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企業と人−「破たん」から学んだこと  箭内 昇氏
投稿者   日時 2002 年 11 月 18 日 18:33:54:


企業と人−「破たん」から学んだこと−
第22回「不良債権問題は世代間抗争?〜夢の記者会見(その1)」
(アローコンサルティング事務所 代表
 箭内 昇氏)

最終更新日時: 2002/11/05
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会見する大手銀行首脳(25日、東京・丸の内) 不良債権処理加速化についての竹中改革案をめぐる議論がかまびすしい。

 10月25日、大銀行の頭取7人が勢ぞろいして異例の記者会見を開き、断固反対を表明した。自民党古参の実力者たちも一斉に竹中大臣に集中砲火を浴びせた。「民間大臣に責任が取れるのか」「若い木村剛氏が作った案の丸のみだ」など、ほとんど個人攻撃に近い状態だ。彼らの主張を総括すれば、結局は「デフレ対策で資金投入をするのは歓迎だが、不良債権処理は急ぐな」といっているように聞こえる。

 しかし、その後の世論調査でも過半数の国民は竹中改革案を評価し、それから2日後に実施された衆院統一補選でも与党が大勝して、竹中案と運命共同体の小泉路線が支持された。

 この補選では、当選者5人のうち3人が30歳代、1人が40歳代と大幅に若返ったが、彼らは党派に関係なく「このままではダメ」と改革の必要性を訴えて当選した。

 この改革を求める国民の声と現実の政官界の動きとのギャップこそが、不良債権問題に象徴される日本の閉塞感やせめぎ合いの根源のように思える。そして、その裏には新旧世代間の深刻な利害対立があるような気がしてならない。

 自己資本論争

 竹中改革案の目玉は、銀行の自己資本強化だ。特に繰り延べ税金資産の計上をめぐる論争が火を吹いている。この問題は、実質ベースで見るか表面ベースで見るかで、景色はまったく異なる。

 現在世界の金融界では、銀行経営の本源は自己資本であるという認識で一致している。自己資本は、銀行破綻や不良債権処理に備えた最後の「虎の子」でもあり、リスクを取り込んで業務を拡大していく「ガソリン」でもあるからだ。

 欧米の一流銀行はこうした自己資本の意義を重視し、BIS基準(Tier1+Tier2)にかかわらず、Tier1だけで8%をクリアすることをいわば経営の前提にしている。わが国と同様多くの株式を保有するドイツ銀行でも8%を達成している。そのTier1の中身も大部分が資本金と内部留保という本源的自己資本だ。彼らは、あくまで実質ベースの自己資本拡充を目指しているのである。

これに対してわが国メガバンクの自己資本は、BIS基準では10%を超えており、表面ベースでは欧米の一流銀行に引けを取らない。しかし、Tier1だけとなると5%台と半減し、しかもその中身の過半が繰り延べ税金資産など「弱い自己資本」である。なんと4行のうち3行は本源的自己資本である資本金や内部留保がマイナス勘定になっているという悲惨な実態だ。実質ベースの自己資本は、危機的状況といってよい。

 銀行経営者も、銀行が破綻すれば吹き飛んでしまう繰り延べ税金資産を「虎の子」だと主張することに無理があることはよく知っている。

 ローカル・ルールのサッカーゲーム

 今回の竹中改革案は、この「張子の虎」と化した自己資本の算定基準を実質ベースにあわせようというものだ。大銀行の頭取は「それまでサッカーをやっていたら突然アメリカン・フットボールのルールでやれといわれたようなものだ」と抗議していたが、この例え話は誤っている。

 正確には、「今までは日本だけで通用するローカル・ルールでサッカーもどきのゲームをしてきたが、今後は国際ルールにもとづく本物のサッカーをせよといわれたようなもの」というべきだったのである。

 20年以上前、日本のゴルフボールは飛距離が出るスモールボールだった。しかし、国際競技が増えてくると、プロゴルファーの要請もあって国際基準のラージボールに切り替えた。

 金融の国際化が革命的に進展し、不良債権問題処理の最後の機会でもある現在、銀行サイドからこそラージボールに切り替えてくれという要請があってしかるべきだ。

 10%以上という大手銀行の中でもトップクラスの自己資本比率を誇っていた長銀が、あっという間に破綻し、再計算したら3兆5000億円の債務超過だったという苦い教訓を忘れたのだろうか。

 もちろん、これまでラージボールを使わせなかった政府サイドにも大きな責任がある。土地再評価益の自己資本繰入、株式の原価法選択適用、税効果会計の1年前倒しなど、表面ベースの自己資本を膨らませる政策で銀行を助けてきたからだ。ゴルフでいえば、ワングリップOKボールが、いつの間にかワンクラブOKボールになったようなものだ。

 現在の銀行経営者や金融当局者は、慣れ親しんできたスモールボールで何とか現状のハンディキャップを維持したいとあがいているが、木村剛氏など明日の日本経済をになう世代は「一刻も早くラージボールに切り替えなければ」と焦っているのだろう。

 竹中大臣は筆者と同じ50歳代という中間世代なので、旧世代の心情も理解できるが、やはり現下の日本の惨状を見ると、若い世代の持つ危機感の方により強い共感を覚えるのではないだろうか。

 経営責任論争

 公的資金注入と絡んだ銀行経営者の責任論争もにぎやかだ。筆者も銀行経営者の末席にいたので銀行経営者の心情も理解できる。お上の指示に基づき、混乱を起こさないよう必死にやってきた。不良債権はデフレの要因が大きく、自己努力にも限界がある。

 それが突然「年内に公的資金を導入しなければ、以後の退職慰労金は保証しない」という匕首を突きつけられれば、「冗談じゃない」と思うのも無理はない。

 しかし、匕首は現在の経営者だけに突きつけられているのではない。誰一人バブルの総括もせず、10年の長きにわたって不良債権の抜本処理を見送り、合併・統合してもOBに気遣って関係会社の整理もしない、こうした銀行の体質を変えてくれというメッセージと受け取るべきだ。

 旧時代のDNAを引き継いでいる今の銀行経営者では、思い切った改革はできないだろう。だから行内外から異なるDNAを持った人材を登用し、過去の経緯やしがらみにとらわれない新しい視点で経営して欲しいという、新世代からのメッセージなのである。

 銀行の若手・中堅行員は、金融庁の顔色ばかりを伺い、賽の河原の石積みのような資料作りを押し付け、企業モラルに反する強引なスワップ取引推進を命じる今の経営陣に辟易している。

 彼らは、本心では公的資金が入り経営者が退陣するのを心待ちにしているはずだ。新しい経営者で成功する保証はないが、現状の経営陣では必ず失敗するだろうと直感しているからだ。かくして銀行内部でも水面下で激しい世代間抗争が展開している。

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 竹中いじめは現状維持派の旧世代の焦り

 竹中案をめぐる政界の動きも面妖だった。自民党の実力者が竹中大臣に集中砲火を浴びせた。そのキーワードは「中小企業を潰す気か!」である。

 しかし、冷静に考えればこの「葵のご紋」のようなキーワードも鵜呑みにできない。確かに自己資本の算定を厳密化すれば、貸し渋りが加速するであろう。だが、同時に公的資金などで自己資本を補填すれば貸し渋りは止まるはずだ。

 また、不良債権の査定を厳格化すれば、輸血だけで生き延びている企業が炙り出されるであろう。だが、その対象は特定業種の大手企業が中心になるはずだ。

 筆者がコンサルタントの関係で知り合った建材会社の社長は、佐藤工業の倒産で大きな焦げ付きを作って経営危機に陥った。「なぜ、あんな危ないゼネコンの仕事を引き受けたのか」と詰問すると「危ないと分かっていても昔からの付き合いで断れないですよ」という。

 こうした不安定な状態を放置してきたのは銀行と政府の責任であり、今後不良債権処理を進めることで、取引環境を正常化していくことも重要な中小企業活性化対策だ。

 また、灰色債権に十分な引当を積んだ上で、銀行系列を超えた横断的な業界再編を進めることも、有効な企業再生策ではないだろうか。

 ゼネコンには、危機感を持ちながらも会社を飛び出せずに、あたら才能を腐らせている優秀な若者がたくさんいることも忘れてはならない。産業界でも若い世代ほど新しい時代の到来を心待ちにしているはずだ。

 竹中大臣に対する強烈な批判は、展望もないまま現状維持を願う旧世代の焦りの現われに思えてならない。

 そもそも統一補選では、各党とも若い候補者しか擁立できなかったというところに、わが国全体があがらい切れない世代交代の流れの中にあることを強く感じる。

 大銀行頭取たちの仮想記者会見はあるか

 筆者は、先日著名なエコノミストたちに混じってある座談会に参加した。「不良債権処理かデフレ対策か」というテーマだ。そこで確信したのは、10人のエコノミストがいれば、10通りの処方箋を主張するということである。しかも皆自信たっぷりだ。

 裏を返せば、それほどわが国の経済再生は難しいということであり、われわれはいわば未体験ゾーンに突入している。もはやエコノミストが処方箋を議論する段階ではなく、政治決断と実行の世界にあるということだ。

 しかし、わが国経済にとって、500兆円というGDPと同額の貸出債権を持つ銀行の存在はきわめて大きい。その10〜20%を不良債権が蝕んでいるという、この危機的な銀行の改革なしに経済再生が不可能であることは明らかだ。

 銀行改革は経済再生の十分条件ではないが、必要条件であることは間違いない。しかし、肝心の患者に自覚症状がないことが最大の障害である。

 筆者は、近い将来、大銀行の頭取たちが次のような訂正記者会見を開催することを心待ちにしている。

    これまで公的資金注入や低金利政策などで国民の皆様には大変お世話になっております。また、このたびは、竹中大臣はじめ関係各位にはこれほどまでの心労をおかけし申し訳ありません。

 確かに自己資本の実態はきわめて脆弱であり、今後不良債権の査定を厳密に行えばますます枯渇し、仮に税会計効果会計を据え置いたとしても、従来どおり貸しはがしなどで資産圧縮を続けざるを得ません。

 もはや自己努力による自己資本の回復は限界であり、普通株式の形で公的資金の注入をお願いしたいと思います。これに伴い既存の株主にもご迷惑をおかけするかもしれませんが、国民だけにご負担いただくわけにもいかないのでご理解ください。

 今後は思い切ったリストラなどで経営体質を改善し、収益力を引き上げて株価を高め、10年以内には公的資金による株式の売却益で国民の皆様に恩返しをしたいと思います。

 もちろん、この間銀行系列の壁を取り払った業界再編にも全力をあげ、企業再生に努力します。

 そして、今度こそ経営体質を抜本的に変革するため、バブル時の責任者、不良債権処理の関係者および保守本流を歩いてきた経営者は総退陣します。ただし、退職慰労金の全額カットだけは武士の情けでご容赦ください。新しい経営陣は国際・証券部門の人材を中心に検討してもらいます。

 また、遅まきながら、バブル発生から今日の危機にいたるまでを総括する詳細な報告書を3ヶ月以内に提出し、責任者に対しては退職慰労金の一部返還を求めていきます。

 さらに、バブル時に詐欺同様の手口で過剰債務に追い込んだ個人のお客様に対しては、事実関係を調査の上、銀行に非があるものについては速やかに和解に応じ、謝罪したいと思います。企業に対する債務放棄とのバランスも考えなければならないからです。

 今後も失われた信頼を一歩一歩取り戻していきたいと思いますので、引き続き国民の皆様のご支援、ご協力をお願いします。

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第23回「松井選手と社内FA制度(その1)」
(アローコンサルティング事務所 代表
 箭内 昇氏)

最終更新日時: 2002/11/18
(page1/2)
 先日、巨人の松井秀喜選手がFA宣言して、大リーグへの移籍希望を表明した。多くの日本人が彼の決断を歓迎し、本場アメリカでの活躍を期待した。

 しかし、銀行時代に5年間も人事の仕事に携わった筆者としては、どうしてもこのプロ野球のFA制度を大企業のサラリーマン人事と比較してしまい、いささか暗い気持ちになる。

 ほとんどのサラリーマンは、在任中はもとより、退職した後まで所属部門のボスや人事部に殺生与奪を握られ、FA宣言の機会など考えられないからだ。

 企業のための人事と本人のための人事

 筆者は銀行時代、5年間のMOF担勤めの後、人事部への異動の内示を受けたが、「こういう本部から本部という人事は百害あって一利なし」と反発し、翌日から銀行を休んで、北アルプスの山登りに出かけた。

 しかし、バリバリの終身雇用体制の当時では、30歳代半ばといっても銀行を飛び出す勇気もなく、結局だらしなくも1週間後に銀行に舞い戻ることになった。筆者も所詮サラリーマンであり、人事部には逆らえなかったのである。

 人事部では、人事異動と採用というまさに人事の仕事を担当した。最初の頃は人間が人間を動かすということに抵抗感があり、気が重かった。だが、大手都銀の人事部にいた友人のアドバイスで吹っ切れた。「誰かがやらなければならない仕事だ。この人事は会社のためにする、そう割り切れ」というのだ。

 それからの5年間で、筆者が関与した人事異動は数千件に及ぶだろう。「よい人事」と自画自賛できるものもある。しかし、大部分は正直いって自信がない。

 そうした漠然とした不安が、はっきりとした姿を現して襲いかかってきたのは、長銀が破綻したときだ。突然多くの行員が銀行から追い出され、嘆くまもなく就職活動をはじめたが、銀行時代のキャリアによって有利不利の差が大きく出た。一言でいえば語学や金融工学など「腕に職ある」人材ほど早く就職が決まり、銀行でしか通用しないキャリアをつんだ人材は苦労した。

 「そんなものサラリーマンの運だ」、という者もいるが、人事に直接携わった筆者としてはやはりどうしても心に引っかかるものがある。人事異動という行為によって、彼らの「運」にかかわったことは紛れのない事実だからだ。つまり、自分が関与した人事は、企業の利益にはなったかもしれないが、本人のためになったかと切り込まれると言葉に詰まるのだ。一種の罪悪感である。

 人事部主導人事の落とし穴

 その罪悪感の背景を考えると、第1にあいまいな能力判定がある。異動の発令にあたっては、人事部なりに当人の能力についての情報を集めたつもりだが、その正確性については、ぎりぎりのところになると自信が持てないのである。そもそも上司による人事考課は、ほとんどが大甘で、能力分析にはおよそ役立たない。部下にいい顔をしたいためだ。

 この大甘な人事考課は、その後いろいろ考課制度を変えてみても、考課者教育を実施しても改善できなかった。ほかの銀行や企業にもヒアリングしたが、どこも大同小異だった。一部の都市銀行のように部門ごとに査定の持ち点を与えて、無理やり能力や業績を一定の枠内に収める通信簿方式も、機械的すぎて有効とは思えなかった。

 結局筆者が人事部の仕事を通して到達した結論は、そもそも、人間が人間の能力を判断すること自体に限界がある、という当たり前のことだった。

 第2に、80年代に入ると、銀行の国際化や証券化に伴って業務が飛躍的に多様化し、各分野でいわゆる専門能力が要求されるようになったが、この専門能力の見極めが実に困難ということだ。

 新規分野は動きも早く、昨日の知識が今日は陳腐化するという世界だ。結局第一線で活躍する若手行員の能力のほうが管理職の能力を上回るという「逆能力格差」現象が各部門で多発し、従来の考課制度による能力査定は機能しなくなった。

 銀行にとってまったくの新規業務である証券ディーリング業務を始めたときなど、そもそもどんな能力が必要なのかも分からず、結局行内で麻雀が強いといわれる者を選抜するという乱暴な人事をしたこともあった。

 結局、筆者が得た結論は、人間の能力は顕在化した場合のみ判別できるということだ。つまり、その仕事が「彼にハマった」ときに、はじめて本人も上司も人事部も彼の能力を確信できるということである。

 しかし、人事部主導の人事では、本人が自認する能力を試す機会を与えることは少ない。「機会さえ与えてくれれば、俺だってできるのに」と臍をかんだ若者は多かっただろう。

 中には銀行の外の方が活躍できる人材もいたが、あの手この手で脱出を封じた。当時大手金融機関間では、他社を飛び出したものは採用しないという協定を結んでいたし、退職者に推薦状を出すこともなかった。

 結局、人事部主導の人事は、どうしてもある種の不公平感を生み出し、若者の能力を埋没させてきたように思う。

 第3に、仮に当人の能力を見きわめたとしても、その能力にふさわしいポストに配属できないことが多かった。特に銀行ではシニア行員の外部転出に伴う玉突き人事が年中行事になっており、若い行員がそのあおりを受けて、中途半端な任期で異動することが頻発した。

 「もう少し待てば彼にぴったりのポストがあくのに」と思いながら、まったく別の部門に異動させることも多かった。あくまでも企業のニーズが優先し、そのニーズも企業の活性化とは無関係の「内輪の都合」が圧倒的だ。

 こうして、企業全体で壮大な能力の無駄遣いをし、あたら若手行員の成長の芽を摘んできたという思いを消すことはできない。
第23回「松井選手と社内FA制度(その2)」
(アローコンサルティング事務所 代表
 箭内 昇氏)

最終更新日時: 2002/11/18
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 人事部員の苦悩

 一方、こうした人事部主導の人事は、人事担当者にとっても大きなストレスだ。あの人事は間違っていなかっただろうか、という思いは人事部を出た後もずっと付きまとう。

 特に本人の意にそわない発令をしたときは、口では「期待されているのだから頑張れよ」と激励しながら、心の中では「企業のためだと我慢してくれ」と謝っていた。

 遠隔地への発令直後に複雑な家庭事情が判明し、苦い思いに襲われることも何回かあった。一人の辞令には何人もの家族の人生がかかっている。

 筆者には一生忘れることのできない痛恨の人事がある。長銀では採用した新人は、最初の6年間は預金業務と貸出業務を3年ずつ交互に経験するというロテーションを長年にわたって実施していた。

 しかし、80年代半ば、銀行全体の業務多角化、早期戦力化の要請の中で、初めてこのロテーションを崩す人事を発令した。入行3年目を迎えた新人のうち何人かについて、貸出業務から貸出業務、預金業務から外為業務など、彼らの期待と異なる異動を出したのだ。

 その一人であるF君が自らの命を絶ったという衝撃的なニュースが飛び込んだのは、彼が明後日赴任するという日のことだった。声も出ず茫然と現地に赴いたが、少なくても自分が関与したこの異動が一因であったことは確かだろう。筆者は、悲嘆にくれる家族の目をまともに見ることができなかった。

 発令直後本人が人事部に挨拶に来たとき、十分に制度変更の趣旨を説明したつもりだし、本人も張り切っているように見えたのだが、本心は「コースから外れた」と悩んでいたのだろう。なぜ見抜けなかったのかという深い自己嫌悪に陥った。

 このときほど人事の仕事がいやになったことはない。その後筆者はクリスチャンでもないのに、毎日曜日教会のミサに参加した。「私は思い、言葉、行い、怠りによってたびたび罪を犯しました。聖母マリア、すべての天使と聖人、そして兄弟の皆さん、罪深い私のために神に祈ってください」という神父の言葉に合わせて懺悔しないではいられなかったのだ。

 誰かがやらなければならない仕事とはいえ、こんな仕事はなくなったほうがよいと強く思った。

 ヒアリングで回ったある大企業の人事部担当者は、「たとえ最後はさいころを振って決めた人事だったとしても、それは神の手なんですよ」と自信たっぷりだった。

 しかし、それは人事部の身勝手な解釈だ。社員の意思にかかわらず彼の人生を変えたことは事実だし、「神の手」がいつの間にか「神そのもの」になったと錯覚して、人事部エリートを生み出す危険な思想である。

 人事部エリートは、最初は人だけを動かしているが、やがて企業全体を動かすようになり、官僚主義に陥って企業を衰退に導く。人事部が強い企業は、ほとんど末期の大企業病だと確信している。

 若者を活用する人事制度への転換を

 このように、人事部主導の人事は、企業にとっても従業員にとっても弊害のほうが大きい。それでも、企業が永遠に存続するならば、企業が最後まで従業員の生活を保証するのだから、一応「企業のための人事は本人のための人事」と強弁することもできる。

 しかし、長銀のように企業の存続という前提が崩れたとたんにこの公式も破綻する。そうでなくても、終身雇用制度が崩壊した今日、企業が従業員を縛りつけて人生を決定する時代は終わった。人事部員が神におびえ、あるいは神になったと勘違いする時代も終わった。今は人事部主導の人事を抜本的に見直す重大な転換期である。

 そのキーポイントは、若手の活用と自主性の尊重だ。そのために社内FAや公募制度の導入は効果的である。ビジネスマンの能力が「仕事にハマった」ときに最大限に発揮されるのであれば、若い時代にできるだけその機会を作ってあげることが、本人にとっても企業にとっても有益なはずだ。

 FA制度を導入すると、往々にして「トレンディな」仕事にばかり手を上げるとぼやく企業が多いが、入学試験を実施してもよいし、試用期間を設けてもよい。落第したとしても、本人は納得するはずだ。

 また、トレンディな仕事は、時代の最先端をいくだけにすぐ陳腐化することも多い。しかし、大事なことはその仕事を本人が選択し、挑戦し、自己責任を負うということだ。少なくても人事部が企業都合だけで発令するよりはるかに優れている。

 さらに大企業は、社内FA制度だけでなく、中途採用枠の拡大や学生のサマージョブ制度の導入も実施し、人材確保の門戸を大きく外に広げるべきだ。

 こうして、日本全体で若者の能力を発掘し、流動化を高めて最大限に活用することこそが、日本経済再生の重要な鍵だと確信する。企業が若手中心の人事システムに切り替えると同時に、国も年金など社会保障制度の改革を急ぎ、明日の時代を担う若者が安心して自分に合った職業を選択できるシステムを構築すべきである。

 一方の若者も甘えたサラリーマン根性を捨てなければならない。自分の運命を漠然と企業や国にゆだねるのではなく、松井選手や指揮者の小沢征爾氏のように自分の可能性を探して武者修行に出たらよい。

 5年後の未来から今日を振り返れば、「人事部が権力を持った時代もあった」となっていることは確実だ。

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■第22回「不良債権問題は世代間抗争?〜夢の記者会見」
■第21回「北風と太陽〜なぜ業績不振企業の経営者は辞任しないか」
■第20回「長銀判決とノブレス・オブリージ」
■第19回「ブッシュ大統領の危険な引き金」
■第18回「大企業病PART6・東電隠蔽事件の本質」
■第17回「日本企業の高額お買い物」
■第16回「日本ハムと三井物産とメガバンク」
■第15回「大企業病PART5・社内エリートの落とし穴」
■第14回「米国、その光と影」
■第13回「大組織と恫喝の構図」
■第12回「大企業病PART4・サラリーマンとビジネスマン」
■第11回「銀行再生の道〜3つの信頼回復」
■第10回「大企業病番外編―カリスマと大企業病」
■第9回「国債格下げとマダガスカルの少女」
■第8回「みずほ大失態の本質〜4つの嘘」
■第7回「大企業病−PART3・無責任構造を退治するために」
■第6回「大企業病−PART2・身内の酒盛りと天動説−」
■第5回「大企業病−番外編・真紀子前外相の頂門の一針−」
■第4回「大企業病−番外編・伏魔殿の改革−」
■第3回「大企業病−PART1・危機感なき危機−」
■第2回「危機管理も自己責任」
■第1回「経営責任と刑事責任」

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