ヨベル書概説


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投稿者 倉田佳典 日時 1998 年 12 月 13 日 19:07:01:

韋駄天掲示板
http://www01.netweb.ne.jp/~kimura/bbslog/b00009.html
[890] RE:メルキゼデクとヨベル書の関連です。
長文なので、ここにアップさせていただきます。m(_ _)m

旧約外典偽典概説−付・クムラン写本概説−
レオンハルト・ロスト著 教文館1972年
荒井献・土岐健治共訳

原題
EINLEITUNG IN DIE ALTTESTAMENTLICHEN
APOKRYPHEN UND PSEUDEPIGRAPHEN
Einschiliebich der groben Qumran-Handschriften

von LEONHARD ROST
Quelle & Meyer,Heidelberg,1971

p144
IVクムラン集団の影響圈に由来する文書
一 ヨベル書

伝  承
 ヨベル書は、完全な形では一五−一九世紀に由来する四つのエチオピア語写本の中に存在する。そのうち、一つはパリに、一つは大英博物館に、一つはテュービンゲン大学図書館に保管されている。A・ディルマンは一八五九年にヨベル書の本文を成立年代の若い二つの写本に基づいて公刊し、R・H・チャールズは一八九五年に四つの既知の写本に基づいた新しい校訂本をこれに続けた。M・A・ケリアニは一八六一年にラテン語訳の断片を出版した。これは本文の四分の一を含んでいるが、一八七四年にH・レンシュにより新しい校訂方法によって再度公けにされた。エチオピア語版もラテン語版もそれに由来しているギリシア語訳の引用が、エピファニゥス(注66)のΠερι μετρων και σταθμων〔度量衡について〕に見出される。最後に、クムランで本書の九つを下らない種種のヘブライ語写本断片が現われたが、これはそこでヨベル書に与えられていた意味を示す証拠である。
 ヨベル書はこのように、種々の翻訳に見出されるヘブライ語法も明白に示している通り、元来ヘブライ語で著わされていたものが、その後に――おそらくヘレニズム時代のエジプトで――キリスト紀元前後に、ギリシア語に移されたものである。ラテン語訳は、H・レンシュによれば、紀元後五世紀にギリシア語版から作られたものであろう。エチオピア語訳もギリシア語版に出来している。
 名  称
 エチオピア語では、本書は上書きと後書きにmashafa kufaleという名称を記している。ヘブライ語の資料からは*******〔ヨベル書〕および**** ******〔小創世記〕という名称が知られており、これに対してギリシア語では、τα ’Ιωβηλαιαあるいはοι 'Ιωβηλαια〔ヨベル書〕およびη λεπτη Γενεσιζ〔小創世記〕が対応している。これと並んで、古代教会の文献には更に多くの名称、例えば「モーセの黙示」あるいはモーセの「遺言」、「アダムの娘達の書」あるいは「アダムの生涯」等が存在していた。
 内  容
 本書は、出エジプトの第一年三月一六日、モーセに対する神の語りかけをもって始まる。そこでモーセは山に登り、律法を記した二枚の石の板を受けるようにと命ぜられる。次いで神の御前に侍る天使が神の命令に基づいて発言し、創造の始めから、モーセが律法を受けるまさにその瞬間までの歴史を物語る。
 ヨベル書の様式と類型
 本書は、モーセに対する神の語りかけを装っており、「御前の天使」の語りかけがこれを引き維いでいる。この天使は、始源史(注67)、族長たちの歴史、エジプトでの出来事から、山上での−−ただし山の名はあげられていない−−モーセに対する律法の譲渡に至るまでを、多種多様な訂正・拡大・縮少を加えながら物語る。その際、この語り手はP資料に、その他の五書資料によりも、密着している。(注68)しかしP資料と異なって、彼は、すでにアダムが美わしい香りとして薫香を献げ(三・二七)、ノアが罪祭と燔祭とを献げたとしている(六・二以下)。一連の律法規定を、彼はすでに始源史の中に、例えばすでに楽園のアダムとエバのもとに、息子あるいは娘の誕生後の女の不浄に関する規定を根拠づけている。しかしなかんずく彼は、年週およびヨベルの年に基づいて数えられる絶対的年代の中に全歴史叙述をはめ込んでいる。このようにして彼は、この観点から見て創世紀のP資料に足りないと思ったものを補っているのである。
 これと対照的なのは、クムランで発見された外典創世記(1Q Gen Apoc)である。これは始源史とアブラハム物語をミドラッシュに類似の仕方で敷衍している。しかし、両著者の関心は非常に異なっている。律法の素材はヨベル書の方でより包括的、より徹底的に取り扱われており、より強く叙述の中に組み込まれている。これに加えて、外典創世記には絶対的年代が欠けている。
 著作年代
 著作年代はかなり正確に決められる。R・H・チャールズは、レビ(三二・一「いと高き神の祭司」というハスモン家出身の大祭司にのみ用いられた称号で呼ばれていることに注意を促している。もしもシケムの破壊 (三〇・四一六)ということでヒルカヌスによつて征服されたサマリアの運命が理解されているとしたならば、このハスモン家の王〔ヒルカヌス〕の最後の幾年かに到達し、従って、R・H・チヤールズと共に、一〇九r一○五年を想定することができるであろう。キルベト・クムランにおける断片の出現はこれに矛盾しないであろう。
 著  者
 すでにA・ジェリネクはその著『ベト・ハ・ミドラッシュ』(一八五三−五五)において、著者をエッセネ人と性格づけた。もしもクムラン集団をエッセネ派の修道団とみなすならば――この蓋然性が最も高いのであるが――この意見に組せざるをえないであろう。著者自身がクムランに住んでおり、従って特別の集団に−−おそらくそれだけでなく律法の研究を託された人々に−−属していたのではないかという点については、多くの事柄がこれを支持しているにもかかわらず、決定的なことは言えない。いずれにせよ、彼の故郷はパレスチナであった。
 暦  法
 ヨベル書の特色は、三六四日の陽暦の一年と、それぞれ一三週からなる同し長さの四分の一年から成り立っている暦の詳細な叙述である。これによって祭が固定されており、そのうちで特に五旬節が強調されており、ノアは大洪水の後にこれを祝うことを始めた。他方アプラハムはイサクの誕生の日に仮庵の祭を地上で初めて祝った。過越の祭のみは出エジプトとあまりに密接に結びついていたので、もはやそれ以前の時代に遡らせることは不可能であった。しかしこの暦はクムラン集団の暦であって、それはダマスコ文書やエノク書にも認められている。ダマスコ文書とは、思考方法においても密接な繋がりが示されている。
 意  味
 ヨベル書は五書あるいは少なくとも創世記と出エジプト記の最初の二〇章を前提して、これに敷衍的な加筆を施しており、その際、その厳格さにおいてエッセネ派の理想に対応するトーラーの律法的規 定の数々を、始原史と族長の時代の状況から導入している。それ故にこのことは、クムラン集団の一員が、自ら選んだ律法観の裏付けを見出すために、創世記と出エジプト記とをいかに解釈しえたかということを示しているのである。

訳注
〔66〕 三一五年頃から四〇二年までサラミスの主教。ニカイア信条に反する教説(オリゲネス主義、アポリナリオス説等)を激しく論駁、正統教理擁護に情熱を傾けた。その著『度量衡について』は旧約聖書中に用いられている度量衡について記したもので、聖書研究便覧ともいうべき書物である。
〔67〕 創造からアブラハムの登場に至る原初の歴史(創世記一一二章)。
〔68〕 モーセ五書(創世記から申命記まで)を構成している資料としては、J=ヤハウェ資料(神名にヤハウェを用いる)、E=エロヒム資料(神名に,エロヒムを用いる)、D=申命記資料(申命記中心)、P=祭司資料その他があげられている。その中P資料は、パピロン捕囚中に書き記されたものが、エズラ・ネヘミヤの時代にJEDと結合せられたものと思われる。その名の示すごとく、祭司的色彩が強く、祭儀的律法、絶対的超越的な神観などにその特微を有する。
〔69〕 ヨペル書の著者は、七年を周期とする「年周」(Jahreswoche)が七回くり返す期間(四九年間)を一単位としてこれを「ヨベル」と呼び、アダムからモーセまでを四九のヨベルに、モーセからカナン侵入までをーヨベルに各々分割する。天地創造を第一年として、全歴史を年週とヨベルの年の組み合わせによって、絶対的に年代づけてゆくのである。例えばアプラハムの生誕は三九ヨペルの第二週の七年目=一八七六年とされる。

参考文献 ヨベル書の項
Davenport, G.L. :The Eschatology of the Book of Jubiless. Diss. Vanderbilt 1968,cf.DissAbster 29,1968s,3208-A.
−−−−−−−:The Eschatology of the Book of Jubiless.Sutudia Postbiblica ed.J.C.H.Lebram,Vol.XX,1971.


引用者注
ギリシャ文字は、一部文字上の「’」マーク等が抜けている。(日本語環境で表示不能)
***は、ヘブライ文字なので、日本語環境で表示不能。




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