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国連安全保障理事会での対イラク修正決議案の採決をめぐる米英と仏の多数派工作
が熾烈を極めている。

米英サイドにとっては予想を遥かに超えた仏サイドの強硬姿勢が、事態の膠着化に
拍車をかけ、開戦の日程がどんどん先送りされている。米国としても国連をまった
く無視した行動は、足元の国際世論を考えると取れない。その都度期限を設け強気
の発言を繰り返すものの、それがなし崩し的に先送りされる状況に、とりわけ米国
民の感情は苛立ちを強めている。米国内では、「フレンチ」と名のつく料理がメニ
ューから消えているという報道まであるように、双方の溝はますます深まり、まさ
に両国民の感情問題にまでなってきた。

既に当欄で取り上げてきたように、日程の先送りは季節の移ろいを意味し、かの地
は砂嵐と高温のシーズンに入り、地上戦を展開するには過酷な環境となる。またそ
れ以上に、世論の高まりは、例えば英国ブレア政権内部で辞任を申し出る閣僚が現
れ、それに対する対応や妥協案の提示をめぐり米英間で意見の相違が生まれたりと
不協和音も目立ってきた。「状況によっては英抜きで開戦（１１日ラムズフェルド
米国防長官）」という発言が飛び出したのは、ブレア首相率いる英労働党内部でも
「（安保理決議を経ない）開戦」に対する反対勢力が増加していることへの苛立ち
から出たものという。そしてそれが当の首相を追い詰める方向に作用してしまうの
だから皮肉である。「戦地に赴くことになっている英軍兵士に首相が命を捧げる覚
悟をしてくれと言っている横で、同盟軍の“長”が、君たちは必要ないんだと言う
ようなもの（３月１２日付米紙ウォール・ストリート・ジャーナル）」だから英国
内の意見が割れるのも無理からぬところか。結果的に英国は、攻撃回避のためのイ
ラク側が満たす必要のあるものとして６項目を具体的に挙げ、イラクに要求してい
る武装解除の期限も延期するという。国内情勢に後押しされた説得工作の継続であ
る。

その間に、主要国の株式市場、とりわけユーロ圏のそれは急落状態となってきた。
昨年の１０月３日、１０月１１日の２週に渡り欧州系の金融機関なかでも保険会社
が「クレジット・デリバティブ」関連の損失から財務内容が悪化していることを取
り上げたが、ここにきてスイスの再保険会社に財務面で懸念が高まるなど、市場が
揺れている。デリバティブ問題は、潜在する市場リスクの最たるものといえるが、
最近はもっぱら「地政学的リスク」に関心が向いていたので改めて注意を促された
格好である。

さて、不透明要因の継続をもっとも嫌うのが株式市場とするならば、そうした混沌
とした状態に反応するのが金市場であるはずだが、なんと、こちらの方も事態の行
方を計りかねている様子である。金市場もまた国連決議同様に膠着状態を続けてい
る。いわゆる「保合（もちあい）相場」と呼ばれる狭い価格帯での取引である。ド
ル建てでおおむね３５０ドルを挟んだ値動きである。

ただ、そうした動きのなかにもかすかな変化は感じ取れる。端的には、「買い方」
の投資家の姿勢がやや弱まっているように見える。それを感じさせたのが、３月７
日のＮＹ市場の値動きだった。取引開始直後から堅調に推移し３５８ドル台へと買
い進まれた価格が、わずか３０分余りの間に１０ドル下げるということがあった。
「ウサマ・ビンラディンの息子がパキスタンで拘束された」というニュースが流れ
た直後のことである。後にこの知らせは、パキスタン政府と米国により正式に否定
されるのだが、この時の金市場の反応は、いかに「買い方」のスタンスが、及び腰
になっているかを示すものだった。ここまで買い進んできたものの、背景となって
きた国際情勢の緊迫化も時間の経過とともに“織り込み済み”となり、金市場は明
らかに新たな材料を探しているわけだ。そのなかで、発生する材料（ニュース）に
過敏に反応するようになっている。いまの状況を例えるならば、富士川の合戦で平
家軍が、水鳥の飛び立つ音を源氏の大群と勘違いして逃げ惑ったとされる状況に似
ている。それは戦意が落ちていることを示すものだが、いまの金市場もその傾向が
あるように思える。

・・・・・・・と、ここまでは３月１３日夕刻に執筆したものだが、今朝方取引を
終えたＮＹ市場では、株式はダウ平均で２６９．６８ドルの急騰、金価格は１０．
６０ドル安と急落している。冒頭でとりあげた英国内での反戦論の高まりに米国が
決議案の採決を延期したことが、開戦延期あるいは「回避」との見方が高まったこ
とを各市場が素直に映したかっこうである。株式市場の方は、ここまで売り込まれ
てきたので空売りの買戻しもあり、派手な上げにつながったものと思われる。金市
場は、鉱山会社のヘッジ解消（買戻し）が考えられるので、どの程度で落ち着くか
が焦点となるが、過去１年のパターンからすると２００日移動平均線に接近してい
るのでこの近辺が下値になりそうだ。（３月１４日記）

金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎
※本レポートは執筆者の個人的な見解を述べたものであり、実際の投資にあたってはお客様ご自身にてリスクをご判断ください。

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