マンリー.P.ホール「象徴哲学大系I」より


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投稿者 にゃにゃ 日時 1999 年 1 月 09 日 21:05:19:

前頁――アプラクサス、グノーシス派の万能神

アプラクサスはこジットのグノーシス派のパシレイデスが作った名前であり、七つの文字から成る象
徴言語である。その七つの文字は古代人によって七つの創造的な力、つまり惑星的天使を表わすと見
なされていた。サンプソン・アーノルド・マッケイは、この名が牡牛を表わす「アビール」と軸を意
味する「アクシス」という二つの古代語から合成されたという説を展開している。この説を補強する
ために彼は、一般に地軸の変更と呼ばれる地球の運動の結果、ある時期に春分点が金牛宮つまり天の
牡牛で北極上に来たという事実を主張している。アプラクサスの戦車を引っ張っている四頭の白い馬
は、太陽の力を意味するアプラクサスが宇宙のあらゆる部分に回流するための媒体である四種のエー
テルを象徴している。
アプラクサスという七文字の名前は、彼の七方向に放射する力を象徴的に意味している。現代社会が
古代のグノ―シス派の象徴体系について何らかの知識を持っているのは、グノーシス的哲学の叡智的
な記録をことごとく滅ぼすという仕事にたずさわった人々の熱意のお蔭てある。商業的な値段を持っ
たさまざまな物を減ばさすに保存したいと考えて、これらの狂信家たちは、グノーシス的象徴物を彫
り込んだ韻符を保存した。この図はグノーシス派の装身具を拡大増補したものである。もとの宝石は
高さ一インチほどのごく小さなものてある。グノーシス派の護符のついた指輪その他の装身具は、明
らかに身分証明書としてこの教団の信者たちが使っていた。教団は秘密結社だったので、図柄は小さ
く目立たないものが使われた。

 古代密儀と秘密結社――第二部

 キリスト教グノーシスおよび異教グノーシスの歴史は一切が深い神秘の闇に包まれている。グノーシス派の著
作家たちがおびただしい文献を遺したことは分かっているけれども、そのほとんどは今に伝わっていない。彼ら
は初期キリスト教会の敵意を一身に集めていたので、教会の勢力が一世を風靡するに及んで、グノーシス派の祭
儀に関する信頼しうる記録はすべて堙滅してしまった。グノーシスという名称は知恵あるいは認識を意味し、ギ
リシア語のグノーシス(γνωσιζ)からきている。この教派のメンパーは初期キリスト教の秘密教義に通暁してい
ると主張していた。彼らは「キリスト教密儀」を異教の象徴体系に従って解釈していたのである。この秘密の知
識と哲学的教義を彼らは俗衆の目からそらし、少数の特に秘伝を受けた人にだけ教えた。
 『新約聖書』で有名な魔術師、シモン・マグスこそグノーシス派の創立者であったと見なされている。もしそ
の通りだとすれば、この宗派はキリストの死後一世紀間に成立し、キリスト教という太い幹から分かれたおびた
だしい小枝の最初のものといえるだろう。初期キリスト教会の熱狂的信者は、自分たちが納得できないすべての
ことを悪魔の教唆であると断言した。シモン・マグスが神秘的な超能力を数々持っていたことはその敵ですら露

めていることだが、このような能力を彼に貸し与えたのは地獄の悪霊や妖鬼であり、彼は常にこのような存在を
仲間として引き連れているのだと主張した。シモンに関する最も興味のある伝説は、彼が使徒ペテロと神智学的
な術較べを行なったという説である。二人は当時ローマで異なった教えを布教していた。キリスト教の教父たち
が伝える伝承によれば、シモンは火の車に乗って天界に駆け登ることにより、その卓抜なる霊的能力を示そうと
した。彼は目に見えない力によって実際に空中高く引き上げられた。聖ペテロはこれを見て大きな声で叫び、そ
の霊たち(風の霊)に、魔法使いを支えている手を放せと命令した。すると悪霊たちは偉大な聖人に命じられた
ら、その通り従わざるを得ず、シモンはたちまち天空の高みから落ちて死んだ。このことがキリスト教の力の優
越性を示す決定的な証拠となった。この伝説は明らかに全く根も葉もない作り話である。彼の死については諸説
紛々としており、これはそのひとつにすぎない。聖ペテロがローマに一度も行ったことがないということは、近
年ますます実証されつつあるので、この話が真説である可能性は急速に消えつつある。
 シモンが哲学者であったということは疑いない。彼の言葉が正確に保存されている断片には、彼の総合的、超
越的思想が見事に表現されている。グノーシス主義の諸原理は次のような彼の言葉に逐一表現されている。以下
はヒポリュトスが伝えた彼の断片である。「だからあなたに対しては言いたいことを言い、書きたいことを書こ
う。そして書きたいことというのは次のようなことだ。宇宙的なアイオーン(実体・空間・天体に能産的かつ所
産的生命力が現われる時期、次元、月期)には、初めも終りもない二つの流出物があり、それらはひとつの『根』
から噴出する。『根』は不可視なる力、把握不可能な『沈然』(ビュトス)である。この流出物のひとつは、上
から現われるもので、『偉大な力』、万物を支配する『宇宙精神』、『男性』である。 一方は下から現われるもので、
『偉大なる思念』、万物を生み出す『女性』である。両者の結合によって二つは結びつき、『中間距離』、初めも終

りもない把握不可能な『風』を出現させる。このなかに万物を支える『父』が存在し、初めと終りをもつ事物を
養うのである」(G・R・S・ミードによる『シモン・マグス』を見よ)。この断片によって、われわれは、世
界の顕現が積極的原理と消極的原理の相互作用の結果であり、両者の中間つまり均衡点で起こるという原理を理
解できるはずである。この中間的存在がプレーローマ(充溢)と呼ばれる。このプレーローマは霊的アイオーン

と物質的アイオーンの調和によって生み出される特殊な実体であり、このプレーローマが個体化したものがデー
ミウルゴスである。彼は不死なる人間で、われわれの物理的存在やそれに関して受けなければいけない苦しみは
すべて彼のせいである。グノーシス派の体系には、三組の対立物がある。これらはシジギエスと呼ばれ、「永遠
の一者」から流出したものである。この三組の対立物と「一者」自身を加えて総計七となる。六つ(三組)のア
イオーン(生ける神的原理)を、シモンは『哲学論考』のなかで次のように語っている。最初の二つは叡智(ヌ
―ス)と思念(エピノイア)、次に声(フォーネー)とその対立物である名(オノマ)、そして最後に推理(ロギ
スモス)と考察(エンテュメーシス)、この原初的な六者が永遠の炎と結びついて、 アイオーン(天使たち)が
生まれる。この彼らがデーミウルゴスの指令に基づいて低次世界を形成するのである(H・P・プラヴァツキー
の著作を見よ)。 このシモン・マグスと彼の弟子メナンドロスによる初期のグノー シス体系が、後世の信奉者た
ちによっていかにふくらまされ、かつしばしば歪められてきたかを次の考宗の主題としなければならない。
 「グノーシス派」は二つの大きな宗派に分かれており、普通「シリア派」と「アレキサンドリア派」と呼ばれ
ている。この二者は根本的な教義では一致するが、どちらかというとアレキサンドリア派は汎神論的傾向を持っ
ており、 一方シリア派は二元論を強調する。シリア派は主としてシモンの流れをくんているが、アレキサンドリ
ア派はある賢明なエジプト人のキリスト教徒の哲学的演繹体糸から成長した。その名はパシレイデスといい、彼
はその教えを使徒マタイから受けたと称している。シモン・マグスと同じように彼もまた流出論者であって、新
プラトン的傾向を持っていた。事実、「グノーシス派の密儀」全体はみな流出論を前提としているのである。そ
れは「絶対的霊」と「絶対的物質」という決して相いれない対立物のあいだに論理的連関をつけるためになくて
はならない前提であった。グノーシス派はこの二つの絶対的存在を、かつては「永遠なる一者」のなかに共存し

ていたと信じている。パシレイデスこそ真のグノーシス派の創立者だと主張する人もいるが、シモン・マグスが
一世紀ほど前に根本的原理を打ち建てていた証拠は数々ある。
 アレキサンドリアのパシレイデスは、 エジプトのヘルメス学、オリエントのオカルト学、カルデアの占星学、
ベルシアの哲学をその信奉者に伝授し、彼の教義のなかで原始キリスト教の諸派を古代異教「密儀」と結びつけ
ようと努めていた。アブラクサスという名を持つ奇妙な「神」の観念を打ち出したのは彼であったと言われてい
る。この言葉の語源的意味を論じるにあたって、ゴッドフリー・ヒギンズは『ケルトのドルイド教』のなかでア
プラクサスという言葉を構成する文字の数霊的値が、すべてを合算すると三六五になることを証明した。同じ著
者はまた、ミトラスという名が同じように計算すると同じ数値になるということにも注意をうながしている。パ
シレイデスの教えによれば、宇宙の諸力は三六五のアイオーンつまり霊的周期に分かれており、この諸力をすべ
て足したものこそ「至高の父」である。その「父」に彼はアプラクサスというカバラ的な名称を与え、「父」の
神的諸力、神徳、流出物を数霊的に象徴したのである。アプラクサスは普通合成され、人間の体と牡鶏の頭を持
ち、二本の足の先は蛇になっている像で表わされた。C・W・キングはその著『グノーシス派とその遺風』のな
かで、パシレイデスのグノーシス哲学を初期キリスト教の大司教にして殉教者である聖エイレナイオスの著作を
引用して、次のように要約している。「彼の主張によれば、創造されざる永遠の『父』たる神は最初にヌース(叡
智)を生んだ。メースはロゴス(言葉)を、 ロゴスはフロネーシス(思慮)を生んだ。そしてフロネーシスから
ソフィアー(知恵)とデュナミス(力)が生まれたのである。」
 アブラクサスについてC・W・キングは次のように言っている。「ベラマンの考察によれば、アプラクサスと
いう名前を持つ合成的イメージは、グノーシス派の全一神であり、『至高の存在者』を表わしている。そしてそ

こには五つの流出物が適当な象徴によって描き出されてい
る。人間の体は『神性』を表わすためによく使われる表現
形式である。そこからそれを支える二本の足が出ている。
これはヌースとロゴスであり、ともに蛇で表わされ、それ
ぞれ内的直観と素早い理解力の象徴である。そのためにギ
リシア人たちは蛇がパラス(アテネ)を表わすとした。頭
部は鶏の頭で、フロネーシスを表わしている。この鳥は先
見の明と用心深さの象徴である。二本の腕はソフィアーとデュナミスを象徴する持物、つまり知恵の盾と力の鞭
を持っている。」
 グノーシス派にはデーミウルゴスつまり低次世界の創造主をめぐる意見の違いにより、いくつかの分派がある。
この創造主は六人の息子の助けを借りて、地上的宇宙を創造した。この六人の息子とは、彼が自分自身の内に造
り出した六つの流出物(おそらくは惑星的天使たち)に他ならない。前述のように、デーミウルゴスは、プレー
ローマと呼ばれる実体から最も低次の創造物として個体化され、グノーシス派の一派ではこのデーミウルゴスこ
そあらゆる悲惨の原因であり、悪魔的存在だという見解を持っている。彼がこの低次世界を造ることによって、
人間の魂を真実から遠ざけ必滅の媒体のなかに閉じ込めてしまったからである。別な一派ではデーミウルゴスを
神聖な息吹を吹き込まれたものと見ており、不可視なる主の命令を実現しているにすぎないという。ユダヤの神
イェホヴァはこのデーミウルゴスであるという意見を抱いているグノーシス派もいる。この考え方が少し名前を
変えて中世の蓄薇十字団に影響を及ばしていることは明らかである。そこではイェホヴァを「至高の神」という

より、むしろ物質的世界の「創造主」と見ているのである。神話の世界には天上的な性格と地上的な性格をとも
に合わせもっている神々の物語に事欠くことはない。スカンディナヴィアのオーディンは死すべき可能性を持っ
た神の典型である。この神は「自然」の法則に従わざろを得ないが、同時にある意味では「至高神」なのである。
キリストに関するグノーシス派の見方も考察に値しよう。この教団は「神的なシリア人」(キリスト)の本当
の肖像を持っている唯一の宗派であると主張している。これらの肖像画は当時存在していた異教の太陽神の彫刻
や絵を型どった「救世主」の理想的な姿を表わしており、それがキリスト教世界が持っている絵画のすべてであ
った。グノーシス派にとってキリストはヌース(神的叡智)の人格化であり、より高次のアイオーンから流出し
たものであった。彼は洗礼とともにイエスの体に降りて来て、十字架の磔の前にそこを立ち去った。それゆえグ
ノーシス派は、キリストは磔にされていないと宣言する。この「神的なヌース」が死の苦しみを受けることはあ
りえないからである。その代わりに命を投げ出したのはキュレニアのシモンであり、ヌースはその力を行使して
シモンをイエスに似せさせたのである。聖エイレナイオスはキリストという宇宙的な犠牲に関して次のように述
べている。
 「創造されざる、名状すべからざる『父』は人類の堕落を見て、その長子ヌースをキリストの姿に変えてこの
世界に送った。神を信じるすべての人を、この世界を造った者たち(デーミウルゴスと六人の息子たちつまり惑
星的な霊)の支配から救い出すためである。キリストは人間イエスとして人々のあいだに現われ、数々の奇跡を
行なった」(キングの『グノーシス派とその遺風』を見よ)。
 グノーシス派は 人類を三つに分類する。ひとつは未開人のようにただ目に見える「自然」を崇拝している者で
あり、二つはユダヤ人のようにデーミウルゴスを崇拝する者、そして最後に彼ら自身や彼らと同じような祭儀を

行なっている者であり、そのなかにはいくつかのキリストの宗派を含んでいる。彼らはヌース(キリスト)およ
びより高次なアイオーンの真の霊的な光を崇拝する。
 パシレイデスの死後、ヴァレンティノスがグノーシス運動の精神的支柱になった。彼はさらにグノーシス的哲
学体系を限りなく詳述して複雑なものにした。彼は「偉大な一者」(深淵)からの流出物を十五組の対立物にま
で増やし、また処女ソフィアーつまり知恵をきわめて強調した。『救済者の書』(その一部がビスティス・ソフ
ィアーの名で知られている)のなかで、このアイオーンに関する風変りな教えと、そこに住む住民に関する豊富
な資料を見出すことができる。ジェームズ・フリーマン・クラークはグノーシス派の教義を論ずるにあたって、
「この教義はわれわれには奇妙に見えるけれども、キリスト教会に多大な影響を与えていたのである」と言って
いる。古代グノーシス派の理論、特に科学的な主題を扱った理論の多くは、近代の研究によって実証されてきた。
グノーシス派の主要な幹からいくつかの分派が派生している。ヴァレンティノス派、 オフィタエ派(蛇の崇拝
者)、アダム派などである。三世紀以降彼らの力は衰えて、グノーシス派は実際には哲学的世界から消えてしま
った。中世にグノーシス派の原理を再興しようという試みが行なわれたが、記録が消滅してしまったため、必要
な資料が手に入らなかった。今日ても現代社会にグノーシス的な哲学は数々あるが、みな他の名前を持っており、
どこに真の起源があるかを気がつく者はいない。グノーシス派の考え方は実際にキリスト教会の教義のなかにか
なり取り入れられてきたのである。キリスト教に関する新しい解釈はしばしばグノーシス的な流出論に従って行
なわれている。

(マンリー.P.ホール「象徴哲学大系I」p.86-94、人文書院、1980)




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