栗田禎子:アメリカと「イスラーム主義」の深い関係(現代思想)

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投稿者 YM 日時 2001 年 11 月 08 日 00:18:59:

『現代思想』10月臨時増刊号「これは戦争か」より

「テロを支援するシステム、国家」の正体
栗田禎子

(前略)
アメリカと「イスラーム主義」
米政府は、今回のテロの背後には国際的「イスラーム主義」組織が存在すると主
張している。この主張が正しいのかどうか自体、依然厳密には判断できないと考
えられる(伝えられている乏しい「証拠」から言えるのはせいぜい、事件の実行
に中東系の人々が関与していたらしいということくらいである)が、仮にこれが
事実だとすれば、ここで我々は、「イスラーム主義」なるもの自体が、実はアメ
リカとの密接な協力関係の中で成長してきたものだということを確認しておく必
要があるだろう。
テロの「主要な容疑者」とされるウサーマ・ビン・ラーディンなる人物が出現す
るに至った背後に、アメリカが一九七〇年代末〜一九八〇年代、ソ連との対抗上
アフガニスタンに「イスラーム主義」組織を育成し、軍事面・資金面での支援を
おこなったという事情があることは、既にマスコミの報道でも必ず言及されるよ
うになった。しかし、アメリカの「イスラーム主義」組織への肩入れは、実はア
フガン戦争時に始まるものではない。今日のような「イスラーム主義」の国際的
組織化の端著は一九六〇年代、スイスのジュネーヴにムスリム同胞団の国際組織
が作られた時に遡ることができるが、これはCIAが、サウディアラビア王制と
協力しておこなったものだった。当時の中東には、エジプトのナセル政権に代表
される革命的政権が生まれ、また各地で民主的・社会主義的運動が発展して、帝
国主義諸国や、その中東における橋頭保であるイスラエル、あるいはまだ革命の
起きていないサウディアラビア等の反動的諸政権を脅かすようになっていた。こ
のような状況下で、民主的・社会主義的運動と対抗させるために「イスラーム主
義」を育成し、軍事面・資金面での援助も与えて、革命的政権や運動を暴力で転
覆させようという戦略が案出されたのである。CIAとサウディの援助のもと、
中東各地から集められた「イスラーム主義」勢力はヨルダン等で軍事訓練を受
け、現実にエジプトの「イスラーム主義」勢力の一部はナセル政権転覆を企てて
いる。また、中東各国の共産党で、CIAに後押しされた「イスラーム主義」勢
力の攻撃で深刻な被害を受けた経験をもつものは多い。
このように、「イスラーム主義」の名のもとにおける暴力とアメリカとの関係
は、アフガン戦争よりはるか以前、一九六〇年代に確立されていた。さらに踏み
込めば、組織・資金面に留まらず、今日我々が目にしている「イスラーム主義」
の思想的特徴──世界を単純に善悪二項対立で捉えようとする姿勢や、イスラー
ムを破壊と暴力のために動員しようとする傾向──自体が、実は「冷戦」期のア
メリカの世界戦略・利害に強く規定される形で形成されてきたものだと言うこと
もできる。「イスラーム主義」はアメリカの刻印を帯びているのである。
このように振り返ってみると、今回の事件の異様な恐ろしさともいうべきものが
明らかになる。まさしくアメリカは「自ら蒔いた悲劇の種の果実を収穫してい
る」(イラクのサッダーム・フサイン政権のコメント)のであるが、ただし、イ
ラク政権の言うような意味(=湾岸戦争の因果)ではなく、より深い意味でそう
なのである。かつてアメリカが反共主義に突き動かされるあまり、中東でイス
ラームに対しでおこなった働きかけが、「イスラーム主義」という形で歪んだ花
を咲かせ、実を結んで、ブーメランのように世界貿易センタービルの上に降りか
かってきた、とでも言おうか。
「アメリカは偉大な国民である。我々は親切な人々である」──ブッシュ大統領
はキャンプデービッドにおける記者会見でこのように言って、自分たちがなぜこ
のようなテロの攻撃になるのか分からない、と述べた。『オイディプス王』を貫
く有名なモチーフ──「汝自身を知れ」──は、ブッシュのこのような問いかけ
に対する気味の悪いほど的確な答えとなっている。アメリカの支配層には、これ
までの数十年間、自分たちが世界中でやってきたことを一つ一つ想い起こす作業
が必要であろう。その過程で、かつてCIA高官としてアメリカの対外政策にも
大きな影響力を持った人物──ジョージ・ブッシュ(父)の名が浮かび上がって
くることもあるだろう。

戦争準備の口実としてのテロ
「イスラーム主義」についてはこれまで中東自体においても、また世界や日本の
マスコミの一部にも、これを「貧しく、抑圧された民衆を代弁する運動」と錯覚
し、現実の政治過程の中でこの運動が果たしている反動的役割を見逃してしまう
傾向が存在した。だが今回のテロが本当に「イスラーム主義」組織によるもので
あることが判明し、組織の実態が冷静に時間をかけて解明されていたとしたら、
それは人々が「イスラーム主義」なるものの真の性格を知り、この運動にまつわ
るすべての幻想を払いのける機会となったであろう。米政権が事件発生後わずか
数日でテロに対する武力制裁、「戦争」の雄叫びを上げはじめたことによって、
しかし、この機会は失われた。あまりに凄惨なテロを前にして立ちすくみ、それ
によって「イスラーム主義」なるものを見直すきっかけを掴もうとしていたかも
しれない中東や世界の民衆は、米政府が唐突に戦争へと突き進み始めたことに
よって、再びアメリカの強引なやり方に怒りを覚え、それに比べれば「イスラー
ム主義」やターリバーン政権の方がましであるという印象を(公然と口には出さ
ないものの)持つに至った。米政府が間接的に「イスラーム主義」を救った、と
も言えるこのプロセスからは、アメリカの支配層には結局のところテロや、テロ
を生み出すようなメンタリティーを根絶するつもりなどはないのだということが
──それどころか戦争を引き起こす恰好の口実として、彼らは実はテロを必要と
しているのだということが──浮かび上がる。
実際、事件前後の米政府の動きを見ていると、今回の事件は、アフガニスタンを
はじめとする南アジア地域で「数年かかる大規模な戦争」を展開する、というア
イディアがまずあって、その口実作りのために一連のテロリストの動きが「泳が
せて」あったのではないか、と考えることも全く不可能ではない(事件前から日
本や韓国の米軍基地に対する「イスラーム主義」のテロに関しては情報が流れて
いたことは注目に値する)。ちょうど一〇年前、アメリカはイラクのクウェート
侵略を口実に湾岸戦争を起こし、その過程で自国中心の新しい「秩序」を世界
で、そして中東で作り上げようとした。それと同じことが、今回南アジア〜イン
ド洋について考えられていたとしても不思議はない。パウエル国務長官、チェイ
ニー副大統領、そしてブッシュ大統領と、一〇年前の湾岸戦争を担ったのと全く
同じ人々(もしくはその息子)からなる共和党政権が成立しているのも興味深い
符合である。ITバブルがはじけた今、アメリカには軍需産業と石油産業くらい
しか残っておらず、それゆえ支配層は遠からず大規模な戦争を始めるだろう、と
いうことは、既にしばらく前からアメリカの民主的知識人の間でも語られてい
た。ただ、むろん、戦争の口実を提供してくれるはずのテロがこれほどの規模の
ものになることは、米政権でさえも予想しなかっただろう、と言うことはでき
る。
テロからテロを口実とする戦争へ、という筋書きが見え、急速に現実のものとな
り始めた今、我々はこのような筋書きに絡めとられないよう、全力を尽くさなけ
ればならない。むろんすべてがアメリカの思惑通りに進んでいるわけではなく、
アメリカの働きかけに対する諸国の対応も複雑であって、戦争が具体的にどのよ
うな形態をとることになるかは不透明である。しかし、とりあえずアフガニスタ
ンを標的に軍事攻撃がおこなわれることは決定的となってきており、またこの
「テロ対策」戦争にいわば悪乗りする形で、海外派兵の野望を遂げ、戦争体制作
りを一挙に進めようとする日本政府の姿勢も明白になってきた。戦争反対の世論
を急速に盛り上げなければならない。


*この原稿の原型は九月一九日に執筆された。その後事態の展開は急であり、そ
れにつれて論じなければならない問題も増えているが、テロ発生直後の印象をそ
のまま記録しておくこと自体にも意味があると考え、ほぼ原型のまま掲げること
にした。(くりたよしこ・中東現代史)



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