「テロ対策特別措置法」(案)の根本的問題  浅井基文

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投稿者 付箋 日時 2001 年 10 月 12 日 19:48:48:

回答先: わからん 投稿者 付箋 日時 2001 年 10 月 12 日 19:41:11:


「テロ対策特別措置法」(案)の根本的問題  浅井基文

*これは、10月10日付の新聞『赤旗』に載った私の発言です。幅広い層の方に読んでいただきたいので、このコラムにも載せることにしました。


 「テロ対策特措法」という名のこの法案は、米国の報復戦争を、国連安保理決議一三六八を踏まえた、「国連憲章の目的達成に寄与する」活動だとして、それへの日本の軍事協力を正当化しようとしています。ここには重大なまやかし、すりかえがあります。

 国連安保理決議一三六八は、「すべての国に対し、テロ攻撃の実行犯、組織者、後援者を法に照らして処罰するために緊急に協力する」ことなどを求めたもので、米国の武力行使を認めたものではありません。武力行使を認めるさいに、安保理決議が決まって使う「すべての必要な手段(措置)をとることを承認する」という文言はないのです。また、「テロ攻撃」に対する米国の武力行使が、「国連憲章の目的達成に寄与する」などとは、何も言っていないのです。

 決議は、前文で、「個別的または集団的自衛権の固有の権利」があることを確認しているだけです。これは、確認するまでもなく、国連憲章五一条で認められていることです。したがって、米国の武力行使の根拠ということでいえば、それ自体の当否はさておき、自衛権の行使以外にはありえません。

 現に米国は、今回の「テロ攻撃」に対する報復戦争を、自衛権の行使としてとらえようとしています。NATO(北大西洋条約機構)も、今回の事態に対し、同条約で定められた集団的自衛権の行使を確認し、それに基づいて加盟各国が許容する範囲内で軍事協力を行うことにしているのです。日本だけが、その例外だということはありえない話です。

 政府はおそらく、安保理決議一三六八が「テロ攻撃」について「国際の平和と安全に対する脅威」と認めたことから、それを除去するのは国連憲章の大原則、目的だ、それに協力するのは当然だというのでしょう。しかし、いくらそういっても、日本の軍事協力を認める新しい権利が、この決議によって与えられるわけではありません。

 ですから、結局、日本が米国の報復戦争に軍事協力するため、自衛隊を海外に派兵する根拠は、個別的自衛権の行使か、集団的自衛権の行使しかないわけです。

 しかし、これを、個別的自衛権の行使で説明することができないのは明らかです。そうなると、政府自身がこれまで憲法違反といってきた集団的自衛権の行使しかないということになります。だから、「国連憲章の目的達成」などとすりかえ、ごまかそうとしているのです。

 政府は、「武力行使にならなければ、集団的自衛権の行使にはあたらない」という言い抜けもしています。

 しかし、NATO諸国が今回の事態でどういう対応をとっているのかを見れば、その奇弁性もはっきりします。

 例えば、フランス、ドイツ、トルコは、今回、集団的自衛権の行使として、米空軍機の領空通過や自国の基地使用を認めると言っています。まさに集団的自衛権の行使として説明しているのです。

 このことで明らかなとおり、米軍が日本の基地を使用して出動していくこと自体が、まさに集団的自衛権の行使にあたるのです。自衛隊の海外派兵は、それ以上の行動ですから、集団的自衛権の行使そのものです。政府の言い分はまったく成り立たないのです。

(後記)

小泉首相は国会の質疑で、この法案と集団的自衛権の行使との関係、つまり、この法案は「集団的自衛権の行使は、憲法が禁止している」と政府自らが認めてきた憲法違反の法案ではないかという指摘に対し、「確かにあいまいさは認めますよ。すっきりした、明確な、法律的な一貫性、明確性を問われれば、答弁に窮しちゃいますよ」(一〇月五日の衆議院予算委員会)、と答えています。

 また、私が本文で指摘した、NATO諸国が集団的自衛権の行使として行うことを、日本が行う場合は集団的自衛権の行使にはあたらない、という理屈は成り立たない点が指摘された際には、「世界の見方と日本国内の見方と違う点はほかにもある」と答えました(一〇月一〇日の参議院予算委員会)。

 憲法との関係について「答弁に窮する」と平然と言ってのける小泉首相の憲法感覚には、怒りを通り越して、慄然としてしまいます。戦前の軍国主義の精神と何ら変わるところがないからです。また、集団的自衛権についての理解は世界と日本とでは違う、という発言にも、背筋が寒くなります。集団的自衛権という概念は国際法に属するものであり、その理解、解釈について、日本がほかの国々とは違うなどと言ってのける神経は、とうてい許されるものではありません。

 もっと怖いのは、こういう小泉発言の重大性について厳しく批判する声が、共産党をのぞく野党、マスコミを含めてほとんどゼロ、ということです。アメリカの行動を厳しく批判する声が日本国内ではほとんど起こっていません。小泉首相は、そういう状況を頼みに突っ走ろうとしているのです。

しかし、私がこれまでのコラムで明らかにしましたように、アメリカの行動は国際社会全体に重大な禍根を残すものになる危険性がきわめて大きいのです。アメリカを暴走させないこと、今回の事件については、アラブ・イスラム諸国を含め、誰もが納得する公正な解決を目指すこと、それが何よりも必要です。日本は、そういう国際的な流れを作り出すためにこそ率先して働かなければならないはずです。

小泉首相が目指す方向は、日本の進路を誤らせます。そのことは、上にあげた彼の二つの発言に明確です。私たちはふたたび、過去の過ちを繰り返すことを許してしまうのでしょうか。戦前の私たちは臣民でしたからまだ言い訳がききました(?)が、今の私たちは主権者です。政治の暴走をくい止められない最終的な責任は、私たち自身が負わなければならないのです。日本国民の主権者としての覚醒と奮起を願わずにはいられません。


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