
銀行株投資においては、１）不良債権及びそれに対する引当状況、２）収益動向、３）資本の状況及び将来の増資リスク、４）これらに基づいたバリュエーション、を考慮する必要がある。
１）結論から言えば、現時点では不良債権問題は解決しておらず、大手銀行においては、要注意債権の引当は十分とは言えない。この要注意債権の総額は各行別には開示されていないのだが、これらの内の10％程度が不良化すると仮定すると、総額数兆円程度の引当追加が必要となろう。竹中金融庁の方針によれば、査定の厳格化による追加処理が、来春以降必要となる可能性が高い。
２）各行共、貸出金利を上げること、比較的利鞘の大きい住宅ローンや消費者ローン向け貸出を増やすこと、及び手数料収入を伸ばすことにより、収益性の向上に努めている。旧興銀の利金債による調達が多いみずほの低収益性が目立つことはあるものの、リストラの効果も出始めており、現状の不良債権規模ならば、あと3年程度あれば、概ね処理は終わるレベルまで回復してきてはいる。
３）竹中大臣及び日銀の指摘するように、大手銀行の資本は弱い。資本の約半分程度を繰延税金資産（わかりやすく言えば税金の前払分であるため、将来税金を払うような企業であれば、これを資本ととらえることはルール上認められてはいる）と公的資金が占めており、そもそも上記１）の不良債権の追加処理費用を迫られた場合、三菱と住友信託以外の全大手行が資本不足となり、公的資金の注入が必要となる。（ちなみに、りそなグループや三井トラストなどは、繰延税金資産と公的資金が資本の半分以上を占めており、これらは、事実上、国有化してしまっていると言えなくもない）
４）普段はバリュエーションに基づく投資を行う我々であるが、現状においては、上記１）〜３）までの状況があまりに不確かであるために、バリュエーション・モデルを構築することはほぼ不可能となっている。このような状況においては、シナリオを数通り用意し、各場合における確率を予想して、投資機会を探ることとなる。政治リスクが大きすぎるため精緻な予測など不能ではあるが、敢えてシナリオを作るとすれば、以下の3通りであろう。
【１】自民党や銀行サイドの抵抗により何も変わらない。
【２】引当金の積み増しはあるが軽微となり、公的資金注入は数行に総額2〜3兆円程度で済み、国有化銀行は出現しない。
【３】大臣の思惑通り引当金の大幅積み増しがあり、三菱及び住友信託を除く全大手行に公的資金が注入され、みずほかつ／またはＵＦＪが国有化される。
上記のシナリオに基づく場合の投資戦略は非常にクリアである。三菱及び住友信託を買っておき、みずほ及びＵＦＪを売っておく。シナリオ【３】の場合には全額減資により株価がゼロになるリスクがあるからである。そして、万が一何も起こらなかった場合（シナリオ【１】）のアップサイド・リスクへのヘッジとして、三井住友をも若干買っておくのである。
金融庁の新しい方針により日本経済及び政局は混迷の度合いを増しているが、マーケットは、大手銀行の国有化リスクを完全に織込んだ価格形成が始まっている。
外資系ヘッジファンド 運用担当 永坂 泰三
提供：株式会社ＦＰ総研
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。