【米外交問題評議会 研究グループ報告】日米安全保障同盟への提言

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投稿者 foreignaffairs 日時 2001 年 3 月 16 日 21:04:24:

回答先: 「日米同盟抜きにアジア安保ない」 米・アーミテージ氏 投稿者 asahi.com/0316 日時 2001 年 3 月 16 日 21:00:11:

【米外交問題評議会 研究グループ報告】

有事の試練と平時の緊張
日米安全保障同盟への提言


ハロルド・ブラウン 共同議長
リチャード・アーミテージ 共同議長
ジェームス・シン 上席研究員
ブルース・ストークス プロジェクト主幹

提言の骨子


 日米同盟は、アジアの平和と安定という観点からすれば、衰退の道をたどったり危

機によって崩壊するのを放置するには、あまりにも大切でかけがえのない存在である。

だが、冷戦時代にうまく機能した形態の同盟関係ではもはや状況に対応できないのも

事実である。日米同盟が「有事の試練」と「平時の緊張」に耐え得るようにするには、

同盟体制を新しい現実と二十一世紀の安全保障上の課題に対応できるように再編し強

化する必要がある。

 一九九七年九月二十三日に新たに発表された「日米防衛協力のための指針」(ガイ

ドライン)は、そのための重要な第一歩だった。だが、新しいガイドラインに盛り込

まれた種々の変化を実現するには、日本の国会が一連の関連法案を成立させる必要が

ある。概略すると、日本政府は以下のことを行わなければならない。

 米国との緊密な安全保障関係が日本の国益にかなうことを、直接的かつ説得力ある

形で国民に説明すること。日本の自衛隊が、さまざまなアジアの地域的緊急事態をめ

ぐって、米国の軍事活動に計画段階から「除外される(planned out)」のではなく

「想定される(planned in)」のを可能にするような明確な防衛協力関係への関与に

同意すること。米政府との間で、長期的な兵器調達計画策定のための真剣な協議を行

うこと。これには戦域ミサイル防衛(TMD)システムに対する日本側のある程度の

コミットメントが含まれる。

 これに対し、米政府は以下のことを行わなければならない。

 日本との安全保障協力関係が引き続き米国にとって死活的に重要であることを、米

国民および連邦議会に納得させること。沖縄に駐留する米軍を含む、アジアへの米兵

力の配備に関して国防総省がより柔軟に対応できるようにすること。日本との同盟関

係を維持することが、米国のアジアにおける安全保障関係の中核であるという立場を

明確に示すこと。

 そして、日米両国には次のことが求められる。

 情報収集、情報共有についてより緊密に協力すること。核拡散問題やテロリズム対

策をめぐってより緊密な協調体制を敷くこと。危機に際して、日本が、同盟体制の中

でより大きな権限と責任を担えるように、緊密な政治協議を行うこと。

 これらの変革は、東京、ワシントン、そしてアジアの各国政府がおかれている政治

的環境に注意しつつ、政治的配慮を持って、着実なペースで実現していかなければな

らない。

 これらの措置を実行する以外に、日米安全保障関係が将来起こるであろう困難に対

応できる道はない。


はじめに


「われわれのもつ日米安全保障同盟体制は、平時にはうまく機能するが、有事の試練

には耐えられない可能性が高い」

岡本行夫・外交評論家

「(湾岸戦争の)経験は日米双方に傷跡を残した。当初の日本の躊躇、財政支援につ

けられた数々の条件、大規模な多国間協調型の試みに伴うコストやリスク分担への否

定的態度、強硬な国際世論に押されてようやく腰を上げるという優柔不断さ、こういっ

たことが米国人に、同盟国としての、そしてグローバルな外交パートナーとしての日

本の信頼性に疑問を抱かせることになった」

マイケル・アマコスト・元駐日大使

 日米安全保障同盟は岐路にさしかかっており、一九九八年に下されるであろう一連

の政治決定がこれからの日米安保関係が歩むべき道筋を規定していくことになるだろ

う。ここでいう政治決定とは、新しい日米防衛協力のための指針(以下、ガイドライ

ン)を実施する際に必要となる国内法整備、沖縄問題に関する特別行動委員会(以下、

SACO)による提言の実施、米国との戦域ミサイル防衛(以下、TMD)システム

への日本の参加である。一つの道を選択すれば同盟関係を最終的に弱体化させ、そこ

ではお互いの義務と期待の双方が低下するだろう。一方、もう一つの道を選択すれば

同盟は強化され、二十一世紀のアジアの安全保障課題への対応に向けた双方のコミッ

トメントが大いに強化されるであろう。

 この五十年の間、日米同盟は、米国のアジアにおける安全保障コミットメントの基

盤だったし、米国のグローバルな安全保障戦略をめぐっても重要な位置を占めてきた。

しかし、ソ連の脅威が消滅したことにより、同盟関係の絆はゆっくりと弱まるか、悪

くすれば、朝鮮半島、台湾海峡、あるいは他の地域での危機を前に、唐突に崩壊しか

ねない状態にある。しかし日米同盟は、国際社会の平和と安定という観点からすれば、

衰退の道をたどったり、あるいは危機によって崩壊していくのを放置するには、あま

りにも大切でかけがえのない存在である。朝鮮半島における危機的な状況を平和的に

解決すること、中国をアジア太平洋諸国のコミュニティーに組み込むこと、そして、

アジアのさまざまな安全保障問題を解決することに、日米はともに大きな利害を有し

ている。そしてこれら新たな不確実性への対応基盤を提供できるのが日米同盟なので

ある。

 本リポートは、「有事の試練」と「平時の緊張」に対応できるように日米同盟を強

化することを提案する。九七年九月二十三日に発表された新ガイドラインはこのため

の重要な第一歩だった。だが、これを現実に運用するには、日本の国会が、新しいガ

イドラインに盛り込まれた種々の後方支援活動――有事の際の民間空港の使用許可、

さらには物資の補給など――への道を開く関連法案を可決する必要がある。

 国会の支持を得るためにも、まず日本政府は、米国とのより緊密な安全保障関係が

日本の国益にかなうことを、国民に対して明確に説得力ある形で説明しなければなら

ない。さらに、その努力を国会内の支持確保だけにとどめてはならない。日米同盟へ

の国民の支持を固め、米国の同盟諸国を安心させるためには、アジアの安全保障危機

に際して米軍を支援するために日本政府が積極的に何をなすつもりなのかについて、

より明確な態度を示す必要がある。日本側は、アジア防衛の計画段階から米国が自衛

隊(の活動力)を「想定」できるようにすべきだし、同時にTMDへの参加を含む、

同盟体制の経済上の責任分担にもっと力を入れるべきだろう。

 同盟強化のための重荷の一部を、米国政府も引き受ける必要がある。米国政府は、

日本との同盟の強化がいかに有益であるかについて、米国民と議会を十分に納得させ

る必要があるし、国防総省も、国際環境、技術革新に応じて、日本を含むアジアでの

兵力配置、兵力規模、兵力構成などを適宜対応させていく準備をしなければならない。

さらにワシントンは日本政府に対して、同盟持続の基盤を固めるような政治決断を促

していくべきである。

 これらの変革は、東京、ワシントン、そしてアジアの各国政府がおかれている政治

的環境の変化に慎重に配慮しながらも、着実なペースで進める必要がある。日米同盟

が今後も米国のアジアにおける安全保障政策の基盤であり続けるには、同盟体制の改

革が絶対に必要であり、これを避けることはできない。

日米防衛ガイドラインの見直し

 一九九七年秋、一年以上にわたる政府間協議の後、日米両国は七八年に最初に合意

したガイドラインを改定した新ガイドラインを発表した。

 ガイドライン見直しは、いくつかの問題意識に端を発していた。まず、九〇年の湾

岸危機への対応をめぐって、日米は適切な政策調整を行えなかった。多国籍軍に日本

はかなりの規模の財政支援を行ったが、人的支援と物的支援は明らかに不十分だった。

また、九三年から九四年にかけての朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核疑惑危機

をめぐっても日米両国は政策調整に失敗し、半島における安全保障上の緊急事態の際

に日本が行う後方支援をめぐって深刻な疑問を生じさせることになった。これら二つ

の事例における問題の一部は、いずれも七八年版ガイドラインの曖昧さから派生して

いた。このガイドラインでは、地域的安全保障の維持をめぐって米国がどの程度、日

本の支援を期待できるかが判然としていなかったのだ。最後の問題は、九六年四月の

東京における日米首脳会談の直前に行われた世論調査で、日米安保への日本国民の支

持率が低下の一途をたどっていることが明らかになったことである。

 これらの懸念を払拭しようと、クリントン大統領と橋本龍太郎首相は九六年四月の

首脳会談において、七八年版ガイドラインの抜本的見直しを行うことに同意し、その

後の努力が九七年九月に発表された新ガイドラインとして結実した。新ガイドライン

は、次の三つの状況における日米防衛協力のあり方を示そうとした。すなわち、平素

からの協力、日本に対する武力攻撃への対応、そして、日本の平和と安全に重大な影

響を及ぼしうる「日本周辺」情勢への対応、である。

 新ガイドラインは、日本に対する武力攻撃の際の軍事協力関係に特に大きな変更は

加えていない。だが、新ガイドラインは両国政府間の情報の共有を促進し、平和維持

活動や人道援助活動などにおける協力をよりうまく調整し、軍事交流を活発化させる

と定めている。今後、日米両国は、日本防衛のための共通の基準づくりを含む、二国

間防衛計画の進展に努めることになるだろう。

 より重要なのは、ガイドラインの見直しによって、日本周辺の情勢(situations)

に対する日米協力が初めて規定されたことである。これには、民間人の避難、掃海、

捜索・救難、経済制裁の実施、そしてタイミングよく空港や港湾への米軍のアクセス

を認めることなどの後方支援活動をめぐる日米協力が含まれている。

「日本周辺」という文言が、地理的なものではなく状況的な概念として定義されたこ

とは重要な意味を持つ。日本の防衛任務や責任分担が、紛争が発生した地域よりも、

むしろその性格によって規定されるからである。日米両政府は中国の懸念に配慮して、

ガイドラインがいかなる第三国をも念頭に置いていないことを強調した。

 ガイドラインの見直しは、同盟の強化へ向けた重要な第一歩ではあるが、問題の多

くはいまだ積み残されている。一つは、「日本周辺」の正確な定義、特に台湾がこれ

に含まれるかどうか、である。第二は、日本の集団的自衛権に関する問題である。言

い換えれば、極東地域における米軍を守るために日本が武力を行使するかどうか、で

ある。これは日米同盟にとって重大な長期的に非常に大切な課題だが、ガイドライン

は意識的にこの問題を回避している。

 新ガイドラインの真の重要性は、関連法案の法制化、作戦計画、日米共同訓練を通

じて、両国政府が安保関係を日米関係という生地の中にどこまで織り込んでいけるか

によって左右されるだろうし、日米安全保障同盟が有事の試練や平時の緊張に効果的

に対応できるか否かは、ひとえにガイドラインの詳細を実施できるかどうかにかかっ

ている。

同盟体制の変容

 ガイドラインの見直しは、東アジアの安全保障環境の変化を背景としていたが、ど

のような力学が今後、同盟を脅かすことになるのだろうか。同盟関係にとっての外的

脅威は薄らいだ。ソ連は崩壊し、もはや地域的脅威でも、グローバルな脅威でもない。

北朝鮮は崩壊寸前である。また、中国を敵対的であると見なすのは必ずしも定まった

評価ではないし、少なくとも、中国が日米安全保障体制に対する侮れない脅威となる

ことは今後十年はありえない。

 同盟内部に目を転ずると、日米の経済的、軍事的な格差が狭まっている。日本は世

界第二の経済力を擁し、あまり気づかれていないが、いまでは世界でもっとも充実し

た防衛的通常戦力を持つ国の一つである。

 一方、米国および日本国内の双方で、この四十年にわたって同盟関係を支えてきた

政治的コンセンサスが弱まりを見せている。事実、米国には、冷戦期に構築された世

界的な軍事同盟のネットワークを存続させるためのコストやその妥当性を疑問視する

人々もいる。国防予算は削減され、海外の前方展開のためのコストも厳しく見直され

ている。また、日本との経済関係の公正さの問題に焦点を当てる見方もある。恒常的

ともいえる日米貿易摩擦の存在ゆえに、米国が日本に市場を開放し、見返りに米国は

アジア大陸に隣接する地域に軍事基地を置く権利を得る、というかつての取引の構図

もいまでは魅力を失っている。

 皮肉なことに、米国側が疑問を感じだしている半面、日本の世論は日米安全保障体

制にこれまでよりも好意的になっており、現在、日本の国民の大多数は日米同盟を支

持している。国会における政党の合従連衡によって、長期にわたって日米安保に反対

してきた旧社会党やその他の勢力も力を失い、周辺的な存在と化している。こうして、

国会の与野党間には安保の重要性に関するこれまでにないコンセンサスが形成されて

いる。

 とはいえ、緊縮財政を強いられている日本政府は困難な選択を迫られている。在日

米軍にかかる年間六十億ドルものコストを含む防衛予算は、予算カットの魅力的な対

象である。実際、九七年度に防衛予算は削減され、専門家は九八年にも再び削減され

るだろうと見ている。加えて、より自立的な安全保障政策を求める政治家がいる一方、

そんなものはいっさいいらないと言う政治家もいる。

 だが、それ以上に劇的だったのは、なんといっても、国家安全保障上の選択肢につ

いての真面目な論争を阻んできた長年にわたるタブーが急速に取り払われたことであ

る。日米同盟の役割についての議論はいまや闊達で現実的であり、それが外務省の専

門家の内輪の議論にとどまることもない。

 今日では、国会議員、シンクタンクの研究者、見識ある学者だけでなく、テレビ、

週刊誌を含む、自由なマスメディアもこの問題の議論に加わっている。今後、日米安

全保障体制は日本においてもっとも広く検証される課題となり、多様化する一方の政

治的関心との共通基盤を見いだすことを強いられることになるだろう。

 そうした議論から出てくる多様な提言は、「日米安保体制内での再軍備」対「非軍

事的日本、自衛隊は違憲、日米安保は帝国主義」というこれまでの伝統的な二極論よ

りも、はるかに繊細な色彩を伴っている。そうした提言のなかには、国会ですでに第

三の勢力となった民主党が主張する、米軍の駐留なき強固な同盟関係という折衷案も

含まれる。したがって日米両国は、急進的な案がもつ魅惑的な論理が戦略論争の方向

性を変えてしまう前に、日米安保関係を戦略的かつ長期的な視点から捉え直し、新た

に位置づける必要がある。

四つの基本的な設問

 アジアにおける安全保障環境の変化と日米における新たな安保議論を背景に、ニュー

ヨークとワシントンの外交問題評議会は、今後の日米安全保障関係を検証する目的か

ら、独立した研究グループを組織した。研究グループは次の四つの設問に取り組んだ。

■安保体制はこれまでどおりに日米両国の国益にかなうのか、それとも時代遅れの遺

物と化したのか。

■同盟がいまでも「有益」だとして、現行の体制のままで「有事の試練」と「平時の

緊張」に対応できるのか。

■同盟関係を強化すべきか、それとも緩和すべきか、ある いは現状維持でいくべきか。

■いずれの選択肢をとるにせよ、変革にむけた慎重なペースと条件はどのようなもの

なのか。

 これらの問題点に答えていくために、われわれは次の二つの前提から出発した。

■同盟関係は、安全保障上の目的のための手段として扱われるべきであって、それ自

体が目的であってはならない。安全保障問題の議論において、手段と目的を混同して

はならない。

■同盟関係は、純粋な軍事的文脈だけではなく、政治的、経済的文脈も兼ね備えてい

る。日米同盟の再定義のされ方次第で、米国がアジア全域においてとりうる安全保障

の選択肢が決定される。

緩やかな変革への処方箋

 われわれは、日米同盟がいまも両国の国益に寄与していると考えている。冷戦の終

結は、この同盟関係の構築を促したかつての脅威を大きく低下させたが、同盟は断じ

て無用の長物とは化していない。アジアが新しい平和の時代に入り、大国間のライバ

ル関係や摩擦から解き放たれたと結論づけるのは時期尚早であり、同盟関係が適切に

維持されていれば、たとえ新たな脅威が出現しても、日米両国は協力してこれに対応

できるだろう。しかし、明白な脅威が存在しない以上、同盟協力関係の弱点を補強す

る対応策をとらなければ、同盟は内在あるいは外在する危機に対応できないほどに極

端に弱体化するか、ともすれば崩壊してしまう危険がある。たとえば、朝鮮半島の不

測の事態を前にしても日本が米国への支援を拒んだり、一方で米軍兵士たちがさらに

犯罪や事故を起こせば、同盟関係は深刻な痛手を受けることになる。

 米国にとって死活的重要性をもつこの安保関係が、さまざまなリスクを抱え込んで

いる以上、同盟を迅速かつ慎重に強化し、より柔軟なものへと作り替えるべきである。

起こりうる問題に取り組むための機会がいま現在は存在するが、いずれ機会は失われ

る運命にある。二十一世紀に向けて日米同盟を新たに再編するために、両国は次のよ

うな措置を講ずべきである。

■必ずしも戦闘行為を意味しないが、地域的な不測の事態において自衛隊がより本質

的な役割を果たせるように、共同の作戦計画や訓練の機会を増やすこと(すなわち、

日本を作戦計画から「除外する」のでなく「想定する」こと)。

■より柔軟な兵力展開、沖縄基地の抱える特殊な問題へのいっそうの配慮、そして、

米軍兵士による犯罪や事故に日本国民が巻き込まれないよう、軍の規律の徹底を通じ

て、日本、東アジアに駐留する米軍の管理体制を高めること。

■長期的な兵器調達計画(特にTMD)に関する真剣な対話を続けること。

■情報収集および共有についてのより緊密な協力を行うこと。

■核拡散問題やテロリズム対策に関する外交案件の調整を行うこと。

■いざ危機が起きたとき、日本が同盟関係枠内でのより大きな権限を持つとともに、

大きな責任を負えるように、両国間の政治協議を強化すること。

■日米同盟が、米国のアジアにおける最優先の安全保障関係であることを再確認する

こと。

■日米同盟が、日本の安全保障に明白な利益をもたらしていることを、日本の指導者

が自国民に向けてはっきりと説明するように働きかけること。同盟は、日本による米

国への慈善事業などではなく、むしろアジアにおける共通の安全保障利益を守る相互

責任体制であることを明確に示すこと。

 ――これらは、ともすれば手を広げすぎてしまいかねない野心的な課題である。し

たがって、安全保障体制は決然たる姿勢ながらも順当なペースで再構築されなければ

ならない。行きすぎたり、急ぎすぎたりすれば日本で次第に形成されつつあるコンセ

ンサスをばらばらにしてしまうだろう。だが逆に、取り組みが足りなかったり、遅き

に失すれば、危機や知らぬ間の事態の推移によって、同盟関係が致命的な痛手を被る

危険を高めるこ とになる。


日米同盟は時代遅れか


 日米同盟の絆は冷戦終結によって弱くはなったが、それでも時代遅れの遺物と化し

たわけではない。この同盟体制は、時とともにその目的の力点が変化することはあっ

ても、つねに日米両国の多様な目的に寄与してきたのであり、間違いなく維持してい

く価値がある。

 米国にとって、冷戦期の安保体制の目的は日本を守るとともに、北京、モスクワ、

平壌、ハノイへとアジアを徘徊する共産主義を封じ込めることにあった。今日、日米

同盟は米国にとって四つの軍事的役割を担っている。重要なものから列挙していくと、

まず、日本を間違いなく防衛することである。次に、近隣の朝鮮半島であれ、あるい

は遠く離れたペルシャ湾であれ、米国が、日本が提供する基地から軍事力を海外に展

開できることである。日米同盟は、中国が将来敵対的となった場合に備えた、保険の

役目を果たす機能も持っている。また、一部の人にとっては、同盟関係は、将来の日

本の軍国主義化に対する保険、つまりは「瓶の蓋」の役目を果たす。さらに付け加え

るならば、米国のGNPの三・五パーセントはアジアへの輸出に依存しており、国内

の経済成長を続けていく上でアジアへの依存度はますます増加している。したがって

急速に成長するアジア経済の安定と安全をめぐる米国の自己利益が左右される比率は

今後も高まるばかりだろう。

 日本にとっても、日米同盟は今後も政治的、経済的、そして安全保障上の目的を満

たしてくれるはずだ。同盟の主要な役割は、いまも日本列島を外部の侵略から守るこ

とにある。また、米国の安全保障の傘のおかげで、アジア全域において強力な経済的

役割を手にし、しかも、日本による政治支配というアジア側の懸念を喚起することも

ない。さらに、日本に対して相互性を求めることなく一方的に米国市場や技術への門

戸を開いてきた時代は終わったものの、米軍によるシーレーン防衛が日本の輸出主導

型経済をいまも支えていることに変わりはない。

「瓶の蓋」という表現を好むものはほとんどおらず、次第に少数派となりつつあると

はいえ、日本の世論のなかには、日米同盟は日本の軍国主義化を抑える役目を果たし

ていると捉える見方もある。多くの日本人は自分の国が、独立した軍事力を行使する

「普通の国」になることには不快感を抱いているものの、こうした不安は、五十年余

の日本の民主主義の歴史のなかで次第に薄れてきている。


日米安全保障関係の現状


 いまのままの同盟体制でも、侵略や核攻撃から日本を守るという狭義の目的を達成

できるのはほぼ間違いない。しかし、現在の同盟関係が、たとえばアジアの安全保障

危機や湾岸戦争の再発など、より可能性の高い地域的、世界的な脅威に対処できる能

力を持っているかとなると疑問である。このような緊急事態に際して、日本が米国に

支援を提供できなければ、同盟体制は即座に崩壊してしまうだろう。

有事の試練

 新ガイドラインが、日本の地域的な軍事上の役割について明確に定義していない以

上、日本政府は多種多様な軍事的緊急事態にどのように対応するかを決定しなければ

ならない。具体的には、自国に直接的脅威を及ぼさない危機が発生した場合に、日本

は米軍支援のために非戦闘的な後方支援を提供するのか、制限なしの在日米軍基地の

使用を許すのか、後方での輸送活動にはじまり、パトロール、そして制限つきながら

も戦闘行為にいたるまでの活動に自衛隊を参加させるのか、といった問題である。米

国の支援要請に対して日本が積極的反応を示す可能性が最も高いのは、朝鮮半島に不

測の事態が起きた場合であろう。だが、再び湾岸戦争が起きた場合、積極的な反応が

とられる可能性はより低いと思われるし、特に、国連の制裁決議がなく、また相手が

イラクでなくイランの場合はなおさらそうであろう。さらに、日本政 府からの支援、

そして米軍基地の無条件使用の可能性がもっとも低くなるのが、米国が中国と衝突し

た場合である。

 こうした緊急事態への対応にどのくらいの時間を要するかも、重要なポイントであ

る。日本の安全保障政策決定プロセスはひどく緩慢であり、日本の政治家や官僚の多

くは、ともすれば、決定を遅らせたり困難な決定を回避することにたけている。湾岸

戦争で示されたように、資金や物資、あるいは部隊を投入する決定は、それがいかな

るものであれ数週間はかかってしまう。現代戦争がまたたく間に進むというのに、こ

のような遅きに失した対応は、何の対応も示さないのと同じく有害である。

 しかも、日米同盟下の軍事調整と作戦計画をめぐる貧弱な現状を克服するのも容易

ではない。集団的自衛権をめぐるこれまでの解釈が幅をきかせているために、細かな

条件の数々が、自衛隊による米軍支援の選択肢を狭めてしまっているからだ。たとえ

ば、物品役務相互提供協定(以下、ACSA)によってカバーされるようになった日

本の基本的後方支援である。ここでは、それが平時であることと、国連の平和維持活

動に限定され、弾薬類をその対象から除外し、しかも、軍事的緊急事態の際の米軍へ

の支援については何の条項も存在しなかった。自衛隊の活動にいたっては、戦闘地域

から民間の非戦闘員を救出することも厳しく制限されていた。

 さらに、米軍と自衛隊の結びつきは一般に思われているほどには強くない。米軍と

自衛隊は統合指揮系統の下での(演習)経験はほとんどない。相互運用性と共同訓練

の経験も陸海空担当部隊のそれぞれによってまちまちである。米国海軍と海上自衛隊

はこの相互運用性と共同演習という点ではもっとも関係が深い。また、米国空軍と航

空自衛隊も日本製のF2戦闘機を除き、似通った軍備を保有し、しばしば共同飛行訓

練を行っている。だが、米国陸軍と海兵隊の装備は陸上自衛隊のそれとは異なり、自

衛隊と共同演習を行うことはめったにない。

 変化する安全保障環境に日米安保関係を対応させる努力を怠ったために、ガイドラ

インの見直しがなされる前の数年間、日米同盟は次の四つの問題に直面させられてい

た。第一に、アジア地域の緊急事態に際して自衛隊と民間の支援を通して日本が何を

なし、何をしないかについてを明確にしなかったために、米軍の軍事作戦に日本を

「想定する」のではなく、むしろ「組み込まない(除外する)」方向へと事態は推移

した。日本の自衛隊および民間の支援をあてにできない国防総省の作戦計画は、いっ

そう複雑でコスト高となり、そしておそらくは、米軍にとってより危険に満ちたもの

になった。仮に軍事的な緊急事態に自衛隊や民間の支援が米軍とともにかかわったと

しても、そこに共同計画が存在しないために、日本の貢献は結果として価値の低いも

のとなってしまっていただろう。

 第二に、軍事的緊急事態が起きるまで、日本政府が国会における行政・法整備の手

続きを、言うなれば棚上げにできる立場にあったことだ。だが土壇場でそうしたあわ

ただしい決定をすれば、日本における「法による正当な手続き」への信頼を失わせ、

日米同盟への国民の支持を損なう羽目になった可能性もある。また、これまで長年安

全保障をめぐっては低姿勢を旨としてきた日本が、部隊派遣、支援の決定を最後の土

壇場で行えば、アジアの近隣諸国をことさらに警戒させていたかもしれない。アジア

の隣人たちは、日本の軍事能力は対外的に明らかにされているものの、日本が自衛隊

をどう使おうとしているのか、その戦略的意図はまったく不明であると長年不満を抱

いてきた。危機に際して初めて戦略的意図を宣言することになれば、日本政府に対す

る最悪の形の不信を裏づけることになっていたとしてもおかしくはない。

 第三に、日本の指導者たちが政治的な駆け引きのなかで足を取られ、米国への支援

決定のタイミングを失する危険もあった。湾岸戦争の際、海部俊樹首相が国会に国連

平和協力法案を可決させることができなかったのは、その端的な例である。(ことが

起きた場合には)軍事的危機に忙殺されるワシントンにとって日本の決定回避を大目

に見る余裕はなく、それだけに、決定の遅延は日米安全保障関係に大きな軋轢を引き

起こしていただろう。

 最後に、日本が安全保障関係を状況に合うように再編できなかったため、日本は危

機に際していったいどういう行動をとるつもりなのかという疑念が浮上していた。も

し、日本が明らかな利益を受けるような軍事行動において米兵が血を流す一方で、日

本政府が傍観を決め込み、時機を失したわずかな後方支援や財政的支援を行うだけだ

と見なされるようであれば、米国世論の反発と議会の猜疑心が日米同盟を崩壊させる

危険もあった。

 このような問題意識が、日米両国政府をガイドラインの見直しへと向かわせた。新

ガイドラインは前述の問題の一部への対応を見せている。しかし、ガイドラインは、

実施され現実のテストにさらされなければならない。ガイドラインに示されたコミッ

トメントに実体性を持たせるには、現実における緊密な共同作戦計画や軍事演習、平

時からの協力が必要である。これらの問題が単に過去のものとなるか、引き続き将来

の課題として残されるかが、現実のテストによって試されることになる。

●基地使用と事前協議

 日本国内の基地使用をめぐるフィクションを維持するために、ワシントンと東京は

(事前協議をめぐって)「聞かざる、言わざる」という手法を用いてきた。たとえば、

空爆任務を受けて沖縄から飛び立つパイロットは、任務をめぐって日本の「手を汚さ

ない」ように、日本領空を出てから任務命令書を開封したものだ。

 しかし、こうした米軍の行動の自由も、訓練時間、実弾使用、出撃回数をめぐる厳

格な制約によって、次第に低下しつつある。この変化は、米空軍の即応体制に長期的

に深刻な悪影響を与えるだろう。たとえば、夜間着陸訓練の制限は基地周辺の住民を

安堵させるものではある。しかし、米空軍のドクトリンは、夜間の制空に依存してい

る。夜間訓練ができなければ、パイロットはこの任務の訓練をどうして積めばよいだ

ろうか。

平時の緊張

 日米同盟はいかなる意味でも相互的、対称的ではない。日本の防衛費が四百億ドル

であるのに対して、米国は国防費に二千五百億ドルもの資金をつぎ込み、軍隊を世界

中に前方展開し、そのうち四万七千の兵力を日本に駐留させている。事前協議という

儀礼的虚構が一部存在するにせよ、権限という点で、米国はアジアでは概して自由裁

量権をもっている。完全に整備された空軍、海軍、陸軍、そして後方支援、情報、指

揮統制能力を兼ね備え、この地域での非常事態に対応できる能力を持つのは、唯一米

軍だけだからである。

 米国民の多くは、日本に安全保障の傘を提供しているのに、日本人はこれをあまり

評価していないのではないか、と感じている。米国人は、日本は豊かで洗練された国

と正しく捉えている。彼らは、日本の対アジア直接投資と貿易規模が米国のそれを上

回っていることを知っており、日本にとっても、アジア地域の安全保障は米国と同じ

程度に重要なはずだと思っている。

 また、アジアに平和が続くとしても、結局は米国の予算を逼迫させることになるだ

ろう。米国の国防予算は今後しばらくは二千五百億ドルのレベルで横ばいしていくか、

あるいは削減されるかもしれない。すでに国防総省内では限られた予算をめぐる予算

獲得競争が起きており、当然、不足分を埋めるべく、責任分担を求める対日圧力が今

後次第に大きくなってくるだろう。こうしたなか、皮肉にも、日本はこの二十年間で

初めて(たとえわずかとはいえ)防衛費を削減しようとしている。

 米国では、日米同盟の経済的合理性について疑問の声が大きくなり、見解が分かれ

始めている。堅固 な日米安保関係の存在が、日本が第二次世界大戦の瓦礫の中から立

ち上がるのを助けたのは間違いなく、そして経済大国となった日本との貿易、投資関

係が他のアジア地域の再建に不可欠だったことも事実である。さらに、日本との貿易

は米国にとっても大きな意味があった。しかし、米国が日米の二国間安全保障関係を

通じて今後も経済的利益を享受できるかどうかについてはいまや見解が分かれ、広く

論議を呼んでいる。日米同盟が日本や他のアジア諸国における米国の経済的プレゼン

スにとって依然として重要なのか、と。

 近年、日米同盟の非対称性を非難する米議会の声はほとんど耳にしない。しかし、

状況は簡単に変化しうる。国防政策の優先順位と予算削減をめぐる激しい議論によっ

て、次の大統領予備選挙、大統領選の候補者たちのありふれた政治的機会主義によっ

て、あるいは、単純に日本が同盟体制の負担を公平に負わないことに派生する危機に

よって、米議会の態度は一変するだろう。

 日本は世界第二位の経済力を背景に、すでに近代的な軍事力を築き上げている。自

衛隊はよく訓練され、充実した装備を持つ近代的組織である。だが、日本政府は、た

とえ日米安全保障体制の枠内であっても自衛隊を「集団的自衛権」のために使うべき

ではない、とする立場をとり続け、海外に派遣できるのは国連の指揮下にある限定的

な平和維持活動の場合だけだとしている。

 一方、日本人の多くは、日米安保のための日本側の負担を米国は評価していないの

ではないかと思っている。日本の納税者は毎年六十億ドルを米軍の駐留経費として支

払っているし、数万の外国の兵士がこの国に住み、訓練している現実を甘受している。

たとえ米軍が日本の防衛の一翼を担ってくれていることを分かってはいても、それが、

日常の不便を伴うだけでなく、誇り高い均質的な国家にとって不愉快な心理的負担で

あることに変わりはないだろう。また、豊かな日本にとって基地はますますやっかい

なお荷物と化している。都市化の波は基地周辺の鉄条網近くまで押し寄せている。米

軍のF15戦闘機の騒音は住宅街や高速道路を突き抜け、基地の地価は高騰し、基地

内の民間人雇用も、門の外の豊かな民間部門での雇用に比べ、魅力に欠けるものになっ

てしまっている。

 米国は、日本での集団的自衛権の定義をめぐる複雑な論議に当惑している。この抽

象的な論議は現実に重大な影響を与えている。防衛庁の説明によれば、「集団的自衛

権とは、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が攻撃されていない

にもかかわらず実力をもって阻止する権利、と解釈される……しかし日本政府は憲法

九条に認められた自衛権行使は自国の防衛に必要な最小限にとどまるものと理解して

おり、ゆえに、集団的自衛権は憲法の許容する範囲を超え、したがって認められるも

のではない」と解釈されている(一九九六年防衛白書)。つまり、日本の集団的自衛

権の政府解釈に従えば、自衛隊の駆逐艦と米国海軍の駆逐艦が日本海をパトロール中

に米駆逐艦が敵艦から攻撃を受けても、海上自衛隊は反撃したり米駆逐艦を援護でき

ないことになる。

 これらの問題は、目下形成されつつある新しい「保守的なコンセンサス」を試すテ

ストにほかならない。橋本首相率いる自民党の保守派と小沢一郎氏の新進党保守派

(当時)の協力によって、沖縄の土地収用問題の多くを解決へと導く法案が可決され、

さらには不自然な「集団的自衛権」をめぐる旧来の考え方が見直される可能性もある。

橋本氏と小沢氏はともに安全保障問題についてはっきりとした意見を持つ力強い指導

者だが、二人の足下にあるのは、政治勢力間の不安定な連合にすぎず、しかも日本で

は、戦術的レベルで政治地図がいとも簡単に再編される。

 さらにいえば、沖縄問題は「集団的自衛権」問題に比べればまだ解決しやすく、紛

糾の度合いも低かった。たしかに沖縄問題の進展は、基地収用問題や米兵による少女

暴行などの 「腰を上げざるをえない」一連の事件によって難航してきた。対照的に、

ガイドラインの見直しやSACOによる勧告の実施、TMDに関する政策などは、国

民の注目を浴びずに目立たない形で進められている。だが、こうした日本の防衛姿勢

の明らかな変化が、それほど公の場での議論もなく進んでいるだけに、いずれ市民の

大反発を呼ぶ危険も秘めている。


同盟関係の活性化


 現在の同盟関係に見られる曖昧さや非対称性をなくすことで、日米同盟を強化すべ

きなのだろうか。曖昧さと非対称性を残したままの現状の同盟関係は、危機が発生す

るまで維持できるだろうか。危機を迎えた段階で双方は運を天に託すべきなのか。あ

るいは双方の義務と期待感を薄めて、より緩やかな同盟関係とし、ともかく長続きす

る安全保障関係をつくるべきなのか(ここで、そのシナリオを具体的に検討してみよ

う)。

 安保関係は、同盟体制における政治的権限と軍事的責任をめぐる不均衡・非対称性

を低下させることで強化できる。その場合、日本は集団的自衛権を否定する解釈を放

棄し、地域的な緊急事態における支援体制を正当な自衛権の解釈に含める。こうして

日本は、起こりうる軍事紛争の対応計画に「想定され」、自衛隊は米軍とより緊密に

協力する。ひきかえに日本は、日米安全保障体制のなかでアジアの軍事危機に日米の

軍隊が関与する際の政治的決定により大きな発言権を持つ。そうなれば、沖縄の基地

問題も、防衛庁と国防総省との長期的な協力構想の枠組みのなかで扱うことができる

ようになる。

 別の選択肢として、自衛隊の役割や後方支援の範囲、やっかいな集団的自衛権など

の困難な問題は棚上げにして現状維持のままでいくというやり方もある。緊急事態に

おける東京とワシントンの高官レベルでの迅速な協議を容易にするような舞台裏の取

り決めを交わしておくこともできるだろう。自衛隊は国防総省の計画に完全には組み

込まれず、防衛庁と国防総省は訓練、指揮統制、兵器調達などについてこれまでどお

り一定の距離をおく。沖縄基地の問題は、那覇と東京との間の国内政治問題として扱

われる。そして危機が発生したら、運に望みを託す。

 また、安保関係を地域紛争から切り離すことで安保関係を緩めるという手もある。

この場合、日本は「集団的自衛権」の放棄からくる制約を受け入れ、本土を攻撃され

ない限り、日米双方とも日本の行動には期待しない。自衛隊は完全に米軍の作戦計画

から除外され、ワシントンは単独行動の自由を確保する。そして危機に際しても、日

米政府はお互いをどの程度あてにしてよいか(あるいはよくないか)、あらかじめ承

知していることになる。

 これらの同盟関係をめぐる選択肢には、それぞれ一長一短がある。

【一枚岩の同盟】

 強化された同盟はより強い仲間意識をもつ軍事クラブ的な存在になるだろう。そこ

では、自衛隊と米軍が作戦遂行に必要な共通のドクトリンをつくり、一緒に訓練をし、

共同の指揮命令系統を持ち、兵器の相互運用性の向上にも道が開かれるはずだ。そう

なれば、潜在的敵勢力への抑止力が高まり、アジアの安全への米国の長期的コミット

メントも強化される。危機に際しての日米の事前協議は、政策決定をより煩雑にする

とはいえ、米国の行動に慎重さと客観性を与えることになるだろう。さらに、何個師

団をアジアに展開するとか、米国の軍事関与の証として「十万人の兵力」を維持する

といったことへのアジア側の過大なこだわりも、消滅するはずである。

 密接な同盟関係は、無駄な重複を両国の軍事予算から排除することで予算面での圧

力を軽減し、日米両国部隊のより効果的な役割分担を促すと思われる。これによって、

沖縄からの一部兵力の撤退を含む、米軍の柔軟な兵力展開も可能になるだろう。なぜ

なら、自衛隊と米軍の協力が進めば、米軍としても、アジア各地への緊急再展開用の

事前装備を整えやすくなるし、指揮統制インフラが効率的に機能すると期待できるか

らだ。さらに航空自衛隊、海上自衛隊、民間の輸送手段を利用することで米軍の輸送

力を高めることも可能になる。

 ただし、いかに外交的配慮に努めたところで、日米関係の強化を前にして、中国が

穏やかな対応を示すとは到底考えられない。日米同盟の強化が中国の強硬派の猜疑心

を高めるのは間違いなく、彼らの現実面での影響力を強化する危険さえある。中国は、

九六年四月の橋本・クリントン日米安全保障共同宣言に盛り込まれたごく穏やかな意

思表明さえも、米国のアジアにおける覇権主義の証左であると攻撃した。また、日本

の役割を詳細に提示すれば、逆に北京の強硬派を大胆にさせることになるはずだ。

 具体的には、日本が朝鮮半島や湾岸で米国を支援するとしながらも、中国や台湾の

事態への関与を拒絶した場合には、中国は彼らが「反逆的な中国の一つの省」と見な

す台湾に対してこれまで以上に攻撃的な態度に出るかもしれない。

 同盟強化をめぐるもう一つの問題は、これまで伝統的に安全保障と経済問題とを分

けてきた、いわゆる「防火壁」が撤廃されるかもしれないことだ。この数十年来、外

務省と国務省の関係者は、安全保障問題を経済問題から切り離そうと試みてきた。し

かし、日米関係における経済上の相互義務を軽視しながら、安保上の相互義務を強化

するための政治的意思をとりまとめるのは、東京、ワシントンの双方にとってきわめ

て困難だろう。

 また「防火壁」を壊すことの是非についての明確な解答もない。もし日本が今後も

経済自由化、市場開放路線を続けるとすれば、積み残しの貿易問題も駆け引き程度で

解決され、しかも、緊密な安保関係が貿易交渉にはつきものの軋轢をやわらげる作用

を持つのだから、それは肯定的な動きといえる。

 逆に、日本が規制も緩めず、経済構造改革も行わずに、米国に対して恒常的な巨大

な貿易黒字を出し続けるとすれば、防火壁を壊すのは好ましくないかもしれない。安

全保障と貿易交渉をどのように肯定的・生産的に関連づけるか、その方法は明確では

ない。いずれにせよ、緊迫した貿易交渉が安全保障関係を損なうのは間違いない。貿

易交渉の懸案は数多く、そのペースも速い。交渉の過程で、信頼関係が生まれること

も、また壊れることもある。これとは対照的に、安全保障問題は、妥結が必要な懸案

事項は貿易交渉ほどは多くなく、そのペースもゆっくりとしている。だが、(安保関

係の)相互信頼は一度壊れたら修復するのは困難である。

【現状維持】

 同盟関係を現状維持することの合理的な根拠は、「壊れていないのなら、なにも直

すことはない」というフレーズに集約できる。安保体制は実質的に何十年もの間、い

まのような片務性、非対称性のままで存続してきたし、日米双方は、この安保体制維

持にかなりの時間、エネルギー、そして資金を投入してきた。危機が差し迫っている

ならともかく、いまこの投資をあえて危険にさらす必要はないのではないか。

 安保体制の現状維持を肯定的に見なす見方は、曖昧さが現実に有意義なこともある

という事実に基づいている。たとえば、(曖昧な状況であれば)深刻な危機が起きた

ときに日本がどういう行動に出るか、いかなるアジアの潜在敵国も確証を持てない。

こうなると、たとえ日本にこの曖昧さを用いる明確な政治的意思がなくても、自衛隊

はともかく米国の強力な潜在的パートナーということになる。

 だが、この曖昧さの問題は、日米同盟が実際に危機に直面したら機能しないかもし

れないという真のリスクを内包している点にある。同盟の現状維持路線では、第三国

にイニシアチブを取られてしまいかねないからだ。中国、北朝鮮、あるいは再生し好

戦的となったロシアが、日米の立場の違いにつけ込むかもしれない。専門家のなかに

は、経済や技術をさらに向上させて、中国軍が単独で日本を「片づける」ことができ

るようになるまでは、日本の本格的な再軍備に歯止めをかける(現状の)日米同盟を

容認するのが中国側の長期的戦略だ、と見る者もいる。もしこれが本当に北京の意図

だとすれば、日米安保体制を密接な関係にしておかないと、やがて中国の思うつぼに

はまってしまう。この点で、現状維持は危険きわまりない受け身の路線といえる。

 さらに、自衛隊と米軍の間の相互運用性が次第に低下するという理由で、現状維持

に反対する立場がある。たとえば、航空自衛隊が国産のF2支援戦闘機を購入すると、

日米の航空部隊は共同行動がとりにくくなる。また、米国のTMD開発はすでに最終

局面にあり、自衛隊を置き去りにしたまま、生産が開始されるかもしれない。日本が

TMDに参加しないとしても、米国が足踏みをすることはないが、結果として米国の

納税者にいっそうのコストがかかり、配備が遅れ、技術協力の機会が失われることに

なる。

【緩やかな同盟】

 緊密な同盟関係とは対照的に、より緩やかで穏当な同盟関係の利点は、それが、米

国の外交政策により多くの柔軟性とバランスを与えることにある。この場合、ワシン

トンはアジアにおいてより中立的で均衡を導くような役回りを果たせるようになり、

日本との「特別な関係」や中国の日米同盟に対する猜疑心にわずらわされることなく、

この地域での中国の拡大する影響力とうまく折り合いをつけることができるだろう。

そうなれば、もはや米国の経済利益を安全保障の名のもとに犠牲にする必要はない。

ワシントンは、安保体制への影響を心配することなく、貿易問題の解決を模索できる

ことになる。

 とはいえ、緩やかな同盟関係は、より自立的な日本というテーマから見れば問題を

さらに複雑にしてしまう。この場合、防衛を自ら担う切実な必要性が生まれるため、

日本は核兵器の開発へ向けた大きな動機を持つようになるかもしれず、これは中国や

北朝鮮にとっては肝をつぶすような事態だろう。国民の根深い核アレルギーがあると

はいえ、緩やかな同盟となった場合には決して提供されるはずのない米国の核の傘が、

今後長期にわたって間違いなく提供されるということにでもならない限り、核武装の

問題はこれからも引き続き日本国内の安全保障論議の場に登場することになろう。当

然、緩やかな同盟関係の場合、抑止力は低下する。さらに、米国にとっても、朝鮮半

島であれ他の地域であれ、戦力を投入するのはますます困難で高価な行為になるはずだ。


ゆっくりと着実に


 冒頭で述べたように、日米双方にとって日米安保体制を強化することがもっとも優

れた戦略であるというのが、本リポートの結論である。

 緊密な同盟が導く政治的、軍事的そして経済的な利益は多岐にわたる。一方、同盟

体制強化の最大の欠点が、中国に与える影響であることは自明である。同盟の強化が

北京を敵対的な方向へと追いやるとすれば、東アジアにおける新冷戦の競合関係が出

現し、(忌まわしい)予言に引き寄せられるように最悪の結果を招く危険が高まる。

日本との同盟関係の強化を注意深く穏当に行うべき最大の理由は、まさしくここにある。

 四十年余りにわたって厳しい環境に耐えてきた日米同盟を一夜にして変貌させるこ

となど、どだい不可能である。行きすぎたり、急ぎすぎるのは危険である。実際のと

ころ、同盟を強固にするための軍事的必要性はすでに満たされているか、比較的簡単

に調整できる。むしろ、政治的な選択、それも政治指導者たちの政治的リーダーシッ

プ、さらには、同盟関係を進化させ、再編するという点での日米双方の国内コンセン

サスづくりこそが真の課題であろう。

 日米がいま現実に、同盟を強化していくか、緩やかなものとしていくかの二者択一

の選択を迫られているわけではない。そこには現状維持を中心とする広範囲に及ぶ中

間的見解があり、さらに、政策手段に関しては、さまざまな選択肢が存在する。

 この研究リポートの提案には次のことが含まれる。米国ならびに国連の軍事行動に

「(計画段階から)日本を想定する」こと、訓練、役割、任務をめぐる米国とのいっ

そう緊密な協力、兵力配備と責任分担をめぐるより踏み込んだ調整、TMDを含む兵

器調達や技術移転に関するより組織だった協調、情報共有の促進、核拡散やテロリズ

ムをめぐる外交的連帯、そして、日米の国民に日米安保体制の重要性と同盟の枠内で

の日本の責任を認識させるように真剣に努力すること、である。

日本の活動を「想定する」

 日米相互協力および安全保障条約(以下、日米安保条約)には、地域有事における

日米の相互義務について具体的な規定は存在しない。自衛隊の役割についての公式の

言及はなく、日本の後方支援、日本の民間施設への米軍のアクセスについても曖昧な

ままにされている。日本周辺地域で活動する米軍に対する燃料、食料、医療品、輸送

手段の平時における提供を盛り込んだ一九九六年のACSAは、この点で状況を前進

させた部分がある。しかし、ACSAは武器と弾薬の補給をこの規定から除外してお

り、そして少なくとも日本側の解釈では、(これらの後方支援活動は)平時あるいは

国連平和維持活動のみに適用される、としている。九七年の新ガイドラインは、これ

らの曖昧さの一部を取り除こうとしたが、日本周辺地域およびそれを超えた米国や国

連の活動を支援するためには、日本側の計画策定がまず必要となる。

 実効性のある軍事作戦計画を立案するには、そこから曖昧さを最大限取り除く必要

がある。日本からの後方支援および軍事的支援がかなりあてにできることが保証され

ない限り、作戦計画立案者たちはそうした支援を想定した戦略を回避するだろう。日

本を計画に想定できないのなら、そのための訓練や部隊の展開、装備の調達など当然

行わないはずだ。

 端的にいえば、国防総省は、計画段階でまず「日本を想定する」か、「日本を除外

する」かを決める必要があるが、現在のところ、日本はアジア地域の軍事的緊急事態

をめぐる米軍の役割を定めた作戦計画から外されている。

 同盟体制を強化するには、曖昧な領域を少しでも減らすことが不可欠である。そう

すれば、アジアの地域的緊急事態を念頭においた米国の軍事計画に日本を効果的に想

定することができる。もちろん、これが危機に際して自衛隊が直接戦闘行為に及ぶこ

とをただちに意味するわけではない。だが、自衛隊が米軍の軍事活動に関与する可能

性はきわめて高くなる。たとえば、朝鮮半島紛争に備えた計画のなかに「想定された」

日本は、いっさいの曖昧さを残さず、十分な確約をもって、日本を拠点とする米軍に

全面的な後方支援をなし、情報を交換し、限定的であるが前線での訓練にも参加する

だろう。この支援活動には、戦闘の後方支援、シーレーン監視とパトロール、掃海作

業、戦域内での米兵力の空輸、兵員・装備・弾薬の陸上輸送、全面的な医療支援と戦

闘地帯からの撤収支援、燃料補給、後方での装備メンテナンスなどが含まれる。

 朝鮮半島での緊急事態への対応計画の枠外に日本を置けば、たとえば、難民問題対

策を複雑にしてしまう。朝鮮半島で武力衝突が起きれば、何万もの日本人が韓国に取

り残され、さらに南北朝鮮から何万人もの難民が日本海を渡って日本に押し寄せてく

るだろう。七八年のガイドラインでは、朝鮮戦争が再び起きた場合に、自衛隊は戦火

の朝鮮半島から邦人を避難させることができないばかりか、紛争に巻き込まれた(米

国人を含む)外国人を保護し、輸送することさえもできないとされ、この仕事は米軍

が担うことになっていた。自らの主権にかかわるごく単純なテストさえもクリアでき

ない歴代政権に対する日本国民の政治不信、そして、米国人だけでなく自国民さえも

保護する意思と能力さえも持たない日本に対するワシントンでの外交的反動が、日米

安保関係への大衆支持基盤に壊滅的な打撃を与える危険もあった。

 こうした問題を解決するため、九七 年のガイドラインでは、日本政府は、日本へ向

かう難民を受け入れる責任を負い、戦闘地域から日本市民を救出し、さらに、日本政

府が妥当と認めた場合、これらの活動を米軍との協力の下に進めることに合意した。

この最後の部分は日本政府にかなりの解釈の余地を与えているが、難民救出や非戦闘

員救助をめぐる日本の対米協力への疑いも、自衛隊の全面的関与を含めた、民間人救

出、避難救済のための一連の現実的計画が作成されれば、そう心配しなくてもよくな

るだろう。

 さらなるグレイ・エリアは、「日本の施政の下にある領域」の防衛に米国がコミッ

トしている日米安保条約の五条にまつわるものだ。なぜなら、どこまでが「日本」な

のかが曖昧だからである(注1)。たとえば、この条項では、日本がロシアと争って

いる北方領土については米国は責任を負わなくてよいことになっている。だが、日本

が中国とその領有権をめぐって争っており、どちらも正式に管理していない尖閣列島

については、米国はどのような義務を持つのだろうか。また、日本が韓国と領有権を

争っている竹島はどうだろうか。

 国防総省は、尖閣列島は日米安保体制の傘の下にあるとしている。しかし、日本が

この問題を中国や韓国と外交レベルで解決しようとする限り、別の言い方をすれば、

いずれの当事者もこの問題を武力で解決しようとしない限り、広い意味での「領土問

題」は曖昧なままに放置できる。しかし、国境問題が世論の場で広く扱われないとし

ても、日米の政府高官はこれら係争地域で紛争が起きた場合に、日本は米国に対して

何をどこまで軍事的に期待できるかについて非公式ながらも明確に合意して、これら

諸問題に取り組むべきであろう。

 もし、これらの島々に対するワシントンの立場が、(領有権)論争の当事国のいず

れかによって試されるような事態になったときには、米国はすべての関係勢力に対し

て自らの立場を明確に示す必要がある。

 これはワシントンにとって時限爆弾のようなものだ。というのも、米国の大統領に

とって、一般の米国人が聞いたこともない、満潮になれば波間に沈んでしまうような

尖閣列島や竹島をめぐる日本側の主権の主張を擁護して、米国が中国や韓国と戦争を

始めるなどということを米国民に納得させるのは至難の業だからである。一方、(何

か起きても)米国の軍事力や支援はあてにできないと日本国民が考えれば、米国への

信頼は壊れ、その修復は困難だろう。

 東アジアを超えた国連活動での日本の役割を想定できれば、過去における協調失敗

の痛手を繰り返さないための助けとなろう。特に、湾岸戦争をめぐる米国の要請に対

する日本の対応の遅れは、日米同盟関係に大きな痛手を与えた。戦争努力の最中にあ

る部隊に、非軍事物資や医療援助程度さえも迅速に供給できなかった日本の意思と能

力の欠如は、多くの米国民、特に議会における日本の信用を失墜させることになり、

一方、日本人は、百三十億ドルにものぼる多額の経済貢献さえも感謝されず、自分た

ちは食い物にされていると不満に感じたものだ。

 日本政府関係者の多くは、湾岸戦争は、日本の安全保障姿勢と政策決定過程の深刻

な問題を露呈させたと考えている。後に「砂漠の嵐」作戦へとつながる国際的制裁措

置を国連(安保理)が決議した後でさえ、当時の海部内閣は多国籍軍に適切な支援を

するための法案を国会に可決させることができなかった。最終的に、日本の貢献は、

経済支援と小規模な後方支援、そして戦争終結後の掃海作業程度だけにとどまった。

 日本はこれまでにルワンダ、旧ユーゴスラビア、ゴラン高原での国連平和維持活動

に小規模の部隊を派遣し、これらの部隊は国連の指揮下にあったものの、その任務は

輸送、医療、衛生などの非戦闘業務に厳しく限定されていた(注2)。

 強化された同盟の下の日本は、第二次湾岸戦争が起きた場合を含む、国連の活動を

めぐって、他の参加国と同じ条件・規模で派兵できるようになるべ きである。その際、

九二年の国際平和協力法に規定されているようなさまざまな制約をつけるべきではな

いし、しかもタイムリーな実施が必要である。このためには、それを可能とするよう

に同法を改正し、自衛隊の効果的な平和維持活動能力を充実させるべきだし、同時に

充実した輸送能力も持つべきである。

訓練、任務、役割の変化

 自衛隊は最新兵器で装備し、十分な防衛予算を与えられているものの、一度も戦場

に出たことがない。一九九六会計年度の防衛予算で四兆七千億円も確保しているもの

の、陸海空部隊の編成、訓練、統合指揮を含め、自衛隊の実戦能力を懸念する声があ

る。国内的、国際的環境の変化に応じて、これら時代遅れになりつつある部隊構成や

防衛姿勢を見直す必要があるだろう。

 日本は現在、約二十四万の自衛隊員を有しているが、防衛力見直しや予算上の制約

の結果、今後隊員数はさらに減少する可能性が高い。

 長年にわたって自衛隊は陸上自衛隊を主力としてきた。陸上自衛隊は、ソビエトと

いうかつての脅威に対抗するかのように、現在も北海道に駐屯しているが、これは必

ずしも北朝鮮や中国という現在の脅威に対抗するためではない。さらに、空からであ

れ海からであれ、通常戦力による日本本土への侵略よりも、国境周辺地帯が空や海か

ら攻撃される可能性のほうが高い。当然、周辺地域での空海の侵犯行為に対抗するに

は、陸上自衛隊よりも、むしろ海上自衛隊、航空自衛隊による活動が必要であり、ミ

サイル攻撃に対する迎撃能力も必要である。

 しかし、これまでの機構的惰性ゆえに、人員、予算の両面から見ても、いまだに海

上、航空自衛隊より陸上自衛隊と地上戦用の装備に重点が置かれている。九六会計年

度でも防衛予算の三七パーセントが陸上自衛隊に配分されたのに対して、海上自衛隊

は二三パーセント、航空自衛隊は二四パーセントの予算配分にとどまっている(残り

は防衛施設庁その他の防衛庁予算に充てられる)。

 また、自衛隊の陸海空部隊の協力や調整は限られており、各自衛隊は独立性を維持

し、同一の任務にも驚くほど違ったアプローチをとる。これは、米国の国防総省とは

きわめて対照的である。現在の米軍における統合作戦は、軍事ドクトリンの中核であ

り、これら三軍の指揮権と参謀業務における統合は、ゴールドウォーター=ニコルズ

法による改革でさらに強化された。

 日本の防衛を含むアジアの地域的軍事危機に対する作戦をうまく遂行するには、陸

海空自衛隊の統合活動、そして自衛隊と米軍との共同訓練の効率を大幅に強化するこ

とが不可欠である。

 自衛隊と米軍は七八年以来、陸上自衛隊とは統合戦闘司令訓練、海上自衛隊とは航

行・通信の訓練、航空自衛隊とは三沢基地での共同飛行訓練など、限定的な共同訓練

を行ってきた。自衛隊は、米国の太平洋艦隊が近隣の同盟諸国と定期的に行っている

環太平洋海軍合同演習(RIMPAC)に、海上自衛隊を中心に参加してきた。しか

し、日本での軍事演習には大きな制限が課されている。大規模演習と砲撃演習を行う

場所が限られており、これが各自衛隊間の統合演習、そして自衛隊と米軍の共同演習

の障害となっている。「近所でやってもらっては困る」という地域エゴを克服するた

めに、政治家がリスク覚悟で努力して演習規制を緩和するか、おそらくは米軍あるい

は他の同盟諸国とともに、海外にもっと広い演習場を見つける必要がある。後者のや

り方についていえば、国内に適当なスペースを持たないシンガポール軍が、台湾で訓

練しているという先例がある。

 日本政府は、自衛隊の近代化にとって頭の痛い人口構成(高齢化)や国民の自衛隊

へのイメージの問題にも対応しなければならない。日本では高齢化が急速に進んでお

り、自衛隊への入隊者も年々減少している。日本の若者たちは自衛隊のことを、安い

給料、限られた将来性、低い社会的地 位などの観点から魅力的な職場とは考えていな

い。給与改善や教育の必要性は明らかだが、これを別にしても、長期的な解決策とし

て、自衛隊の装備を充実させ、活発で実際的な訓練を施し、米軍との緊密な協調のも

とに陸海空間の統合演習を含む、時代に沿った軍事ドクトリンを開発して、自衛隊を

近代的なハイテク部隊に作り替えていく必要がある。

 自衛隊の航空、陸上、海上部隊の構成は、将来の不測の事態に対処できるように再

編される必要がある。というのも、日本の安全保障は海あるいは空から脅かされる可

能性が高く、当然、海上自衛隊、航空自衛隊により多くの予算を配分する必要がある

からだ。たとえば、シーレーン防衛の強化を考えると、海上自衛隊はこれまでとは異

なる形の艦船と航空機の編成を考える必要がある。同様に、航空自衛隊も本土から離

れた上空で敵と対峙するために、より航続距離の長い飛行機が必要になるかもしれない。

兵力の展開と責任分担

 米国は十万の兵力をアジアに展開しており、うち四万七千が日本に駐留し、そのう

ちの半分が沖縄に、残りが本土に駐留している。在日米軍の主力は、横田の第五空軍、

座間の第九陸軍地域コマンド、岩国の第十二海兵航空群、横須賀の第七艦隊、嘉手納

の第十八航空団、そして普天間の第三海兵機動展開部隊である。こうした前方展開軍

の役割と任務は、日本の防衛にはじまり、朝鮮半島、台湾、東アジア周辺から遠くペ

ルシャ湾地域にまで及ぶ。

 日本の自衛隊二十四万二千のうち、陸上が十五万二千、航空が四万六千、海上が四

万四千である。これらが小規模で限定的な侵略に対処し、より大規模な侵略に対して

は米軍とともに防衛にあたるとされている。さらに自衛隊は、先に指摘した制限つき

ながらも国連平和維持活動に参加し、国内外の災害救助、緊急援助にも出動する。

 日本は現在、六カ年駐留経費負担の合意に基づき、在日米軍に対し年間約五十億ド

ル、総額二百九十億ドルの駐留経費を負担している。施設に十八億ドル、基地従業員

に十四億ドル、借地に七億ドル、水道、電気に三億ドル、家屋賃貸据え置きに八億ド

ル、免税措置に八千万ドルと、直接、間接に米軍の経費をカバーしている。

 だが、駐留経費負担問題は、現在の合意が切れる二〇〇一年になればまた浮上して

くるだろう。同盟強化措置の一環として、(装備コストと軍人の給与を除外すれば)

日本政府が在日米軍の基地その他の実際的な経費のすべてを負担するのは理にかなっ

ている。日本政府が、SACOの提案した沖縄の普天間基地の移転を含む勧告を実施

することもまた不可欠である。

 米国は、アジアへの兵力前方展開の意思を再確認すべきだが、その際に、兵力の数

や種類をこれまでのようにはっきりと述べる必要はない。現在の十万という数字は、

米国のアジア戦略にとって足かせになり、アジアでも盛んに議論されている。もし、

兵力をこれ以上投入すれば米国は好戦的になったと見なされ、一方、削減すれば撤退

の前兆と見なされる。そうではなく、日本を含むアジア全体の安全保障環境を見据え

ながら、柔軟に兵力数および兵力構成を再編していくべきである。

兵器調達協力と戦域ミサイル防衛

 パトリオット・ミサイルやF15戦闘機がよい例だが、日本政府は、完成された兵

器システムを米国から直接買うのでなく、日本の防衛産業による国内生産のために、

米国の兵器システムの国内でのライセンス生産策をこれまで長い間とってきた。この

「国産化」と呼ばれるライセンス方式は、兵器生産をめぐる国家的な自立性を強化す

ると同時に、日本の民間企業への技術移転を意図したものである。

●一方通行の技術移転

 技術移転の流れの不均衡(非対称性)を是正しようとする試みが一部なされたとは

いえ、技術移転はこれまで圧倒的に米国から日本への一方通行だった。(逆方向に目

を転じれば)日本から米国への技術移転の流れは、「フローバック」 と「オリジナル・

テクノロジー」(独自技術)の二つに分けられる。

「フローバック」とは、米国の軍需企業が、自分たちが供給し、日本が改良した点に

学ぶことである。最近の兵器セールスに関する日米間の覚書には、フローバック条項

が必ず入っている。一方の「オリジナル・テクノロジー」とは、平面ディスプレーな

ど、日本で民間用に開発された軍事的価値のある技術の軍事転用のことである。

 これまでのところ、これらの流れは穏当なレベルにとどまっている。日本のオリジ

ナル・テクノロジーの米国への技術移転を見極めるために、日米装備・技術定期協議

が、九二年以来、ダクテッドロケット・エンジン、戦闘車両用セラミック・エンジン、

「アイセーフ」レーザー、潜水艦船体のための先進鋼、をめぐる四つのプロジェクト

を始めている。

 だが日本の国産化戦略は、多くの理由から同盟関係を緊張させている。国産化は、

日本製兵器の単価を上昇させることで、防衛予算の実質購買力を引き下げている。ま

た、日本国内で組み立てられる装備の改変は、米国との相互運用性も低下させる。た

とえば、F16戦闘機とその系譜を引くF2は、電子性能や飛行性能が異なり、次第

に違う種類の航空機と化しつつある。「国産化」は、安保体制を利用して日本の民間

企業が軍事技術を国際競争力強化に利用するためではないか、という疑念も呼び起こ

している。技術移転が、おおむね米国からの一方通行であるために、不公平だとか、

誠実さを欠く、と見なされているのだ。

 東京の政策立案者たちは、この問題を次のような二つの異なる観点から考えている。

一つは、米国を含む世界の軍需産業は世界的な調達需要減と企業合併という波に見舞

われているというのに、ライセンス契約を受ける日本企業のために、日本がプレミア

ムを支払っているのは非効率的だという議論。もう一つは、国内の軍需産業基盤を維

持していくのは日本の正当な利益である、という議論である。

 だが、これらの問題は、次のような合意を基に同盟関係を強化させることで解決で

きるかもしれない。つまり、主要な兵器が機能面であまりかけ離れないように規制し、

日本からのフローバック・テクノロジーやオリジナル・テクノロジーの技術移転合意

を誠実に履行し、さらに自衛隊とペンタゴンとの間で、日本の長期的兵器調達計画の

客観的な検討などを含む、「必要性についての対話」を開始することで、共同開発と

調達への道筋を描き出すのだ。

 同盟強化策の一環としての兵器調達をどう取り扱うかという点で、TMDは格好の

テストケースである。米国は、TMD開発の最前線に日本が参加し、研究開発コスト

に投資し、このシステムをいずれ購入することへの何らかの約束を求めている。TM

Dを突き動かしている論理は、日本が、通常兵器や化学兵器を弾頭に搭載した北東ア

ジア地域からのミサイル攻撃という明白な脅威に直面している事実そのものにある。

ノドン型ミサイルの射程距離を延ばし、時折、日本海で発射実験をしている北朝鮮、

豊富な通常弾頭や核弾頭を搭載したミサイルで日本を攻撃する能力をもつ中国。両国

とも、日本の軍事施設や民間施設、さらには、在日米軍を脅かす能力をもっている。

したがって、たとえ、日本がTMDへの参加に合意しなくても、米国は、在日米軍基

地を守るために、TMDを在日米軍基地に配備する必要がある。

 これに対して、日本側はTMDへの確約を回避するために、次のような反対を唱え

ている。

 戦略的問題――TMDは賢明な構想か。中国を刺激してMIRV(多目標弾頭)化

や弾頭数の増強など、核攻撃能力の強化に走らせないか。TMDはABM(弾道弾迎

撃ミサイル)制限条約に違反しないか。

 技術的問題――どのタイプのTMDがどのような状況で信頼にたる機能をもつか。

どのように下層防衛および上層防衛システムのバランスを取るのか。TMDを日本の

パトリオット・ミサイル・システムやイージス・システムとどう関連づけるか。

 コスト問題――TMDは開発するのに莫大なコストがかかり、配備するにはそれ以

上のコストがかかる。一部では百億ドルにも達すると試算されている。

 国産化の問題――米国のTMD関連開発企業は日本の主要な防衛産業にどのような

種類の現地生産と技術移転を認めるか。

(しかし)日米両政府は、TMD構想を同盟体制のなかに統合するための道筋を描き

出す必要がある。まず、米国政府がTMD構想をめぐる国内政策を決定し、続いて、

この構想における日本の役割がどのようなものでありうるかについての見解を表明す

る。これまでのところ、TMDに関する米国から日本へのメッセージは錯綜している。

日本政府はTMDについては何ら明確な姿勢は見せていないが、日本がTMD防衛構

想における下層防衛能力の開発に参加するのは理にかなっている。そのためには、現

状のシステムを改良し、(東京が将来その配備に合意する可能性のある)より洗練さ

れたTMDシステムの中枢を導入すればよい。そのためには、日本政府は研究・開発

コストや調達をめぐって、たとえば、日本にある米軍施設、そして自衛隊施設や民間

施設の一部をこの防衛網でカバーする程度のコミットメントをなす必要がある。

情報の共有

 ワシントンと東京の情報共有は一方通行である。米国は日本の政府機関に選択的に

情報を提供しているのに、日本側はこれを米国の好意と捉えて、日本からの情報提供

がなされることはほとんどなく、そこでの相互性は希薄である。

 しかし、この枠組みも変化しつつある。日本の中期防衛整備計画では、タイムリー

な情報収集、分析能力の強化がうたわれている。新しい指揮・通信系統が導入され、

東京・市谷に情報の一元管理を担当する防衛庁情報本部も設立された。ここで働く千

六百人余りのスタッフは、日本では初めて制服組と文官で構成されている。日本はす

ぐれた地上型情報モニターシステムを擁しているが、衛星を通じた情報収集能力はか

なり弱い。こうした状況を受けて、中期防衛整備計画では三次元レーダー・システム、

統合防衛デジタル・ネットワーク(IDDN)、独自の監視衛星能力の獲得を計画し

ている。新ガイドラインは、情報共有の強化を求めており、これをただちに実施すべ

きである。

 だが、米国がすでに何十億ドルもの資金をつぎ込んでいる軍事衛星情報システムを

日本が後追いするのは、重複を意味するだけで、限られた防衛予算の無駄遣いである

ばかりか、(うまくいっても)日米間で互換性のないシステムを誕生させるだけである。

 不確実性に満ちた世界にある以上、その情報能力を高めることは、日本の正当な利

益である。米国の情報、特に米国の衛星情報への日本の定期的なアクセスを認めれば、

日本が独自の情報収集能力を持ちたいとする動機も弱まり、日米は協調して長期的な

情報共有の道筋を描き出せるようになるはずだ。過去にヨーロッパ諸国に対して行っ

たように、米国が日本へも偵察衛星情報を自らのネットワークの一環として広げるの

は合理的であろう(注3)。共同運用と情報共有は、情報収集の範囲を広げ、両国に

とって利益がある。もっとも、日本の専門技術と財力を、次世代の情報衛星をはじめ

とする情報収集技術の開発に活用できないと見る理由はどこにもない。

核不拡散とテロリズム

 日本は、核不拡散条約の加盟国であり、国際原子力機関の査察にも完全に応じてい

るが、一方で、アジア最大の商用核エネルギー計画を実施している国でもある。日本

の核エネルギー計画の一部では、大量のプルトニウムを燃料とし、また生成する高速

増殖炉が使用されている。この野心的な核エネルギー計画の結果、日本には現在四・

八トンのプルトニウムが存在し、これはロシアと米国に次ぐ保有量である。これほど

大量のプルトニウムを日本が保有していることについて、中国と北朝鮮を中心とする

アジアの近隣諸国は疑惑と不安を隠せずにおり、実際、これこそが、アジアにおける

核不拡散の障害となっている。

 日本は原則的に核不拡散への支持を強く表明している。だが現実には、核不拡散条

約の違反者に公然と声を荒らげることはなく、特に中国、北朝鮮については慎重な態

度を見せている。

 一九九三年から九四年にかけて、日本は、北朝鮮に対する米国の圧力を不承不承受

け入れ、朝鮮半島に関する「枠組み合意」の履行にもそれほど熱心さを見せず、朝鮮

半島エネルギー開発機構(KEDO)への拠出も申し訳程度の額にとどめている。日

本は、中国が九六年の春に日本の抗議にもかかわらず核実験を強行した際、相当な額

の対中直接援助を停止したが、日本輸出入銀行を経由した数十億ドル規模の対外援助

だけでなく、通産省による対中輸出の輸出保険も続けている。

 同盟を強化し、相互性を高めるのであれば、日本が少なくとも米国と同じリスクに

さらされているときに、もっぱら米国だけがアジアにおける核不拡散努力の責任を背

負うのは、まったく不合理である。日本は、(パキスタンへの核技術セールスのよう

な)中国の違反に対して厳しく抗議したり、北朝鮮との枠組み合意の履行をめぐるア

メとムチの使い分けを支援することで、より積極的な役割を果たすべきである。繰り

返しになるが、アジアでの核不拡散努力をめぐって日本は主導的役割を果たすべきで

あり、規範を犯した国に対する制裁措置に積極的に加わるべきである。そして、核物

質拡散のリスクをいっそう低下させ、アジアの近隣諸国の猜疑心を払拭するために、

日本は長期的には高速増殖炉計画の放棄を検討すべきであろう。

 日本人がテロリズムについて認識し始めたのは、つい最近になってからだ。九五年、

オウム真理教が国内で試みたサリン噴霧テロに続いて、九六年にペルーのリマで日本

大使公邸占拠・人質事件が起きるまで、日本市民や政治家の多くは、日本ではテロリ

ズムなど起きないと考えていた。さらに彼らは、海外で生活する人々の数がかなり増

加していたにもかかわらず、赴任中の外交官や海外に出かけている日本市民は「安全

神話」によって守られていると漠然と考えていた。だが、リマでの日本大使公邸人質

事件は、日本政府に対して、世界のどこであれ日本市民がテロリストの標的となりう

ることを実証した。

 にもかかわらず、かなりの規模の日本人が海外に出ているというのに、日本政府に

よるテロリズム対策は依然、消極的なものに終始している。

▽伝統的に日本政府は、目立った誘拐事件に対しては、交渉するか、非公式ながらも

身代金の要求に応じてきた。事実、湾岸戦争直前に、日本政府はイラクの邦人人質の

解放をめぐってサダム・フセインとハイレベルで交渉し、橋本内閣もリマのテロ事件

をめぐって慎重な姿勢に終始した。

▽日本政府はこれまで、リビアやシリアといったいわゆる「テロ」国家に対する制裁

への参加にも消極的だった。制裁措置が、当該国の邦人の権利や財産の剥奪という形

の報復を招き、日本との商取引に障害をきたすと懸念したからだ。

▽日本には人質救出のための特殊部隊がなく、国家安全保障の危機管理体制も整備さ

れていない。介入作戦の指針となるような情報源も限られており、介入部隊や解放さ

れた人質を運ぶための確立された輸送手段も持っていない。

 たしかに、テロ対策は簡単に国際合意の対象にできる性格のものではないし、米国

と日本も第三国でのテロ事件をめぐる協力に関しては正式な取り決めを交わしていな

い。だが、テロリズムへの対応に日米同盟の枠をもってのぞめば、同盟の価値を日米

国民に強く印象づけることができるだろう。

 次の措置をとれば、将来のテロに対する同盟の対応能力が強化されるはずだ。

■テロリズムに対し日本政府が公的により毅然とした態度でのぞむこと。

■テロ集団であることが確認された勢力に対しては、日本も経済的、政治的 制裁へ参

加すること。

■テロを画策する組織や個人、特にこれらの集団や人物が、核兵器、化学兵器、生物

兵器を使用する危険がある場合には、情報交換を緊密に行うこと。

■大がかりな人質事件のような危機への対応能力を中心に、日本の危機管理能力を全

般的に強化すること。その強化には、万一の場合に備えた、複数のコミュニケーショ

ン・システムおよび代替指揮系統の整備が含まれていなければならない。

世論への訴え

 長い間、日本国民は日米安全保障同盟体制の利点について十分に知らされてこなかっ

た。日本の安全保障政策をめぐる率直な論議が長い間タブーとされてきたために、日

米同盟の問題は政治的に置き去りにされてきた。安保は票につながるわけではなく、

むしろ政治論争の危険な火種だった。こうした事情のため、日本の政治家が安保体制

の成果をあえて国民に説くことはなかったのだ。

(政府の指導者たちが)左翼、ポピュリスト、平和主義者などからの批判に耳を貸さ

ず、ひたすら沈黙を決め込む姿勢をとったために、安保体制(の本質)とは日本が米

国に示している好意である、という印象を国民に植えつけてしまった。このような一

方的なイメージは、安保体制をこれから強化していくための基盤とは、とうていなり

えない。日米安保を二十一世紀に向けて維持していくつもりなら、日本の政治指導者

たちは安保問題の支持に向けて国民を説得すべきである。

 一方、彼らの仕事を容易にするためにも、駐留米軍は「よき市民」であることを心

がけ、それをアピールすべきである。SACOが勧告する基地の整理統合や訓練の制

限は、米軍の作戦面での負担になるかもしれない。しかし、同盟関係を漸次強化して

いくには、市民の好意を最大限高めることが政治的に不可欠である。同盟の中枢的な

基地構造はそのまま維持しなければならないが、たとえ軍事使用のための基地用地を

すべて確保しても、(その過程で)米軍による土地使用を認める世論のコンセンサス

を損なうとすれば、結局は基地確保の努力も無駄骨となる。同時に、事故や犯罪行為

の危険を最低限に抑え込むために、指揮、訓練面での駐留部隊の規律を最大限に高め

る必要があり、これは米国側の責任である。不名誉な沖縄でのレイプ事件のような犯

罪は、日米同盟への日本人の政治的支持に大きな痛手を与え、それを完全に崩壊させ

る危険すらある。

 一九九八年に日本の国会は、新ガイドラインの実施に必要な一連の法案審議を行う

が、これが同盟への世論の支持を図る最初のテストになる。九七年九月に実施された

世論調査によれば、国民のほぼ七五パーセントが新ガイドラインを支持している。こ

の強固な大衆の支持基盤の存在は、ガイドラインの実施に必要な法改正に必要とされ

る多数の国会議員の支持をとりつけるための追い風であろう。

 だが、安保体制は、日本国民が常々聞かされている価値をはるかに超える重要性を

持っている。ガイドライン関連法案の最終的な可決には強い政治的リーダーシップが

必要となろう。橋本首相や野党のリーダーである小沢氏らが、公にこの点を指摘し始

めたことは心強い。

 同盟強化の価値についての米国民の啓蒙も必要である。日本の場合と同様に、米国

において、同盟に対して肯定的なエリート層の見解と、同盟への関心が低いか、ほと

んど何も知らない一般国民の見方とのギャップは依然大きい。日米同盟は、米国民が

漠然と信じているほど、あるいは一部の政治家たちが彼らに吹き込んでいるほど一方

的な関係ではない。同盟の再構築や在日米軍についての公の論議を、党派政治で歪め

てはならない。次の政権が共和党であれ民主党であれ、それが国益にかなうと見なさ

ない限り、米軍の日本駐留はありえないだろう。問題は日米同盟が、米国の国益に資

する体制としてはまだ脆弱なことである。

 日米両国の指導者は、いまこそ自国の有権者たち に対して日米関係の重要性を正面

から訴えるべきである。そこで彼らが説明すべきは、日米安全保障同盟の強化が必要

であり、しかもこれが待望されて久しいかねてからの懸案である、という明らかな事

実でなければならない。

注1 「日米双方は、日本の施政下にある領域における、いずれか一方に対する武力

攻撃が自国の平和と安全を脅かすものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手

続きにしたがって共通の危険に対抗する」(日米安保条約第五条)

注2 一九九二年の国際平和協力法は、日本の国連平和維持活動は参加をめぐって次

の五つの原則を定めている。■紛争当事者の間で停戦協定が結ばれていること、■紛

争当事者の間に平和維持部隊派遣の合意があり部隊への日本の参加も合意しているこ

と、■平和維持部隊は中立を厳守する、■以上の原則が遵守されないと判断されると

きは、日本政府は派遣部隊の撤退を考慮する、■日本の派遣部隊の武器使用は自衛の

ための必要最小限の使用に限られる。

注3 秘密厳守と諜報に関する厳格な法律が存在しない状態で、米国の情報を共有し

た場合、高度にセンシティブでダメージさえもたらしかねない情報の漏洩を防ぐ能力

を日本が持っているかどうか、懸念する声がある。


●研究グループのメンバー  各メンバーは所属する組織を離れて個人の資格で参加した。メンバーの所属先は報 告書執筆時
のもので、参考までに記載した。「有事の試練と平時の緊張」報告書は研 究グループのメンバー個々の見解を必ずしも反映
するものではない。 リチャード・アーミテージ……アーミテージ・アソシエーツ ジェームズ・アワー……ヴァンダービルト
大学 粟野原奨……日興リサーチ・センター ダニエル・ボブ……ウィリアム・ロス上院議員事務所 ハロルド・ブラウン……戦
略国際問題研究所 ジェイソン・ブルジンスキー……下院国家安全保障委員会 ケント・カルダー……プリンストン大学 スティ
ーヴ・クレモンス……ジェフ・ビンガマン上院議員事務所 パトリック・クローニン……国防大学国家戦略研究所 ジェラル
ド・カーティス……コロンビア大学 ジェームズ・デラネイ……国防分析研究所 デイヴィッド・デヌーン……ニューヨーク大
学 ピーター・エニス……オリエンタル・エコノミスト誌 カール・フォード……フォード&アソシエーツ 船橋洋一……朝日新
聞 ロバート・ガルーチ……ジョージタウン大学 マイケル・グリーン……外交問題評議会 デニス・ヘジュリック……外交問題
評議会 マリウス・ジャンセン……プリンストン大学 アーノルド・カンター……国際政策フォーラム リチャード・ケスラー…
…ハワード・バーマン下院議員事務所 小池洋次……日本経済新聞 古森義久……産経新聞 ロバート・マニング……外交問題評
議会 マイク・モチズキ……ブルッキングス研究所 ダグラス・パール……アジア太平洋政策センター トーケル・パターソン…
…パシフィック・フォーラムCSIS マイケル・パウエル……司法省 ジェームズ・プリツァップ……ヘリテージ財団 リチャ
ード・サミュエルズ……マサチューセッツ工科大学 ゲーリー・シフマン……コニー・マック上院議員事務所 ジェームズ・シ
ン……外交問題評議会 シーラ・スミス……ボストン大学 ブルース・ストークス……外交問題評議会 アラン・トネルソン……
USBIC ポール・ウォルフォヴィッツ……ジョンズ・ホプキンス大学 ドナルド・ザゴリア……ハンター・カレッジ ●プ
ロジェクト共同議長とリポート執筆者の経歴 ハロルド・ブラウン 現在、戦略国際問題研究所顧問。八
四年六月から九二年六月ま で、ワシントンDCにあるジョンズ・ホプキンス大学ポール・ニッツェ・ス
クールの 外交政策研究所の理事を、それに先立つ八一年二月から八四年六月まで同スクールの 客員教
授を務めた。また、七七年から八一年までは米国防長官。主な著作にThinking about National
Security:Defense and Foreign Policy in a Dangerous World(1983)がある。 リチャード・アーミ
テージ アーミテージ・アソシエーツ会長。九二年から九三年ま で旧ソビエト新生諸国援助特命大使と
して指揮をとった。八九年から九二年までの間 に、フィリピン基地問題・大統領特別交渉者、九一年の
湾岸戦争の最中にブッシュ大 統領の特使として中東に派遣されるなど、重要な外交ポストを歴任した。
また国際安 全保障問題担当の国防次官補(八三〜八九年)、東アジア太平洋担当国防次官補代理 (八
一〜八三年)も務めた。 ジェームズ・シン 国務省東アジア局を経て外交問題評議会のアジア担当(九
四〜九 六年)、通商外交担当(九六〜九七年)、上席研究員。評議会のアジア問題三カ年プ ロジェク
トを統括し、このプロジェクトの研究成果は評議会リポートである“Redres sing the
Balance:American Engagement with Asia”に要約されている。同プロジェ クトを踏まえて、
“Weaving the Net:Conditional Engagement with China,a critiq ue of the strategy of
‘constructive engagement'”(CFR Press,1996)を執筆して いる。ブルース・ストークス 外交問
題評議会の国際貿易プログラム担当上席研究員。 最近の著作には、Trade Strategies for a New
Era:Insuring U.S.Leadership in a Global Economy(1998)がある。






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