4ユリ・ゲラー マスコミ論争史

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投稿者 SP' 日時 2000 年 12 月 16 日 21:21:38:

回答先: 特集 ユリ・ゲラー(『UFOS & SPACE』83年6月号) 投稿者 SP' 日時 2000 年 12 月 16 日 21:19:38:

 1974年2月21日、超能力者として知られるイスラエル青年、ユリ・ゲラーが初来日。その後の約半年間、そして翌年7月5日の再来日('73年2月27日にも非公式に来日)の前後、日本のマスコミには、まさに“騒動”とも言うべき、ユリ・ゲラー=スプーン曲げブームが吹き荒れた。
 今回の4度目(公式には3度目)の来日を機に、かつての一連のマスコミを舞台とした論争を振り返ってみよう。そこにはきっと、我々が学ぶべきものがあるはずである。

志水一夫編


●スプーン曲げマスコミに登場!

 いわゆるスプーン曲げについて、最初に報じた週刊誌は、『週刊新潮』'74年1月31日号だと思われる。そこで紹介されたのは、ユリ・ゲラーではなく、当時神奈川県川崎市在住の小学4年生で、1月21日の『13時ショー』(NET=現テレビ朝日)に初登場したS君だった。
 S君は、彼の父上S氏の手記『パパ、スプーンが曲がっちゃった』(49年6月、二見書房刊)他によると、48年12月上旬にNTVの『まんがジョッキー』で、ロンドンの9歳の女の子が、指でこすってスプーンを曲げたフィルムを見て、そのマネをしているうちに自分の能力を発見したのだという。
 そして、その少女は、48年11月24日にロンドンのTVに出たユリ・ゲラーのマネをしてできるようになったと伝えられている。
 もっとも、TVでは'73年12月24日の『11PM』で、矢追純一氏のユリ・ゲラーへのインタビュー・フィルムが、初めて紹介されている。さらに一般誌以外も含めると、新潟の超心理研究会発行の『テレパシー研究』(現『テレパシー』)誌No.37('73年12月1日発行)に、関西の研究家井村宏次氏による「現代の超能力者たち@──ユリ・ゲラー」が掲載されている。
 ユリ・ゲラーは、2月25日の『11PM』、3月7日放映の『木曜スペシャル』(収録は2月24日)に出演、さまざまな“超能力”を見せた。とくに、『木スペ』では、透視実験2件や、お得意の金属(このときはフォーク)曲げを見せた他に、放送当日カナダから念力を送って、視聴者宅にスプーンやフォークが曲がったり、壊れた時計が動いたりという異変を起こし、日本中の話題をさらうことになった。

●インチキ論争開始

 この時期の各誌の扱いは、ただスゴイ、スゴイと驚くばかり。3月中はまず、「ユリ・ゲラーとは何者か」という記事が中心。4月に入ると、「この人もできる、あの人もできる」と新スターの掘り出しが中心となった。
 変わりダネとしては、「ユリ・ゲラーの念力で加山雄三の足がなおった!」(『女性セブン』4月24日号)。それによると、同年1月5日、スキーグライダーで事故にあった、加山雄三が、入院中の3月7日の『木スペ』を見ていたら、「不思議なことに、放送して40分ぐらいたったら、痛みがパタッと止まった」というのである。
 そんな中にあって、『週刊ポスト』3月15日号は、「ユリ・ゲラーはインチキだ!」と題して、米『タイム』誌3月4日号の記事を紹介。『週刊文春』3月25日号は、「日本をひん曲げたユリ・ゲラーTV番組に異議あり」として裏話を集めた。さらに『週刊大衆』3月28日号は、「謎の超能力青年ユリ・ゲラーの“真相”に冷静にせまる」という見出しで、肯定的報告に併せて、奇術師など各方面の人々の見解を紹介しているのが注目される。これに対し「ユリ・ゲラーの『超能力』を見破らんとする『真贋』のまなこ」(『週刊新潮』3月21日号)、「ユリ・ゲラー超能力の真実性とインチキ性」(『週刊読売』3月23日号)は、題名の割りには、もう一つ突っ込み不足の感を免れないものだった。
「ゲラーは、ナイト・クラブのマジシャンだった」、と『タイム』誌はのっけからスキャンダラスにスッパ抜いている。
 確かにゲラーは、SRI〔スタンフォード研究所〕で科学者の前で実験している。しかし、米国防総省からゲラーの調査を依頼された、オレゴン大学のレイ・ハイマン教授はこう断言する。
『SRIのゲラーに関する実験は信じられないほどいい加減』(タイム誌)だと……。
──『週刊ポスト』3月15日号

 そう簡単に〔視聴者からの奇跡の〕電話の内容を信じてよいものか。なかには嘘八百の報告もあるのではなかろうか。念のために電話の控えメモから確認をつづけると、事情はかなり違ってくるのだ。
 たとえば、渋谷にココリコというレストランがあり、当夜、ここのスプーンはすべてひん曲がったという報告が残っている。
 そのココリコの従業員の話、
「誰だい、そんなウソを電話したのは。1本もひん曲がってなんかいないよ。いままでに客が踏んづけて曲げたことはあるけどね」
 時計メーカーの話によれば、止まっていた時計が、なにかの震動でかなりの時間動くことは、十分考えられることらしい。
「テレビは強いマグネットを使用しているので、近くに時計を置くと、狂ったり壊れたりするのと逆の意味で、壊れた時計が磁力で動きだすことも考えられる。ゲラーさんがもし、この磁力を計算に入れておられるのなら、実に科学的な緻密な頭脳の持ち主ということになる」(Sメーカー)
──『週刊文春』3月25日号

「まったくの主催側まかせだから、信憑性がない。インチキ臭いシロモノですよ。手品だったら、あれよりもっと鮮やかに、ズバリと決めるね。本当に超能力があるなら、動いている時計を止めてほしいもんですな」(神奈川大工学部講師、東京アマチュア・マジシャンズクラブ・坂本種芳名誉会長)
「ハッハッハ。あんなこと、われわれにだって簡単にできますよ。
 不思議な現象のウラには、必ずタネがあるんです。ゲラーにも、もちろんあったと思いますよ」(マジック研究家・石川雅章氏)

●オソマツな各誌レポート

 なかには次のような報告もあった。
「うちの子どもなんか、最近、スプーンを何本も曲げていますよ」(イラストレーター・横尾忠則氏)
 マンガ家のつのだじろう氏宅でも、
「ボクも、スプーンを持っていたんですが、残念ながらダメでした。しかし、小学校2年の息子のスプーンは、グンニャリ曲がりましたよ。ゲラーの念力が息子の念力に働きかけたんでしょうね」
──『週刊大衆』3月28日号

 八日朝の自民党役員会でも、前夜テレビ放送された超能力者番組がひとしきり話題になったとかで、江崎幹事長代理は記者会見で「幹事長室の女性秘書がスプーンを手にその番組を見ていたら、スプーンが曲がったそうだ。念力というのはホントにあるんだなァ」と感心した風情。
──『読売新聞』3月9日付「政界メモ」

 3月7日の『木スペ』のゲストだった故今東光師は、「たしかにあの男には超能力があるねえ。密封した封筒の中に女の子が描いて入れ、それをユリ・ゲラーが当てたんだが、あれなんかまったく彼なんかを知らない女の子がその場で描いた絵だからなあ」(『週刊新潮』3月21日号)と言われている。しかし、あの封筒の絵を描いた女の子は、単にスタジオのバックに並んでいた、「まったく彼なんかを知らない」一般視聴者(その中にはS君一家も私もいた)の1人ではなく、前日の記者会見のときにも(恐らくは来日直後から)、マスコット的に、彼を取り巻いていたアシスタント・ガールの1人なのである。
 スタジオ内での“奇跡”に関しては、どの記事も全体に突っ込み不足だった。たとえば封印をした10個の缶の中から、鍵を入れてある缶を当てる“実験”について、各誌は「ピタリと当ててみせた」(『週刊女性』3月16日号)とか、「ピタリと的中した」(『週刊大衆』3月21日号中岡俊哉氏稿)などと書いているが、実は、ユリはこの“実験”で、見事に“外れて”いるのである。
 10個の中から2個に絞り込むところまでは成功したのだが、それは、缶に鍵を入れた放送作家・羽柴秀彦氏が同席しており、ユリは彼の表情の変化を読んでいたものと思われる。彼は自分で1個を選んでから、自信がなかったらしく、脇にいたタレントの栗田ひろみにもう1個のほうを選ばせ、彼女の選んだほうから先に缶を開けている。そしてカギは、ユリの選んだほうではなく、彼女の選んだ缶に入っていたのだった。
 さらに4月4日放送の『木曜スペシャル』の“科学的分析”の問題点を取り上げたのは、『週刊大衆』4月18日号の一誌のみであった。
 科学的分析とは、神戸製鋼の研究所で、ユリ・ゲラーくんが折ったり、切ったりしたスプーンを材料にして、分析した結果を放映しようというもの。(注=もっとも、そのあとすぐに神戸製鋼のコマーシャルが流れて、ナルホドと思わせたが……)
 ごたいそうな機械を使用しての、“科学的分析”だったのか、それとも気のきいたコマーシャルだったのか、ハタと迷ってしまう。「手品を知らん科学者を集めてワイワイやるより、プロの手品師を20人集めたほうが、よっぽどモノゴトがはっきりしますよ」(かくし芸コンサルタント・花島三郎氏)
──『週刊大衆』4月18日号

 しかし、その『週刊大衆』にしても、ユリが曲げたスプーンを機械で曲げたスプーンといくら比べてみても、肝腎の手品で曲げたスプーンと比べてみないことには、意味がないと指摘するのを忘れてしまっているオソマツさであった。

●『週刊朝日もスプーン曲げを認めていた!!

 さて、一般に「乗り遅れた」と言われる『週刊朝日』は、ようやく4月26日号で「超能力研究で新しい科学の糸口も」と題して、イラストレーターの横尾忠則氏と、作家の小松左京氏の対談を載せているが、その中に次のような一節があるのは注目される。
(横尾氏、依然として、フォークをこすり続けている)
 小松 だいぶ曲がったナ。柄のほうが曲がったんじゃない?
(横尾氏、他の人のフォークと並べ、自分のと具合いを比べる。そり具合い、長さが異なっている)
 横尾 ちょっとそったみたいネ。浮いてきたんだね。
 小松(自分のフォークと並べ)もう1本、3本で比較すればなおいい。あ、ホントだ。浮いてるワ。(小松氏、隣の人のフォークをもう1本並べて)4本で比較すればますますいいぞ。あ、ホントだ。曲がっちゃった。(笑い)

 『諸君』7月号の小松氏稿によると、この対談が行なわれたのは3月16日だとのことだが、右の件についてはとくに言及がない。後に頑強な否定派の立場をとる同誌が、右の件に関してまったくほっかむりしているのは、どうにも解せないことである。よもや第二の“伊藤律会見記”でもあるまいに。
 4月から5月にかけては、日本を去ったユリに代わって、再びS君が話題の中心となった。
 このころのS君は、スプーンを放り投げるだけで曲げたり、針金を投げてさまざまな図形にしたりするようになっていた。
 また、S君の弟Aちゃん(当時4歳)にも超能力が出てきたという報道もあった(『週刊文春』3月18日号、『週刊明星』4月14日号)。
 このころの各誌の記事で目立ったのは、科学者や著名人にS君らのスプーン曲げを見せて、その感想を求めるという形式のものだった。(各氏の肩書きは、各誌毎の表記による当時のもの。「 」内のものは談、〔 〕内は引用者注)
中山千夏氏
「学者がこれを研究しようと思っても、磁力を物さしではかるのと同じじゃないかしら」
柴田錬三郎氏
「オレは宮本武蔵を超能力者だと思っとる。Sクンがスプーンを投げた瞬間、オレはそこに殺気を見たね」
──『週刊プレイボーイ』4月16日号

星新一氏(SF作家)
「オカルト全部を信用するわけにはいかないのですが、スプーンを曲げる男は信じましょう。とにかく、こういう世の中になると、面白くてしようがないですナ。次に何が出てくるか、楽しみですヨ、ええ……」
──『いんなあとりっぷ』7月号

小松左京氏(SF作家)
「スプーン5本を投げ、一瞬にして前後左右、W状に曲げる現象をはじめ、手品でもトリックでもない、どうにも説明できない現象を次々に起こされ、呆然とした。さらにその時同席した友人1人が同じような能力を持ち、その後もう1人の友人の子息とSF仲間の子息の1人が、同じような能力を発揮しはじめた」
──『週刊朝日』4月26日号

小松左京氏< /b>
「解明するには、我々の知っている物理エネルギー以外の、未知の場をファクトとして認めて、真剣に取り組むべきだと思いますね」
加藤秀俊氏(社会学者)
「日本の科学界は独善的だからね。こういうことを認めさせるのは難かしいだろうな」
──『週刊プレイボーイ』4月9日号

大谷宗司教授(防衛大・心理学)
「超能力は、ブームとしてではなく、もっと慎重に研究の対象として考えられなければなりません。超心理学は、宇宙の神秘とともに、人間に残された最後の謎ですからね」
──『週刊大衆』3月28日号

江崎玲於奈博士(ノーベル物理学賞受賞者)
「私自身が、この現象を解明しようとしても、多分できないでしょう。これは、私にとってこの種の研究が専門外だからという理由でしかありません。でも、私自身、非常に興味深くこれらのデータを見たし、こんなことが現実にあるんだという事実をあらためて認識しました。これを簡単に無視してしまう科学者のやり方には問題があると考えます」
──『週刊プレイボーイ』4月23日号

猪股修二博士(国立電子技術総合研究所主任研究官)
「『事実』として認めなければならなくなったことを、率直に告白する。自分でやってみたら、フォークが曲がってしまったのである。このことを『事実』でないとすることは、科学者の良心に反する」
──『週刊読売』5月4日号

糸川英夫氏(組織工学研究所長)
「科学者たちが、“超能力”の研究をしないことを非難するのは酷だ。
 この研究をするためには、莫大な費用と時間がかかるでしょう。いま科学者たちは、公的機関なり民間機関なりに属して、それぞれの研究をしているわけで、その片手間にちょいと超能力の研究をするというわけにはいかないのです」
──『週刊プレイボーイ』5月28日号

 スプーンが曲がる理由についても、いろいろな仮説が取り沙汰された。細かい差はあるものの、それらの仮説は、オーラ説(斎藤守弘氏、内田秀男博士、中岡俊哉氏)、超微粒子説(関英男博士、政木和三氏)、時間エネルギー変換説(宮内力氏、猪股修二博士)の三つに大別されるようだが、中には「彼の力によるものではなく、守護霊の助けです」という守護霊説(橋本健博士)というのもあった。
 そんな中にあって、超心理学を専門とする防衛大の大谷宗司教授は次のように語っている。
「超心理現象の存在は、心理学で認められています。現象の存在は認められても、メカニズムはいっさいわからないんです。
 仮説としては、脳波、電磁波、重力波、微粒子の関係だとかいわれていますが、実証のしようがなく、何もわかってはいないんです」
──『週刊大衆』3月28日号

●ブームの波紋あれこれ

 こうした中でS君のTV出演回数も大変なもので、「フィンガー5も顔まけの“売れっ子”ぶり」(『女性セブン』5月8日号)。2月下旬から5月上旬までだけで17回にものぼっている。
 S君以外の少年少女だけが出演した、4月1日の『アフタヌーンショー』のような番組もいくつかあったし、NTVでは5月5日からの新番組『NOWヒットパレード』に、“超能力コーナー”まで設けるようになった。
 あまりのブームに業をにやした(?)TBS・宇田編成局長が、5月7日の定例社長会見で、「私のところでは、超能力番組をやるつもりはまったくありません。ウソに決まっていますよ。いってみれば邪教の類いのようなもので、世の中がおかしくなると必ずこの種のものが登場する。インチキの片棒をかつぐようなものだと思いますね」(誌名不明、5月8日付)とウッカリ大見栄を切った。
 ところが、同局の4月13日の『朝のティーサロン』と、5月3日『3時にあいましょう』にS君が出演していたことが明らかになり、「“放送しない”といったのは取り消すよ」(『報知新聞』5月10日付)と苦しい釈明をする一幕まであった(『週刊文春』5月27日号他各誌報道)。
 また、天下のNHKも、正面から扱いはしなかったものの、ドラマ『天下堂々』にボルトをこするシーンが登場したという(『週刊新潮』5月23日号)。
 雑誌媒体でも、『女性セブン』は5月15日号より、中岡俊哉氏の「超能力はあなたにもある!」の連載を開始している。
『週刊プレイボーイ』も4月2日号以来毎号特集を組み、5月21日号では、封をした医学用X線フィルムにボヤッとした“影”が写ったのを「“念力スプーン曲げ集中観察で関英男博士がノーベル賞級の大発見!!」とブチあげた。
 そんなときだった。問題の『週刊朝日』5月24日号の爆弾記事が出たのは…。

●『週刊朝日』がトリックを指弾

 問題の『週刊朝日』の記事は、「超能力ブームに終止符」というタイトルとは裏腹に、むしろ火に油を注ぐこととなった。
 問題の核心は、ゲラーよりも、身近な日本の少年たちに、そして、不毛の真贋論争へと移っていった。各週刊誌は、毎号のように、この問題を扱い、当の『週刊朝日』さえ、この後7月5日号まで毎号ちょっとした特集記事を組み続けたのであった。
 問題の記事は、「カメラが見破った“超能力”のトリック」と題する、数枚のグラビア写真から始まっている。
 その写真には、「1秒間に24回発光し、1回の発光時間は5万分の1秒の特殊“マルチプル・ストロボ”を使用して撮影した。完全な暗黒状態でシャッターを開けて待ち、少年の合図でマルチ・ストロボを発光させると同時に、手に持った針金やスプーンを投げさせた。したがって、この分解写真の1コマ1コマは、5万分の1秒の動きを連続してとらえたものである」という説明が付いている。
 3枚の写真には、それぞれ、
「造花用の針金(長さ約30センチ)を1本だけ持たせ、投げさせた。投げる直前、肩先から左手が伸び、その中指で針金を押え、曲げているのがわかる」
「前ページと同種の針金を1本だけ持たせ、投げさせた。ヒザの前には、別に10本程度の針金が置いてあった。最初は針金の端を持っていたのが、投げる前には真ん中をつまんでいる。あらかじめ作っていたものと、体の影ですり替えたとしか考えられない 」
「右手に持ったスプーンを、腹のほうへ持っていっている。右手が体の陰から出た瞬間、持ったスプーンは曲がってしまっている。太ももか腹に押し当てて曲げたものと思われる」
 という説明文が付いていた。
 以下、本文の核心部分を抜粋してみよう。
 A少年に初めて会ったのは、5月4日夜、東京・有楽町のレストランだった。
 分解写真による判定の実験の前に、カメラマンや、立ち会いの記者と「心の交流」をはからねば、念力が発揮できないという、A少年側の要求によるものだった。
 撮影は5月7日、東京・芝のPスタジオで、午後5時半から行なわれた。
 セットされたカメラは、少年の背中に向かって4台、そのなかの一番左はしがポラロイドカメラだが、撮影が1回終わるたびに少年が駆け寄り、「ぼくにやらせて」とフィルムを引き出す。
 少年が控室に行っている間、カメラの位置を直していたカメラマンが「オヤッ」と声をあげた。
 少年の座っていたヒザ元あたりに、白い粉が一面に落ちているのだ。近寄って見ると、カメラに鮮明に写るよう、スプーンに塗っておいた白ペンキのはげ落ちた粉である。
 しかも、その床に敷かれた布の上には、半月形の傷が無数についている。スプーンの頭で押しつけてみると、同じような傷がつく。暗闇だからと安心して、床に押しつけて曲げていたとしか思えない。
 夕食後、針金に挑戦するという。
 ひざの前に5、6本の針金を用意する。最初は1本の針金を輪にすることから始める。暗くなってから10秒ほどすると「いいよ」の声、ストロボがつく、右手を真横に伸ばす。真っすぐな針金が1本握られている。
 ゆっくり身体の陰に手が移動する。
「ねじれろ」とかけ声をかけると、右手から輪になった針金が飛び出して右横に落ちる。
 次は輪を二つつなぐという。暗闇で待つこと15秒。
 三つの輪をつなぐとなると、暗闇での待ち時間は20秒あまりになる。
 さらに針金を星形にするという。これは一つのときに20秒。二つの星形を作るには45秒。3本の針金で星形を三つつなぐときには、暗闇での待ち時間が1分を越えた。
 最後に1本だけ持って投げることにした。暗闇の待ち時間はほとんどない。「いいよ」で投げられた針金は、U字型になって落ちてきた。(後でフィルムを現像して見ると、左手の指にひっかけているところが記録されていた)
 少年の斜め左側で、ストロボのスイッチを操作していた係員は、「ボクの位置からは少年の手もとが見えた。針金曲げは全部すり変えだった。夢がなくなったよ」とポツリといった。

●トリックの陰にあったもの

(『週刊朝日』5月24日号つづき)
トリックの証拠写真を見せられた両親は、青い顔をして「子供に聞いてみる」と帰った。その返事は「子供も認めました」だった。そして次の手記を本誌に寄せた。
◎A少年の母親の手記
 自分に念力があるということを信じてもらいたいために、念力を使える状況ではないのに、無理して自分の力を出し、そして疲れはてて、最後の針金のときに、つい細工をしてしまった……。
 おそらく私の子供は、そういう状況に追い込まれてしまったのだと思います。そして、このことで、私は子供を責めることはできません。むしろ、反省しなければならないのは、私たち親や、念力や超能力ブームを演出してきたマスコミではないかという気がするのです。
 このことを信じてない人には、テレビに出ている子供たちのすべてが、疑わしいでしょう。そのような角度を、私の子供がつくってしまったことを、親としても、他の念力を持っているかもしれない人と、その親に対して申しわけないと思います。
◎“超能力実験”を見た人たちの反応は
○小松左京氏(SF作家)
 私もこの種のテストに立ち会ったが、曲がった瞬間は目撃していない。ただ、透視やテレパシーと違い、今度のケースは“超能力”が直接物質に作用するものだけに、もし真実ならば、科学的検証が可能だから、科学の新しい発展に寄与できると思っている。そういう意味で、急いでちゃんとした物理学者の立ち会いで、厳密な測定を受けなさいと言っておいたのだが、いたずらにショーとしてエスカレートして来たのは残念だ。
○桂三枝(落語家)
 は? でたらめだった? 実は、私もあの番組の直前、控室での親子の素振りに、ウサン臭さを感じてたです。
○川口浩氏(タレント)
 あの番組の場合でも、はじめ、名古屋に新たな超能力少年がいるという情報があって、プロデューサーが出かけていったところ、手で曲げたのがバレて出演に至らず、ということもありました。

 右の記事で「A少年」とあるのが、前記S君であることは、記事全体を読めばすぐわかる。この記事の出た後、各界はハチの巣をつついたような騒ぎになった。
『女性セブン』の中岡氏連載は、わずか2回で中断の憂き目を見せられ、NTV『NOWヒットパレード』の“超能力コーナー”も間もなくなくなった。そればかりかTBSのドラマ『事件狩り』で予定されていた、超能力を扱ったストーリーがクランクイン直前で急きょ変更(『週刊TVガイド』6月14日号)。さらにはNET(現テレビ朝日)の超能力ロボット・アニメ『勇者ライディーン』が、すでに全52話分のスクリプトまで用意されていながら、放映開始直後にして路線変更を迫られ、ついに、総監督の番組中途での降板という事態まで引き起こした(池田憲章編『アニメ大好き!』徳間書店)。
 もちろん週刊誌も例外ではなく、5月末から7月初めにかけての各誌は、この話題でもちきりとなった。その間各誌に出た記事は、S君関係のものだけでも50件以上にものぼる。

●『週刊朝日』とS家の言い分

 50件の記事には、『週刊朝日』側やS君側を中心に各方面のコメントを集めたもの、対談や座談会、各誌で新たな実験を行なったものなどがあった。
 第一の種類の中から、まず両者の言い分をきわめて要領よく紹介している『週刊平凡』5月30日号の「緊急特報・超能力はほんとにインチキ 念力少年はウソつきなのか!」と題する8ページにわたる記事から、抜粋してみよう。
○実験した『週刊朝日』の意図と言い分
「A少年の場合がトリックであれば、“超能力”の存在はたいへん疑わしいものになる。まず99パーセントまではないと推論できるでしょうね」(稲垣武副編集長)
 5月10日、週刊朝日編集部は、A少年の両親を呼んでA少年の念力写 真を見せ、率直に疑惑をぶちまけた。
 その夜、11時に父親から編集部に電話があり、
「息子が(トリックを)認めました。申しわけない。こうなった以上、これまでのすべてをクロと見られてもしかたありません」
 同時に載ったお詫びの手記は、「私の名前では……」と父親がためらったので、母親の手記として書いてもらったのだそうだ。
 そのとき、父親はこういったという。
「じつはこの前、週刊読売でしたものも、息子がインチキだったと認めました。もうテレビに出るのも、週刊誌に発表するのもやめます。おたくの取材が最後だと思っています」
○Sクンの父の立場と言い分
「週刊朝日のグラビアに載った、3枚の写真のうち2枚に関しては、Sはトリックを使ってしまったといってます。
 あれは延々4時間もスタジオで撮影をつづけて、涙がとめどなく出てくる。かなり頭が痛い。“お父さん、もう念が送れないよ”という状態だったんです。するとカメラマンが“針金をあと3回やってくれないか”というので、3カットだけ撮ることになった。Sとしては、もうあれ以外どうにもならない状態だったんだと思いますよ。
 スプーン投げにしても、ちゃんとカメラの正面から、いちども床につかない連続写真を、ちゃんと週刊朝日は撮っているんですからね。それを使わずに、わざわざあの2枚だけを発表した。
 あの2カットについては認めるが、全部がトリックだと認めることはお断りした。すると、名前は出さないから、とにかく〔手記〕を書けという。記事で出てみると、匿名ではあるが、だれが見てもSだとわかるように書かれている。
 私としては、週刊朝日にハメられたようなものです」
 他誌も大体同様のコメントを掲載しているが、『女性自身』6月8日号には、次のような記事も見られる。
「じつは発表した写真以上に、ハッキリとトリックがわかるものもあるんです。それを見てしまったカメラのスタッフが、テストの途中からやめようかといったぐらいですよ」(稲垣副編集長)

●作意にみちた記事の存在

『週刊現代』6月6日号の、S君の父親の手記の中には、S君が高速度鋼という特殊な金属を「〔大和久〕博士の見ている前で、1、2分で曲げてしまった」話が、「懐疑派への回答」として出てくる。この件については、『微笑』6月15日号に次のような記事がある。
 ここで、大和久先生が持参した高速度鋼(金属を削ったり、鉄板を打ち抜く歯の部分に使う鋼で、長さ7センチ、直径1.3ミリ、1.4ミリ、3ミリなどの種類がある)の1.3ミリを渡すと、S君は部屋の外へ持って出て、次に入ってきたときは“く”の字型に曲がっていた。
 ポンチ(高速度鋼)というのは硬いので、力を強く加えると、曲がるより折れるものなんです。それが曲がったという点に、やや妙な気もしますが、あとでS君から受けとって検証してみたら、先端の頭の部分に、どこかに押しつけた痕跡がありました。この点が残念ですな」(大和久重雄氏)

『ヤングレディ』6月3日号は、S君ら関係者の談話の他に、G君という少年が、片手に持ったスプーンを左右に振るだけで曲げるところを、シャッター速度500分の1秒で、1秒間に4コマ撮影できるモータードライブつきのカメラでとらえることに成功したとして、その連続写真を掲載しているが、なぜかこのことは、その後それ以上話題になることはなかった。
『週刊読売』6月15日号は、「見た、曲がった! オドロイタ! でもネ…」として、各地の超能力少年少女を訪ね歩いて、その見聞録を載せている。『念力スプーン曲げは真実だ』(市村俊彦氏他著 たま出版 '75年7月)によると、〔『週刊読売』に〕新潟のS少年(『読売』記事中では「G君」)に「右手だけでやってもらったのは、1本も成功しなかった」とあるのはウソで、実際には右手だけでも曲がったという。
 また前記のS氏の著書によると、5月14日に『週刊平凡』の取材の際、S君がスプーンに手を触れずに曲げたのに、そのことについては1行も記事にならなかったという。
 論争が論争を越え、泥試合となり、ケンカとなって、夏がすぎるころにはそれも収まった。

●目撃された? ユリのトリック

 スプーン曲げ騒動から約1年、'75年7月5日、またもユリがやってきた。
 今度の来日では、7日の『11PM』や24日の『木曜スペシャル』(15日収録)に出演した他、全国7ヵ所で公開実験を行なった。
 今回も、多くの週刊誌が彼のことを扱った。特徴的なのは、前年10月に、英国の科学誌『ネイチャー』に肯定的な研究結果が掲載されるのと同時に、同じく英国の科学誌『ニュー・サイエンティスト』に、小型無線機を使っているというトリック説が発表されたりしたためか、各誌ともにかなり疑い深くなっていたことである。
 出色なのは、「見たぞ!! ここがペテンだユリ・ゲラー」(『サンデー毎日』8月3日号)で、手品研究家の花島三郎氏と、夫人の手品師・松旭斎すみえさんが、7月11日、東京・日本都市センターホールで行なわれた、ユリ・ゲラーの公開実験で、トリックを目撃したというのである。
 また、7月7日の『11PM』で、ユリが手を触れずに曲げたというジュディ・オングの鍵に、ユリがリハーサル中、触っていたことに気付いたのは、同席していた各誌記者の中でただ一誌、『ナイガイ・スポーツ』(7月19日付)だけであった。
 それからさらに3年、6月1日よりルーム・ランナーのCMに出て話題となっていた彼について、『週刊プレイボーイ』'78年7月4日号は、「やっぱりユリ・ゲラーは〈超・奇術師〉だった!」という驚くべき記事を掲載した。彼の元マネージャーが、前記『ニュー・サイエンティスト』に、トリックをバラしたというのである。
インチキB「要するに、指で押さえると曲がる、安物のスプーンを使った奇術にすぎない。
 パリでユリがレクスプレス紙のインタビューを受けたとき、ユリは私にスプーンをこっそり天井に投げつけるようにいった。私がそうすると、安物のスプーンは天井に当たって曲がり、コトンと落ちてきた。ユリは、これは遠くにあったスプーンを念力で曲げて、かつテレポーテーション(念力移動)させたのだというと、記者は驚いて、新聞に『奇跡が起こった』と書いた」

 しかし、なぜかこの件について日本で報道したのは、『週刊プレイボーイ』一誌だけであった。
 一方S君は、'74年7月に渡米して、超心理学の大御所に対面(『週刊プレイボーイ』9月3日号)。その後も、時どき思い出したように各誌で近況が報 じられている。
 最近報じられたものでは、『週刊新潮』'82年1月7日号で、両親が'81年8月末に離婚を前提に別居してしまったため、大学進学を断念して、母親の経営する喫茶店兼パブのマスターとしてバーテンをしているという。
「10円玉を四つ並べて、ボクが後ろを向いている間に、お客さんに一つ触ってもらって、どれに触ったか当てる遊びを時どきするんです。今まで10数回やりましたけど、はずれたのは1回だけですよ」

 さて、結局は泥沼化してしまった、ユリ・ゲラー=スプーン曲げ論争。その原因はどこにあったのだろうか。ここでは、次の三つを指摘しておこう。
○肯定派の人々の勉強不足
 スプーン曲げが手品でないことを明らかにするためには、手品の知識が必要なのに、肯定派の人々は、手品についてまったく学ぼうとしなかった。
○否定派の人々の説明不足
 否定派の人々が、スプーン曲げがトリックでも簡単にできることを説明するのが、著しく遅れた。花島氏にいたっては、最初のころトリックを“秘密”だと言っていたのである。
○マスコミの曖昧さ
 “論争”が泥沼化した最大の原因は、ここにある。各誌の報道の大部分は、まるでわざとそうしているかのように、核心を避け続けていた。なぜか? それは、この“スプーン曲げ論争”というそれなりに雑誌の売り上げにつながるネタを、1日でも長持ちさせるために他ならない。決定的な証拠が現われて論争に結着がついてしまっては、彼らが困るのである。比較的こういうテーマがメインになりにくい女性誌や、芸能誌のほうが、むしろ核心に触れる記事が多く、他誌がそれを無視する傾向にあったことは、その辺の事情をよく物語っているのではなかろうか。
 しょせんマスコミなどは、“ヤジ馬”にすぎない。ヤジ馬には井戸端会議はできても、“論争”などできはしないのである。




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