「家で自慢話ばかりする父親を連想する教科書だ」週刊東洋経済4/28

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投稿者 YM 日時 2001 年 5 月 02 日 01:08:03:

週刊東洋経済2001/4/28・5/5
OUTLOOK
歴史教科書
息吹き返す「日本よい国」の歴史物語

政治的意図が先行し、学問的誠実さが感じられない。
バランスを失した自国自賛は、子供をスポイルする。
検定を廃止し、淘汰が進むシステムに変えるべきだ。

「新しい歴史教科書をつくる会」主導で作られた2002年度版中学歴史
教科書(扶桑社)は、発行者側が一三七カ所の検定意見をすべて受け入
れ、修正に応じて合格となった。多くの修正によって、事実誤認や不適切
な表現は確かにかなり改善された。しかし、基本的な歴史観は変えようも
なく、よい教科書になったとは思えない。この教科書は、子供の白地の心
に特定の歴史観を刷り込もうとする点で、彼らが批判する「自虐史観なる
もの」とまさに同じ間違いを犯してしまっている。
いずれにせよ、今後は実際の採択に舞台が移る。申請本、検定意見、教科
書見本は、東京はじめ八会場で(社会科教科書は5月下旬以降)展示・公
開される。ぜひ多くの人に足を運んでもらい、最終的な教育権を持つ親の
立場から、よく読んでみてほしい。

ぬぐいがたい政治的意図
「つくる会」が「自国の歴史に誇りを持てる」教科書づくりを目的として
いる以上、自己肯定史観に立つことは不思議ではない。問題は方法であ
る。申請本は前文に「歴史は科学ではない」と書いていた。この表現自体
は削除されたが、考え方としては全編にわたって残っている。確かに歴史
の物語性を一〇〇%否定はできないが、都合のよい事実だけを取り上げ、
都合のよい解釈を施すのでは、歴史学のディシプリンを無視することにな
る。
それゆえ、この教科書を読む場合、何が書かれていないかに注意すること
が必要である。申請求では、たとえば関東大震災や治安維持法は巻末年表
に出てくるだけだ。対米開戦後、日本がフィリピン、ビルマ、インドシナ
三国の独立を承認した話は出てくるが、朝鮮、台湾の植民地支配を続けた
ことに触れない。米軍の無差別爆撃や原爆投下について書いているが、日
本軍の具外的加害行為は触れないなど、あまりにバランスがとれていな
い。
解釈もまた問題である。申請本には「戦争に善悪はつけがたい」という解
釈が施されていた(削除)。また、大東亜会議の記述を受けて、
「1960年、国連総会で植民地独立宣言が決議された。それは大東亜会
議の共同宣言と同じ趣旨のものであった」との解釈も出てくる。これは
「日本軍の南方進出は、アジア諸国が独立を早める一つのきっかけとも
なった」と修正されたが、なお言わずもがなの感が残る。
こうした「努力」の末、教科書は過去を(近現代のみならず古代史までさ
かのぼって)美化し、正当化する「国民の歴史」をつくり上げている。そ
の意味でこれは、人々の国家共同体への一体感を強化して改めて「国民」
をつくり上げ、愛国心や国家への忠誠心を酒養しようというナショナリズ
ムの言説の重要な一端をなしている。
だが、物語だけで子供は育たない。長ずるに従い、真実に直面することを
避けて通れないからだ。これからの国際社会を生きていくうえで必要な基
礎的知識を与えず、自国自賛の思い込みだけを植えつけられては、苦労す
るのは若い世代だ。そのときになって、大人に裏切られたと感じるに違い
ない。
実際、この教科書からは、家で自慢話ばかりする父親像が連想される。親
の自慢話ばかり聞かされて育った子供は幼稚な大人になるか、やがて親を
軽蔑するようになるかのどちらかだろう。どんな国にも、よい所も悪い所
もあった。それを正面から見据えることができてこそ教育といえるだろ
う。すべて正しかった──少なくとも動機のうえでは──という自己正当
化の歴史では「未来のために過去(の教訓)に学ぶ」意味は失われてしま
う。
(中略)

検定制度を廃止し、自由出版・自由採択を認めることは、このジレンマを
回避できるだけでなく、教育の多様な選択肢を確保するうえでも好まし
い。現行制度の問題点は、検定の全過程が秘密主義に閉ざされ、しかも
いったん決定・採択されると親や教師がその教科書を拒否できないこと
だ。教科書の採択を全国約五〇〇の採択区から学校単位に改め、さらに学
校選択制の定着を促進していけば、質の悪い教科書が淘汰されていくシス
テムが可能になる。現在の検定制度は、親や教師が教科書を選べないこと
の不十分な代償措置にすぎない。歴史学や教育学の専門家からなる民間の
評価機関(複数あってよい)を設置し、その評価を参考に選ぶこともでき
るだろう。
欧州では、EUの成立を背景に、国の枠を超えた一つのヨーロッパ史編纂
の試みも始まっている。アジアには、共通の歴史認識のための基盤がいま
だ整っていないとしても、より大きなアジア史を展望する歩みを一歩でも
進めるべきだろう。現に古代史の分野では、東アジアを舞台にした広域の
経済、文化相互交流の実態が徐々に明らかにされ始めている。「国により、
民族によって異なった歴史があって当然」と決めつける自閉的ナショナリ
ズムの歴史観はあまりにも後ろ向きであり、洗脳される生徒がかわいそう
である。
(論説委員鹿島信吾)





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