ボツになった投書「『ユダヤ陰謀論』の虚実」


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投稿者 ☆弥勒∞ 日時 1999 年 7 月 07 日 16:57:18:

古い一文で恐縮だが、参考までにここに載録しておきたい。なお文中の冒頭に「本誌先月号」とあるのは、月刊『宝島30』1993年10月号のことである。反論として投書したものの結局採用されないまま、その後雑誌は休刊となった。

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「ユダヤ陰謀論」の虚実

本誌先月号の、と学会による抱腹座談会「このユダヤ陰謀本がすごい!」は、いずれ誰かがコテンパンにやっつけてくれるだろうと思っていたので、口火を切ったその痛快なユダヤ陰謀批判には溜飲が下がる思いであった。太田龍と宇野正美がまずは俎上に載せられたわけだが、できれば今後も果敢に徹底追及し、継続的かつ個別的に取り上げていってほしいものだ。
だがいかんせん、的はずれな指摘も随所に見られた。ユダヤ陰謀論をあげつらうのは大いに結構として、どういうつもりか山本弘氏が急に矛先を変えて広瀬隆氏の著書『赤い楯』をケナしはじめたのにはさすがに驚いた。確かに広瀬隆氏の『赤い楯』がユダヤ陰謀論者によって「ソレ見タコトカ」と引き合いに出され、自説を強化するために利用されている一面はあるだろう。しかし広瀬隆氏は紛れもなく本物である。それを十把一からげに論じてミソもクソも一緒にしてしまったのが山本氏の犯した過ちであった。
山本氏は『赤い楯』を「あまりに退屈な」本だとおっしゃるが、氏の意に反してこの本は1991年の初版以来、今年の9月ですでにもう第14刷を数え、実に20万部に達しているというから、内容の正否はともかくとして多くの読者はそれこそ帯のコピー文にあるように「知的興奮」をきっと堪能しているのであろう。誰が退屈な思いをして上下2巻2段組みの合計1000ページにも及ぶ大著を好んで読もうか(なお『新雑誌21』6月号の特集「〈国際陰謀集団〉に日本はどこまで侵食されているか」によると、赤間剛氏は『赤い楯』について「あの本はロスチャイルドの圧力で販売禁止になったんですよ。集英社に圧力あって」と爆弾発言をしているが、集英社に問い合わせるとそのような事実はないとの返事。出まかせもほどほどにしてネ、赤間さん)。 
それでは何が問題かと言えば、 「木を見て森を見ない」、つまり広瀬隆氏の一連の著作によって明らかにされた“陰謀論”の特質と本質を理解できずに、ニセのユダヤ=フリーメーソン陰謀論と判別せぬまま玉石混交で論じてしまうことの落とし穴である。たとえば山本氏は、系図1を揶揄してみせながら007のイアン・フレミングとロスチャイルドはまるっきり無関係だなどと御託を並べ立てているが、『赤い楯』を読めば両者が関係あるなどと書かれてはおらず、またそれ自体広瀬氏の本意でもないだろう。たまたまロスチャイルド家三代目の家系を芋ヅル式に洗っていったら、イアン・フレミングが連鎖的に現れたというにすぎない(彼はこの後系図25にも別の形でもう一度登場することになるが)。
要するに山本氏の用いる論法は、『赤い楯』から一文を援用して言うなら「一件だけを取り出して解析すると、大きな過ちを犯してしまうことになる」(上巻20ページ上段)の一言に尽きよう。いわゆる“一点突破主義”というやつである。むしろこうした系図では、イアン・フレミングの従兄がロスチャイルド財閥のリオ・チント・ジンク社重役であるという−−国際金融資本の大富豪の家系が過去から現在に至る今日まで連綿と繋がった2世紀の歴史〈縦軸〉を持ち、ロスチャイルド一族を中心に“閨閥”の世界支配的なネットワーク〈横軸〉を築き上げてきた−−その権力構造のメカニズムを読み解くことの方がはるかに重要だと思われる。
また、「一族の定義がよくわかんない」だの「ミルグラムの実験を検証してるだけ」だのと、およそ本質的な問題とかけ離れた詭弁を弄し、スジ違いの虚しい言葉の羅列ばかりでこちらまで虚しくなってくるが、総数85枚にもわたる精緻な系図が教えるのは、何よりも一族の生態の〈法則性〉であり、それをこそ見抜くべきではないのか。
ついには、ロスチャイルド財閥を中心にして国際金融資本が原子力産業や軍需産業、石油やオリンピック、国連さえ手中にし、そして産業界のいたるところに勢力を拡げ利権に絡んでいる実態へと、労を惜しまぬ広瀬氏の説得力ある実証的解析によって企図せずとも判然とその全体像(カラクリ)が相関関係の上に顔を見せることとなった。
ことにユダヤ陰謀論は、奇術用語で言うところの“ミスディレクション”としての役割を担ったりもする。事の本質が見抜かれないようすべてを曖昧にし巧妙にカムフラージュしてみせるという意で用いるが、かくして、ニセ陰謀論のおびただしい氾濫が「真実」をうやむやにしてはぐらかす。(江ノ原 元)
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雑誌には掲載されなかったが、この一文を当の広瀬隆氏に送ったところ、後日本人から礼状をいただいた。広瀬氏は一切相手にしない信条だそうだが、著作を読めば彼がきちんとユダヤ陰謀論を批判しているとわかる。彼はこう書いている−−
「それは陰謀でも何でもない。こうした事実に話が進むと、日本では、すぐにフリーメイソンやユダヤの陰謀論が出てきて、秘密結社の目玉のマークがどこにあるといった愚劣な話で終る。日本全土にお地蔵さんがあれば、お地蔵さんが日本を支配しているのか、と陰謀論者に尋ねたい。バカを語るも休み休みにしたまえ」(月刊『宝石』1998年7月号「漢方経済学!」)。





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