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立ち上がるヨーロッパ [2003年2月17日  田中 宇]
http://www.asyura.com/2003/war24/msg/285.html
投稿者 あっしら 日時 2003 年 2 月 18 日 19:52:16:


 2月15日、西ヨーロッパ各地でベトナム反戦運動以来という大規模な反戦デモが行われた。ロンドンでは75万人、ローマでは100万人の規模で、ベルリンやパリでも、アメリカのイラク侵攻に反対する集会が開かれた。アメリカ各地でもかなりの人々が集まり、ソウルや東京、バンコクなどでも集会が開かれたが、規模としては西欧が圧倒的だった。

 この世界的な動きを見て「ヨーロッパの人々は立ち上がったのに、日本の人々はなぜ動かないんだ」とお嘆きの方も多いかもしれない。だが私から見ると、今回の西欧における反戦・反米運動は、ヨーロッパにとって特に大きな意味を持っている。ゆっくりだが確実に統合を進めて世界的な覇権を回復しようとするヨーロッパと、それを阻害しようとするアメリカという、欧米の関係の中で読み解けば、欧州の動きは、単に平和を希求するだけの運動ではない。

▼アメリカを刺激しないための緩慢な統合

 ヨーロッパは2度の自滅的な大戦の後、米ソによって東西に分断されて軍事的な支配を受けつつも、その中でゆっくりと再び力を蓄える方向を目指した。西欧に対する支配力を維持したいアメリカを刺激せぬよう、西欧の統合は経済からスタートさせ、何年も議論に時間をかけながら通貨統合を果たした。

 最近までアメリカの新聞では、欧州各国の意見が分裂して統合の議論がなかなか進まないことを嘲るような揶揄的な論評記事が多かった。だがそういった状態も、通貨統合が実現し、ドルよりユーロの価値が高くなった今では、アメリカ人を油断させるためのヨーロッパ人の深謀だったのではないか、とすら思える。

 アメリカは現在のブッシュ政権になってから、統合していく欧州に対して脅威感を表明するようになり、地球温暖化への防止策など、西欧が敏感な分野に対し、故意にとも思える反対政策を展開するようになった。もともと19世紀末に欧州で始まった「戦争防止のために話し合いを行う」という、近代外交の枠組みそのものをアメリカは軽視し始め「国際社会」を相手にしない「一強主義」に動き出した。

 欧米間のぎくしゃくした関係は、2001年秋の911事件後、いったんは収束したように見えた。911後のアメリカは、世界各国に対し「テロ対策」の名目で各国が抱える人権問題や植民地型の支配を黙認する代わりに、アメリカの戦争を支持させる政策をとった。アフリカ大陸の旧植民地の利権にこだわるフランスなどには、このアメリカの新路線はなかなか便利なものだった。

 だが2002年に入ってアフガニスタンでの戦争が一段落し、次はイラクを狙ってアメリカが動き出すと、再び欧米間の関係が悪化した。イラクのフセイン政権との間ではフランスなどが石油の利権を維持しており、それを踏みにじる形でアメリカがイラクに侵攻しようとしていることが一因だろうが、欧米関係が悪化した理由はそれだけではない。ブッシュ政権の内部分裂が激しくなったため、アメリカの外交手法がなりふり構わぬものになったことが大きな原因だった。

▼西欧と組んだ中道派

 アメリカの政権中枢で対立する「中道派」と「タカ派」という2派のうち、中道派は、第一次大戦以来の「国際社会」の枠組みを重視し、その中でアメリカと他国との利権調整を行いたいと考えている。その点で西欧諸国とスタンスが同じだ。

 一方タカ派は、国際社会との調整を続けているとアメリカの国益が損なわれてしまう、と考えている。アメリカはすでに経済では世界支配を維持できなくなっている半面、軍事では圧倒的な強さを維持している。だから「外交」や「国際社会」をわざと無視し、軍事的な「先制攻撃」の脅しをかけた方がアメリカの国益になる、と主張している。もはやアメリカには軍事しか取り柄がないのだから、それを活用して世界支配を維持しよう、という考えである。

 西欧を中心とする国際社会の反発を無視し始めたアメリカに対し、伝統的に大陸ヨーロッパから一歩距離を置いてきたイギリスは、あえてアメリカの側に立つことで、フランスやドイツなど大陸勢を牽制しようと考えたのだろう。イギリスのブレア首相は、国内の反発を受けながらも親米スタンスを維持した。

 昨年の春から夏にかけて、ラムズフェルド国防長官らタカ派勢力がブッシュ政権内で強くなり、米軍がイラクに先制攻撃をかける可能性が強まった。だがパウエル国務長官ら中道派が盛り返しを図った結果、ブッシュ大統領は昨年9月、イラク問題を国連に持ち込むことを決めた。

 この時点で現在に続く流れが生まれた。中道派は西欧諸国の助けを借りて、タカ派が実現しようとする米軍のイラク侵攻に歯止めをかけようとした。イラク侵攻に向けた米軍の態勢はかなりできあがってしまっており、これを阻止するには、中道派は西欧の助けを借りざるを得ない。先週の記事「イラク侵攻をめぐる迷い」( http://tanakanews.com/d0210iraq.htm )で書いたとおり、中道派のパウエル国務長官は、西欧の反米運動をわざと煽っているようなふしさえある。

▼欧州を分断するつもりが強化している

 一方タカ派のラムズフェルド国防長官は、ヨーロッパを、イラク侵攻に反対して反米を堅持する頑固な「古いヨーロッパ」(フランス、ドイツ)と、アメリカを支持してくれる「新しいヨーロッパ」(イギリス、スペイン、ポーランド、チェコなど)に分け、独仏を批判する発言を行った。

 これは、統合しつつある欧州内部の分断を煽ろうとした発言だったと思われるが、それは裏目に出て西欧の人々の反感を煽り、2月15日の反戦集会の参加者を増やすことにつながった。

 ポーランドやチェコといった東欧諸国の政府が親米的な態度をとるのは、統合しつつある欧州の中で、中心となる独仏の完全な影響下に置かれることを警戒してのことである。ロシアとドイツという大国に挟まれている東欧諸国は、バランスをとるために遠くのアメリカを利用している。だが、東欧がドイツやフランスと決別するかといえば、そうではない。

 東欧は西欧企業に労働力を供給し、東欧で作られた製品が西欧で売れる、という経済的に切れない関係にあり、両者は疎遠になることができない。アメリカが欧州を分断しようとしても、それは逆に欧州のアメリカ離れを促し、長期的には欧州の統合に拍車をかけることになる。

 またアメリカのタカ派は昨年末、トルコをEUに急いで入れさせる運動も起こしたが失敗した。トルコはイスラム教徒が多い上、政治経済が不安定なため、西欧諸国はトルコより先に、もっと安定していて西欧との宗教的な親和性も強い東欧諸国をEUに入れ、拡大したEUが安定してきたら、トルコを加盟させようと考えている。

 そういう微妙なトルコ加盟問題を急いで進めさせることで、アメリカのタカ派はEUを不安定にさせるとともに、トルコに対しては「EUに入れるように運動してやるから、米軍がイラク侵攻するときはトルコの基地を使わせろ」と持ちかけたのだった。

 この策略は失敗したが、EUに「イスラム教徒を人種差別している」という汚名を着せることには、ある程度成功した。このような汚名を着せることにより、米政府自身が国内のアラブ人やイスラム教徒を不当逮捕して人権侵害していることに対する非難をかわすことができるというわけだった。

▼冷戦のくびきを乗り越えたドイツ

 中道派とタカ派という、世界支配をめぐる米国内の対立は昔からあった。第二次大戦の前後には、アメリカの中道派(主流派)は、新たに作る国連に5大国の常任理事国の制度を作り、そこでアメリカ自身を含む世界の大国どうしが牽制しあうことで「一強主義」を防ごうとした。

 ところが、第二次大戦でアメリカが世界を支配できる体制ができたため、これを維持したいと考える勢力が米国内で台頭し、ソ連との対立を激化させて冷戦に持っていくことで、世界に対して「アメリカに従わなければソ連側とみなす」と脅し、国連を無視できる事実上の「一強主義」の体制を作ることに成功した。

 ソ連はアメリカよりかなり国力が弱く、社会主義化してソ連の支援を頼った国の多くは、十分な支援を受けられなかった。アメリカはソ連と交渉して冷戦を終わらせるチャンスが何回もあったが、そのたびに米国内の冷戦派に阻止され、結局冷戦は45年間続いた。

 ヨーロッパは、こうした冷戦の犠牲になって分断されていたわけだが、冷戦後ドイツが再統一し、さらに10年ほどがすぎた今、冷戦時代はアメリカべったりの政策を強いられていたドイツは、独自外交を展開できる状態になった。

 ドイツとフランスは、今後政治統合を強化することを決めており、その傾向は、今回アメリカによる欧州分断作戦を受けたことで加速することになると思われる。アメリカが理不尽な強硬姿勢に出る以上、欧州側は急いで団結せざるを得ない、とはっきり言うことができるからだ。長期的にみると、アメリカは警戒すべき欧州統合をわざわざ進めてしまうという墓穴を掘っていることになる。

▼日本人が独仏に学ぶべき点

 こうした西欧の動きは、日本人にとって特に大きな意味がある。第二次大戦の敗戦から半世紀、ドイツはアメリカからの「独立」を果たし、かつてのライバルであるフランスとの和合も進め、国際的にも一目置かれるようになった。それに対して日本はどうだろうか。

 アジアでは朝鮮半島の分断も解決されていないので、ヨーロッパとは戦後の歴史的展開に違いがあっても、それ自体は問題ではない。

 私が特に懸念するのは、アメリカからの「独立」問題よりも、伝統的なライバルである中国や韓国との間に、日本は政府としても人々としても、新しい関係をあまり模索していないことだ。それどころか、逆に昨今は「反中国・反朝鮮」の論調が国内に広がり、アジアとの関係強化ができない分、今後もアメリカに頼らざるを得ない状況が生み出されている。

 世界のどこの民族でも、大体近くの民族とは長年のライバルで、仲があまり良くない。だが、そういう近隣どうしの敵対意識を乗り越えて、ドイツとフランスは和合して自分たちを強化しようとしている。一方日本では最近「日本を愛するからこそ反中国・反朝鮮なのだ」という主張が見られるが、独仏の例と比較すると、私には逆に、反中国・反朝鮮をことさらに主張する人は、実は日本を愛してなどおらず、日本が中途半端な状態でかまわない、と思っているのではないか、と見えてしまう。

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